二人にとっては幻想以上のひみつ道具ですが、今度はのび太は一体何を取り出すのか……?
「……境内にいるはずなのに、なんで台所につながってるのよ? 一体何なのこれ? って言うかあなた何者なのよ……? 」
「霊夢もちょっと落ち着きなさい。確かに私も驚いたけれども、そんなにいっぺんに質問したってのび太だって答えられないわよ」
叫んでみた所でちっとも変わらない現実にようやく落ち着きを取り戻したらしい霊夢。
その後のび太、霊夢、紫の三人はどこでもドアをポケットへと再び収納して、再び神社の境内から居間へと戻って来ていた。
が、落ち着いたと言っても初めてのどこでもドアの体験、何回ドアを覗いてみても、境内と台所とをつないでいるどこでもドアの効果を生まれて初めて目にしたためか、実際には落ち着いているように見えてまだ少し混乱しているらしく、居間に戻るやいなや矢継ぎばやにのび太へと質問を浴びせかける。
けれどものび太の方はと言えば、紫の言う通りそんなに一度に大量の質問にすらすらと答えられるほど、要領がよい訳ではない。
「悪かったわね、まずはお互いに自己紹介しておきましょう。私は霊夢、博麗霊夢よ。幻想郷の管理を任されてる巫女なの。呼ぶときには霊夢って呼んでくれればいいわ。……それで、あなたは?」
「のび太、野比のび太です。今霊夢さんが使ったのはどこでもドアって言う未来の道具で、自分の行きたい場所を頭の中にイメージすれば、そこに行けるようになっているんです」
「未来? 未来の道具って、外の世界じゃ未来の道具が子供でも使えるくらいに出回ってる訳?」
自分が使ったどこでもドアが未来の道具だと言われても、もう霊夢は驚かなかった。それだけどこでもドアの衝撃が大きかったのだろう。
いや、それ以上に未来と言う言葉に対して実感が沸かなかったのかもしれない。
そこでのび太は紫にしたのと同じように説明をする事にした。
……のび太説明中
……のび太説明中
……のび太説明中
ドラえもんと言う親友の事。その親友は22世紀からやって来た猫型ロボットでポケットから未来の道具を出しては色々と助けてくれる事。そしてその道具の入っているポケットのスペアを借りて、ここにやって来た事。
のび太はひみつ道具に関してさわり程度ではあるものの、説明してみせたのだった。
「……と言う訳なんです」
「ねえ紫、なんでかしらね。のび太の話を聞いていたら幻想郷っていったい何なのか分からなくなってきたわ……」
「それについては否定しないわ。さっき説明を受けた時に私も同じことを考えたから。でもこれで分かったでしょう? のび太がどこでもドアで幻想郷に入って来たからこそ、博麗大結界には引っかからなかったのよ」
のび太の説明に、頭痛でも覚えたのか頭を抱える霊夢。それは幻想郷にやってきてすぐに紫と遭遇し、彼女に説明した時に見せたのと同じような反応だった。
もっともそれは当然と言えば当然かもしれない、のび太は来て間もないけれども霊夢や紫は幻想郷と言う外界から隔離された世界でずっと暮らしてきたのだ。
そこにいきなり未来の猫型ロボットが出してくれる道具、なんてものが出てくればどうなるかは目に見えている。
そんな中で霊夢の出した結論はと言うと……。
「あー! もうやめやめ、悩んでても仕方が無いわ」
すがすがしいまでの逃避だった。『自分の知らない事は知りません』とでも言わんばかりに、雑念を振り払うように頭をぶんぶんと振るい、そのままくるりとのび太の方へと向き直る。
「そう言えば名前は……のび太、だっけ? もうこれから外に出ると危ないから、今夜は泊っていきなさい」
「え? まだ夜にはなっていませんけど、ここってそんなに危ないんですか?」
霊夢のこれからの時間、外は危ないと言う発言に少し顔色を青くしたのび太が周りを見る。
確かに霊夢の言う通り、今のび太たちがいる博麗神社の境内の周りを包むように広がる空は、日がすっかり木々の向こうに隠れて薄暗くなりつつあり、だんだんと夜に向けて暗くなっていくであろう事はのび太にも分かった。
けれどもそれだけでしかないはずだ、では夜が危ないと言うのは一体どういうことなのか?
確かにのび太は夜、恐竜に襲われた経験がある。
かつて掘り出した化石の卵を復元しふ化させたフタバスズキリュウのピー助をもとの時代の戻すつもりが、日本近海(当時の)ではなく白亜紀北米に送ってしまった事があったのだ。
その時、北米の海岸で夜キャンプファイアをしている最中にティラノサウルスに襲われた事は今でもはっきりと覚えている。
けれどもそれはあくまで白亜紀、一年の一億倍という途方もない時間の果ての向こう側で起きた話であって現代ではない。
では、一体何が出てくると言うのか……?
