ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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大変更新が遅くなり申し訳ありません。
諸々リアルがありましたが、どうにか合間をぬって書き足していた不思議(すぎる)風祝編、いよいよおしまいです。



迷子還る

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「……う、うーん……ふぁぁ…………っ!? しまった寝坊した! 学校に遅刻しちゃう! ドラえもーん!! って、そっか、もう夏休みなんだっけ」

 

 窓の隙間からしゃんと差し込んでくる朝日と、かすかに聞こえる小鳥のさえずり。

 外の世界でも、日々なかなか起きられないのび太が目覚まし時計を器用に止めた後で最後に目覚まし代わりにするのが大体この二つなのだけれども、そう言った生活習慣はここ幻想郷でもそうそう変わるものではない。

 結果としてのび太はがば! と布団を跳ね上げながら起き上がり遅刻だ遅刻だと大騒ぎをして、親友の名前を叫びながらようやく自分のいる場所が普段見慣れた自分の部屋でない事を、もう夏休みで学校なんて関係がない事を思い出したのだった。

 落ち着いて周りを見てみれば、今のび太が寝ていたのは昨日の夜宴会に参加できなかった文がいた東風谷家の母屋、その居間だった。

 おまけに誰かが布団をかけてくれたのか、昨日ここに来た時にはなかったはずの布団と、そこにいたであろう小さい文がまとめて撥ね飛ばされている。

 よほど眠いのだろう、のび太に勢いよく布団ごと撥ね飛ばされたはずなのに、その布団で一緒に寝ていたであろう文はまだすうすうと寝息を立てていた。

 

「えっと確か、ゆうべ文さんの夕ご飯を用意しにグルメテーブルかけを持ってここまで来て……あれ、その後どうしたんだっけ?」

「……文の夕ご飯を用意している最中にのび太寝ちゃったじゃない。覚えてないの?」

「あ、霊夢さんおはようございます……って、あ、あれ? どうしたんですかその顔。傷だらけじゃないですか」

 

 何があったのかを思い出そうと首を傾げているその後ろから声がかかり、声のした方へ振り向くといつもの紅白の巫女服ではなく寝巻き姿のままの霊夢が立っている。

 ただしその顔は一体どうした訳なのか、前日境内で宴会をしていた時とはうって変わってひどくボロボロになっている。

 そう、それは以前『ドラえもんだらけ』で宿題をドラえもんに押し付けた時に手が足りなくなったドラえもんが二時間後、四時間後、六時間後、八時間後の自分をタイムマシンで連れてきて手伝わせた際に「ほんのお返しだい」と未来の自分たちに殴られ傷だらけになってしまった時の姿にそっくりだった。

 ちなみに余談ではあるけれども、実は最初にタイムマシンで二時間後の自分を連れてきた時にドラえもんが発した第一声も「どうして傷だらけなの」であったりする。

 この辺りはのび太もドラえもんも、同じような思考をしているらしい。

 

「……当てて見なさい」

「ええ? 当ててみろって言われても……うーん……」

 

 一体何があったのかと尋ねるのび太の言葉に露骨に反応して不満げな表情をする霊夢からの何があったのかを当ててみろと言う質問にあれやこれやと考えてみるのび太だけれども、答えはちっとも出てこない。

 そもそものび太が眠ってしまっている間に何があったのかを理解しろと言う方が無理な話だろう。

 ちなみにこの霊夢の負傷の原因とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「いや~、こんなにお賽銭が入って来るなんて何時ぶりかしら? のび太って本当に最高の福の神ね。神社に一生住んでもらいたいくらいよ」

「確かにな。博麗神社の賽銭箱がお賽銭でいっぱいになるところなんて生まれてこの方見た事ないんだぜ。明日は槍でも降るんじゃないか?」

「あー、もう槍でもグングニルでも、レーヴァテインでも何でもかかって来なさいっての。今の私は何が来たって怖くないわよ」

 

