ドラえもん のび太の幻想郷冒険記   作:滄海

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のび太VS魔理沙、決着です。
1話で決着付ける為に色々書いていたら当初の予定は端折って3千文字くらいかな、と思ったのがあれよあれよと1万文字……。

サブタイトルは話を書きながら聴いていた爆風スランプの神話から思い付いて付けました(汗
なのでのび太、ではなくノビタになってます。









ノビタ 博麗神社空中決戦

 

 

 

………………これは一体どういうことなのか?

 

 

 

………………いや、一体何が起こったのか、と言うべきか。

 

 

 

 頭では理解している、頭では理解しているし自分の身体が大きく数倍にも膨れ上がり、空中に浮かんでいると言う現実を認めなくてはいけないのはよく分かる。

 とは言え確かに説明の通り、お腹や服がきつい訳ではない辺り、説明された以上に自分の理解の及ばない何かが作用しているんだろう、と言う所は研究者としての一面を持つ彼女は気が付いた。

 結論から言おう。魔理沙はのび太の説明通り、違う事なくフワフワ銃の効果で身体全体が丸くはち切れんばかりに膨れ上がり、博麗神社の境内にぷかぷかと浮かんでいた。

 

「お~い、助けてくれ~」

「「…………………………」」

 

 空中に浮かび、落語の戻り井戸のような声を上げる魔理沙を前にして、二人の弾幕勝負を見物していた紫も霊夢も、何も言う事が出来ずただ魔理沙の様子を見上げているしかできなかった。

 何しろ元に戻す方法があるのか、あるいはあったとしてどのようにすれば元に戻るのか、のび太から聞いていないので二人にはどうしようもないのと、その肝心要の解除方法を知っているであろうのび太が気絶してしまった事から解除方法を聞こうにも聞けないのだ。

 どうしてこうなったのか、話は少し前にさかのぼる……。

 

 

 

 

 

 

                  * 

 

 

 

 

 

 

「よーし、それじゃあのび太も銃を使っていいって許可された訳だし、そろそろ弾幕勝負を始めるとするか!」

「決闘なら負けませんよ!!」

 

 のび太がフワフワ銃を取り出して、紫たちに説明をした所で魔理沙は『これでお互いに対等になったんだから早く勝負を始めようぜ』と、先に持ち掛けていた勝負を急かすようホウキを振り回してのび太から少し離れた場所へと歩いていく。

 別段のび太が説明を受けた限り、ホウキは関係ないように見えるのだけれども何かのおまじないかな? そんな事をふと考えながらのび太もそれを受け、フワフワ銃と共に用意したガンベルトを腰に巻き付けて、魔理沙から少し離れた場所へと歩いていく。

 ちなみに、本音を言うのならのび太としては、銃を使うと言う事で西部の星で着ていた格好もしたかったのだけれども、さすがに急かしてくる以上魔理沙もそこまで待ってはくれないだろうと踏んでいた。

 その為、のび太は普段の格好に、ガンベルトを巻くと言う外の世界でも幻想郷でも珍しい格好で魔理沙と戦う事になった。

 一方で、紫や霊夢と言った審判や見学を務める二人は、その間に立ち二人の様子を見守った。

 

「じゃあ、のび太と魔理沙の弾幕勝負。1回命中したらそこで終わりよ。まあ、話を聞く限りのび太の銃なら当たった事はすぐに分かりそうだし、のび太も当たったら素直に宣言する事。いいわね!?」

「「はーい(おう!)」」

 

 霊夢の、二人への確認の言葉と共にのび太も魔理沙も、一瞬で思考を切り替える。

のび太も魔理沙も、その目は真剣そのものだ。そして二人はたちまちにしてお互いの力量を見抜いていた。

 すなわち、目の前の相手は危険だ、と。

 

『のび太か、見た目はただの子供で本当にただの人間だとは言われたけれども……これは厄介な相手だぜ……』

『魔理沙さん、これは言葉通りおっそろしい相手だぞ……』

 

