刀使ノ巫女という作品に刃鳴散らす要素を入れて妄想してみました。前作、『例えばこんな燕結芽ちゃん』の続きのような物です。しかも作者の妄想全開で、殺陣描写がトーシロ感満載の長ったらしいお話です。
一応アニメ本編よりも前の出来事な設定ですが、所詮は妄想なので気にしないで下さい。
とじみこにハナチラなんてぜってー合わねえだろ!
激しく同意な方はブラウザバックをお願いします。この作品は妄想で出来ております。
本日未明、大型の荒魂が発生。危険ですので周辺住民は速やかに避難して下さい。
――先程からTVやラジオといったメディア媒体から垂れ流されている情報は、これだけだった。
「荒魂接近! 接触まで20s(セカンド)!!」
「陣形編成!!全隊、インペリアル・クロス!!!」
「・・・会敵ッ!!!!」
「撃て――ーーーーッッッ!!!」
荒魂というのは、突如として現れる人類の敵の一つである。
何故敵だと判ったのかは歴史が証明しているので、細かい理由は前線の戦士達には関係が無かった。
「荒魂が跳んだぞ!!!」
「山岳地誘導の後、排除行動ッッ!!」
「陣形を決して崩すなッ!!!」
成すべき理想は二つ。この街の治安と民衆の生活を守る事。
戦士達は銃砲火気類による面制圧によって荒魂の動きを停めた。次いで、ひと気の無い場所へと移動させて一点集中砲火による殲滅行動。
――完璧である。
相手が怪獣王か蝙蝠だけが知っているゴールデンなバットでもない限り、人類に負けは無い。彼らの作戦に不備もなければ落ち度も無い。
「クーガ01中隊―――残弾無し・・・ッ」
「クーガ02中隊―――全火器損傷・・・ッ!」
勝ちも無い、とも言えるかもしれないが。
「円陣防御ッ!!!! 訓練通り!」
「了解ッッ!!!」
「新鮮な弾だ! 早く!!!!」
「盾構え――ーーーッッッ!!」
巨大なる荒き御魂は、人類の銃砲火気類のみを瞬時に破壊していた。
そして重量という質でもって体当たりを人類のフロントライン(最前線)に打ちかます。
「押せ――――ーーーッッッッ!!!!」
紙一重、盾持ちの戦士達が踏ん張る。ある者は奥歯を砕き割り、またある者は腓を返しながら。
「押せ――――ーーーッッッッ!!!!」
荒魂の大移動を止めるべく。戦士達が、昂然と顔と牙を上げる。過去幾多の先達がこうやって戦ったのだろうかという敬意と共に。
・・・前線の戦士達の間に口伝でのみ伝わり続けている話に、スターダストメモリーという物がある。生き残った人間が例えここに居らずとも、戦いが有る限り失伝も忘却も永久に無い星屑の記憶達だとか。
「押せ――――ーーーッッッッ!!!!!」
この雄叫びこそが、正にそれ。
「ォォ押せ――――ーーーッッッッ!!!!!」
―――人口密集地に往かせるわけにはいかない。異物はここ(人界)に居てはいけない。
戦士達の想いは、昔も今も唯一つ。
―――ここで食い止める。
「 8!&$%9 」
大盾を構えながら猛然と足を踏み出し続ける戦士達に、その時妙な音が聞こえた。
「 8!&$%9 」
「・・・・?」
それは言語なのか、よく解らない。
「 8!&$%9 」
でも気持ちの悪い音ではある。心臓が、頭が割れそうになるくらいには。
しかも誰かの血が垂れ出し、まぶたを覆って眼球に到達した模様。ひどくひり付いて痛い。
――――切れた? いやに痺れるが。全身も、この足も脳みそも。
「 8!&$%9 」
足は止めない。でも全部が全部ぼうっとして、音だけが聞こえる。
・・・仲間の怒声。鹿児島出身の中隊長の猿叫。軋む大盾と、自分の骨。
死の足音。
心臓の鼓動。
荒魂の声。
「 8!&$%9 」
