ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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はい、お待たせしました。
いよいよ長きにわたる(作中時間一週間なのに、もう三年近く)登場してこなかったドラえもんがいよいよ退院し、現代に戻ってきます。

さてさて、どうなるのでしょうか?


我ら、のび太救出決死隊!!
帰ってきたドラえもん


 21世紀、東京練馬区のとある場所に位置するどこにでもある一軒家、野比家の二階。部屋の主が不在の、のび太の部屋でそれは起こった。

 誰もいないはずの部屋で、のび太の勉強机がガタガタとひとりでに動き出したのだ。もし何も知らない人が見たら怪奇現象だと言い出したかもしれないが、知っている人から見ればこれは怪奇現象でも何でもない、ただの日常の現象である。

 なぜなら勉強机の引き出しがいきなりガタリ、とひとりでに飛び出してその中からドラえもんが飛び出してきたからだ。

 そう、ドラえもんが最初に22世紀の未来から現代へとやって来た時に使った未来の道具であるタイムマシン。その出入り口はなぜか野比家ののび太の机の引き出しに繋がっているのだ。

 そのため、時間移動をする時のび太たちはいつも引き出しへと飛び込んでいく。これはいくつもの冒険を重ねたのび太やドラえもんたちにとって常識と言ってもいい事であった。

 

「ただいま、っと。……一週間近く留守にしちゃったけど、のび太くんちゃんと元気にしてるかなぁ。ジャイアンとかスネ夫にいじめられてなければいいんだけど」

 

 さて、そんな机の引き出しから飛び出したドラえもんはぴょこん、と足音が立たないはずのへんぺい足から足音を立ててのび太が部屋にいないことを確認してから慣れたように、実際に住み慣れた空間なのだが……のび太の部屋から目的の人物を探しに一階へと降りていく。

 果たしてちょうどその時、ママは居間でおせんべいをかじりながらテレビを見ている最中だった。ドラえもんが階段を下りている最中から既に、野比家に唯一居間に設置してあるテレビの音が聞こえた事からママはそこにいるであろうと、ふすまを開けて中をのぞきながら帰って来た事を告げるのだった。

 

「ママ、ただいま!」

「あら、ドラちゃんじゃない。お帰りなさい、ドラミちゃんから聞いたわよ。未来で入院大変だったでしょ? 今日は美味しいものうんと作りますからね。それにどら焼きもたくさん買っておいたわよ」

「やったぁ! どっら焼きどっら焼き……でもママ、そう言えばのび太くんは? どこかに出かけてるの?」

 

 ドラえもんが帰ってきた事を我が子の事のように喜んでくれるママ。確かに血のつながりはないけれども、野比家にとってドラえもんも今や外す事のできない大切な家族の一員なのだという事を改めて認識させてくれる。

 そんなママからの『どら焼きをたくさん用意して待っていた』と言う言葉に、ドラえもんはよだれを垂らしながらバンザイをして全身でその喜びを表現していた。

 がそれもつかの間の事。すぐに思い出したようにのび太がどこにいるのかを尋ねた。たとえ前日まで入院していようとも、その入院の原因の多くがのび太にあろうとも、ドラえもんの中でのび太という存在の優先順位は非常に高いのだ。

 そうしてドラえもん自身も、この時まではそこまでのび太の不在を重大な事としてはとらえていなかったのだ。どうせまたのび太の事だから家ではママから勉強しなさいと言われる、などという理由で空き地で昼寝でもしているのだろう、そんな程度に考えながらのママへの質問だった。

 

「のび太? あら、のびちゃんならドラちゃんが未来に帰っている間、一緒に未来に行ってたんでしょ? それにしては変ね、いつもならおやつちょうだいって勢いよく下りてくるのに」

「ええ? ぼ、僕知らないよ。僕が未来に行く時にのび太くんが見送ってくれたし……」

 

 しかしそんなドラえもんの予想を裏切るように、返ってきた返事は笑顔のママからののび太も一緒に行っていたのではないかという言葉。二人の間に生じた違和感、とでもいえばいいのか。それは二人の間で明らかに異なるのび太についての認識の違いでもあった。

 ママはママでのび太がいない理由をドラえもんと一緒に未来に行っているからと思っていたし、ドラえもんはドラえもんでのび太がいない理由をただ外出しているからだとばかり思っている。その二人の認識のずれはここに来て、ようやく重なり合うことになる。

 

「ドラちゃん、じゃあのび太はこの一週間どこに行ってるの?」

「まさかママ、のび太くん僕が留守の間どこにもいなかったの?」

「「……………………」」

 

 二人の間に沈黙が流れた、ただの沈黙ならいい。けれども二人の間に流れた沈黙は、明らかにただの沈黙ではない。何しろドラえもんもママも、顔を真っ青にして明らかに血の気が失せた表情をしているのだから。当然その理由はのび太がどこにいるのか? である。

 

「ちょっとみんなのところに電話してみるわね」

「い、いってらっしゃい」

「…………あ、もしもし。源さんのお宅ですか? 野比です、いつものび太がお世話に……」

「…………もしもし、急にすみません。骨川さんのお宅ですか? 野比です……」

 