 のび太が文の夕食の支度をしている最中に寝てしまってから、霊夢と魔理沙は守矢神社の母屋、その居間で祝勝会と言う名目で二人お酒を飲んでいた。もちろんお酒の出どころはのび太が持っていたグルメテーブルかけである。

 今までの経緯から使い方を覚えている霊夢と魔理沙は、のび太に無断でお酒を取り出しのび太の横で酒盛りを開いていたのである。

 ちなみに、縮んでしまった文も体が縮んだ事で中身も子供に戻ってしまったのか、のび太の用意してくれた食事を食べたら眠くなってしまったらしく舟をこぎだした事もあり『新しい布団を持ってくるのが面倒だ』と言う霊夢と魔理沙二人の見解の一致もあり、のび太と一緒の布団に放り込んで寝かせていたりする。

 こうなればもう二人を止めるブレーキ役になる人物は誰もいない。

 家主である守矢神社の面々は境内でまだ呑んでいるらしく、神奈子も諏訪子も早苗さえ戻ってくる気配がなく、ひみつ道具については唯一であろうその効果を知り、本当なら二人を止める役目になるだろうのび太も今はぐっすりと夢の中。

 

「お賽銭もたっぷり! お酒も飲み放題! いやー、最高ね」

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなに最高ならぜひ私も混ぜてもらおうかしら?」

 

 

 

 

 

 

 起きているのが霊夢と魔理沙しかいないはずの居間に、妖艶な声がその場に割り込むように響き渡る。

 もちろんのび太や文の寝言でもないし、守矢神社の神様や早苗たちが戻ってきてイタズラをしたのでもない。

 その証拠に、二人の目の前で空間がぱっくりと口をあけてその中から金髪の女性が出てきたのだから。

 が、霊夢も魔理沙もその程度の事では別に驚きはしない。

 こんな登場の仕方をする相手の心当たりは、一人しかいないからだ。

 

「あら、紫じゃない。どうしたのよ?」

「博麗神社じゃなくて守矢神社に顔を出すなんて珍しいな」

 

 事実霊夢も魔理沙も、この妖怪の賢者の登場にもまるで世間話でもするように話しかけていて、怪しんだり怯えたりする様子はみじんも見られない。まあ、だからこそ紫も初めてのび太と出会った時のように、妖怪と言う存在が消え失せてしまった外の世界の住民を脅かしてはその新鮮な反応を楽しむと言うような事をする結果になってしまっているのだろう。

 兎にも角にも、二人の反応を見てもわかるようにこの時、霊夢も魔理沙もどうして紫がここにひょっこりと顔を出したのかを理解はしていなかった。せいぜいが、またいつものように気まぐれでやって来た程度の認識だったのだ。

 が、その甘い認識はすぐにこっぱみじんに砕かれる事になった。

 

「霊夢、ずいぶんとお金を稼いだみたいね。それものび太をダシに使うだなんて」

「へっ!? え、いや、それはその……博麗神社でのび太を預かる上で必要な生活費を稼ぐためよっ。ほ、ほら! いくら預かるとは言ったって、ただで泊める訳にはいかないじゃない! ね、ねっ!?」

「あら、それにしても見たところ食事は全部のび太の道具持ちで霊夢、貴女のやる事ってあったかしら?」

「う……ぐぬぬ…………」

 

 紫は無慈悲にも霊夢の弁解、もとい言い訳を尽く潰していく。おまけにそれを表向きは実に爽やかな笑顔でやるのだから、怖さも倍増である。

 一方、そんな笑顔の紫とは真逆に霊夢は苦虫を噛み潰してじっくりと味わったような酷い顔になっていた。

 霊夢の表情もゆかりの表情も、今は夢の世界に旅立っているのび太が目にしたら泣き出すか気絶するかもしれない、それほどに恐ろしい表情をしていた。

 

