村雨と提督の小笠原旅行記   作:fire-cat

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7月27日――旅行第4日目 後編――

「なぁ、これ以外には無いのか? 流石に絵面的に非常にマズイんだが」

 男が翻意を促すも頑としていう事を聞かない村雨。

 渋々と男が室内を整えリラックスさせながら足から腰、腰から背中、背中から首、肩、腕、手首と手技を施していく。

「こ・こ・も」

 村雨が自分の胸元を指さすも

「そう言うのは結婚してから自分の伴侶に言え」

 と拳の一撃で有耶無耶にし、手技を終える。

「村雨、終わりだ」

 と大きく息を吐く男に

「あ~恥ずかしかった」

 と顔を赤く染めながら村雨が宣う。

「……お前、戻ったら覚悟しておけな。遠征と演習に扱使ってやる」

「ん? 良いよ。そうすれば練度が早く上がるし、ケッコンカッコカリも早くなるもんね。新婚旅行はどこにするの? 飛龍さんが通れる様になったら連れてってあげてね」

 平然と切り返す村雨に男が降参と手を上げ、後片付けに入る。

「……旅行は穴が閉じなかったら。だけどね」

 

「やれやれ、久しぶりに緊張した。……村雨お嬢様、これで宜しかったでしょうか?」

 男がアロマトリートメントの片付けを終え、冗談交じりに声をかける。

「うむ。大儀であった」

 仰々しく応えを返す村雨。何方からともなく噴き出す。

「それで、どうだ? 台風は」

 身繕いを終え先程から窓を眺めている村雨に声をかける。

「もう過ぎたのかな? さっきから風も収まって来たみたい」

「なら、もう大丈夫かな? 外の自販機でアイスでも買ってくるか……村雨も食べるだろ?」

「あ、私も行く。なんか変なの買ってこられても、ね」

 階段を降り外に出る二人。

「うん。もう止んだな、これは」

 雨も風も収まった様な状況に

「傘は要らんな」

 そう言って傘を持たずに出る二人。

「それで、どこにある自販機?」

「ん? 福祉センター前にあったから、すぐそこだな」

「あ、あれね、早く行こ」

 自販機で購入したアイスを舐めながら宿に戻る二人。

 と、突然打ち付けるような激しい雨が二人を襲った。

「うわっ。痛てて。いかん、村雨走るぞ」

「うん、急ごう」

 慌てて駆け戻る二人だったが、宿に戻る頃は二人とも全身ずぶ濡れで、村雨はインナーまで透けている姿だった。

「うわ~全身びちょびちょだよ。提督、大丈夫?」

「だから、提督呼びは」

 やめろと言いかけ、くしゃみを連発する男。

「もう。ほらほら、お風呂入ってね。風邪ひいちゃうよ?」

「いいのか?」

「うん」

「それじゃ、先に入るな。っと。こいつ仕舞っといてくれ。村雨も風邪ひかないようにな? 何時までもその姿は色んな意味で拙いから、着替えてなさい」

 そう言い残し食べかけのアイスクリームを渡すと浴室に入る男。

 男の言葉で自分の姿を確認し、インナーまで透けている事に気付き赤くなる村雨。

「艤装と違って私服でこの恰好だと恥ずかしいね」

 冷凍庫に二人のアイスクリームを仕舞い着替えを取り出す。着替えを持ち暫く考え込む村雨。

「そうだよね、身体冷えちゃうと風邪ひいちゃうよね……」

 

(しかし突然降られるとは、うかつだった。傘は持っていくべきだったな。村雨にも悪い事した。早く上がらないとな)

 湯張りした浴槽の傍らでそんなことを考えながら頭を洗う男の耳に浴室に繋がる外の扉を開ける音が入る。

(誰だ? ……いや、部屋には村雨しかいないか。洗面所に何か取りに来たのかな)

 続けて浴室の扉が開かれる音がする。

(? 村雨?)

 誰かが浴室に入り扉が閉じられる。

「憲広……」

 浴槽に入って来たのはやはり村雨だった。男は髪をすすいでいる途中で振り返ることができなかった。

「村雨。何の真似だ?」

「えへ。村雨が、ちょっとお背中流します」

「!! おい、村雨。悪巫山戯なら……!!」

「わ、私も風邪ひいちゃうから、一緒に入ろ?」

「!!」

 髪を濯ぎ終わった男が硬直する。

「あ、大丈夫。私ちゃんと水着来てるよ? ほら」

 そう言われ、恐る恐る男が振り返る。

 言葉通りに水着――先週、一緒に購入したフリルビキニの水着を着ている村雨。

「この状況でごちゃごちゃ言わないの。あ、憲広もこれ穿いてね。私、反対向いているから」

 村雨が男の水着を渡す。

 逃げ出すかと考えた男だったが、退路は完全に塞がれた為に観念して水着に着替える。

「……着替えたよ」

「じゃ、洗いま~す」

 そう言うと村雨が振り返りボディソープをスポンジに取って背中を丁寧に洗い始めた。

 顔を真っ赤にする男。

(さすがに村雨に洗ってもらうと緊張するな……。だが、どうしたんだ?)

