ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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のび太危機一髪!

フランのありとあらゆるものを破壊する程度の能力を受けてしまったのび太の運命やいかに!?
そもそもどうやって殺る気まんまんのフランに勝てばいいのか!?
と言う訳で紅魔館編、第七話でございます。





決着! となりの紅魔館(その1)

…………………………!!!!!

 

 

 

 

 

…………………………!!!!!

 

 

 

 

 

 

「……これは!?」

「……この揺れは!」

「……フランね、とすると例の子たちは地下か!」

「むきゅぅ、最悪の事態ね……」

 

のび太がフランと戦っている頃、客室から消えてしまったのび太をそれぞれ散開して紅魔館中を探し回っていた霊夢たち。

しかし、めいめいがバラバラに分かれて行動を始めてからすぐに霊夢も魔理沙も、レミリアもパチュリーも、各々がそれぞれの場所ですぐに館に発生した異変に気が付き、立ち止まる。何故なら、その異変が起こっているであろう場所の心当たりは彼女たちにとって一つしかなかったからだ。

館をびりびりと揺るがす振動と魔力の波動、もちろん揺れているからと言って地震が起きた訳ではない。

もし地震による揺れなら魔力が感じられる事などないはずだ。

それが揺れと共に魔力の波動が感じられたという事になれば、その理由を知る四人にとってもう行先は決まったようなものだった。

すなわち、門番の美鈴がのび太に絶対に行かないようにと念を押したはずの紅魔館、地下室。

そこがどうして絶対に行かないように言われているのか、その理由が他でもないフランの存在である。彼女が持つありとあらゆるものを破壊する程度の能力、そんな物騒すぎるものを気安く使われた日には紅魔館の内外が壊されたものの残骸であふれ返る事になる。

そうでなくてもレミリアとフランの両親は、二人が幼いころに行方不明になっているのだ。その原因と思しき能力を制御もできないまま出歩かせる訳にはいかない、両親が不在となりその後を継ぐより他になかったレミリアはそう考えた末に苦渋の決断として、紅魔館が幻想郷に来るよりもはるか以前から妹のフランを地下室へと幽閉し続けたのだ。

その危険な能力ゆえに幽閉状態だったフランのいる地下が揺れる、それはフランが暴れている事に他ならない。おまけにその能力の危険さを紅魔館に住む誰もが知っているため、用事もないのに地下に行く事はあり得なかった。つまりは、フランが暴れる相手が地下にいて、その相手はよほどの事がなければ近づかない紅魔館の住人以外の誰か、となる。

フランとのび太の事を知る四人が顔色を変えたのも無理はなかった。そして、すぐに四人はそれ以上の捜索をやめて、それぞれ大急ぎで地下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランのありとあらゆるものを壊す程度の能力、この『ありとあらゆるもの』の定義には当然物体である以上人間も含まれている。いや、おそらくそれが何らかの方法でもって壊すことのできるモノならば、壊せないものなどこの世界中探してもないのではないだろうか?

そんな物騒な能力を平然とのび太に対し行使したフラン。当然そんな能力に対して対抗するすべなど持たないのび太は、今までに彼女が壊してきた数多の物体同様に断末魔の悲鳴すら上げる暇もなくバラバラに砕け散り、血と肉と、それを包んでいたいくばくかの服がぐちゃぐちゃに混ざり合った無残な死骸へとなり果てた。

 

「あはははは! いい気味ね! オモチャにもならないような力のない人間のくせに抵抗するからこうなるのよ……ハッ。…………って、え!? なんで!?」

 

ぐしゃぐしゃの血と肉の塊へと姿を変えたのび太、妖怪でもここまでバラバラにされてしまったら相当の実力者でもない限り助からない状態までしっかりと壊した事を確認してから、フランは満足げに頷くけれども、すぐにその笑顔は驚きのそれへと変わる事になる。

何故なら完全に壊したはずののび太が、壊れていないぴんぴんした姿でフランの目の前に立っているからだ。

 