「霊夢、これでそろそろ言い訳は出尽くしたかしら? それなら覚悟はいいわね?」

「いい訳ないでしょうが!! こうなったら腕ずくでも自分の稼ぎは守らないといけないみたいね」

「お、おい霊夢。のび太も文も寝てるんだから、あまり大暴れするなよ?」

 

 もちろんそんな一触即発の状況を歓迎など出来るはずもなく、魔理沙はのび太や文が寝ているのだから大暴れするなと釘をさす。

 そこにはそれ以外にも、軒を借りている状況で大暴れされたら間違いなく守矢神社の三人から飛んできた苦情で自分もとばっちりを受ける事が目に見えていたからだろう。

 が、残念な事にそんな魔理沙の忠告で止まるほど、お金に対する執着は半端ではない。

 その証拠に、何処からともなくお払い棒まで取り出し紫に突きつけて完全に稼いだ金はびた一文紫に引き渡す気はない、と言い切って見せた。

 

「ふん、私の稼いだお金よ! 欲しければ……っ、ひゃぁああああああっ!」

 

 そのまま威勢よく、口上を述べている途中で、そのまま霊夢が即席落とし穴にはまったようにすぽん、と綺麗さっぱりいなくなる。が、あいにくと即席落とし穴はスペアポケットの中で使うには誰かが取り出さなくてはいけない。つまりは霊夢が消失した原因はそれによるものではない訳だ。

 この突然人が消失すると言う怪奇現象を一人目撃してしまった魔理沙だけは、この原因がわかっているようでいずこかへと消えてしまった友人の冥福を祈るべく「ナンマイダブナンマイダブ……」と手を合わせるのだった。

 

「すまん霊夢、強く生きてくれ……」

「……ちょっと魔理沙、かってに私を殺すんじゃないわよ!」

「げえっ、霊夢!?」

 

 ……と、魔理沙が祈りをささげた次の瞬間何もないはずの空間。まさに魔理沙が手を合わせて霊夢の冥福(? を祈るその目の前の空間を引き裂くように、つい一瞬前まで元気で紫に啖呵を切っていた霊夢がボロボロになって這い出してきた。 

 紫のスキマに引きずり込まれ、天魔に叱られた文よろしくボコボコにされたのだろう霊夢の形相は今が夜中と言う事もあり、もしのび太が目を覚ましたら恐怖のあまりに泣き出すか気絶するか、最悪おもらしすらしかねないほどに酷いものだった。

 そんな友人の見せた……むしろ女の子が見せてはいけないような形相には、魔理沙の反応も思わずげえっ、などと失礼極まりない反応しかできないまま、ホラー映画よろしく霊夢の手が魔理沙の首根っこをむんずと掴む。

 

「……ふっふっふ、ねえ魔理沙。私達友達よね? 友達なら幸せも苦難も、分かち合うべきよね?」

「い、いや……それなら私は友達を遠慮したいんだぜ……」

「問答無用っッ!!」

「う、うわぁぁぁぁぁ」

「二人とも、騒ぐのはいいけれどものび太たちが起きちゃうから静かに喧嘩しなさい?」

 

 空間の隙間から上半身だけを器用に出して、霊夢と魔理沙の取っ組み合いを呆れたように見ている紫。

 ちなみにそのきっかけを作ったのは外ならない紫なのだけれどもそれを指摘する人物は残念ながらこの場にはいなかった……。

 

 


 

 

 ……と、こんな事が夜中にあったのだった。

 もちろん再三ではあるが、霊夢に何があったのかを当ててみろと言われた所で眠りの達人のび太が眠ってしまった後で起こったこの出来事について分かれと言う方が無理なのは言うまでもない。

 

「ふぁ……、全く霊夢のやつ、ひどい目にあったぜ……。お、のび太じゃないか」

「!? ま、魔理沙さんまで。一体ゆうべ何があったんですか?」

 

