妖々夢編の続き、いよいよ今回からのび太と妖夢とが決闘開始、デュエルスタンバイです。
射撃の天才のび太と、剣による決闘を得意とする妖夢、果たしてその決闘はどうなるのでしょうか?
それでは、続きをお楽しみください。
「さあ、立ちなさい! これからあなたをこの私が切り刻んであげましょう! 今更泣いて謝って赦しを乞うても、この私が、そしてこの剣が、許しませんからねっ!!」
「えぇ、急にそんな事言われても……」
幽々子様をバカにするものは赦しません、とギラリと鞘から引き抜かれた剣の切っ先ををのび太に向けて突き付けた妖夢。その顔には怒りの表情を張り付けながら、妖夢が今にも斬りかからん勢いでそこに直れと言うその様はまるで昔の処刑人のようだ。
のび太のようなただの人間の子供など言われた通りに座ったが最後、あっという間に首をはねられておしまいになるのは目に見えている。
が、もちろんそんな事をのび太の保護者の目の前で宣言したところで、そう簡単にはいそうですかと許すはずもなく……。
「あのねえ、ちょっとは落ち着きなさい!」
「あいたぁっ!!! ちょっと霊夢さん。いきなり何するんですかっ!?」
「何するんだ、じゃないわよ。妖夢あんたねぇ、よくもまあのび太の保護者の前で堂々と切り刻むだの赦さないだの、好き放題言ってくれるじゃないのよ。のび太に何かあったら私が紫から怒られるの、分かるかしら? 分かるわよね? あ、ちなみに返事は『はい』か『分かった』のどちらかしか認めていないからそこのところ、よろしくね?」
「え、いえ……あの、その……霊夢さん……?」
「おっそろしい……まるでジャイアンみたい……」
バシン! という景気のいい音と共に、妖夢の背後に回り込んだ霊夢が手にしている大幣が、妖夢の頭へと勢いよく無慈悲に、容赦なく振り下ろされた。それは、まったく妖夢としても予想していなかった一撃だったらしく、叩かれた拍子に手にした剣を取り落としそうになり慌ててしっかりと剣を握り直していた事からも、口上を述べている最中に霊夢が横から叩いてくるという発想がなかった事が伺えた。
当然妖夢だっていきなり大幣で頭をひっぱたかれたまま黙っていられるはずもなく、自分の頭をひっぱたきながら涼しい顔をしている霊夢へと、その怒りの矛先を切り替えて噛みつくように抗議の声を上げる。その様子からも、どうやらどうして自分が思い切りひっぱたかれたのかは全く理解していないらしかった。
そんな妖夢に一言一句、言い聞かせるように背後に怒りの混じった炎のような霊気を立ち昇らせながら、妖夢の胸ぐらをつかむ霊夢の様子はまるでジャイアンさながらである。もし霊夢が外の世界、のび太の街に遊びに来たらジャイアンと意気投合して、二人で街のみんなのいじめっ子になるかもしれない……。
保護者の立場から妖夢に対して怒りを見せているのに、そんな霊夢の様子に対して失礼極まりない事を考えているのび太。と、唐突に霊夢がその目線をのび太の方へと向けて来た。
「…………のび太、ひょっとして今、何か変な事を考えなかったかしら?」
「……う、ううん。ア、アハハいやだなあ霊夢さん。神に誓って!! 犬も猫も恐竜も、台風の子供も飼っていないですし、おかしなことなんて何も考えてないですよ!?」
「そう、ならよかったわ。でものび太、のび太が誓った神様ってこの近所だと……守矢神社の神奈子や諏訪子よ?」
「待ってください、今なんだかこの子さらりととんでもない事口にしましたよねっ!? なんですか恐竜や台風の子供って!」
笑顔で、でも絶対に笑っていない、のび太のママやジャイアンもかくやと言う迫力と共に霊夢がのび太に、まさにふと思いついたと同じくらいのタイミングで問いかけてくるその様子は、まるで心が読めるのか
あるいは『さとりヘルメット』でもこっそりとかぶっていて、その効果で心を読んだんじゃないか、としか思えないほど。
もちろんのび太がいくらのん気でのんびり屋の性格をしていても、ここまであからさまにおっそろしい気配を見せられては頷く事しかできはしない。けんかのプロであり、敵が近づくと第六感がビンビンに感じるんだと豪語するジャイアンではないけれども、のび太とて日々ママやリサイタルを開催しようというジャイアンと言う、この世にそうそういない恐るべき相手の気配を察知しながら暮らしている。誰かが怒った気配や自分がピンチに陥っている、あるいは恐るべき何かが迫ってきているという事を察知するのはのび太も割と得意なのだ。
