裁判中に裁判長が倒れると言う騒ぎになってしまいましたが、さてさて。
そんな事でのび太は魂と身体が一つに戻るのでしょうか?
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「…………な、なんなんですかこれはーっ!!! いいですか!? 貴方は少し世界を救い過ぎです!!! もう少し自重しなさい!!!」
「し、四季様っ!」
「おいおい大丈夫なのかよ」
「霊夢さん、魔理沙さん。僕のスペアポケットから『お医者さんカバン』を出してください!」
「お医者、なんだって?」
「のび太の道具ね。どんな形なのよ」
「さっきの、私の船を豪華にしてくれたような道具があるってのかい? それならすぐに手分けして見つけるよ」
その言葉を最後に、目を回しながらばったりと倒れてしまった四季様。
閻魔が裁判中にひっくり返ると言う誰もが想像していなかったとんでもない事態に霊夢も魔理沙も小町も、みんなが慌てて駆け寄る中誰よりも先に反応したのは他でもないのび太だった。これまでしてきた数多くの冒険での経験がこういう時とっさの判断をさせるのか、そこには普段の頼りなさげなのび太の姿はどこにもない。
すぐに自分の身体を指さして、三途の川を渡る前にデラックスライトを霊夢と魔理沙に取り出してもらった時のように二人にひみつ道具を出してもらうよう依頼する。
『お医者さんカバン』
この道具は未来の子供がお医者さんごっこをする時に使うひみつ道具、と言うよりもオモチャのようなアイテムなのだけれどもそのかばん、の名前の通り医者が往診などで使うカバンのような形をした本体には顕微鏡あり、レントゲンあり、果ては簡単な病状ならば本当の病気でさえ診察し、おまけに搭載されている量こそ少ないけれども本物の薬まで出てきて使えば実際に治ってしまうと言う、お医者さんごっこをする子供向けと言う対象を考えればあまりにも高性能なひみつ道具である。
もちろんその性能を知っているのはのび太だけであり、他の三人は知る訳もない。
それでも、のび太がこの数日で見せてきた数々のひみつ道具による効果の数々によって、霊夢も魔理沙もそして小町も、誰ものび太の言葉を疑う者はいなかった。
すぐに三人は手分けしながら、一つずつ道具をポケットから取り出しては、のび太に見せて違えばまたポケットに手を突っ込んで、という作業をひたすらにくり返していく。
ほどなくして、霊夢がポケットからとある道具を引っ張り出してのび太に見せた。
「のび太、これかしら?」
「ああ、これこれ、これです。お医者さんカバン。でも、ずいぶん見つけるの早かったですね」
「そりゃあ、カバンなんて名前が付いているんだから手でさわってそれっぽい形じゃないものは省いたのよ」
「だな。それよりも、これをどうするんだぜ? お医者さん、なんてたいそうな名前が付いているんだから何でも治せるのか?」
「でも、こんなカバン一つでどうやって四季様を治すのさ」
「えっとですね……さすがに僕はこれを持てませんから、霊夢さん、お願いしてもいいですか? 操作は簡単ですし僕が教えますから」
「え!? 私がやるの!?」
「そうだな、霊夢任せたんだぜ」
「そうだね、ここは博麗の巫女に任せたよ」
「ちょっと! なんで私がやらなくちゃいけないのよ」
「「だって、のび太(この子)が元に戻らないと道具を使えないしな(ねえ)」」
「う………………仕方ないわね。で、私は一体どうすればいいのよ?」
三途の川を渡る前のデラックスライト捜索とは違い、今度は割とあっさりと見つけてしまった三人。
しかもその理由は、道具の名前がカバンと言うのだから、それっぽくない形の道具はスルーしたと言うのだからその順応性には目を見張るものがある。
……もしかしたら、余りにもデラックスライトを探すのが苦痛だったのかもしれないが。
兎にも角にも、お医者さんカバンを取り出した以上誰かがそれを使わなくてはならない。そして残念ながら最もこの道具の事を知っているであろうのび太が魂だけになっており、カバンを使う事ができないために「任せた」とのび太から指名を受けた霊夢は、引っ張り出したお医者さんカバンを手にしたまま目を丸くして不満を漏らすが何しろ二人の言う通り、のび太が元に戻らなければ道具を使えない以上、誰かしらがやらなくてはいけないのだ。
