ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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お久しぶりです。投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。
平成の時代はご愛読誠にありがとうございます、そして新しい令和の時代ものび太の冒険にお付き合いいただきますようどうぞ宜しくお願い致します。




直しましょう、守矢神社(その1)

「さて、と……掃除も終わっちゃったし、のび太たちが帰ってくるまでのんびりしていようかしら」

 

 守矢神社の母屋で、のび太が守矢神社の神様たちに圧迫面接……もといいろいろと話を聞いたりとやり取りをしていた頃、博麗神社に一人残った霊夢は誰もいないのをいい事にのんびりと縁側でお茶をすすりながら「のび太がいてくれるからご飯の支度をしなくて済むし、本当に楽でいいわね」と、完全にのび太のグルメテーブルかけに依存しきった台詞を口にしながらとっておきのお菓子であるおせんべいをぽりぽりと食べていた。

 今朝、のび太や魔理沙と一緒に朝食を済ませた霊夢は、守矢神社に行くという二人を見送った後で日課でもある博麗神社の掃除を始める事にしようとして……気が付いてしまったのだ。

 もうすでに掃除はのび太がねじ式台風を使って、とっくに終わらせていた事に。それに気が付いて、それじゃあ井戸から水を汲んでおかなくちゃ、と思ったところでそれすらももうのび太が出してくれたひみつ道具、どこでも蛇口のおかげで必要がない事を思い出してしまった。

 が、こうなると困ってしまうのが霊夢だった。

 なにしろこれが少し前なら、食事一つ取っても準備などにもう少し時間がかかるし、掃除についてもやる人間が霊夢一人しかいない事もあり、必然的に食事の後に始める事になるのだけれども、なにしろ今の博麗神社にはのび太と言うとんでもなく便利な道具を持った居候がいるのだ。

 そののび太が持つ道具のおかげで、初めてその効果を目にした霊夢が博麗神社の御神体にしたいとさえ言い出したグルメテーブルかけの効果もって今朝の食事の準備時間は一分も必要とせずに終わっているし、境内の掃除についてはものの三十分もしないうちにねじ式台風で終わらせてしまっている。

 つまりそれはそっくりそのまま、本来ならば異変などがない限りは霊夢が朝食の支度や片付けなどを終えてから境内の掃き掃除などの行動を開始する、と言う時間がまるごと必要なくなってしまったと言う事でもあった。

 こうなると、本当に何もやる事がなくなってしまう霊夢。

 

「あぁ……退屈。のび太の持ってきてくれた道具は便利なのはとてもいい事だけれども、やる事がなくなるのは困るわね。今度のび太に退屈しのぎになるような道具がないか、聞いてみようかしら……」

 

 などと誰に向けるでもなく言いながら、霊夢は戸棚からおせんべいと急須に湯呑みを用意すると本当ならもう少し後になってから飲むつもりだったお茶の支度を始めるのだった。

 

 

 

少女支度中………………

 

 

 

少女支度中………………

 

 

 

「…………。は〜、平和ね。これで誰かお賽銭をたっぷり入れてくれたら言うこと無しなんだけれどなぁ。とは言っても、さすがにのび太からは……貰えないわよねぇ」

 

 数刻後、霊夢は淹れたてのお茶をすすりながらのんびりと博麗神社の縁側で平和な時間を満喫していた。

 それでも、やはり参拝客がいないと言うのは霊夢にとって平和と天秤にかけられるだけの問題であるらしく、賽銭箱の方を見ながら居候をさせているのび太から宿賃がわりにお賽銭を巻き上げようかとも考えたようだが、すでにグルメテーブルかけにどこでも蛇口と言うひみつ道具を使わせてもらっている以上それも難しいか、とすぐに頭を振ってこの案を打ち消すのだった。

 これでもし同じ頃、のび太が妖怪の山で魔理沙に振り落とされて大捜査網が張られたり、哨戒中の白狼天狗の椛や鴉天狗の文と弾幕で勝負したりと大騒ぎをしているなどと知ったら、霊夢もこんなのんきに考え事をしながら過ごしていなかっただろう。

 そんなこんなで数時間、何回か湯呑を空けた頃になって霊夢のお腹がくぅ、とかわいらしい音を立てる。

 そこでようやく霊夢も、今の時間がお昼を回っている事に気が付いたのだけれども、今ここにのび太はいない。

 

「そう言えば、のび太たちっていつ頃戻ってくるのか何も言ってなかったわね……。どうしよう、お昼はまたのび太の道具で楽しようと思ったんだけどなぁ」

 

 のび太が戻って来なければグルメテーブルかけは使えないし、かと言って自前でお昼の準備をしてものび太と魔理沙が戻ってくる時間が分からなければ二人の分も用意していいのか分からない。

 

「……よし、私も守矢神社に行けばいいのよ」

 

 腕組みをしながらどうしたものかとしばらく考えた末に、霊夢が出した結論は自分も魔理沙とのび太を追って守矢神社に行く、と言うものだった。

 ぽん、と一つ手を打って『そうよ、なんでこんな簡単な事を思い付かなかったのかしら』などと言いながら、いそいそと湯飲みや急須、おせんべいを片付け始めたまさにその時に霊夢の目の前で『それ』は起こった。

