この変わった世界で今日も生きる   作:無色ケーブル

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はじめまして、初投稿であべこべなんてアブノーマルなジャンルに手を出す無能な作者です。

不定期更新、プロットなし、気分屋やと、物書きとしては最底辺を貫いている作者でありますので、ご了承ください。


プロローグ

「こんなところにいたんですか、先輩」

 

 面倒ごとから逃れ、構内の適当なベンチで暇を潰す。季節によるせいか、上着を着込んでいてもまだ少し肌寒い。制服の胸ポケットには造花が差し込まれ、だらしなく垂らされている手には筒。もうすぐこの見慣れた景色ともお別れである。

  一人静かに黄昏ていると、やはり、聞き慣れた声がかけられる。何故だかこいつには俺の行動が筒抜けらしく、俺がこうしてふけっていると必ずと言うほど現れる。

 

「……またお前かよ」

「何ですか、 文句でもありますか?」

「あるね。高校最後の卒業式ぐらいゆっくりさせてほしいもんだ」

「ハァ、卒業式は三年間で一人一回ですから最後もなにもありませんよ。ついでに付け加えるなら、その一回しかない卒業式は現在開催真っ只中です」

 

 目の前の後輩は大げさなため息を吐き、小馬鹿にするようにこちらを見た。だが、コイツも俺もこのような会話にはすっかり慣れてしまったようで、お互いに全く気にしている様子はない。

 

「で、その卒業式に出席してなきゃいけない生徒会長さんがなんでこんなところにいるんですか? 職務放棄かこのヤロー」

「心外ですね。その卒業式で答辞を読む予定の首席様が、こんなところでサボっているからですが?」

「ハッ! それはけったいな首席様がいたもんだな、けど安心しとけ。その首席様がやるはすだった答辞はすでに代役が立てられてるらしいからな」

「へぇ、それは奇遇ですね。わたしも生徒会長としての職務は全て副会長に一任してきました」

「お前それただの職務放棄じゃねぇか」

「サボリ魔の首席を連れ戻すのも職務の一貫です」

 

  澄ました顔でとんでもないことを言うあたり、やはりコイツは食えないヤローだ。だが、そんなコイツとの会話を俺は、どこか楽しんでいたのかもしれない。我ながら似合わないこと考えるもんだ。

  ふと校舎から鈍い予鈴の音が聴こえてくる。どうやら、ニ時を回ったらしい。

 

「‥‥卒業式も終盤のようですね。仕方ありません。先輩、少しそちらに詰めてください」

「あぁ? おい。なに座ろうとしてんだ」

 

  この後輩に、俺の制止の声は聞こえていないのだろうか。全く止める素ぶりもなくコイツは図々しくベンチに腰掛けてくる。お陰で俺はベンチの隅に追いやれてしまった。

 

「お前、今完全にシカトしただろ」

「無視なんてしていません。ちゃんと聞こえていました。ただ、聞かなかっただけです」

「世間ではそれを無視って言うんだよ」

「なるほど、世間ではこれを無視と言うのですね。とても勉強になります」

「てめぇ ‥‥ッたく、まぁいい。そんなことより、そろそろ本気で戻ったらどうだ? 式典の最後にやる会長祝辞には今からでも間に合うだろ?」

 

  そうだ。式の終盤ともなれば主席の答辞は既に終わっているが、生徒会長のコイツにはまだ、やらなきゃいけねぇ仕事が残っているはずだ。‥‥うん? 少し待てよ。

 

「さっきも言ったじゃないですか。既に業務は副会長に一任してあります。今更自分が戻ってもかえって式を乱すだ‥」

「なぁ、少しいいか?」

「‥‥ハァ、人の話を遮らないでください。」

「あぁ、そいつは悪かったな」

「‥‥まぁ、いいです。それで、なんですか?」

「いや、大したことじゃねぇんだけど、お前がここに来たのってだいたい二十分前だよな?」

「そうですけど、それがどうかしましたか?」

 

  後輩は自身の腕時計を確認し、訝しげな表情で質問に答えた。なるほど、もしかするとコイツも‥‥いや、まだ確証はない。まだ、そうと決まったわけではないはずだ。だが‥‥

 

「この高校の卒業式の開式は十二時三十分からだ。予定表では主席の答辞は一時十分には終わっているはず。でだ、お前と話している時に二時の予鈴が鳴ったのは覚えてるか? その時間から二十分前に遡っても精々一時四十分だ。 その時刻には既に答辞も終わってるはずだ」

 

「‥‥お前、何のためにここに来たんだ?」

 

  ーーーーーーーーー

 

『お前、何のためにここに来たんだ?』

 

  どこか、先輩の雰囲気が変わった。これは、先輩がなにかを確信した時に見せるものだ。

 

  だから、先輩の言葉を聞いた時、心臓が飛び跳ねるのを自覚した。鼓動は速くなり、一瞬で身体が火照ってしまう。もしかして先輩は、この気持ちに気づいてしまったのだろうか。‥‥自分が長年秘めてきたこの感情に。

  迂闊だった‥‥。この人は普段の生活態度こそは粗暴であったが、この学校で主席になれるほどの頭脳を持っていたのだ。むしろ、ここまで露骨であったなら気づかないことの方がおかしいではないか。

 

「なぁ、なにか言ってくれよ」

 

  先輩の真っ直ぐな瞳が、こちらに向けられる。

  あぁ、きっとそうだ。先輩は自分のこの気持ちに気付いたうえで、あんなこと質問をしてきたのだ。なら、今ここで、この気持ちを伝えよう。どのみちもう、知られてしまっているのだ。どうしようもなく自分が、『先輩に恋をしている』ということを‥‥

 

 

「先輩、あなたのことが好きです」

 

