ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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大変お待たせいたしました。
守矢神社へ向かう話はひとまずこれにておしまいです。
文との勝負が例によってだいぶ長引き、文章量全体も多くなってしまいました(汗

サブタイトルはしっかり考えないと、本当に引きずる事になるな……。
今回の反省点ですね。



妖怪の山、快晴のち台風。時々ブリザード(その3)

「……え、えっと、あのお姉さんは大丈夫なんですか?」

「早苗の事か? ああ、心配しなくても多分大丈夫だ、あいつだってそんなに弱い訳じゃないからな」

 

一方その頃、のび太に取材を迫る文の足止めを守矢神社の風祝である早苗に頼むことで、どうにか文の追跡を振り切った魔理沙とのび太は(今度はのび太は振り落とされないように、また魔理沙はのび太を振り落とさないように少し加減してスピードを落としながら)当初の目的通り、妖怪の山を一路守矢神社へと向かっていた。

最初に博麗神社から連れて行ってもらった時とは違い、『のび太とブリキの迷宮』の冒険でブリキン島に遊びに行った時にドラえもんから出してもらったウルトラバランススキーで暴走した時のような、身体がちぎれんばかりのスピードではなく今度はある程度周囲の景色を眺める余裕もあったおかげか、周りを見ていると眼下に広がるさわやかな緑色の木々が流れるように後ろへと消えてゆく。

『こうして見ているととても妖怪の住む危ない山とは思えないんだけどな』魔理沙にしがみついたのび太がそんな事を考えていると、のび太がしがみついている魔理沙から『ほら、見えてきたぞのび太』と言う声が聞こえてきた。

魔理沙に言われて彼女の背中越しに前を見てみれば、確かに妖怪の山の中ほどに博麗神社のような。いや博麗神社よりも立派な鳥居に社殿の神社が見えてきた。

 

「あれが守矢神社ですか? なんだか博麗神社よりも立派に見えるんですけど……」

「そうだ、あれが守矢神社だぜ。後のび太、間違ってもそれは霊夢の前で言うんじゃないぞ? 間違いなく怒って暴れだすからな」

「えっ!? き、気を付けます……」

 

霊夢が聞いたら魔理沙の言葉通り、間違いなく0点の答案を見つけたママのように怒り狂うに違いない物騒な会話をしながら、魔理沙は慣れた動きでホウキを制御しながら高度を下げつつ鳥居をくぐり、今度こそふわりと守矢神社の境内へホウキを着陸させることに成功した。

もちろん最初に来た時とは違い後ろに乗せたのび太を振り落としているような事もない。

 

「よし、もう大丈夫だ。腕を離してもいいぞ」

 

魔理沙にもう大丈夫だと言われ、ホウキから境内へと降りたのび太が感慨深げにぐるりと周囲を見回す。

朱に塗られた立派な鳥居に静かで広々とした境内、そして奇麗に手入れのされた本殿。同じ神社と言う事で、昨晩宿泊させてもらいお世話になった博麗神社と似ているようでどこか違う、神社の姿がそこにはあった。

のび太が幻想郷に来たきっかけでもある、外の世界から消えてしまったと言う謎の神社。

スネ夫が持っていた雑誌を最後まで見たわけではない事もあり、ここが本当にスネ夫が言っていた消えてしまった神社なのかどうかはまだのび太にもわからない。

それでも幻想郷に来た目的が、ここに来たことでようやく果たされようとしていた。

 

「ここが守矢神社、すごいや……」

「そう、ここが妖怪の山の守矢神社さ。君が外から来た子だろう? 話は聞いているよ、よく来てくれたね」

「……だ、誰!?」

 

そんな境内や本殿、それに境内から見える外の世界ではなかなか見られない光景に息を呑むのび太の背後からかけられた声に思わず振り返ると、そこにいたのは輪っかの形をしたしめ縄を背負うと言うなかなか奇抜な格好をした女の人が立っていた。

その恰好の奇抜さはと言えば、のび太が普段暮らしている幻想郷の外の世界は言うまでもなく、はるか過去や未来の世界に数億光年にもなる宇宙の果てから普通には行くことすらできない別次元まで見渡しても、今までのび太が冒険してきた世界のどこを見てもみる事のなかったほどのもの。

