ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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すみません、お待たせしてしまいました。

ひとまず先週あたり流動食しか受け付けなかった身体の方はどうにか、ご飯を食べられる程度には体調が戻ってきています。
体調管理できていないと言われればそれまでですが、皆さんもまだまだ暑いのと夏休みなどの方もいらっしゃるかと思いますので、お気を付けください。



はじめてのだんまく

 魔理沙とのび太の間に霊夢が割って入るそぶりを見せた事で、分が悪くなると踏んだらしい魔理沙が霊夢に『弾幕勝負』なるのび太には聞き慣れない、未知の勝負を持ちかけてきたのだけれども、もちろんのび太は弾幕と言われたところでそれが果たして一体どういうものなのか、ピンとくる訳がない。

 

恐竜の時代、コーヤコーヤ星、バウワンコ王国、ムー連邦、魔法世界、ピリカ星、メカトピアからの侵略ロボット、地底王国の恐竜人、etcetc……。

 

 のび太が冒険してきた数多の世界はあれど、弾幕勝負、なるものを行うような、あるいはそれを挑んでくるような世界は今まで一度も無かったのだ。

 しいて言うのならばコーヤコーヤ星で星そのものを爆破し、ガルタイト鉱石を手に入れようと企んでいたガルタイト工業が送り込んだ殺し屋ギラーミンとの決闘だろうか。

 お互いに名うてのガンマンとしての力量を見抜き、恐ろしい相手だと認め合うほどの実力者同士が行ったその決闘は辛うじて、文字通りの僅差で、のび太のショックガンがギラーミンを制する形で勝利となった。

 しかしそれはあくまで『決闘』であって弾幕勝負、ではない。

 もしこの場にギラーミンがいたとしても、のび太との勝負は弾幕勝負などではなく決闘であったと証言してくれるに違いない。

 つまりは、今ののび太に弾幕勝負と言う単語を理解できる頭は備わっていなかった。

 一方で、霊夢はと言うと魔理沙の言っている言葉の意味を理解できているらしく、頭に疑問符を浮かべたのび太を他所に魔理沙に掴みかからん勢いで文句を口にしている。

 

「魔理沙、あんたここに来てまだ何も分かってないのび太に弾幕勝負なんて挑んでどうするのよ」

「大丈夫だって、さすがにスペルカードを使うつもりはないし手加減だってするさ」

「当たり前よ! その代わり魔理沙、弾幕についての説明やルールについても、勝負を持ちかけたあんたが責任もってちゃんとのび太に教えなさいよ?」

「分かったよ、まあそこは私にも責任があるしな。その代り審判は公平に頼むぞ」

 

 この、のび太を置いてけぼりにしながら霊夢と魔理沙の間で行われていた会話によって、審判は霊夢が務め、またのび太が初めて体験するであろう弾幕についての説明は魔理沙が行う事になったらしい。

 霊夢に思い切り釘を刺されながら、魔理沙がホウキを片手にのび太から少し離れた場所に立って、神妙な顔つきで口を開いた。

 

「のび太、まず勝負の前に弾幕が一体どういうものなのか説明するからな。これは私だけじゃなくて、幻想郷で暮らしていく上で、必要になると思うから、しっかり覚えておいてくれよ」

「はーい」

 

 魔理沙の言葉に学校の授業よろしく、返事だけは真面目に答えるのび太。

 まあ、学校の授業のように眠気を誘う話でもなさそうであり、おまけに曰くここでの生活をする上でも必要になるらしいとなれば、聞いておいて損はない、と言うのがのび太にも分かったらしい。

 それに万が一最悪の場合、のび太にはピンチを切り抜けるのにふさわしい、相手からすれば苦情が飛んでくる事待ったなし、反則級の効果を持ったひみつ道具も多数ポケットの中には控えている。

 もちろんそうおいそれとそんなモノを取り出す訳にもいかない(特に魔理沙の前で取り出せば間違いなく貸せと言われるのは目に見えている)ので、使うとしてもあくまでも本当にピンチになった時にだけ、になるだろうけれども……。

 

「いいかのび太! よく見ておけよ……」

「……へっ!?」

 

 そんな事を考えているのび太を他所に、魔理沙はホウキを片手に持ったまま、のび太にびしりと指先を突き付けながら、突き付けた指の先端から光る玉とでも言うのか……少なくとものび太にはそうとしか見えない、ゲンコツ一つ握った程度の大きさをした光の玉を生み出した。

 おまけに生み出しただけでなく、それはゆっくりとふわふわと空中を漂うようにのび太の方へと飛んでくるのだ。

 音もしなければ、ジェットやプロペラで飛んでいる訳でもない。

 

