「良かった。何とか勝てて。夕立には悪いけど、お姉ちゃんとしては妹が直接知らない男性に会いに行くなんて認めません」
「正直、村雨が勝って良かったわ。陽炎型の長女としては浜風や長波には危ない目にあって欲しくないもの。あのスタイルだし」
「そうそう。本当は私か時雨が勝ててればよかったんだけどね。村雨のスタイルだと浜風や長波と同じ被害に遭わないとも限らないからさ」
「僕の幸運もあまり当てにならなかったみたいだね。村雨、気を付けるんだよ? 提督が奨めてくる物の蓋が空いてたりしたら口に入れちゃだめだよ?」
「もう。心配しなくても大丈夫よ、こう見えても大和さんと同じ練度はあるんですからね。お酒なんて奨めてきたら逆に酔いつぶしてあげるわ」
「……慢心ダメ。絶対」
「――!!」
いきなり耳元から聞こえてきた声に思わず身が竦む。
「もう。赤城さん!!」
食堂でワイワイとしている駆逐艦達の一団の背後からそっと近寄った赤城が村雨の耳元で囁く。
「駄目ですよ、村雨ちゃん。慢心は禁物です。いま、完全に無防備でしたね」
「これは――ひゃん」
村雨の豊かな双丘を背後から揉みしだく手。
「ほっほ~ぅ。なかなか立派なものをお持ちですなぁ」
「ちょっと、やめ―アン」
「おんや~。感度ええのぅ。うちが男だったら危なかったんじゃ?」
顔を真っ赤にする村雨に、周囲からも「村雨、油断大敵」やら「提督も男なんだから」やら声が掛かる。
小さなお祭り状態だった騒がしい夜が明けて――。
「じゃぁ、村雨、気を付けてね」
唯一の結婚艦である飛龍や提督不在時に鎮守府を纏める長門を始め、大淀、明石、夕張に、最初に穴を見つけた北上と大井、心配したり残念がったりする姉妹、提督からの指示でよく艦隊を組む五十鈴・潮・浦風・浜風・長波達に見送られ、穴に飛び込み――。
直後にカフェオレ色の髪が飛び出る。
「あ、そうそう。向こうのお金とかってどうするの? 何時まで向こうに居られるんだっけ? それと、私がこっちに連絡とるときはどうすればいいの?」
聞いておくの忘れちゃった。と、穴のふちに手をかけ、よっこらしょ。と這い出て確認をとる村雨。
顔を見合わせる一同。
「え? ……決まってなかったの?」
思わぬ沈黙に聊か頬を引き攣らせる村雨。
軽く咳ばらいをしながらその場を代表して大淀が、
「そうですね……色々知りたいこともあるでしょうけど、鎮守府を長く空けて欲しくないので……遅くとも7月31日の正午には戻ってきてください。それと、向こうでのお金ですが、奮発して55000
明石が村雨にお守りを握らせ、耳元で囁く。
「提督に押し倒されて万が一最後まで行ってしまったら、これをすぐに飲んでくださいね。妊娠の可能性はなくなりますから」
大淀からの諸連絡をメモしていた村雨が明石からお守りを渡されると同時に耳元で囁かれた最後の言葉に頬を染める。
「ちょ! ……有難うございます、明石さん」
思わず大声が出かけたが、何とか抑え込む村雨。
「コホン。それじゃ、改めて。村雨、提督の観察任務に行ってきます」