紅魔境編最新話の更新です。
過去の紅魔館からどうにかレミリアとフランの両親を助け出した? 連れてきたのび太たち。そこに突然聞こえてきたのは怪しい声。
果たしてこの声の正体は? そうしてレミリアとフランの両親はどうなってしまうのか?
それでは、続きをどうぞ。
紅魔館の食堂に集う一同とはまた違う、透き通るような声。そんな声にのび太があ、と思う間もなく皆のいる目の前の空間がぱっくりと口を開けてそこから見覚えのある金髪の女性が現れた。
学校でよく忘れものをするのび太だって忘れもしない、白と紫色の特徴的な服に白い帽子をかぶる、のび太がここ幻想郷にやって来た時森の中で最初に出会った人物……もとい妖怪である。
「紫さん! どうしたんですか急に?」
「のび太久しぶりね、その様子だと幻想郷を楽しんでくれているようで管理者たる私も嬉しいわ」
「……まて、お前はいったい何者だ? 我が紅魔館に勝手に入り込んでくるとは……中々無礼な妖怪じゃないかな? それとも、この時代の妖怪はそんな無粋な輩であふれているのかな?」
「確かにこれは失礼しましたわ、急な訪問はお詫びいたします。私は八雲紫と申します、この幻想郷の管理を務めている、妖怪の賢者ですわ」
「ちょっと、そんな挨拶しに来たわけじゃないんでしょうが、なんでこんなところに紫が出てくるのよ」
この、誰もが全く予想していなかった紫の登場にさすがのスカーレット父親も思わず貴族らしからぬ強い口調で問いただしてくる。まあ、時代が変わったとはいえいきなり自分の館に空間を超える格好で妖怪が乗り込んでくればそういう反応になってしまうのは仕方がない事か。
そんな彼へとうやうやしくお辞儀をしてみせた紫、何も知らない人がその様子だけ見れば誰も彼ら彼女らを妖怪だなどとは思わないだろう。
そんな様子を見せる紫に何をしに来たのかと霊夢が口をとがらせるけれども、その程度で紫の涼しい顔をどうこうできる訳もなく。いや、涼しい顔をしているのはスカーレット父親への自己紹介とあいさつが終わるまでだった。
「あら霊夢「なんで?」だなんてそんなの決まってるじゃない、博麗大結界に触れずにいきなり強大な妖気が二つも感知されたら、何があったのか確認しない訳に行かないでしょう。で、またのび太のあのドアを使って外の世界から誰か連れてきたのかしら?」
「「………………あ」」
「あー、その今度はどこでもドアでじゃなくてですね……」
「……あら、あのドア以外にも博麗大結界に触れずに幻想郷に入って来れる道具がまだあったのかしら?」
霊夢が何でいきなりやって来るのかと問いただせば、その表情はたちまち険しいそれへと変わる。が、それも彼女の理由を聞けば、幻想郷に暮らす霊夢たちはすぐに納得するものだった。
何しろ、皆はレミリアとフランの両親を助けると言う善意で行動していたけれども、紫からしてみればのび太がこの幻想郷に来た時と同じように博麗大結界を破るでも、触れるでもなく一切何もせずに幻想郷に出現した二つの巨大な妖気がひょっこりと出現したという事に他ならないのだ。
人間ならばまだ対処の仕様もあるけれども、それが妖怪ともなれば、それも強力な力を持った者となれば警戒するのは当たり前なのである。
そんな紫にのび太はこれまでの顛末を説明するのだった。
しかし、紫はまだのび太を甘く見ていた。紫の認識はまだ、どこでもドアで外の世界から誰か新手の妖怪を連れてきた程度でしかなかったのだ。
のび太説明中……
のび太説明中……
のび太説明中……
「……と言う訳なんです」
「…………何よそれ、時間を越えて過去と繋がる道具? 数百年前の妖怪を二人過去から連れてきた? どうしてそんなに簡単に時間も博麗大結界も超越するのよ! 妖怪の賢者だって万能じゃないの、わかる? 理解できる限度はあるのよ? それなのに霊夢! 貴女がついていながら簡単に歴史をホイホイ変えさせようとするんじゃないわよ! 一体歴史をなんだと思っているのよっ!!!」
のび太の説明を聞いた紫は、思わずその場で頭を抱えてしまう。
のび太がここにやって来た時と同じように、どこでもドアで結界に触れることなく幻想郷にやって来たと思ったら、今度はあろう事かタイムホールとタイムトリモチという時間を超える道具でもって過去の時代から、当時蒸発して行方不明となってしまったレミリアとフランの両親を連れてきたと言い出したのだ。
