守矢神社の宴会編、その最後となる話です。ここでようやくタイトルの意味につなげる事が出来ました……。
それでは、本編をどうぞ。
守矢神社の境内で行われていた大宴会。
図らずもそれに参加する事になったのび太だったけれども、それだけではなくて妖怪の山の長である天魔直々に『のび太が鴉天狗の射命丸文と戦い、そして勝利を収めた』と言う説明を場の全員にされてしまった結果、のび太は他の鴉天狗に囲まれ質問攻めにあい、どうにかそれも終わったと思ったら次は河童に取り囲まれて困ると言う状況に陥っていた。
そこにはのび太だけでなくのび太の保護者を称する霊夢と魔理沙が助けに入ってくれたからいいようなもので、もし二人がいなかったらのび太は果たしてどうなっていたのやら。
おまけにその取り囲んできた河童の中でもリーダー的な存在らしいにとり、と名乗る河童に至っては『一日だけ借りてどこでもドアを調べさせてほしい』などと言い出す始末。
今までいろいろな世界を冒険してきたのび太であったけれども、どこの世界でもその世界の住民の前でひみつ道具を使って見せた所で調べたり分解してみたいなどと言い出す人は誰もいなかったのだ。
「……わかりました。でも本当に見るだけですからね? 分解して直せなくなったとか、改造して変な機能をくっ付けたりとかはなしにしてくださいね?」
「分かってる分かってるって、ちゃんと明日には返すし手を加えるような事はしないよ」
「くれぐれもお願いします、……もし何かあったらタイムふろしきで元に戻せばいいしな」
この初めての申し出に、さてどうしようかと考えていたのび太だったが結局にとりにどこでもドアを貸す事にしたのだった。
もちろん何もないに越した事はないけれども、最悪何かあった場合でもタイムふろしきで戻してしまえばいいのだから。それに、ここには霊夢に魔理沙もいるのだからもし何かあれば間違いなく二人が動くだろうと言う目算ものび太にはあった。
そしてのび太が道具を貸す事に承諾の意を見せるが早いが、にとりとのび太との間に霊夢が割込みお賽銭箱をにとりへと突き出す。
「……それじゃあにとり、交渉が成立したところでさっさと出すものを出してもらいましょうか」
「キュウリはだめなんでしょ? それだと、キュウリ以外の持ち合わせあったかな……」
「いい? 出すもの出さなかったら、のび太は道具を貸さないわよ。道具を借りたければキュウリじゃなくてお金を出しなさいお金を」
「うーん……あっ、なんとか足りそうだね。ほら、これでいいでしょ?」
「はい、まいどありー。いやー、それにしてもお賽銭箱にお金の入る音って言うのはいつ聞いてもいいものよね」
「霊夢の場合は博麗神社にお賽銭を入れに来る参拝客なんてめったに来ないからな」
「ちょっと魔理沙、なによそれ。まるでうちの神社がいつも暮らしに困ってるみたいじゃないのよ」
「そこまでは言わないけどさ、霊夢って暇さえあればいつもこう……お賽銭箱を覗いてはため息をついてるじゃないか」
「ちょっと! そこまでじゃないわよ! そんな事言ったらのび太が誤解するでしょ!」
にとりがポケットから出した財布から何枚かの小銭を取り出し、賽銭箱の上で手を離すとそれらはチャリンチャリンと小気味良い音を立てながら賽銭箱の中へと消えていった。
当然きちんと料金さえ払いさえすれば霊夢もこれ以上追求する必要はなく、上機嫌で鼻歌まで歌いだす始末。
それだけこの臨時収入が嬉しいのだろう。
思わず魔理沙が漏らした余計な一言でその表情も瞬時に険しいものに変わるけれども、のび太だって薄々それは気が付いていた。
なにしろ守矢神社をタイムふろしきで直して綺麗になった時に、霊夢が『守矢神社だけ新品同様になってずるい! うちもやりなさいよね!』と駄々をこねたくらいなのだ。きっと実情は魔理沙の言う通りなのだろう。
そんな霊夢や魔理沙のやり取りをよそに、霊夢にお金を支払いのび太からどこでもドアを受け取ったにとりたち河童はまるで神輿でも担ぐかのようにみんなでどこでもドアを『わっしょいわっしょい!』と持ちながら境内から夜の闇へと消えてゆく。
場所が場所だけに、その姿は本当にまるで神社から妖怪の山を練り歩かんとするお神輿のよう。ただし、その担がれているモノがお神輿とは程遠いその形をした一枚のドア、でさえなければ。
そんなにとりたち河童の行列の掛け声が消えた事で、ようやくのび太は完全に開放されたのだった……。