そののび太が今はっきりと感じていた。
今あの霊夢に逆らえば『ママより先生よりジャイアンより、十戒石板よりもおっかない雷が、自分めがけて落ちてくる』と。
……ちなみにこの十戒石板、とはドラえもんが出したひみつ道具の一つであり、名前の通り石板の形をしたひみつ道具である。そして十戒とは、十の戒めであり、戒めとはしてはならない事だ、とはドラえもんの言である。
この十戒石板に、原典の神より授けられた十戒よろしく1~10まで十戒の名の通り使用者がルールを書き込む事ができ、そのルールを破った者には石板の効果で雷が落とされる、と言う仕組みとなっている。その効果は強力でジャイアンからのび太に噛みつこうとした野良犬、のび太のお小遣いを減らそうとしたママ、はる夫と安雄まで、のび太が作った十戒によってことごとく雷によって黒焦げにしていったのだ。
ただし、この道具には穴があり実はその十戒を破った事による天罰の落雷は、仮に所有者が十戒を破った場合にも容赦なく落とされるようにできており、この効果によってドラえもんはのび太から十戒石板を取り返すことに成功したのだった。(最後の十戒を『勝手な決まりを作るな』と言う内容にするように、ドラえもんが誘導したため)
そんな、この幻想郷に来る前。のび太やドラえもんが過ごす日常の中で起こったちょっとした騒ぎの一幕である。
兎にも角にも、そんな怖ろしい気配を見せた霊夢を前にしたのび太はジャイアンに脅されても、こうはならないだろうというすごい勢いで霊夢の言葉を否定したのだった。
「まあ、のび太はいいわ。それから妖夢。どうしてものび太を斬りたいって言うのなら、まず私を倒してからにしてもらえると助かるんだけど? 後ね、細かい事を気にしたら、負けよ」
「あら、のび太との決闘だなんて……ちゃんと安全にしてくれるなら、たまにはそう言うのもいいんじゃないかしら?」
「「「(へっ)っ!?!?」」」
聞き覚えのある声が、でも直前までいなかったはずの人の声が白玉楼の庭に、霊夢たちの会話に急に割り込んでくる。のび太に霊夢、妖夢がほとんど同じタイミングで声がした方へと視線を向ければそこにいたのは幽々子様の隣でスキマから上半身をのぞかせている、紫色のドレスに帽子をかぶった金髪の女の人……そう、幻想郷の賢者、八雲紫だった。
最近だと紅魔館から発生した異変の際にのび太たちがタイムホールとトリモチを使って過去の紅魔館からレミリアとフラン姉妹の両親を博麗大結界も経由せずに連れて来てしまったために、いきなり幻想郷に出現した強力な力の持ち主の正体を掴むために慌ててすっ飛んできた時以来、であろうか。
ちなみにこの唐突過ぎる登場に明らかな反応を見せたのはのび太、霊夢、そして妖夢の三人であり、隣にスキマを開いて現れたにもかかわらず、妖夢の主人である幽々子様はのんびりとした雰囲気で、まるでそれが当たり前の事のようにそれを受け入れていた。
もしかしたら、穏やかそうな雰囲気そのままに受け入れていたというよりも驚いたりしてもそれが表情に出ていないだけなのかもしれないが。
「あら、紫じゃないの。珍しいわね、こんな時間に顔を出すなんて」
「ええ、本当はもう寝ようと思っていたんだけれどもね。のび太がまた、何やら面白そうな事をしでかしそうだからつい見に来ちゃったわ」
「見に来ちゃった……って、のび太に弾幕で勝負しろって言うの?」
「大丈夫でしょう? 模擬的なものとは言え、あの白黒の魔法使いとも渡り合って、紅魔館の悪魔の妹を無傷で制圧した話を聞いたらねぇ。ただし……さすがに切り合いは認められないわね」
幽々子はともかく、霊夢はまだのび太が妖夢と弾幕で勝負することに対して否定的な考えでいるのだけれどもいきなりやって来た紫はと言うと、霊夢とは対照的に弾幕で勝負をするという事については全く否定するつもりはないらしい。
