さて、幻想郷へと強制的に連れていかれてしまったドラえもん、ジャイアン、スネ夫、しずか、出木杉の5人。果たしてどうなってしまうのでしょうか?
「……はぁ、はぁ……まったく、やってくれるなぁ……。けれども、私を生かした事を……後悔なんてさせてやるものかよ……」
……ドラえもんたち、のみならずのび太が幻想郷へとやって来るよりもさらに前へと時間はさかのぼる。幻想郷のどこかの森の中、薄暗くどんよりとした濃密な空気が立ち込める、陰気臭い誰も周囲には立ち寄ろうなどとは思わないであろうそんな場所で『彼女』はボロボロの身体を引きずりながら、文字通り這う這うの体でどうにか命を繋いでいた。
矢印を図案化したような模様の服、黒い髪からは角が覗いている、ひと目見ても人間ではないと分かる彼女のその手足からは至る所に傷があり、彼女が歩いてきたであろう道には血が点々と道しるべのように地面に赤い印をつけている。もちろん料理を失敗して怪我を負った、などと言う訳ではない。彼女がこうなってしまった事には、ここに至るまでにちゃんとした事情があった。
『弾幕アマノジャク』
かつて幻想郷にて下克上を企て、幻想郷全ての勢力を敵に回しその上で不可思議な道具を使ったとは言え、その勢力からの襲撃にたった一人で挑み、しのぎ切り、生き延びた天邪鬼の鬼人正邪。
しかしその結果はと言えば、普段の弾幕ごっこではない、相対した正邪を滅ぼすことも厭わない不可能弾幕の嵐を捌き切り、生き延びる事こそできたものの下克上は失敗。全身傷だらけの姿を見ても分かるようにこっぴどくやられてしまい、おまけに指名手配犯として幻想郷中のお尋ね者になってしまったため、本来ならばこういった場合に利用できるはずの永遠亭さえも利用できず、こうして森の中をさまよっているのだった。
かと言って天邪鬼の彼女がこれで深く反省し、もう今回のような騒ぎを起こさない、と言う訳もなく。全身傷だらけになり、命をかろうじて繋ぎ止めているような状態になってもまだ諦めていない所はさすが天邪鬼、と言うべきだろうか。
しかし諦めようが諦めていなかろうが、全身くまなく痛めつけられた身体だけはどうにもならない。それは妖怪だろうと人間だろうと同じ事だ。痛む身体を休める事はできる、でも痛む身体を休める事はできてもその身体の傷を癒すには時間と共に、栄養を補給する必要があった。
当然昨日今日産まれたばかりの雛と言う訳でもない正邪もそのくらいの知識はある、けれどもここで問題になったのはどこで栄養となるものを補給するか、だった。
何かを、何かを食べないといけない。
人間を捕食する、血液を捕食する、酒を呷る、中には他人を驚かす事でその驚くという感情を栄養とする者も幻想郷にはいる。ただ、栄養を補給するにはどちらにせよ誰か、あるいは何かを摂取しなければいけないと言う点に変わりはない。そして、誰かないし何かを手に入れる事が、幻想郷中でお尋ね者になってしまった正邪にとっては、ひどく難しい事になっていた。
これが仮に今正邪が五体満足でケガ一つ負っていない身の上であったなら、こそこそと隠れながら人里に忍び込み、食べ物をいただいて飢えをしのぐ……と言った事も決して不可能ではないだろう。しかしそれをするには正邪の身体はケガを負い、血を流し、なによりもあまりにも体力を失い過ぎていた。
「……さすがにこのままじゃ……、いや! あきらめるかよ!! この幻想郷を必ずひっくり返してやる! そのためにはこんなところで倒れてる場合じゃないからな……なんとしても生き延びて……やるかよ……っ。くぅ……っ」
だから、正邪が『それ』を見つけたのは本当に偶然だった。いや、ある意味それは必然だったのかもしれない。
「なんだこれ……肉……? 人間……? にしてはおかしい、コイツを仕留めたはずの相手の気配がない……」
森の一角、比較的開けた場所に転がっていたのは正邪にとって喉から手が出るほどに欲っしていた肉。一抱えほどもある、血まみれの肉塊が転がっていたのだ。その様子からきっと人間か、あるいは動物か何かが襲われて命を落としたのだろうと彼女は判断した。
外の世界の日本ならばそんな事はめったに起こる話ではないが何しろここは幻想郷。いったん人里を出てしまえばそこは妖怪の世界だ、自衛手段を持たない人間が野良仕事や薪の確保、釣りなどのために山などに出向いたところで妖怪や妖獣に襲われて命を落とした、または退治屋のおかげでそんな相手を退治してもらい命拾いをした、などと言う話は頻繁に人里の話題に上る内容なのだ。
が、正邪にとってそんな事はどうでもいいのだ。事情などどうであれ、肉塊になっているという事は負けたという事。負けたものの事などどうでもいいのだから。そんな事よりも今は、生きる事。生きて、自分をここまで痛めつけた強者たち、そしてこの幻想郷を再びひっくり返すためにも、今は生き延びる事。それが全てなのだ。