 ギラーミンとのコーヤコーヤ星での決闘を彷彿とさせる、全身をピリピリとした感覚がのび太を襲う。

 となれば恐らく魔理沙もまた、自分と同じような感覚に陥っているのだろう事は、のび太にも容易に想像できた。

 勝負は最初の一発にかかっている、魔理沙よりも一瞬でも早く撃つ事。

 それが成功さえすれば勝てる、のび太はそう踏んでいたのだけれども……。

 

……1秒……2秒……3秒……

 

 紫や霊夢が固唾を飲んで見守る中、最初に動いたのはのび太だった。ほんの一瞬、文字通り目にもとまらぬ早業で、投げる手裏剣ストライク……ではなく、腰のホルスターから銃を流れるような動作で抜き出し、魔理沙めがけて引き金を引く。

 

バギュン!! 

 

 魔理沙、紫、霊夢たち幻想郷の住人には聞き慣れない火薬による発砲音が響く中、のび太のフワフワ銃は間違いなく魔理沙に命中……したかに見えた。

 けれども、命中したかに見えた魔理沙はいつまでたっても膨らみもしないし浮かび上がりもしない。もし本当に命中したのなら、すぐに膨らんで浮かび上がるのに、だ。

 となれば答えは一つしかない。そう、ギリギリすんでの所で魔理沙はのび太の銃弾を回避したのだ。

 これは魔理沙がこれまでに、数多の異変解決でくぐり抜けてきた経験によるものが実に大きいと言える。

 彼女たちの弾幕における勝負では、いかにギリギリ掠るように回避しながら逆に相手に自分の弾幕を命中させるか、と言う点が重要になってくる。

 その為、異変解決の中で修羅場をくぐり抜けてきた魔理沙も、自然ととっさにギリギリでも回避する癖、あるいは回避できるだけの反射神経が鍛えられてきたのだ。

 それが目に見えないような、小さな拳銃の弾丸でも。

 

「ふぅ、おいおい……危なかったぞ。本当にとんでもない腕前だな。私が帽子を撃ち落とされるなんてな」

「……こう見えても、射撃ならだれにも負けない自信がありますから」

 

 それでも、完全な回避には至らなかったようで魔理沙自慢の、黒いとんがり帽子が撃ち落されて地面に落ちたのだから、これだけでも十分にのび太の射撃能力の高さは窺い知れると言うもの。

 実際に、幾度も魔理沙と戦った事のある霊夢も紫も十分にその実力を知っている訳で、その実力を知っているはずの魔理沙の帽子をのび太が最初の一発で撃ち落とした事について、表向きこそ平静を装いながらも、のび太の見せた恐るべき射撃の才能に内心は『のび太に銃を持たせた事は失敗だったかも』と戦慄していたりする。

 

「じゃあ、今度はこちらからいくぜ!」

 

 当然、魔理沙としてもそこまでされて黙っていられるはずもなく、お返しだと言わんばかりに大量の弾幕を展開しのび太めがけて発射する。

 それは最初に弾幕とは何か? と言うのび太への説明の際に見せた手加減されたものとは速さも量も全く違う、明らかにのび太を負かす為の弾幕。

 のび太をただの無力な未来の道具を使うだけの外来人の子供、ではなく実力を持った油断のならない相手と認めたが故の弾幕だった。

 

「わっ! わっ、わぁぁぁぁっ!! ど、ドラえもーん!!」

「どうしたどうした、逃げ回ってるだけじゃ勝てないぞ!」

 

 右、左、上、下、あっちからもこっちからも向かってくる弾幕に、必死で逃げ惑うのび太。

 決闘、と言うよりも射撃の才能を持つのび太にも、弱点は幾つかあった。

 それは最初の一撃で勝負を決めないと、のび太自身の運動神経、運動能力がかなり低いと言う点。

 そしてもう一つは……。

 

バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! バギュン! カチンッ! カチンッ!

