ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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お久しぶりです。
遅くなりましたがようやくの投稿です。最近なんだか月1ペースになってるな……どうにかしないと(汗

人里にやって来たのび太たちが目指すのは寺子屋、のび太の運命は?


寺子屋は何屋さん?

 寺子屋を目指して人里の通りを歩く霊夢、魔理沙、そしてのび太の三人。その間にものび太はあっちこっちへと視線を送り、なかなか外の世界ではお目にかかれない人里の風景を楽しんでいた。

 もちろんのび太は気が付いていない。のび太の目線からすれば珍しいのは幻想郷だけれども、幻想郷の人里で暮らす市井の人々からすれば、見慣れない格好で周囲を物珍しげに見ている博麗の巫女に連れられた子供の方がよっぽど珍しい存在であると言う事を。

 そんな人々の視線に気が付かないのは三人の内のび太だけである。

 残りの霊夢と魔理沙は当然市井の人々からの好奇の視線に気が付いていたけれども、かと言ってのび太にそんなにキョロキョロするなと怒るのも難しい。宿題をするために、神社よりもいいだろうと言う事でやって来たとは言えのび太にとっては初めての人里、何もかもが目新しいのだ。

 それをそんなにキョロキョロして私たちが恥ずかしいから止めろと言ったところで果たしてのび太は止めるだろうか? その答えが否であろう事は霊夢と魔理沙の二人にも容易に想像がつく。

 なぜならもし逆に、霊夢や魔理沙が外の世界に迷い混み、のび太や外の世界で出会った人物に連れられて同じように外の世界の街に出かけたなら自分たちも同じような事になる事が分かっていたからだ。

 こうしてのび太たち一行は寺子屋までの間、人里観光ツアーとして歩き回る事になったのだけれどもそこは幻想郷。外の世界とはまた大分趣が違っている。

 通りに並ぶお店もスーパーのように何でも売っている大きなお店、というものはなくせいぜいがジャイアンの家のような雑貨屋である。

 それ以外にもドラえもんが見たらよだれをたらしながら突撃しそうなどら焼きが並んでいるお菓子屋、外の世界とはまるっきり違う服を売っている服屋、これは外の世界でもあまり変わらない八百屋に魚屋、あるいは本屋に今では珍しい米穀店。ついでに小料理屋に花屋まで、やはりそれなりに暮らしている人も多いためかそれぞれ専門に品物を扱うお店が軒を連ねているらしい。

 現代に暮らしているのび太の視点からすると、こんなに色々と扱うものによって別々のお店がなくてもスーパーやコンビニがあればまとめて買えて便利なのに、と思うものの、そんなものができたのはつい最近の事。

 のび太のパパが子供の頃には、店舗の雰囲気などこそ昔の雰囲気が残っており、外の世界とは若干雰囲気が違うけれどもこれが当たり前だった事を、残念ながらのび太は知らなかった。

 

「すごい、こんなお店もあるんですね……。でもスーパーやコンビニはどこにも見当たらないや。やっぱり無いのかな……?」

「……ほら、のび太。訳の分からない事を言っていつまでもキョロキョロしていないで。着いたわ、あれが寺子屋よ」

「あれが寺子屋ですか? なんだかあんまり他のお店と違って何かを売っているお店っぽくないような……」

「まあ、中に入ってみればのび太だって分かるだろ? さあ行こうぜ」

 

 そうして観光ツアーと化していた移動を続けてしばらく、人里の通りを霊夢と魔理沙の先導で歩いていくその先で『あそこよ』と霊夢が指さした先にそのお店(?) は建っていた。が、その建物はどう見ても人里でここまで歩いて来る途中で見た通り沿いに建っているお店とは趣が違う事に気がついいたようで、のび太はその建物を見てなんだか様子がおかしいぞと首をかしげている。