最初は渋っていた霊夢もこの現実と、最初に自分自身がカバンを取り出してしまったと言う弱みがある為強く出れず、結局ため息と共に自分がやる事を承諾したのだった。
そして……。
「ねえ、本当にこれだけでいいの?」
「はい、多分大丈夫だと思います。カバンのコンピューターがそう診断を下したから」
「おいおい、本当にお手軽だな。未来じゃ医者はこの道具で患者を治すのか?」
「いえ、確かこの道具は未来の子供たちがお医者さんごっこをする時に使う道具だって聞きました」
「「「…………は?」」」
結果から言うと、霊夢もやる事は『これだけ』でいいのかと不安になって尋ねる程に四季様の治療はあっさりと終わってしまった。と言うのも、霊夢がのび太の指示を受けて言われた通りにカバンから聴診器を引っ張り出し、未だに目を回して倒れている四季様の額に聴診器を当ててしばらく待つとすぐに画面に『カンガエスギニヨルキゼツ』と症状が映し出されたのだ。
何も知らなければそれだけでも驚くべき事だが、さらにすごいのはこのカバンが『治療法、気付ケ薬ヲカガセル』と診断と共に治療薬まで出てきた事だろう。
そうして出てきた気付け薬を四季様に嗅がせて、今は様子を見ている最中と言う訳だ。
しかし、実際に使って見せた霊夢もそれを見ていた魔理沙も小町も、まさかこれが本業の医者が使う道具ではなく子供がお医者さんごっこをする時に使う、言うなれば遊びのための道具でしかないと言われた時には、のび太以外の全員が『これが、子供のおもちゃだと……』と驚愕の色に染まったのは言うまでもない。
そんなやり取りをして数分の後、ようやく気付け薬が効いてきたのか倒れて目を回していた四季様がパチリと目を覚ましたのだった。
「う、うーん……せ、世界が! 幻想郷よりも幻想している世界がついたり消えたり!! 彗星かな? いや、違うわね」
「だ、大丈夫ですか?」
「ちょっと、裁判の途中で倒れて混乱だなんてやめて頂戴よね」
「いや、それにしても大分うなされてるんだぜ」
「四季様、それでも目を覚ましてくれたんですから。本当に無事で良かったですよ」
「え……? あ、あれ……私は一体……? ひいっ!!」
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて。あれはただののび太よ」
「そうそう、のび太は別にとって食べたりはしないんだぜ」
目を覚ましても、頭の中ではいまだにのび太が冒険してきた数多の世界が映っていたのか混乱気味だった四季様。
よほどのび太が冒険してきた世界が四季様にとって刺激的だったのか、あるいは異様な世界に映ったのか。目を覚まして目の前にいたのび太を見て急に怯えだす始末。
そこにはもう先ほどまでの厳格なあの世の裁判長の姿はなかった。霊夢や魔理沙が落ち着かせなければずっとこの調子だったかもしれない。が、幸いにも皆が声をかける事で四季様はどうにか落ち着きを取り戻してくれた。
「……こほん、失礼しました。地獄の最高裁判長ともあろう私が、裁判の最中に倒れただけではなく見苦しい所を見せてしまい、おまけに治療までしてもらうだなんて。それにしても、貴方はあれだけの多くの世界の危機を救い、友情を育み、神と崇められるような事を為してきたのですね」
「そうよ、ウチの食糧事情を救ってくれている偉大なのび太が地獄行きな訳ないでしょう?」
「ええ、確かにあれだけの事を為した魂を地獄に送る事はできません。貴方は白、無罪ですよ」
「やった、やった!! ばんざーい!!!」
「やったなのび太!」
「それじゃあ四季様、この子を助けて……魂を身体に戻してあげて下さいよ」
「分かりました。そもそもここに来た理由が、魂が身体から外れてしまったから、でしたよね? いいでしょう、今から貴方の魂を戻してあげます」
「え!? それじゃあ! これで僕も元に戻れるんですね?」
「もちろんよ、ちゃんと元に戻してあげるわ」
それだけではない。最初こそあれだけのび太を罪人扱いし、地獄に落とそうなどとしていたけれども今までの冒険の数々で成し遂げてきた事が理解されて無罪の判決を下され、おまけにここに来た目的である身体から外れた魂を元に戻してもらえる事になったのだ。