 そう言って廊下にある電話のところへと向かうママを見送りながら、ママの言うみんなというのはきっとしずかちゃん、ジャイアン、スネ夫の家だろうというのはドラえもんにも想像がついた。何しろ今は夏休みである。もしかしたらスネ夫やジャイアン、しずかちゃんたちと一緒にどこかに出かけているのかもしれないからだ。それならそれで、確かにママにちゃんと話をしていなかった非こそあるけれども、とにもかくにものび太が無事でいたのだからまだいい。帰ってきたらママが長ーいお説教をするだけで済むのだから。

 けれどもドラえもんには気になる事があった。それはドラえもんがドラミの迎えで未来に行こうとしていた直前に『どこでもドア』を出してほしいとねだっていた事だ。

 もし仮にのび太がジャイアンやスネ夫、それにしずかちゃんたちと一緒にいなかった場合、のび太はどこでもドアを使ってどこに行こうとしていたのか? 居間でそんな事を考えながらママが電話での確認を終えるのを待っていたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のび太!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? ……ママ! どうしたの!!?」

「……どうしましょう、剛さんも静香ちゃんも、みんなスネ夫さんと一緒に自由研究のために泊りがけで出かけてるみたいなんだけど、そこにのび太はいないんですって」

「ええ~、じゃあのび太くん本当に行方不明なの!? こうしちゃいられないぞ、どうしようどうしよう! パパに連絡しないといけないけどパパの連絡先は僕知らないし……」

 

 ジャイアンの声みたいだった、あの時確かに家が揺れたのを感じた。その時の様子を後にドラえもんはそう語っている。

 のび太が一週間家に帰っておらず、しかもスネ夫やジャイアン、しずかたちとは一緒に行動していないと言う事実を確認した事でようやく気が付いたママは、一言のび太の名前を叫びながら、受話器を手に廊下でそのまま白目をむいてばったりと倒れてしまったのだ。

 あわててママに駆け寄るドラえもんも、ママの事を支えながらパパにすぐ連絡を取ろうとしたものの、あいにくとドラえもんはパパの仕事先も連絡先も知らなかった。ただしこれについてはドラえもんが悪いのではなく、これまで仕事中のパパに連絡を取る必要が一切無かったのだから仕方のない事でもあった。

 兎にも角にも、そうしてしばらくの間どうしようかと悩んでいたのだけれども、何はともあれまずはとにかくのび太の行方不明を知り卒倒してしまったママを放っておく訳にもいかないという結論に達したドラえもん。押し入れからどうにか布団を引っ張り出して居間にしき、そこにママを寝かせてから、のび太の事を何か知らないか手掛かりになりそうなところをドラえもんなりに探しに行こうとして……その背中に待ったがかけられた。

 

「ドラちゃん、ドラちゃんはパパの会社に連絡をお願い。私は警察に行ってくるわ」

「ママ!? 寝てなくちゃダメだよ、警察には僕が行ってくるから」

「駄目よ、嬉しいけれどもドラちゃんは未来で入院していてのびちゃんがいない一週間、ずっと家にいなかったでしょ? どんなことがあったのかも分からないわ。なら、ずっと家にいて何かあったのかちゃんと知っている私が行くべきよ……」

 

 え? と振り向いた先にいたのは布団から起き上がろうとしているママの姿だった。

 当然たった今卒倒したばかりの人間が動き回ろうだなどと、何が起こるか分かったものではない事からドラえもんもあわてて寝ているようにと言って聞かせようとするけれどもママの決意はケッシンコンクリートでも飲んだかのように、あまりにも固かった。

 

「でも……」

「ドラちゃん、こうしている間にものび太は危ない目にあっているかもしれないの。もしかしたら悪い人にさらわれたかもしれないのよ。そんな時に指をくわえて黙っているなんて、できる訳ないでしょう」

「……うん、わかった」

「これがパパの連絡先よ、ママが警察に行ってくる間にパパへの連絡、お願いね」

「うん、行ってらっしゃいママ」

 

 結局ママはドラえもんとの押し問答の末に自分の意見を貫き通し、半ば気合と根性でもって警察へと駆け込んだ。そこには普段のび太を叱るおっかない顔のママはどこにもいない、ただ行方不明になってしまった一人息子の無事を案ずる一人の母親がいるだけだった……。

 

「はい、野比です。なんだドラえもんか、どうしたんだい……ええっ!? のび太が一週間近く帰っていないって!?」

「うん、今ママが警察に行ってるんだけど、僕はパパに電話してくれって」

「でも、どうして一週間も帰っていないって今までわからなかったんだい?」

「それが、ママはどうやら僕が未来の病院に入院するから一緒にのび太くんも連れて行っているんだって勘違いしてたみたいで……」

「よし分かった、部長には事情を説明してパパもすぐに帰るよ」

 

 ここは東京にある〇〇商事のとある階、パパのいる課である。パパも含めて社員たちがせわしなく動き回り、書類を相手ににらめっこをし、かと思えばで営業に向かうのか部屋を飛び出していく者もいる。