 おまけにボロボロの霊夢に続き、今度はボロボロの魔理沙まで現れる始末。

 今までいろいろな世界に冒険に出かけていても『寝ている間に仲間がボロボロになっていて朝起きたら酷い顔をしていました』などと言う経験がなかったのび太からすれば、朝起きたらいきなりボロボロになっている二人が登場すると言うのは驚き以外の何物でもなかった。

 

「もぅ……皆さん朝から何を騒いでるんですか? ……おやおや、朝から外来人の子供を巡り霊夢さんと魔理沙さんの喧嘩が勃発ですか」

 

 さらに間の悪いことに身体は子供、頭脳はそのままなタイムふろしきで子供サイズにちぢんだ文まで『これは良いネタになりそうです』と騒がしさに目を醒ますやいなや絡みだす始末。

 こうなると身体が小さくなっても本当に反省しているのか、怪しいものである。

 そしてこのわいわいとにぎやかな霊夢や魔理沙たちの騒ぎは、声を聞きつけて起きてきた家主たち……つまり神奈子に諏訪子、そして早苗がやって来るまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……、朝からどうしてお前たちはそう騒ぐ事しかできないんだ?」

「本当に神奈子様の言う通りですよ、そもそもお布団と寝る場所を貸したのはのび太さんとちぢんでしまって元に戻るまでの間文さんを、と言うつもりだったのにどうして他の二人までいるんですか!?」

「まあまあ、子供は元気が一番だよ。それに外から来たのび太がいるんだから、巫女も白黒も普段みたいに弾幕で大暴れ、って訳にはいかない事くらい承知してるだろうさ」

「そんな事よりも早く朝ごはんにしましょうよ」

「霊夢の言う通りだぜ、一日の始まりは朝食からなんだぜ」

「……はぁ、まったく本当に麓の巫女は……。まあ、愚痴ばかりこぼしていても仕方がない。のび太、すまないが例の布切れを用意してもらってもいいだろうか?」

「はい、それじゃあ……『グルメテーブルかけ!!!』」

 

 東風谷家の居間に集まった神奈子、諏訪子、早苗に霊夢、魔理沙、のび太に文。全員が輪のように座り、揃ったところで家長役を務める神奈子が朝霊夢たちが起こした騒ぎに苦言を呈し、実際に東風谷家の家事や雑務を取り仕切っている早苗がそれに同調する。

 霊夢や魔理沙の二人がミンミンと鳴くひなゼミのように騒がなければまだそのお説教は長々と続いたに違いない。

 ため息と共に諦めたような表情の神奈子に頼まれたのび太が、ここ幻想郷に来てからもっとも使われているひみつ道具であるグルメテーブルかけをスペアポケットから取り出して床に敷いた。

 やはり博麗神社に引き続き守矢神社でも、ノーコストかつ一瞬で好きな料理をいくらでも取り出せてしまうと言うグルメテーブルかけの便利さは完全に認知されたようだ。

 こうして皆でワイワイと好きなものを注文し、博麗神社でも守矢神社でもなかなか見られない大人数での朝食を食べた後……。

 

「戻る前に、ちゃんと私を戻してくださいよぅ!」

「ちょっと待ちなさいよ文、アンタ今の恰好で戻ったら服が大変な事になるんじゃないかしら?」

「………………わ、私はもう少しこのまま子供の頃の時間を堪能しようと思います」

「あー、鴉天狗よ。その事なんだが朝食の前に天魔からの遣いが来てな『アンタの事だから、放っておくといつまでも小さくなったまま子供の頃を堪能しようとするに違いないから、さっさと人間の子の道具で元の大きさになって戻ってこい』だそうだ」

「そ、そんなぁ! 神様、お、お慈悲を~!」

 