「危ないって言うのは、やっぱり恐竜が襲ってくるとか……?」
「「出るかっ、そんなもん!!」」
「はぁ……違うわよ、恐竜じゃなくて妖怪が出てくるのよ。夜は妖怪の時間、襲われて食べられても、文句は言えない。それが幻想郷のルールなのよ」
「本当に、のび太と話をしていると飽きないわね……。でも霊夢の言葉は本当よ、もちろん神社にいれば妖怪も襲ってはこないわ。だから安心していいのよ」
「へぇ……」
自身の記憶を頼りに、夜に遭遇した危険と言う事でのび太の中での候補を挙げてみたものの、それは残念ながら外れてしまったらしい。
恐竜なんて出るか、と言う巫女と賢者からの見事な唱和を見せたお叱りと共に、霊夢はのび太に幻想郷の夜、についての説明をするのだった。
ちなみに、時折驚いたように頷き、まじめな表情で霊夢の話を聞いているのび太だがその様子を見ながら紫は内心『よくよく考えてみたら、幻想郷の妖怪なんかよりも恐竜の方がよっぽど怖いんじゃないかしら?』と思っていたのは内緒である。
もちろん紫自身も恐竜の生きた姿を見た事は無い。それでも賢者を自負するだけあり恐竜がはるか一億年以上前にこの世界を闊歩していた巨大生物だと言う知識は持っている。
それがもし仮に生きて襲ってきたとしたら、どれほどの迫力か、のび太の言葉の意味が紫には容易に想像がついたのだ。
そうこうするうちに、のび太への幻想郷の夜という時間帯についての危険性への説明が終わったようで、立ち上がると普段の巫女の服の上から白いエプロンを結わえて、台所へと向かおうとする。
「のび太が泊まる事を考えてなかったから、材料も少ないしあんまり大したものはできないけれども、何か食べたいものはある? 紫もどうせ食べてくんでしょ?」
「ええ、ごちそうになろうかしら」
少なくとも現状ここ以外に行くあてのないのび太はともかくとして、ちっとも帰らない事から紫も一緒に博麗神社で食べていく事を確認した霊夢が『三人分の材料なんてあったかしらね』と台所の隅に置いてある、食料の入っているらしい棚の中をごそごそと漁っていると、その背中にのび太が声をかけた。
「あの……もしよかったら僕が用意しましょうか? 急に泊めてもらう事になったんですし……」
「いいのよ、のび太はお客様なんだから。それに、用意するって言ってものび太は手ぶらじゃない。うちの台所を貸してもいいけれど、外の世界の人じゃ料理も大変よ?」
のび太の申し出に、せっかくだけどと霊夢が断りの言葉を返す。霊夢としては、のび太が台所を借りて晩御飯を作る事でお礼をしたい、そう思っていると言う判断だったのだろう。
実際、博麗神社の台所は昔ながらの薪を使うかまどが備え付けられた明治時代そのままの作りになっている。
少なくとも、外の世界の台所とは大きく作りが異なっている台所で外の世界から来たのび太が、子供である事を差し引いても調理をできるとは思っていない、それがのび太の申し出に対する霊夢の返事だった。
「あ、いえ。料理なんてする必要ないんです。これがあれば」
「何よ、それ。そんなぼろ布、かまどの焚きつけにでも使うの?」
霊夢の言う通り、のび太が手にしていたのは少し大きめの布。もちろんぼろ布でもないし、かまどの焚きつけに使うなんて事をしたら本来の持ち主のドラえもんが発狂して怒り狂うだろう。
もちろんのび太が手にしたこの布は、霊夢の言うようなかまどの焚きつけのような使い方をするものではない。
『グルメテーブルかけ』
のび太たちがいろいろな世界に冒険に出かけた際にもお世話になった、またのび太の家出や今回の冒険でも、キャンピングカプセル、着せ替えカメラ、そしてグルメテーブルかけと衣食住の一つを担う重要なひみつ道具でもある。
その使い方と言えば至って簡単で、テーブルかけを広げて食べたいメニューの名前を口にするだけ、本当にそれだけである。
お金もいらず、材料を用意する必要もない。
全くのノーコストで料理を出してくれるのだが、万が一にも故障したりしていると、四次元くずかごから以前のび太が引っ張り出した時のように見た目こそまともなものの、味と匂いが殺人的なものになる場合もあったりする。
けれども、そうでなければ絶品の(味にうるさいスネ夫も認めるレベルの)料理がいくらでも出てくると言う、まさに飢えとは無縁となれる夢のような道具なのだ。
