いよいよジャイアンたちものび太が行方不明という事実をつかみますが、果たして……?
「ふぁぁ……ぁぁ、なあスネ夫、お前のパパはどうしておれたちにラジオ体操なんてさせるんだよ? せっかく夏休みで学校にも行かずに済むのに早起きしたらもったいないじゃないか」
「仕方ないでしょ、僕らが自由研究でジャイアンやしずかちゃんたちとここに来るための約束の中に『夜更かし朝寝坊をしないよう、規則正しい生活を送ること。朝はラジオ体操をして健康的な生活を送ること』って入ってるんだもの。守らないわけにはいかないよ」
東京練馬区ではのび太が一週間行方不明であるという事で、警察やママたちにドラえもんも含めて、上を下への大騒ぎになっている頃、某県にて貸別荘を借りて夏休みの自由研究をしているジャイアン、スネ夫、それにしずかの三人は今日も今日とて消えてしまった神社についての調査を行っていた。
とは言っても、時間はまだ朝である。太陽が山の稜線の向こうに顔を出し涼しげな空気の中、別荘から出てきたジャイアンたちもまだ眠い目をこすっているような時間帯で、これはスネ夫のパパの『パパたちがいないからと言って朝いつまでも寝てちゃいかん。朝はラジオ体操をしてそれから活動を開始しなさい』という言いつけによるものであった。
この言いつけがなければジャイアンもスネ夫もしずかも、夏休みと言う子供の特権を最大限に活用しまだ布団の中でゴロゴロしていたはずである。しかしこの、スネ夫のパパの課した約束によってその目論見はあっけなく崩れてしまい、だからこそジャイアンも眠そうな目をこすりながら不満をスネ夫に向けたのだ。
しかし不満を向けられたはいいものの、向けられた当のスネ夫はたまったものではない。別に自分がどうしてもやりたいと言い出した事ではないし、かといってそれを言ったところでジャイアンは納得しないだろう。
「そうだけどよ、ラジオ体操なんてしなくたってここにいないんだからやった、ってごまかせばいいんじゃないのか?」
「それはそうだけどさ……」
「まあまあ、タケシさんもスネ夫さんも。東京にいたらこんなにいい場所でラジオ体操なんてなかなかできないんだから、そう思えば悪くないわよ」
「それはまあそうだけどさ、考えてみろよしずかちゃん、確かにここの場所もいい場所だけど、俺たちが今まで冒険した世界なら、もっと空気もおいしくて静かな場所もたくさんあったじゃん」
ジャイアンとスネ夫の仲裁に入ったしずかの言葉は間違っていないものの、もし彼らが東京でずっと暮らしていたのなら、と言えた。何しろジャイアンの言う通り、彼らは今までに数多くの世界を冒険してきたのだから。
そこにはニムゲの暮らす地獄星や汚染が進み住民が捨てざるを得なかったラグナ星のような環境の悪い星もあれば、空気がさわやかとのび太もドラえもんも評価したコーヤコーヤ星や環境に対する配慮を完璧にこなすシステムを確立したアニマル惑星のような星もあった。
そもそもそれら地球以外の惑星でなくても、まだ人間が旧石器時代を生きていた七万年前の日本のように、緑も空気もはるかにきれいな時代さえ、彼らは知っているのだ。そういった現在暮らす世界よりも、はるかに環境のいい世界を知っているジャイアンたちにとっては、この場所でさえ決して十全に満足のいく場所ではなかったのだ。
『…………! …………! …………!』
ここでスネ夫のポケットに入っているスマートフォンが振動とコール音を発して持ち主に電話の着信を教えなければ、この議論はまだまだ続いたに違いない。
「おいスネ夫、いったいどうしたんだ?」
「スネ夫さん、電話みたいよ」
「ちょっと待って……あれ、パパからだ。なんだろう……もしもし、パパ? うん、うん。今ラジオ体操が終わったところだけど、こんな時間にいったいどうしたの?」
まだラジオ体操も終えたばかりという早朝にかかってきた電話にジャイアンとしずかも何が起きたのかとみている前で、スネ夫は電話の相手の名前が自分の父親であり、どうしてこんな早朝にかけてきたのか疑問を抱きながらも対応を開始して、そう長くないやり取りの後スネ夫は不思議そうな顔をしながら電話を切ったものの、その表情は決して晴れやかなものではなかった。
