大変遅くなりましたが、年末年始でリアルが多忙のため大晦日には上げられませんでしたが、来年まで待つのも面倒なので番外編という事で、アップさせていただきました。
幻想郷冒険記本編も、また新年になり随時アップしていく予定ですので、本年度もどうぞ宜しくお願い致します。
とっぷりと日が落ちてしまい真っ暗な空の下、しんしんと真っ白い雪が降り注ぐ幻想郷の冬。
外の世界とは違い、街灯がある訳でもましてや車やバスといった公共機関がある訳でもない幻想郷。
当然寒い冬に、ましてや雪が降る中外に出歩こうなどという者は人も妖怪もそういる訳ではない……はずなのだが、ここ博麗神社の境内ではもうあと数時間でやってくる新年に向けて大晦日から元旦にかけての支度でてんてこ舞いではなく、それとはまた別の熱気に包まれていた。
「ウ……うぐぐ……」
「おおっと! ここで外からの挑戦者ジャイアン選手とうとう脱落です! これで残すのはあと四人となりました!!」
「うーん」という声と共に、ジャイアンがばったりと倒れてしまい、実況を務める射命丸文が高らかに敗退を宣言する。倒れたジャイアンがその手に持っていたのは一枚の写真、そこに写っているのはお茶碗程度のサイズのお椀に程よく盛り付けられた蕎麦の写真である。ただしただの写真と侮るなかれ、その写真にはドラえもんのひみつ道具である食品視覚化ガスがたっぷりと吹き付けられているのだ。
『食品視覚化ガス』
これは22世紀にて忙しくてご飯を食べる暇もない人のために、という目的で開発されたと言う経緯を持つ。その使用方法はいたって簡単で、ただ食べ物の画像に向けてガスをふりかけ、その画像を見ると自然に口の中にその食べ物の味が拡がり、お腹がふくれると言う効率よく食事を摂取する事を可能とした道具なのだ。
その効果の幅は非常に広く、料理の作り方教本、あるいはテレビ、絵本にさえその効果は及ぶのだ。
具体的にはテレビに吹きかけて番組を見ていると、通常の放送の時は何も反応しないのだけれども、食べ物のCMなどが流れるとその時だけ効果を発揮する、絵本でもヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のページで効果を発揮するなど、対象は実に幅広い。
もう一つの特徴は、誰と見ても平等にお腹がふくれると言う点だろう。
ヘンゼルとグレーテルの絵本に出てきたお菓子の家のページでは、絵本の持ち主の男の子、それにジャイアンとのび太、ドラえもんの合計四人で眺めていても一向に減る事もなく、またガスの効果が続く限り何人で見ていても、みんなで味わい、お腹を膨らませる事ができるのだ。
ただし、そんな非の打ちどころのないようなこのグルメテーブルかけにも勝るとも劣らないように思えるひみつ道具にも一つ大きな欠点があった。
それは、歯止めが利かないという事である。
見ているだけでお腹が勝手にふくれてくれると言うのは非常に便利なのだけれども、逆に言うと見ている限り止められない、強制的にお腹が膨れ続けるという事でもあった。
実際に絵本を見続けていたドラえもんとのび太は夢中になってしまい、その結果お腹がまあるくなるまで見続けてしまい大変な事になり、パパとママは先に作り方にかけておいたガスの効果で、読みながら満腹になり居間で野比家の家族全員がダウンすると言う羽目になってしまった。
そして今博麗神社の境内で行われているのは、まさにその見ている限りお腹が膨れ続けると言う性質を利用した、食品視覚化ガスを噴霧した食べ物の写真をどれだけ長く見ていられるかという、大食い大会であった。
何しろ食べ物の写真と食品視覚化ガス、それに会場さえあればあっという間に大食い大会ができてしまうのだ。本当なら大量の料理を用意したりする必要もあるかもしれないが、この組み合わせなら準備があっという間にできてしまうし、無駄に食べ物を作ったり粗末にすることもない。
「こんばんは、霊夢さん」
「あら、のび太たちじゃないいらっしゃい。お賽銭箱はこっちよ。ジャンジャンお年玉を落としていっていいのよ」