 

 のび太の拳銃が次々と火を噴き、近づいてきた弾幕が撃ち落されていく。弾幕を撃墜すると言うなかなか出来そうでできない芸当を軽々とやってのける辺り、やはりのび太の拳銃の実力は伊達ではない。

 しかしのび太の拳銃はリボルバー式なのだ、これはドリーマーズランドでも西部の星に共に出かけたドラえもんからフワフワ銃について説明を受けた時、はっきりと6連発式だと聞いている。

 つまりは、6発全部撃ち尽くした場合、新しく銃弾を撃つにはいったん排莢してから新たに銃弾を装填しなければ発射できないのだ。

 この辺りがオートマチック式や、ショックガンに空気砲と言ったエネルギー式の武器との大きな違いとなっている。

 そして、その弱点を魔理沙が見逃すほど、彼女は心優しい人物ではなかった。

 

「はっはっは! のび太の銃は弾が6連発と聞いていたからな、もしやと思ったらやっぱり弾切れするのか。いくら銃の腕が良くたって、弾が出なくちゃただの飾りか子供のオモチャだぜ!!」

 

 魔理沙の言う通り、のび太が勝つためにはなんとしても銃に弾を装填しなくてはいけないのに、向かってくる弾幕はあいにくとそれを簡単にはさせてくれない。

 既に()()()()()()は弾幕でいっぱいになり、どちらに逃げてもぶつかりそうな勢いだ。

 ならば……、時間を稼ぐのならもう行くべき場所は一つしかなかった。

 駆けずり回り弾幕を避けながら、のび太はズボンのポケットから四次元ポケットを引っ張るように取り出すと、急いで手を突っ込み外の世界でも最も多く使ってきたひみつ道具……それこそドラえもんが初めて未来の国からはるばるとやって来たその日に使ったおなじみの道具をがむしゃらに引っ張り出す。

 その道具を頭に取り付け、空中に飛び上がるのとのび太のいた場所を弾幕が通り過ぎていくのとは、ほとんど同時だった。

 

「た、タケコプター!!!」

「「「……と、飛んだぁっ!?」」」

 

 まさか外の世界の子供が空を自由に飛ぶなどとは全く考えていなかったようで、のび太が空に飛びあがる姿を見て紫、霊夢、魔理沙の三人は皆一様にあんぐりと口を開けた驚きの表情でもって、のび太の姿をただ目で追っていた。

 

 

 

『タケコプター』

 

 

 

 今更説明も不要であろう、空を自由に飛びたい時には必須の飛行用道具。

 先に説明した通り、初めてドラえもんが22世紀からやって来た時、初めてのび太に出したのがこのタケコプターである。

 見た目だけなら竹とんぼにピンポン玉を半分に割った半球状のパーツがくっついているだけの簡素な道具だが、その効果は空を自由に飛ぶと言う、まさに人類の夢を叶えた素晴らしいもの。

 そんな効果故にドラえもんが野比家に居候して以来、日常生活でも数多の冒険でも、使わなかった事はないほどにドラえもんやのび太の日常生活に大きく貢献しているのは言うまでもない。

 ただ、ただその小型の本体を動かす為動力をバッテリーに頼っている性質上、巡航速度をオーバーするような使い方をするとあっという間にバッテリー切れを起こしてしまうと言う欠点もあったりする。

 だがさすがに弾幕勝負をしながらバッテリー切れを起こす事もないだろう、と言うか一度弾幕勝負をするたびにバッテリー切れを起こすような戦いをしていたらまずのび太の方が持たないに違いない。

 兎にも角にも、空中に逃げてしまえば少なくとも銃に弾を装填する時間くらいは稼げるだろう、そうのび太は考えていた。

 空中なら、地上と違い立体的に回避できる分弾幕からも逃れやすくなる。そもそも地上から空中にいる相手を撃ち落とすとなれば、そう簡単にはいかない。

 そう思っていた。

 

「こ、これで今のうちに弾を込めれば……」

「はっはっは、まさか博麗大結界をすり抜けるだけじゃなくて、空まで飛ぶなんてな。それなら……こっちも馬鹿正直に地面にしがみついている必要なんてないな!」

「へ……?」

 

