どうにかフランとの死闘に決着をつけたのび太、さてさてこれでようやく異変も解決し人里に帰る……のでしょうか?
「うぅー……うぅー……」
「ほらフラン、何しているの。幻想郷でも名だたる名家スカーレット家の次女ともあろうフランがそんなにいつまでも負けにこだわるんじゃないわよ」
「だってだってお姉さま、あんなの卑怯よ、反則よ! どうやってあんな能力に勝てばいいのよ! 『撃たれた時にやろうとしていた事をやったように夢で体感させる』なんて、絶対に勝てないわよ! それに、つまりはこの子その銃で私の事何回も撃ったんでしょ? うぅ……」
「いや、それ言ったらアンタの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だって大概でしょうが」
「あー、えっと……ごめんなさい……」
「ししょーはやっぱりすごいな、あたいが全くかなわなかったフランをやっつけるだなんて。あたいも次は負けないようにししょーと修行するからな」
異変も無事に解決し、場所が変わってここは紅魔館の食堂である。そこで今回の異変に携わったのび太にチルノ、異変解決のためにやって来た霊夢、そして魔理沙。紅魔館側からはレミリア、パチュリー、そしてフランに咲夜と美鈴。紅魔館の主力たる面々と霊夢に魔理沙とのび太たち、つまりは今回の異変に関わったメンバーが一堂に会すると言うなかなか壮観な光景が広がっていた。
もちろんこのような事になったのにはちゃんとした訳がある。
「……よし、ひとまず異変も終わったし帰るとするか」
「そうね。ひとまずこれで異変も終わりだし、のび太も寺子屋で勉強途中で投げ出してきたんでしょ?」
「あっ、いっけない! どうしよぅ……慧音先生に怒られる……」
「大丈夫よ、私たちものび太の事説明して怒られないように話をしてあげるから」
「よかったぁ、またあの頭突きを受けたくはないし『ぐぅぅぅ……』」
異変も解決したと霊夢が宣言し、さて人里に帰ろう。でも今帰ったら寺子屋で宿題をしている最中に逃げるように飛び出してきたから間違いなく慧音に怒られる、と悩んでいたその時、のび太のお腹が盛大に空腹を訴えた。
なにしろ寺子屋から抜け出して紅魔館までやって来てから、さらに何時間も時間は経過している。のび太がお昼を食べずにやって来たのび太の腹の虫が盛大に騒いだのも無理はなかった。
そんな様子を見たレミリアが、これはひみつ道具や色々な話を聞くチャンスとばかりに「あら、ずいぶん大きな腹の虫じゃない。どうする、なんならウチで一緒に食べてく?」と提案してきたのだ。
お腹がペコペコなのび太からすればこの提案に乗らない理由はなく、ついでに保護者としての立場と食費が浮くと言う経済的な理由から、霊夢や魔理沙も首を縦に振り、紅魔館の主要メンバーと霊夢や魔理沙にのび太という面々による、大昼食会をという話になったのだった。
こうして食堂に集まったのだけれども、残念ながらその中で唯一のび太と戦いそして気が変になるほどの恐怖を体験させられてしまったフランだけはのび太に負けた事をいまだに根に持っているらしい。目を覚ましてからも、食堂に移動するときに、果ては席についてからも。ずっとのび太の事をにらんでいたのだから。
結局このフランとのやり取りはメイド長でもある咲夜が料理を持ってくるまで続いたのだった……。
※
「美味しーいこの料理、こんなに美味しい料理食べた事ないや」
「大丈夫ですよ、そんなに慌てなくてもおかわりはいくらでもありますから」
「ちょっと、のび太だっけ? 貴方、そんなに慌てて食べたらのどに詰まるわよ? 咲夜の言う通りもう少し落ちついて食べなさいよ」
「グルメテーブルかけの料理も……ガツガツ……美味しいしお手軽だけれども……さすがにモグモグ……この料理には負けるわね……んぐ、っ……ふぅ」
「霊夢はもっと落ち着いて食べるべきなんだぜ……」
「ちょっと、誰も盗み食いなんてしないんだから食べるならもっと上品に食べなさいよね霊夢」
「よーし、あたいもししょーに負けないように食べるぞ」
「あー、確かに美味い料理だが、チルノも張り合わなくていいんだぞ」
最初はグルメテーブルかけで全員分の料理を用意しようとしたのび太。初めてグルメテーブルかけを見た霊夢よろしくただの布切れで何をするのか? といぶかしげにその様子を見ていたレミリアに霊夢と魔理沙が持ち主でもないのに得意げに効果を説明すると、対抗意識を燃やしたのかメイドの恰好をした咲夜へと指示を出したのである。すなわち食事の用意を、と。
もちろんパラレル最遊記で妖怪軍団の本拠地火焔山の中、妖怪軍団の羅刹女がやったように縄で縛られたままマグマのように燃え盛る炎にかけられ、ぐつぐつと煮えたぎった油で満ちた鍋に、のび太を放り込んだ訳ではない。
ただ、本当にのび太のグルメテーブルかけ並みの速さで、目の前に料理を出現させたのだ。