―――武器を捨てよ。
「 武器を奪ってみせろ 」
一歩を踏み出した男達の大盾が全て砕かれた。 意識が急速にゼロに、死という名の絶対値に近づいた正にその時。
「――お見事です」
三途の彼方か。ここ鉄火場に、不似合いなほど美しい刃が見えた。
◇
「―――………」
静かな人だったと、この場に居た戦士達の一人は後に語ったという。
病院で傷の治療を受けながらの受け答えであったが、あの女性の印象だけはずっと残っていると。
「…あとは私が承りますので、皆様は退避及び、防御態勢をお願い致します」
そして、とても真っ白な人だったとも。
「―――『写シ』」
白刃を鞘から抜き、右肩担ぎに構えながら、妙に頭に響く言葉を女性は発した。特に身体に変化は無いように男達には見えたがしかし、
「折神家当主親衛隊・第三席――――皐月夜見」
これこそが彼女の戦闘態勢であると、この場にいる戦士達の全員が悟った。
「参ります」
・・・今夜、自分達はツイていたようだ。 痛めた肩を擦りながら、戦士達は呟いた。
巨大な荒魂の頭部、四肢に当たる部位、そして体の中心部。その全てが瞬く間に細切れに成っていく様を見て。
「―――晩酌が美味くなる」
ビョウ、という刃鳴の音。鯉口に納まる切っ先。
こちらを見やる夜梟の視線。
「良い仕事を有り難うよ、特別祭祀機動隊員殿」
彼女は『神薙ぎの巫女』とも、『特別祭祀機動隊』とも語られる。
「…、礼は要りません」
刀身を最後まで鞘に納めるその様は、まるで暗夜の空に佇み続ける鷲木菟(ワシミミズク)。
「仕事ですから」
そうでしょう?と、皐月夜見は眼で述べ、互いに敬礼を交わす。
「お勤めご苦労様です、皆さん」
―――人は彼女の事を、『刀使』と呼んだ。
例えばこんな刀使さん (前編)
『 IN MY SPIRIT 』
◇
「親衛隊の刀使は皆優秀なご様子。 何よりですね」
「当然かと」
――刀使が扱う御刀の管理を取り仕切る御家に、折神家というものがある。
京の龍安寺もかくやと言われる程の玉砂利で敷き詰められた庭は勿論、そこを臨める当主の一室であるここもまた由緒ある伝統と格式、そして広々とした空間と荘厳とが同室していた。
「遅ればせながら、我が娘をどうぞよろしくお願いします紫様。まだまだ貴女や他の親衛隊の方々に教わる事が、山のようにあるでしょうし」
「……かつての貴女のように、ですか?結唯先輩」
「何の事やら」
互いに笑みを浮かべる。堪えきれないほど。そこにはかつて、先輩後輩の間柄であった旧友がいた。
和服に身を包む燕家の当主。
隙無くぴっしりと洋服を着こなす折神家当主・折神紫。
「先輩。ところで貴女が今日ここに来たのは、娘の赴任先への挨拶と様子見。合っていますか?」
「60点です。 もう一声欲しい所」
「………久しく見ていない愛娘の、結芽の姿が見たいから」
「ん~~100点っ!」
短く溜め息を吐きながら、紫は子煩悩な一児の母・燕結唯を見る。…昔はまるで抜き身の刀だと言われていた頃を想うと、さらにやるせなくなった。
「結芽はあの若さで天然理心流の極地にまで至ったとか。 流石は貴女の娘ですね」
「まだまだ手間のかかるだけの子ですよ、紫様。それで結芽はどちらに?」
「声は掛けたので、もう時期ここに来る筈ですが……」
「―――お母さんっ!!!」
部屋中にバァンッ!という音を響かせながら扉が開かれた。
音源に振り向きながら両手を広げる人物と、入ってきた新入りの刀使を同時に見てしまった為、部屋の主である紫は急性の偏頭痛に襲われた。
「ここには来ないでって言ったでしょ! 何で来るのっ!!?」
