ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

23 / 73
守矢神社の修理、前編に引き続き後編の投稿です。大変遅くなりました、本当ならこれを1話にまとめて投稿したかったのですが、やはり無理でしたね。
本当はもっと短い話になるはずだったのに気が付けば前編よりも文章量が多くなると言うこの恐怖(汗
文字って怖いです……。



さて、いよいよ修理が始まりますが守矢神社は直るのでしょうか?


直しましょう、守矢神社(その2)

 本当なら夏休みの宿題で仲間外れにされたから、負けじとやって来たらその守矢神社こそが外の世界でスネ夫たちが探していると言う消えてしまった神社だったと言うだけの話……のはずなのに。

 新聞のネタになるからと暴走して襲い掛かって来た(※のび太視点)文を撃退するために応戦したのび太を待っていたのは、文からの『戦ったのはのび太と私の二人なのだから、直すのも私とのび太の二人でやるべきだ』と言う無茶苦茶な論理展開だった。

 そもそも文の言葉は勢いだけで論理からはかけ離れているとしか思えないのだけれどもそこは妖怪として長くを生き、新聞屋として場数を踏んできただけの事はあり、ズイズイと近づきながら笑顔で迫る文にのび太は完全に押されっぱなしになっていた。

 

「さあ、さあ! 神社を壊してしまった者同士さっさと直してしまいましょう。妖怪の山にあるこの守矢神社のため、神奈子様や諏訪子様の信仰のため! ……そして何よりも私の新聞のために!!

「い、今新聞のためにって……」

「……何かいいましたか!?」

「い、いえ。何でもないです……」

「よろしい」

「なあ霊夢。のび太が出す未来の道具なら……守矢神社、すぐに直せると思うか?」

「ええ、簡単かどうかはわからないけれど、できるでしょうね。むしろのび太の道具でできない事を探す方が難しいんじゃないかしら。だから文だってのび太にどうしたって手伝わせたいんでしょ。手っ取り早くするのと、新聞のネタを手に入れるために」

 

 また、霊夢と魔理沙も諏訪子同様にのび太に修理の手伝いをさせようとする文の目的に気が付いているため、文の言い分に反対するようなことはなかった。もしかしたら、ああなってしまった文に近づくとどんな面倒くさい事になるか分かっているから、と言う事かもしれないけれども。

 むしろ今の二人はこれ以上一体どんな未来の道具が出てくるのか? と言う点に興味があるらしい。

 なにしろ二人とも一部だけとは言え、ひみつ道具の効果をこの数日の間に幾度となく体験しているだけあってもう幻想郷以上に幻想しているひみつ道具がこれ以上何をしてくれるのか、気になるのだろう。

 

「……まったくもぅ、あの子は新聞が絡むと本当に見境がなくなるんだから……」

 

 逆にこの場にいる面々の中で唯一困ったような……実際に困っているのだろう。のび太にまで神社の修理を手伝わせようとしている文にため息をついたのは実母でもある天魔だった。

 神奈子から話を受けて捜索隊や文に命じての、のび太の保護を各天狗たちに命じたその先がこれなのだから、母親としても天狗の長たる天魔としても、ため息の一つくらいは吐かなければやっていられないのかもしれない。

 そして天魔の言葉からも、昔からずっと文の性格が変わらない事も伺える。

 結局『こうなったら、のび太が危険にさらされそうになったら動くしかない』と、天魔は天魔で一人娘である文の動きに気を付けながら、神奈子たち守矢神社の面々、あるいは霊夢や魔理沙とはまた違った緊張感でもってのび太と文の行動を観察する事になるのだった……。

 

「さて、修理に当たって一体何を出してくれるんでしょうか?」

「…………はぁ、わかりました。えっと……そうですね。この神社のあちこちを直すとなれば……あった!『タイムふろしき!!!』」

「……なんだよのび太、また布切れじゃないか」

「落ち着きなさいよ魔理沙。あののび太が出した物なのよ? ただの布切れの訳がないでしょう」

 

