いよいよ次の冒険の始まりです。さてさて次の冒険の目的地は……?
紅いヘビースモーカーズヒトザト(タバコ好きの人里)、起こる
「あー、ぜんぜんわかんないよー!!」
「がんばれのび太! まだドリルはたったの十ページ目だぞ?」
「ほら、のび太。くじけちゃダメよ」
「これを終わらせれば、楽しい楽しい自由に遊びまわれる日々が待っているんだぜ!」
「……よし! 確かに、遊ぶためにも頑張るぞ!!」
「………………本当、宿題をやる気にさせるのも大変ね」
のび太があの世から帰ってきてから二日、のび太の姿は寺子屋にあった。いや、のび太だけではない。そこには寺子屋の先生である慧音に霊夢、それに魔理沙の姿も見える。と言うのも、頭突きでのび太をあの世に送ってしまった後、慧音は里でも人格者として通っていた自分が、教えを乞いに来ていた子供の命を奪ってしまった、とひどく落ち込みのび太の後を追いかねないほどに落ち込んでいたが、無事にのび太が助かり戻って来たと言う連絡を霊夢から受けてようやく立ち直ったのだった。
そして、事情があったとはいえ自分の頭突きでのび太の命を奪いかけてしまった事に責任を感じた慧音は『私がみっちりと勉強を見てやろう!』と逆に張り切りだしてしまう。
しかし、さすがに反省して名乗り出てくれたとは言え慧音にはのび太に頭突きを撃ち込んで魂を外してしまったと言う事実があるため『もし何かあってまた頭突きでもされたらのび太が死にかねない』と言う事と、差し当たってここ最近は大きな異変も起こってはいないと言う事もあって、霊夢と魔理沙ものび太について来た、と言う訳だ。
……むしろここ最近起きている異変と呼べそうな出来事については、ほとんどその全てにのび太が関わっていたりする訳で、のび太から目を離さなければ大きな異変はそうそう起きないだろう、と言う判断を霊夢が下した事も大きいだろう。
だが、残念ながらのび太の宿題についてはあまり進み具合が芳しくないようだ。
ここでもし、ジャイアンやスネ夫にしずかが一緒にいれば『のび太の海底鬼岩城』で、夏休みの宿題を終わらせないと遊びに行ってはいけないとママに厳命されたため全員で一致団結して3日で宿題を終えた時のように、短期間であっという間に終わらせる事ができたかもしれないが残念ながらジャイアンたちはのび太と違い外の神社を調べている最中である。
つまりは、問題を解くスピードも決して速くはないと言う事だ。
それでも、慧音が先生だった事もありどうにかこうにかのび太にやり方を教えながら、確実に問題は解かれていっているようで少しずつではあるけれどもページは進んでいた。
ただし、その代償は決して小さくないようで霊夢は『のび太の海底鬼岩城』でジャイアンたちが手伝ってくれるまでの間、一人でのび太を鼓舞し続けたドラえもんのようにのび太のやる気を維持させる事に相当な苦労をしていたりする。もしここにドラえもんがいれば、同じ苦労をした者同士固い握手が交わされたに違いない。
「うー、わかんないー」
「チルノもか、私はみんなにそんなに難しい事を教えているつもりはないはずなんだが……」
「チルノ! アンタ師匠ののび太に負けていいの? のび太はなんだかんだ言っているけれども、確実に宿題をを進めているわよ?」
「え!? ダメダメ! ししょーを超えるのは弟子のつとめ、ってやつなんだからね。あたいが先に終わらせるの!」
そしてそんなのび太の隣で同じように頭を抱えているのが、氷精のチルノ……のび太が慧音から頭突きを受ける前に一足先に頭突きを受けていた水色の服の子だった。どうしてここにのび太以外にチルノがと言うと何の事はない、本当ならここで補習を受けるのはチルノだけのはずだったところに、宿題を教えると言う事でのび太がやって来たのだ。
進み具合はのび太とどっこいどっこい、と言いたいところだけれどものび太の方がやや進んでいる感じである。
そんなチルノに霊夢が『師匠ののび太に負けていいのか?』と発破をかけ、負けるものかとチルノが鉛筆を再び走らせ、またしばらくすると集中力が切れてしまうのか『分からない』と頭を抱える。これが補習が始まってからの光景だった。
ちなみにチルノが一緒に勉強しているのはともかくとして、どうして氷精のチルノが人間ののび太の事を『師匠』、などと言う大層な呼び名で呼んでいるのかと言うと。
のび太とチルノとで一緒に寺子屋で夏休みの宿題ならびに補習を受けていた時、氷の妖精と言う事もありチルノが氷を生み出して騒いでいた所でのび太がスペアポケットから氷細工ごてを取り出し、チルノの氷をあっという間にいろいろな形に加工してしまったのだ。
氷の妖精と言う事もあり、氷についてはあるいは物を凍らせる事については自信があった自慢の氷をあっという間にいろいろな形に変化させてしまったのび太に、チルノも目を丸くしてはしゃぎまわる事さえ忘れて驚き『さいきょーのあたいの氷をあたい以上に自由に扱うなんて、あたいよりもさいきょーに違いない。ししょーと呼ばせてくれ!』と言い出し、半ば強引にのび太を師匠と、自分をのび太の弟子と呼ぶようになってしまったのだった。