とはいえ、特徴的すぎる背中のしめ縄さえなければ『のび太の創世日記』においてのび太が作った新地球の、古代日本に暮らしていた女王ヒメミコやそれに近しい身分の高い古代日本人の恰好に似ているとも見えなくもない事に、彼女の恰好を見ているうちにのび太は気が付いていた。

この辺は文才や絵の才能の無いのび太ではなくしずかが自由研究において、いろいろとまとめてくれていた事が幸いしたと言えるだろう。

 

「赤い服のヒメミコ……? じゃない、ですよね。あんなオニババみたいなおっかない顔じゃないし、ヒメミコはしめ縄なんてしてなかったし。でも、やっぱり色は違うけど……なんだか昔の日本人の格好に似た格好ですよね」

「おいおい、自己紹介もしないうちからいきなり私をオニババ呼ばわりしたかと思ったら、私の衣装から古代の日本人の恰好にそっくりだって言い出すなんて、けなしたいのか観察眼が鋭いのか、本当によく分からない子だね」

「仕方ないよ。神奈子がおっかないのは昔からだからね」

「ちょっと諏訪子! 何言ってるのさ! それに白黒も! いつまでも笑ってるんじゃないよ」

 

そう、のび太のオニババ発言はどうやら魔理沙のツボに入ったらしく、聞いてからは吹き出しのび太の隣でずっとお腹を抱えて震えながら笑いをこらえている。

そろそろ何とか助けてあげないと、このまま呼吸困難になりそうだ。

そしてオニババと言う言葉で命の危機に陥りかけている魔理沙をよそにもう一人、しめ縄のお姉さんの背後からはひょっこりと小さな女の子が顔を出した。

しめ縄のお姉さん、神奈子と言うらしい……から諏訪子と呼ばれたその子はと言えば、しめ縄ほどではないけれどもカエルのような目玉のくっついたやはり奇妙な帽子、あるいは笠なのか、をかぶっている。

その格好は年齢こそのび太と同じくらいなのにどうしてか、同時くらいの年には見えない不思議な雰囲気の子だった。

この神奈子に諏訪子と互いに名前で呼び会う不思議な二人ではあるけれども、この二人を前にしてのび太の頭にはこの守矢神社こそが外の世界でスネ夫が調べようとしていた神社なのか、と言う疑問とは別にもう一つ新しい疑問が浮かんでくる。

そう、少なくとものび太の少ない知識の中では巫女らしからぬ格好をしたこの二人は『果たして守矢神社の巫女なのだろうか?』と言う疑問だ。

鴉天狗の射名丸文の足止めを買って出てくれた早苗と名乗った彼女は確か『風祝』と名乗っていた。

のび太の知識の中で風祝と言う初めて聞いた言葉が一体何を意味するのかまでは分からない。

ただ、博麗神社にいた霊夢と色こそ違えど似たような格好をしている事からも、神社の関係者なのだろうと言う事は想像できる。

しかし目の前の二人はどう見ても巫女あるいは風祝、どちらにも見えなかった。では果たしてこの二人は一体何者なのか? 

答えは簡単だ、目の前に本人がいるのだから本人に聞いてしまうのが一番手っ取り早い。

なのでのび太は、その一番手っ取り早い方法を選ぶことにした。

 

「あ、あのう……お姉さんたちはこの神社で働いてる人、でいいんですか?」

「うーん、ここで働いている人、とは私たちはちょっと違うかな」

「私たちはここ、守矢神社に祀られている神様なんだよ」

 

ここ幻想郷に来てから、一体何度目の驚きだろうか。

八雲紫と言う妖怪に出会い、博麗神社の巫女霊夢、魔法使いの魔理沙に続いてとうとう神様の登場と来た。

神様と言う事は、やはり『のび太の創世日記』でのび太が未来における夏休みの教材『神様セット』で太陽系を創造したのと同じように、この地球を生み出したのだろうか。

それにしては、二人ともしめ縄とカエルのような帽子を持っているだけで神様セットを活用するのに必要なリングも杖も持っていない。

 

「か、神様!? 神様っていう事はやっぱり僕がやったみたいに、地球を作ったりしたんですか?」

「「……そんなもの作るかっ!!!」」

「確かに外の世界でも神様が天地を一週間で作りました、って話はあるけれども……どうして私たちがそういう事をした、って思ったのさ」

「そもそも幻想郷の人や妖怪だってなかなか地球や天地創造なんて発想は出てこないのに、君みたいな人間の子供から地球を作るっていう発想が出てくるって、そっちの方があり得ないよね」