「えっと、じゃあ……紫さんの所に戻りましょう。そこで二人に説明しますよ」
「え、ちょ、ちょっとのび太。これから私は晩御飯を作るんだってば」
霊夢の手を握り、紫が待つ居間へと向かうのび太。
まだいったい何が起こるのか理解できていない霊夢は『早く晩御飯を作らないと暗くなっちゃう』とぼやいていたが、結局はのび太の態度に折れる格好で居間へと戻って来ていた。
そこにはまだ数時間しか一緒にいないけれども、のび太の道具が見せた奇跡のような出来事からのび太が言うのなら、何かすごい想像以上の事を起こしてくれるのかも知れない、と言う期待のようなものがあったのかもしれない。
「これも未来の道具でグルメテーブルかけ、って言います。使い方はどこでもドアよりも簡単で……これもやって見せた方がいいかな」
使い方をもう十分に理解しているのび太と、まだ使い方もどんな効果があるのかも理解していない紫と霊夢、三者三様の視線がグルメテーブルかけに集中する。
そこでのび太は、どこでもドア同様に実際に使って見せた方が早いと考え、まず自分の食べたいメニューを宣言した。
「ハンバーグ!」
………………!!!
「「!?!?!?!?」」
ポン、とでも言おうか。
気の抜けたような効果音と共に、テーブルかけの上に湯気の立つできたてほやほやのハンバーグが出現した。
のび太にとっては見慣れた光景だけれども、全く想像していなかった光景に目を丸くし口を大きく開きぽかん、と突然出現したハンバーグを見ている霊夢と紫の二人。
その呆けた顔はとても博麗の巫女と幻想郷の賢者として、他人に見せられるようなものではなかったけれどもそんな事を気にする余裕は二人には残っていなかったらしい。
「な、何よこれ……」
「りょ、料理が。料理が突然出て来たわ……」
「はい、食べたい料理の名前を言うと、このテーブルかけが自動で出してくれるんです」
「な、なんて尊い道具なの……。まさに神の所業よ……ねえのび太、この布神社の御神体として祀っちゃダメかしら?」
「だ、ダメですよ」
「そんな事言って、霊夢食費を浮かすつもりね?」
「な、何言ってるのよ紫。そ、そんな事する訳ないじゃない!」
テーブルかけに対して、料理の名前を言えばいい、と説明をするのび太を他所に、思わずテーブルかけに向けて礼拝をおこなってしまう霊夢。
それどころか御神体として博麗神社で祀りたいなどと言い出す始末。紫のツッコミが無かったら、ジャイアンよろしく力ずくでのび太から奪い取っていたかもしれない。
またのび太はあずかり知らない事ではあるものの、これは巫女としての務めなどで食材やお酒はある程度入ってくるとは言え、なかなか贅沢はできない霊夢にとって好きなものを好きなだけ食べられる事が、どれだけ尊い事なのかその所作や発言が如実に物語っていた。
そして……。
「「「いただきます!!」」」
博麗神社で、未だかつてないほどに豪勢な夕食が始まった。
確かに食材を持ち込みでの宴会をした、と言う経験は霊夢もあるにはある。
けれどもそれはあくまで宴会であってお酒がメイン、わいわいと賑やかに飲むのが主であり食事はあくまでもおつまみ程度と言う事がほとんどなのだ。
それが日常生活の中で、食べても食べてもいくらでも料理を注文できてなおかつそれらが全て無料で材料も要らないのだから、霊夢の食欲ときたらものすごいモノだった。
ちなみにのび太は説明もかねて出したハンバーグ、紫はさすがに人肉は出てこないと踏んだのか『暑いからお蕎麦でも』と、ざるそばを注文。
二人が自分の注文したものを食べている間に霊夢はカレー、かつ丼、ハンバーグと思いつく限りの料理を出してはそれをガツガツと平らげてゆく。
そこに少なくとも女の子、博麗の巫女と言う雰囲気はみじんも無かった……。
……こうして、博麗神社でのび太の幻想郷の一日目の夜は更けてゆくのだった。
はい、二つ目のひみつ道具はグルメテーブルかけでした。
これ、絶対霊夢のび太から奪うか、のび太が折れてフエルミラーなどで増やして霊夢に渡すかすると思うんだよなぁ。
本文中でも書きましたけれど、ノーコストノータイムでいくらでも料理が取り出せるとか、霊夢からしたら絶対欲しい道具だものなぁ。