「まったくありがたくもないな、こんなところに食べられるものが落ちているだなんて……だが、これで私も……少しは傷を癒せるな。お尋ね者にして、散々痛めつけただけで私の命を奪わなかった事を……後悔なんてさせてやらないんだぜ……」
獣同然に肉塊にかぶりつく正邪。生肉だとか、服が血だらけになるだとか、そんな事を気にするでもなくガツガツとひたすらに肉を食い、体内に取り込んでいく。そこには恥も外聞もあったものではない、ただ一つ、必ず生き延びてやるという強い意志が正邪を突き動かしていた。
……正邪は知る由もなかった。自分が生き延びるためとは言え、食べた肉塊の主が人間でも妖怪でもない、幻想郷に存在するモノですらないという事に。
しかし最後まで正邪がその事に気がつく事はなかった。いや、これからも気が付く事はないのかもしれない。ただ一ついえる事は、すっかり肉塊を食べつくしてしまった正邪は、傷だらけの身体を引きずりながら再び傷を癒し幻想郷への反逆を成就させる野望をまだ諦めていないという事だけだった。
………………………………
…………………………
……………………
「「「「「わあーっ!!!」」」」」
宇宙完全大百科で幻想郷について調べようと思っていたその矢先に、全く予想もしていなかった大百科の端末が変化した鳥居のようなゲートへと吸い込まれてしまったドラえもんたち5人は、そのまま訳も分からない空間の中をぐるぐるとかき混ぜられている真っ最中だった。
どこでもドアや、本家ともいえるブリキンホテルへのゲートのように入り口をくぐればそこは雪国……ではなくすぐに目的地だったりすれば何の苦労もなく楽だったのだろうけれども、よりにもよって全く訳の分からない空間に飛び出したというよりも放り込まれた5人はなす術もなくかき回され……やがて、ぽい、とばかりにどこへともなく放り出された。
いや、放り出されて地面に
つまりはどうなるかと言うと……。
「落ちる! 落ちるーっ!!」
「わーっ、ママーっ!!」
「えーっと……これでもないあれでもない……あー、タケコプターはどれだーっ」
「キャーたすけてーっ!!」
「すごい……ここが幻想郷……?」
大地が持つすべてに働く力、重力に従ってただただ、地面に向けて落っこちるよりほかになかった。もっとも約一名は落ちるより先に初めてやって来たのであろう未来世界とは違う、異世界への冒険に目を輝かせていたけれども。
が、落下中にどんな反応をしていようとも落っこちるという事は最終的に落ちる終点があるという事だ。大地なり、床なりにぶつかるという終点が。そして、地面から数メートルとはいえ、重力に従い落下し、ぶつかればどうなってしまうのか。
「ぐえぇっ!!」
「フギャッ!!」
「うわぁっ!!」
「きゃぁっ!!」
「わーっ!!!」
ズシーン!!!!!
ドラえもん、スネ夫、しずか、出木杉、そして一番上にジャイアンと言う順にものの見事に全員が重なるように、実に器用な形で墜落した。もちろんとは言っても、ドラえもん自身もただ黙って落下していた訳ではない。
元々が子守用ロボットと言う設計思想で作られているドラえもんタイプ、子守をしている子供が突発的な事故でケガや命を落とさないように、万が一にも有事の際には素早く必要な道具を取り出し、子供を助けるという能力はロボット学校でも嫌と言うほど習熟させられるのだ。
が、悲しいかな。そこは『
結果として、ドラえもんが一番下になり下敷きとなる事でクッションのような役割を果たした事で、どうにか全員無事に目指す幻想郷に立つ事ができたのだった。
「う、うーん……お、重いからはやくどいてよぉ……」
「ジャイアン……はやく……僕……つぶれちゃう……」
「タケシさん、おりてちょうだい」
「おっ、悪い悪い。よいしょっと……」
「ふぅ、ああ重かった……それにしても、ここが幻想郷……」
だが立つ事が出来たからと言って喜んでばかりもいられない。何しろここは日本のようでいて日本ではない、未来のドラえもんさえ勝手の知らない未知の世界なのだから。それでも墜落を免れてようやく落ち着きを取り戻したドラえもん、ジャイアン、スネ夫、しずか、出木杉の5人が自分たちのいる場所の周りを見渡せば辺りはうっそうとした森の中。
とは言っても、過去へ冒険をしに行った時に見慣れている古生代あるいは中生代の植物と言う訳でもなく、また幻惑の星に生息するような、星に迷い込んだ宇宙の旅人を霧の成分で幻を見ている間に捕食してしまう怪物と言う訳でもない。それこそ、深くはあるけれどもどこにでもありそうな森である。
しいて似たような森がどこかと言われれば、一番近しいのはチッポたちが暮らす地獄星の衛星であるアニマル
そんな数々のトラウマが思い出されたのか、ジャイアンが他の4人を見回してから、拳を掲げて威勢のいい提案をする。
「よーし! こんなどこに行けばいいのか分からないような深い森はさっさとタケコプターで抜け出して、幻想郷に殴りこもうぜ!!」
「……そんな事言ってジャイアン、ひょっとして禁断の森みたいな場所だからここが怖いん「うるせえ!!!」」
「」 ←台詞が抜けてる?
