ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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更新が遅くなりすみません。
ようやく四季様とのび太との掛け合いをどうするか、考えが纏まりました(汗
本当はもう少し先で花映塚エピソードは挿入しようと考えていましたが、予想外にのび太死すしてしまったので、最後の方までまだ全く考えていませんでしたが、多分これでどうにかなる……はずです。

では、四季様とのび太のお話、はじまりはじまり。


絶対に笑ってはいけない六十年目の東方裁判24時(その1)

 どうにか、文字通り無事に三途の川の向こう側までたどり着いたのび太たち。しかしたどり着いたと言ってもその方法は帆船になった小町のボロ船……コマチオーラ号をバショー扇で扇いで加速させ、ものすごい勢いで走った挙句に止まる事ができず、小町の職場でもある是非曲直庁の壁にそのまま衝突、大破と言うものだった。

 本来なら、だれか大けがをしても不思議ではないほどの勢いによる衝突でバラバラに壊れたコマチオーラ号の残骸からどうにかこうにか這い出してきた霊夢たちを他所に、のび太を連れて中に行こうとした小町の目の前に立ちはだかった一つの人影。

 それが普通の、人里で暮らす人々や今まで冒険をした世界で暮らしていた人々のような恰好をしていれば驚きもしなかったのだろうけれども、頭には幻想郷はおろか、他の惑星や異世界でもなかなか見ない奇妙なデザインの帽子をかぶり、手には死神小町が持つ鎌とはまた違ったしゃもじのような棒切れを手にすると言う、そうそうお目にかかる事の無い格好をしている。

 その人影が、ゆっくりと口を開いた。

 

「……小町、これは一体どういう事なのかしら?」

「し、四季様……こ、これはその……あのですね……ちょっとした手違いでして……」

「確かに貴女は今日は非番でした。それは私も認めましょう。ですが、小町は三途の川を自分のでもない、訳の分からない船でもって走り回り、その挙句に自分の職場でもあるこの是非曲直庁へと突撃、大破させて多大な損害を与えた事を……ちょっとした手違いだと、そう言うのですね?」

「うぐ……っ、た、確かにそんな事もありましたが、これには三途の川よりも深い訳が……」

「いいでしょう、一応小町の言い分も聞いておきましょうか」

「この、この子です! めったに起こらない事なんですが、事故で身体から魂が抜けてしまって、まだ死ぬべきではないこの人間の子を助けるために、急いで駆け付けたんですよ!」

「はい、そうなんです……」

「なるほど、確かにこの子は魂が外れてしまっているようですね。しかし珍しい……」

 

 この謎の人物の登場に、明らかに動揺している小町。その様子は、隠しておいた0点の答案の束を見つけられてママに叱られる時の自分とどこか似ているな、などと思いつつもそれは自分とは関係のない対岸の火事だと、のび太は思っていた。

 それがいきなり『この子が原因なんです』と神成さんの家の窓ガラスを割った犯人か容疑者のように奇妙な帽子をかぶった謎の人物に突き出されてしまったのび太だが、実際に小町の言う通り魂が外れてしまったらしい事は間違いないので、小町に合わせて頷くより他に方法はない。

 そんな事よりも、今のび太が気になっていたのは目の前にいる、この謎の人物の正体である。

 変な帽子をかぶり、しゃもじを手にすると言う、これからご飯でも食べそうな装いの人物にどうして死神などと言う、その辺の妖怪よりもはるかにおっかない立場にいる小町がペコペコしているのかそれがのび太には疑問だったのだ。

 

「……ねえ、小町さん。このお姉さんは誰なんですか?」

「あら、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前は四季映姫、こう見えても閻魔をさせてもらっています」

「閻魔? えんまって……あの地獄で悪い人の舌を引っこ抜くって言う、あの……閻魔ですか?」

「ええ。と言っても、そう言った刑罰を加える役目には私とはまた違う担当がいるのだけれども、おおむねその閻魔で間違っていないわ」

 