 霊夢がただの布切れの訳がない、とは言ったものの、魔理沙の言葉もあながち間違いではない。

 何しろ(文に脅されて、半ばあきらめながら)のび太が取り出したのはグルメテーブルかけではないにせよ、また一枚の布切れだったのだから。

 この一見するとそれぞれの面が赤と青に染められた、珍しい柄のふろしきにしか見えない布切れこそが包んだもの(あるいは被せたもの)の時間を進めたり(つまりは古くなる)、また逆に巻き戻したりする(つまりは新しくなる)効果を持つタイムふろしきである。

 かつて『のび太の恐竜』において、のび太が偶然から発掘した恐竜の卵の化石をこのタイムふろしきで包み、卵として復元させた上、1億年と言う途方もない時間の果てにフタバスズキリュウ(厳密には恐竜とは言えないけれども)のピー助を孵化させたのはのび太にとっても忘れられない思い出である。

 とはいえ、まさかこの現代でフタバスズキリュウを育てるわけにもいかず、一億年前の日本に送り返す事にしたのだ。それがのび太たちが幾度となく体験する事になる全ての大冒険の始まりの冒険でもあった。

 そんなタイムふろしきを取り出したのび太は早速その場の全員に説明を始める。

 

「えっと、これはタイムふろしきって言って……えっと、包んだりかぶせたりしたものの時間の流れを進めたり、逆に遡ったりできるんです。僕がやったのはええと、一億年前の恐竜の卵をタイムふろしきで包んで卵に戻して孵したりさせました」

「「「「「「「いっ…………………………」」」」」」」

 

 一億年、つまりは……ジャイアンいわく『一年の一億倍』。

 あまりに巨大な時間の壁に、ピンとこないと言うのび太たちにドラえもんが説明した(その当時の学説で)のは、「昔々あるところに王様とお妃様が~」のお馴染みのフレーズで始まるおとぎ話の時代がざっと千年前、その倍の二千年前にはキリストが生まれた。ここからクリスマスや西暦は始まっているのだ。

 で、さらにその倍の四千年前になると世界各地に四大文明が発生しており農耕などもはじまるようになる。もひとつおまけに倍の八千年前にまでさかのぼってくるとその頃にはまだ文字の発明がなされていないため、記録がないのでその時代の様子はほとんど不明なのだと言う。

 化石や石器などによるものではなく、明確な記録が残っている人類の歴史なんて高々数千年。

 その数千年の年月をさらに一万回以上と言うレベルで繰り返してようやく一億年が経過する……などと言う途方もない気の遠くなるような年月であると言うのがドラえもんの説明だった。

 もちろん神話の時代からこの国を治めてきたのであろう神奈子と諏訪子、はたまた妖怪として長い時間を生きてきたであろう天魔や文からしても、はるか歴史の向こう側である恐竜の闊歩する時代まで時間を巻き戻せる、などと言う何も知らなければ与太話か冗談としか聞こえない話に誰もが口をぽかん、と開けて唖然としながら、それでもなんとか誰もがのび太の話を聞いていた。

 

「説明するよりも、これもテーブルかけみたいに実際に使って見せた方がいいかな。皆さんちょっといいですか?」

 

 が、いくらなんでも外の常識が非常識に、外の非常識が常識となるこの幻想郷でも流石に一億年もの昔の状態まで掘り出した化石を戻して卵を孵化させた、などと言っても普通は信じないだろう。

 紫辺りが話を聞いたら、叫ぶどころか泡を吹きだし白目をむきながら卒倒しそうである。

 それならばグルメテーブルかけのように実際に使っている所を見せた方が説明するには手っ取り早い、そう考えたのび太はタイムふろしきを手に守矢神社の境内へと出るように声をかける。