そんなジャイアンの様子に、ジャイアン同様に禁断の森をさまよいトラウマを植え付けられたスネ夫がジャイアンがやけにこの場所から離れたがっている真意を見抜いてからかったけれども、次の瞬間にスネ夫を待っていたのは、スネ夫の顔面に深々と突き刺さったジャイアンのパンチだったのは言うまでもない。
「まあまあ、二人とも。確かにジャイアンの言う通り早くここから離れた方がいいのは分かるけれども、まず周りに何があるのか確認しないと危ないよ。未来にも幻想郷の情報は無いんだし、僕らはこの場所について案内してくれる人もいないんだから」
「うん、確かにドラえもんくんの言う通りだと思う。周りの警戒はすべきだけれども、それと合わせて周りの偵察をして野比くんがいそうな場所を見つけて移動したほうがいいと思うよ。このままじゃ手当たり次第に動いて、本当に行くべき方向が分からなくなると思う」
「それは確かにそうだけどよ……でもドラえもん、出木杉。周りを調べるって、どうやって調べるんだよ。何人かで周りを調べてくるのか?」
ドラえもんと出木杉が、移動するのは周囲の状況を確認してから、と言う提案をしなければスネ夫の顔面にはもう2、3発のパンチがめり込んでいただろう。もちろんそんな事になったらまずのび太を探すより先にスネ夫を治してくれる病院を探す事になってしまうのは間違いない。
そんな命と麗しい(本人談)顔面の危機に瀕しているスネ夫の顔を助ける訳ではないけれども、ドラえもんは今みんながいる場所の周りを調べてくれる道具を取り出すべく、毎度おなじみのポケットへと手を突っ込むのだった。もちろん、今度はいきなり空中に放り出されて落下している訳でもなく慌てる事情もないためそれは、割とすんなりと取り出せた。
「ミニ探検隊!!!」
ミニ探検隊、それはかつて『のび太と竜の騎士』において地底世界で一人迷子になってしまったスネ夫を探すために、ドラモンたちも後を追うように地底世界へと足を踏み入れた際に使われた道具である。探検隊、の名前が示す通り、小型のテントのような基地(?)に某ゲゲ〇の△太郎に登場するおやじのような一つ目小人のロボットが多数格納されており、周辺で怪しいもの、あるいは見慣れないものなどを発見すると指令を出した人物が持つ受信機へと信号を発信するようになっている。
残念ながら、大きな一つ目がカメラになっている訳ではないため、指令者に対して何があるのか、それがどんなものなのかは映像や音声では分からないのが欠点ではあるものの、何も分からない何があるのかも分からないままであてずっぽうに飛び回るよりは、はるかにマシになる秘密道具なのだ。
……ちなみに、余談ではあるものののび太と竜の騎士において地底世界にやって来たドラえもんがミニ探検隊を使用した結果、どうなったかと言うと四方八方に散らばった探検隊からの連絡にてんてこ舞いになったあげく、ミニ探検隊の一体が発見したティラノサウルスにのび太が捕食される寸前まで陥ったというのは誰も覚えていないらしかった。
が、その結果恐竜人類の一団であるナンジャ族に囚われの身となり、同じく恐竜人類である竜騎隊士バンホーとの出会いを経て、スネ夫を無事に救出できたのだから、探検隊の活躍も決して捨てたものではない、のかも知れない。
「これはね、このテントの中に小さな探検隊のロボットがたくさん入っていて怪しいものとか不思議なものを見つけると信号を出してくれるんだ」
「そうそう! なあドラえもん、確かこれスネ夫が地底の恐竜世界で迷子になった時に地底で使った道具じゃないか?」
「地底? しかも地底には恐竜がいるのかい?」
「まあまあ、出木杉くん。それはまた後で説明するから。あの時の大冒険も、いろいろあったからさ」
「そうよ出木杉さん、まずはのび太さんを見つけましょう」
「ごめん、確かにそうだね。今は野比くんの無事をきちんと確認してからにするべきだ」
「よーし、それじゃあ……ミニ探検隊、出動!! 何か怪しいものがあったらすぐに知らせてね」
ちょうどミニ探検隊の事を覚えていたらしいジャイアンの言葉、それも地底世界に太古のロマンであるはずの恐竜が生きているという話に思わず出木杉が食いついてくる。が、やはりそこは優等生の出木杉。スネ夫やしずかに今はのび太の方が優先と言われれば素直にのび太の捜索を優先するのだった。