パパからの電話のやり取りをしてから、急に難しそうな顔を始めたスネ夫の様子は明らかにただ事ではないというのはジャイアンやしずかでもひと目でわかる。
問題は、こんな朝早くに電話をしてきていったい何をスネ夫に伝えたのか、という事だ。
「……おいスネ夫、いったいどうしたんだよ。こんな時間に電話が来るなんて、ひょっとしてラジオ体操をやったってごまかそうって話してたのがばれたのか?」
「ううん。それがさ、パパがみんなでチャンネルはどこでもいいからとりあえずテレビをつけてくれって」
「テレビ? テレビなんてつけて何見るんだよ。まだオシシ仮面の時間じゃないだろ」
「僕に聞かれたって分かるわけないでしょ? でも、パパがつけてみろって言うんだからまずはテレビをつけてみようよ」
「そうね、もしかしたら何か大変なことがあったのかもしれないし。朝ごはんはそれからでもいいじゃない」
「それもそうだな、んじゃスネ夫。さっそくテレビつけてみようぜ」
スネ夫のパパからの、チャンネルはどこでもいいからまずはテレビをつけてくれと言う何をさせたいのかよくわからない指示に受けたスネ夫自身も首をかしげながら、外に出ていた三人は別荘の中へと戻っていく。
ちなみにジャイアンが言っていた『オシシ仮面』とは、フニャコフニャ夫が連載している人気漫画である『ライオン仮面』に登場するライオン仮面の弟キャラであったがライオン仮面の人気からスピンオフ作品として単独で主人公となった作品として放送されている番組である。さらに余談となるが、ライオン仮面には弟のオシシ仮面といとこのオカメ仮面もいるのだが、まだこのオカメ仮面については活躍の場が与えられていないのが現状である。
兎にも角にも、ジャイアンたちはスネ夫のパパに言われた通りラジオ体操も終わっていた事もあり、素直に別荘へと戻るとリビングルームに備え付けられているテレビの前に集まり、スネ夫が三人を代表するかのようにテレビの電源を入れるとにぶい起動音と共に真っ暗だった画面に男性アナウンサーの姿が映り、ニュースを読み上げているところだった。
『……東京練馬区に住む小学4年生の野比のび太君が行方不明になり今日で一週間以上経過していますが、今のところ発見につながる手がかりや情報は入ってきておりません。また、区内を流れる川などを中心に連日警察による大規模な捜索が続けられていますが……』
「「「のび太(さん)!?」」」
適当に朝ごはんの前に言われた通りテレビをつけてさっさと今日も宿題を、そんな程度のつもりで付けたテレビのはずが、のび太が行方不明でしかもまだ見つかっていないというまさかのニュース内容だった事に三人とも、ネズミを見つけたドラえもんのごとく飛び上がらんばかりに驚いたのは言うまでもない。
それまでののんびりした空気から一転、貸別荘の三人の表情は真剣なものへと変わり食い入るように画面へと見入っている。おまけに途中で全くのび太の行方について進展がない事にしびれを切らしたらしく、ジャイアンが『おいスネ夫! 他のチャンネルはどうだ変えてみろ! のび太はどこにいるんだ!!』と半ば平手で殴るような勢いで背中をバッシバッシと、まるでリモコンのチャンネル切替ボタンよろしく叩きながら催促しだす始末。
そしてジャイアンから受ける背中への苦痛から少しでも早く解放されようと、スネ夫がリモコンのチャンネル切り替えボタンをポチポチと押せば、おおよそどのチャンネルでものび太の行方不明について解説しているようで、どの画面でものび太、のび太が、のび太くんが、のび太くんが行方不明に。テレビの番組はのび太一色だった。
これは夏休みのこの時期に、海や山へ出かけての遭難ではなく本当に東京の街中で忽然と蒸発したまま一週間以上の時間が経過し、しかも何の情報もないという事が大きかった。これで誘拐犯による誘拐事件だというのなら、犯人からの連絡が一切ないというのはおかしいし、もし事故による行方不明であるのなら、少なくともこれまでの捜索で本人は見つからずとも手がかりの一つや二つは見つかってもいいはずなのに、それすらもない。
