ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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お待たせしました。
文・無双風神vsのび太・バショー扇の死闘に終止符を打ったのび太はどうなるのか……?



……知らない天丼だ 「のび太くん、天井だよ」

 

 

 

 

 

 

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 それはどこまでも広がる真っ暗闇。例えるなら『のび太の日本誕生』で時間犯罪者のギガゾンビがククルたちに造らせていたトコヤミの宮もかくやと言う真っ黒さ。

 それはどこか、『のび太の海底鬼岩城』でマリアナ海溝の奥底に首都を構えるムー連邦の海底人が地上人であるのび太たちに海底人の事を知ってもらおうと見せた教育ドリームの世界にも似ていた。その、そっくりであるはずの教育ドリームとの違いは、真っ暗なだけでいつまでたっても海底人たちの説明がやって来ないところか。

 その夢かうつつか、どちら側にいるのかも分からない真っ暗闇からのび太は……唐突に抜け出した。

 

「………………あれ、ここは……どこ?」

 

 それこそあまりにもだしぬけに抜け出したものだから、果たして自分が一体どうなっているのかさえ理解できていなかったのだ。

 一つわかったのは自分の目の前に自分の部屋のようで自分の部屋ではない、見慣れない天井があると言う事。そして自分が布団に寝かされていると言う事だった。

 むくりと自分が寝かされていた布団から起き上がり、一体ここはどこなのだろうか? と周囲を見てみる。

 六畳の部屋に、のび太の部屋にあるような天井からぶら下がっている蛍光灯。部屋の入口の向かいの壁にある本棚には本がずらりと並び、勉強机にドラえもんが出てきそうな押し入れ。

 雰囲気こそ違えど部屋に置いてある荷物や机の配置などはのび太の部屋にそっくりなのだ。ただのび太の部屋と違うのは、部屋の雰囲気がやけに女の子っぽいと言う事だろうか。

 のび太も何回かしずかの部屋に遊びに行った事があるけれども、今のび太がいる部屋はしずかの部屋に近い雰囲気があった。

 もちろん、だからと言ってここが彼女の部屋でない事は、行った事のあるのび太自身が十分承知している。

 何しろしずかの部屋に飾ってあるぬいぐるみたちがここには一つも置いていないのだ。

 そして部屋の本棚をよくよく見てみれば、数学だの英語だのと言う、のび太が手にして読んだ瞬間に意識を失うかあるいはそのまま脳死しかねない難解な本が並んでいる。

 もちろんしずかの部屋に、こんなのび太の命を奪い取るような危険な本は置いてあったなどと言う記憶はのび太の中にはない。

 

「……よかった、目が覚めたんですね」

「……? あ! 早苗さん!! 無事だったんですか!?」

 

 のび太が今まで寝ていた部屋の様子をいろいろと見ていたのび太の背後から声がかかり、思わず振り向くのび太。

 何しろその声はもう聞くことのできないはずの声だったから、お礼を言うよりも前に、会えなくなってしまったのだと思っていた声だったから。

 何よりも、のび太が文に対して本気で怒った理由だったから。

 のび太が振り向いた先、部屋の入り口にはのび太の様子を見に来たのだろう、守矢神社の風祝である東風谷早苗が立っていた。が、その表情は心なしか怒っているようにも心配しているようにも見える。

 

「神奈子様と諏訪子様から聞きましたよ。私が食べられてしまったと勘違いして文さんに勝負を挑んだそうじゃないですか、嬉しいですけどもう子供がそんな無茶をしちゃいけませんよ?」

「……はい」

 

 いや、早苗が抱いていた感情はその全部だったらしい。

 のび太が目を覚ましていたのを確認するや否や始まったのはお小言である。

 もっとも、のび太は知らないけれどもその内容は幻想郷に暮らした事のある者からすれば決して大げさなものではないのだ。

 外から来た一般人、それも子供が幻想郷の中でどれほど無力な存在なのかは幻想郷で暮らせば嫌でも知る事になる。

 そして幻想郷で暮らす早苗は、力のない人間が妖怪を前にした時どれほど無力なのかを知っていた。

 知っていたからこその、お小言だった。例えそれが未来からもたらされた、圧倒的な力を持つひみつ道具があったとしても。

 そしてそんな真剣な早苗のお小言に、のび太はただはいと頷く事しかできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたたた……うぅ、魔理沙さんに『足止めしてくれ』って言われたのに、負けちゃうなんて……って、な、なんですかこれ!?」

