村雨と提督の小笠原旅行記   作:fire-cat

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7月29日――旅行第6日目 午後――

「ね、あの島って三宅島?」

 甲板に出た村雨が指さす。

「あれか。うん、……あれは三宅島だな」

 村雨の指さす方向を確認し、手元に視線を落とした男が答える。

「さっきから何見てるの?」

 そんな男の様子にその手元を覗き込む村雨。

「あ、タブレット繋がるようになったんだ。どれどれ……」

 男の肩越しに地図アプリを起動する村雨。

 その柔らかさと香りに男が焦るが村雨は意に介さない。

「ふんふん、今見えてるのが三宅島で、反対側に神津島があるのね。御蔵島は三宅島の隣のあの島か」

 暫く男のタブレットを操作していた村雨が

「あ、またつながらなくなっちゃった」

 残念そうにつぶやく。

「まだ内地からは遠いからね。湾内まで安定した通信環境はお預けだ」

 仕方ないなぁと甲板の手すりから海面を眺める村雨。

「村雨、部屋に戻るけどどうする?」

 声をかける男にもうちょっといると返事をし、海面を見続ける。

「もう、海鳥も違ってきたんだよね……」

 トビウオを狙う海鳥がカツオドリからアホウドリやミズナギドリが中心になり、内地が近づいてくるのを実感させられる。

「海の色も違ってきたし。……もう直ぐ、お別れかな? でも……」

 

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 今朝の一件を思い返す村雨。

 

 

 朝食から戻り身支度を整える二人。

 改めて続きともいかず互いに気まずい空気が漂う。

(さっきは途中でムード壊しちゃったけど、もう一度……)

 村雨が呼吸を整える。

「提督。……ううん、憲広、さん。私はあな」

 言葉を紡ぎだす村雨の口元を軽く人差し指で押さえる男。

「村雨。その言葉は俺の方から言わせて貰えないかな?」

 男が村雨が予想していなかった言葉を紡ぐ。

 頷く村雨。

 無言のまま暫く時が流れ――。

 言葉が出ないことに首を傾げる。

 男を見つめる村雨。

「今は言わないぞ? 金剛だって言ってるだろ? 『時間と場所をわきまえなヨー!』って」

 男が村雨の額を突く。

「金剛曰く『時間と場所もそうだケド、ムードとタイミングも忘れたらNoなんだからネ……?』だからな」

 言外にムードのあるところでやり直す事を約束する。

「金剛さんの真似、似合ってないわよ」

 でも。と

「期待しているから」

 

 

 その光景を思い出し口元が綻ぶ村雨。

「私も部屋に戻ろっと」

 踵を返し船内に戻る村雨。

 売店で限定版のアイスを買って船室に戻るとアップルパイやクロワッサン等がテーブルの上に並べられている。

「どうしたの、これ?」

「昨日買って食べきれていなかった分。村雨、昼食はこれな。Suicaの残額も630円になったから食堂は無理。船じゃチャージもできないしな」

「別に良いけど……。まだ10時半よ? お昼には早いんじゃない?」

「そりゃそうだ。取り敢えず並べておいただけだから、適当にとればいいさ」

 そう言うと男は窓に近付き

「如何かな?」

 自分のスラックスの乾き具合を確認する。

「乾いたようだ、俺のは」

「私のは?」

「触っていいのか?」

「ん。ブラとか触られるわけでもないし。スラックス触った程度じゃ騒がないよ?」

 乾いている様だ。と男が確認し、村雨に渡す。

「それじゃ、着替えちゃおうかな」

 男に視線を投げる。

「はいよ。デッキに上がるから」

 そう言うと男は鍵を持ち外に出る。

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 階段を上がり第6層からデッキへ。

「うへぇ。いきなり暑くなった……」

 南国の小笠原から帰ると涼しくなるのが昨年までの恒例だったのだが、今年に限ってはむしろ内地に戻ってくる方が暑くなるという逆転現象が起きていた。

「暑ぃ……」

 三宅島は遥か後方に去り、大島は未だ見えてこない、そんな位置。

「う~ん、海の色も微妙に変わって来たなぁ。位置的には新島も見える筈なんだが……見えないか。今は……11時か。あと40分で大島。2時間もすりゃ東京湾か。現実に戻される海の色は見たくないんだけどなぁ。……洲崎過ぎたら村雨に海の色見せてやろ」