*
のび太は河童に鴉天狗から解放されたけれども、だからと言ってこの宴会が終わるなどと言う事はない。記事を書くために先に帰る鴉天狗もいれば、まだまだ呑めるとお酒を飲む天狗だっている。
しかし何しろお酒を出しているのはあの眠りの達人のび太である。
「ふぁ~…………」
「大丈夫のび太? そろそろ眠いんじゃない?」
「おいおい大丈夫か? 立ったまま寝そうだぞ」
「だ、大丈夫ですけど……それにまだ寝る訳にはいかないですから」
「それはそうよ、こんなところで寝られたら私だってのび太を運んでなんてあげられないわよ?」
「あ、いえ。そうじゃなくて……」
お酒を出しながら大きな欠伸を一つするのび太。
ここには時計がないから正確な時間は分からないけれども、少なくとものび太の経験則上冒険に出てキャンプをする事になった場合、欠伸をするほどに眠気が来ると言う場合はたいていもうかなり夜遅くであると言う事は気が付いている。
その証拠に、霊夢と魔理沙から大丈夫かと尋ねられたのび太の身体は右へ左へとふらふらしており、放っておいたらこの場でそのまま眠りかねない雰囲気さえある。
「どこでもドアがあれば博麗神社まで戻る事もできたけれども、河童に貸しちゃったからそれも無理よね。魔理沙、早苗たちにお願いして寝室を一つ貸してもらうように頼んできてちょうだい」
「そうだな、ここで寝られたら面倒だからな。よし、ちょっと頼んでくるんだぜ」
「お願いね、ってあ、こらのび太、どうしたのよ。今魔理沙が部屋を貸してくれるか聞いてきてくれてるから待ちなさいって」
そうとなれば二人の行動は実に速かった。
阿吽の呼吸で霊夢はのび太が寝ないようにのび太に話しかけ続け、魔理沙は早苗たち守矢神社の面々に、のび太を博麗神社に連れていく事が難しく、寝室を貸してほしい旨を伝えにゆく。
その間にのび太はここにグルメテーブルかけを置いていくわけにもいかず『美味しいお酒!』とこれで今日出せるお酒は最後だからと山のような酒樽を用意すると、ふらふらとした足取りでそのまま守矢神社の母屋へと歩いていく。
当然まだ魔理沙は戻って来ておらず寝具を貸してもらえるかの許可だって出ていない。
そこは守矢神社の早苗も神奈子も諏訪子だって、外の世界から足を運び、文との戦いで傷んだ神社をあっという間に直してくれた子供を外にほっぽり出す事はしないだろう。それでもやはり許可を取る前に勝手に寝ると言うのは失礼と言うものである事くらい、霊夢だって理解している。
そんな霊夢の制止なんて、まるで耳に入っていないかのようにのび太はあっちへふらりこっちへふらりと危なっかしい足取りで守矢神社の母屋へと勝手に上がり込み、すたすたと歩いていく。
「こら、勝手に上がり込んじゃダメじゃない。眠いのは分けるけれども……って、そうか、
自分の制止の言葉も聞かずに勝手に母屋へと上がり込むのび太を止めようとしていた霊夢だったけれども、のび太が歩いていく場所から、のび太が何を目指しているのかに気が付いたらしく、納得したように制止する事をやめてその後ろをついていく。
それはのび太を止めると言うよりも、見ているだけで危なっかしいのび太に万が一がないように、と言う事なのだろう。
そして居間へとやってきたのび太の姿を見つけたらしい小さな人影、、のび太の行動の答えでもある人影が暗闇の中からのび太がやって来た事に気が付いたらしく文句の言葉を投げかけてきた。
「もぅ……遅いですよぉ、外からは楽しそうな声が聞こてきますし、行きたいけどこの格好で行ったら絶対に笑いものになるし、お腹だってペコペコですし……」
「ごめんなさい、文さん。他の天狗の人や河童の人たちに囲まれちゃって……お腹減ってますよね? 晩御飯の用意、すぐにしますから」
「そっか、そうよね。考えたら文は宴会に出れなかったから、何も食べてないのよね」
「そうですよ! って言うか霊夢さん、今まで忘れてましたね!?」
そう、のび太がここにやって来た理由。それはもちろん眠いからもう就寝しなくてはいけないと言う事もあるけれども、もう一つの理由は今境内で行われている妖怪の山の妖怪一同が飲めや歌えやとやっている宴会へと出てこれない、子供の姿にまで大きく縮んでしまった文の夕飯の支度をすると言う事でもあった。
少し遅いお昼をみんなで食べた後、守矢神社の修理をしてから文が縮んでしまい、それから今まで文は何も食べていないのだ。