 背中の半分も洗った頃、村雨が話しかけて来る。

「提督」

 村雨が口調を改める。

「どうした?」

 村雨の口調が改まったのを感じ声をかける男。

「ありがとう。旅行に連れて来てくれて。遠征や出撃以外にこんな風に遠くまで安全に来られるなんて思わなかった。良い思い出ができて良かった」

「こちらこそ。だ。本当なら一人旅だったからな。台風じゃ寝るしか無かっただろうから、こんな風な思い出は出来なかったよ」

「提督……」

 雰囲気を変えるように村雨が陽気な声を上げる。

「はい、終わり。じゃ、次は私ね」

 さも当然といった様子で村雨が背を向ける。

 男も雰囲気を変えたがったので思惑に乗り、

「はいはい。頭も洗ってあげるから、シャンプー流すときはしっかりと目を閉じるんだぞ」

 態と幼子に言い聞かせるような声をかけ、身体を洗っていく。

「あ、子ども扱いした! ……いいもん」

 少し拗ねた様子を見せる村雨に、笑いながら髪をくしゃくしゃにする男。

(やれやれ。何とか、いつものようになったか……。だが、本気でいつまで我慢できるか……)

 

 色々と気を使った入浴を終えると時刻は16時を回っていた。

「あ、見てみて。オーナーがインタビューされてる」

 窓の外を見ていた村雨が燥いだ声を上げる。

「どれどれ? お、ホントだ。写真撮っておくか……」

「え? どうするの? それ」

「ん? どうもしないよ? 記念にするだけ」

「じゃ、私も」

 窓からカメラを構えて写真を撮る二人であった。

 

「やれやれ。すっかり止んだな」

「ホント。最もさっきは酷い目に遭ったけどね」

「傘は持っていくべきだったな。反省反省っと」

「本当に反省してね? お父さん」

 食堂が混んでいるので二人だけの時とは違う呼び方に戻す村雨。

「さてっと。今日はどうするかな」

「私は……」

 

憲広:ハルタマのジェノベーゼパスタ・ポークソテーマスタードソース添え・デミグラスソースハンバーグ・林檎のコンポートのバニラ乗せ・自家製ミントのモヒート
村雨:バジリコパスタ・島唐辛子のチリコンカン・林檎のコンポートのバニラ乗せ・島の生フルーツジュース

 

「これ……辛っ」

【挿絵表示】

 

 チリコンカンを食べ、慌てて水を飲み干す村雨。

「……大丈夫か? ほれ、こっちのハンバーグと交換するか?」

 顔を真っ赤にしたまま頷く村雨。

 皿を交換し、

「うん。確かに島唐辛子だ。食べてると暑くなるな」

 村雨の手元に飲み物が水以外にない事に気が付き、ジンジャーエールと自分の分としてモスコミュールを注文する。

「……」

 物欲しげに男を見つめる村雨。

(人がいなくなったらな)

 口を動かし声を出さずに伝える。

 嬉しそうに村雨が頷き――。

 

 夕食を終えた二人が見上げると月が煌々と夜空を照らしていた。

【挿絵表示】

 

「そうか。明日は月食があったな。……南西じゃ無理か」

「月食? う~ん、見てみたいけど、ここからじゃ無理ね」

 部屋に戻り、洗濯機に洗い物を入れる。

「52分か」

「じゃ、それまで明日の準備ね?」

「ああ。土産物とか買い忘れは、ないよな?」

「ん。大丈夫」

 

 洗濯を終えた二人が室内に干し始める。

「これって乾くかな?」

「多分無理だな。まっ、船室で干せるから何とかなるかな。インナーはともかく」

「外は……無理か」

 洗濯物を干し終え、コーヒーを飲みながら明日の予定を確認する2人。

「じゃ、明日は海洋センターと水産センターを周るの?」

「ああ、15時出港だから時間は十分あるしな。出来れば世界遺産センタ-やBシップもな」

「そっか。楽しみね」

 そう言うと村雨は欠伸を一つし、ベッドに入る。

「おやすみ」

「ああ。おやすみ」

 そう言うと男が電気を消す。

 

 




ちょっと後編作り直しました。
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