「…………」

「おっと、触るんじゃないぞのび太? 思い切り手加減してスピードを遅くしてるけれども、当たったら痛いのには間違いないからな」

「……っ!!」

 

 ただ、ふわふわと風船が漂ってくるように向かってくる光の玉にのび太が近づいて、そっと手を近づけようとしたその動きを遮るように魔理沙がやんわりと警告する。

 その言葉が嘘を言っているのでないとしたら、これにもし当たれば魔法世界で悪魔やデマオンの使い魔たちが使った魔法のようにジャイアンやスネ夫のホウキが燃やされたり、服が焦げると言った程度の痛い目には合うのだろう。

 魔法世界で実際に見て来た経験から、すぐにのび太はその手を引っ込める。

 

「そうそう、それが弾幕だ。私なら魔法使いだから魔力。霊夢なら霊力、妖怪なら妖力、みたいにそれぞれが持つ力をこうして発射する訳だ。それをお互いに撃ち合って決闘する、当たるまでな」

「…………」

 

生まれてこの方初めてのび太が目にした弾幕、見た目はやはり教えているのが魔法使いの魔理沙と言う事もあり、魔法世界の魔法攻撃に近いものがある。

 しかしそれ以外でも、風の民の村で子供たちのリーダー、テムジンが使っていた風弾ダーツにも似ているのかもしれない。

 そんな魔法世界や風の民の村だけでなく、今まで自分が冒険してきた世界で似たものがあったかどうかを思い出しながら、じっと魔理沙が放った弾幕を見ていると、やがてそれは力を失ったのかある程度までふよふよと飛んだところでふっ、と消えてしまった。

 

「あ、消えちゃった……」

「そりゃあ、ありったけの力を込めた訳じゃないからな。いつまでも残ってる事は無いさ。で、続きだけれどもどちらかが弾幕に当たったらそこで勝ち負けは決まりで、その弾幕ごっこはお終い、って訳だ。他にもいろいろと細かい方法はあるけれども、基本はこれだな」

「魔理沙の事だから『いきなり実践あるのみだ』とか言い出さないか心配してたけど、これなら大丈夫そうね」

 

 説明を終えてから『これでだいたい分かったか?』とのび太に確認してくる魔理沙。

 その様子から二人から少し離れて見ていた霊夢にも、魔理沙としてもできうる限り、全く何も知らない年下の男の子が分かりやすいように、要点を絞って説明していたと言うのが分かったのか、うんうんと満足げに頷いていた。

 ただ、のび太の反応だけは少し違っていた。

 

「うーん、弾幕勝負って言うのが決闘なんだ、って事は分かりましたけど……僕にはそんな力なんてないんですけど……その場合はどうなるんですか? 銃とかが使えるなら別ですけど……」

 

 そう、困ったような表情を浮かべたのび太の理由はそれだった。ひみつ道具を使えても、種族としてはただの人間にすぎないのび太は魔力も妖力も、ましてや霊力も持ってはいない。

 実際には魔法なら使える可能性はあるものの、使えたとしても効果はスカートをめくるしかできない物体浮遊術のみ。

 これでは無いのと大して変わりはないだろう。

 唯一の例外として、決闘でも誰にも負けない自信があると言えるのはピストル、大砲、と言った射撃武器の類だけだ。

 しかし、ギラーミンとの決闘ならばともかく、弾幕での決闘に銃器の類を果たして霊夢や魔理沙は許可してくれるのだろうか? 

 だが、その答えは割とすぐに出てきたのだった。

 

「面白いじゃない。たまにはこう言った要素が入るのも、退屈しのぎとして悪くはないんじゃないかしら?」

 

 のび太の言葉に対する霊夢や魔理沙の答え、にしてはおかしい。そもそも二人の声にしては違和感がありすぎる。のび太がそう思う間もなく、三人のいる神社の境内の空間がぱっくりと口を開け、中からするりと抜け出すように紫が現れた。

 しかし霊夢も魔理沙も、ついでにのび太も紫の能力、つまりスキマを作って移動すると言うのは何回か見ているし体験もしているので、幻想郷の賢者の登場に別に驚く事もない。

 

「紫、こんな時間に珍しいじゃない。一体どうしたのよ?」

「いえ、そろそろ寝ようかなと思ったら、面白そうな事をしているみたいだから見にきたのよ」

「…………っ!!」

 