 そう、のび太は完全に失念していたのだ。()()()()()()()()()()()()()()と言う事を。

 それもタケコプターなど必要とせずとも飛べる、と言う事を。そもそも魔理沙が博麗神社に突っ込んできた時も、ホウキにまたがりタケコプターなど必要とせず飛んでいたはず。

 それをのび太は目の前で見ていたのだから間違いない、まあその後のいざこざでそんな些細な事は完全に忘れてしまっていたが……。

 外の世界でなら、タケコプターでもって空を飛ぶと言う行為は、それだけで大きなアドバンテージを持つ事になる。

 そのつもりで空に逃げたのび太の目の前に現れたのは、ここに来た時と同じようにホウキにまたがり、のび太と同じ目線で空中に浮かぶ魔理沙だった。

 こうなればいくらのび太でも、自分の立てた『一度空中に逃げて、弾の装填や態勢を立て直してから再度魔理沙に勝負を挑む』と言う作戦が完全に破綻してしまった事は理解できる。

 

「さあ、仕切り直しと行こうぜ」

「は、速い!?」

 

 おまけに空中にホバリングしていた魔理沙が一度動き出したと思ったら、想像以上にその動きは速く、その状態で地上で戦っていたのと同じように、いやそれ以上に的確に弾幕を放ってくるのだからのび太としてはたまったものではない。

 

 

 

『格好も、性格も、全然違うけどまるで絨毯に乗った美夜子さんと勝負しているみたいだ』

 

 

 

 スピードといい、弾幕を放ってくるその姿と言い、魔法世界の美夜子を彷彿とさせるその動き。一つ違うのは美夜子と魔理沙では、魔理沙の方がおてんばな性格をしていると言う点だろうか。

 そして、実はのび太は知らない事だが……、魔理沙の方がおてんばだと思っている美夜子も平気で学校の校則違反をやらかしたりする辺り、おてんばだったりする(魔界大冒険外伝にて、遅刻しそうになった時校則で禁止されてるホウキを使い登校したのが見つかって先生に怒られている)。

 兎にも角にも、のび太の作戦が完全に破綻してしまった以上のび太が勝つにはどうにかして一発でいいから銃に弾を込めて、魔理沙の動きを抑える必要が出来てしまった。

 かと言って今ののび太の使えるものと言ったら弾の入っていない、これから弾を込めようとしているフワフワ銃と、タケコプターのみ。

 他の道具は一応、四次元ポケットから取り出せば使えるけれども、少なくとも今これ以上弾幕勝負でヘタな道具……たとえばタンマウォッチのようなモノを取り出すと、また魔理沙から貸してくれ、あるいは今のは反則だから勝負をやり直し、などの発言が飛んで来かねない。

 つまりは、今のび太はほとんど手持ちの道具も何も使えない状況で、タケコプターよりも早く飛びながら攻撃してくる魔理沙を撃ち落とさなくてはいけないのだ。

 では、どうやって魔理沙の動きを止めるのか。

 

「えっと、えっと……魔理沙さんの動きを止める方法は……」

「はっはっは! 私はスピードにはちょっと自信があるんだ! そう簡単には止まらないぜ!!」

 

 飛びながらいろいろと考えているのび太の希望を打ち砕くかのように、自信ありげに魔理沙が不敵な笑いを浮かべる。

 そう、のび太も勝負していて魔理沙が見せた自信たっぷりな表情からも分かったけれども、魔理沙は速いのだ。

 それを止める事なんてできるのだろうか?

 射撃なら魔理沙にも負けない自信はある、けれどもそこに至る為の方法が今ののび太には圧倒的に欠けていた。

 

 

 

「……どうやら勝負はあったみたいね。空を飛んだ時はさすがに驚いたけれども……いくらのび太でも空中で魔理沙に勝つのは難しいんじゃないかしら」

「でも、のび太はまだ諦めていないみたいよ。また新しい道具を出したみたいだけれども……あれ以外にも、まだ何か隠し玉を出してきたって不思議じゃないわ。今までだって、そんな事の連続だったじゃない」

「それはそうだけど……でも、初めて弾幕勝負をするのび太と、今までにも何回も異変解決をしてきたベテランの魔理沙よ? さすがに厳しいと思うわ」

 

 一方……博麗神社の境内地上では、空中に場所を移して弾幕勝負をする事になったのび太と魔理沙の二人を見上げながら、霊夢と紫が勝負の行く末について各々の予想について言葉を交わしていた。