「仕事よ、結芽。貴女はまだ知らないでしょうけど、茶飲み友達とお喋りするのは主婦の立派なお勤めなんだから」
「だからってわざわざここに来る事ないでしょ!! 他所でお茶飲んでればいいじゃん!」
「冷たいわ~紫様。子供なんてね?ランドセル卒業したらすぐこれよ、反抗期。暗い夜の帳りの中へ、行く先も解らないまま『迅移』で走り出しちゃったりするのよ!」
「…私は独り身なのでよく分かりません。あと、それは三年後です」
娘、燕結芽は12歳である。
「紫様もっ!お母さんの言う事いちいち真に受けないでよ!!」
「知っているさ」
「それにしても安心したわ、結芽。 貴女肺が弱いからお母さん心配だったのよ」
「ちゃんと鍛錬してるもんっ!平気だよッッ!!!」
迫真の音量だが、ナデナデと効果音が付く程に頭を撫でられて目を細めている燕結芽の様子を見ると、まったくもって説得力が無かった。
「先輩。もうそれくらいで……」
これから来客があるので、親子水入らずのお話は他所でやって欲しい。
紫がそう言おうとした瞬間、規則正しいノックの音が聞こえた。
「入れ」
「失礼します。 親衛隊第三席・皐月夜見、入ります」
音も無く入室し、こちらに歩いてくるその姿を見て、燕の母は眼をとめた。
淀みも無駄も一切無い一挙手一投足。左腰に帯びている御刀は仰々しくも主張しすぎず、それでいて存在感が静謐である。
厳かというよりかは静水といった方が良い。これぞ折神家当主親衛隊、すなわち近衛の名に相応しい立ち居振る舞いであった。
「――出来るわね、貴女」
「…ようこそおいで下さいました。ごゆるりと」
「ほら行くよ!夜見おねーさんの邪魔しないの、お母さんっ!」
母と娘。親子二人は部屋を出る。
仲の良いその後ろ姿を、夜見と紫はじっと見つめ続けていた。
◇
「此度の作戦の首尾は完璧だったようだな。機動隊の者達が感謝していたぞ、夜見」
「職務を果たしたまでの事です」
「謙虚なのが持ち味なのは良い事だ。…そういえば、真希や寿々花には会ったか?」
「はい。先程」
「彼女達もお前を心配していた。仲間意識が高い事は、決して悪い事ばかりではない。…分かるな?」
「はい」
「では皐月夜見。別命あるまで、お前は平常任務に戻れ」
「了解致しました。 皐月夜見、これより平常任務に戻ります」
一礼し、部屋を出る。平常任務とは、荒魂出現等の大事があるまで自由行動という意味である。
履いている靴の調子を少々確認し、窓から射す陽差しで明るい廊下をこうして歩いていると、まるで自分は日向の中を揚々と進んでいると夜見は錯覚する。親衛隊・総勢四名、今日も日当たり良好と。
――まさかである。
「………」
親衛隊の刀使は第三席を除いて全員が粒揃い。 此度の作戦、彼女達であれば自分よりも速く、そして上手く事を運べただろう。皐月夜見は自分を過信しないし、過小評価もしない。
これは客観的見地からくる、純然たる事実であった。
「……」
――胸を押さえる。弱さという胸のざわめきを、そっとこの身体の深奥に閉じ込める。
荒魂を祓い、あの御方の為に刃を振るう事こそ己の職務。それは生きる理由でもあると、夜見は思う。
「………、」
―――仮に。もし仮にこのどれもが当てはまらない自分がいたらと思うと、ゾッとする。
例えばそれは小学生の時に習った足し算引き算、掛け算割り算。それをある日忘れて、二度と思い出せない。
そうなったらそうなったで奮起してまた勉強に熱を上げる、…無理である。 まあいっか!と気楽に人生を生きる、……無理である。
何故なら。
「職務を果たす事が、人の生きる理由です」
夜見にとって『今まで』というのは、生きてきた年月ではなく修業期間。『これから』というのは、将来ではなく実行期間。…そう信仰している。
