ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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はい、今回はのび太が気を失って倒れている間に何があったのか、のお話です。
と言うか完全に守矢神社をボロボロにした文がお説教をされるだけ、ですねこれは。



さて、そして劇場版ドラえもん『のび太の月面探査記』がいよいよ公開されましたね。
私は初日に早速観に行きましたが、いろいろと東方との絡みもできそうなネタがちらほらと。
それを抜きにしても面白い話でしたので、是非とも皆さんも(時間とお金が許すのなら)観に行ってみて下さい。


ぶんぶん文ちゃん、危機一髪!

 ……さて、話はのび太が目を覚ますちょっとだけ前へと時間がさかのぼる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………や、やっと神社に着きました……。まったく、なんなんですかあの子供は。全速力で飛んでる無双風神中の私に攻撃を当ててくるし、いきなり台風並みの大風を吹かせたり猛吹雪まで起こすだなんて、本当に外から来た子供なんでしょうかね? それ以前に、本当に人間なのかも怪しくなってきましたよ……」

 

 のび太と文が互いにバショー扇と無双風神でもってぶつかり合った結果、ものの見事に守矢神社を半壊させてからしばらくして、道中で文に撃墜された早苗が戻ってきた後になってようやく翼をカチンカチンに凍らされれた文も這う這うの体で、守矢神社へと戻ってきた。

 ただし、戻ってきたとは言ったものの幻想郷随一の飛行速度を生み出す自慢の黒い翼はボロボロになり、羽さえ何枚かは抜け落ちているような様相に、さすがの鴉天狗も空を飛ぶ事が出来ず一歩一歩歩いて守矢神社まで帰ってきたところからも、至近距離で直撃したバショー扇謹製のブリザードはかなりの威力だった事が伺える。

 それでも、ここまでボロボロになりながらもきちんと歩いて帰って来られるだけのダメージしかなかったのだからやはり妖怪の耐久力と言うものは人間とは比較にならないのは間違いないだろう。

 そして、妖怪としての耐久力だけではなく、決してくじける事、折れる事のない鋼のメンタルを持つ文は「これはますます記事にする価値が出てきましたね」と、のび太へのインタビューをどうやって取り付けようかその算段を考えていた。

 普通はこれだけ酷い目にあったのだから、もうのび太にインタビューする事を考えるのはやめよう、と言う事にはならないのだから彼女の記者魂には恐れ入るしかない。

 事実妖怪の山に住まう鴉天狗たちの中で、この奇妙な外から来た子供の異常性と言うのか、特異性と言うのか、に気が付いているのは文だけではないだろうか。

 つまりは今ここでのび太に対して独占取材してしまえば文の新聞は売り上げがうなぎのぼり、そうでなくても幻想郷の人妖は皆新しい刺激に飢えている。のび太への取材内容が幻想郷の面々にとって、その刺激への飢えを満たす格好の題材となるのは間違いない、そう文は睨んでいた。

 そう、人里の参拝客のように妖怪の山の麓から続く参道の石段を一歩一歩、踏みしめながらどうにか守矢神社のボロボロになった鳥居が見えてきた、その時までは……。

 

「……おかえり文、ずいぶんと遅かったわね」

 

 ようやく神社に戻ってきた自身を出迎えた声に『はて、声をかけてくるのはいったい誰でしょうか?』と不思議そうに顔をあげた文の視線の先。

 参道の終着点、守矢神社の鳥居の前では腕を組み仁王立ちしながら文を見下ろす人影が一つ、ようやく守矢神社へと帰ってきた文を今か今かと待ち構えていた。

 そもそも妖怪の山の住民で、鴉天狗の文の事を呼び捨てにする者はなかなかいない。まったく皆無ではないけれども、本当にごく一部なのだ。

 これは妖怪の山での鴉天狗の立ち位置と実力から来ているのだけれども、その妖怪の山においてあえて呼び捨てで名前を呼ぶのは果たして誰なのか?