しかもすぐ近くの境内からは、母親である天魔や仲間の鴉天狗たちが呑めや歌えやと楽しそうにしている声が聞こえてくる。
これも天魔の課した罰の一つなのだとしたら、なんと厳しい罰なのか……。これではお腹だって減ってしまうだろう。
実際こうしてのび太たちと話している間にも文のお腹からはくぅ、とかわいらしい音が聞こえてきている。
ちなみに、身体が縮んでしまいぶかぶかになってしまった服装については、早苗が小さいころにまだ外にあった神社でお勤めで着ていた祝の衣装がしまってあったため、今だけと言う事でそれを着る事で事なきを得ていた。
「それじゃあ、グルメテーブルかけを用意しますから好きなものを食べましょう」
「本当ですよ、こんなに待たせるだなんて……。それじゃあ、野菜のかき揚げ丼にしましょう」
「早っ! あまりかき込むとのどつめちゃいますよ?」
「これくらい大丈夫です、鴉天狗は幻想郷で一番速い種族なんですから、食べるのだってこれくらい速くないと務まりませんかr……ん、んぐっ……」
のび太に促される文の言葉に反応したグルメテーブルかけが、すぐに言葉通りのメニュー……つまりは野菜のかき揚げ丼を出現させた。
しかも文のお腹の空き具合も忖度して対応してくれたのか、その丼のサイズも気持ち大きいように感じられる。もちろんグルメテーブルかけにそんな便利な機能はない。
あくまでもこれは文が縮んでしまい、丼のサイズと文のサイズの比率が変わった事による錯覚にすぎないはずなのに、そう思わせるサイズのかき揚げ丼を文はいただきます、とも言わずにものすごい勢いでかき込み始めた。
少なくとも女の子がするような食べ方ではない。
その速さは霊夢の食べる速さといい勝負と言った所だろうか。
あまりの速さにのび太も気を付けるようにと声をかけるが文はそんな忠告などどこ吹く風、全く気にする事もなく丼の中身をかき込んでいく……が、やはり普段の姿の文ならばそんな事はないのかもしれないけれども、今はなにしろのび太と同じかそれ以上に小さな姿にまで縮んでいるのだ。
その姿で無茶な食べ方をすればどうなるのかは言うまでもない。案の定、文はご飯をのどに詰めてひっくり返ってしまった。
「大丈夫ですか? ほら、これを飲んでください」
「……なんだかこうして見てると、小さな文の面倒を見ているのび太って文のお兄さんみたいね」
「えーっ、そうかなぁ」
「そうですよぉ、何を言ってるんですかぁ。ほら、もっと言ってあげてください。このままだと私があなたの妹にされちゃうんですからね」
「………………」
「………………? あれ、もしもーし……?」
夕ご飯の支度に、文がのどにご飯を詰めれば水を出してと、文の面倒を見ているのび太のその姿を見ていた霊夢が楽しそうにそんなとんでもない言葉を口にした。
もちろんのび太は驚くしかないし、文からすればいくら縮んでしまっているとは言え自分の年齢の百分の一程度しか生きていない人間の子供が兄みたいだ、などと言われては面白いはずがない。
むぅ、と口をとがらせて霊夢めがけて抗議する文。そのままもっと二人で断固抗議しましょう、と昼間のび太に神社の修理を持ちかけた時のように、のび太に持ち掛けるがのび太からは一向に返事が返ってこない。
ようやく文も、のび太の様子におかしいと気が付いて声をかけてみるけれども……。
「ぐぅ……」
「あらら、眠っちゃってますよ」
「ああもう、こんな所で寝ちゃって! ほら、起きるわよのび太。起きなさい!」
「ぐぅ……ぐぅ……」
「ほら、起きて下さいよぉ。このままだと霊夢さんが本気で怒っちゃいますよぅ!」
「おーい霊夢、早苗たちに寝室や寝具を借してもらえるように頼んできたぜ……ってなんだ、のび太の奴もう寝ちゃったのか? っておい霊夢、のび太に何しようとしてるんだよ!」
「ああ、魔理沙ありがとう。のび太が寝ちゃって、呼んでも揺すっても起きないからちょっとお尻に数発針でも刺して起こそうかなって……」
「いくら何でもそりゃやり過ぎだろ。ひとまず掛布団と毛布を出してきたから、それをかけてあげれば風邪は引かないだろう。さすがにこのまま部屋まで連れて行くのは無理そうだからな、ここで寝かせるしかないだろう」
元々眠い目をこすり、あちらへふらりこちらへふらりと危なっかしい足取りでご飯を食べていなかった文のためにとここまで来たのび太だったけれどもとうとうその睡魔の力が限界を超えてしまったらしい。