 

 のび太と魔理沙を守矢神社に行かせるために足止めを請け負い、その上で文に負けてしまった早苗がボロボロになりながらも守矢神社へと帰って来た時、守矢神社は、いや守矢神社を含め妖怪の山は惨憺たる有様だった。

 早苗が出かける前は、直前まで彼女自身の日課として掃除をしていた事もあり、いつ参拝客が来てもいいようにときれいに掃除が行き届き、早苗自身が『参拝したいと言うのなら……いつでもかかっておいでなさい! hahahahahahaha!』と思わず口にしてしまうほどに綺麗だった境内は荒野のごとく荒れ果て、朱色で、神社のシンボルとも言える入り口の鳥居は手で押したらそのまま倒れるのでは、と思わせるような大きなヒビが入り、おまけに社殿は屋根も柱も穴だらけときた。

 劇的ビフォーアフターにも程があるあまりにも酷い状態に、気が遠くなり倒れそうになるのをぐっとこらえながら、早苗はどうにか意識を保ちながらボロボロになった社殿の中へと足を運ぶのだった。

 

「神奈子様、諏訪子様、これは一体何があったんですか……?」

「ああ、早苗かお帰り。悪いが早苗の部屋を貸してもらえないか。外から来た人間の子供が、風に吹き飛ばされて気を失っているんだ」

「分かりました、それはいいですけれども一体どうしたんですかその子は。多分魔理沙さんのホウキの後ろにいた子ですよね? それが風に吹き飛ばされてって……台風か嵐でも来たみたいな外の被害も併せて、何か関係があるんですか?」

 

 ちなみにその話題に中心にいるのび太は社殿の床、冷たい板の間に寝かせられながら気を失ったまま静かに寝息を立てている。

 バショー扇で巻き起こしたブリザードに巻き込まれる格好で一緒に吹き飛ばされたのだが、直後に魔理沙がホウキに飛び乗りのび太が墜落する前にどうにか助け出し、社殿に寝かせていたのだった。

 社殿の入口に立つ早苗には中で寝ているのび太の様子は見えなくても、神奈子から子供と聞いてすぐにそれが文からの追跡への足止めを魔理沙から頼まれた時、守矢神社へと魔理沙がホウキに乗せて連れて行こうとしていた子なのだとピンときたらしい。

 なにしろ早苗が足止めをしていた時間だってそんなに長時間と言う訳ではない。それなのにあまりにも神社の外は荒れ果てていて、おまけに子供が風に吹き飛ばされたというのだ。

 幻想郷で風を扱う妖怪と言えば鴉天狗、つまりは射命丸文が疑われそうなものではあるけれども妖怪の山に属する彼女が、妖怪の山の総意として信仰すると決定を下した守矢神社の境内で風を使い暴れまわり、社殿をボロボロにする訳がない……となれば、と言うのが早苗の推測だった。

 もっとも、この早苗の推測は一部が的中していて一部は大きく外れているのだけれども、残念ながらそれを訂正してくれる親切な人物はこの中にはいなかった。

 

「それについては、まあ……なんだ。詳しくはこの子が目を覚ましてからだな」

「まあ、あの大風に吹き飛ばされて怪我一つなく、気絶だけで済んだのは本当に奇跡だよ。何しろ無双風神中の鴉天狗をさらに強い大風や吹雪でもって吹き飛ばしたんだからね」

「へぇ…………ん?」

 

 さらりと諏訪子が言ってのけた発言を聞き流そうとした所で、ぴたりと早苗の挙動が停止する。

 まるでそれはドラえもんのひみつ道具、人間リモコンの停止ボタンでも押したかのようだ。

 ちなみに、そうして諏訪子の言葉によって機能を停止していた早苗が再び動き出したのは、一度機能停止してからたっぷりと数十秒は経ってからの事だった。

 

「…………あの、今さらりと言ってのけましたけれどもそれってかなりとんでもない事していませんか?」

「うん、してると思うよ。私も神奈子もあの子が空を飛びながら弾幕をよけ続けてるからさ、このままじゃ危ないから社殿に隠れるように言ったらなんて答えたと思う? 『悪い人食い妖怪をやっつけるんだ』ってさ。あの子、早苗が食べられたと勘違いして、本気で怒って自分よりもはるかに格上の鴉天狗に真正面から戦いを挑んだんだよ」