「――稽古でもしましょうか」
この胸の奥の奥。そこから滲み出し五体を纏うこのざわめき。
・・・歩を進める。堪えきれないほどに、皐月夜見は歩みを速めた。
◇
「やっとお母さん帰ってくれた~…、ホンっト子離れ出来ないんだからも~!」
折神家当主親衛隊・第四席、燕結芽が折神邸の廊下をトストスと足音を立てながら闊歩するその様は、さながらシルバニアファミリー構築の際に生じる可愛らしいものだった。
振動で規則的に揺れる長い髪は彼女の輝かしい将来を約束し、眉間の真中に眉を寄せるその顔はお人形さんのように外連味がない。
このまま成長すれば、燕は大和撫子となれるだろう。楚々として、それだけでなく芯強く。
彼女の母がそうであるように。
「紫様ー!何かお仕事無いですか~っ!! 私いま物凄く働きたいー!」
おおブッダ。
手をブンブン振り回しながら叫びながらのこれでは撫子というより葈耳(おなもみ)である。草むらに入るとズボンにくっついちゃう、ほらアレ。
「もうヒマでヒマで~!…………ゑ?」
そんな燕が扉を開けた先は、針山の獄であった。
「――紫様の御前で。何事だ? 結芽」
「………」
「高津のおばちゃん…」
細められた眼光は糸くずを通す隙間さえ無い剣山にも似て。それに触る者近づく者、その全ての臓腑の裏と表を縫い付けて離さない。
――折神家が御座する鎌倉の地。そこの刀使育成機関の一つ、鎌府女学院学長・高津雪那は燕に鋭い視線を向けていた。
「もう一度聞く。 折神家当主執務室であるここで、そのザマは何だ?燕結芽…!」
「あ~……う~…そので、すね……」
手持ち無沙汰に動きに動くこの両手が示しているように、燕はこの高津雪那という女性が苦手であった。
纏う雰囲気と言えばいいのか、彼女の眼光やら立ち居振る舞いを見て取っても、一体何が楽しくて毎日を生きているのだろう?と感じてしまう。
―――得体の知れないというより、関わり合いになりたくない。
傍に居るとそんな思いが脳裏に生まれる燕であった。…これでも昔は刀使だった名残り故か、実力は折り紙付きと見ているのだが。
「雪那、彼女は私が呼んでいたのだ。――騒がせてすまなかった」
「……そ、相楽のおばちゃんっ!!!」
最近知った言葉、『地獄に仏』とは正にこんな時に使う諺なのだろうと燕は思った。
この部屋の主である折神紫とは一風違って、静かな、それでいてどこか優しい雰囲気と洋服を身に纏いながら、彼女を手招きする女性がいる。
――刀使育成機関(通称伍箇伝)の一つ、京都にある綾小路武芸学舎学長・相楽結月はここに立っていろと自分の隣りを促した。
「綾小路学長が…? なら仕方ありませんね」
「っほ…」
胸をなでおろす。 その姿を、相楽結月は目元だけ笑って見つめていた。
「では話を続けます。 紫様、これなるは鎌府女学院一年・糸見沙耶香。紫様の御為、必ずやお力になれると思い、この度紹介にあがりました」
「ご苦労。雪那」
「―――っ!お言葉、有り難く頂戴いたします。 沙耶香」
「はい」
高津雪那に促された少女が、歩いて折神紫の前に立つ。その身体は細く、華奢で、表情が無いというよりは他の表情を知らないといった無貌さだなと、燕は思った。
・・・え?ていうか居たんだ。
少女の存在感の無さを一瞬感じたが、燕がその歩き姿立ち姿を見て取った時、それはすぐに霧消した。
「中等部一年、糸見沙耶香です。よろしくお願いします」
―――出来てるね、この子。
燕は微笑んだ。
「この者は真の天才です、紫様。弱冠12歳にして一刀流の腕前は並ぶ者無し。 我が鎌府の刀使達の中でも主力といって良いでしょう」