「……いや、のび太ならあり得るんだぜ? なにしろ私は今朝、博麗神社で起きた事をしっかりとこの目で見てきたからな」

 

のび太がただ外の世界から迷い込んできただけの、人間の子供だと思っている神奈子と諏訪子の言葉を遮るようにそれまで笑い過ぎて悶絶していた魔理沙がどうにか復活し、横から二人にも博麗神社で起きた出来事を説明しようとする。とは言ったものの、その体は小刻みに震えていて、まだ完全には復活できていなかった。

そんな本調子ではない魔理沙を、カエルのような帽子をかぶった女の子……諏訪子が鋭い目つきと手で制した。

 

「白黒。悪いけど、そののび太って子の話は後みたいだよ」

「……へ?」

「ふっふっふっふ、それはいいことを聞きました。……是非ともお話を聞かせてもらいましょうか?」

「「「!!??」」」

 

そう、諏訪子が見据える先から勢いよく守矢神社の境内上空まで飛んでくる黒い影。その正体は他でもない、ついさっき洩矢神社の早苗が足止めをしていたはずの文だった。

もちろん早苗も何もしないままだった訳ではないのだろう。文の恰好は所々焦げ付き、ほつれが見えている。

しかしそれだけなのだ。魔理沙が『多分大丈夫、そんなに弱い訳じゃない』と言っていた早苗の足止めでさえ、この程度のダメージしか受けていないと言う事実からも、鴉天狗と言う種族と人間との間にどれほどの差があるのかをのび太は見せつけられたかのような気がしていたのだった。

 

「さ、早苗さんはどうしたんですか……?」

「それなら、私がここにいる以上彼女がどうなったかはわかりますよね?」

 

 

 

 

……パバババババギュン!!!!!!

 

 

 

 

絞り出すように早苗の安否を尋ねたのび太の質問への回答を文が言い終えるのと、のび太がフワフワ銃を撃つのは果たしてどちらが早かったのだろうか。

一瞬の早業で、フワフワ銃に装填できる六発全ての弾丸を文めがけて発射してみせたのび太の腕前。

その射撃の速度たるや、文の言葉に同じように反応して弾幕を放とうと身構えた魔理沙、そして神奈子に諏訪子の誰よりも早く動き出していた事からも伺える。

 

「ゆるせない……ゆるせないよ……」

「お、おい……のび太……?」

 

その、周りの誰よりも先に文めがけて攻撃を仕掛けたのび太が、文を見据えながらはっきりと怒りの意思を口にした。

まさかのび太がここまで怒りを表に出すとは思っていなかったらしい魔理沙がのび太に声をかけるけれども、その声さえ今ののび太には届いているか怪しいものだった。

それほどまでに、今ののび太は怒っていた。

基本的にのび太が誰かに対して怒る、と言う事はほとんどないに等しいと言っていい。

未来ののび太の結婚前夜の様子を見に、タイムマシンで未来へと飛んだ時しずかのパパがのび太の事を『人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ』と評したように、のび太はのんびり屋で穏やかな心根の人間だ。

そんなのび太が怒った数少ない一つが『のび太の南海大冒険』において、十七世紀のカリブ海に浮かぶトモス島で、未来人のMr.キャッシュ一味の手によりタイムパトロール隊員だったイルカのルフィンを生物兵器に改造されそうになった時くらいのものだろう。

それほど珍しい事なのだが、今この瞬間のび太は本気で怒っていた。だからこそ問答無用で文めがけて全弾発砲したのだ。

ちなみに、ここまでのび太が怒っている理由は……と言うと。

 

 

 

 

 

 

自分や魔理沙の足止めをしてくれた早苗を、文が食べてしまったと勘違いしているから

 

 

 

 

 

 

なのだが、残念ながら誰ものび太の怒りの理由に言及する事は無かった。

のび太も、今まで出会った妖怪……八雲紫が人を食べると言及していた事や、霊夢にも夜は妖怪の時間で人を襲う、と言う説明を受けた事から『妖怪=人食い』と言う図式が頭の中で出来上がっていた事と、その勘違いを口に出さずにただ怒っていた事。