本気のほの字も出ていないような、あくまでも弾幕による勝負がどのようなものか触れる事が目的だったとはいえ、霊夢と共に数々の異変を解決してきた魔理沙に対してフワフワ銃で逆転の一発を決め、また能力が決まってしまえばレミリアやパチュリーはおろか霊夢や魔理沙でさえ危険が付きまとうフランとも戦い、そしてケガひとつ負う事なく勝ってみせたのび太である。弾幕と言うカテゴリーに限定するのなら、のび太も決して弱いだけの子供ではない、そう紫は見ていたのだ。
もっとも、あくまでもするべきは弾幕による勝負であって、刀を手に手に持っての斬り合いについては全く認めるつもりはないようだ。
認められない、という言葉と共に霊夢もかくやと言う気迫でもって紫が妖夢をにらみつける。その視線は『弾幕ならともかく、刀で切り付けてのび太にケガさせたら、どうなるか分かってるわね?』と無言で、しかしはっきりと言っていたのを妖夢も感じ取るのだった……。
「し、仕方ありませんっ。そういう事なら……いいでしょう、弾幕での勝負でも、外から来たちょっと弾幕をかじった程度の子供に負けるほど修行を疎かにしていたつもりはありませんからねっ!」
「ええぇ……そんなぁ……」
「ほら、のび太! 保護者の私が見てるんだから、負けるんじゃないわよ!? 負けたら晩ご飯抜きだからね!?」
「あらあら、たまにはこういうにぎやかなのも悪くないわねぇ」
「さて、と。それじゃあ見せてもらおうかしら」
こうして、のび太がいやだと抵抗する間もなく周りのみんなの話によって(むしろ主に紫の面白そうだからという理由によって、なのだけれども)のび太と妖夢の弾幕勝負がなし崩し的に始まってしまうのであった。
ちなみに、妖夢に負けたら晩ご飯抜きだという霊夢の言葉に『そもそものび太が来てから、博麗神社の朝昼晩ご飯は全部のび太の持ってきたグルメテーブルかけで賄われていて、霊夢が何か炊事に関する作業をした事は一度もない』というツッコミを入れたものは誰もいなかった事はここだけの話である。
「「………………」」
そんな事がありながらも白玉楼の庭、その一角でのび太と妖夢はお互いに向かい合っている。
のび太の両の手にはすっかり使い慣れた、この幻想郷に来て幾度となくのび太のピンチを救ってくれた、そして命を奪うリスクがない理想的な武器『フワフワ銃』。もちろん腰にはホルスター付きのベルトを装備し、フワフワ弾もしっかり補充して、弾切れにも備える事は忘れていない。
そして対する妖夢の手には、長い刀『楼観剣』が、ただしそのまま振るった日にはのび太にどんな怪我を負わせるか分かったものではないため、刃と峰とが逆になるように握っていた。これは言うまでもなく、仮にのび太をひっぱたいても峰打ちになるように、との配慮である。一応もう一振り、腰には短刀の白楼剣もあるのだけれども、今回そちらは抜いてはいない。どうやら妖夢としては、のび太相手にそこまでするほどの相手でもない、という認識であるらしい。
互いの思惑はあるものの、こうして手に手に獲物を携えて、互いの準備は整ったわけだ。
ババババババババババババギュン!!!
先手はのび太の六連発リボルバーの両手持ちによる、一瞬の早業だった。
タイムマシンでかつてアメリカ開拓時代の西部の町モルグ・シティへと向かい、成り行きで保安官に任命されてしまい、町へと殺到するギャングたちを一晩でやっつけてしまい、そして町長たちに会う事無く消えてしまったという伝説のガンマン。その伝説の張本人であるのび太の腕がいかんなく発揮され、妖夢めがけて容赦なく撃ち込まれる。
両手それぞれのリボルバーから六連発の弾丸がほぼほぼ一瞬で全て発射されるというまさしく『目にもとまらぬ早業』のもと、妖夢へとまっすぐに吸い込まれてゆき……しかし、その弾はことごとくが、妖夢の刀ではじかれて、白玉楼のきれいな庭に似つかわしくない硝煙の匂いと共に、銃弾がパラパラと散らばり、彼女の足元へと落ちていった。
最初に戦った魔理沙や妖怪の山で戦った椛は、フワフワ銃を回避する事もできずに身体がまあるく膨らんでしまった。その次に戦った文については、フワフワ銃の弾丸が無双風神の効果もあって命中弾になるはずの弾丸が、文の周囲を吹き荒れる暴風によって弾かれてしまい、届かないという結果だった。