 ぞろぞろとのび太を先頭にまだ修理が終わらないボロボロの境内へと出てきた一行を前にして、のび太はマタドールか手品師のようにタイムふろしきを広げ、赤い面を上にして境内へと置いた。

 

「「「「「「「えええええっ!?」」」」」」」

 

 次の瞬間……のび太以外の全員から、もう何回目になるのか分からない驚きの声が上がる。何の事はない、タイムふろしきの効果で数時間時間を巻き戻す。

 つまりはボロボロになる前の早苗がしっかりと掃除をしていた状態の境内へと修復されたのだ。もっとも、タイムふろしきの効果を考えればそれは修復と言っていいのか、疑問ではあったけれども。

 『その説明は長くなるからまたにしよう』とドラえもんが言いそうな作業を終えたのび太からすると、タイムふろしきでの時間操作はもう見慣れた光景なのだけれども、初めて見る彼女たちにとっては、ただふろしきをかぶせただけで十数秒程度待てば修復されてしまうと言う出来事さえ魔法か、あるいは奇跡のように見えたのだろう。

 仮に、これでもしこの幻想郷の技術でもって同じことをタイムふろしきを使わずに行った場合、一体どれくらいの時間がかかるのか。

 間違いなく十秒程度で終わるような事はあり得ないのだと、この様子を見ていたみんなの反応を見れば間違いない。

 そして、境内の修理が終わったのび太はたった今使ったタイムふろしきを手に、自身を修理に誘ってきた張本人。むしろ神社を半壊させた張本人であり、今もあまりにあっけない修復作業を目にして呆然としている文をよそに、のび太はスペアポケットから取り出したタケコプターを頭に載せ、今度はヒビが入った鳥居へと飛んで行く。

 

「文さん、それじゃあ全部傷んだ場所は直してしまいましょう!」

「あ、は、はい……」

 

 無理矢理にのび太を洩矢神社の修理に駆り出そうとしていたさっきまでの威勢はどこへやら。

 残りの場所も早く直して修理を終わらせてしまおうと言うのび太の言葉に、今度は文がこくこくと首を縦に振る事になるのだった。

そうして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、それにしてもとんでもない子供がやって来たもんだね……。短く見積もっても数日はかかるとおもっていたんだけどねぇ……」

「おまけに、神奈子様が『少し余分に巻き戻して、鳥居や社殿を新品同様に新しくしてくれ』ってお願いしたら本当に前よりも新しくなってしまいましたからね」

「本当に未来の道具って言うのはすごいねえ、神様の私たちが言うのもなんだけれどさ。あれだけの事を苦労も代償も、対価もなくあっさりとやってのけられると、まるであの子も外からやって来た神様みたいに見えるよ」

「……なあ、霊夢。守矢神社を直すのにかかった時間、どれくらいだろうな? 本当にすぐに直ったぞ……」

「たぶん十分もかかってないわねあれは……。こうしてみると改めてのび太ってとんでもない子供よね」

 

 数分後、タケコプターであちらこちらを飛び回りながら傷んだ場所をタイムふろしきで直す、もとい時間を巻き戻しながら修復していったのび太の作業は当初神奈子たちが考えていた想像以上の、ありえない常識はずれな速さであっという間に終わってしまった。

 おまけに神奈子の言葉にもあるように境内を直した後で、さあ他のところもやってしまおうとしていたのび太に神奈子が待ったをかけ『時間を巻き戻せるのならもう少し余分に巻き戻して、いろいろと新しくできないか?』と持ち掛けたのだ。

 余談だがその話を聞いた霊夢は『なんで守矢神社だけなのよ! ずるいじゃない!! うちの神社もやりなさいよね!!』と暴れそうになったものの、のび太が後で博麗神社の社殿や鳥居もタイムふろしきで新品同様に時間を巻き戻す、と約束した事で霊夢も納得し、その場は事なきを得ている。