「ふぅ、助かった……」

「助かったじゃないわよ! どうして壊したはずなのに無事なのよ! ……分かったわ、貴方人間だなんて言ってるけど、本当は外の世界で長く生きてきた大妖怪なんでしょ。だから再生したのね!」

「え、妖怪?……いや、その……ただ未来の道具で……」

「いいわ! 妖怪だろうと人間だろうと関係ないわ。今度こそ完全に壊してやればいいんだから、えーいっ!!」

 

能力で完全に壊したはずののび太がまったく壊れた様子もなく助かったなどと言いながら生きているという、およそ今まで遭遇したことのない事態にフランが目を丸くして面食らったのは言うまでもない。自分の手とのび太を交互に見比べながら、一体どこで壊し損ねたのか考えるけれども何しろ今までのフランは能力を使えば百発百中で思いのままにモノを壊してきたため、どうしてのび太が壊せないのかさっぱり見当がついていなかった。

それでも、すぐに思考を巡らせてのび太が壊れていないという謎に対してフランが出した結論は……。

 

 

 

『のび太が実は人間ではなく、外の世界で永く生きてきた大妖怪』

 

 

 

であるという、とんでもないものだった。

もちろんそんな事は無いし、そんな話を聞いたらのび太も霊夢も魔理沙も、今はここにいないドラえもんたちもお腹を抱えて大笑いしていただろう。

……約一名、チルノだけは真面目に受け取って「ししょー、すげーっ!!」などとスナオンの力を借りずともコロリと信じ込んでしまうかもしれないけれど。

のび太がフランの能力を受けてそれでもなお生き延びていた理由はなんて事は無い、いたって簡単な事で『最初からそもそも破壊するという能力の効果を受けていないから』なのだ。いくら強力すぎる、というよりもほとんど理不尽に近い能力でも、その効果を受けなければ破壊される心配もないのは当然の事。

のび太が最初に早打ち勝負のようなギリギリのタイミングでスペアポケットから引き抜いたひみつ道具、そこにフランの能力を回避するカギがあった。

銃の形をしたひみつ道具、その名も「ツモリガン」という。これは相手を撃つと撃たれた相手は眠ってしまい夢を見てしまう道具で、その夢の中で今やろうとしていた事を体験させる事によってやったつもりにさせると言う効果を持っている。

実際に使用した時には、今まさにのび太に殴りかかろうとしているジャイアンをツモリガンで撃つ事によってそのまま夢を見始めてしまい、夢の中で思いきりのび太を殴りつけてボコボコにし夢から覚めた時には散々殴ったからすっきりした、これで勘弁してやる。と言う具合である。

今回の場合はのび太がまさにフランが能力を使う瞬間にツモリガンを使用したため、フランは夢の中でのび太に対して能力を使い、破壊したのだけれども当然それはあくまでもフランの夢の中での出来事であって現実ではない。だからこそのび太は何ともないように見えたのだ。

そんな道具を使われたなどとは露ほども疑わないフランはのび太を妖怪だと断じて再度能力を使おうとするけれども、何しろ相手は射撃の天才のび太。

フランが能力を使おうとするたびにそのわずかな時間でもってフランはツモリガンで眠らされてしまい、夢の世界でのび太を壊しては現実に戻り、壊れていないのび太を見る事になる。

 

 

 

「えーいっ!!!!!」

 

「えーいっ!!!!」

 

「……えーいっ!」

 

「……ちょっと!」

 

「……ねえ、そろそろいい加減に壊れなさいよ……」

 

「……もうやだ、こんな化け物だと知ってたらおもちゃにするんじゃなかった……」

 

「お願いだから、もう壊れて……」

 

「助けて、誰か……もう無理……」

 

「い、いやぁぁぁっ!」

 

 

 

壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事。

壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、

壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事、壊す、無事。

壊す、無事、壊す、無事、壊無壊無壊無壊無壊無壊無壊無壊無壊無壊無…………。

 

 

 

一体何回そんなやり取りが続いたのだろうか? 壊しても壊しても、全く壊れる気配のないのび太に、最初は何としても壊してやろうという意気込みがあったのに今では完全に心が折れてしまい、半分泣きながら誰かに助けを求めるという、まるで最初の頃とは別人のような状態になってしまっていた。