 デッキから船内に入る男。ノックをし返事を確認して中に入ると、村雨は行きと同じノースリーブブラウスとアースグリーンのスラックスで船内放送を見ていた。

「あ、お帰り」

 男の姿を確認すると、カメラを手にする村雨。

「ね、ここ何処?」

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 男がカメラを手にする。

「ああ、此処か。あれ? これ去年のか。消してなかったんだな」

「そうなの? だから見たことなかったのね」

「大規模作戦で……行けなかったな、小笠原までは」

「そ。だから、ここ何処かなって」

「ん? ここは亜熱帯植物園だな。小笠原世界遺産センターの映像であったろ?」

「あ、そう言えばあった。じゃ、これってノヤシ?」

「そうだな。シンボルのノヤシだ。ンで……これか」

「緑色のキノコ?」

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「グリーンペペな。名前の由来が今一解らん。食べたら毒でペッペッって吐き出した事から来たとか、八丈島の方言とか、ペペ爺さんが見つけたからとかガイドさんに色々教わったんだが」

「そうなの? あ、これが昼間見たグリーンペペね。白いんだ」

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「そ。亜熱帯植物園のトイレの脇にあるんだ」

「ここは?」

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「ああ、これ? 前浜の展望休憩広場の奴だな。ゲゲゲハウスって呼ばれている奴だ」

「前浜? 大村海岸の事? それとゲゲゲハウスって」

「そ。大村海岸。前浜は島の呼び方だな。ゲゲゲハウスの由来はゲゲゲの鬼太郎の家に似ているから。だそうだ」

「色んなとこがあるのね(ゲゲゲの鬼太郎って、アニメのアレよね)」

「ンで、これがおが丸の正面」

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「これは?」

「ん? ああ、青灯台の下だな。魚の影が映ってるだろ?」

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「あれ? ここって、スーパー。こんなのも撮ってたの?」

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「ここは生協に……あ、MARUHIまで撮ってる」

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 そんな中、画像の一つを目にした村雨。

「……これって」

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 画像の一つを男に見せる。

「これって、どういうこと?」

 不機嫌な表情を隠さない村雨。

「あ、これな。これは……」

 小港海岸で撮った写真に写り込んでいた上半身裸(トップレス)に見える外国人女性。

「上の方見てみ。ハチの巣があるだろ?」

「あ、ホントだ。……って、この人危ないんじゃ?」

「うん。だから撮ってみた。面白い構図だろ? 『寛ぎの時間と気づかぬ危険』って感じで。あ、ハチの巣の事は撮った後にちゃんと教えたから。教えたら慌てて逃げてったけどな。ついでに言うとこの女性上半身裸(トップレス)じゃないからな? ベージュの水着だからな? よく見てな」

 疑いの表情を隠せない村雨であったが、拡大すると確かに水着を着用していた。

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「あ。ホントだ、水着着てる」

上半身裸(トップレス)の盗撮なんてするわけないだろ? 少しは自分の提督を信じて欲しいなぁ」

「ごめんなさ~い。反省反省」

 ちょろっと舌先を出す村雨。

「ったく。反省してるのか?」

 デコピンを一発お見舞いする。

「だって……スケベなんだもん、出航前のこと覚えてるからね」

 そんな風に昔の写真を見ていると、レストランが開いたという船内放送が流れる。

「お、レストランが開いたということはもう大島が見えるか。ちょっと見に行くかな」

「あ。私も行く」

 デッキに上がる二人。

「あれ? ……う~んと。……やっぱり軍艦かなぁ」

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 目を細め、遠くの船影を確認する村雨。

「ん? 軍艦? どれどれ……あれか。……よく見えるなぁ」

 カメラの望遠を最大にして確認する男。

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「だって私、艦娘だよ? これくらいの距離で解らなかったら轟沈しちゃうよね?」

「そりゃそうか。それにしては自信なさげだったな」

「だって、軍艦なんてあっちじゃ滅多に見かけないもん。私達が生まれる前にほとんど沈んじゃったんだって」

 話を聞くと、海上自衛隊の艦船は深海棲艦が確認された後に民間船の護衛等に就いたものの隣国の圧力や野党等(中国や朝鮮とその協力者)の反発等で先制攻撃を厳しく戒められていた為、満足に交戦できず殆どが一方的に沈められたという。

「そのお隣さんはもうないんだけどね……」

 艦娘が現れた直後から深海棲艦の攻勢が激しくなり一時期は本土と四国間や九州と対馬・壱岐も寸断されかけるなどの被害があったらしい。幸い今は本土近海の航路は奪還できたが、それでも夜間航行は認められていないらしい。

「ゲームに無かったよな、そんな設定……。ンで、中国や半島がもうないってのは?」

「簡単な事よ。深海棲艦に対抗できる艦娘がいなかったからね。最後の方は慰安婦や南京の賠償代わりに艦娘を寄こせって圧力が内外からあったらしいけど、被害を受けていた国民が隣の火事より自宅の消火が先だって黙ってなかったらしいのよ。そのうちに音信不通になっちゃったんだって。難民船も出たらしいけど対馬にも澎湖諸島にも着いていないから、多分……。台湾には寧海さんとか平海さんとか楚謙さんとかいるんだけど」

