今回はちょっと短めですがご了承ください。
でははじまりはじまり~。
「なあ、そのはくれん神社ってところには、まだ着かないのかよ?」
「ジャイアン、博麗神社だって」
「そう! その博麗神社はどこなんだよ」
「安心しろ、もうすぐ着くから……ほら、見えて来たぞ。あれが博麗神社だ」
赤い屋敷からタケコプターで飛ぶ事数十分。途中でジャイアンがまだかと騒いだりしたものの、謎の矢印の服を着た人物の案内のもとやって来たのは最初に到着した森から、赤い屋敷までの道のりとはまた違う方向に進んだ先にある森の木々の中だった。
確かに案内してくれた人物の指さす方には森の中にぽっかりと開けた場所があり、よくよく見ればその木々のない場所の一角に神社の屋根が見えている。ぱっと見ただけでは外の世界の神社とそうそう変わり映えのしない、しかし何故か昨日今日たてられたかのように新品同様きれいな神社。そう思わせる神社こそがのび太がいると言われてやって来た博麗神社なのだろう。
「おーい、のび太! 無事か!?」
みんな慣れたように神社の境内へと着地すると真っ先にジャイアンが大声でのび太の名を叫ぶ。その声はまるで『夢幻三剣士』で竜の谷においてはぐれてしまったノビタニヤンをジャイトス(ジャイアン)が呼んだ時のよう。もっともその時とは違い、声を聴かれては困る訳ではないのでドラえもんもスネ夫も、それを止めはしなかったのだけれども。
兎にも角にも、ようやくのび太がいるという情報を手に入れてやって来た博麗神社。しかし不思議な事に来てみたのはいいけれども、どうやら人の気配がまったくせず、誰もいないとしか思えない、まるでかつて高井山の奥に位置していた山奥村の家のような静けさだけがそこに広がっていた。
「…………どうしたんだろう、誰もいないみたいだよ」
「おい、そんなバカな話があるかよ。だって、おれたちここにのび太がいるって言われてきたんだぞ」
「うーん、でも山奥村の家みたいに、長い間使われていなかったって言うよりも、ちょっと買い物に出かけて留守にします、って言う感じだなぁ」
「うん、ドラえもんの言う通りだと思う。もし本当に長い間無人だったとしたらもっと母屋とかボロボロになってるはずだけど、鳥居も神社もすごいピカピカできれいだし、人が住んでいないとは思えないよ。きっと多分野比くんと一緒に神社の人も出かけているんだよ」
「出かけるって……神社の人が神社ほったらかしてどこに出かけるんだよ? だってよう、店番ほったらかして遊びに出かけるようなもんだろ? 母ちゃんに怒られるぜ」
「それはジャイアンだけでしょ」
「スネ夫!!」
「まあまあ、たけしくんも落ち着いて。きっと食料とかの買い物に出かけたんだと思うよ。だってほら、幻想郷に来てからコンビニやスーパーはなかったけれどもさすがに人が暮らしている以上、みんながみんな狩りをしたり物々交換をしてものを手に入れて暮らしている、という事はいくら何でも考えにくいから、どこかで買い出しをする必要があるに違いないよ」
「なるほど、そうか」
「でもこうなったらさ、どうするの? のび太やこの神社の人たちが戻ってくるまで待つの? 何時になるかも分からないのに」
「うーん、一応キャンピングカプセルはあるから夜になっても平気ではあるけれど……神社の境内で使うのはちょっとどうかな……」
「とりあえずさ、ここでキャンピングカプセルを使うかは後にして、のび太探しが振出しに戻っちゃったんだから、待つか探しに行くか、それを決めようよ」
「……………………ふふ、今のうちに」
呼べど叫べど誰も返事をしない、無人の神社を前にしてドラえもんたちは誰もいない理由をいろいろと考えてみるが、ジャイアンの言う通り、確かに神社に誰もいないというのは言うなれば店番をほったらかして遊びに行くようなものである。
この例えを持ち出したジャイアンさえ例えを出した時には震えていたように、もしそんな事をした日にはどんなお説教が待っているか分かったものではない。それほど恐ろしい事を神社の人が平気でやるのか?