 『あなたは誰?』もうここに来て何回この質問をしたのか。それどころか今まで過去、未来、古代、別次元、他の惑星、いろいろな世界で大冒険をしてきた中でも、いろいろな人に出会うたびに繰り返してきたもはやのび太にとっては慣れっこになってしまったこの質問。

 そのたびに、いろいろな時代、世界で出会った人々からはいろいろな答えが返ってきた。

 だから閻魔と言う回答が返って来た所で不思議ではない、はずなのだけれども……目の前の人物、四季映姫と名乗った人物は、死神を名乗った小町同様にのび太のイメージする閻魔からはだいぶかけ離れている。のび太のイメージする閻魔大王は『しつけキャンディー』で登場したようにひげもじゃで、赤い顔に昔の中国人のような格好をしたおっかない顔の男の人であって、目の前にいる四季様のようなお姉さんではない。

 もし仮にこの場にドラえもんやジャイアン、スネ夫にしずかたちがいたとしたら、四季様が閻魔と言われて果たしてみんなは納得しただろうか?

 いや、納得しないだろう。何故なら、のび太が今現に納得していないのだから。

 

「フフフッ……アハハハハハハッ! ウシャシャシャシャ! あー、おかしい。えんま、閻魔なんている訳ないのに。それにもしいるとしたって、閻魔ならもっとおっかない顔してるはずですよ。ねえ、小町さんもそう思いますよね? あれ、小町さん……?」

「「「………………………………」」」

 

その証拠に、閻魔なんている訳がないとお腹を抱えて大笑いしているのび太。今は身体から外れた魂だけの存在になっているはずなのに呼吸困難に陥りながら笑い転げると言う、昼寝に引き続き珍しい行動を披露しているけれども、真実を知る小町たちからすれば決してのび太が抱腹絶倒するその様子は一緒になって笑えるものではなかった。

 事実、大笑いしているのはのび太だけで霊夢も魔理沙も、もちろんのび太に同意を求められた小町も青い顔をしてのび太を見ている。青いと言うよりも完全に血の気が引いた顔と言ってもいいだろう。

 のび太は知らない事だが、それはちょうど『のび太のアニマル惑星』において、禁断の森の中で迷子になってしまったジャイアンとスネ夫が、迷いに迷った挙句光の階段の中でニムゲを見てしまった時の表情によく似ていた。そう、あの血の気が完全に引きジャイアンいわく『なんだよ、何かあるのかとドキッとするじゃないか』と言わせた、顔から血の気がなくなり真っ青になったスネ夫の表情である。

 そして、霊夢たちから血の気を引かせた当の四季様はと言うと、とても怒っていた。それはもう、さすがののび太でもこれは間違いなく怒っているんだなと分かるほどに怒っていた。

 

「ごめんなさいね、おっかない顔をしていなくて。もしよろしければ、おっかない顔の獄卒たちをあなたに紹介するわよ」

「え……? い、いえ……そんなにしてもらわなくても……」

「……まったく、閻魔に対してそんなものいる訳がないなどと暴言を吐き、笑い転げるとは何事ですか! 貴方は少し信心がなさすぎます。いいでしょう、ここに来たのも何かの縁、次に貴方が死んだ時に私が地獄行きの判決を下さずに済むよう少し信心についてお話をしてあげましょう」

 

 以前学校で出された作文の課題でのび太が書いた『僕の怖いものはうちのママの怒った顔です』と書いてママを怒らせた事があったけれども、今の四季様の顔はまさにその表情にそっくりだったのだ。

 それだけではなく、その周りには見えるはずのない燃え盛る炎のような気配すら浮かんでいるし、その手にしているしゃもじのような棒がミシミシと音を立てているようにも聞こえるのは、決して気のせいではないだろう。

 いくらのんびり屋ののび太でも、ここまで『私は冷静さを欠こうとしています』と怒りを表現されてはさすがに気が付くと言うもの。が、残念ながらのび太が四季様の怒りに気が付くのはあまりにも遅すぎた。