 なにしろまずお店ならどこも出しているであろう看板がない、おまけに暖簾も何も出ていない。そもそも売り物を売ろうと言う意志が感じられないその佇まいの怪しさにのび太は首を傾げながら中に入るのをためらっていたけれども、案内役の霊夢と魔理沙が中に入ってしまえば自分だけ外で待っていますと言う訳にもいかない。

 結局のび太も寺子屋の入口をくぐる事になったのだった……。

 

 

 

 ちなみに、読んでくださっている諸兄諸氏がご存じのように寺子屋は何かを販売したりする『お店』ではない。

 のび太は盛大に勘違いしているが、寺子屋は外の世界でいうのならば学校に近い施設である。子供が読み書きそろばんと言った生活に必要な事を学ぶ場所、それが寺子屋なのだが残念な事にのび太はその点についての知識の持ち合わせはまったくと言っていいほど無かった。

 だからこそ、霊夢と魔理沙から寺子屋の説明を聞いた時にもどこかで聞いた事があるな、程度の認識しかなかったのだけれども。

 

 

 

 それでも、そんなのび太でも寺子屋の中に入りようやくこの場所が「寺子屋」と名前が付きながらも物を売るお店にしてはどうやら様子がおかしいぞ、と何かに気が付いた。

 寺子屋の入口をくぐったのび太の目に入って来たのはまず、真っすぐな廊下。木製の、昔々それこそのび太のパパがまだ子供で、のび太のおじいちゃんが元気だったころの学校のイメージそのものなのである。

 もしかしたらインドによく出かけるのび郎おじさんがゾウのハナ夫の事を説明する時に話してくれた、戦争で疎開していた昔話の頃(※『ゾウとおじさん』より)にも田舎ではこんな学校にいたのかもしれない。

 その廊下が寺子屋の中をずっと奥まで伸びていて、大きな部屋が一つ。いうなればのび太の通う学校の教室よりも大きい教室が一つと廊下と言う間取りを見てしまえばいくらのんびり屋ののび太でもさすがに寺子屋の正体に気がつくと言うもの。

 

「あの……霊夢さん、この寺子屋ってひょっとして、幻想郷の学校なんですか?」

「学校って言うのが何なのかはよく分からないけれども、先生が子供たちに読み書き歴史を教えている場所よ」

「やっぱり! どうりで。いつも立たされてる廊下と似てると思った……」

「なんだのび太、外の世界では廊下に立たされる勉強でもあるのか?」

「ち、違いますよぉ」

 

 何も知らない魔理沙がのび太の言葉に興味深そうに聞いてくるけれども、まさかのび太も自分が授業中に居眠りや遅刻に忘れ物をたびたびして、先生に怒られた結果廊下に立たされているなどとは恥ずかしくて説明できなかった。そのためそのまま違うとだけ答えてどうにかその場をごまかそうとする。

 そう、学校の廊下とはある意味のび太が学校にいる時に机よりも多く過ごす事があるポジションである。

 先生の発する「ばかもーん!! 廊下に立っとれ!」の呪文はもはや日常茶飯事と化している。それは当然、その分のび太の遅刻に忘れ物にテストの成績に授業中から平気で居眠り、とそれを言わせるだけの事をやらかしているのだけれども。

 兎にも角にも、それだけ常日頃から立たされている場所なのだから、間違えようはずもない。のび太はここ廊下に来てようやく寺子屋が学校と同一の存在であるとはっきり心で理解したのだ。

 そんなのび太の内心に潜む『怖れ』に反応したのか、その場をごまかそうとするのび太の必死の気持ちが天に通じたのか、教室の中から異様な音が響いてきた。

 

 

 

 

 

 

…………ズ……ゴゥゥゥゥゥン

 

 

 

 

 

 

「ひ……っ!? な、なに今の音……?」

「あー、今日も慧音は平常運転だな」

「へ? けーね……?」

「みたいね。いいのび太、面倒なことになるから良い子にしてなさいよ。 わかったわね?」

「え、いい子にしていないと肉食恐竜でも出てくるんですか?」

「「出るかっ! そんなものっ!!!」」

 