 まさか空を飛ぶとは思ってもいなかった二人ではあったものの、やはりここは経験豊富な魔理沙が勝つのではないかと踏んだ霊夢と、まだのび太は諦めた訳ではない、と逃げ回り続けているけれどもきっと逆転の一手を放ってくれるとのび太の肩を持つ紫。

 二人も勝負の行く末がどうなるかは、分からない。

 それほどに、博麗神社の上空ではどちらも決め手を欠く勝負が繰り広げられていた。

 

 

 

 そんな足元でギャラリーが自分たちの勝負についてそんな議論を交わしている事など気が付く事もなく、のび太はひたすらにタケコプターで自在に空中を飛び回りながら、弾幕を避け続けていた。

 なにしろこれで負ければ、ねじ式台風はジャイアンのような魔理沙に持って行かれてしまう約束なのだ。それだけはどうしても避けなくてはいけない。

 

「魔理沙さんの動きを止める、止める、止める……。これが魔理沙さんじゃなくてジャイアンならなぁ、ジャイアンのママに頼めるのに……ん?」

 

 それなのに、どうしてだろう? 必死で弾幕を避けながらのび太の頭の中に最後に浮かんだのは魔理沙とジャイアンが重なった姿だった。

 その、頭に浮かんだありえないジャイアンと魔理沙の重なった姿に、今この瞬間も上下左右、あらゆる方向から飛んでくる弾幕をタケコプターで必死に回避しながらのび太はふと、一つの可能性を思いつく。

 

……ジャイアンのママが叱る時、ジャイアンは何をしていてもまず驚いて動きを止めた。なら、魔理沙さんも驚かせば動きを止めるんじゃ?

 

 それは魔理沙を驚かせて、動きを止めると言う方法。

 一瞬でいい、何かで魔理沙の気をそらせればのび太にも十分勝機は見えてくる。それでも、のび太の思い描いたこの作戦にも問題はあった。

 つまりは、どうやって魔理沙を驚かせるか、と言うその一点。

 

「……………………よし!」

 

 思い付く方法は一つだけあった、もしかしたらもう今は使えないかもしれない。

それに、きっと使えたとしてもこの方法を使った場合魔理沙は0点を取った時のママのように、炎のように怒るだろう。

 それでも、のび太は自分に賭けたのだ。

 ……かつてドラえもんと魔法世界に行った時、結局魔法で何でもできるのではなく学校で段階を踏んで勉強していく必要があると知ったのび太は元の世界に戻す前に、一つだけでも魔法を習得してから帰ろうと言った。

 

 

 

『物体浮遊術』

 

 

 

 先生曰く、魔法の基礎中の基礎。

 小さな子供でも魔法世界では物体浮遊術を使い、ビー玉遊びをする程度に基本となる術なのだが……。

 ちなみに小学校1年生の教科書に書いてある物体浮遊術の使い方は以下の通りである。

①対象をじっと見つめ(のび太が練習に使ったのは庭に落ちている小石だった)

②心をからっぽにし

③チンカラホイ、と唱えましょう

 たったのこれだけである。いや、だからこそ魔法の基礎の基礎でありのび太よりも小さい子供でも使えるのだろうけれども。

 かつて少しだけ滞在した魔法世界でドラえもんが説明してくれたこの手順を思い出すように、のび太は身体の力を抜き、高速で飛び回る魔理沙を見据えて、呪文を唱えた。

 

「チンカラ……ホイ!!」

「なんだそりゃ? 変な呪文だな……って、な、なんだぁ!?」

「「…………は!?」」

 

 魔法使いの魔理沙も初めて耳にする、チンカラホイなどと言う奇妙キテレツな呪文。

 そもそも、もしもボックスで向かった魔法世界と幻想郷の魔法の体系は大きく異なっているのだから魔理沙が聞いた事が無くても当然なのだが、その奇妙な呪文がまさか自分のスカートを大きくまくり上げる効果があるなど、一体どこの誰が想像するのか。

 事実観戦していた霊夢と紫も、まさかのび太がこのタイミングで魔法によるスカートめくりを行うとは思っておらず、口をあんぐりと開けたまま事の成り行きを見守っている。

 そうこうしている間にもばさり、と魔理沙のスカートが大きくめくれてしまい、下に穿いているドロワーズがあらわになってしまった。

 とは言え魔理沙からすれば、普段から魔女の格好に身を包み、ホウキで空を飛び弾幕ごっこをしている以上ドロワが見えてしまう事については、自分が魔法使いの道を選んだ段階で起こる事だと素直に割り切っていた。