 日傘を片手に、相変わらずつかみ所のない笑顔で霊夢の問いかけに答える紫。この場にはいなかったはずなのに、紫は『面白い事をしているから気になって来た』と答えた。

 もしかしたらこの幻想郷の賢者も、実はタイムテレビやスパイ衛星みたいな道具でも持ってるのかもしれない。

 博麗神社のようなつくりの畳の部屋にごろりと寝そべりながら、テレビを見ている紫の姿を想像してしまい思わず吹き出しそうになり、変な表情にをするのび太に他の三人がが怪訝な表情を向けるが、どうにかのび太はそれ以上変な表情をする事もなく自分の生み出した想像のおかしさに耐えきって見せた。

 幸いにも、三人はのび太が噴出しそうになった理由を見抜く訳でもなく、ただむせただけだとでも思ったらしく、それ以上の詮索がのび太に向かう事は無かった。

 

「さて、それじゃあ話を戻しましょうかしら。あらかじめ言っておきたいのだけれども、あくまで決闘と言っても相手を傷つける事が目的ではないわ。のび太の持っている道具の中にそんなものはあるのかしら?」

「えっと……多分これなら大丈夫じゃないかな? フワフワ銃!!」

 

 

 

『フワフワ銃』

 

 

 

 かつてのび太たちが22世紀のミステリートレイン銀河超特急で宇宙の果て、ハテノハテ星群に建設されたテーマパーク・ドリーマーズランドを訪れた事があった。

 貴重な鉱石メズラシウムが産出し、ひと時は鉱山の惑星として賑わいを見せたものの、鉱石と言うのは決して無限の資源ではない。

 案の定鉱脈が掘り尽くされてしまうとそれまでの賑わいから一転、さびれてしまった小惑星群そのものをテーマパークとして再興しようとしていた一大事業。

 そのテーマパークの中で、のび太は迷う事なく西部の星を選択し、いかんなくその射撃の腕を披露するとたちまち一躍その日の英雄となった(参加者は射撃テストを行い合格者が保安官助手に→暴れ回る悪役を倒し、MVPになった保安官助手に一日正保安官の名誉が与えられる仕組み)。

 その時に記念に貰って来たのがフワフワ銃、銃そのものは本物とほとんど変わらない6連発リボルバー銃になっていて、この道具は銃そのものよりも装填する弾の方に特別な効果が持たされていると言ってもいいだろう。

 パークの悪役ロボットに命中するとそのまま動きを停止させるけれども、万が一にも人間などに命中した場合、加害・殺傷するのではなく命中した相手が風船のように膨らみ空中に浮かばせてしまうだけのイタズラアイテムのような効果を発揮するに留まっている。

 当然パーク内の西部の星でなければ、ロボットの機能停止機能は働かないが対人での無力化能力はどこでも発揮されるため、記念に貰って来たこの銃一式でのび太はその後のねじ巻き都市冒険記での戦いでも、諸事情から複製された脱獄囚鬼五郎一味を片っ端から膨らませて捕縛に貢献したのだ。

 

「これは、人に命中すると傷つけたりするんじゃなくて風船みたいに丸くなって空中に浮かばせてしまうんです。多分これなら怪我もしないし安全じゃないかな……?」

「ほぅほぅなるほどな。これなら安全みたいだし紫の言う通り、のび太の為にも弾幕ごっこで使う事を許可してもいいんじゃないか?」

「私はまあ、紫や魔理沙がいいって言うのなら反対はしないけど……」

 

 これから実際に勝負する為、あまりにも殺傷能力が高すぎるような物騒すぎる飛び道具を出されたら困る、と明らかに表情に出ていた魔理沙も命中してもフワフワと空中に浮かぶだけ、殺傷能力は一切持たずただ相手を無力化するだけの飛び道具と聞いて安心したらしく、弾幕ごっこにおけるのび太の銃器の使用を積極的に推してきている。

 

「じゃあ、決まりね。のび太、あなたが今後弾幕勝負をする時には、特例としてその銃の使用を許可するわ」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 この時、紫も霊夢も魔理沙も、自分達が一体誰に、どんな許可を与えてしまったのか。

 のび太が銃を使うと言う事が一体何を意味するのか、そこに気が付いた者は誰一人としていなかった……。

 




はい、まさかの弾幕ごっこでのび太の銃使用解禁です。
ここにチート少年爆誕がされてしまったのですが、幸か不幸かまだ幻想郷の面々は自分たちが何を許可してしまったのかには気が付いていないのですね。


………そんな状況ですが、実はまだのび太を勝たせるか魔理沙を勝たせるか、非常に迷っています。
どちらの展開も全く考えていない訳ではありませんので、どちらに勝って欲しいか、コメントなど頂けると作者的にも非常に助かります。

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