 

 鈍く、それでいて腹にズシリと響く音はこれまでに何回も過去で耳にした大きな恐竜がたてる足音のよう。

 かつて『のび太の恐竜』で、ピー助を北米大陸(一億年前)から日本列島成立予定地へと北回りのルートで連れてゆこうとした時にキャンプ地とした火口湖で出会ったブロントサウルス(※後期の版ではアパトサウルスに修正)が歩くたびに一歩一歩立てていた足音がまさにこんな感じだった。

 それなのに山のように大きな恐竜が立てる足音のような耳にしても、霊夢や魔理沙はさほど気にする様子は見られない。

 むしろいい子にしていないと何が起こるのか、霊夢の言葉が非常に気になるところである。いや、妖怪が守矢神社に向かう途中にあれだけ出会ったのだから、恐竜の一頭や二頭くらいいても不思議ではない。

 前に聞いた時には紫と霊夢にいるか、と言われたけれども念には念を入れて、とそう思って質問したのだけれども、二人から返って来たのは鋭いツッコミだった。

 どうやら幻想郷には妖怪はいるのに残念ながら恐竜は一頭たりともいてはくれないらしい。

 地面の下には恐竜が今日も暮らしていると言うのに、じつに世の中とは不公平ではないか。

 そんな事をのび太が考えていると、突然教室の扉がガラリと開けられて中から女の人が出てきた。

 ただし、ただの女の人ではない。色の薄い長い髪に青い服装はまだへんてこではないのだけれども、その頭のてっぺんにはへんてこな形の帽子を乗っけている。

 少なくとも今までいろいろな世界を冒険してきたのび太にも、まだ見た事がない形の帽子だった。

 もしかするとこの人がけーね、と霊夢や魔理沙が呼んでいる人なのかもしれない。もっともその場合、この女の人はどうやってあの恐竜の足音(仮)を立てたのか? という最大の疑問が残るのだけれど……。

 

「こら! 誰だ、廊下で騒ぐんじゃない。そもそも授業中に何をやっているんだ? ……って、お前たち珍しいじゃないか。寺子屋に顔を出すなんて」

「ちょうどよかったわ慧音、のび太の宿題を見てあげてほしいのよ」

「……そうか、その子が外から来た子……のび太と言うのか。今朝の新聞ではどの新聞も1面を飾っていたから驚いたよ。しかし君、見るのは構わないがそもそも宿題と言うものは各々に出された課題を自分の力で解くことに意味があるのだぞ? それを他人の力を借りて解いていては自分の力にもならないだろう。君に宿題を出したのが一体誰なのかはあいにくと私も分からないが、きっと宿題を出した人物は君に自力で解いてほしいと思っていると思うぞ。自己紹介が遅れたが私は上白沢慧音、この人里で見ての通り寺子屋の先生をしている。かく言う私も宿題を子供たちに出しているが、やはりずるをしたりして全部正しい答えの宿題を出されるより、例え間違いだらけでもきちんと自力で解いてきてくれた子の方が私は嬉しいよ」

 

 ……長い。とにかくひたすらに長い。これでもかと言うほどに長い。そして話の内容が正しい事なのにいかんせん真面目過ぎて、たった今の数分程度の話を聞いているだけで眠くなるのはどうしてなのだろうか。

 もちろんこの慧音先生が言っている事は間違っていないし、のび太に宿題を出した学校の先生もずるをしたり、やって来ないよりも、間違いだらけでも全部終わらせると言う事を一つの評価として見ている事をのび太もちゃんと知っている。

 以前『出来杉グッスリ作戦』においてしずかが30分、スネ夫が3時間、ジャイアンが4時間、のび太に至っては朝までかかる、と言うほどの大量の宿題を出された際に、グッスリ枕と言う強制的に相手を眠らせる道具で出木杉を妨害しようとした事があった(ちなみに出木杉は10分もあればできると言ってのけた)。