もっとも、そのおかげでそれまでの飽き性や集中力が続かない時でものび太と言う師匠の名前を持ち出す事である程度、真面目に勉強させる事ができるようになったと言うのが慧音先生の談なのだけれども。
兎にも角にも、どうにかこうにかのび太とチルノの勉強は進んでいたその矢先に、
「……ねえ、なんだか外が暗くなってきたような気がするんですけど」
「言われてみれば確かに……っ!? まずいわ! 異変よ!!」
「おい! よりにもよってなんでこんな時にアイツは異変を起こすんだよ!」
「え、いへん……? えぇぇぇぇぇぇっ!? な、なんですかこれ!?」
寺子屋の教室が、と言うよりも窓から入ってきた光がだんだんと暗くなってくる事に気が付いたのび太。なにしろ鉛筆をくわえながらノートとにらめっこをしていると、窓から差し込んでくるはずの光がだんだんと暗くなってくるのだから、おかしい、となる訳で。一体何があったのかと気になって窓の外を見上げてみれば、人里の上空は赤い雲のようなものですっぽりと覆われてしまっていた。
それはまるで『のび太の大魔境』でバウワンコ王国が外界から秘匿され続けた理由の一つであるコンゴ盆地の上空に広がり続けた数万年前から決して消えずにとどまり続ける雲、ヘビースモーカーズフォレストを彷彿とさせるものだった。
もちろんヘビースモーカーズフォレストの上空に広がる雲は今目の前に広がっている雲のように赤くはないし、のび太の記憶でも真っ赤な空に染まるような環境の世界や星と言うのは、ほとんどなかった。
せいぜいが『のび太の宇宙開拓史』で遊びに行ったコーヤコーヤ星くらいのものだろう。しかしそれもあくまで、青い月と赤い月が1日おきに交互に上り、冬の最後の日、大洪水の夜にだけ両方同時に上がる、つまりは月の光によるものであって雲の色ではない。それが一層のび太の目には不気味に映ったのだろう。霊夢や魔理沙の言っている事が分からないまま、つられるようにして見上げたのび太はその異様な光景に思わず声を上げるのだった。
「いいかのび太、チルノと一緒にここから動くんじゃないぞ? これは私たち異変と呼んでるもので、力のある妖怪やなんかが周りに迷惑をかけているんだ」
「力のある妖怪……紫さんみたいな妖怪が、ですか?」
「そうよ。でも今こうして空を赤くしているのは、紫よりももっともーっと悪いやつよ。そんな奴らが悪さを始めたら、飛んで行って退治するのが、私の仕事なの」
「だったら、その悪さをしている妖怪の所へどこでもドアで行っちゃえば、手っ取り早く解決できませんか?」
「「………………あ」」
「そうだ、のび太のどこでもドアがあったな。よし出せそれ出せ早く出せどんと出せさあさあのび太」
「こら魔理沙、のび太を急かしたって始まらないでしょうが」
「よいしょ……っと、どこでもドア!」
「うぉーっ、すげーっ! さすがはあたいのししょーだ!!」
「な、なんだこれは……本当に君は外の世界の子供なのか?」
しかしのび太の反応とは裏腹に、この異変と言うものはかなり深刻なものであるようで、のび太の発言に今まさに飛んで行こうとした霊夢と魔理沙は互いに顔を見合わせながらぽかん、と口を開けてしまう。当然二人が悪い妖怪の所まで直接飛んで行くのと、どこでもドアで一瞬のうちに相手の所へと向かうのでは時間にも差が出るのは間違いない。こうして二人は、のび太が取り出したどこでもドアに『紅魔館へ!』と叫び、勇んで飛び込んでいったのだった……。
*
「……暇だね、ししょー」
「うん、でも僕らは霊夢さんからも、慧音先生からも『ここで大人しく待っていなさい』って言われちゃったからね。待っていないと」
「うーん、じゃあさ、さっきの話以外にも面白い話ある?」
「そうだね、じゃあ次は……あれだね、僕らが夏休みに十万年前の南極大陸の底でブリザーガって言うとんでもない怪物を相手に大冒険した話かな」
「ねぇ、ししょー。なんきょく、って……なに?」
「あ、そっか。ここには南極に行った事のある人なんてそうそういないんだっけ……えっと、うーんと大きくて冷たい場所、かな。一生かかっても食べきれないくらいのかき氷が作れそうなね」
「へー、やっぱりししょーはすごいや。あたいの知らない事もたくさん知ってるんだね」
霊夢と魔理沙がどこでもドアの向こうに消えてからどれくらいたったのか、まだ赤いままの空を見上げながらのび太とチルノは寺子屋の教室で言われた通り、大人しく留守番をしていた。