 足下から視線を上げて確認する先でその人影は鴉天狗の正式な装束に身を包み、足には天狗特有の一枚歯の下駄と言う至極歩きにくそうな下駄をはき、腰に差したのは鞘に塗られた漆の黒が眩しい一振りの刀。

 そして毎朝洗面所の鏡で見る、文自身にそっくりな顔立ち。

 しいて文との違いを挙げるなら、ショートな文と違いロングにしている、と言うところ位だろうか。

 その特徴に該当する人物を嫌と言うほど、数十年数百年前から、文は誰よりもよく知っていた。

 

「…………へっ、お、お母さん!? いっいえ、これは天魔様っ!?」

 

 そう、彼女の名は天魔。河童、天狗など数多の妖怪が住まうここ妖怪の山において頂点に立つ絶対の存在。そして彼女は文の実の母親でもあった。

 が、家においては母親であってもここ妖怪の山ではあくまでも彼女は天魔なのだ。だから文も慌てて、母親ではなく妖怪の山の長としての名前へと訂正する。

 もちろんそこには妖怪の山と言う組織に属する一員としての立場があったのは間違いないがそれ以上に……。

 

 

 

『天魔の目が笑っていなかった』

 

 

 

 何よりもまず、これだった。

 顔はさわやかに笑っているはずなのに、口元には穏やかなな笑みが浮かんでいるはずなのに、その目だけはどう贔屓目に見てもこれっぽっちも笑っていない。

 長年天魔の娘をやって来た文も、この表情をするときの天魔の事は嫌でも理解している。

 すなわち天魔がこの表情をするのは『自分が怒られる時』だと。

 当然文も、これからしこたま母親から怒られ長時間お説教をされると理解しながら、甘んじてお説教を受ける程子供ではなかった。

 すぐに石段の途中でくるりときびすを返すと『あ、あやややや。私ちょっと落し物がありましたので、探してきますね』と笑顔で取り繕い、急ぎその場を離れようとするのだけれども……。

 

「いだだだだだっ!? お、お母さん暴力は反対なのですよっ!」

「文が逃げようとするからでしょう? 逃げなければわざわざこんな事はしないわよ」

 

 残念ながら娘の逃亡を許すほど、天魔は慈悲深い存在ではないようだ。

 きびすを返した文が逃げ切るよりも早く、天魔の手が逃げようとする文の耳をむんずと掴み、おまけにそのままずるずると無慈悲に文の事を引きずっていく。

 これで体調が万全なら、文も天魔の成すがままにはならなかっただろう。

 けれども今の文はその前に起こったのび太との勝負でボロボロになっている事もあり、とてもではないけれども天魔の力に対抗する事などできはしなかった。

 耳がちぎれる、と文の必死の懇願もむなしく文はそのままずるずると守矢神社の境内から守矢神社の裏の母屋……東風谷家まで引きずられてゆくのだった。

 ただ、一つ文にとって幸いだったのはこの様子を撮影している他の鴉天狗が誰も居なかったと言う事だろうか? これでもし他の鴉天狗がいたのなら、間違いなく天魔に耳を掴まれ引きずられてゆく文の姿は格好の餌食になったはずだ。

 仮にもしそうなったのなら幻想郷中に文の醜態が知れ渡り、天魔の権威にさえ傷がついたかもしれない。

 しかし、幸いな事にこの事を知るのは天魔に文、そして守矢神社の三名のみだった。

 いや、文にとってはそれは幸いだったのだろうか……?