 

  伝えた。本心からの言葉を乗せて、先輩へと、伝えたのだ。

 

「‥‥ッ! そうか。テメェもやっぱりそうなんだな」

 

  けれど、静かにそう呟いた先輩の顔は、ひどく悲しそうで、まるで何かに裏切られたような表情をしていた。

 

「‥‥お前とは随分長い付き合いになる。俺もお前のことは大切な友人だと思ってたよ。けど、お前は違ったみたいだな。」

 

  この時、全てを悟った。先輩の表情や、雰囲気、いつもと違う先輩の弱々しい声音。それら全てが、この告白の結末を悟らせてくる。

 

「俺は、お前の気持ちに気付いてやれなかった。悪かったな」

 

  いやだ……

 

「だけどな‥‥」

 

  やめて、それ以上は聞きたくない。

 

「俺はお前とは付き合えない」

 

  世界から、色が消えた。

 

「‥‥‥そう、ですか。いえ、先輩は気にしないでください。先輩が()()()()()()をされているのは何度も見ましたから。‥‥‥それに、先輩が()()()()()()を嫌っているということも」

「知ってたのか、お前は。知ってて俺に‥‥ッ!」

「はい。すみませんでした。自分の身勝手な自己満足に付き合わせてしまって‥…。あの、もう、行きますね。‥‥今まで、大変お世話になりました。これからもどうか‥‥お元気で」

 

 それから後のことはいまいち覚えていない。ただその場所から離れたくて、先輩の前から消えさりたくて、無我夢中で走って、泣いた。

  卒業式の閉式を告げるチャイムが、まるで嘲笑うかのように耳に響いてくる。

  このチャイムが鳴り終われば、三年生はこの学校を去り、自分たちの新学期としての日々が始まる。

 

  だが、どうしようもなく考えてしまう。どうしようもなく、思ってしまうのだ。

 

 

『自分の高校生活はここで終わったのだ』と

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

  走り去るアイツの背中を、俺はただ呆然と見つめていた。

 

  別に()()()()()()をされたのは初めてじゃない。だから、普段の俺であれば、『またいつものことだ。』と軽く流せるはずなのだ。

  だが、さすがに今回ばかりは、少し堪えた。

  ‥‥アイツは、良き友人だった。この三年間で初めて対等に口を聞ける仲だったのだ。別に俺がいじめを受けて立場が弱かった、なんてわけじゃねぇ。むしろ逆に、俺はよく慕われていた方だろう。廊下を歩けば挨拶をされ、なにかをすると、率先して手伝いに入ろうとする奴らもいた。だが、そんな奴らが、この高校には多すぎたのだ。奴らは俺を信仰でもしてるのかというほどに忠実で、全く『俺』というものに異論を持たず、反論してこない。

  俺はそんな環境が嫌で、そんなアイツらが心底嫌いだった。

 

  ‥‥だから俺は、対等に話せる友人が欲しかったのだ。バカみたいに騒いで、つまらねぇ理由で言い合いをできる。そんな『友』を欲していた。アイツは、あの後輩は、まさしく俺の望んだ相手だった。互いに皮肉を言い合い、遠慮なく話せる唯一の存在だったのだ。

  だが、そんな後輩は、もういない。俺がアイツを否定したのだ。アイツの想いも、好意も、全て俺が踏みにじった。そう、全ては俺がやったことなのだ。なのに、今の俺は、勝手に裏切られた気になって、勝手に被害者ヅラをしている。我ながら、なんともお花畑な頭をしているものだ。

 

  ‥‥卒業式の終了を知らせるチャイムが鳴った。

 

「‥‥行くか」

 

  一人呟いた俺は、重い足取りで正門へ向かう。

  正門には、大勢の生徒で溢れ、卒業を祝う声や、別れを惜しむ姿などで賑わっていた。偶然、その中の一人と目が合った。

 

「あっ! 四ノ宮先輩!」

 

 目が合った生徒が、俺の名前を呼びながらこちらへ駆けてくる。その声に反応したのか、今まで別の奴と騒いでいた奴らまでこっちにやって来る始末だ。 クソが、なんとも煩わしい。

 

「先輩、御卒業おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

 

  俺は瞬く間に囲まれ、コイツらは俺の心情も知らずに、次々に話しかけてきやがる。

 

「あの、先輩‥‥第二ボタンを頂いてもよろしいでしょうか⁉︎」

「あっ! 抜け駆けは卑怯だぞ!」

「必ず先輩と同じ大学に受かってみせます!」

 

「うるせぇよ」

 

「‥‥四ノ宮先輩?」

「‥‥どうかしましたか?」

 

「うるせぇって、言ったんだよ!! 黙ってりゃどいつもコイツも好き勝手に言いやがって、目障りなんだよ! 鬱陶しいんだよ! 頼んでもねぇのにわらわらと群がりやがって、‥‥邪魔なんだよ」

 

  俺はこれまで抑えてきた感情を一気に爆発させた。……バカみたいに怒鳴り散らすのはもう辞めたつもりだったんだがな…。どうやらバカはいっぺん死んでも治らんらしい。あんなに賑わっていた正門も、今はしんと静まり返っている。そんな奴らを尻目に俺は正門ゲートへと歩いた。俺が通ると、まるでモーゼのように人混みが割れた。やがて、俺の足が正門を潜り、校外に踏み出そうとした瞬間‥‥

 

「四ノ宮先輩、それでも、先輩のことは忘れません!」

 

 人混みの中から、そんな声が聞こえてきた。

 あぁ、俺も忘れねぇよ。この‥‥‥‥‥地獄のような日々をな‼︎

 

 まだ冷たさの残る初春の昼間、俺は今日…

 

『藤城山()()高校』を卒業した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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