グルメテーブルかけとも違う、でも瞬時に料理を出すと言う種も仕掛けも分からない料理に最初は驚いたのび太だったけれども、その好奇心さえ先刻から訴え続けている空腹を前にしてはとうてい勝ち目などなく。のび太は、そして霊夢は出された料理へと飛びついたのだった。
その勢いに供された見事な料理はあっという間に消えてゆく。あまりの食べっぷりにレミリアも苦言を呈するけれどものび太も霊夢もそんな事を気にする様子は全くない。
「げっぷ……、もう食べられないや……ごちそうさまでした……」
「お粗末様です」
「本当によく食べたわね……」
「でもお嬢様、もてなす側としてはこれだけ美味しそうに食べてもらえると嬉しいものですわ」
「霊夢の食べっぷりは美味しそうと言うよりも意地汚い、の方がしっくり来そうだけどもね」
「あたいももう食べられない……」
こうしてどれだけ時間が経ったのか。数々の料理を食べ、完全に一口も入らないという所まで食べに食べたのび太に霊夢、そしてのび太に負けじと食べたチルノ。そのお腹の様子は『目は口ほどに物を食べ』のエピソードで登場した食品視覚化ガスの効果で限界近くまで満腹になった時のドラえもんやのび太のようである。
つついたらそのまま爆発してしまいそうなほどにふくれたお腹をさする三人。ようやく空腹も満たされて人心地ついたところで、のび太が思い出したように咲夜へと質問を投げかけた。
やはりどうやって何もないところから、何もひみつ道具も使わずに料理を取り出したのか? あるいは出現させたのか? 空腹が満たされた事で好奇心が戻って来たらしい。
しかしその質問に答えたのは、メイドの咲夜ではなくその主であるレミリアだった。
何しろ客室から地下室へ、そのままフランとの戦いという忙しい一日を過ごしていたのび太にとって紅魔館の面々が誰なのか。そもそも果たして人間なのかあるいは妖怪なのか、名前さえ紹介されていないのである。
自己紹介も含めてちゃんと仕掛けを説明してあげなさいと言うレミリアの言葉が無ければ、のび太にとっては紅魔館の門前で自己紹介を済ませた美鈴以外は謎の人物でしかなくなってしまうだろう。
「お姉さん、さっき何もないところから急にいろいろなごちそうを出してくれましたけど、あれってどうやって出したんですか? グルメテーブルかけを使っている訳でもなかったみたいですし手品みたいにも見えましたけど、タネもしかけも分からなかったですし……」
「そうよね、おそらくあれは初めて見た者にはわからないだろうしね。なら、お互いに私たちの自己紹介も含めて咲夜、そろそろこの子にちゃんとネタばらしをしましょうか」
「かしこまりましたお嬢様。えっとですね、私の名前は十六夜咲夜、以後お見知りおきを。さっきの質問の答えですけれども、私は普通の人にはない能力を持っていまして『時間を操る程度の能力』を使えるんです。だから、さっきは時間を止めてその間に料理を作って、お皿を並べた所で止めていた時間を解除した、という事ですわ」
「そうね、私たちは何らかの能力を持っているのよ。咲夜の場合は時間を操る、魔理沙なら魔法を使う、そっちのレミリアは運命を操る、ちなみに私は空を飛ぶ程度の能力、ね」
「咲夜さん、ですね。僕はのび太、野比のび太です。でもすごいですね、時間を止めたり運命を操るだなんて……まるでひみつ道具みたい。でも、それって時間を止めたまま解除できなくなる、なんて事は無いんですか……?」
「解除できなくなる? さすがにそれはないわね、もしそうなった時の事は想像したくもないけれど」
「へぇ、いいなぁ……。時間も止められるし解除できなくなる心配もないなんて」
そんなレミリアのお陰でだったが、まずは時間を操ると言う能力と共に自己紹介を受けたメイドの咲夜。
人間ではあるけれども、時間を操り停止させた世界で行動できると言うのび太の扱うツモリガン並みに反則としか言えない能力である。
しかしそんな反則級の能力でさえ、のび太からしてみればひみつ道具で何回も体験した事のある事象だった。そして、その恐ろしさを嫌というほど体験した事象でもある。
というのも、以前のび太はドラえもんが出した『タンマウォッチ』を使って世界の時間を止めた際、時間を止めたままタンマウォッチを壊してしまい、結果として間停止を解除できなくなった事で時間を止める前の世界にタイムマシンで戻り、ドラえもんに壊れたタンマウォッチを直してもらい事なきを得た事さえあったりする。
そんな事もあってのび太の昨夜の能力の説明に対する反応は実に羨ましそうなものだった。
もちろんその言葉を聞き逃す周りではない。時間を止めるなどという反則的な事さえひみつ道具さえあれば軽々とできるのかと、真っ先に魔理沙が反応した。
「おいおいのび太、その口ぶりだと……まさか時間を止めたり運命を操ったりまで未来の道具でできるんじゃないだろうな?」
「え? あ、はい。めったに使う事はありませんけど、そういう道具は……あります」