いろいろな事があったけれども、魂が外れあの世に来てこれまでしてきた苦労。それがようやく報われた瞬間である。四季様から、魂を元の身体に戻すと言われた時の、のび太の喜びようと言ったら無かった。
けれども、ここでもしのび太が喜んでバンザイをしてなけなしの注意力が散漫になっていなかったのなら、のび太は気が付いたかもしれない。
元に戻すと言っている四季様の手にしっかりと握られたしゃもじのような棒を、握って振りかぶっている事に。
その格好が、まるで我らがジャイアンズ球場こと、いつもの空き地で行われている草野球の、ジャイアンが投げるボールを今か今かと待つバッターの仕草にそっくりである事に、のび太は気がついたかもしれない。
けれども、のび太は気が付かなかった。その棒が、四季様の視線が自分に向いている事に。
「じゃあ、行くわよ?」
「いく? 何がですか?」
「何って、こうするのよ。……どぉりゃあああああっ!!!」
「ふぎゃっ!!!」
その、四季様が一体何をしようとしているのか気が付かないのび太の脳天めがけてフルスイングされた棒が『ガツン』と慧音先生の頭突き並みの音を立てながら無慈悲にも叩きつけられる。もちろんのび太はまさか自分がそんな事をされるとは思ってはおらず、まともにその棒を受ける事になってしまった。
おまけにその時の衝撃と言ったら、普段からお見舞いされているジャイアンのゲンコツはおろか、かつて『のび太の日本誕生』でククルが持っていた本物の石ヤリで殴られた以上の痛みだったのだからたまったものではない。
のび太は思わず涙目になり舌まで出しながら何とか痛みをこらえようとする。
そこでのび太はようやく気が付いた。
……………………自分の身体の違和感に。
魂だけになっている間にはそもそも誰かに殴られたり叩かれた事が無かったため、実際の所は分からないのだけれども、それでもやはり魂だけの状態と言うものは何かが違うのだ。だから叩かれる前と後とでの、自身の身体の違和感に気が付いてしまった。後は、それが本当なのかはたまた勘違いなのかを確認すればいいだけだ。
もちろん方法は決して難しいものではない。魂と身体が離れてしまったのを四季様が元に戻したと言う事は、さっきまであった自分の身体がなくなっている……自分の魂が身体に戻っていると言う事なのだから。
おそるおそる、と言った風に自分の周りを見回して確認するのび太。けれども、死神の小町がずっと運んできてくれたであろう自分の身体はどこにもなかった。
つまりはそう、そう言う事なのだ。
「何をきょろきょろしているのかしら? 貴方はもう魂が身体に戻っていますよ。さっき私が魂を叩いて、貴方の身体に強引に押し戻しましたからこれでもう大丈夫です。けれども、あまり強い衝撃は受けないように。でないとまた魂が外れてしまいますから」
「え!? もう終わったんですか?」
「よかったじゃない、やっとこれで元に戻ったわね」
「じゃあ、後はあの世からおさらばして、さっさと人里に戻るだけだな」
「いえ、その前にやる事がありますよ」
「何よのび太、まだここでやる事があるの?」
「そうだぜ、いつまでもこの辛気臭いあの世になんていないでさっさと帰るんだぜ」
「いや、あの……さすがにそこまで言われるとここで働いている私たちもちょっと……」
その証拠だとでも言いたげに、周りをきょろきょろと見回しているのび太の様子をおかしそうに眺めながら、四季様がのび太の魂は体に戻っていると教えてくれた。
兎にも角にも、これで魂の外れたのび太を元に戻すと言う当初の完全に目的が達成されたのだから、生きた人間があの世に長居する必要はない、と現世へと戻ろうとする霊夢と魔理沙に、ここでのび太がなぜか待ったをかけた。
当然霊夢も魔理沙も、もうあの世に残っている理由などない為に、こののび太の行動には理解が追い付かず二人とも首を傾げるばかり。
けれどものび太にはあったのだ、まだ帰れない理由が。いや、のび太だけではない。本当ならばこの場にいる全員が、まだめでたしめでたしとはならない理由があったのだ。
「霊夢さんも魔理沙さんも『これ」をこのままにして帰ったらそれこそ閻魔様に怒られちゃいますよ」
「「「……あ」」」
「確かにね。それとも小町、貴女がみんな帰った後で一人残って修復作業をしてくれるのかしら?」
「いっいえっ! す、すぐに私たち全員で作業します!! ほ、ほら! みんなで直すんだよ!!」