それ故に各テレビ局もこのニュースを積極的に放送していたのだけれども、今のジャイアンたちにとってそんな事はどうでもよかった。スネ夫のパパが言いたかった、テレビをつけてみろと言う意味を嫌が応にも分かってしまった以上、後は自分たちがどう動くべきなのか、問題はそこへと変わっていたのだから。
「な、何でのび太が行方不明なのさ?」
「でも一週間近く前って言ったら私たちがここに来た日とほとんど同じなんじゃないかしら?」
「で、でも行方不明ってのび太の事だからまた裏山で昼寝でもしてて、ママが怖くて帰るに帰れなくなったとかじゃないの?」
「でも、それだったらさすがに警察もニュースもちゃんとのび太さんが山に立てこもって一週間が経った、って言うんじゃないかしら? 少なくとも行方不明とは言わないはずよ」
「そ、そうか……。じゃあ、のび太は本当に行方不明に?」
「考えたくないけれども、多分本当にそうなんじゃないかしら」
どのチャンネルに回してものび太の行方不明を報じているという、この予期せぬ事態にスネ夫もしずかも動揺している中、一人ジャイアンだけがすぐに落ち着きを取り戻し何かを決心したように口を開く。
実際にスネ夫の言う通り『森は生きている』の話で、心の土という秘密道具で裏山と心を通わせたのび太が裏山で半ば籠城するような格好で暮らした事もあった。スネ夫はどうやら今回もそんな事が起きているのではないかと楽観的な予想をしたが、それならば裏山にいる事が分かっているのだから行方不明とは言わないだろうとしずかがスネ夫に反論し、スネ夫もその意見にはたと気が付いたのか、ここにきてのび太が実は本当に命の危機に瀕しているのでは、と顔を青くした。
ちなみにこの時、スネ夫としずかの会話に一切入ってきていないジャイアンであるが、ずっと一人黙ったまま腕組みをしながら何かを考え込んでいる。その表情はまるで何かの覚悟を決めたような、一億年前ピー助を日本に送り届ける際、タケコプターが完全に使用不可に陥った時に見せた時の表情にそっくりだったのだ。
そんなジャイアンがいよいよ何かを決心したらしく、静かに、しかしはっきりとした声でスネ夫に向けて……口を開いた。
「……おいスネ夫、戻るぞ。すぐにお前のパパに連絡しろ、急いで迎えに来てもらうんだ」
「へ? パパに連絡して戻るって、どこに戻るのさ」
「決まってるだろスネ夫! 東京に戻ってドラえもんのところに行くんだよ!」
「え~っ! じゃ、じゃあ宿題はどうす……」
『うるせえ!!!!!!!!!!』
残念ながらスネ夫の抗議は最後まで聞き入れてもらう事はできなかった。なぜならスネ夫の顔面にはジャイアンのゲンコツが深々とめり込んでいたのだから。これぞジャイアン必殺のめり込みパンチ。
これまでにものび太やスネ夫、さらには安雄にはる夫と言った多くの犠牲者を生み出し、ジャイアンの横暴に逆らう者たち、機嫌が悪い時にやって来た不幸な者たちを問答無用で一撃必殺、泣かせてきた恐怖のパンチである。
案の定至近距離からそんな物騒なパンチを食らってしまった哀れなスネ夫は一発で目を白黒させながら伸びてしまったのだが、それだけではジャイアンは止まらない。
「ばか野郎!! スネ夫、お前宿題とのび太と、どっちが大事だ!!!」
「………………」
「タケシさん、そんなに首をしめたらスネ夫さん返事ができないわよ」
「あっ、そっか。悪ぃ悪ぃスネ夫。……で! どうなんだ!? 宿題とのび太、どっちをとるんだ!!」
「………………」
顔面が変形するほどの威力のパンチで目をまわしているスネ夫の胸ぐらをむんずと掴みのび太の危機にも宿題を選ぼうとするスネ夫を叱責するその剣幕に、あわててしずかが首を絞めてしまったら何も話せないとジャイアンに首を絞めるのを止めるように進言するけれども、そもそもスネ夫が黙っているのは最初にお見舞いされたジャイアンのめり込みパンチであって首を絞められたからではない。だが不幸にも、それを指摘してくれる人間はこの場にはいなかった。
とにもかくにも、スネ夫が気絶から回復し宿題よりものび太を選び、パパに連絡をし急遽行方不明ののび太を探すために戻る旨を伝える事ができたのは、もうしばらく先の事である。