 そんな中、自分の仕事をこなしている最中に電話を受け取ったパパの反応もまた、ママと同じようなものだった。とはいえさすがにそこはパパ、会社の中で周囲には自分と同じように業務をしている同僚がいるという中その場で卒倒する事はせずにどうにか驚きの声を上げるだけにとどまった。

 とは言っても何しろ『自分の子供が一週間帰っていない』と、驚いた拍子にかなりのボリュームで口にしてしまったのだから周囲の仲間たちもさすがに気がつくと言うもの。パパが受話器を置くが早いか、近くにいたパパの同僚が声をかけた。

 

「野比くん、珍しいじゃないか君がそんなに慌てるなんて。今の電話は奥さんからかい?」

「ああ、どうやら息子が家に帰っていないらしいんだ……友達と一緒に泊りがけで出かけていると思っていたんだが……」

 

 さすがに未来から来たネコ型ロボットと一緒に未来世界に行っているとばかり思っていた、とは言えないため友達と遊びに行っているとばかり思っていたと、とっさにごまかしながらのび太が帰っていないという事情を同僚に説明するパパ。

 

「……なるほど、それで安心していたら実はそうじゃなかったってわかったのか。よし、この後の仕事は僕らがどうにかするから今日はいったん帰れよ」

「え? し、しかし……」

「あのなあ、自分の子供が行方不明だって時に仕事なんてしたってろくに進むわけもないだろう」

「ありがとう、恩に着るよ」

「いいんだよ、気にするな。そうだな、じゃあ野比くんの息子が無事に帰ってきたら一杯おごってくれればそれでいいよ」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 ひとまずのび太の事はママに任せて、明日はともかく今日の分は仕事を終えてから帰ろうというつもりだったのだけれどもさすがに息子が一週間行方不明のパパをそのまま仕事させる訳にはいかない、とパパが手にしていた書類を取り上げる同僚。

 その行動にパパも反論しようとするけれども、息子が行方不明という状況でそのまま息子をほったらかして仕事をしたところでろくに進むもんじゃないと正論で一刀両断されてしまってはパパもそれ以上は反論できず、半ば同僚に背中を押されるような格好でパパもまた家に帰るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあスネ夫、神社が空を飛んでどこかに消えていきました。なんて書いて先生納得してくれるのか?」

「でも、だっていろいろ話を聞いたりしてもみーんな同じ話をするんだもの。そりゃあ僕だって未来の建物ならともかく、昔からある神社が空を飛んで消えてったなんて信じられないけど、街の人たちがみんな同じような事を話してるんだもの。そう書くしかないじゃない」

「武さんもスネ夫さんも、言い争ってないで早くまとめちゃいましょ。きっと先生もドラちゃんやのび太さんと一緒に世界を作った時の自由研究だって読んでくれたんだから大丈夫よ」

「そりゃあ、そうだけどよ……」

「まあ、確かにあれが読んでもらえるなら神社が空を飛ぶくらい大丈夫かもね」

 

 一方こちらは東京で何が起こっているか、全く知る由もないスネ夫たち。

 最初に神社が空を飛んだという話を聞いた時には三人とも半信半疑だったものの、いろいろと地元の人たちから話を聞いたりして消えた神社の事を調べても、誰もが同じような内容を説明するため空を飛んで消えたと書くしかない、けれどもそんな事を書いて先生が信じるか? という所までなんとかこぎ着けていた。

 そしてこういう時に強いのはしずかである。ジャイアンとスネ夫がもめている中、かつて『のび太の創世日記』にて地球を一個丸ごと作り、人類が科学文明を発展させる所まで見届けた上でその新地球の歴史や生まれ滅びていった生物、そして五億年前の神のいたずらによって誕生した昆虫人類の観察日記を付け、まとめ上げ先生に提出したのをしずかは忘れていなかったのだ。

 この、どう考えても普通なら空想の産物として扱われても不思議ではないのび太たちの地球創世の自由研究は、先生の手でしっかりと採点・評価され夏休み後に返却されている。

 それを覚えていたしずかからすれば、新しく地球を作り観察日記を付けた創世日記に比べれば、神社の一つや二つ空を飛んだところで大した事じゃないのだろう。

 こうしてしずかに説得される格好で、ジャイアンとスネ夫も調べた事をまとめ始めたのだった……。

 




ついにのび太の消失、発覚!
ここでとうとうパパママとドラえもんの、認識のずれが繋がりました。
パパママたちはのび太がいないのはドラえもんに同行していたからと考えており、ドラえもんは現代に残っている、とばかり思っていたから、のび太がいない事に何の疑問も持っていませんでしたが、いないと分かったとたんに上を下への大騒ぎ。
やはりママは普段のび太を叱ってばかりのイメージではありますが、タマシイムマシンでのび太の魂が過去に飛んだ時、ショックで倒れていますのでやはり行方不明になったら一番真っ先に動いて、一番真っ先に心配するんだろうなと思い、今回のような描写となっています。

さてさて、行方不明が発覚した野比家。何も知らないジャイアン、スネ夫、しずかの三人。果たして彼らがのび太の蒸発に気がつく日は来るのでしょうか……?


次回っ! 乞う、ご期待っ!!
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