「あー、待て待て小町。慌てる必要はないぜ、なんて言ったってこっちにはひみつ道具を持った最強の助っ人がいるからな。な、のび太!」
「そうね、のび太にかかればこのくらいお茶の子さいさいよ」
「あれだけの冒険をしてきた子ですからね。きっと貴女たちの言う通り、すごいものが出てくるのね」
のび太の指摘に、四季様以外の全員が思い出したように声を上げる。
そう、四季様からの裁判やら四季様が倒れて手当てをしていたなどのトラブルがあったけれども、のび太たちが三途の川を渡った直後に大破した是非曲直庁の壁の一部、そして同じく壁に突撃して大破したコマチオーラ号。これらを放置して帰ろうなどと口にした日にはそれこそ四季様から有罪判決を受けて地獄に送り込まれかねない。
霊夢たちはそれを完全に失念していたのだ。いや、失念していたと言うよりはのび太がいるから直すにしてもあっという間に終わってしまうため、気にしていなかった、と言った方がいいのかもしれない。
これから行われるであろう面倒な修理作業にげんなりとしている小町と、対照的にさっさと終わらせる方法を知っているため全く焦りの無い霊夢に魔理沙。
さらに今となっては、のび太が外の世界で経験してきた大冒険を浄玻璃の鏡を通じて目にした四季様ものび太の持つひみつ道具なら修理なども簡単にできるようにするものがあるのだろうと、のび太の様子を見守っていた。
*
「じゃあ、手分けしていきましょう。僕がタイムふろしきで壁やコマチオーラ号を直しますから、霊夢さんと魔理沙さんはコマチオーラ号を三途の川まで運んでもらってもいいですか?」
「おいちょっと待て、いくら私たちでも二人だけであの船を運ぶだなんて無理だぜ」
「そうよ。異変解決や妖怪退治ならいくらでも引き受けるけど、船を引きずって運ぶのはさすがに無理よ。せめて鬼でもいればいいのに」
「いや、二人ともそう言う問題じゃないと思うよ?」
元の沈没寸前なおんぼろ船ならばともかく、デラックスライトの効果である程度の大きさにまでなってしまった帆船を、しかも三途の川からかなりの距離陸の上を滑って来た船を川まで運べと言う、何も知らなければ無慈悲極まりないのび太の発言に、たまらず霊夢と魔理沙が抗議の声を上げた。
けれどももちろんその抗議の声ものび太にとってはおり込み済み。
四季様の尽力によって、魂だけではなく今は身体を取り戻したのび太はズボンのポケットからスペアポケットを取り出すと、すぐにポケットからデラックスライトにも似た道具を取り出して、二人に説明を開始するのだった。
「もちろんそこは考えてありますから大丈夫ですよ。えっと、これでもないあれでもない……あ、あった。『おもかるとう』!!! この道具は光を浴びせた物の重さを軽くしたり重くしたり自由にできるんです。これで、コマチオーラ号を直した後で綿あめみたいに軽くしちゃえば……」
「私たちでも軽々ともって運べるって訳なんだぜ!」
「またとんでもない道具が出てきたわね。でも、それってのび太、間違っても人里でむやみに出すんじゃないわよ?」
「え、どうしてですか?」
「どうしてもよ。………………こんな簡単に体重を落とせる道具があるだなんて知れたら、幻想郷中の人妖が押しかけて異変になるに違いないわ。何としてもこの道具の存在は隠しておかないと」
「ま、まあまあ。でも、これで修理に取り掛かる事ができるんだろう?」
「ええ、そうね。二~三十分も待ってもらえれば全部跡形もなく修理や片付けは終わるはずよ」
「よし、それじゃあさっさと終わらせて帰るんだぜ!!」
「おーっ!!」
こうして四季様や小町が見ている中、霊夢、魔理沙、のび太の三人による後片付け大作戦が始まったのであった。
のび太、ついに復活!!!
ただしさっさとあの世から帰る前に、お片付けだけはしていかないといけませんね。
大破したコマチオーラ号に、そのコマチオーラ号が突っ込んで大変な事になっているであろう是非曲直庁の外壁。
さすがにこれを直さずに帰った日には四季様も激おこでしょう。いや、修理損害賠償その他諸々が全て、しあわせトランプのジョーカーよろしく小町に降りかかるのか?
と言う訳で次回は話数的にも長かったあの世の旅を終えていよいよ現世への帰還です(たぶん)。
次回、乞う! ご期待っ!!!