 ただし、いかに割り切っているとはいえ何しろスカートが全部めくれてしまえば、視界の邪魔になる事この上なく、またこの状況を無視できるかと言うと決してそうではない。

 実際に魔理沙は、急に視界を遮るようにめくれ上がったスカートに一体何が起こったのかが最初理解できず、弾幕を張る事すら忘れて事の理解に努めていた。

 その状況の理解に魔理沙が費やしたした一瞬、ほんのわずかな時間だけ弾幕の手が緩んだ事にさえ気が付かない程の短い時間。

 それこそのび太が今、最も欲しがっていた時間だった。

 

「よし、今のうちに……」

 

 チャンスはこの一度きり、もたもたしていればすぐに魔理沙は態勢を立て直して弾幕を張り直してくるのは目に見えている。

 焦る気持ちを抑えて、のび太はリボルバー銃の薬莢を素早く抜き出しながら捨てると、ベルトから次々と新しい銃弾を取り出し、一発ずつ装填していく。

 ほとんど役に立たないはずの物体浮遊術でもって、魔理沙の動きや弾幕の攻撃ををわずかでも止めると言うのび太の作戦は、見事に決まったのだった。

 

「やってくれたな、まさかこんな奥の手を残していたなんてな。魔法を見た事があるって言うのも嘘じゃないみたいだ……けれどそう簡単に勝てると思うなよ!!」

 

 一方の魔理沙も、のび太の珍妙な呪文が攻撃するためのものではなく、意表を突くためのものだという事にすぐに気が付いた。

事実、スカートがめくれてしまい視界を遮られた時間はほんの十秒もなく、すぐにスカートも元に戻ってしまったのだから。ならば、魔理沙としてもいつまでも弾幕を薄くし、その場に留まる事には何のメリットもない。

 今まで、これ以上に過酷でギリギリの弾幕勝負を繰り返してきた魔理沙はすぐに思考を切り替えるとその場から動きながら、今まで以上に濃密な弾幕をのび太めがけて展開する。

 のび太からしてみれば、一体どこが手加減しているんだと文句の一つも言いたくなるような弾幕の密度だが、要はそれらが自分に命中する前に魔理沙を撃ち落としてしまえばいいのだ、とのび太は身構えた。

 むしろ今の状態で魔理沙に命中させるよりも、銀河超特急での列車強盗ショーで、『ないよりまし』と車掌自らが言ってのけたまっすぐに飛ばない信号弾を使ってダーク・ブラック・シャドー団に命中させ、応戦する方がまだ大変だったのだから。

 だからのび太は、身構えた体勢のままただ魔理沙だけを見据えて、精神を集中させるとフワフワ銃を静かに構え、やがて一発だけ引き金を引いた。

 

「そんな弾に……当たってたまるかぁ!!」

「でも……当てて、勝ちます!!」

 

バギュン!!!

 

 当たってなるものかとホウキの速度をさらに上げる魔理沙。

 その魔理沙に対してなおも絶対に当ててみせると、自信を持って勝ちを断言するのび太。

 博麗神社の空中にただ一発だけ、ただの一発だけ余韻を残し静かに響くフワフワ銃の銃声。

 

「ふっ、だから言ったろう? 私に命中させたかったらまずは私のホウキのスピードに……って、あ、あれ、あれ……?」

 

 『何も起こらないじゃないか』と、勝ち誇ったようにのび太に対して自慢げな表情をする魔理沙だったが、そこはやはり22世紀の道具。

 効果はすぐに表れ始めた。身体がまあるく、それこそホウキにまたがっていられない程に膨れ上がり空中に浮かび上がる。

 そう、のび太の撃った一発の銃弾は確かに魔理沙に命中したのだ。

 

「やっぱりね、私の言った通りでしょう? のび太は最後まで諦めてなかったのよ。すごいわのび太!」

「まさかのび太が魔理沙に勝利するなんてね、紫の言う通り、凄いわよのび太」

「お~い、私をなんとかしてくれよ~」

 