そしてもう一つはのび太自身が『パラレル西遊記』において、唐の時代でヒーローマシンの中から出てきた妖怪たちによって三蔵法師が食べられてしまい、歴史が改変されると言う恐怖を身をもって経験していたと言う事。

もしその事を口に出していれば、周りの誰かがきっと訂正してくれただろう。

けれども、のび太も、魔理沙も神奈子も諏訪子も、そして相対している文にいたるまで、誰もがすれ違いをしたまま図らずものび太対文の構図は完成しようとしているのだった。

そうして勘違いしたままののび太が怒りに任せて、目にもとまらぬ早業で撃ち込んだ弾丸だったけれども、肝心の弾丸はいつまでたっても、文を風船のように膨らませる……フワフワ銃の効果を発揮する様子が見られない。

 

「……ふぅ、本当にあなた外から来た人間の子供ですか? 今の早業ひとつ見ても、とてもそうは見えませんよ」

「まさか、のび太が外したのか?」

「違いますって、私が全部避けたんですよ。この子の腕前は本物です、のんびりしていたら間違いなくやられていたのは私でしたからね」

 

そう、文は全ての弾丸を()()()()()()()()()()()()()のだ。恐るべき鴉天狗の空を飛ぶ早さ、そして動体視力である。

もちろんだからと言って諦める、と言う選択肢はのび太にはない。

文が話をしている最中にも、撃ち尽くしたフワフワ銃の弾丸を込めなおしている。少しでも隙を見せればすぐにでも撃ち抜くつもりなのだ。

 

「これは私も手加減している場合じゃありませんね……ちょっと本気で行きますよ。『無双風神』!!!」

「っ!?!? 消えた!?」

 

のび太がまだあきらめていない事を見て取った文が高らかに宣言した次の瞬間、その文の姿が消えてしまった。のび太が驚くのも無理はない、本当に、まるで幻のようにふっ、とその場から文の姿が忽然と消えうせたのだから。

もちろん蒸発した、あるいは勝負を放棄してこの場から逃げ出した、などと言う事ではない。

種を明かせば目にも止まらぬどころか映る事すらしない、鴉天狗としての飛翔能力を極限まで研ぎ澄ませた超高速での移動と共に圧倒的な物量の弾幕を乱射すると言う、本来ならば弾幕勝負の初心者であるのび太に対して使っていいような代物ではないそれを行っているのだ。

むしろ初心者でありながら、文にそれを使うに値する相手であると認めさせたのび太がすごいのか。

兎にも角にも、こちらからは攻撃を当てられないのに向こうからは雨あられと弾幕が降り注ぐと言うひどい状況。

 

「きゃー、た、た、タケコプター!!!」

 

案の定のび太は魔理沙と勝負をしたとき以上に圧倒的な弾幕の物量に押しつぶされそうになりながら、必死で逃げ回る事になってしまう。

が、地上で逃げ回っていてもいつかは限界が来る。結局のび太は魔理沙と勝負した時と同様、タケコプターを使って空中に逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、あの子本当に外から来た人間なのかい? いきなり空を飛んで見せたよ」

「のび太は未来のいろいろな道具を使うんだよ、私との勝負の時にも空を飛んで弾幕を避けて見せたんだぜ」

「それはいいけれども、早くあの子も助けないと。素人にどうにかできる弾幕じゃないよアレは」

 

ちなみにこの間に魔理沙や神奈子、諏訪子と言った面々は何をしていたのかと言うと、まさかこの場所で弾幕勝負が始まるとは思っていなかった事もあり、とっさに文の無双風神から神社を守るために結界を張る事で防御をしていたのだった。

本来ならば神奈子や諏訪子としてみれば、まずはいの一番に力のないただの人間の子供であるのび太を結界の中に入れて守るつもりだったのだけれども、のび太がまさかの空中に逃げると言う選択肢をとった事で守ることができなかったのだ。

かと言って、結界を解いて助けに行こうものなら諏訪子が言うように素人がどうにかできるような弾幕ではない無双風神の流れ弾が、境内はおろか社殿にまで被害をもたらしかねない。

何しろ、颱風が雨戸を叩くような量の弾幕が今この瞬間、会話をしている間にもひっきりなしに結界を叩いているのだ。

 