 しかも0点の答案を見つけたママにそっくりな、憤怒の表情を見せる四季様からは、そんなに怖い顔がいいのなら地獄の獄卒を紹介しましょうかなどとまで言われてしまう始末。もっとも、幸か不幸かのび太の頭では獄卒、と言う言葉の意味は理解できてはいなかったのだけれども……。

 ただし、少なくともこのタイミングで発せられた言葉であり、おまけに『おっかない顔の』などと言う単語が前に付くのだから決して楽しいものや明るい意味を含んだものではないのだろう事は、のび太にでも容易に想像がつく。

 こうして、四季様のありがたい……もといのび太のママ並みに口うるさいお説教が始まった。

 

 

 

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

少女説教中……

 

 

 

 

 

 

「いいですか? 閻魔なんていはないと貴方は言いましたが、ちゃんと私と言う閻魔がいるのです。つまりはもし現世で善行を積まなければ、死後に貴方は地獄に落ちてしまうのですよ? もし地獄に落ちれば、恐ろしい顔をした獄卒に舌を抜かれるだけではなくもっと恐ろしい責め苦に未来永劫身を引き裂かれる事となるでしょう。事実、私は生前に口を酸っぱくして善行を積むようにと告げたにも拘らずそれでもなお私の言葉を無視した結果、死後になって地獄行きの判決を下され、その時になって必死で許しを請いながら地獄へと落とされていった死者たちを何人も見てきました。ですが、私の判決は下されれば決して覆る事はありません。貴方もそのような事にならない為にも、今日ここで私の言葉に耳を傾けて、おのれの愚かさをきちんと反省し悔い改め、地獄に通されないように善行を積みながら生きる必要があるのです。明日からやろう、ではいけません。今日から悔い改めたものにのみ、天国への扉は開かれているのですからね?」

「…………………………」

 

 が、始まってみて分かったけれども四季様のお説教は長い、とにかくくどくて長くそして退屈だった。

 こんなにもお説教が長いのは『勉強が勉強して勉強になって勉強する事が 勉強の勉強だから勉強なのよ! わかった!?』などと言いながら1時間以上もお説教を続けるのび太のママと、ひたすらに眠くなる授業をする寺子屋の慧音先生くらいのものだとばかり思っていたのに、よりにもよってここにもいたのだった。

 いや、むしろ外の世界ならママ一人だけなのにここに二人目がいるのだから幻想郷と言うのはのび太にとって、思った以上に恐ろしい場所だったのかもしれない。

 そして、その長く長く、おまけに堅苦しい言葉がいつまでも続く四季様のお説教は、のび太にとある状態をもたらした。そう、寺子屋でもあったようにのび太は眠くなってしまったのだ。

 もちろんのび太も最初から四季様のお説教に対して居眠りをしようなどと考えていた訳では無い。

 しかし、長い、くどい、訳が分からない事をひたすらに繰り返し聞かされると言うのは大変に退屈かつ苦痛なものなのだ。それは先の寺子屋でものび太が居眠りをした事からも伺える。

 つまりはどういう事かと言うと……。

 

「…………………………」

おい、霊夢。のび太ってば、また居眠りしそうだぞ

分かってるわよ、でもどうしろって言うのよ? ここで、説教の邪魔したら有罪だのなんだのって、面倒な事になるわよ

私も長い事死神としてやっているけどさ、四季様のお説教を受けている最中に居眠りをするって言う図太い魂は初めて見たよ……

 

 のび太はまた、お説教を受けながらこっくりこっくりと舟をこぎだしたのだ。

 本当なら霊夢や魔理沙ものび太に寝るなと言いたいところなのだろうけれども、そこは昼寝が何よりも大好きなのび太である。例え霊夢たちが寝るなと言っても、寺子屋での前例もある事だし間違いなく居眠りをしただろう。

 一方で四季様も、閻魔としての仕事についてこの方、閻魔の職務として死者に対しての裁判、説教や閻魔としての業務がない、休暇の日に幻想郷のあちこちへと足を運び、目についた人妖に対して善行を積み地獄に落ちる事の無いようにと、これまで自分でも数えきれないほどの回数説教を行って来たと言う自負はあったけれども、こんこんとお説教をしている最中にその相手が目の前で堂々と居眠りを始めると言う体験はさすがに今までにした事がなかった。