それに引き換え、妖夢はのび太の放った必中とも言っていい弾丸を『全部目で見て、剣で弾き、叩き落して』見せたのだ。ただの庭師とは思えない、恐るべき技量である。間違いなくクンタック王子やサベール隊長、海底人のエル、竜騎隊士バンホー、満月美夜子さん、シンドバッド王、キャプテンキッド船長など、これまでにのび太が出会った人物の中で剣を得意とした人たちの中でも、特別に腕が立つと言えるだろう。
のび太自身、自分の射撃の腕前にはこれまでにも数多くのピンチを自慢の射撃で切り抜けてきたという経験があり、うぬぼれではなしに自分の射撃の腕前には絶対の自信を持っていた。それは、ジャイアンやスネ夫に対しても『僕が負けるはずがない』と二人がここまでのび太が強情張るなんて珍しいと驚かれるくらいのものだったのだけれども、そんなのび太自身も信じられないものを見たように妖夢を見ている。
そこからも妖夢の剣の腕前が分かるというものだ。
「えーっ! 嘘だ……僕の撃った弾が弾かれるなんて……」
「いえ、お見事な腕前でした。私や、私の師匠のおじい様でなければ間違いなく今の一手で勝負は決していたでしょうね。私もまさかあの一瞬で六発の射撃を両手でこなして見せるだなんて、ヒヤリとしましたから」
「じゃあ……次は絶対に命中させてみせます! 弾が足りればいいけど……」
妖夢の様子を伺いながら、弾切れを起こしたリボルバーの弾倉へと6発のフワフワ銃用の弾丸を装填しながら今度こそ妖夢にフワフワ銃を当ててみせると決心を新たにするのび太。もっとも、のび太が懸念するように、妖夢をうち負かす前に弾が足りるのか、妖夢に一発を当てる事よりものび太にとってはそちらの不安の方が大きかったりするのだが……。
だが残念ながら、そんなのび太の不安など妖夢は待ってくれない、と言うよりも待つ理由などない。口には出さなかったが本当なら、のび太が弾を込めている最中に斬りかかってしまえばあっという間に勝負を決する事ができる、その上で敢えてのび太が銃に弾を込め終わるまで律義に待っていたのは、のび太の幻想郷でも一、二を争う銃の腕前である事を認めたため、そんな形でのあっけない決着ではなく万全な状態ののび太をきっちりと負かすため、と言う剣士としての欲が出たからに他ならない。
「……まさかあんな事までできるなんてね。のび太って本当に人間なのかしら? って言うか紫、外の世界ってあんな子まで、射撃技術を磨かないと生きていけないような修羅の国な訳? もしそうだとするなら、私でも生きていけるか、自信がないんだけれど……」
「あのねえ霊夢、そんな訳ないでしょう。のび太が特別なのよ、あんな射撃技術に優れた子なんてそうそういてたまるもんですか」
「妖夢~、頑張るのはいいけれどもちゃんと勝負が終わったら、庭のお掃除はお願いね~」
「みょんっ!?」
なおも続く、射撃をするのび太とそれをことごとく弾いて一切の直撃を赦さないという妖夢の決闘を観覧しながら、霊夢、紫、そして幽々子が思い思いの感想を口にする。
幽々子は、その雰囲気にたがわずどこかずれたような感想を口にするが、霊夢と紫は幾度も見たはずなのに、普段のぐうたらでドジでおっちょこちょいな様子からは想像もつかない、のび太が見せたその壮絶な射撃の腕前に改めて慄いていた。と言うか間違いなく妖夢の言う通り、並の相手やそんじょそこらの妖怪程度なら、のび太のあの六連発リボルバーによる一斉射撃×2の先制攻撃があればあっという間に制圧できるだろう。
「これでもしのび太が弾幕なんて習得したら、とんでもない弾幕を編み出してきそうね。回避も防御も何もできない、撃たれた瞬間に直撃してるような、一瞬で決着がつく弾幕を撃ちこまれる未来しか想像しかできないわ……」
のび太がもし、弾幕を撃てるようになったら? 今はまだ、何の能力もない普通の子供だから銃の使用を許可しているけれどもこれでもしそんな事が現実になったら、きっとのび太は一瞬で勝負がつくような、そんなとんでもない弾幕を撃ってくるんじゃないカ、そんな想像をして霊夢は独り言ちるのだった……。
さすがにすぐには終わらない、のび太と妖夢の決闘。
そもそも、フワフワ銃の弾が尽きるまでに妖夢に一発撃ち込む事はできるのか? と言うか、銃vs剣で決闘ってそれでいいのか? 電光丸の出番は?
次回、乞う!ご期待っっっ!!!