こうして人間よりもはるかに長い時を生きてきたという自負さえ完全にへし折られ、気絶という名の現実逃避をフランがする事で、ようやくのび太とフランの命がけの勝負は終わりを迎えたのだった。

 

「……ふぅ、危なかったぁ。けど、フランちゃんには悪い事しちゃったなぁ。それにしても……ここっていったいどこなんだ?」

 

ようやく終わった勝負に、それまでビンビンに張りつめていた緊張の糸が一気に途切れたのか盛大な溜息と共にのび太の全身から、糸の切れた人形のようにへなへなと力が抜けた。何しろ一回でもしくじれば死という、ギラーミンも真っ青な決闘を小学生の身でひたすら繰り返したのだ。むしろ命がかかった決闘にもかかわらず、危なかったで済ませるのび太の神経がどうかしていると誰もが口にするだろう。本人にはそんな自覚はこれっぽっちもないだろうけれど。

その命がけの決闘を支えた、もしこれが無ければ今頃のび太は生きていなかったであろう手に握られたツモリガン。

その新たなる相棒をポケットへとしまい込み、ようやく周りをしっかりと確認する余裕が生まれたのび太は改めて自分が今いる場所をぐるりと見まわす。

薄暗い部屋、というよりも広間と言うべきか。さっきまでいた客室とはうって変わってお化け屋敷の広間かゆうれい城……かつてドイツで売りに出されていたミュンヒハウゼン城の地下牢をうんと広くしたような場所である。実際にフランがここにいた事を考えると、地下牢というのはあながち間違ってはいないのだけど。

その石造りの壁で、その広間の片隅にはフランのものだろうベッドやいくつかの家具が置かれている。

それでものび太は、自分のいる場所がまだ紅魔館の地下室だとは気が付いていなかった。まだここに来る前に飲んだコエカタマリンの効果が残っているのか、「おーい!」と声を発したら飛んで行った声のかたまりが壁にぶつかってばらばらと壊れた。そのことからも壁もかなり頑丈に作ってあるらしい事が伺える。

ひみつ道具さえあればいくらでも脱出できるけれども、かと言ってフランにこてんぱんにやられたチルノと、そして心が折れて気絶してしまったフランを放っておくという選択肢はのび太の頭の中にはなかった。少なくともここから抜け出すにしても、それはチルノとフランの二人がちゃんと目を覚ましてから、という考えのもと、一人無事なのび太は早速動き始めた。

 

「よいしょ……よいしょ……チルノちゃん、もう少し軽くなってくれないかな……。もう、おもかるとう! これで少し体重を減らして……」

 

少し離れた場所で倒れているチルノを運ぼうとしたのび太だが、残念なことにチルノを運ぶにはのび太の腕力ではいささか力が足りなかったようだ。顔を真っ赤にしながらチルノだけではなく、幻想郷の女の子たち全員が耳にしたら本気で怒りそうな事をさらりと口にしながら、おもかるとうの効果で軽くしたチルノ、続いてフランをえっちらおっちらとベッドへと運んでゆく。もちろんベッドに寝かしたら体重を元に戻しておくことも忘れない。

そうして二人をベッドに寝かせてから、さてどうしようかとこれからの事を考えだしたのび太。

まず二人を放ってはおけないし、何よりも自分自身の方向音痴の度合いも考えれば今いる場所がどこかも分からないのに出歩くというのは危険すぎる。ちなみに、もう一度スペースイーターを取り出して、元居た客室までの、壊れた超空間のトンネルをもう一度作り直すという発想の持ち合わせは残念ながらなかった。

 

「部屋の外へ、ってスペースイーターには言っただけだからそんなに遠い場所に出口がつながったとは思えないし、地獄とかあの世とかに繋がったわけじゃなければ霊夢さんたちが助けに来てくれると思うんだけど……」

「……う……うーん、いや……こないで……なんで壊れないの……」

「大丈夫、フランちゃん……。ツモリガンで何回も夢を見せちゃったから、まだ同じ夢を見てるのかも……?」

 