 博麗神社に帰るのかと思いきや、その前にのび太は事故とは言えタイムふろしきで若がえり幼い子供の姿に戻ってしまった鴉天狗の文を戻す作業をするところだった。

 最初は霊夢の、子供の姿から成長した姿に時間を戻したら間違いなく服のサイズが合わなくなるわよと言う霊夢の指摘もあり、このまま幼い頃の姿をもう少し楽しんでいようと思い、しばらくはこのままでとのび太にも話していたのだったが、そんな文の思惑を既に見通していたのか母親である天魔からさっさと元の姿に戻って仕事に戻れ、と言う無慈悲な通告を受けてしまったのだ。

 この通達には、いくら文が幻想郷でも弱くない実力者であると言っても上意下達を旨とする妖怪の山にいる以上、天魔からの通達を無視できるほど図太い神経をしている訳ではない。

 それに文は、母親である天魔からさっさと元のサイズになって戻って来いと言われたためか、泣きそうになっていたが、実際に表向きはのび太との勝負で負った手傷を癒していると言う触れ込みである以上、いつまでも表に出てこない訳にはいかないと怪しまれると言う事もあるだろうから、仕方がないだろう。

 と言ってもさすがにのび太が元に戻すわけにはいかず、文の時間を進める作業は守矢神社や博麗神社、つまりはのび太以外の女性陣に任せる事になったのは言うまでもない。

 そして……。

 

「文、これでいいわね?」

「ううぅ……もう少し子供でいたかったのに……」

「諦めるんだぜ、それにもし戻りたかったらまたのび太に頼んでふろしきで時間を巻き戻してもらえばいいじゃないか」

「はっ、そうですね。そうしましょう! また巻き戻しをお願いしますよ」

「……ねえ神奈子。ちっとも懲りてないんじゃないの、あれ?」

「まあ、いいじゃないか」

「これで神社も直したし、文さんも元に戻ったし、これで終わりですね」

「ちょっとのび太、何勝手に終わらせてるのよ! 約束したんだから守矢神社と文を戻すだけじゃなくて、ウチの神社もちゃんと新品に戻しなさいよね?」

「大丈夫ですって、ちゃんと戻ったら時間を巻き戻しますから」

 

 無事に文も戻った事でやるべきことは終わった、と帰ろうとするのび太だったが、そこに霊夢が待ったをかける。もちろんその理由は、戻ったら守矢神社同様に博麗神社も新品同様に直すよう約束を守るべし、と言う催促である。

 一方的にとは言えライバル視している神社だけが新品同様にきれいになる、と言う事が霊夢には我慢ならないらしく幼子が駄々をこねるように早く帰るわよとのび太にせっついている。

 兎にも角にも、こうしてのび太が幻想郷に来て博麗神社に続く妖怪の山への冒険は終わりを迎えようとしていた。

 

「それじゃあ、急いで帰るわよのび太」

「はい、神奈子さまも諏訪子さまも、早苗さんに文さんも。いろいろありがとうございました」

「なに、宿題について分からない事があったらまた来るといい。のび太ならいつだってウチは歓迎するよ」

「そうですね、あんなに食費も準備もいらないご飯はこっちに来てからはほとんどなかったですからね」

「あーうー、ねえねえのび太。博麗神社じゃなくてさ、ウチの神社で寝泊まりすればいいんじゃない? それならいつでも宿題はできるんじゃないの?」

「おいおい、そんな事絶対に霊夢が赦さないだろ……」

「当たり前でしょ! のび太は紫にも言われて博麗神社で直々に預かってる子なのよ? それに妖怪の山なんて危険地帯にある守矢神社で預かる事になったら、何があるかわからないじゃないの」

「今の霊夢に預けた方がどうなるか分からない気がしなくもないんだぜ……」

「魔理沙、何か言った?」

「い、いや。何でもないんだぜ」

 

 幻想郷にいる間、博麗神社ではなく守矢神社で暮らせば、のび太が幻想郷にやって来た本来の目的である宿題だってすぐにできる……と諏訪子が出してきた提案に両手をぶんぶんと振り回しながら反対意見を唱える霊夢。