「ほう、一刀流とはな。北辰か?」
「忠明さんの方」
「忠明さん?」
燕が頭と言葉で?マークを表現した。
「…小野忠明殿。 日本有数の剣豪である伊東一刀斎が興した一刀流の正統後継者だ。
色々と分派したのが特徴的な流派だが、糸見は小野殿からそれを直に学び、ひっそりと守り継いでいる家の子なんだ。お前に似ている」
「家伝の剣法ってやつかあ……。 そういえば剣豪3の典膳さん強かったなぁ」
「私は一刀斎先生の方が好みだが。技も、瓶割刀も強かった」
「…仏真刀は多人数戦では最強の形だね。一人対一城の任務ではお世話になりました」
「対人戦では又四郎さんの剣が良かったな。無口な…それでいて剣の話となると饒舌な所もまた。いや、河上彦斎も中々」
「え、ウソ? もしかして相楽のおばちゃんあのゲームやりこんでる?」
「答える必要は無い」
・・・眼を閉じて言う相楽結月。なので燕は一計を案じた。
「――――先生は」
「何だ」
「道場へは……もう、稽古にいらっしゃらないのですか?」
・・・・・・。
「正直、詰まらぬ」
「――――詰まりませんか」
「騒々しいですよそこ! 細かすぎて二人しか伝わらない物マネ選手権なら他所でやって下さい!」
この人は同族だなと、解った燕達であった。
「………沙耶香はかつて私が使った御刀・妙法村正に選ばれた刀使です、紫様。必ずや現親衛隊以上に貴女様のお役に立ってみせる事でしょう…っ!」
「頼もしいな。―――糸見」
「はい」
紫が沙耶香の眼を鋭く覗いた。鎌府の、そして高津雪那の秘蔵っ子。沙耶香は涼しげなというよりは、何も写さない顔で紫を見つめ続けている。
・・・内に秘めた熱に、未だ気付かぬ童子のように。
「君が御刀を振る理由は?」
「刀使だからです」
「剣法を修めている理由は?」
「刀使だからです」
「刀使になった理由は?」
「………、それは…」
燕は小さく失笑した。自分に当てはめれば全部下らない質問だったからだ。
それに答えられないなど、そんな奴は刀使どころか剣士ではない。
「…………、探る為です」
「――探ると」
「私には何が出来るのか、何の為にここにいるのか。…刀使は人を荒魂から守る者。それは嫌でも他人に関わり続けるという事。 他人をよく知る事が出来れば、何かが見つかるかもしれない。それを探っています」
「…ほう。殊勝だな、糸見」
「常に自己研鑽を忘れない、沙耶香は稀有な子です紫様。 ですからどうか、五人目の親衛隊候補に是非とも……」
「考えておこう、励め」
「―――有り難う御座いますっ」
雪那が綺麗なお辞儀をし、沙耶香は無表情のままぺこりと頭を下げる。一見感情の無い人形のように見えるが、紫にだけは熱が見えていた。何かきっかけがあれば、すぐに溢れ出すであろうその胸の叫び。
―――とても心地良い心身。
「私はお前が気に入った。糸見沙耶香、期待している」
―――計画は順調のようで何よりだ、高津雪那。
「はい」
揃ってくるりと回れ右を行い、退室の為に歩を進める。…彼女はいつか気付く事が出来るだろうか。
すぐ近くに探し物はあるという事に。
「―――ねぇ、沙耶香ちゃん?」
「……?」
二人の為に出入り口を開けた燕は、沙耶香に声を掛ける。雪那は剣呑とした眼付きだが、今の彼女達の視界には入っていなかった。
「頑張ってね!」
もしかしたら後輩になるかもしれない少女に、にっかりと笑顔を向ける。
自分が何なのかを忘れるな、とでも言うように、右手で愛刀の柄の頭をポンと叩きながら。
「…うん」
糸見沙耶香は荒魂と退治した時と同じ眼付けで、無念無想の心で紫の部屋から退出した。