「い、いやぁ……さすがにお年玉を入れていくのは僕らには辛いんで……」
「まぁ……それなら仕方ないわ。その代わり、お客を呼べるようなお祭りみたいな事できないかしら?」
「うーん……何がいいかな」
大みそかに、どこでもドアの時間調整機構を利用して(一度外の世界できちんと大みそかを迎えてから、全員でどこでもドアの向かう先を大みそかの夕方の幻想郷へとずらす事で)幻想郷へとやって来たのび太たちは境内で出迎えてくれた霊夢に早速お賽銭を要求されながらもどうにか子供にとって一年の命綱とも言える、大切なお年玉を守り切った。
その代わりに何か参拝客を集めるいいイベントはないか? と霊夢に持ちかけられたドラえもんとのび太が思い付いたのが、件の大食い大会だった。
それに食いついた霊夢がどこでもドアを使って人里の人々や幻想郷の各実力者たちに開催を告知、おまけに神社や寺などで年末忙しい者にはコピーロボットまで貸し付けた上に、優勝者には『やくよけシール』というオカルトかなにかとしか思えない者でありながら、22世紀の科学が生み出した強力なお守りを渡すと言う破格の条件で参加者を募ったのだった。
この参加する人などいるのかと思えるイベントの開催を宣言したところ、予想に反してあちらこちらから食欲に自信のある人や妖が参戦(ちなみにやくよけシールの賞品については霊夢が勝手に宣言してしまったりする)。
何しろ本業をコピーに任せておけるのだから、そういった騒ぎに参加したくてもできなかった妖怪や人々もこれなら参加できると喜び勇んでやって来たのは言うまでもない。
また、話を持ちかけた時に最初は一部から「食べ物を粗末にするのはいけません!」などと反対意見も出たものの、写真を用意するだけで解決すると知ってからはむしろ面白そうと、嬉々として参加表明する始末。
こうして、おそらく幻想郷が始まって以来初めてであろう大食い大会の幕がここに切って落とされたのであった……。
*
『ルールはいたって簡単で参加者は同じかけそば一杯の写真をひたすら見続けるだけ、である。
ただし、目をつぶったり目をそらしたりして十秒以上写真を見る事をしなかった者はもうこれ以上食べれないとみなし、失格とする』この単純極まりないルール、すなわちひたすらに写真を見続ければいい、という内容に参加者の多くは大食い勝負と言いつつ簡単な事じゃないかと、高を括っていたのは間違いない。
しかし、写真を見続ける限り勝手にふくれ続けるお腹、そして本物の料理ならば箸を休めるなどの方法をとる事もできたかもしれないけれども、それすら許されずに限界までひたすら満腹になってもなお写真を見てかけそばを腹に入れなければならないと言う苦行に、軽い気持ちで挑んだ多くの挑戦者が、お腹を毬か風船のように膨らませて博麗神社の境内に沈んだのは言うまでもなかった。
ちなみにジャイアン以外のドラ、のび、しず、スネ、出木杉も一緒に来ていたが、ドラ・のび・スネの三人はさすがにジャイアンほど食べられる自信がなく、不参加を表明。のび太がこちらに来た事で飛んできたチルノやフランと一緒にジャイアンの応援に回っていた。またしずかは巫女服に着せ替えカメラで着替えて神社の手伝い、そして出木杉は例によって稗田阿求と歴史について熱い議論を交わし、幻想郷でなくてもできるだろうと言いたくなるような時間を過ごしているのだった。出木杉にとって幻想郷とは外の世界では得られない知識を与えてくれる場所なのかもしれない。
兎にも角にも、こうして話は冒頭に戻る事になる。
「ジャイアン選手の脱落であと残っているのは四人! 幻想郷でも有数の大食い亡霊・西行寺幽々子選手! そして命蓮寺から訪れたまさかの刺客・聖白蓮選手! そしてあの絵に描いたようなぐうたらがまさかの参戦・蓬莱山輝夜選手! 最後は輝夜を倒すのはこの私だと意気込む竹林の蓬莱人・藤原妹紅選手! さあ、この中で最後に残るのはいったい誰なのか!?」
鴉天狗の文の実況通り、残っている選手は四人。そして、皆が皆とも尋常ではない実力者でもある。
しかし、これが身体能力をフルに生かした戦いあるいは弾幕ごっこならばともかく、大食い対決ともなると若干勝手が違ってくる。
