例えばこんな刀使さん   作:ブロx

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率直に言って『とじとも』の綿貫さんホントかっこいい。プレイアブルとスピンオフ出してほしい。








中編 

 

 

 

「高津学長はご無事なのですか」

 

 明くる朝。朝日のようにズイと、顔を寄せる。

居ても立ってもいられない、鬼気迫る皐月夜見がそこにいた。

 

「落ち着きなさい夜見。 折神家当主親衛隊の者がうろたえるなど、あってはならない事ですわよ?」

 

「………私は冷静です」

 

 そっと顔色を窺う。今もベッドに伏せているその人の。

今の夜見にとっては他には何も、高津雪那以外誰も見えなかった。

 

「そう言った人に限って、冷静とは程遠いものですわね…。

 高津学長に切り傷は無し。外傷は後頭部と水月の打撃のみで、今は気絶してるだけですわ」

 

「おばちゃんは凄腕みたいだし、真剣を持ってたらしいから犯人さんは負傷してるんじゃないのかな?すぐに捕まるよ、大丈夫だって夜見おねーさん」

 

 親衛隊第二席・此花寿々花が夜見に説明する。同じく第四席の燕結芽もまた、夜見を安心させる為に言葉を繋いでいた。

 

「どうやらその線は無いようですわよ、結芽。 学長の刀を調べましたが、何かしら物体を斬った痕跡は無し。……つまり」

 

「犯人は、真剣を持った元刀使に対して抜刀する事無く倒せる程の剛の者。 という事ですか」

 

寿々花が黙して首肯した。

 

「? て――あれ?そういえば真希おねーさんは?」

 

「……獅堂さんは犯人を追って返り討ちにあったと、今朝親衛隊直属の綿貫さんから報告がありました。今は別棟の病室で寝ていますわ」

 

「! 親衛隊第一席の獅堂さんまでですか?敵は一体何者………」

 

その時カツンと、音が聞こえた。

 

「ん~~? という事はさあ、寿々花おねーさん」

 

「何ですの?結芽」

 

刀の鍔に、爪を立てた音。

 

「折神家のお膝元である鎌府のトップが襲われてさ? 私達親衛隊の第一席もやられちゃったって事はつまり~~………」

 

眼球を上へ、そして正面へ。ミシリと鞘が鳴ったのは―――、

 

「私達と紫様。 ナメられてない?」

 

「………」

 

「―――そうですわね」

 

・・・三人分。

 

「今回の件は親衛隊預かりにせよと、紫様からのご命令ですわ。つまり私達で解決出来ない限り、今後親衛隊の名は名乗らせないという事」

 

「紫様は優しいけど、甘くも無いし身内贔屓もしないしね。フッフーン!」

 

「参りましょう。我らが王の庭を土足で汚した不届き者を、教育してさしあげなくては」

 

「ええ」

 

 折神家当主親衛隊。 それはこの国で最も強い刀使の集団という意味である。

 

 

 

 

 

 

 鎌府女学院にいる刀使に聞き込みを行った親衛隊であったが、不審人物の目撃情報は皆無であった。

 

 昨夜は荒魂の出現も無く、刀使は皆待機中であったとの事。世界は平和が一番。なべてこの世は事も無し。

 

 ―――疲れと憤りで小腹が空いた親衛隊の三名は、鎌府最寄りの蕎麦屋に来ていた。

 

「……手がかりは無しですか。 流石に尻尾をお出しになりませんわね」

 

「折神家お膝元の鎌府の長を襲撃し、無事逃げおおせた相手です。厳しいのは承知の筈」

 

「…分かってますわ」

 

「いらっしゃいませ~。 ご注文は?」

 

「ざる蕎麦を一枚」

 

「キツネ蕎麦を頂けます?」

 

「冷やしタヌキ!」

 

「――――………、」

 

蜂でも見たのか。 注文の品名をメモしている店員の動きが、ピタリと止まった。

 