そう言いだすジャイアンに待ったをかけたのは出木杉だった。
やはりここは秀才の出木杉で、ただ想像しただけの理由ではなく、日本の歴史が戦国時代の前から既に貨幣経済の世の中になり、つまりは外の世界において数百年経過しているのに、幻想郷で貨幣経済が成立していないのは不自然だ、と言う説明と共に買い物などに出かけた……しかもここに来るまでに集落が見当たらなかった事からもかなり遠出している可能性がある、と言う説明は確かに誰もが頷いてしまう説得力があった。
ただ、その場合もし出木杉の推測通り神社の人が買い物に行っていたのだとしても、そもそもどれくらい時間がかかるのか、戻ってくるのがいつになるのかも分からないのだ。この場でのび太たちが戻って来るのを待っていたはいいものの、夕方や夜になりましたでは話にならない。
もちろんドラえもんたちも無策ではない。今までの冒険の中で、キャンピングカプセルと言う簡易宿泊用の道具を使って連泊しながら、恐竜時代、異世界、古代、数多の時代を駆け抜けた事もある。
しかしさすがにいくらドラえもんが未来の猫型ロボットで、神への信仰が現代や幻想郷より薄れているであろう科学世界の存在とは言え、神域である神社の境内にキャンピングカプセルを刺すのは、やはり心理的に抵抗があるのだろう。
結局のところはスネ夫の言う通り、現状のび太捜索がまた振出しに戻ってしまった、と言うより他にはなかった。
そして、そんな議論を繰り返すドラえもんたちを見て、チャンスととらえたのか矢印の服を着た、怪しい案内人は静かにその場を離れて、やがては博麗神社の境内の縁の、茂みの中へとそっと姿を消してしまうのだけれども、その事に気がついた者はその時には誰もいなかったのだった……。
*
「そうだ! のび太くんも神社の人と一緒に出掛けたかもしれないのなら、これを使ってみよう。『たずね人ステッキ』!!! これはね、杖が倒れた方に探している人がいる、って言う道具なんだ。未来では迷子になった子供とかを探す時に使うんだよ」
「なるほど。これさえあれば……っておいドラえもん。そんなに便利な道具があるんだったら、最初からこの道具使ってたら、こんな苦労しなくてすんだんじゃないのか?」
「……………………」
しばらくどうしようかとみんなで額を集めて相談していたその最中に、思い出したようにドラえもんがポケットに手を入れて一つの道具を取り出したのは、何のへんてつもない一本のステッキ……に見えるのだけれども、もちろんドラえもんがポケットから取り出したのだからただのステッキではない。
その名前、たずね人ステッキの名前の通り、このステッキを地面に立て、手を離すと倒れるのだがその倒れた方向に目的の人物あるいは探し物がある、と言う仕組みになっている。鉄人兵団の地球襲来時には、鏡面世界の秘密を知ったリルルが兵団と接触するのを防ぐために使ったのだが、その時にもしっかりとその機能を使いリルルに追い付いているのだからこれを使えばのび太がどこにいても、追い付けるだろう。
ただし、幻想郷に来てすぐにこれを使っておけばよかった、というジャイアンの言葉に冷や汗を流しながら沈黙を貫いたあたりやはりと言うか、出した時にドラえもんもジャイアンの指摘と同じことを考えたらしかった。
「ま、まあまあ。過ぎたことは置いておいて……さて、のび太くんがいるのはどっちかな……こっちだ!」
ごまかすように笑いながらステッキを地面に立てて、その丸いゴムまりみたいなペタリハンドを離すと、しばらくの間グラグラと揺れていたステッキはやがてパタリ、と音を立てて博麗神社の境内でとある方向を向いて倒れてしまった。
「あっち、って……なんだか高い山があるだけだぜ」
「山って……あのドジでノロマののび太が山登りでもしに行ったの?」
「ちょっと二人とも、そこまで言ったらのび太さんがかわいそうよ」