「どうするんだ、早くのび太を助けないとこのままじゃ間違いなく撃ち落されるぞ」

「ああもう! こうなったら神奈子、魔理沙も。社殿や境内が多少傷んでも仕方がないよ、何とかしてあの子を助けるよ! 神社に参拝に来てくれた子を助けもしないで何が神様だってね」

「そうだね、あたしらにだって神様の意地ってものがあるんだ! 一丁やってやろうじゃない!」

 

それは神様としての意地か、あるいは自負なのか。神社が受けるであろう損壊よりも、ここまで来てくれた人間の子供一人の安全を優先する事を決めた洩矢の二柱。

彼女たちにとっては、かつて外の世界からこの地へと移住を決めた理由にもそれは繋がっていたからこその決断。信仰を失い、自らの存在そのものが消滅の危機に瀕した事から最後の賭けとしてやってきた幻想郷。

その最後の頼みの綱とする地で、自分たちが神として在ろうとする場所へと、それも人里どころか外の世界からわざわざやって来てくれた人間の子供一人助けずに、一体何が信仰なのか。神社の被害を気にして子供一人見捨てるような神を信仰する人々など、いる訳がないのに。

それに気が付いたからこそ、弾幕の嵐の中に飛び出す決意をした神奈子と諏訪子が、それぞれその手に手に御柱と鉄の輪を持ち、いつでも飛び出せるよう身構えた。

 

「悪いがあんたも付き合ってもらうよ。何としてもあの子を無事に助けるんだ」

「いや……それにしては、様子が変だ。のび太の奴、あの弾幕の中で戦おうとしているぞ!」

「「は(へ)……っ!?」」

 

結界の向こうの様子を伺っていた魔理沙の言葉に、神奈子と諏訪子、洩矢の二柱の声が唱和した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

二柱が魔理沙の言葉に、神様らしからぬ声を上げた間にもバシバシと結界を弾幕が叩くその向こう側で、絶望的なのび太と文の勝負……ですらない、一方的な攻撃は今もなお続いていた。

 

「く……っ!『バギュン! バギュン!』」

 

一応、空を飛ぶ事で若干の余裕ができたためか、のび太もただ逃げ回るだけではなくその圧倒的な弾幕の隙をぬうように回避しながら、時々フワフワ銃を目にも映らない文めがけて発射する。

……のだけれどもどれだけ発射しても、そのことごとくが的確に文を捉えながらも決定打にはなれずにいる。

ただし、これはのび太の腕前が下手なのではなく、あまりにも高速で移動する文の周囲に吹き荒れる風がその命中するはずの弾丸をみんな弾いてしまうのだ。

むしろ目にも映らない速度で飛翔する標的に向けて、偶然や奇跡に頼るのではなく実力でもって命中弾を撃ち込めるのび太の射撃の腕前が色々とおかしいと言える。

そのあまりにも人間離れしすぎた射撃の腕前は、高速移動の際に生じる強風のおかげでかろうじて命中せずにいる

文を戦慄させるにも十分すぎるものだった。

 

「……あやややや、これはちょっと笑えないんですけど……。本当に人間ですよね? 取材の時にはまずそこから確認しないといけませんね……」

 

のび太を確保してからの取材において、まずは本当に人間の子供なのかどうかを確認する事を強く決心した文。

一方ののび太は、手持ちのフワフワ銃では文へと弾丸を命中させることができないと言うどうにもならない現実に、どうするべきか弾幕をよけ続けながらずっと考え続けていた。

いや、解決する方法はあるのだ。

文が風でもって守られているのなら、その風を上回る強さの風を吹かせてやればいい。そしてのび太はその強風を吹かせる事の出来るひみつ道具をちゃんと持っていた。

そう、洩矢神社に来る前に妖怪の山の渓流で白狼天狗の一団とにらみ合った時に取り出したバショー扇だ。

台風なみの大風を巻き起こせるあのバショー扇なら文の無双風神にも負けないだろう。

問題は、そのバショー扇をこの嵐のような弾幕の中、一体どうやって取り出すかだけれども、のび太の全く思いもよらないところからその最大のチャンスは転がり込んできた。

 

「のび太! 危ないからさっさと神社の中に逃げるんだぜ!!」

「魔理沙さん!!」

「ほらほら、私たちが弾幕を押さえておくから、早く逃げるんだよ!」

「そういう事、ここから先は私たちの仕事だからね」

 