それを確認したドラえもんの、探検隊発進の言葉に合わせていっせいにテントから飛び出していく無数の小型探検隊ロボットたち。四方八方に散らばっていくロボットたちはそのサイズの小ささもあり、すぐに木々の向こうへと見えなくなってしまった。そんなロボットたちを、5人はただ黙って見送るのだった……。
「あ、きたきた、探検隊が早速何かを見つけたみたいだよ」
「とりあえず、この森から抜けられるなら何でもいいや。行ってみようぜ」
どれだけ待ったのだろうか
「それじゃあ、毎度おなじみタケコプター! はいみんな、後出木杉くんは確か初めてだったよね? 慣れないと大変かもしれないけど……のび太くんと違って出木杉くんなら運動神経もよさそうだしたぶん大丈夫かな」
「大丈夫だよドラえもん、あののび太でさえ使えるんだぜ」
「そうそう、のび太にも使えるんだから出木杉くんなら絶対に大丈夫だって」
「二人とも、そんな事言ったらのび太さんがかわいそうよ」
「そうだ、ちょっと待ってみんな!!」
「どうしたの出木杉くん?」
今まで、散々大冒険をして使ってきたからか、初めてタケコプターを使う出木杉以外はごく当たり前のようにドラえもんから受け取ったタケコプターを頭にセットして浮遊を開始する、もちろん出木杉もタケコプターを受け取ったものの、ジャイアンやスネ夫も当たり前のように使いこなしている姿を見て、大丈夫だと思ったらしい。頭にセットしていざ飛び立とうとしたところで……何かを思い出したかのように、出木杉がみんなに待ったをかけた。
「何が起こるか分からないんだ、姿を消したり隠れたりとか、僕らの姿を目立たなくしておいた方がいいと思う。対策は前もってしておいた方がいいよ」
「さすが出木杉くん、確かに今までの冒険でも散々危険な目にあってきたんだから、そろそろいい加減にちゃんと対策は取るべきだね」
「ドラえもん、それ言っちゃっていいの?」
「こまかい事は気にしないの。それじゃあ……『かたづけラッカー!!!』 これを吹き付けると何でも透明になっちゃうんだ。これでみんな姿を隠して出発しよう」
「「「「おーっ!!!」」」」
出木杉の言葉に納得したようにうなずいたドラえもんは再びポケットに手を入れるとかたづけラッカーを取り出して、みんなに吹き付けた。これは名前の通り、吹きつけた部分が透明になるという道具で、確かに片づけたように見せかける事ができる、画期的な秘密道具である。ただしあくまでも『透明にする』と言う効果のため、どこかに消してしまった、などという事はできないのだ。
そしてドラえもんは言及しなかったが、ラッカーの効果は3時間で切れてしまうため『のび太の宇宙小戦争』ではPICIAの監視網が敷かれたピリカ星でこのラッカーを使い監視を搔い潜ろうとしたのだけれども、途中で効果が切れてしまいPICIAに発見されてしまっていたりするのは、ピリカ星に乗り込んだジャイアンドラえもん、そしてのび太にとっては苦い思い出だろう。
兎にも角にも、こうして透明になった5人はのび太を発見するべく、いよいよ本格的に幻想郷の探索へと乗り出したのだった……。
…………いろいろな人が作成した幻想郷の地理とにらめっこしながら、何所に5人を落そうか迷いに迷いながら、こうなりました。5人が落ちたのは一応魔法の森の最奥部ではなく、外側に近い瘴気が薄い、あるいはほとんどない場所と言う設定にしてあります。なので5にはほとんど体に影響のないまま移動を開始しました。
いよいよ幻想郷へと乗り込んだいつもの5人。ミニ探検隊は一体何を発見したのでしょうか?
そしてちらと正邪が登場しましたが、果たして彼女が取り込んでしまったモノは一体なんなのか? しかし、今後彼女は(どちらかと言うと取り込んだものが)関わってくることになるでしょう。その時敵になるのか、果たして味方となってくれるのか? なお、今回正体についてヒントはありません。もしあれかな? と思う心当たりのある方は、答えが出る時まで楽しみに待っていてください。
それでは次回、乞う!! ご期待っっっ!!