 一応その理由としては、妖怪の住まう妖怪の山に位置する守矢神社にのび太を預けたら、どんな危険が待っているか分からないと言うものだったけれども、その本音はのび太がいないとグルメテーブルかけを自在に使えないから、と言う事は想像に難くない。

 そもそも妖怪の山の妖怪を相手にしたところで、すでにのび太は妖怪の山でも上位の実力を持つ天狗と言う種族をすでに二人相手にし、一人には勝利。半ば引き分けではあるにせよもう一人にも互角の立ち回りを演じている。

 そののび太を危機に陥れる妖怪ともなれば、かなりの実力がなければ難しいであろう事を霊夢は完全に失念していたらしい。

 

「で、でもほら! ゆうべ直したどこでもドアがあればほんの数秒で来れますから」

「でも、それって確かゆうべ河童たちに預けてそれっきりじゃなかったか?」

「う……」

 

 そんな霊夢をなだめようと、のび太が昨夜の大宴会の最中にタイムふろしきで修理したどこでもドアの名前を口にするが魔理沙の言う通り、それは同じタイミングでにとりたちに河童の手によって調査用に持ち去られている。

 一応、河童たちのリーダー的な立場であるらしい音頭をとっていたにとり曰く『明日には返す』と言っていたが、それだって『何時に』とは明言していなかったのだ。

 このままでは、のび太を渡してなるものかとだだをこねる霊夢が暴れだしかねない……そんな空気を打ち払うかかのごとく、救いの手は空間を越えて現れた。

 神奈子に諏訪子、早苗や霊夢、魔理沙にのび太がわいのわいのと騒いでいるその輪の外で、空間を揺らめかせるようにピンク色と言う独特の色合いをしたただのドアがぬぅ、と出現する。

 もちろんそんないきなりどこからともなく現れるドアがただのドアな訳がない。こんなことができるドアも、それを使う事の出来る心当たりものび太は一人しか思い浮かばなかった。

 

「ふぅ、どうやらちゃんと修理も成功したみたいだね。遅くなってごめんね、ゆうべ貸してもらったこのどんなとこでもドア、しっかり調べさせてもらったし、今日までって約束だからね。返しに来たよ」

「あ、ありがとうございます。ちょうどこれから神社まで帰ろうと思っていたから助かりました。でもどんなとこでもドアじゃなくて、どこでもドアですよ?」

「細かい事を気にしちゃダメだよ盟友、どんなとこでも、もどこでも、もこのドアの前じゃ大して変わらないよ」

 

 守矢神社の境内に現れたどこでもドアがガチャリと開き、向こう側から顔をのぞかせたのは前日にドアを調べたいと借りていったにとりだった。どうやら一度分解したどこでもドアを再度組み立てなおした後で、きちんと作動するかのテストを兼ねて、守矢神社へとやって来たらしい。

 普段はそれを使う側でしかないため、なかなかこうしてどこかから誰かがやって来ようとする場面には出くわすことのないのび太にとってもそれは新鮮な光景だった。

 

「よし、ドアも返って来たしさあのび太、私たちの神社に帰るわよ!」

「え? あ、ちょ、ちょっと霊夢さーん! ちょっと待って、神奈子様に諏訪子様、それに早苗さんも。もしよかったら……えっとはい! これを使ってみて下さい、これは……『〇〇〇〇〇〇』って言って……………………きっとこれがあれば外の世界みたいに神様の事を誰も信じなくなって、消えちゃうなんて事はなくなりますよ」

「ほぅ、ありがとう。外から参拝に来て、おまけに奉納品までくれるだなんてなかなか見どころがある子じゃないか。やっぱりウチにずっといなさい。そうしなさい」

「あ……それはさすがに霊夢さんがおっかないから、また来ます」

「ほら! のび太、さっさと帰って神社を立派にしてもらうわよ!」

「そうかい、残念だねぇ。まあ、それならこれを持っていきなさい。守矢神社特製のお守りだよ。何かあった時にきっと君を守ってくれるから」

「あ、ありがとうございます」

「……あー、その、なんだ。いろいろと騒がしくしてすまなかったな。また来るんだぜ」

「……なんだか、嵐みたいでしたね」

「まあ、実際に嵐も起こしちゃったしねあの子」

 