「ん~??どしたの店員のおねーさん。注文は以上だよ?」

 

「店員さん?何か問題がありまして?」

 

 無言で燕を見つめ続けている女性店員。だが次の瞬間堪えきれないとばかりに肺の全空気を噴き出して、店員は破顔した。

 

「ップ!!!!! お客様、冷やしタヌキとかいう冒涜的で反人類的な食べ物は、ウチでは扱っておりません。未来永劫」

 

「え~~!!何で何でーー!!?」

 

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 

「見事な営業スマイルですわ…」

 

女店員が笑みを浮かべる中、皐月夜見が燕に向かって少し顔を寄せた。

 

「燕さん、普通のタヌキ蕎麦ならありますよ。これは実に美味しいので、お薦めです」

 

「え~?う、う~ん………。暑いけど、今日はタヌキ蕎麦な気分だし…。 じゃあそれで」

 

「畏まりました!ざる蕎麦キツネ蕎麦タヌキ蕎麦ですね。 少々お待ち下さい!」

 

 ――それは曇り無き笑顔だった。

先程の営業スマイルなどではなく、店の味に絶対の自信を持つ者だけが放てる強者の笑み。

 

 踵を返すその背中には、必ずや満足出来る物を出してご覧に入れると黙して語る、職人特有の芳香。純正のプロフェッショナル(仕事人)。

 

 寿々花達は、震えた。

 

「い、一体何が出るんですの?ここ、ただのお蕎麦屋さんですわよね?」

 

「うーん!楽しみだな~」

 

「………」

 

 寿々花と燕が思い思いに口にする中、夜見は目を瞑って何も語らない。

美味しい物を食べられるという嬉しさが、彼女をそうさせていた。

 

「…ところでさ~、鎌府で調査してみて気付いたんだけど、証言のひとっつも出てこないなんて逆におかしくないかな?」

 

「というと?」

 

眼を見開き、夜見が注視する燕がピンと人差し指を立てた。

 

「――夜中に侵入したって言っても、鎌府は天下の伍箇伝だよ?

刀使だって詰めてるし、少しぐらい誰かが見ていたっていう証言があってもいいんじゃないかなあ?」 

 

「言われてみれば……」

 

「犯人は誰にも見られずに鎌府に侵入した。 ――ではなく、誰に見られても問題なかった人物。その可能性が高いと言うのですか?燕さん」

 

「うん!」

 

「成る程。正面から堂々と鎌府の門から入り、高津学長を襲撃して真希さんすら破ったと。では犯人は、鎌府の誰かということになりますわね?」

 

「お待ち遠さまー!ざる蕎麦とキツネ蕎麦、はじめにお持ちしました!」

 

「ありがとうございます」

 

「お待ちしてましたわ」

 

「私のはまだ~?」

 

「もう時期出来ますので、少々お待ち下さい!」

 

蕎麦屋の女性が、足早に厨房に戻っていった。

 

「此花さん、燕さん。この事態、獅堂さんが目を覚ませば進展するかもしれません。……顔をはっきりと見ていれば良いのですが」

 

「親衛隊第一席である真希さんが簡単に負けるとも思いません。大丈夫でしょう。 良い機会ですし、このあと皆でお見舞いに行きましょうか?」

 

「いいね~! 真希おねーさん、一人で淋しがってるかもしれないし!」

 

「はい」

 

「決まりですわね」

 

「お待ち遠さまー! タヌキ蕎麦お持ちしました!ご注文は以上でよろしいですね?」

 

「うん!」

 

「ごゆっくりどうぞー!!」

 

 熱い蕎麦がテーブルに置かれる。

割り箸を手に持った燕の眼の前で、揚げられたばかりの天かすが、丼の中で〝ばちばち〟と音を立てて踊っていた。

 

「………」

 

「……、」

 

凝視しながら手を合わせ、ごくりと、喉が鳴る。

 

