村雨と提督の小笠原旅行記   作:fire-cat

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7月24日――旅行第1日目――

「提督! 提督! 提督ってば! 起きてよ、も~!」

 激しく男の身体を揺さぶる村雨。

「バスの時間まで20分しかないんだから」

 その声に飛び起きる男。

「嘘だろ!? 目覚まし鳴らなかったのか!?」

「ほら~。早く支度して。ほらほら」

 村雨が男の寝巻に手を伸ばす。

「ちょ、ちょっと待て」

 慌ててその手を止める男。

「時間ないんだから、早く!」

「だから、寝間着に手を伸ばすな! ズボンを降ろそうとするな!」

「じゃあ、40秒で支度して!」

「ったく、昨日の映画の影響だな。解ったからさっさと部屋を出る」

 

 慌ただしく身支度を整え、ブレーカーを落としガスと水道の元栓を締め、戸締りを確認しバス停に着いた時にはバスは発車寸前だった。

「間に合った。大丈夫か?」

「もちろん。この位は大丈夫よ」

「あら? ご旅行ですか?」

 バスに乗り込むと居合わせた近所の老婦人が声をかけてくる。

「ええ。毎年恒例の」

「ああ、小笠原ですか。あら? この娘さんは?」

「ああ、親戚の娘ですよ、長野の。この娘の父親が今母島にいるらしいので、送る序でに旅行も」

「良いですね。お嬢さん、気を付けて行ってらっしゃいね」

「はい。ありがとうございます」

 はきはきとした返事に目を細める老婦人。

 自分の頭に手が載せられていることに気がつく村雨。

「……えっと、この手は?」

「良く挨拶ができました。っ」

 自分を子ども扱いする提督のわき腹に肘を叩き込む村雨であった。

  

「やっと着いた~。あれが、乗っていく船? 思ったよりおっきいね」

「そう、あれが、おがまる。あれで24時間の船旅をするわけだ」

 浜松町駅からトランクを転がし歩いて竹芝港へ。そこに停泊している船を指さし燥ぐ村雨。

「おが丸? 可愛い名前」

「もちろん愛称だよ? 正式名称はおがさわら丸。三代目だな」

 興味津々な眼差しの村雨。

「あの船ってどれくらいの大きさなの? 速度は? 積載量は?」

 矢継ぎ早に質問をして来る村雨に苦笑しながら資料を手渡す。読みふける村雨が、暫く後に顔を上げる。

「お父さん、何時乗船?」

「ん? ちょっと掛かるよ。まず受付して、このトランクをチッキで預けるから」

「チッキ? 何で?」

「トランクを二つも置くとさすがに狭いからね。大事なものはこっちのバックに入れているよな?」

「もちろん」

「なら良い。……ちょっと奥で待つか?」

 奥にあるものを見せようと水を向ける男。

「ん? 良いよ」

 弾む足取りで奥に向かう村雨。そして――。

 奥の第二待合所についた村雨の正面にガラス越しに6頭のイルカのオブジェが飛び込んでくる。

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「わぁ。可愛い。これを見せたくて奥に? ありがと、お父さん」

 燥ぐ村雨。

「あ、さっきロッカーに写真が貼ってあったけど。あれって伊豆諸島?」

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「ああ。ラッピングロッカーな。伊豆七島の名所が貼ってあるんだ。これから行く小笠原は伊豆じゃないから無いけどな」

 小笠原の写真はないという返事に眉が下がる村雨。

「なんだ。無いの? 残念」

「お楽しみ、だ」

 ちょっと荷物を見ててくれ。と言い残し、男が一旦席を離れる。

(去年食べて美味かったからな。薬味も効いてて……)

 待合の出店で、朝食を購入する男。

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「お、呼ばれたぞ、村雨。荷物持っていくぞ」

「え? 列が出来てるけど、良いの?」

「700〜500番台は早いんだよ、特二等以上だから」

 バックを背負って船に乗り込む。

「5※※号室だから……」

 船員に案内され、カードキーを翳す。

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 扉を開け中に入る二人。

「へえ。思ったよりは……」

 ベットの硬さを確認する村雨。些か燥いでいる様な其れを温かい目で見つめながら男がテレビをつける。テレビがついたことに気づいた村雨。

「何何。何見るの?」

「決まってる。救命胴衣の付け方」

「え~? 毎年来てるんでしょ? 知ってるんじゃないの?」

「こういうのは心構えもあるからな」

「ふ~ん、じゃ私も見た方が良いよね」

 そう言って提督の隣に腰掛ける。

「ん? 村雨は艦娘だから……。おい、近い。当たってる」

「え~。何が当たってるの〜? 村雨、よくわからな~い」

「解っててやってるよな!」

 クスクスと笑いながら拳一つ分離れる村雨。

「軽い悪巫山戯じゃない。あ、それとも、村雨に欲情しちゃった?」

「馬鹿言ってんじゃない。見るならしっかりと見なさい」

「はーい」

 暫くして救命胴衣と船内の避難経路の説明を見終える。

「そろそろ出航か。 外に出るぞ」

「え? なになに。何かあるの?」

「運が良ければな」

 

 外に出た二人が甲板に近寄ると、ツアー参加者達が下に向かって手を振っていた。

「何だろね、お父さん」

「ん? 多分……。あれだろな」

「なに?」

「行ってみればわかるよ」

 ツアー参加者の隙間から村雨が下を覗く。

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「なんか変なのが手振ってる」

 男も手摺の隙間から覗き込む。

「お。キャプテンたちばなじゃなくて、おがじろうがいたか。運が良いな、村雨。小笠原のキャラクターだ」

「へぇ。おがじろうっていうの? こっちだとあんな着ぐるみも有るんだね。……。ちょっと可愛いかも」

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「……。まぁ円らな眼とか愛嬌ある顔だよな」

 村雨の感性がちょっとわからなくなる男であった。

 

 夕方――夕日が水平線に沈むのを甲板から見ながら半日を振り返る二人。

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 朝食代わりに購入した寿司に村雨が嵌った事。

【挿絵表示】

 

 レインボーブリッジをくぐり抜けた時の村雨の燥ぎ振り、羽田空港から飛び立つ旅客機を見て軍用機と勘違いしたあと、民間機となかなか信じず、タブレットで検索し納得した後は、外国にもわずかな時間で気軽に旅行できるこちらが羨ましいと語りしんみりとしてしまった事。村雨が展望ラウンジで早速カクテルを注文したのを慌てて自分が村雨に注文する様に頼んだと言い繕いスタッフに未成年者に注文させない様に。と注意された事――カクテルは個室に持ち帰り、村雨が美味しそうに飲み干しました。

 村雨が肩を寄せ、

「今日は面白かったね、お父さん。……連れて来てくれてありがとう憲広

 その小さく、男の耳に微かに聞こえた後半部分に笑みを浮かべる。ワシワシと村雨の髪を乱暴に撫で。

「もう、髪が乱れちゃうじゃない」

 そう言いながら消えゆく夕陽を見つめる村雨。日が沈み切ると

「行こう。お父さん」

 そう弾む足取りで先頭に立ち船内に戻る村雨の表情は髪に隠れて見えなかった。

 

 

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