 博麗神社を直したいと言う思惑があってか、いの一番にドアへ飛び込む霊夢にどこでもドアをくぐる途中で、何かを思い出したように神奈子たちのもとへと駆け寄り、スペアポケットから一つだけひみつ道具を取り出して渡すのび太。

 それを神奈子に手渡し、代わりに神奈子様からお守り……早苗が髪飾りのように頭につけているカエルのお守りと同じものを受け取ると、それをポケットにしまいくるりときびすを返しそのままどこでもドアの向こうに消えていった。

 そして最後には、霊夢の騒がしさに申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べ、ドアをくぐる魔理沙。

 三人がどこでもドアをくぐり、ドアがしまるとたちまち煙のように消えてしまう。後の残ったのは守矢神社の三人だけが、唐突にやって来て大騒ぎをして博麗神社に帰っていったとんでもない外来人の子供、のび太の事について口にする。

 こうして守矢神社の三人はまた日常へと戻っていくのだったけれども、のび太が渡したひみつ道具がこの後の幻想郷に大きな影響を及ぼす事になるとは、この時誰も気がついてはいなかったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこでもドアで博麗神社へと戻ってきた霊夢、魔理沙、そしてのび太の三人は帰って来て早々、縁側で三人並んで腰かけながらゆったりとした時間を満喫していた。

 確かに守矢神社でも好き放題やっていたように見えなくもないが、やはり落ち着けると言う意味では霊夢からすれば自宅が一番と言う事なのだろう。

 

「あー、一日留守にしただけだったけれども、やっぱり自分の家はいいわね」

「確かにそうですよね、僕もいろいろな場所に冒険に行った後で自分の部屋に帰ってきて昼寝をすると、いつもよりも気持ちよく眠れるし」

「まあ、そうだな。私もやっぱり異変解決後に自分の家に帰ってくると、我が家はいいもんだって思うからな」

「えっ! 魔理沙さんって家あったんですか?」

「こらのび太! 私は宿無しじゃないぞ!」

「こら魔理沙も、あまりのび太をいじめるんじゃないわよ。それからのび太、アンタに一つ言う事があるわ」

「…………え?」

 

 魔理沙から彼女にも自宅があると言う驚愕の発言が飛び出し、それに驚いたのび太を魔理沙がホウキを振り回しながら追いかけようとするところで、霊夢がそんな二人のやり取りを制止して真剣な面持ちでのび太を見据えた。

 あまりにも真剣なその表情は、のび太をこれから退治すると言われたら信じてしまうほどだ。

 が、次に霊夢から出てきた言葉は……そんな真剣な表情からはうって変わって優しい言葉で……。

 

「おかえりなさい、のび太。色々あったけど、無事で良かったわ」

「はいっ、霊夢さん……ただいま!」

 




ひとまず不思議(すぎる)風祝編「は」これでおしまいです。
ちなみにこの珍妙なタイトルの由来は藤子先生の短編『旅人還る』からですね。


とは言え、これで守矢神社の面々が退場と言う訳ではありませんので、間違いなくいろいろと今後も絡んできます。
何しろ妖怪の山と言う幻想郷のパワーバランスの一角にその存在感をはっきりと示しましたからね、そして名前は明かしていませんがのび太が博麗神社に帰る直前に、神奈子様たちに渡したひみつ道具。あれも今後の幻想郷に大きな影響を与える事になります、と言う予定です(汗

さて、ひとまずはちょこちょこと日常生活を送るのび太たちの様子を描こうかなと思います。






(追伸
実はこの数日間を書くのに、一年が経過していたと言う事実に今私は大変戦慄しております(滝汗



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