まずはいきなり怪しい人物が現れます。
「うーん、どうしよう。ドラえもんがいないんじゃな……」
ドラえもんを見送った後、のび太は一人部屋で机に座りこれからの事を考えていた。
ドラえもんが病院に行くと言う事で、一人でもなんとかなるから気にするな、とは言ったもののせめてどこでもドアだけでも出してもらうべきだったか。
そう考えた所で今さらどうにもなるものでもない。
ドラえもんが帰ってくるまで1週間待つか、それとも別の方法を考えるか……あれこれと机に向かって考えた結果、のび太は別の方法を使う事にした。
『スペアポケット』
ドラえもんの四次元ポケットの文字通りスペアは押し入れの中、枕の下に隠されている事をのび太は知っている。
それによってチャモチャ星に取り残されたドラえもんを、危機に陥っていたサピオ少年を助けに戻り、ナポギストラー率いる反乱軍への逆転の一歩となったのは懐かしい思い出だ。
ちなみに足元に置いてあるのは四次元くずかごなのは内緒である。
留守中に入り込むとドラえもんは相変わらずプライバシーを覗くな、と怒るのだがそもそもポケットと寝具、ついでにゴミ箱だけしかない寝室にプライバシーもへったくれもあるものか、と言うのがのび太の見解だった。
兎にも角にも、ドラえもんが1週間不在になるのならそれまでに戻ってきて返却しておけばバレる事もないだろう。そんな思いからのび太は押し入れの扉に手をかけた。
するりと、立て付けの良い扉は音もなく開き、見慣れたドラえもんの寝室が姿を現す。
「ドラえもん、悪いけどポケットを借りるね」
一応、無断で借りる事もあり未来にいるであろう親友に向けて断りの言葉を口にしてから枕の下に手を突っ込み探ってみると、目的のものはすぐに見つかった。
かつて見せた時にしずかがパンツと誤認した、白い布。
確かにサイズ的にも色合いもパンツそのままなのだが侮るなかれ、これこそがドラえもんのスペアポケットである。
中はドラえもんの四次元ポケットと空間的に繋がっており、ドラえもんの道具を自由に取り出せると言う優れものだ。
そうしてのび太はポケットに手を突っ込むと、まず第一に欲しい道具の名前を口にしながら『それ』を引っ張り出した。
「どこでもドア!」
ただの扉にしか見えないこれこそが、これさえあればどこにでも行ける(ただし10光年以内の距離)夢のような道具なのだ。
その利便性の高さは未来社会において天の川鉄道を廃線に追い込み、のび太も日常生活、また大冒険の際にいやと言うほど経験している。
「これでよし、と。後は……」
ドアを立てつけたのび太は、バタバタと走り回りほとんど日常では使う事のない手提げかばんにスペアポケット、それにまだ一つも手を付けられていない夏休みの宿題に筆記具を部屋の片隅の置きっぱなしだったランドセルから取り出すと、無造作に放り込んだ。
さらに、ママに見つからないように玄関へと向かい靴も用意して、これでのび太の準備は整ったわけだ。
ちなみに、もし連泊する事になったとしてものび太流のキャンプ術……すなわちグルメテーブルかけとキャンピングカプセル、着替えが要るなら着せ替えカメラを使えばいいと言う認識で固まっている。
なのでテントや携帯食料、替えの着替えなどを大きなリュックに詰め込んでいく必要はのび太にとってはどこにも無いのだ。
こうして準備を整えたのび太はドアの前に立ち、高らかに宣言した。
「
これで後はドアをくぐればそこはもう、目的の場所と言う訳だ。
誰も行った事のない場所、帰ってきたらスネ夫やジャイアン、しずかたちにどんな自慢をしてやろうかと考えながら、のび太はドアノブに手をかけドアを開ける。
「さあ、僕は誰も行った事のない場所への第一歩を、踏み出すぞー!」
靴を履き、意気揚々とのび太はドアの向こう側へと一歩を踏み出す。
ドアがバタン、としまった後にはのび太の部屋にはただ沈黙だけが流れていた……。