 地上でも、まさかの大番狂わせに紫と霊夢が手を取り合いのび太が見せた大健闘の様子に、興奮しながら今起こった出来事をしきりに褒めちぎっていた、のだけれどもここでめでたしめでたしとなればいいのに、そうは問屋が卸さないのはのび太が並外れた射撃の才能と共に、強度の『不幸』あるいは『不運』の運勢を持つゆえか。

 アニマル惑星でもチッポのいとこのロミがニムゲに拉致された際に、禁断の森のどこかに埋められていると言う星の船を探す手段として、3時間限定で非常な幸運に恵まれるひみつ道具『月のツキ』を誰が飲むか? と言う時に満場一致でのび太が選ばれるくらいに運が悪かったりする(これはツキの月が普段不運な人間の方が効果が強い為)。

 そしてその運の悪さは、最悪の形で訪れた。

 

「ふぅ……勝った……」

 

 最後の決め手となった、弾幕が迫る中のび太渾身の精神を研ぎ澄ませた一撃。それは確かに魔理沙に命中した。

 そうでなくても、ギラーミンとの勝負と同じかあるいはそれ以上か。

 極度の集中を強いる魔理沙との弾幕勝負と言う事もあり、かろうじてやっと勝利を掴んだ事で気が緩んだのだろう。

 

 

 

…………パシッ

 

 

 

「へ?」

 

 大きく安堵のため息を吐き出すが早いが自分の頭上で聞こえた、何かが壊れたような音。

 今の嫌な音は一体何の音なのか? それの正体を確認するよりも先に、のび太の身体は何が起こったのかを自分自身に説明するかのように、重力に従い真っ逆さまに地面へと向けて落下を始める。

 もちろんタケコプターがあれば、長時間使用などの理由でバッテリー切れを起こさない限りは、装着した本人の意志を離れて落下するなんてありえない事だと、これまでにも日々使ってきたのび太は知っていた。

 では、今自分が落っこちているのはどうしてなのか?

 信じたくない予想、あって欲しくない真実。それを確かめる方法は至って簡単だった。

 自分の頭に触れてみればいいのだ。

 

「…………………………ひっ」

 

 おそるおそる自分の頭に触れてみるけれども、タケコプターは影も形も見当たらない。ペタペタと指先に触れるのは自分の髪の毛だけ。

 そこに至ってようやくのび太は、先に聞こえた奇妙な音が、魔理沙が最後に放った弾幕の流れ弾に当たってタケコプターだけが綺麗に吹き飛んだ音だと気が付いたのだった。

 

「わああああ、助けてえええ!!!」

 

 手足をぶんぶんと振り回し、助けを求める悲鳴を上げながら落下していくのび太が恐怖のあまり、意識を手放す最後の瞬間にに見たのは、どこまでも青く広がる幻想郷の青空と必死の形相で自分へと手を伸ばす霊夢の姿だった……。

 

 

 

 

 

 

……こうして、物語は冒頭へと戻る事になる。

 




のび太と魔理沙の勝負は一応のび太の勝ち、ですけどもほとんどドロー状態にしました。
勝ったけれども、圧倒的な大差をつけての勝利ではないし持ち前の不幸さと、最後の油断から最後の流れ弾に当たって墜落からの気絶。

ちなみに書くにあたりふと読み直してみた宇宙開拓使でのび太はギラーミンとの決闘でも、お互いに撃ち合った直後に恐怖のあまり一瞬気絶していますので改めて射撃の腕前こそ他の作品の有名どころを上回っていますけれども、精神面や肉体面ではやはり小学生なんだな、と再確認した次第です。
ただし、空気砲やショックガンと言ったエネルギー系の射撃道具を使ったら弾数制限がエネルギー依存になるので、おそらく魔理沙の分がさらに悪くなったと思われます(そうならないように敢えて制限のあるフワフワ銃を選択したと言うのもありますが)。













それにしても、感想下さった皆さんのび太+銃だと絶対に負けないと言う意見が大半で、割とどういう流れにしようか悩みに悩んだのは内緒だ(ぇ
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