 なお、当然のようにこの一連の作業に文は()()()()()()()()()()()()()()。いや関わる余地などどこにもなかった、と言うべきか。

 なにしろタイムふろしきをかぶせて約十秒程度待てば放っておいても元に戻ってしまうのだ。かぶせて、待って、おしまい、すべてがこの三工程で終わってしまうのだから、のび太一人で十分手が足りてしまう。

 結局、守矢神社の修復作業はその全部の作業をのび太が行う事になり、文は威勢よくのび太を巻き込んだはいいものの、のび太の様子をただ呆然と眺めているしかできないと言う、文からしてみれば非常にまずい状況になっていた。

 新聞のネタのためにハイリスクハイリターンな賭けに打って出て、のび太を修理に巻き込んだはいいものの、取り出されたひみつ道具タイムふろしきが文の想像を斜め上に超える能力を持っていたため、のび太に作業させるだけさせておきながら自分は何もしませんでした、と言う状況。

 そしてそんな事を決して赦しておかない、恐ろしい人物が今この場所にいるのだ。

 

「あ、あやややや……まさかこんな短時間で終わってしまうとは……しかも無理やりあの子に修理を手伝うように仕向けたのに、私が何もしていないなんて……これはまずいです……。どうにかして逃げないと……」

「文、貴女は一体何をやっているのかしら……?」

「……っ!?」

 

 が、残念ながらもう手遅れだったようだ。その証拠に、早くどうにかしてこの場から離れようと考えを巡らせていた文の背後から文の母、天魔のそれはとても穏やかな声がかけられる。

 もちろん穏やかなのは声だけで、実際には絶対零度、先ほど自分がのび太から直撃した猛吹雪もかくやと言う恐ろしいものである事を文は重々承知していた。

 のび太が目を覚ます前にこっぴどく怒られたのとは訳が違う、完全に怒った母親の声。『ここまで本気で怒らせたのは何十年ぶりでしょうかね』などと考えている間にも、鬼気迫る天魔の気配は大きくなってゆく。

 振り向いたら命が危うい、それは分かっているのだけれども振り向かなければそれもまた命の危機に直面する。

 どっちに転んでも手詰まりなこの状況で、すでに天魔の鬼気迫る気配に気が付いた霊夢、魔理沙に神奈子、諏訪子、早苗はのび太を今度こそ守るようにとかばうような格好でとっくに天魔と文の母子から離れていて、何があっても対応できるようにと身構えていた。

 つまり、今この場にいるのはほとんど文と天魔だけに等しい。その上で文は逃げなければいけないのだ。

 もし逃げられなければ……命の保証はない。

 

『どうする……どうする……どうすれば逃げられるでしょうか。それも、今まだ翼が吹雪のせいで傷んだこの状況で……』

 

 新聞の〆切直前の修羅場をも越える早さでもって頭をフル回転させ、どうにかこの状況を打破する方法を考える文。流石に自分の命がかかっていると言う事もあり、その目からも真剣さが伺える。

 

『せめて()()()()()()()()……ん?』

 

 地上を走り回るとなればちょっと速い、程度に落ちてしまうが鴉天狗の文の本領は空である。今はボロボロになってしまっているが、その翼さえ元に戻れば元々文は幻想郷でも空を飛ぶ速さは最速と呼んで差し支えない速さなのだ。

 その翼を元に戻せればと考えた時文の頭に閃いた一つの方法。そう、戻す方法ならあったのだ。それもすぐ手の届くところに。

 たった今、文がのび太に襲い掛かり応戦した結果ボロボロになってしまった守矢神社をあっという間に修復したタイムふろしき、あれを使えば時間を巻き戻して翼が傷む前の時間に戻せるに違いない。一度翼が戻ってしまえば、後は自慢のスピードで逃げ切ってしまえばいいのだ。

 