のび太と文の間に割り込むように、魔理沙、神奈子、諏訪子の三人がやって来たのだ。

それは、その間のび太が弾幕から逃げ回る必要のない時間……スペアポケットからバショー扇を取り出すのに必要な、今のび太が欲しい時間が出来たと言う事でもある。

のび太は知っていた、今まで数多くの異世界や宇宙の果て、気の遠くなるような時間の向こう側での冒険をしてくる中で、そのチャンスを逃してはいけないのだと言う事を。

 

「ダメです! 早苗さんを食べた悪い妖怪を今この場でやっつけないと!!」

「「「……へ?」」」

 

迫りくる弾幕への対処を壁となりのび太を守ろうとする神奈子と諏訪子の二柱に任せ、ここ洩矢神社に来た時と同様にホウキに乗せて全速力で社殿へと飛び込もうとのび太の手を掴む魔理沙の手を振り払いながら、のび太は文への怒りを初めてはっきりと口にし、そしてこのチャンスを逃すまいとスペアポケットへと手を突っ込んだ。

今度はもう、渓流で白狼天狗の集団に囲まれた時のように何が出てくるのか半ば賭けにちかいなどと言う事はない。何しろしまうときに、ポケットの中の四次元空間の一番手前にしまったのは他ならぬのび太自身なのだから。

それを取り出せばいいだけなのだから、今ののび太には迷いも何もありはしない。

鞘から白銀の剣をすらりと引き抜くように、のび太は再度それを取りだした。

 

「バショー扇!!! せーの……っ、それっ!!!」

「のび太、ちょ、ちょっと待て! 落ち着け、誤解だ誤解!!」

 

のび太の発言に、どうしてのび太が文をそこまで敵視し、許さないと怒りを燃やしているのかようやく悟った魔理沙たちだったけれども、のび太の誤解を解くよりも先にのび太は今度こそ、容赦なくバショー扇を振り下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

…………嵐が、訪れた。

 

 

 

 

 

 

「うわっ! うわわわわわっ!?」

「な、なんだいこれはっ!?」

「あーうー!?」

 

僅かな一瞬の静寂の後、突然にごうごうと吹き荒れる猛烈な台風並みの暴風。

何の予兆もない所からいきなり荒れ狂う暴風が吹き出した事で、のび太以外のその場の誰もが吹き飛ばされそうになるのを必死でこらえていた。

ドラえもんがかつてバショー扇を家の中で誤って暴発させ、台風発生させてしまった事があったけれどもそれと同等の嵐をのび太は巻き起こしたのだ。

 

「!? 何ですかこの風は……まさか、天狗が起こす風よりも強いとでも言うんですか……?」

 

当然、その風は守矢神社の境内上空で無双風神中の文にも容赦なく襲い掛かる。雨あられと降り注いでいた無双風神の弾幕も、この台風並みの暴風にあっけなく吹き散らされそれでもまだ止むことなく、文を吹き飛ばさんと暴れまわった。

それでもどうにか、吹き飛ばされる事なく速度を落としながらも飛び回り、何とか暴風を避けようとする辺りは幻想郷でも飛行速度において最速を誇る種族、鴉天狗の意地と言う事なのか。

 

「……もういっちょう! それっ!!!」

 

それでも、さすがにもう一扇ぎされてしまうとさすがの文でも飛び回りながら避ける事は難しいらしく、風の強さによって完全にその場にくぎ付けにされてしまった格好となってしまう。

けれどものび太は気が付いていたのだろうか?

バショー扇を振り下ろし、強風で文を吹き飛ばそうとしているのび太自身のその恰好は奇しくも『のび太のパラレル西遊記』で妖怪軍団の拠点である火焔山の偵察にやって来たのび太を芭蕉扇で吹き飛ばした妖怪、そう、今のび太が許せないと言っている妖怪羅刹女のようである事に……。

そんな事にも気が付いていないのび太は、二扇ぎしてもまだ空中で踏みとどまっている文に、こういう時冴えわたる頭で思考を巡らせていた。

 

もっと強い風を、もっと確実に悪い妖怪をやっつけられる風を!