 

「…………? なによ、紫。私はちょっとこれから守矢神社まで行かなくちゃいけないんだけど……っ!?」

 

 思い立ったら善は急げとばかりにお茶や急須などを手早く片付け、身支度も整えた霊夢がいざ守矢神社まで、つまりは妖怪の山まで向かおうとしたその矢先に、ぬう、と霊夢の目の前の空間にぱくりと裂け目ができる。

 ここで普通の人間なら、めったにお目にかかる事のないこの出来事に驚くのだろうけれども、あいにくと霊夢はただの人間ではない。

 この程度の出来事なら割と頻繁に目にしているため、すぐに呆れたように裂け目に向かって口を尖らせる。

 そう、その裂け目はのび太が幻想郷に来て最初に遭遇した妖怪、八雲紫の能力によるスキマそっくりだったのだ。

 そして紫自身、移動についてはこのスキマを多用し博麗神社にもやって来るため霊夢も今更スキマが空間に開いたところで驚くような事はない……はずだった。

 ところが、いつまでたっても開いたスキマからは主である紫が出てこない。本当ならすぐに出てきて胡散臭い笑顔と共に言葉を述べるはずなのに、だ。

 それともスキマを開いたはいいものの、狭すぎて詰まっているのではないだろうか? そもそもスキマに詰まる、なんて情けない事はスキマ妖怪である紫に起こるのかしら? などとくだらない事を霊夢が考えてるのと、スキマから手がにょっきりと生えてきたのはほとんど同時だった。

 おまけにその手はぶんぶんと動き回り、まるで何かを手探りで探しているかのよう。

 紫ならまずしないであろうその手の動きに霊夢が思わずお祓い棒を手にした時、その手が霊夢の襟をむんずとばかりに掴むや否や、スキマめがけて引っ張り込んだ。

 

「ちょ!? ゆ、紫なにするのよ!」

 

 今までされた事がなかったせいもあって、まさか紫が自分をスキマに引きずり込もうとするなどとは思っていなかった霊夢は完全に混乱してしまう。

 そもそもスキマと言うのはどこだかさえわからないような空間なのだ。引きずり込まれたはいいものの、出口がなければ出る事さえできないのだ。そんなスキマに頭から引きずり込まれた霊夢の目の前にあったのは。

 

「ちょっと紫!! アンタ昼間からなに人の事スキマに引っ張り込もうとしているのよ!! って、あれ? のび太じゃない。それにここは……? 紫は一体どこに行ったのよ?」

「「「「「「えええええええっ!?!?!?」」」」」」

 

 八雲紫ではなくのび太と、霊夢を見つめながら驚きの声を上げる魔理沙、そして守矢神社の面々たちだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、守矢神社でお昼にする事になったから、私も呼ぶためにその『とりよせバッグ』で連れてきたって訳ね?」

「は、はい」

 

 守矢神社の母屋にとりよせバッグでもってとりよせられた霊夢はうるさい! と周囲を一喝しのび太に事情を求めたはいいけれども、その気迫は神奈子、諏訪子、早苗の三人を前にした時の比ではなかった。もちろん霊夢も決してのび太をおどかそうとした訳ではない。ただ、それでも霊夢の迫力はジャイアンに勝るとも劣らないともなれば、普段ののび太の精神力では耐えられる訳もなく。

 若干怯えの入ったのび太の説明を受けて、ようやく自分が博麗神社から守矢神社まで一瞬で移動した事に納得したように、何回もついさっき自分が体験した事を何回も反芻するのだった。

 確かに最初はいきなり襟首をつかまれて引きずり込まれたのだから驚きとともに不機嫌ではあったものの、まさかのび太まで紫のスキマと同じような芸当ができるとは当然のように思っていなかった事ともう一つ、本来最も適切であろうひみつ道具のどこでもドアが壊れている事を霊夢自身が知っていると言う事情もあり、霊夢も「まあ、私もお昼に呼ぼうとしてくれた上での事なんだから仕方がないわね」とこれ以上の追及をするつもりはないようだった。

 そして……。

 

「それじゃあみんな揃ったところで……えっと、それぞれ『食べたい料理の名前をこのグルメテーブルかけに言って』下さい」

「それじゃあ……ざるそば!」

「「「「「はああああああああっ!?」」」」」

「「……まあ、こうなるわね(よな)」」

 

 のび太の『グルメテーブルかけに向かって食べたいモノを言え』と言う依頼に、真っ先に名乗りを上げた神奈子が物は試し、とざるそばを注文するが早いが、軽快な音とともにグルメテーブルかけの上に打ち立てゆでたてのざるそばが現れた事で、効果をすでに体験して知っている霊夢と魔理沙以外の5人から、一斉に驚きの声が上がった。

