村雨と提督の小笠原旅行記   作:fire-cat

18 / 28
7月29日――旅行第6日目 未明――

「……むぅ。眠れん」

 村雨の呟きが耳に残り、寝付けない男

 寝返りを繰り返すも一向に眠気が出てこない。

「12時か……」 

 身体を起こし、様子を窺う男。

 隣のベッドから規則正しい寝息が聞こえる。

 足下の常夜灯を頼りに村雨の様子を窺う。

 顔に涙の跡が残るのを軽く拭い、少し落ち掛けていた布団をかけ直す。

「……繋がり、か」

 村雨の傍らに膝をつき、その顔に掛かる長い髪を梳く。

「……すぐに別れるからのめり込むなって自分に言い聞かせてたんだけどな……」

 出会った日の翌日に村雨の旅行用品を買い揃えに出かけたショッピングモールで燥ぐ村雨を見ていると、過ぎ去った昔を思い出して余計なものまで揃えそうになり我に返り呆れた事。

 村雨は艦娘、すぐに別れるからのめり込むな。と自分に言い聞かせながら過ごす内に、せめて此処にいる間は艦娘であることを忘れて欲しいと、接し方を変え――。

 接する内に、この娘の全てが欲しい。と黒い欲望が沸き上がるのを必死で抑える自分がいた。

「……大変だったんだぞ、お前の誘惑を断ち切るのは。何時まで理性が持つか冷や冷やもんだったんだからな」

 村雨の頬を(つつ)く。

 繋がりか。と自分のポケットを弄る。

「……こいつだけじゃ足りない、かな」

 あの夜、村雨から言われた問いに対する答えがそこにあった。

 暫く髪を梳いていた男が眠気を催してくる。

「……ようやく眠れそうだ。おやすみ、村雨」

 自分のベッドに男が潜り込むと直ぐに寝息が聞こえ始める。

 

 男が深い眠りについた暫く後――。

「……ん」

 微かな声と共にカフェオレ色の髪が揺れる。

「? 未だ1時か。……今どこなんだろ?」

 男を起こさないように村雨がTVをつける。

「鳥島の近くなんだ」

 スクリーンをめくる村雨。

【挿絵表示】

 

「……何にも見えないか。向こうじゃこんな夜遅くに民間船が護衛も付けずに航行するなんてあり得ないのよね。……平和になったら、こんな風にのんびり旅行するのも良いわね。何時になるかわからないけど」

 ふと傍らの男を見る。吹き出す村雨。

「あらら。もう、寝相が悪いんだから」

 しょうがないなぁ。と言いながら床に落ちていた掛布団をかけ直す。

「そっか。提督と実際に出会ってからまだ2週間経って無かったんだよね」

 色んなことがあったな、と思い返す村雨。

「初めの内は信用できなくてあんまり眠れなかったのよね……。私用の部屋って言われた部屋にも鍵がついてなかったから何時入ってこられるか分からなかったし」

 旅行に行けるか分からなかったのに随分色んなもの買って貰ったから却って信用できなかったのよね、と男の傍らに膝をついて座り込み顔を突きながら独り言ちる村雨。

 男が寝返りを打ち背中を向ける。

 でも。と、旅行前の一週間を振り返る村雨。

「提督、優しかったし色々誘惑しても手を出してこなかったからね。それで信頼できるかなって思えたんだよ? 艦娘だって判ってるのに、ここにいる間は艦娘じゃなくて普通の女の子だって。来るときも混んでいた山手線で私を庇ってくれてたし。……私ってそんなにチョロかったかなって思うんだけど、仕方ないよね。……帰って練度上げてもらってケッコンカッコカリするだけでも良いかなって思ってたんだけどなぁ」

 あと少しでお別れかもって思うと寂しいよ。と泣き笑いの村雨。

「鎮守府に戻っても――大事にするから」

 男の頭を撫で、再び眠りにつく村雨。

 

 

 携帯から流れる音楽。

「……朝か」

 男が起き上がり、隣のベッドを見る。

「……良く寝てるな、村雨」

 カメラを片手に外部デッキへ向かう男。

「っとっと。……揺れるな」

 船が揺れるなか、階段を手摺を伝いながら上る。

 デッキの出入口は水密扉で閉ざされ、乗客が数名屯していた。

「なんだ、開いていないのか」

 暫く待つも水密扉は固く閉ざされ船員が開けに来る気配もない。扉の前に集まっていた乗客も一人また一人と立ち去る。

「帰るか」

 男も諦めて手摺を伝いながら部屋に戻り、村雨が目覚めていないのを確認して船室の前にある洗面所で身支度を整える。

 部屋に戻り僅かに陽が零れるのを目にしてスクリーンを捲ると夜中に潮を被ったのか窓に白いものが付着していた。

【挿絵表示】

 

「随分荒れたな」

 スクリーンを戻しベッドに戻る。

「……」

 村雨の傍らにしゃがみ込み。

「良く寝てるな。……後二日か、この寝顔を見られるのも」

 そっと髪に触れようと手を伸ばし――。

 村雨が目を覚ます。

 素早く手を引き、

「お。起きたか?」

 と声をかける。

「……おはよ」

 目を擦りながら身体を起こす村雨。

「……朝日は?」

 寝ぼけ眼で窓に近付き――。刹那、船が大きく揺れる。

「キャッ」

「っと。…しまっ」

 体勢が整わないまま村雨が倒れ掛け、男が支え――切れずにベッドに縺れ込む様に倒れる。

「……」

 村雨が男の上に重なり、男の手は村雨の背中に廻されている。

 自分の状態に気が付き、身を固くする村雨。

「…………」

 長い沈黙が室内を包み込む。

 村雨が抜け出す様に上半身を男から離す。

 そのまま男の目を見つめ――。

「提督。大事な話があるの」

 

 




おが丸は真夜中の1時頃に鳥島を通過。未明にかけて須美寿島からベヨネーズ列岩の間辺りを航行し、8時近くに八丈島を通過します。
10時ごろに御蔵島を通過するので、運がよければテレビが映りはじめます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。