「――天かすは、冷やす物ではありません」

 

刀使の友達と一緒に食べた熱い蕎麦を、燕結芽は生涯忘れる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 鎌府女学院別棟の病室内。風通しの良いその個室に、刀使・綿貫和美は居た。

親衛隊直属の部下として、ベッドに伏せる獅堂真希の護衛の為に。

 

 腰の御刀と同じく背筋を伸ばし、椅子に座る綿貫の長い髪をそよ風が揺らす。

…誰にも知られる事なく、そっと。励ますように、彼女の髪が頬を撫でていた。

 

「――。皆様、御疲れ様です」

 

「綿貫さん。獅堂さんの護衛、ありがとうございます」

 

「いえ、とんでもありません」

 

 病室を訪れた寿々花達が、しなやかに椅子から立ち上がった綿貫と礼を交わす。

異常が無い事を述べ、長髪の刀使は部屋を後にした。

 

「……中々の使い手のようですね。あの綿貫さんは」

 

「獅堂さんのお気に入りだそうですわよ? 加えて背は高く、手足も長い。刀使としても女性としても優れていますわね」

 

「獅堂さんが眼を掛けるのも頷けます」

 

「それにしても真希おねーさん、まだ起きてないね……」

 

「はい。医師の先生の話では、外傷は無しとの事でしたが」

 

眠っている真希の呼吸が穏やかである事に、夜見達は安堵した。

 

「『写シ』を破られすぎたようですわね。ただでさえ真希さんは、『写シ』を張り直すことが得手では無いのに。………ほんと無茶をして」

 

 寿々花が真希の手を握った。 直情径行気味である、親衛隊第一席に絶対に負けないようにと再度心に刻みながら。 

 追い抜かされて跡形も見えなくなる事など、決して無いように。

 

「ホントだよね!! こんなにも心配してくれてる美少女がここに三人もいるのにっ! 真希おねーさん、起きてよー!!」

 

「今は寝かせておいてあげましょう、燕さん。親衛隊第一席としての重圧は、常日頃から相当な物の筈ですから」

 

「はーい……」

 

「では今度はもう少し視野を広げて探索をしてみましょうか。……ところで昨日紫様と謁見した糸見さん、あの子には誰が聞き込みを?」

 

「! その方の証言はまだ聞いていませんでした」

 

「はーい!私ー!!」

 

燕がグイと手をあげた。

 

「病院内では静かになさい、結芽。 それで糸身さんは何と?とりあえずは……――!」

 

その時、銀閃が迸った。察知した寿々花が自身の愛刀を左手で掴むその前に。 

 

それは御刀であった。

 

「何事ですの!?」

 

「それは何の真似ですか。――――獅堂さん」

 

「………ッッ!」

 

 身体を覆っていた掛け布団を跳ね上げ、獅堂真希が、昂然と顔と刀を上げていた。

その視線と切っ先の指した方角には、

 

「真希おねーさん、起きたんだ!」

 

一人の剣士が。

 

「『写シ』を破られすぎたショックでおかしくなりましたの?――真希さんッ! 同じ親衛隊の仲間ですら分からなくなる程に!!」

 

「落ち着いて下さい獅堂さん。貴女が御刀を向けている相手は親衛隊第四席、燕結芽さんです。彼女は我々の同僚で貴女の敵ではありません」

 

「………、違う…」

 

「私達、ずっっと心配してたんだよ? 今だって真希おねーさんを襲った相手が誰なのか探してるところなんだよー」

 

「………お前だ、結芽」

 

「え?何が?」

 

「僕と高津学長を倒したのはお前だ、――燕結芽ッ!!!」

 

 真希の刀が燕の喉笛を、絹でも刺し貫かんといわんばかりに指し示す。

 

犯人は君。犯人はお前。

 

犯人が、この場の誰にも知られる事無く、薄く嗤った。

 

 

 

 

 

 

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