「文、逃げられるとでも思っているのかしら? そんな傷んだ翼では自慢の速さも出せないでしょう、大人しくしなさい。そうすれば少しだけ叱られる時間が減るわよ……?」

「あやややや、これは本気ですね……でも私は逃げ切って見せますよ!! 天魔の役目についてから事務仕事ばっかりで最近はろくに飛んでもいない天魔様が現役の私に追い付けるとでも思っているんですか?」

「へぇ……そう、それが文の答えなのね……。いいわ、天魔の力とくと見るがいい!!」

 

 母親でもある天魔から突き付けられた最後通牒もものともせず、逃げ切って見せると豪語する文の返事に天魔の額に青筋が浮かぶ。

 その表情はのび太の0点の答案を見つけた時のママの顔にそっくりだ。

 学校の作文で『怖いものはうちのママの怒った顔です』と書くほどに恐ろしいのび太のママの怒った顔に匹敵するレベルの迫力で怒りを表現する天魔だが、文にはタイムふろしきと言う勝算があった。

 その方法を実行すべくくるりと天魔に背を向けると、手にした葉団扇を一振り。のび太たちの方へ向けて振り下ろす。

 とは言え、全力で振り下ろそうものならのび太のバショー扇程でないにしろまた守矢神社に被害が出てしまうのでそこはきちんと力を加減しながら振り下ろしたのだ。

 

「あいにくですが、その力はまた今度お願いします……それっ!!」

「うわっ!」

「ちょ、ちょっと文何するのよ!」

「逃げるためですよ、すみませんがちょっとお借りしますね」

「あーっ、タイムふろしきが!」

「まずいわ、追うわよ魔理沙!」

「おう、何としてもふろしきを取り返すぜ!!」

「文、待ちなさい! よその子に迷惑をかけるんじゃありません!!」

 

 まさかこの期に及んで弾幕ではなく天狗の葉団扇による突風を起こしてくる事で、皆の対応が一瞬遅れてしまう。

 これがもし仮に弾幕を撃ってきたのなら、霊夢たちも弾幕による相殺をする事もできただろう。

 けれども何の変哲もない、ただの強いだけの風となると逆に防ぐ事が難しくなってしまう。そこを文は突いたのだ。もちろん、その隙を見逃す文ではない。

 いきなりの突風を受けてたたらを踏むのび太へと素早く駆け寄り、修理が終わった後でまだスペアポケットにしまっていなかったタイムふろしきを無理やり奪い取るとそのまま鬼ごっこの鬼から逃げるかのように、その場から走り去りながらタイムふろしきを自分へとかぶせた。

 もちろん、そこはきちんと見ていたので赤い方を上にする……包んだりかぶせたものを新しくする側を選ぶ事も間違えない。

 後ろから霊夢や魔理沙に天魔の怒声が聞こえてくるが、翼さえ治ってしまえば追いつかれる要素はほとんどなくなる。

 

 

 

…………文はそう、思っていた。

 

 

 

 文の作戦は問題ない、そう言っていいだろう。ただ一つの問題点を除けば。タイムふろしきの効果、それを文はまだ完全には理解していなかったのだ。

 すなわちどれくらいの間タイムふろしきに包まれた場合、どれくらい時間が動くのか、と言う点だ。

 それを知らないまま文はタイムふろしきをかぶったまま、逃げるのに夢中でひたすらに走り回っていた。

 それがどういう結果をもたらすのか、失念したまま……。

 

「……? 変ですね、なんだか走りにくくなってきましたけど……ああっ! こ、これはまずいです。治すどころか、自分の事をもっと巻き戻してますよねこれ……」

 

 だから文は、タイムふろしきをかぶった自分の時間が想像していた以上に速く過去へと向かい過ぎてすでに翼を治すどころか、もっとはるか昔の頃にまで巻き戻っている事にようやく気が付いた時には服や兜巾、下駄などもどんどん幼くなった文の身体とはサイズが合わなくなっていた。