「のびちゃん、ドラちゃん、そろそろおやつだから……そう言えばドラちゃんは確かさっき、検査の為に帰るって言ってたわね。 のび太はみんなと遊びに行ってるのかしら……?」
しばらくしてのび太のママがおやつのどら焼きを持ってきたものの、部屋はすでにもぬけの殻。
そこでドラえもんが少し前に、検査で1週間ほど留守にすると言われたことを思い出したらしい。それでも、のび太ならドラえもんと二人分食べるでしょと思っても、肝心ののび太がいないのではどうしようもない。
ママは『ま、お夕飯までには帰って来るでしょ』と気にする風でもなく、下へと降りて行ったのだった……。
こんなこといいな できたらいいな
あんなゆめ こんなゆめ いっぱいあるけど
みんなみんなみんな かなえてくれる
ふしぎなポッケで かなえてくれる
そらをじゆうに とびたいな
「ハイ! タケコプター」
アンアンアン とってもだいすきドラえもん
しゅくだいとうばん しけんにおつかい
あんなこと こんなこと たいへんだけど
みんなみんなみんな たすけてくれる
べんりなどうぐで たすけてくれる
おもちゃの へいたいだ
「ソレ! とつげき」
アンアンアン とってもだいすきドラえもん
あんなこといいな いけたらいいな
このくに あのしま たくさんあるけど
みんなみんなみんな いかせてくれる
みらいのきかいで かなえてくれる
せかいりょこうに いきたいな
「ウフフフ! どこでもドアー」
アンアンアン とってもだいすきドラえもん
アンアンアン とってもだいすきドラえもん
「ここは……どこなんだ……? って、そうだよね。誰も行った事が無い場所、って言ったんだもんな」
一方、のび太はどこでもドアをくぐった先で1人、周りの状況に困惑していた。
誰も行った事のない場所へ、と意気揚々とくぐったドアの先はどこまでも続く深い森の中だったからだ。
かと言って、魔界の森やアニマル惑星の禁断の森のように別に見た事もない植物や日が差さない程に高い木々が生い茂っている訳でもない。
多少涼しげではあるものの、木々の間から少しは日も差し込んでくる。
それでも、こんなどこにでもありそうな森が誰も行った事のない場所か、と言われればのび太にも疑問が浮かぶ。
ではどうするか? 答えは簡単だ、調べてしまえばいいのだ。
地上にいたままでは自分がどこにいるか分かりにくいのなら、木々の上まで飛び上がってしまえばいい。そうすれば、ここでは見えない何かが分かるかもしれない。
早速のび太は善は急げ、とばかりにスペアポケットに手を入れ、タケコプターを取り出そうとした。
タケコプターもまた、空を飛んで移動できると言うどこでもドアと並び、日常生活における利便性の高さを誇るひみつ道具の為、出かける時でも一つはズボンのポケットに持っている事が多いのだが、今回についてはまさかいきなり森の中に出るとは思っておらずポケットに入れてなかったのだ。
そうしてタケコプターを取り出そうとした、まさにその時。
「こんにちは、何をしていらっしゃるのかしら?」
のび太の背後から声がして、ポケットに手を入れようとしたその身体がびくり、と硬直する。
透き通った声、でもどこか怪しい響きがある。それはまるでかつて冒険した魔界の海に潜む人魚を思い出させるような声、とでも言うべきか。
おまけに声はちょうどのび太の真後ろから聞こえてくるために、声の主を確認するためにも否が応でも振り向かなくてはならない。
けれども、のび太は身体を硬直させたまま恐怖からなかなか振り向く事ができない。
それはそうだろう、いきなり人気のない深い森の中で背後から声をかけられて怪しむな、と言う方が無理があると言うものだ。
こうしてのび太の夏休みの宿題は、始まる前からピンチに見舞われようとしていた……。
さて、いきなり背後から声をかけた謎の人物。
果たしてのび太の運命やいかに!?