ちなみに慧音先生はと言うと、霊夢たちが出かけた後で『人里の人々が混乱しているから、みんなを落ち着かせてくる』と言って、やはりのび太たちには留守番をするように言い聞かせ、そのまま出て行ってしまった。その時に、宿題や勉強をやっているようにと言われなかったのは二人にとって救いではあったけれども、何しろずっと教室にいろと言われても漫画もない、ゲームもない場所でじっとしていろと言うのは退屈極まりない事だった。
特に座布団一枚さえあれば、外だろうが教室だろうが畳の部屋だろうが昼寝ができるのび太よりも、チルノの方が退屈に耐えられないようで昼寝をしようとするのび太にしがみついてくるのだ。いくら昼寝の達人であるのび太でもこれにはたまったものではなく、仕方なしにのび太たちが今までにしてきた多くの冒険についての思い出話を聞かせていたのだった。
それでも、いくらのび太の冒険がチルノにとって興味の尽きない大冒険譚であってもやはり限界と言うものはくる。
つまりは……外に出たくなるのだ。
「ねえ、ししょー。やっぱりあたいたちも悪いやつをやっつけに行った方がいいんじゃない?」
「ダメだよ、霊夢さんにも慧音先生にも僕らはお留守番してなさいって言われたんだから」
「でも、なかなか戻ってこないじゃない。もしかしたらピンチなのかも」
「え、まさか……だって霊夢さんも魔理沙さんも、この前閻魔様と戦った所を見たけれどもものすごーく強かったんだよ?」
「まっ、あたいの方がさいきょーだけどね。あ、でもそのさいきょーのししょーだから、今はのび太がさいきょーか。ってそうじゃないよ、悪いやつがみんなよりも、もっと強かったらどうするのさ」
「それはそうだけど……、そもそも行くって言っても、どこへ行けばいいのかチルノちゃんは知ってるの?」
だから、さいきょーのあたいとさいきょーのあたいのししょーの二人で一緒に悪いやつをやっつければいいじゃん。とチルノはさらりと言ってのけてみせた。こういう所は外の世界にはいない妖精と言う存在だからなのか、はたまたただの怖いもの知らずなのか、あるいは本当にさいきょーとたびたび口にするように最強の力を持っているのか、それはのび太には分からない。
なにしろなんだかんだ言っても幻想郷に足を踏み入れて一週間も滞在していないのび太にとって幻想郷と言う世界の全貌も、またそこに暮らす人々の力関係もなにも知らされてはいないのだ。
せいぜいが博麗の巫女、霊夢に妖怪の八雲紫、それに妖怪の山の神様に鴉天狗とあの世の閻魔様くらいである。
そう考えるとどうしてもこの氷の妖精チルノと言う少女は、今まで出会った人(の方が少ないが)たちと比べてしまうと最強? となってしまうのが、口にこそ出さないものの、のび太の感想だった。
それともう一つの理由は実に簡単な事で、のび太は霊夢たち二人がどこに行ったのかを全く知らなかったのだ。一応、どこでもドアを設置した時に二人は『こうまかん』と言う名前を口にしていたけれどもそれがどんな場所なのか、となれば全く想像もつかないとしか言いようがない。
ただ子馬、とあるところを見ると『のび太のねじ巻き都市冒険記』で冒険した小惑星のような水や緑が豊富な、牧場のような場所なのかもしれない。
……その場合、そんな平和そうな場所でどんな悪いやつが暴れているのか、と言うのがとても気になるのだけれども、とそこまで考えてから、のび太はさらにもう一つ、あの小惑星で遭遇した、みんなには笑われてしまったけれども間違いなく本当である神秘の体験を思い出していた。
衛星写真で撮影した光る湖の底に沈んでいた金塊。その正体を知らずにいたのび太やドラえもん、果ては熊虎鬼五郎まで巻き込んで大騒ぎになった光る存在、種をまく者が見せたおっかない魔神のような姿の怪物がここにも現れて、この赤い雲を吐き出しているのだとしたら恐ろしい事になってしまう。
そんな事を考えていたのび太の身体が、思考を邪魔するように急にユッサユッサと揺さぶられる。
「……ねぇ、ねえ、ししょー。ししょーってば」
「……!? あ、ち、チルノちゃん。どうしたの?」
「もう、急に返事しなくなっちゃうんだから。あたい知ってるよ」
「知ってるって、何を?」
「だから、紅魔館の場所。あたい紅魔館の近くに住んでるから、よく遊びに行くんだ」
「えーっ!」
後に人里の住民が語ったところによるとこの時驚きのあまり目を丸くしたのび太の口からでてきた声は、外にいた里の人々にまで聞こえたほどの大きな声だった、と言う……。
妖怪の山、閻魔様ときて次の相手は紅魔館に決まりました!
どうものび太は紅魔館ではなく子馬館と勘違いをしているきらいがありますが……。
さて、そんな紅魔館に無謀にも挑もうとする師匠のび太とその弟子チルノその。
果たして二人の運命やいかに!?
次回、乞うっ! ご期待っ!!!
このChapter名は幻想郷冒険記を書き始める前、ネタをいろいろと考えている時に「そういやのび太の大魔境と東方紅魔郷って、よくよく見ると似てるよな」と一人ニヤニヤしながらネタ出しをしていたある意味最初の話でもあります。
本当にどんな結末を迎えるのでしょうか?