ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

19 / 73
お待たせしました。

そして守矢神社は果たして本当に、外の世界で消えてしまった神社なのか!?
何の力も持たないのび太に洩矢神社の三人からの視線が突き刺さる!!





守矢神社の中と外

「さて、改めて聞くけれども……君は一体どうしてわざわざ外の世界からうちの神社を訪ねて来たのかしら?」

 

 目を覚ましてからさっそく早苗に案内された東風谷家のリビングで守矢神社の神奈子、諏訪子、そして早苗と向かい合うように座るのび太へと投げかけられた問いかけ。

 その答えに興味津々と言った風に、3人の視線がいっせいにのび太へと集中する。

 その問いかけが決して悪意や敵意のあるものではないとは言っても、明らかに年上のお姉さん(一応諏訪子は外見だけ見ればのび太と大差ないのだけれども、時折見せるその雰囲気は明らかに小学生のそれとは違っていた)に問いかけを受けて、小学生ののび太が緊張しないはずはなかった。

 

「あー、のび太。まあ気持ちはわからなくもないがそんなに緊張するな。別に回答いかんによって食われる何て事はないんだし、私がこうして隣にいるんだぜ」

 

 と、隣に座る魔理沙が言ってくれなかったならのび太は果たして返事が出来たのだろうか。

 そしてもう一つ、その先生との面談のような形式による圧迫面接以上に今ののび太には非常に気になる事があった。

 一応、のび太以外の全員からは警戒している様子は見られない事から、のび太もいきなりフワフワ銃を抜き放つような事はしていないけれども、それでもまだ素直に信じられないのか、ちらちらと視線をもう一組の人物たちへと向けている。

 そのちらちらとのび太が視線を向ける先、のび太と守矢神社の三名が向かい合うそれぞれのちょうど真ん中、例えるならまるで審判でも務めるかのような位置に二人の女性が座っていたのだ。

 そのうちの一人は他でもない、さっきまでのび太めがけて『話を聞かせてもらう』と言いながら襲いかかり、無双風神でもって守矢神社の境内を荒らしまわった挙句にバショー扇でもってのび太が吹き飛ばした、鴉天狗の射命丸文。

 

「そうですよ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですからここはひとつ、明日の朝刊の一面を飾るためにも、詳しい話をお聞かせください」

「「「「………………………………」」」」

 

 いくら笑顔で『怖がらなくても大丈夫だから』と言われても、その言葉を信用するにはあまりにもまだのび太は文の事を知らな過ぎたし、なによりも文から受けた事が悪すぎた。

 おまけにさっきまで弾幕の上とはいえ争っていた当事者からの発言とは思えない、手のひらを返したような態度に守矢神社の三人も魔理沙も、皆呆れ顔で文を見ているが文本人はそんな視線などまったく気にしている様子が見られない。

 どうやら三人を前に緊張しっぱなしののび太とは逆に、文の顔の皮は非常に分厚くできているらしかった。

 もしかしたら、硬さだけなら地球人捕獲のためにリルルと共に地球に送り込まれたザンダクロスの装甲を構成するメカトピアの超合金(直径数十m規模のクレーターが発生するレベルの次元震零距離直撃を受けても無傷を誇る)をも凌ぐかもしれない。

 ただ、その文の恰好はと言えば、何故かボロボロでその姿はまるでママに思い切り叱られた後のジャイアンのよう。

 確かにのび太は至近距離からバショー扇で南極のブリザードを発生させ、それを文にぶつけたとはいえ、服までボロボロにはならなかったはず……。なぜならのび太も地球と魔界の南極でブリザードに遭遇した事があったからだ。

 そんな事をのび太が考えていると文の隣の、文にそっくりな女性が神成さんもかくやと言う恐ろし気な声を発した。

 

「……文? あなたはまだ怒られたりないのかしら?」

「いっ、いやだなぁお母さん。私はとてもいい子なんですから、もうこれ以上オコラレタイダナンテコトハアルワケナイジャナイデスカ。hahahahahaha」

「お、お母さん!!?」

 

 それまで終始笑顔だった文の、ザンダクロスの装甲並みの厚さを誇る面の皮さえも一撃で打ち砕く、その隣に座った女性。

 だがそんな事以上にのび太を驚かせたのは、文がその人物に対してはっきりと「母親」と呼んだ事だろう。

 考えてみれば妖怪と言う存在がどのように生まれるのか知らないのび太ではあったけれども、今まで数多の世界を冒険してきて出会った異世界の友人や住民たちだって、皆父親と母親がいた。

 『のび太と鉄人兵団』で地球を襲撃したメカトピアで生まれたリルルを含む鉄人兵団や、『のび太とふしぎ風使い』でのび太に懐いた風の魔獣マフーガの一部である台風のフー子たちだって、ちょっと見れば親と呼べる存在がそもそもいないようにも見えるけれども、メカトピアのロボットにはメカトピア星全部のロボットの両親とも言うべきアムとイムがいたしフー子だって、マフーガの一部である事を考えればそのマフーガを生み出した嵐族の呪術師ウランダーが親、と言えるだろう。

