「話……?」
至近距離でいつになく真剣な顔で男に向かい合う村雨。
「うん。大事な話」
男も身体を起こし、抱きしめていた村雨の身体を傍らに降ろす。
「……」
無言で続きを促す男。
何度か深呼吸をして村雨が
「提督の部屋にある私達の世界とつながっている穴の事」
話を始める。
「大淀さんから書き換えが終わった連絡があった時に一緒にメモ書きを夕張さんから渡されたの。明石さんや夕張さん達が私がこっちに来てからも調査を続けて、その情報を色々と大淀さんが分析していたんだけど、あの穴っていつ消えるか解らない事が判ったんだって。7月中は大丈夫そうだけど、それ以降は解らないって。ただ、私達の世界と此処の世界で何らかの繋がりがあればあの穴って消えないらしいの。精神的なものなのか立場的なものなのか、それとも……それは解らないんだけどね。……提督、私ね、初めの頃は特に何の関心もなかったの。実はこっちに来る権利を皆でじゃんけんで争ったんだけどね、じゃんけんが始まる前から、夕立が提督の世界に興味を持っちゃってどうしても行くってすごかったの。でも私は大事な姉妹が一人で知らない男性に会いに行くなんて認められなかった。だからじゃんけんに参加して私が勝とうって。夕立とは最後まで争ったんだけど何とか勝てたんだ。それで、勝てて良かったって。それだけだったんだ……」
男から視線を逸らし足下を見つめる村雨。
「それでね……。こっちに来ても、提督がもし私に手を出してきたら直ぐに鎮守府に戻ってこんな男だったって言ってこっちの世界に幻想を持たせないようにしてやろうって……。そう思っていたんだ」
でもね。そう言って顔をあげる村雨。
「提督、優しすぎるんだもん。初めは人から嫌われないように嫌われないようにっていう弱さの裏返しの偽りの優しさかなって思ってたんだけどね。違ったのよね。見た目の優しさだけでなく強さも持っていた。覚えてる? こっちに来てから4日目の夜の事。番組見ていて色々と言いあったよね。その時に優しいだけでなくて時には叱ってくれる強さ。んと、柴大将閣下とか……そこまでは言い過ぎだけどね。でも、そんな感じの力強さも持っていたのが判っちゃって……」
顔を伏せ、
「ずるいよ……。そんな昔のあの人達を思い出させるような強さ知っちゃったら、私達……好きになるなって言う方が無理だよ……?」
目元を拭い、
「だから……責任とってね?」
無理矢理作り出した笑顔。
痛々しいその笑顔を見ていられずに、
「……村雨」
男が村雨を抱き寄せ――。
室内に、ぐぅ~という音が響く。
あっと顔を赤らめる村雨。
訪れる沈黙。
やがて、どちらからともなく笑いを堪える声が生まれ、
「……プッ」
堪えられずに笑い声が噴き出す。
「ムードぶち壊しだな」
「ホントよ。憲広、こんな時に」
「お腹の虫は、村雨だろうよ」
お互いに笑い合い
「朝食、食べに行こう?」
弾む足取りで部屋を出る村雨。
後ろを向き、
「ほら、早く」
そんな村雨を見遣り、後を追う男。
(……村雨から言わせるのは、らしくないよな。船を降りたら俺の方から言わないとな)
「判った判った。腕を引っ張るなって。食堂は開いたばかりだからまだそんなには混まない。だから大丈夫だって」