おまけに霊夢が歴史が変わるかもしれないという事を危惧していたにもかかわらず、スカーレット両親の救出による過去改変をまるで団子や夕飯のおかずか何かのように軽い口調で実行しようとしたのだ。
たった今、スカーレット両親に自己紹介したばかりの『妖怪の賢者』という肩書すら怪しく見せる紫の叫びも、決して間違っていたとは言えないだろう。
「……こほん、ちょっと見苦しい所をお見せしてしまいましたわね。で、そこの吸血鬼の姉妹はいったい何をしているのかしら?」
「あー、安心するんだぜ。ちょっと夢の中で姉妹喧嘩をしているだけみたいだからな」
「そうですね、それにたぶんそろそろ効果が切れると思いますし」
それでもそこは幻想郷の賢者の名は伊達ではない。しばらく頭を抱えながらも落ち着いたのか、それとも考える事を止めたのか落ち着きを取り戻すと話を切り替えるかのように立ったままという奇妙な格好でじっと固まっているレミリアとフランの二人に何があったのかを聞いてくる。
もちろんこれは喧嘩を始めようとする二人を止めるためにのび太がツモリガンで動きを止めたからなのだけれども、確かに何も知らない紫が見れば、喧嘩をしながらそのまま動きを止めると言う不気味なポーズをとる二人である。
「……ハッ。ふっふっふ、どうフラン? 姉である私に勝てる訳ないって事を理解したら、大人しくお父様たちを独り占めするところを見ているのね」
「……ハッ。まったく、お姉様と来たら自分の実力も理解しないで喧嘩を売って来るんだから。お父様たちと先に一緒に遊んだりするのはお姉様じゃなくてこの私だって言ったでしょ?」
「……うん、何があったのか分からないけれども二人ともものすごい支離滅裂な言動になってるわね」
」
「あら、珍しいわね幻想郷の賢者がわざわざ紅魔館まで足を運ぶなんて。いつの間に来てたのかしら? でもあいにくと幻想郷の賢者が足を運ぶような異変なんて、ここでは起きてないわよ」
「起きてるわよ! って言うか、貴女たちのせいでしょうがっ!! 過去から現在に誰かを連れてくるなんて、非常識にもほどがあるって事を自覚しなさいっ!!!」
「「……………………」」
しかものび太の見立て通り、唐突にツモリガンの効果が切れたものだから、その影響で二人とも互いに互いをこてんぱんにやっつけた気になっていて、その言動は紫の言う通りめちゃくちゃである。それどころか紫が何で紅魔館に来ているのか、というよりも自分たちが過去の世界から両親を連れてきた事が原因である事をこれっぽっちも気が付いていないため、紫はもう一度レミリアにツッコミを入れる羽目になってしまった。
このやり取りに、無言ではあるがスカーレット両親さえ娘たちの言動はおかしいと思ったのだろう、はたから見ても明らかに二人とも引いているのがよく分かったがそれも仕方のない事だろう。
*
「なにはともあれ、遅くなってすまなかったが自己紹介をさせていただこう。私はバイーア・スカーレット。既にご存知だと思うが、時間を越えて数百年前の紅魔館からやって来たレミリアとフランの父親にして、我が紅魔館の当主である」
「同じく私はラシオドラ・スカーレットです。夫と同じようにこちらの時代にやって来ました、レミリアとフランの母親です」
「博麗霊夢よ、博麗神社で巫女をしているわ。何か悪いことをしたら退治に来るからそのつもりでね」
「霧雨魔理沙なんだぜ、魔法使いで霊夢と同じく異変を起こしたら、退治に来るからな」
「野比のび太です、えっと……なんて言うのかな、外の世界、から来ました」
「十六夜咲夜と申します、紅魔館のメイド長を務めさせていただいておりますわ」
「パチュリー・ノーレッジ。レミィの友人兼客分としてここに置かせてもらっている魔女よ」
「私は、説明しなくても大丈夫ですよね。あの頃はメイド長をさせていただいていましたけど、今は門番をしています紅美鈴です」
レミリアとフランとによる喧噪も落ち着いたところで、改めて自己紹介を終えた一同。
そう、よくよく考えてみれば過去から連れてきたはいいもののレミリアとフラン、そして咲夜の前にメイド長を務めていた現門番の美鈴以外、誰もスカーレット両親の名前を知らず、また一方のスカーレット両親も自分たちの娘二人と自分たちが紅魔館で当主を務めていた時に、門番ではなくメイド長を務めていた美鈴以外、誰も何者なのかを知らなかったのだ。
おまけにスカーレット夫妻にとって、見知ったはずの紅魔館でありながら今自分たちがいるのは半ば見知らぬ異邦の地である。自己紹介をしなければ、まずは話が進まないと考えるのは自然な事だった。