 それに『のび太の恐竜』でのび太自身が布団にくるまる事で1億年前の卵の化石から復元し、ふ化までこぎつけたフタバスズキリュウのピー助だって、あくまでものび太が卵からふ化させただけであってその卵を産んだ親がいたのは間違いない。

 それほどまでに、親と言う存在は数々の冒険の中でも当たり前にいたし、中には冒険の中でお世話になった人たちもいたし、いろいろな事情からのび太たちと敵対した人たちだっていた。

 だから確かに、文に母親がいた所で何ら不思議な事はない。

 冷静に思い起こしてみれば、中国唐の時代でヒーローマシンの妖怪たちと戦った『のび太のパラレル西遊記』でのび太たちの危機を助けてくれたリンレイだって、両親は牛魔王と羅刹女だったのだから。

 そんなのび太ではあったけれども、文の口からまさかお母さんと言う言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

 だから、のび太の口から出てきた驚きの言葉に文の母親は『おや、そういえば自己紹介がまだだったね』と、思い出したようにのび太の方へと向き直り、うやうやしく頭を垂れるのだった。

 

「私の名前は天魔。こう見えても妖怪の山で天狗たちの長をさせてもらっていてね。さっき言った通り文は私の娘なのさ。それにしても……娘が迷惑をかけたみたいで、君には本当に悪い事をしたね。うちの文(むすめ)はしっかりと叱っておいたから、もう大丈夫だよ」

「てんま……って、お姉さんはペガサスの妖怪なんですか? 文さんは鴉天狗って言ってましたけど……」

「ぶふっ!! ……ち、違いますよ。それは天の馬って書いて天馬です。この方のてんまは天に魔と書くんですよ」

 

 てんま、と聞いて連想するものはペガサスだって確かに間違ってはいない……読み方の上なら。こののび太の斜め上過ぎる回答に対し、早苗が思い切り吹き出した。

 まあ、外の世界からやって来たのび太にいきなり天魔、の漢字を当てろと言うのも難しいだろう。早苗は吹き出しながらものび太にも天魔の字が分かるように、きちんと紙の上に書いて説明するのだった。

 そして……。

 

「なるほどね。外の世界で、湖のほとりにあった神社がそっくり消えたって話の真相を確かめる自由研究で仲間外れにされたから、もっとすごいものを見つけようとしたら幻想郷にやって来たと……。しかも未来の道具で博麗大結界に触れないまま幻想郷に入ってくるって……あたしらよりもとんでもない事してる気がするんだけどね……」

「未来の道具とか、どうひっくり返っても幻想郷よりも幻想してるよね」

「「「……………………」」」

 

 もう何回目になるのか、同じ内容を説明するのが少々面倒くさくなりそうなのび太ではあったものの、守矢神社の三人と、妖怪の山の頂点たる天魔ならびに文の親子に対してこれまでの経緯……外の世界で消えたとされる謎の神社を夏休みの自由研究として調べようとした事、その時に仲間外れにされ、ならばもっとすごい場所の事を調べると見栄を張り、未来ひみつ道具で誰も来たことのない場所を目指した所幻想郷へと足を踏み入れてしまった事、八雲紫に幻想郷の話を聞き、博麗神社へと案内されてそこで守矢神社の話を聞いた事で、やって来た事を話すのだった。

 ちなみに、隣の魔理沙はと言うともう彼女にとっては聞いた話のため、退屈そうに欠伸をしながら話半分にのび太の説明を聞いていたりするけれども、初めて聞いた面々からすれば幻想郷がかわいいレベルの内容である。

 事実、のび太の説明を聞いた守矢神社の三人に天魔は皆頭を抱え、難しい顔をして考え込み、あるいは口をあんぐりと開けたまま幻想郷とは一体なんなのか、と本気で考えているようだった。

 唯一、新聞記者の文だけは職業柄なのか驚いたりするよりも先に興味深そうに「こんなに素晴らしい、新聞にしたら売上トップに立てそうな話をメモできないなんて……」と新聞記者としては少しでも新聞のネタにしたいのに、隣の母親に叱られた手前堂々と記事にするのもはばかられる……という相反する状況に、実に悔しそうな表情をしながらも、なるべくのび太の言葉を一言一句覚えておこうと必死になり反芻している。

 

「……まあ、君の話は分かった。結論から言うと、君の友達が外の世界で調べようとしている神社は、間違いなくうちの事だろうね。そういう意味では、君の友達よりも君の方が先に正解へとたどり着いた、と言うべきかな」

「…………じゃあ、ここがスネ夫たちの探している、えっと……外の世界で消えてしまったって言われている神社なんですね」

「ああ、その通りさ」

「…………やったーっ!!」

 

 そんな中で、四人の中で一番立ち直りの早かった神奈子が、のび太の探している外の世界で消えてしまった神社はここ守矢神社である事を告げる。スネ夫たちのように外の世界を探すのではなく、幻想郷に来たのび太こそが正解へとたどり着いたのだと。

