ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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皆さま大変お待たせしました。守矢神社の宴会第二幕でございます。
妖術遣いのび太(違 の取り出したお酒が皆にふるまわれます。


戦い終われば……(その2)

「おーいのび太、悪いがまた樽酒のお代わりが必要みたいだぜ」

「みんなよく飲むなぁ……、でも魔理沙さんに霊夢さんまで一緒になってお酒飲んでますけど、いいんですか?」

「のび太、ここは幻想郷だぜ? 常識にとらわれていたら負けなんだぜ」

「常識がどうかは置いておいて、細かい事を気にしちゃダメよのび太。と言う訳でお酒のお替りお願いね。あ、ちなみに妖怪の山の妖怪はみんな大酒のみだから、余るなんて事はないから遠慮しないで出していいわよ」

「は、はーい。それじゃあ……美味しいお酒!!!」

 

 守矢神社の境内で始まった妖怪の山を挙げての大が三つくらい付くほどの大宴会。

 しかもそのお酒はのび太の持つグルメテーブルかけから、まさしく無尽蔵にいくらでも出てくるのだから天狗に河童も神様も、遠慮と言う言葉をどこかその辺に放り投げてきたかのように誰もが浴びるように酒を飲み干すと言う、見ているだけで酔っぱらうか二日酔いで吐きそうな光景が至る所で繰り広げられていた。

 これが普段の宴会なら供されるお酒も当然量に限りがあるため、多く用意していても結局一人一人が呑めるお酒の量は決まってしまうけれども今日に限ってはそんな心配もなしに、文字通り好きなだけ呑めるのだから楽しくない訳がない。

 少し前に出したはずの樽酒はあっという間に中身が空っぽになり、のび太が次から次へと取り出す新品の樽酒をまた天狗や河童たちが行列を組み、あっという間にお酒を汲んでは空けていく。

 道端に落ちたお菓子に群がる蟻だってもう少しゆっくりなのではないだろうか?

 

「よーし、誰か勝負だ!! 私と飲み比べのできる者はおらんか!?」

「いいぞ、いけーっ! 誰か天魔様を負かしてやれ!!」

「よし、儂がいこう! ここらで一つ、天魔様に黒星を付けてやろうかのう」

「面白い、大天狗め。私がどうして天魔の座に就いたのか、今一度その身に教えこんでやる必要がありそうだのう」

 

 おまけに天魔様に至っては、樽酒をそのままひょいと持ち上げて樽を杯代わりに飲み干そうと無茶な事を言いだし、どちらが先に酒を飲み干せるか勝負だなどと周囲の天狗や河童を煽る始末。

 それに応えるように一人の大柄な天狗……天魔曰く大天狗なる妖怪らしい、が天魔に挑戦状を叩きつけた事で場の興奮は一気に最高潮へと燃え上がった。

 天魔と大天狗のどちらに軍配が上がるのか、体格などを考えれば大天狗の方が多く飲めそうではあるけれどもそこは天魔、伊達に妖怪の山の長はやっていないのですとでも言いたげな言葉から、彼女も決して弱くはないのだろうと言う事が想像できた。

 そして……。

 

「それでは……はじめっ!!」

 

 いつの間にやら、この勝負の審判役を務めるらしい事になった鴉天狗が発した開始の掛け声、そして振り下ろされた団扇と共に、天魔と大天狗とが樽酒の樽をひょいと持ち上げるが早いがその中身を呷り始めた。

 のび太の腕力では到底持つ事もできないような重さの酒樽を軽々と持ち上げ中身を飲み干して行く姿は、人間と同じような姿ではあるものの人間とは違う存在なのだと嫌でも思い知らされる。

 腕力一つとってもそれなのだから、到底飲みきれないような量のお酒など妖怪たちにしてみれば大した量ではないらしい。

 大天狗のがっしりとした体ならばまだともかくとして、天魔のすらりとした体のどこにお酒が入っているのか? と思いたくなるようなのび太の疑問を無視して徐々に徐々にと酒樽を傾ける天魔は大天狗よりも先に中身を空っぽにしてしまい、ドン! と勢いよく飲み干したばかりの酒樽を地面に置いた事で、場の天狗や河童たちからはどよめきが起こる。

 