「なんて無茶を……って言うか神奈子様に諏訪子様も、魔理沙さんまでいたのにどうして誰も止めなかったんですか!」

「仕方ないだろう、のび太が文の事を誤解しているって分かった時にはもうのび太が嵐を起こしていたんだよ。って言うか、早苗もあの風を受けてみれば分かるぞ。あんな風の中そう動けるもんか」

「やめておきな白黒。結果はどうあれ早苗の言う通り私たちの力不足であの子が気絶してる、って言うのは事実なんだ。私たちがさっさと鴉天狗を抑え込めば、こうはならなかった、違うか?」

「それは、そうだけどさ……」

 

 早苗の言葉は全くの正論だった。その言葉には神奈子も諏訪子も、そして魔理沙もグウの音の出ない。

 何しろ、その場の三人が気が付いた時にはのび太はバショー扇を取り出して振り回していたのだから。

 初めて見るひみつ道具を前にして、それがいったいどう言った効果を持つものなのかを理解しろと言うのはいくら何でも無理があり過ぎた。

 それでも三人を代表するように、早苗に反論する魔理沙が『なあ?』と傍らにいる神奈子と諏訪子に同意を求める。それが彼女たちにできる、せいいっぱいの抵抗だった。

 けれども魔理沙から話を振られた神奈子と諏訪子の二柱の反応は違う、早苗の言葉を肯定し素直に自分たちがもっと早くに動いていればこうはならなかったと認めたのだ。

 さすがに周りに誰も味方がいない状況の中にあって、頑なに我を通し続けられるほど魔理沙ももう子供ではなかった。

 降参だとでも言わんばかりに両の手を上に上げ『自分も実力が足りなかった』と態度で二柱の意見に従う意を見せる。

 

「……でも、起きてしまった事は仕方がありません。後はあの子の無事を信じて目を覚ますのを待つだけですね」

 

こうして、三人(内ニ名は神であるけれども)に、早苗がそう告げて『ちょっと様子を見てきます』と言いのび太を寝かせてある部屋……早苗の自室へと様子を伺いに来たところに話は戻る事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。ああ、君はあくまでお客さんなんだ。そんなに畏まらないでいいんだからね」

「は、はい……」

「おいおい、これじゃあまるでのび太にお説教をするみたいじゃないか」

「お説教だなんてとんでもない、むしろわざわざ外の世界から守矢神社まで参拝にやって来てくださった子なんですから、うちとしては大歓迎ですよ」

 

 早苗の部屋で気絶から目が覚めたのび太は早苗に案内される形で場所を移し、守矢神社の東風谷家……社殿の裏手に位置する早苗に神奈子、そして諏訪子が普段暮らしている家のリビングへと案内され、守矢神社の面々と向かい合う格好で早苗が用意してくれた座布団に座っていた。

 ちなみに、今東風谷家のリビングにはのび太の隣には魔理沙が保護者役として座り、向かい合う格好で早苗、神奈子、諏訪子が座布団にめいめい座っているが、その様子はどう見ても保護者同伴の三者面談に他ならない。

 成績が悪く、おまけに授業中も頻繁に昼寝をするのび太を叱るために、わざわざ先生が家までやって来ては、先生とママとにお説教を受ける事がたびたびあったが、今の状況を見ればまさにそれそのものだった。

 発言をした本人にはそんな意図はないのだろうけれども、そういう意味では魔理沙の言葉は実に的確に今の状況を捉えていたと言える。

 

「さっきも境内で言っていたけれども、改めて聞かせてちょうだい。特に早苗は留守にしていて全然事情を聞いていなかったからね。君は一体どうしてわざわざ外の世界からうちの神社を訪ねて来たのかしら?」

 

 取り外しが効くのか、さっきまで背負っていたしめ縄を外した格好の神様、神奈子が3人を代表して尋ねるその言葉に、ごくりと息を呑むのび太。

 はたして守矢神社が外の世界で消えた神社なのかそうでないのか、短い間ではあったものの冒険を繰り返してようやくたどり着いた守矢神社にて、のび太がこの幻想郷に来た目的が果たされようとしていた……。

 




さてさて、いよいよ守矢神社を目指した目的が果たされるのか!?
魔理沙にホウキから振り落とされ、椛他白狼天狗の哨戒部隊に囲まれ、鴉天狗の文に無双風神を使われると言う不幸ぶりを見せたのび太の冒険は報われるのでしょうか……?

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