 たっぷり十数秒、神奈子の言葉を受けて沈黙していたが、その次の瞬間のび太は飛び上がらんばかりにバンザイと叫んでいた。

 なんという偶然だろうか、何という幸運だろうか。

 外の世界で謎の神社を調べようとしていたスネ夫たちに仲間外れにされ、いつものようにドラえもんの道具を使ってやって来た幻想郷こそがその消えてしまった謎の神社の行き先だったなんて一体誰が想像するのだろうか。

 スネ夫たちも、まさか調べようとしている消えた神社にのび太がたどり着いているだなどとは、考える事もないだろう。

 普段なら、スネ夫やジャイアンに仲間外れにされて悔しい! とドラえもんに泣きつくのび太も今回ばかりは喜びのあまり、敷かれた座布団から立ち上がるとリビングの窓へと駆けてゆき届くはずのない空へ向けて、大声で叫んでいた。

 

「おーい! スネ夫ー! ジャイアーン! しずかちゃーん! どんなもんだい、僕だってやればできるんだぞー!!」

 

 その声は、さっきまで暴風や猛吹雪が吹き荒れていたとは思えないきれいな青空へと吸い込まれてゆくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、スネ夫。着いたぞ」

「パパ、ありがとう!」

「おじさん、ありがとうございます」

「スネ夫、それじゃあさっそく調べに行こうぜ!」

 

 一方その頃、外の世界ではある日忽然と姿を消した守矢神社(……もっとも、スネ夫たちはその名は知らないのだけれども)、そう湖のほとりから消えてしまったと言われる謎の神社の事を調べるべくスネ夫、ジャイアン、そしてしずかはスネ夫の父親の車に乗って問題の町、湖のほとりに位置する公園の駐車場へと到着した所だった。

 スネ夫が父親に神社を調べたいと言ったのは数日前の話なはずなのにもう目的地へとたどり着くこの速さは、スネ夫が以前言っていた「思い立ったらすぐに実行するのがうちの家族なんだ」と言うセリフの正しさを表している。

 それでも、忘れ物やトラブルと言った問題もなく、スムーズに動けるのはそう言った事をこれまでにも幾度となくこなしてきた証明でもあった。

 そうしてスネ夫の父親にお礼を言って車から降りたスネ夫、ジャイアン、しずかの三人。

 ちなみに、スネ夫の父親はこれから宿題をするに辺り宿泊する事になる近隣の貸別荘へと一足先に向かい、物件の確認をする事になっている。

 そのため、三人を下すとそのままスネ夫の父親は車で走り去っていってしまった。後に残るのは宿題を前にやる気十分な三人のみ。都会とは違う、周りを山々に囲まれ公園の池とは比べ物にならないサイズの湖を前にしてうーん、と大きく伸びをしながらめいめい大きく深呼吸をする。

 涼しく、喧騒の少ない町の空気を堪能しながらそれでよ、とジャイアンが隣のスネ夫に今後の予定を尋ねた。

 

「それでよ、スネ夫。その謎のレンジャーを調べるって言っても、一体どこから調べるんだ?」

「ジャイアン、それを言うなら神社だよ。うーん、まずは実際に消えた神社の跡地に行って、今はどんな様子になっているのかを確認してから、その後で街の役場や図書館で話を聞いたり調べたりするのがいいかなって思うんだ。もしかしたら、神社の事を知っている町の人を紹介してもらえるかもしれないしね」

「さすがスネ夫! 冴えてるぞ!!」

「ジャイアン、痛い、痛いから!」

「じゃあ、まずは役場に行ってみましょ」

「おう、そうだな!」

「そうだね」

 

 スネ夫の考えていた今後の予定に、ジャイアンが「さすがは心の友よ!」と言いながら全力のハグを決めた。

 ジャイアンの持つパワーでハグなどされた日には、そのまま絞め落とされかねないどころか命の危険もある中、痛い痛いと叫ぶスネ夫にようやくジャイアンもスネ夫の事を解放する。

 はあはあと、肩で荒い息をしながらどうにか急に降って湧いた命の危険から救われたスネ夫を確認すると、スネ夫とジャイアンの二人をまとめるようにしずかは役場へ行こう、と二人を先導するように歩き出すのだった。

 

「それにしても、のび太は本当に気の毒だよな。こんなに面白そうな自由研究に参加できないなんてな」

「いやー、ほんとほんと」

「二人とも、そんな事を言ったらのび太さんがかわいそうよ?」

 

 もちろん、当然のようにスネ夫もジャイアンも、しずかさえも当ののび太が今どこにいるのか、知る由もなかった……。

 

 




今回は守矢神社の中で、スネ夫たちよりも先に正解にたどり着いたのび太と何も知らずに外の世界で宿題をやろうとするスネ夫たちのお話でした。
もちろんスネ夫たちはのび太がどこにいるのかも、何をしているのかも全く知りません。

また、今回妖怪の山の天魔に登場してもらいました。
本作品において彼女は文の母と言う設定にしてあります。でないと、文を叱ったりできるポジションのキャラが少なすぎる……(汗
母親なら、文が暴走してもしっかりと叱り止める事が出来ますので、これは非常にありがたいです。


さてさて、のび太の宿題はどうなるのか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。