「「「「おおーっ!! さすがは天魔様だ!!」」」」

「ふっふっふっふ、まだまだだな大天狗よ。私を負かしたかったらもう少し酒に強くなって出直してくることだぞ?」

「くっ……、ええい! 天魔様の胃袋は化け物か!?」

「……そ、それではこの勝負! 天魔様の勝ち!!!」

「ええ……あれ飲んじゃったんですか? だって、取り出したばかりだったからかなりたっぷりのお酒が入っていたはずですよ?」

「ふっふっふっふ。のび太、これが幻想郷では当たり前なんだぜ」

「ええっ!? じゃあ、霊夢さんや魔理沙さんも、ああやって酒樽もって飲んじゃうんですか?」

「こら魔理沙、何言ってるのよ。私たちはあんなに飲める訳ないでしょうが。妖怪の山の妖怪や一部の例外だけよ、あんなに飲めるのは。だからのび太もそんなにおびえたように私たちを見なくても大丈夫よ」

「で、ですよねぇ……。でも、本当にあの妖怪の人たちはもしかしたらミニブラックホールでも飲んでるんじゃないかな……?

 

 ちなみに負けたとはいえ大天狗も天魔が樽を空にしたその数秒後には樽を空にしているのだから、手軽に酒樽を出せるとはいえのび太からすればたまったものではない。

 おまけにその様子を見て驚いているのび太に魔理沙が乗っかるものだから、のび太は素直に霊夢や魔理沙までもが軽々と酒樽を持ちながら豪快にお酒をがぶ飲みしている光景を想像してしまったようで、顔を青くしながら二人を交互に見つめていた。

 霊夢の訂正がなければ、間違いなくのび太にとって霊夢も魔理沙も妖怪並みの大酒飲みと言う認識をしていたに違いない。

 幸いにも霊夢が訂正してくれたおかげで、のび太の想像した妖怪大酒飲みな魔理沙と霊夢は文字通りの幻想と化した。

 しかしそれにしても、天狗たちのお酒の飲みっぷりはのび太が今まで出会ったどの星の人や次元の人々と比べてもおかしい、と言い切れるレベルでおかしい飲みっぷりだった。

 霊夢や魔理沙には聞き取れなかったみたいだけれども、もしかしたらここの妖怪たちはみんなひみつ道具の『ミニブラックホール』でも飲んでいるのかもしれない。

 そうのび太に言わせるほどに。

 

 

 

『ミニブラックホール』

 

 

 

 それはのび太が以前ジャイアンとの大食い勝負をする時に使ったひみつ道具で、文字通りブラックホールのミニサイズの模型である。

 ただし、たかが模型と侮るなかれ。光さえ逃げられない吸引力を持つまさに宇宙の墓場と言うだけあって、物を引きずり込む能力は現実のブラックホールとも大して違いはなく、ミニサイズと言いつつ全部飲み込んでしまえば(ブラックホールを一かけら口から飲み込むだけで、異常なほどの食欲になる。)家一軒を丸ごと飲み込めてしまうほどの吸引能力を発揮するのだ。

 実際にその恐ろしさを何も知らずブラックホールを全部飲み込んでしまったのび太は、ジャイアンに大食い勝負で圧勝した後でお腹がすいて昼寝もできないと言いつつ居眠りをしながら部屋の中の机やタンス、本棚から中の漫画本まで全部を飲み込んだ挙句、お腹がすいたと言うのび太のためにクッキーを焼いてきてくれたしずかを、クッキーを入れた風呂敷ごとまとめて丸呑みにしかけ、大騒ぎになってしまった。

 幸いこの時は飲み込まれそうになっているしずかに気が付いたドラえもんがのび太に『ブラックホール分解液』を飲ませた事で事なきを得たが、あのままドラえもんが気が付かなければしずかものび太に飲み込まれていたかもしれない。

 今の天狗たちのお酒の飲みっぷりはのび太にそれを思い出させるほどの飲みっぷりであったのだ。

 もちろんミニブラックホールをここ妖怪の山の妖怪たちが飲み込んでいるからこの飲みっぷり、と言う訳では無いのはのび太にも理解できる。あくまでもそれは未来のひみつ道具であってこの時代にはないものなのだから。

 けれども、それがあるにしろ無いにしろ、あの文字通り妖怪な飲みっぷりに付いていける訳もなく、のび太は天魔たちのいる場を後にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、君があの射命丸文に勝ったと言うのは本当ですか? どうやって勝ったのかそこの所を是非お願いします!」

「はい、そのままそのまま……いい写真撮れました、ありがとうございます!」

「こちらにも何か一言お願いします!」

「その次はこちらにも何かお願いします!!」

「え、えっと……その……あの……」

 