事実、食欲に関しては「一体どこにそんなに入るんだ?」と言わんばかりによく食べる事に定評のある幽々子はまだまだ食べられそうな顔で写真を見ているのに対して、彼女以外の三人はだいぶつらそうな様子が見て取れる。
「「「「「「…………!! …………!!!」」」」」」
そんな強者四人の見せる戦いに、ギャラリーたちからの熱い声援は途切れることなく続いていた。
とは言っても別に誰が勝利するか、外の世界の競馬や競輪のように賭けが行われている訳ではない。それはやろうとして既に霊夢が紫からきつく実力行使でもって止められていたからだ。
ただ、年末という特別な熱気がそうさせるのかあるいは死力を尽くして普段の弾幕ごっこよりも鬼気迫る眼力で写真を見続けると言うシュールな光景がそうさせるのか、それは分からない。ただしそれは
「輝夜に! 輝夜にだけは絶対に負けられない!! 負けたら顔を合わせるたびに、絶対にこのネタで煽られる、それだけは避ける!!」
「亡霊なんかはいいのよ! 妹紅よ! 妹紅にだけは絶対に負けられないの。負けたら今年一年は絶対にこのネタで弄ってくるに決まってるんだから!」
「うーん、やっぱりこの見てるだけでお腹が膨れるって言う道具、便利ねぇ……」
「……くっ、確かに実際の食べ物は使っていないとはいえ、仏法に帰依した私がこのように食欲という名の煩悩に溺れていいのでしょうか……? 申し訳ありませんが、私はここで棄権とさせていただきます」
「おおっと、自分だけが満腹になる事に罪悪感を感じたか、ここで聖白蓮選手自ら棄権を宣言! しかし様子を見る限り全く苦しそうではありません。実は幽々子選手にも勝るとも劣らない大食いなのでは? 何はともあれ、ここまで健闘した白蓮選手に盛大な拍手を!!」
『パチパチパチパチ……!!』
潔く、勝利よりも自分の立場を考えて引いた白蓮。その潔さとまだまだ余裕のある態度から、まだまだ食べられたのかもしれないが、真相は彼女のみが知る。
そして、残った三人のうち誰が勝利し、幻想郷大食い王の栄冠に輝いたのか。
「うー、うー……く、苦し……妹紅も、なかなかやるわね……」
「輝夜こそ…………。しかし、食べ過ぎで死にかけるってのは……1000年生きてて初めてかもな……」
「二人とも……なかなかやるじゃない……次はしっかりと決着をつけたいわね……」
「次なんてある訳ないでしょう!! 何で年末にこんなに患者がやって来るのよ!!!」
その三人は、永遠亭で仲良く限界まで、いや限界を超えて食べ過ぎた事で同じタイミングで倒れ急患として永遠亭に運ばれていた。
限界を超えるまで食べ続けた三人には、これがきっかけで奇妙な友情が生まれていたようだけれども、年末これからさあゆっくり年越しをしようというタイミングでいきなり急患が、しかもそのうちの一人は永遠亭の姫である輝夜という笑えない事態に、永遠亭の病室で食べ過ぎの薬を調合しながら永琳は二度と大食い大会なんか開催させるものかと、柳眉を吊り上げながら決心をするのだった……。
今回の大晦日は『ひみつ道具で行う大食い大会』でした。
ええ、食品視覚化ガス、あれ絶対に大食い大会に向いていると思うんだ。
視線を外さない限りひたすらお腹膨れ続けますからね。……食の細い相手に使うとただの拷問な感じもしますけど(汗
ちなみに最終的に決勝戦に残った面々の中で、一番強いと思っているのは実は白蓮姐さんです。
身体能力を強化する魔法、を使える彼女なら消化、吸収などといった体内の生理機能も強化できるのではないか? というのがその理由ですね。
ただ、本来ならば仏法に帰依した身である白蓮が必要以上に食事をすると言う、大食い大会に参加するのは中々今回のような特別なお祭りでもない限り難しいかなと思い参加させてみました。もっとも結果は御覧の通り、ただ食欲に溺れるような行動に耐えられなくなり自ら棄権という結果になりましたが……。
何はともあれ、次の交信はまた幻想郷冒険記本編になります。
今年もまた、一年間どうぞ応援宜しくお願い致します。