「……さて、この場の全員がこうして自己紹介も済ませた所でもう一度確認なのですけれども、お二人は本来この世界にはいなかった存在。今後はどうするおつもりなのかしら?」
「今後って、まさかお父様とお母様をまた昔に送り返すつもりなのっ!?」
「いくら妖怪の賢者相手でも、そんな事をされてはいそうですか、と大人しく従う訳にはいかないわね」
「落ち着きなさいな二人とも、別に私の能力では貴女たちの両親を過去に送り返す力なんてありはしないわ。本当に確認するだけよ」
そうしてひとまず全員が自己紹介を終えた所で「よろしいかしら?」と紫がスカーレット夫妻に尋ねたのが、二人の今後についてである。
何しろ平時から紫自身が「幻想郷は全てを受け入れますわ」などと気安く言ってはいたものの、数百年前の中世ヨーロッパ……すなわち出木杉くんがのび太に説明した魔女狩りが行われるようになった、まだ魔法や妖怪が跳梁跋扈していたような現代よりも妖怪たちのレベルが高い時代からやって来た二人の吸血鬼、それが紅魔館に加われば間違いなく幻想郷のパワーバランスはひっくり返ってしまう。
いくら霊夢たちに詐欺だと言われようとも、パワーバランスが崩れて幻想郷がひっくり返るよりはまし、という判断を下したからこそ、確認のために紫はやって来たのだ。
「私たちはここに残るさ、確かに過去にいる娘たちも気にはなるし済まないとは思うが……もし私たちが本来いた時代に戻ってしまえば歴史が変わってしまう事くらい、私たちにも分かる。だから、今までレミリアやフランに苦労させていた分、私が当主として復帰して娘たちは今まで苦労をさせてきた分の埋め合わせをしていくつもりだよ」
「……それはつまり、紅魔館の当主として復帰してからも幻想郷の他の勢力への戦争を仕掛けるような事をしでかすつもりはない、と見てよろしいのかしら?」
「ああ、勿論だとも。それからどうやら娘が以前迷惑をかけたようだ、以前からノブレスオブリージュについてはしっかりと言い聞かせていたつもりだったのだが申し訳ない事をしてしまった。その件については十分に叱っておくとしよう」
「お、お父様! な、何を言っているのかしら!?」
「あら、だってそれ間違えようのない事実だもの、仕方がないわよねレミィ」
「ちょっとパチェ! 友人を売り渡すつもり!?」
「いえ、疑う訳ではないですけれども、貴女たちのご息女が幻想郷に来て早々に紅い霧を発生させるだけでなく、古くから住まう勢力たちに対して喧嘩を売ると言う事をしでかしたものですから」などと過去の事例を引き合いに出し確認をとる紫の言葉と、十分に叱ると言う父親の言葉にレミリアの顔からこれでもかというほどに血の気が引いていく。
その血の気の引き方たるやあまりの青さにそのうち貧血で倒れるのではないか、と疑ってしまうくらいだ。
父親、親友、そして幻想郷の賢者に囲まれて追い詰められてしまったレミリアのその様子はまさに絶体絶命、古の四面楚歌そのものである。
「よし、レミリア。ちょっと来なさい」
「いっ、痛たたたっ!! お、お父様っ! 暴力反対よっ! 話し合いで解決しましょう!!」
「………………」
「どうしたんだぜフラン?」
こうして、四方を敵に囲まれてしまったレミリアは父親に耳をむんずと掴まれて、まるでジャイアンがジャイアンの母ちゃんに怒られ、引きずられていくかのようにどこかに連れていかれたのだった。
だが、レミリアが父親に連れ去られてしまった後も、一人フランだけは浮かない顔をしている。決してレミリアのように血の気が引いた顔、と言う訳ではないのだけれどもその表情は決して今までいなかった両親と暮らせる事に喜んでいるようには、どう贔屓目に見ても思えない様子だった。
「だって、お父様やお母様と一緒に暮らせるのは嬉しいけど……もし今度こそ本当に私の能力で壊しちゃったら……今度こそ二人には会えなくなっちゃうんだよ? 地下室にいた時だって能力を暴走させたり、感情が抑えられなくなる時だってあるのに……もし、今度お父様たちに能力を向けてしまったら……」
「フラン……」
その様子を見てフランへと尋ねた魔理沙に返ってきたのは、自分の能力でもある『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を両親に向けて暴発させてしまうかもしれないと言う、自分自身への怖れの感情。