 それなのに、気がつけば天魔や大天狗の飲み比べから逃げるように離れたはずののび太は文ほどではないにせよ、目をギラギラと光らせた、天魔たちの飲み比べの場にいたのとはまた別の鴉天狗の集団にぐるりと取り囲まれ、質問攻めに合っていた。

 何しろ妖怪の山の妖怪たちにとってのび太の存在はお酒にも劣らない、まさに話題の中心人物と言える。

 結界の外から来た、空も飛べない、霊力や魔力に妖力と言った力も持たない非力なはずの子供が白狼天狗はおろか鴉天狗にも打ち勝ったとなれば、その存在は十分に新聞記事の一面を飾るに値する存在となる……誰もがそう考えたのだ。

 確かにこの場にいる彼女たちにとって、ただで後から後からあふれんばかりに出てくるお酒は魅力的ではあったけれども、それよりも彼女たちの中に眠る新聞記者の魂が揺さぶられてしまったようで、お酒よりも前にのび太の情報を他の誰よりも先んじて手に入れるべく、こうしてのび太を取り囲み一言一句をも漏らさぬようにしているのだった。

 万が一にもお酒の誘惑に負けて先に飲んでしまい、潰れてのび太の記事を書き損ねてしまった日にはライバルに先を越されかねない……そう考え、自分の新聞のために必死な者たちがこの場に残り、記事のネタを手に入れようとしている。

 それは先に戦った文が、新聞記事のネタになると気が付いたとたんに襲ってきた様子にもよく似ていた。唯一文と違うのは今のび太を取り囲んでいる鴉天狗たちが問答無用で襲い掛かって来ないところか。

 もっとも、それもこの場に天魔がいるから、と言う可能性も否定はできないのだけれども。

 そんなのび太のピンチを救ったのは……。

 

「はいはーい、のび太から話を聞きたい人は、保護者に素敵なお賽銭を払ってからお願いしまーす」

「またのび太が鴉天狗と戦う、なんて事になったら大変だからな。その辺りはキッチリとさせてもらうんだぜ」

「……と言う訳で、のび太の取材受け付け料は一人五百円から受け付けるわ。びた一文まけないからね」

「え? あ、あの。お金を取るんですか?」

「当たり前じゃない、いいのび太? 世の中はお金なのよ!」

「え、でも……」

「それに! のび太がこれからも神社にいるのなら、いろいろお金だってかかるの。そのためにもこうしてお金を用意しておかなくちゃいけないのよ」

『『『『何て強欲な……』』』』

 

 押すな押すなと詰めかけてのび太を取り囲んでいる鴉天狗たちの中に突撃し、保護者と言う名目でお賽銭を巻き上げようとする霊夢と魔理沙の二人だった。

 もちろん二人は厳密にはのび太の保護者ではない。

 けれどものび太が博麗大結界を踏み越える事無く幻想郷に来た時に接触した八雲紫から直々に、博麗神社に居候と言う形で預けられた結果、霊夢は住居を提供していたと言う実績がある(食については完全にのび太依存である事は密に、密に)のもまた事実。

 またそうでなくても今日は楽しい宴会の席でもあるし、なにより霊夢の博麗の巫女の実力は決して侮れるものではない……と言うのが天狗や河童の認識だった。

 そうでなくてもいきなり乱入してきて金を出せなどと言い出したこの霊夢の発言にはその場全ての鴉天狗が心を一つにしたのだけれども、なにしろのび太の存在が保護者を名乗る霊夢に握られている以上迂闊な事をすれば取材拒否にさえ繋がりかねない。

 ……結果、鴉天狗たちはなけなしのお小遣いを泣く泣く霊夢が一体どこから用意したのか、手にしている小型の賽銭箱へと順に投げ込む事になるのであった。

 もちろんこの予期せぬ増収に霊夢の顔が綻びっぱなしだったのは言うまでもない。

 そして、こっそりとスキマからこのやり取りをのぞき見していた紫に『のび太を使ってお金儲けするなんて何考えてるの!』と怒られるのは、また別の話……。

 




質問攻めにあうのび太を助ける、と思いきややはりお金に執着する霊夢。

いよいよ天狗や河童たちにも未来のからもたらされたひみつ道具の存在が明かされます。
特に河童がひみつ道具に触れないのは絶対にないと思うんだ、親和性高そうだし。

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