 

 

 

天魔説教中…………

 

 

 

天魔説教中…………

 

 

 

「何度同じ事を言わせるの! いい? 守矢神社に参拝途中で迷子になった子供を、無事神社に送り届けるよう私は指示を出したの。貴女なら、ある程度の力もあるから、もめ事もなく連れてこれると思ったからよ。それが! 何でよりにもよってただの人間の子供に無双風神なんて使ってるのかしら!? おまけに守矢神社まで半壊させるってのはどういうつもりなの!!」

「はい……申し訳ありません……」

「ほんとにもう、あんたという子は!! 人間の子供に怪我がなかったからいいようなもの、おまけにあんたが無双風神まで破られて、風で吹き飛ばされなんて……どこの世の中に外の世界から来た人間の子供に吹き飛ばされるような情けない鴉天狗がいますか!!」

「で、でもあの子はただの子じゃ……「だまらっしゃい!!」」

 

 守矢神社の母屋、すなわち東風谷家の和室でもって行われた天魔の説教はそれはもう、文にとっては拷問以外の何物でもなかった。

 座布団も与えられず、畳の上に正座をさせられた文は数時間前から途切れる事無く、ひたすらにお小言を聞かされている。

 おまけに、ちょっとでも体勢を変えようとすると天魔からの「叱られながら動くとは何事かしらっ! きちんと話を聞く気があるの!!??」と言う、更なるお小言が飛んでくるのだ。これが拷問でなくて一体何が拷問だろうか。

 

「……まったく、あんたって子は普段はしっかり動くのに、どうして新聞記事の事が絡むと途端に他の事はそっちのけで新聞記事の取材をしたがるのかしら。本当に誰に似たのかしらね……」

 

 こうしてお説教が始まって一体どれくらいたったのか? いくら妖怪の体力でも、さすがに数時間休む事なく文字通りのぶっ通しで怒鳴り続けて疲れてきたのか、天魔のお説教の声もその勢いは最初の頃よりも幾分落ち着いてきた。

 だから天魔が最後に口にした言葉は、文に向けてのお小言と言うよりもむしろ愚痴、と言った方が近いだろう。

 何もなければ妖怪の山の鴉天狗として、上意下達の組織の一員として的確に任務をこなし役割を果たしている。

 そう、何もなければだ。

 しかし天魔の言うように、ここに新聞記事のネタになりそうな事柄が絡むと途端に状況は一変してしまうと言う事か。

 鴉天狗としての任務も、他のなにもかも全部を放り出してまずその新聞記事のネタになりそうな事への取材に走ってしまう文に頭を痛めてきたのはここ数年の話ではないのだろう。実際、八坂神奈子の依頼で妖怪の山の総力を挙げて守矢神社に来る途中で遭難したのび太を保護し、連れてきてほしいと言う任務を放り出してあまつさえ保護対象ののび太に無双風神をぶっ放したのは他でもない、文自身である。

 そんな事も忘れたように、文はお説教を受け続けて疲れた頭でつい一言漏らしてしまうのだった。

 もちろんそれは文の本音であったのかもしれない、しかし今この場においてそれを口にしたのは間違いなく、文の今日一番の失敗だった。

 

「……そりゃあ、誰に似たのって……私はお母さんの娘なんですから、間違いなくお母さんですよね」

「………………ぁ”ぁ”?」

「……………………ぁ」

 

 例え本音であったとしても、今それを言うのはあまりにも愚策だった。

 文の言葉に、天魔の顔に青筋が浮かび非常にドスの利いた声で応え、その場の空気が一瞬にして剣呑なものへと変化する。

 そして文が自分の失敗に気が付いて顔から血の気がさぁ、と引いた時にはもう手遅れだった。

 

 

 

「あんたって子は、何を言っているの!!!」

「あんぎゃあああああああああ!!!」

 

 

 

 この日、守矢神社では二度にわたる暴風、そして猛吹雪に引き続き、雷雲もないのに強力な落雷が観測され、鴉天狗の焼き鳥が出来上がったと言う……。

 




文ちゃん、無双風神を破ったバショー扇によるゼロ距離ブリザード直撃に引き続き本日二度目の撃墜。
ちなみに天魔の説教についてはなるべくのび太のママのお小言に近くなるようにしてみました。
なので書いている間に、テキストがのび太のママ役の三石琴乃さんの声で脳内再生されていたのは内緒だ(汗


さてさて、次回はどうなるのか?

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