 

バショー扇は、握りの部分に小型マイクが取り付けられており、メッセージによって吹かせる風の細かな注文ができるようになっている。

そこにどんな言葉を吹き込めば、あの早苗を食い殺した人食い妖怪をやっつける事ができるのか。

そしてのび太は、答えを出す。

以前体験した事のある、命を奪い去るほどに危険な風を思い出したからだ。

『のび太の魔界大冒険』、そして『のび太の南極カチコチ大冒険』で魔界の南極と地球の南極、二つの惑星の極地で体験した、恐るべきブリザード。

体感温度を寒暖入れ替えてしまうひみつ道具であるあべこべクリームがなければ、もはやビバークするしか方法がなかった、あの風なら……あの猛吹雪なら。

意を決したのび太は早苗の敵をとるべく、マイクに向けて高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

 

……………………南極の! ブリザードっ!!!

 

 

 

 

 

「さ、寒いいいいいっ!! なんだこれは、チルノも凍るんじゃないかこれ!?」

「なんだいこれは、まるっきり天変地異じゃないか! 未来の道具ってのはこんな事までできるのかい!!」

「あーうー、ね、眠いよぅ……ぐぅ……」

 

高らかな宣言と共に、振り下ろされたバショー扇。そうして吹いた風は、零下数十度にして、風速数十メートルを

優に超える文字通りの猛吹雪。

バショー扇はマイクに受けた注文を違う事なく、しっかりと再現して見せたのだ。

いくら人間よりもはるかに優れた身体能力を持つ妖怪だと言っても、さすがにあらゆる命の存在を拒否する極地の、厳冬期の猛吹雪を至近距離から直撃してはたまったものではない。

さすがの文もこの想定の範囲をはるかに超えてしまったのび太のひみつ道具の前には成す術もなく、全身を凍り付かせながら墜落していくのだった。

 

「……あぎゃあああああ!!!」

「やった!!」

 

こうしてようやく悪い人食い妖怪(とのび太が誤解している)をやっつけたのび太。でも、のび太は忘れていたのだ。かつてドラえもんに指摘されたタケコプターを使う上での注意点を。

以前『のび太のアニマル惑星』でアニマル惑星へと冒険に出かけたのび太が禁断の森をタケコプターで抜け出そうとした際、猛烈な台風に直撃した事があった。

なんとか無理をして台風の中を飛ぼうと強行したものの、さすがのタケコプターも台風の真っただ中では飛行する事が出来ず、墜落してしまったのだ。

『台風の複眼』を装備して、自分の周囲を台風の目にしたドラえもんに救助されなければ、のび太も生きてはいなかったかもしれない。

文への怒りのせいかあるいは、それ以降猛烈な台風の中、タケコプターを使用する機会がほぼなかったせいなのか、ドラえもんから受けたこの注意を、のび太は完全に忘れていたのだ。

その忘れていた代償はすぐに目に見える形として、現れる事になる。

 

 

 

「……? あ、あ、あ! た、タケコプターがーっ!!」

 

 

 

カラカラとタケコプターの羽が空転し、その飛翔能力がみるみるうちに低下して行く。それはまさにアニマル惑星で起きた現象のそれだった。

台風並みの嵐を二回巻き起こし、おまけにそれ以上の風速を誇るブリザードまで起こしたのだ。

むしろ今までタケコプターが機能してくれた事の方がよっぽど奇跡と言える。

そしてあの時はこっそりと後からついてきてくれていたドラえもんが助けてくれたけれども、今はドラえもんはいない。

 

「助けてぇ、ドラえもーん!!!」

 

最後にのび太が見たのは、助けを上げる中自分が巻き起こした猛吹雪に吹き飛ばされながら守矢神社の境内から飛んでいく光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………この日、妖怪の山ではまっさらな快晴から急に台風が吹き荒れ、おまけにその後数時間にわたって真冬も裸足で逃げ出すような猛吹雪が真夏日にもかかわらず観測されると言う、妖怪の山始まって以来のとんでもない異常すぎる異常気象が観測されたとか。

しかし、その異常気象を引き起こしたのがただ一人の、幻想郷の外の世界からやって来た人間の子供だと言う事実を知るものは、ほとんどいなかった。




ひとまず無事? に守矢神社へと到着したのび太。
次からは守矢神社が本当に外の世界で、スネ夫たちが調べようとしていた神社と同じものなのか、と言った方向に話が動いていく事になるかと思います。



全体的に文章量を抑えて、更新頻度を上げた方がいいのかな……。
とふと思うこの頃。

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