 だがこれで全員がこのグルメテーブルかけの効果をはっきりと認識したらしく、皆口々に食べたい料理の名前を口にしていく。

 ちなみに諏訪子はそうめん、早苗はミートソースパスタ、文と天魔の母子は神奈子同様にざるそばを、のび太はお子様ランチを注文し、最後に残った霊夢と魔理沙がカツ丼を頼もうとして文が『鳥の卵を食べるなんて! それは鴉天狗全員に対する宣戦布告と見ていいですね!?』と激怒してまた暴れそうになり、母親である天魔のゲンコツと共に『この子は、人の食べるものにいちいち文句を言うんじゃありません!』としこたま怒られたのはまた別の話である。

 

「それでは皆さんご一緒に……」

「「「「「「「「いただきます!!!!!!」」」」」」」」

 

 神奈子の音頭を合図として守矢神社の母屋、そのリビングに入るには少々大人数による昼食会が始まった。

 何の支度をせずともすぐに料理が出てくると言う驚異の利便性に加えて、かつてスネ夫の舌をも唸らせたグルメテーブルかけ。霊夢や魔理沙はおろか、守矢神社の三人も、妖怪の山の二人も、夢中になってそれぞれの頼んだ料理をぱくついている。その味への評価は誰も何も言わないものの、むしろ誰もが黙ったまま夢中で箸を進める様子が何よりの証明だった。

 あっという間に全員が食べ終え、後に残るはきれいさっぱり空っぽになった器のみ。

 

「さて、と。お昼も食べた事だし……鴉天狗には壊した神社の修理をやってもらおうかな」

「な、なんで私だけなんですか!? 私よりもむしろこの子の方が私以上に壊していますよね? 外来人とは思えない吹雪や大風まで起こして私を吹き飛ばして……。鴉天狗を吹き飛ばすような吹雪を起こしている以上、ここは私だけではなくこの子も一緒に壊れた神社の修理をやるに相応しいと思います!」

「…………へ!? え、ええええっ!? そ、そんなぁ」

「そんなもヘチマもないです。さあ私だって神社を直すために立ち上がるんです。自分で壊したものはちゃんと自分で直しましょうね」

 

 『ふぅ、満腹満腹』とざるそばを平らげてしまった神奈子が文へとさっそく半壊した守矢神社の修理をするように言いつける。

 が、なにしろここではいはいと言われるがままに修理を受けてしまったら最後、面倒くさい事この上ないと百も承知。となれば文だってそう簡単に首を縦に振る訳がなかった。

 むしろ死なばもろともとでも言わんばかりに『のび太こそ守矢神社を破壊した張本人』などと言い出す始末。

 もちろんそれだけではなく、これには文の計算もあった。ここでもしうまくのび太も一緒に神社の修理に駆り出せば、自分だって面倒くさい神社の修理をさっさと終わらせるために間違いなく何か道具を持ち出すのではないか? と文は踏んだのだ。

 何しろたった今体験した、のび太が取り出した『グルメテーブルかけ』なるぱっと見はただの布切れ一枚でさえ、本当なら支度にある程度の時間がかかる昼食の支度をわずか数分たらずで終わらせてしまったのを目の当たりにしている。

 あれだけあっさりと作業を終わらせてしまう便利な道具があるのだから、物を直したりする修理や治療などを簡単に済ませてしまう道具もあるのではないか? 後はそれを使っている所を撮影、あわよくばのび太から説明までしてもらえれば間違いなく次の新聞の一面はそれで決まり、間違いなく売り上げは上位に食い込むだろう。

 となれば多少のリスクなんてなんのその。

 射命丸文、彼女は新聞の売り上げのためならばためらう事なく虎穴に飛び込んで見せる記者だった。

 だからこそのび太を巻き込んで、ひみつ道具を使うように仕向けたのだ。母親である天魔に怒られるかもしれないと言うリスクを承知の上で。

 

「こらこら、暴走した鴉天狗はともかく、なんでうちの神社にはるばる外から来てくれた参拝客に神社の修理をさせなくちゃならないんだ」

「そうですよ。そんな話が広まったらうちの神社の人気が駄々下がりじゃないですか」

「分からないよ? この子はただの子供じゃないからね。さっきのテーブルかけみたいに、またとんでもない道具が出てくるかもしれないしね」

 

 もともとが神社を半壊させた罰則として修理をやらせようとしたはずが、まさかの参拝客であるのび太まで一緒に修理作業を行う流れに傾きかけた事に神奈子が止めに入り、それに続く格好で早苗も文に文句を言う。

 特に早苗の場合は、文と勝負して負けていると言う事もあるのだろう。

 三人の中で唯一のび太が持つひみつ道具の可能性に、文と同じように目を付けたのは一歩引いた目線で様子を見ている諏訪子。それは見た目的には年上の二人が逸るのを、一番幼い容姿の少女がブレーキをかけると言う実に奇妙な光景でもあった……。

 

 




本当はもう少し短く修理を終わらせるつもりだったのですが、書けば書くほど文章量が増えてしまい投稿どころではなくなってしまいましたので(滝汗 急遽分割する事を決定しました。

これから修理を始めますが、果たしてどんなひみつ道具を使う予定なのか、そもそも彼女たちギャラリーがいる前でひみつ道具を使って無事に修理できるのか、結果につきましてはもう少しお待ちください。



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