今まで自分が壊してしまったのだとずっと思いこんできたフラン、幸いそれはフランの思い過ごしであった事がタイムホールとタイムトリモチの使用によって発覚したのはついさっきの事。けれどももし、今度本当に能力を暴発させてしまい両親を壊してしまったら? それこそ500年近くずっと苦しんできた罪悪感からようやく解放されたのに、今度こそその罪悪感を永遠に抱き続ける事になってしまう。
それは、地下室に閉じ込められてから今もなお、フランが自分自身の持つ能力を完全に制御できていないと言う自覚があるからこその怖れでもあった。
さらに言えば、のび太はともかくとしてこの場の誰もがフランの能力の恐ろしさを知っている。そして、その能力と共に両親を壊したと思い込み、地下室に半ば幽閉されていたこの数百年間をもってしてもフランの力はまだ完全に制御できていないのだという事を。
その事実を知っているからこそ、誰もフランに声をかけられないでいた。
「……ねえ、フランちゃん。その、フランちゃんはおっかない力を使いたくないんだよね? それならなんとかなる、かも……」
「もう、なんだか頼りないわね。何とかなるのか何とかならないのか、どっちなの?」
「どっちなのかって? そうやってどうにもなりそうにない事を、強引にどうにかしてきたのがのび太じゃないか。きっとまたとんでもない道具が飛び出すに違いないんだぜ」
「本当にね。そのうち人や妖怪が持つ能力をなくす道具が出てきても、私は驚かないわよ」
「本当? その何とかなるって言う言葉……私信じていいんだよね? お父様とお母様を私たちの前に連れてきてくれた、あの奇跡みたいな魔法の力を、信じていいんだよね?」
「うーん、効果があるか分からないけど、これなら何とかなるかも……えーっと、あれでもないしこれでもない……」
数百年にもわたる悪夢から救ってくれた、奇跡のようなひみつ道具タイムホール。
その奇跡をもう一度信じていいのかと、すがるように聞いてくるフランたちを前にして、のび太はもう一度手にしたスペアポケットに手を入れてフランを救う可能性に心当たりのある、とあるひみつ道具を探すのだった……。
ようやく名前判明しましたスカーレット両親。
父親:バイーア・スカーレット
レミリアを男装させ、大人にしたと言うイメージのかつての500年ほど昔の紅魔館当主。つまりはレミリアは父親似という事に。
ただしちゃんと成人している分、少なくとも幻想郷に来てすぐに紅い霧をまき散らして喧嘩を売るような真似をしないと明言して、それをやったレミリアを叱ったり、彼らにとっては不法侵入者にしか見えない霊夢たち大しても冷静に話し合いをしようとしたりと、良識的な人物。
なんだかんだと呑み込みが早いように見えているけれども、当人が暮らしていた時代が時代、産業革命など起きてさえいない中世の妖怪のため、実は化学などについてはほとんど知らなかったりする。たぶんカメラで撮影されると魂を抜かれる、と説明したら本当に信じるかもしれない。
尚、名前の由来は南米原産の大型タランチュラ「バイーア スカーレット」より。
※耐性ない一般人が見ると卒倒する程度にはゴツイ品種なので、検索は自己責任でお願いします。
母親:ラシオドラ・スカーレット
枝のような羽の軸に色とりどりの宝石が付いた羽をつけたスカーレット姉妹の母親にして紅魔館当主夫人。フランは母親似の性質を多く受け継いだと言う設定。ただし、少なくとも現在の所フランのようにレーヴァテインをむやみに振り回すような暴力的な行動は一切ない。どちらかと言うと穏やかな人。
此方のスカーレット夫人も、当然常識が中世ヨーロッパで止まっているため、多分写真撮影とかをされると魂を抜かれると本気で信じるかもしれない。
尚、その名前の由来はタランチュラ、バイーア スカーレットの学名ラシオドラ・クルギー(Lasiodora klugi)から。
さてさて、紫までやって来てひっくり返りそうになったりとだいぶ大騒ぎとなっている紅魔館ですが、フランが以前はタイムホールで連れてこられた事で蒸発した両親に今度こそ能力を使って危害を加えてしまうかもという自分自身への能力の怖れを取り除けるかもしれないひみつ道具を取り出そうとするのび太。
果たしてフランの能力に対する対抗策となるのでしょうか? そもそもそんなひみつ道具あったっけ?
と言う訳で次回、乞うご期待っ!!!