 昔は敵国の軍艦だったけど、今は好敵手(せんゆう)なのよね。

 そんな話を聞き向こうの情勢に興味を抱く男。

「そんな状況なのか。ここじゃ何だからちょっと船室で詳しく聞きたいな」

 デッキから船内へ移動する2人。

 船室では村雨が向こうの世界情勢を説明して男が相槌を打つ。そんな状況が暫く続く。

 やがて船内放送で洲崎と三浦半島の案内が流れる。

「あ、そうだ。村雨、もう一度デッキに行くぞ」

「なにかあるの?」

 そう言いながらデッキに上がる2人。

「……なんか、こう……」

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 がっかりした村雨に映る海。 

「海の色って、こんなに変わるの?」

「現実に戻される色なんだよな……。もっと酷くなるけどな」

「なんか……がっかりだよ。こんなの見たくなかったんだけど?」

「……まぁ、南国の夢気分から現実の社会生活に戻るための儀式なんだ」

 黄昏気味の男の肩をポンポンと叩く村雨。

「さて、飯だ飯だ。下船の準備は14時頃だからまだ早いけどな」

「は~い」

 船内に戻りパンや飲み物、小笠原で買い込んだ缶詰を空けていく。

 

「何か……眠くなっちゃった」

 パンや缶詰を平らげ、船内放送を見ているうちに村雨が眠気を訴える。

「俺も……」

 村雨の欠伸を見ていた男も

「……ひと眠りするか」

 タイマーをセットし遮光スクリーンを降ろして自分のベッドに転がる。

 

 目を覚ます男。

「……? ゲッ! 聞き逃したかっ!」

 隣のベッドで寝ている村雨を揺すり起こす。

「……なぁに?」

 寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる村雨に

「起きろ。下船準備だ」

「え?」

 村雨が慌てて時計を見ると針は14:40を差していた。

 乗船チケットを取り出し、荷物を背負うと扉をあけ放ち下船口に向かう。

「遅かったか~」

 下船口前を見て男が声を上げる。

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 既に周囲には多くの荷物が置かれている。

「まぁ仕方ないか。……遅くなっても別に構わないしな

「しょうがないよ。荷物置こ?」

「だな」

 荷物を置いたところで、男が気付く。

「あ、船室確認してくるな。ちょっと待っててくれ」

「ん。良いよ。行ってらっしゃい」

 男を見送る村雨。

「あ。あの鯨の尻尾、可愛い」

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 階段の鯨の尻尾――尻尾が出ている水面が喫水線の位置を表している――を見たり、

「受付台って南国の海をイメージしてるのね」

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 荷物に腰掛けながら周りを見回す。そんな村雨に

「お、また会ったな」

 声をかけたのは、父島の昼食時に会った二人連れであった。

「あれ? 旦那は?」

「あ、忘れ物が無いか見に行っています」

「何だ、一人で居てナンパされても知らんぞ?」

「大丈夫ですよ。すぐ戻って……あ、来た」

「やっぱり大丈夫だったよ。あれ?」

 村雨の傍らに立つ二人に気が付き、

「ああ、父島ではどうも」

「可愛い若奥さん一人にするんじゃないよ、ナンパされて無理矢理どっかに連れていかれても知らんぞ? 近頃マナー悪いのが多いからな」

「そうですね。昔とは違ってきてますから気を付けないと」

「そうそう。気をつけろよ?」

 挨拶を交わし、

「んじゃな。また島であったら宜しくな」

 立ち去る二人連れ。

「何か色んな人に会うなぁ。さっき船室の前で宿にいた親子連れに会ったよ。2つ先だったみたいだな」

「あ、あの人達? やっぱり一等に居たんだ」

 そんなことを話していると、スタッフが水密扉を開ける。

「戻って来たのが一目でわかるね」

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 外の景色を見て村雨が心なしか寂しげな声を上げる。

「ちょっと船室から撮って来たんだが……」

 と写真を見せる男。

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「うわ……汚いなぁ」

「……」

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 更に他の写真を見せる男。

「ここまで汚いと笑っちゃうね」

 苦笑する村雨。

「あ、船だ。何の船だろ?」

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「コンテナ船かな?」

「大きいよね……」

 やがてレインボーブリッジを通過すると、下船準備にスタッフが慌ただしく動く。

 

 15:20――竹芝桟橋到着。

 

 




おがさわら丸正面を撮った元の70%サイズ写真です。大きさ注意(2.7MB)

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青灯台下を撮った元の70%サイズ写真です。大きさ注意(2.8MB)

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底は見えますが台風一過後なのでいつもより濁っているし、よく見るとゴミが……。

疑惑の写真拡大(色々やばかったんで別角度からのものに)
【挿絵表示】

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