 当然そんなぶかぶかの恰好で走り回ればどうなるかは想像に難くない。

 外の世界ですぐに大きくなるからと多少余裕を持たせた格好をした子供が、ぶかぶかの靴などで転ぶ事があるように今の幼くなった文にとっても、元の姿の文がしていた格好と言うのはあまりにも不安定過ぎた。

 そんな恰好で走ればどうなるかは言うまでもなく……。

 

「……あっ! 痛ったぁ……、やっぱり身体が縮んでいると、走りにくいです……って、ああっ! は、早くどかさないと……」

 

 走る事に夢中で転んでしまうのは仕方のない事だろう。が、そこで終わればまだよかったのだろうけれども、さらなる不幸が文を襲う。

 地面につんのめるように転んだ文の背中に、タイムふろしきがかぶさったしまったのだ。

 しかも赤い方を上にして。ただでさえもう幼い容姿にまで時間が遡っていると言うのに、これ以上さらに時間が退行してしまったら果たしてどうなってしまうのか? 当然もっと時間が遡ると言う事だ。

 そして布切れ一枚と言う形をしたこの道具には見た所緊急時の停止装置などが付いているようには見られない。

 つまり、おそらくは時間を巻き戻したり進めたりし続ければ、それこそ文の場合ならこのままいけば赤ん坊からさらに胎児に、胎児よりももっと原始的な単細胞に戻り何もなくなってしまうまで、融通を利かせる事もなく限界まで時間制御が行われる可能性が大きいのだ。

 時間を巻き戻し過ぎて、この世から消滅など笑い話で済む問題ではない。

 それこそ母親でもある天魔に思い切りこっぴどく叱られた方が生きている可能性がある分まだマシではないか。

 と自身に消滅の危機が迫りつつあった今、逃げるとか、天魔の恐怖などと言う些末な事は今の文の頭の中からは完全に抜け落ちていた。

 そんな文を捕まえようと後から追いかけていた霊夢と魔理沙がようやく追いついた時、二人の目の前にいたのはぶかぶかの服を着て、タイムふろしきで早く元に戻ろうと悪戦苦闘する身長が縮んでしまった文の姿だった。

 

「こら、文、待てーっ! って……あ、あははははははははっ!!!」

「魔理沙、いきなり笑いだしてどうしたのよ? ……ぷっ、あ、あははははははっ!! ずいぶんち、縮んじゃったわね!」

「わ、笑わないで下さいよぉ。って言うかお願いですから助けて下さぁい!!」

 

 そう、タイムふろしきで巻き戻されつつも文はどうにかタイムふろしきを自分の身体から退けて、時間の逆行を止めたのだった。とはいえその代償は決して小さいものではないのだけれど。

 自分の意図した以上に身体が幼くなってしまいべそをかきながら助けを求める文の姿に、霊夢と魔理沙がお腹を抱えて、これぞ『抱腹絶倒のお手本』とでも言わんばかりに大爆笑したのは言うまでもなかった。

 ちなみに、この後霊夢と魔理沙に続いて文を追いかけてきたのび太以下全員が(天魔まで)同じように縮んで幼い格好になってしまった文の姿を見て大笑いしたのは、また別の話である……。

 

 

 




ぶんぶん文ちゃん、まさかの幼児退行!!! むしろ怒られるよりもこちらの方が危機一髪なのではないでしょうか(汗

ちなみに、確か原作でもタイムふろしきでジャイアンが同じようにタイムふろしきの効果で赤ん坊に戻っていたりしましたので、割とこういった事故は起こりうると思うんですよね。
それこそ人間の寿命程度ならタイムふろしきかぶせて逆行させてしまえばリミッターがない限り、卵細胞まで戻してしまえばそのまま消滅させてしまう事もできると言う倫理に則らなければ実は恐ろしい兵器としての使い方も……。

もちろん当作品のキャラクターたちはそのような使い方をする人妖はいない予定ですのでご安心下さい。



さて、洩矢神社の修理も終わり、次はどのような騒ぎがのび太たちにやって来るのでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。