*
「よいしょっと、ふぅ……」
……その頃、東京を遠く離れたヨーロッパ、ドイツの国のとある場所。今日も今日とて彼女、ロッテ・ミュンヒハウゼンはかつて自分が育った城でもあるミュンヒハウゼン城から80kmちかくも移動して自宅へと戻り、リビングにあるソファへと身体を預けて、テレビのスイッチを入れた。壁に掛けてある時計の針が示す時間はもう真夜中、いくら彼女の自宅が山奥の田舎ではないとはいえ、さすがにもうこの時間になると街灯くらいしか明かりとなるものは存在しない時間である。
それでも、彼女は今日も今日とて習慣ともなってしまった、思い出深いミュンヒハウゼン城へと通っていたのだ。
幼い頃は自分も暮らしていた城ではあったけれども、大人になれば現実という重い問題がのしかかってくる。今も貴族として大金持ちの暮らしができるならば維持もできたであろう城も、税金という決して馬鹿にできない理由によって手放そう、としたのは少し前までの話。
その時に日本からわざわざ城を購入しようと来てくれたのび太たちとの交流、先祖が遺したと一族に伝わっていた財宝の伝説を信じ、地下牢に閉じ込められた時にのび太たちの手で、今でもにわかには信じられないけれども(初代であるエーリッヒ・フォン・ミュンヒハウゼン男爵を過去から連れてきた……とのび太たちは言っていたが……)兎にも角にも助けられた時に、財宝と共にミュンヒハウゼン家の再興を初代より託されたのだ。それ以降ロッテは城を手放すのを止め、家の再興を目指すようになり以前よりも頻繁に城へと通うようになった。
また、それに伴って自らの命を狙った叔父ヨーゼフもロッテが自分への殺人未遂で警察に訴えなかったこと(失踪は自分のミスで城の探検中に誤って地下牢に入り込んでしまったとこと説明し、警察もそれで納得した)と、初代ミュンヒハウゼン男爵からの、過去に戻り際に言われた「今回はロッテの手前、手を出さないがもしまたお前がロッテの命を狙うのなら、たとえロッテの懇願があったとしてもお前の命を取る」と抜き身のサーベルをちらつかせながら凄まれた事からすっかり震え上がり改心し、今でも弁護士として活動しながらロッテの夢でもある家の再興を手伝う右腕として活動をしていた。
そんな少し前に起きた、ちょっとした冒険とすこしふしぎな出来事を思い出しさてそろそろ寝ようかと傍らのリモコンに手を伸ばすとまるで見計らったかのように、深夜のニュースが海外の事を解説し始めた。
そこに出てきた見覚えのある、と言うよりも忘れようとしても忘れることのできない命の恩人でもあるのび太の顔と説明が出てきた時、ロッテは時間も忘れてジャイアンたちがニュースを見た時と同じように、食い入るように画面に見入っていた。
「いったいあの子に何があったのかしら……? ご先祖様を連れてきてくれた時みたいに昔に出かけて戻れなくなったりしたのかもしれないわね。どちらにしても、無事でいてくれればいいんだけど……」
かつて自分も経験したことから、実は当たらずとも遠からずとは言えかなり近いのび太の現状についての予想を立てたロッテ。たださすがに彼女が今日本にいるのならともかく、さすがにドイツから日本に向かうのはあまりにも無茶すぎた。今の彼女にできることは、ただのび太の無事を祈り続ける事だけだった……。
ドイツからはロッテさんがのび太の事を知りましたが、さすがにどこでもドアもなしに日本に来るにはあまりにも準備が足りなさすぎるため、ひとまず彼女は家で無事を祈るくらいしかできませんが……彼女の内心では命の恩人に報いる事ができない事にかなりもどかしい気分となっているでしょう。
ちなみにどうしてニュースになったのかは『ゆうれい城に引っ越し』のエピソードにてロッテさんが行方不明になった時、割とすぐに日本の新聞でも報じられたため(この記事がなければドラえもんたちも彼女の救出に向かう事はなかった)、割と早くに知る事が出来たのではないかとの判断から導入してみました。
さて、次はいよいよのび太以外のいつもの仲間が集まりますが……はたしてどうなる事やら? 気になる方はぜひ、続きをお待ちください。
次回、乞うご期待っっ!!!