霊夢たちがきっと助けに来てくれると思いつつも、さてこれからどうするかなどと考えているとフランがうなされ始めた。のび太のツモリガンによる何度壊しても決して壊れない不死身ぶりは、どうやらフランの心にとても大きな傷を残したらしい。一度気絶してしまったはずなのに、それでもなお嫌がるのだからよほど嫌だったのだろう。

残念ながら、眠る事については人一倍……いや十倍も百倍も得意なのび太からすると悪夢にうなされるという経験はほとんどした事がない。しかしそのわずかな例外なのが、どくさいスイッチをドラえもんから貸してもらい、世界中の人間を消してしまった時だろうか。当然、どくさいスイッチを借りた時からだいぶ経つけれども、決してその時の恐怖を忘れた訳ではない。

その自分が経験したのと同じような悪夢を今、フランが見ているのだとしたら、たとえ命を狙った相手だとしてもそれを放っておけないのが、のび太の性分だった。

 

「うーん、こういう時どうしたら落ち着いてくれるかな……。ドリームプレイヤーで楽しい夢を見せるのも、たぶん先に寝ちゃってるから無理か……。ほかの道具で夢を外からいじったりできる道具ってあったかな……ないか……。となると、どうしようか……」

「……誰か……たすけて……」

「こんな時になぁ、ぐっすり眠る方法は……これしかないかな……」

 

ごそごそとしばらくポケットの中をあさって、結局憶えている限りの道具の中でのび太の希望にかなった道具は見つからず、のび太がとった方法は子守歌、だった。

かつて「のび太の宇宙小戦争」でピリカ星へと降り立った時、首都ピリポリスの地下に存在するギルモア将軍の体制に反対するレジスタンス組織・自由同盟のアジトでメンバーの一人が歌っていた曲。

歌を聴き終わってすぐに逮捕されてしまい、結局彼から曲の名前も聞けなかった、けれども忘れようとしても忘れられない曲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しい時には 町のはずれで

 

電信柱の明かり見てた

 

七つの僕には 不思議だった

 

涙うかべて 見上げたら

 

虹のかけらが キラキラ光る

 

瞬きするたびに 形を変えて

 

夕闇にひとり 夢見るようで

 

しかられるまで たたずんでいた

 

ああ僕はどうして 大人になるんだろう

 

ああ僕はいつごろ 大人になるんだろう

 

 

 

目覚めた時は 窓に夕焼け

 

妙にさみしくて 目をこすってる

 

そうか僕は 陽ざしの中で

 

遊び疲れて 眠ってたのか

 

夢の中では 青い空を

 

自由に歩いて いたのだけれど

 

夢から覚めたら 飛べなくなって

 

夕焼け空が あんなに遠い

 

ああ僕はどうして 大人になるんだろう

 

ああ僕はいつごろ 大人になるんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、悪夢にうなされるフランを寝かしつけるための歌だったはずなのに、気が付けばのび太の方もこっくりこっくりと舟をこぎ始めていて。

 

「ぐぅ……ぐぅ……」

 

あっという間にそのままのび太もまた、夢の世界へと旅立って行ったのであった。




はい、前回の答え合わせはツモリガン、でした。
読者の皆様きっちり正解してきますからね……ツモリガンなんて大長編でも使われない割とマイナーな道具だと思うんだけどな 

また今回のび太が歌った少年期については、漫画大長編ドラえもんでは自由同盟のアジトについてすぐに会議を始めてしまいますが、劇場版では自由同盟のメンバーの一人がギター片手に歌うというシーンがあるため、それをもとにのび太は聞いた事があるという設定にしました。
なお、のび太が映画主題歌を聴いているのはこの宇宙小戦争の少年期とワンニャン時空伝のシャミ―が披露したYUME日和しかなかったかと思いますが、後者は女性ボーカルの歌という事もあり、のび太が歌うにはちときついんじゃないかとの考えから(後作者の個人的な好みから)少年期を採用しました。




さて、フランをどうにか退けたのび太。
フランはどうなるのか? そして、消えてしまったスカーレット姉妹の両親の謎は?
いよいよ紅魔館編も佳境に入ります。

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