「山頂まで登りに行ったとは限らないよ。野比くんがあの山に向かったのなら、ふもとまで山菜とかを取りに行った可能性も十分に考えられる。神社からあの山までの距離を考えたらあまり暗くなるまではいられないだろうし案外神社に帰る途中の野比くんに会えるかもしれないよ」
「さすが出木杉くん、冴えてる! ジャイアンとはえらい違いだ」
「なんだとスネ夫っ!!」
「ひぃーっ! お助けーっ!!」
「まあまあジャイアン、落ち着いて。今はのび太くんを探すのが先だよ」
「うーっ、スネ夫帰ったらひどいからな!」
そのステッキが倒れた方向と言うのは……幻想郷でも最も高い山。そう、ドラえもんたちは与り知らないけれども、烏天狗や白狼天狗、それに河童たちが暮らし、守矢神社が社を構える妖怪の山であった。
おまけに山と言っても、ただの山ではない。なにしろ遠目に見ても、のび太たちも遊びに行った事がある高井山どころか富士山よりも高そうな山であり、そんな高い山にのび太が登りに行くのかと言う、スネ夫からのもっともな意見も出たものの、そこは出木杉によって登山が目的ではなく山菜などを取りに出かけているのではと言う反論によって、スネ夫はおろかその場の全員が納得している。
こうして、全員が納得した事で(スネ夫の頭にジャイアンがいくつものゲンコツを落としてたんこぶを造ったりしたものの)再びドラえもんたちはタケコプターを装着し、妖怪の山を目指して飛び立つのだった。
「よし、みんな準備はいい?」
「いつでもいいぜ!」
「ぼくもいいよ!」
「ええ、OKよ」
「こっちも大丈夫だよ」
「それじゃあ行ってみよう、目指すはあの高い山へ!」
5人の頭のタケコプターがプルプルと回転音を発し、みんなの身体がふわりと浮遊する。みるみるうちに博麗神社の屋根が小さくなり、そのまま空を飛んでいくドラえもんたち。しかし、ドラえもんはたずね人ステッキを使う時に、肝心な事を忘れていた。それは『たずね人ステッキの的中率は完全ではなく70%しかない』という事である。
ドラえもんが向かう妖怪の山に、本当にのび太がいるのか。たずね人ステッキはきちんと正解を引き当てたのか、それとも実はのび太は別の場所にいるのか。正解を知る者はいなかった……。
そこは妖怪の山の一角。烏天狗や白狼天狗と言った天狗たちが飛び回る、天狗たちの暮らす集落の中でもひときわ大きな建物。その入口には物々しい剣と盾で武装した白狼天狗が門番として見張りに立ち、ネズミ一匹侵入者は見逃さないとでも言いたげに神経を張り詰めているのが感じられる事からも、他の建物には見張りの白狼天狗がいない事からもその建物がこの天狗の集落において、特に重要な意味を持つ建物であるという事が伺える。
そんな建物へと、とある背中に羽を生やした一人の人物がゆっくりと近づいていく。その姿は集落に暮らす烏天狗や白狼天狗とは全く違う姿格好をしていると言う、何も知らない者が見れば、どう見ても浮いている格好なのだけれども見張りの白狼天狗はそんな訪問者を不審者として厳戒態勢をとる事なく、ごく親しい人物が訪ねて来たかのように中へと通すのだった。
「どうぞお通り下さい隊長殿。中で天魔様がお待ちしております」
「ありがとうございます」
隊長、と呼ばれたその人物は門番を務める白狼天狗に一礼をするとそのまま建物の中へと消えていく。後に残るのは、また何もなかったかのように見張りの任務へと戻る白狼天狗だけだった……。
さてさて、妖怪の山へと向かってしまったドラえもんたち。果たしてたずね人ステッキの指示した方向は合っていたのでしょうか?
また、最後に出て来た謎の人物、隊長さんの正体は!? そもそもドラえもんたちはのび太を探すのに夢中で気がついていませんが、矢印の服の謎の人物は一体どこへ行ってしまったのか? いくつも謎を残していますが、ひとまずドラえもんたちの捜索編はここでおしまいです。ドラえもんたちが幻想郷に来た頃、果たしてのび太は何をしていたのか、次回からは久しぶりにのび太たちの物語となります。
次回、乞う! ご期待っ!!!