「あるのかよ……未来世界ってどうなってるんだ本当に」
「どうやら本当に新聞に書いてあった事は本当みたいね、天狗の新聞なんて嘘ばっかりで真実なんてろくに書かないものとばかり思ってたけど……。と、話がそれたわね。私は紅魔館の当主を務めている吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。こっちは図書館に普段こもりきりの魔女、パチュリー・ノーレッジ。図書館以外ではあまり見ないかもしれないけれどもね」
「うるさいわねレミィ。今紹介に預かった魔女のパチュリーよ。能力は私も魔女だから『魔法を使う程度の能力』ね。あ、ちなみに騒いだり泥棒をしたりしなければ図書館はいつでも門戸を開いているわよ」
「図書館は、ちょっと……僕はいいかな……」
「……私はもうさっき名乗ったからいいわよね。次こそは、次こそは絶対に負けないんだからね!」
「いや、あの……さすがに僕はもうあんなおっかない事はやりたくないんだけどなぁ……」
「大丈夫よのび太、さすがにフランの能力は私たちでも危ないんだから。そうならないように私たちもちゃんと守るから安心して」
「……あれ? でも……フランちゃんの能力って、なんなんですか? 皆さんいろいろと能力を持っているって説明してくれましたけど。ひょっとしてフランちゃんは能力を持っていない、とか? それに、どうしてあんな薄暗い部屋にいたんですか? やっぱり吸血鬼で、太陽の光は苦手だから……?」
「「「「「「……………………」」」」」」
何はともあれ、先に門前で自己紹介を済ませていた美鈴と地下室で名前を名乗っていたフラン以外の面々とも、のび太はこうして自己紹介は済ませた訳だ。
と、ここで全員の名前を紹介された(名前はともかく、それぞれ各人が持つ能力をのび太が覚えていられるかどうかは別として)のび太が首を傾げた。
紅魔館の面々との自己紹介を終えたのはいいけれども、直接戦ったフランだけは自分の能力を教えてくれなかったのだ。これだけみんながみんな自分自身の持つ能力について説明をしてくれたのに、まさかフランだけは能力がない、なんて事はあるのだろうか? そう思っての質問だった。
もちろんのび太は知る由もない。フランが持っている能力についても、それにどうして全体を包み込むように対魔力に特化した非常に強固な結界が張られている場所に軟禁同然に閉じ込められていたのかも、一切事前の説明さえ受けていないのだから。
だからのび太の何の悪意も偏見もない、ただ好奇心から発せられたはずの質問に答えられる人物は、この場所には誰もいなかった。
ただ一人を除いて。
「……そうね、この質問には私が答えるのが筋よねお姉様」
「フラン……」
のび太の質問に霊夢や魔理沙も含めた、その場の誰もが答えに窮したのかじっと押し黙ってしまう中で口を開いたのは他でもないフラン自身。
けれどもその目に映る悲しみの色は一体何なのだろうか? 果たしてのび太がフランの瞳が宿すその色に気が付いたのかは分からない。ただ、自嘲するかのように彼女はのび太からの質問に対する答えの説明を続けていく。
「貴方が心配しなくても私だって能力はちゃんと持ってるわ。私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』ね。物騒でしょ? このありとあらゆるもの、に制限はないの。私にかかったら人間だろうがお姉さまだろうが、この紅魔館だって空から降ってくる隕石だって私にかかったら関係ないわ、あっという間にバラバラの粉々に壊せちゃうの。そして私は……」
「……私たちのお父様とお母様さえ、この手で壊したのよ」
「え……!?」
「だから私はそれ以来貴方が入って来た地下室にずっとずっと、495年間閉じ込められ続けてきたの。貴方にわかるかしら? 大好きだったはずのお父様もお母様も私の能力で壊しちゃった私の気持ちが。貴方にはわかるかしら? 495年間ずっとずっと一人ぼっちで暮らすしかなかった私の気持ちが」
あまりにものび太にとって衝撃的、としか言いようのない破壊力でもって入り込んできたフランの発した『両親さえ能力で破壊してしまった』という言葉。それ以降フランの言葉がまるで意味をなさないほどに、その言葉はのび太の心に大きく響いていたのだった……。
はい、今明かされたレミリアとフランのスカーレット姉妹にどうして両親がいないのかその真相? が語られました。
なので幻想郷冒険記の紅魔館ではフランの手によってスカーレット両親が消滅してしまい、幼いレミリアが当主として立たざるを得なくなってしまった。両親を消すような物騒な能力を持つフランを手放しで自由にはさせておけず、地下室へと幽閉させた。
そして数百年後、幻想郷へとのび太がやって来る……そんな流れとなっております。
さて、いよいよ紅魔とのび太の物語も終わりが近づいてまいりました。
封印の意味とは?
次回、乞うご期待っ!!!