文の世話をしていた格好そのままで、のび太はぐぅぐぅと寝息を立てながら眠ってしまっていたのだった。
こんな所で寝られてしまっては、運ぶのだって大変だからと霊夢が慌てて起こそうとするがそこは拳銃と共に眠りの達人でもあるのび太である。揺さぶろうが声をかけようが起きる気配はみじんにも感じられない。
ちょうどのび太が夢の世界へと旅立つのと入れ替わりに居間へと入って来た魔理沙が布団を持ってこなかったら、のび太のお尻にはかつて『のび太の創世日記』において新地球の弥生時代にヒメミコたち古代王朝の女王が『白神様』と呼び、異常気象の解決を願い生け贄を捧げていた双頭の白い大ムカデを撃退した際に地底に潜む昆虫人から撃ち込まれた極細の矢よろしく、毛糸を編むための編針のような長さの太い針がぶっすりと刺されていたに違いない。
その時撃ち込まれた際には撃ち込まれた瞬間に痛みで飛び上がるほどの痛みだったが、間違いなく霊夢の針が刺さっていたらそれ以上の痛みがのび太を襲っただろう。そうならなかったのはのび太にとっても幸いだった。
こうして自身の全くあずかり知らぬところで訪れたお尻最大の危機を無事に脱しながら、のび太は深い夢の世界へと落ちていくのだった……。
場面は変わり草木も眠る丑三つ時、妖怪の山の何処かで……。
「ね、ねえにとり。これ一体どういう事……?」
「分からない……、なんで未来の道具にこんなものがあるのか、私が聞きたいくらいだよ……」
河童たちがどこでもドアをわっしょいわっしょいと担ぎ上げてにとりの研究所へと運び込んで数時間後、徹夜でのび太から借りたどこでもドアを研究、調査していたにとりたち河童は分解を始めたどこでもドアの中を見て、首を傾げていた。
既に分解は開始され、取り外された部品、中の構造や配線の流れなどは全て逐一調査、記録され外された部品は部品でまた別の河童が細かく分析、調査する。
そんな中で調査はいよいよ佳境に入ろうとしていたのだ。すなわち、どこでもドアの心臓部、いうなればドアが持つ空間移動の肝となる制御装置の解析だ。
皆が興奮を抑えきれない中、にとりが周囲に「いい、あけるよ?」と確認しながら肝心の部分を開いていく。そこにあったのは、複雑な構造をした基盤に配線。だが、それだけならまだよかった。
しかし、そこにあったのはそれだけではない。
どこでもドアの内部、その装置の中に配された基盤に刻まれた文字。
分解している河童の一人が何気なく気が付いたそれは、妖怪の山で河童たちが自分の作品となる機械や装置を作った時に、誰が作ったモノなのかを用意に判別できるように河童たちがそれぞれ各々の名前を印章化して刻印するように決めた古くからの決まりに則ったもの……のはずのもの。
それが果たして一体どういう訳なのか、この場にいる河童一同が初めて見て、初めて分解するはずの未来の道具に刻まれていたのだからその場の河童全員が驚き、そして首を傾げてしまったのだ。
もちろん外の世界で誰かが考案した意匠と偶然に似ていた、と言う可能性も否定はできない。それでもあくまで偶然、と言い切るにはそこに刻まれていた名前はあまりにも出来過ぎていたのだ。
「これ、どうしようか……?」
「分からない、でもこれは未来の道具ってあの人間の子は言っていたから、多分あの子に事情を聞いても仕方がないだろうし……ひとまず、今回は残念だけどこの問題については完全に保留して、それ以外の所の分析を続けよう。あの子には明日中に返すって約束してるからね。何とかして終わらせるよ!」
「「「「おーっ!!」」」」
にとりの、今回は保留にしてひとまず調査だけ終わらせようと言う言葉に異を唱える河童たちは誰もおらず、みんなで一致団結して期限までに終わらせようと言う元気な声が河童たちの研究所に響き渡る。
こうして、どこでもドアを分解する事で図らずも世に現れた22世紀のひみつ道具と、幻想郷の河童との不思議なつながりは河童たちだけの秘密として、妖怪の山の長である天魔や祭神である守矢神社の面々はおろか、のび太にさえ知られる事無く伏せられる事になるのだった……。
どこでもドアの中に隠されていた(訳では無いですけれども)制御装置と言う重要部分に刻印されていた河城にとりの名前。果たしてこれは一体何を意味するのでしょうか!?
この謎が解き明かされる日ははたして来るのか!!!
続きはまた次回!