 この時はドラえもんから出してもらったグッスリ枕で出木杉を朝まで眠らせて妨害しようとしたものの紆余曲折までの結果、故障したグッスリ枕から放たれた覚醒電波を受けて眠れなくなってしまったのび太が、最終的に宿題でもやって気を紛らすしかないと朝までかかってどうにか宿題を終わらせた時には普段とはうって変わって「よくやった」「間違いだらけでも全部やってきたのはえらい」と評価しみんなも見習うようにと、クラスに呼び掛けていた事からも、のび太の先生もきちんと自力で解く事を評価の一つとして見ている事が伺える。

 それでも、わざわざここまで来て「自分でやりなさい」では身も蓋もありはしない。

 

「あのねぇ、そんな事は分かってるの! でも、のび太が出された宿題の中に、ちょっと面倒なものがあるのよ」

「どうした、面倒と言うと……そんなに大変な宿題があるのか?」

「えっと、自由研究なんですけど……僕がここに来た理由が、その……」

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

……のび太説明中

 

 

 

 のび太は慧音に改めて説明をする。

 外の世界で友達が守矢神社の跡地について調べよう言い出したのに仲間外れにされた事。それに負けじと自分はもっとすごい誰も行った事のない場所を調べてやると言い出して、ここに来てしまった事。

 なので自由研究は幻想郷について何か調べたいと思っている事。

 それらを説明し終えると慧音先生はふむ、と考えるしぐさをしてから一言だけ、口にした。

 

「……なるほどな。幻想郷について調べるとなれば確かにそれは博麗神社では難しいだろう。しかしそれなら、私よりも稗田家にお世話になった方がいいんじゃないのかな? それに私は今こうして授業中だし話を聞くにしても、授業が終わった後になってしまうぞ? それともせっかく幻想郷に来たんだから、一緒に私の授業をお試しと言う事で聞いていくと言うのなら話は別だが……。そうだな、それがいいんじゃないか?」

「そっか、確かに言われてみればそうよね……のび太、どうする? 授業を一緒に聞いてく?」

「え、ええっ!? じゅ、授業ですか?」

「面白そうじゃないかのび太、せっかくだから他の宿題も見てもらったらどうだ? 慧音ならきっと教えてくれると思うんだぜ」

「あ、えっと……その……」

 

 いつの間にか、慧音、霊夢そして魔理沙からの一切悪意のない善意だけでじわじわとふさがれてゆく退路。

 夏休みと言う、学校の無い素晴らしい日々。おまけに今のび太がいる場所は幻想郷と言う、さらに学校からは縁遠い場所だと思っていはずなのにいきなり現れた寺子屋。

 もちろんのび太が日々学校の先生から怒られて廊下に立たされる生活を送っているなどと言う事は、霊夢たちは知る由もない。だから、のび太が寺子屋の授業についても苦手意識を持っているなどとは微塵も思っていなかった。

 

「大丈夫なんだぜのび太、()()()()()宿()()()()()()()()()()()()優しい先生なんだぜ」

「そうね、今のところ異変が起きる様子もないしのび太が授業を受けるなら保護者もちゃんとついてあげないとね」

「よし、決まりだな。それじゃあ特別に体験入学と言う事でのび太を寺子屋に招待しよう。短い間かも知れないが、しっかりと勉強していくんだぞ」

「え、ええっ! ちょ、ちょっと……あーっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………こうして、慧音に引きずられるようにしてのび太は寺子屋の教室へと半ば強引に連れていかれてしまったのであった。

 




のび太、寺子屋に食べられる!!!(嘘
霊夢も魔理沙も慧音も、悪意がある訳ではありません。しかしのび太からしてみれば悪意たっぷりの誘い以外の何物でもない訳でして……。
おまけにのび太たちが入る前に大きな音がしたという事はおそらく……頭突きを喰らった子が最低一名は中にいると言うのは間違いありませんね。

嗚呼、居眠りも宿題を忘れる事も得意なのび太の運命やいかに(フラグ)

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