 少なくとも、職務として死者をも裁く時もそう。幻想郷で人や妖怪に対して説教をする時もそう。人であれ妖怪であれ死者であれ、閻魔の説教を聞く者は皆誰であっても閻魔と言う存在を怖れ敬い、平伏し、あるいは若干恐れを抱きながらも、説教を一言一句聞き漏らさぬようにと、耳を傾けていた。

 今回のお説教にしてもそう、きちんと自分の言葉に耳を傾け、大なり小なり行いを改善してくれる……そう思っていたはずがまさかの居眠りである。おまけに口元からはよだれをたらし、鼻からは大きな鼻提灯を出して完全に夢の世界に旅立っている。

 この、説教に対して居眠りなどと言うあまりと言えばあんまりな対応をされた事で四季様も最初はそのあまりの神経の図太さにあっけにとられ、そしてすぐに額には青筋が浮かびあがった。

 もちろんそれだけで済む訳がなく、説教の最中に居眠りをするなどと言う不届きなのび太めがけて、四季様はいったん説教を中断すると高々と掲げた棒を一息に、そうして思い切り、振り下ろす。

 そこには一切の手加減などと言う慈悲の心は、ありはしなかった。

 

「さっさと………………起きなさい!!!

「あいたーっ!!!」

「あいたじゃありません! 閻魔が説教をしている最中に堂々と居眠りをするとはいい度胸をしていますね。そんなに地獄に落とされたいんですか!?」

「ええっ、地獄なんてやだぁ!!!」

「地獄が嫌ならきちんと私の言葉を聞く事です!!! どうやら、貴方にはまだまだお説教をする必要がありそうですね」

「だって……何を言っているのか分かりにくいんですもん……」

 

 ぱかん、と景気のいい音と共に頭を叩かれて大きなたんこぶを作ったのび太が痛さのあまり、ジャイアンに怒鳴られたような勢いで1m近くその場で垂直に飛び上がりながら、それまでの夢の世界から一転、現実の世界へと一息に引っ張り起こされてきた。

 いや、叩き起こすだけでない。そのまま今すぐにでものび太の魂を掴んで、地獄の底でぐつぐつと煮えたぎる釜の中に放り込みそうな勢いだ。それに合わせてしっかりと『地獄に落とされたいんですか?』と脅す事も忘れない。

 もしここでこれ以上の口答えをしようものなら、そのまま閻魔の権力を行使して地獄に叩き落されそうな迫力である。

 おまけに、のび太が居眠りした事が気に入らないようで、さらにお説教の時間を引き延ばすとまで宣言してくる始末。もしそうなった時、そのお説教はのび太にとって地獄に落とされなくても、もれなくこの場所がそのまま地獄になるのは間違いない。

 なんとしてもそれだけは回避したい……のび太が必死でお説教と言う名の地獄を回避するためにはどうすればいいかを。どんなひみつ道具があればこのピンチを切り抜けられるかを、勉強やテストの時とは比べ物にならない速さで頭を回転させ考えてゆく。

 そして、のび太はすぐにこのピンチを切り抜ける事ができるひみつ道具を思いついた。

 後はそれを使わせてもらうように早速四季様と交渉するだけだ。

 

「……だったら、僕を先に元に戻してもらえませんか? そうしたらお説教がたったの一言で済む道具を出しますから」

 

 こうして、四季様のお説教延長戦と言う名の地獄をなんとしても切り抜けるための、のび太の戦いが始まった。

 




お説教をたったの一言で終わらせる事ができるとのび太が言い放った魔法のようなひみつ道具。
のび太が言うこのひみつ道具とは果たして何なのか!?
そもそも閻魔に対して交渉を試みようだなどと言う恐れ多い事をしてのび太は無事に助かるのか!?



次回、乞うご期待!!!

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