ほむら「ハーレムつくったら全部上手くいく気がしてきた」   作:ラゼ

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アニメ始まる前に完結させなきゃ(使命感)


マギウス

 

 『マギウスの翼』本拠地──ホテル“フェントホープ”。建物そのものが『ウワサ』によって創り出された、驚きの建築物である。敷地も広く、ホテル前の広場では、羽根たちが戦闘訓練を頻繁に行っているほどだ。

 

 常であれば何人も常駐しているこのフェントホープだが、今だけは例外である。マギウスの計画もいよいよ終盤に向かい、既に()()を揃える必要性も薄い。防衛に必要な手数だけを残し、マギウスである灯花とねむは計画を詰めていた。

 

「ここが『マギウスの翼』の本拠地…」

「もしかしたら──ここに“うい”が…!」

 

 アリナへと導かれ、この地へとやってきた一行。しかしラスボスの拠点というには少々凄みが足りない様子に、何人かは拍子抜けしているほどだ。少年漫画などをこよなく愛するフェリシアなどは、おどろおどろしい魔王城を予想していただけに、不謹慎ながらも物足りない様子であった。

 

 ──そんな彼女たちの前に慌ててやってきたのは、マギウスの翼の構成員である黒羽根の一人だ。仇敵とすらいえる『環いろは』のチームがぞろぞろとアジトへ乗り込んできたのだから、その焦りも当然のことだろう。マギウスであるアリナが集団の前を歩いているとはいえ、放置できる筈もない。

 

「あ、あの──これは?」

「…」

「あ、あの…?」

「──なんでアリナがわざわざ説明しなきゃなんないワケ?」

「ひっ…! い、いえ、ですが…」

 

 時間停止状態の『みふゆ』の裸体を想像し、期待に胸を高鳴らせていたアリナであったが、そんなルンルン気分を邪魔してきた羽根を鋭く睨みつける。その黒羽根はマギウスの恐ろしさを──とりわけ前線で戦う機会が多かったアリナの狂気をよく知っていたため、恐怖に身をすくませる。

 

 とはいえこの本拠地に残された羽根たちは、理想に殉ずる覚悟を決めた者たちだ。灯花とねむが選別した『裏切る可能性が薄い羽根』である。それはマギウスへの忠誠ではなく、“魔法少女の解放”という奇跡を求めるためであれば、どんなことでも厭わないという覚悟を根幹としている。マギウスの一人であるアリナに対しても、侵入者を招き入れるような暴挙に及ぶのなら、実力差を承知で歯向かう気概があるほどだ。

 

 ──アリナがいればフリーパスだろうと気軽に考えていたやちよ達は、そんな険悪ムードにうろたえた。まさかなんのフォローもなしに放り投げられるなどとは、つゆ程も思っていなかったのだ。散々に羽根たちを倒してきた過去がある手前、いまさら降伏したなどと宣える筈もない。穏便な侵入は諦めるべきかとやちよが思案したその時──胸の中心からやや左に突きつけられた、冷たい鉄の感触に気が付いた。

 

「…これが見えないの? いちいち説明を受けないと理解できないなんて──いえ、黒羽根程度に期待した私が悪いわね」

「…っ! あなたたちは…?」

 

 左腕でやちよを引き寄せ、腰に手を回しつつ、右手の銃を胸にあてるほむら。本気を示すためか銃身の先はしっかりと密着させ、柔らかで豊かな胸にふにゅりと埋まっている。あるいは自分の平原とはまるで違う、巨大な山への嫉妬も込みだったのかもしれない。

 

 そんな彼女の意図を汲んだのか、やちよは大人しくされるがままだ。見滝原組はマギウスの翼に認知されておらず、新しい羽根だと言い張ることも可能である。むしろほむらの言動を考えれば、通常の羽根よりも立場が上であると振る舞うことで、潜入をより容易にしようとしているのだろう。

 

 頂点は『マギウス』。底辺は『黒羽根』。その一つ上が『白羽根』なのだから、自分たちはどうするべきか──といったところで、ほむらの意図を察したマミが前に出る。

 

「私は『黄羽根』の巴マミよ」

「は、は…? き、黄羽根…?」

「『紫羽根』の暁美ほむら」

「い、いや、ちょ…」

「『赤羽根』の佐倉杏子だ」

何色(なんしょく)あるの!?」

 

 赤羽根と名乗った杏子に、募金でもするのかと鋭いツッコミを入れる黒羽根。しかしやちよを人質にとっている現状と、マギウスであるアリナが何も言わないのを見て、訝しがりながらも身を引く──が、後ろに陣取っていたなぎさの存在に気付き、もう一度声を上げる。

 

「こんな小さい子まで…?」

「うぇっ!? え、えっと、なぎさは……なぎさは…」

 

 イメージカラーで言うならば、なぎさは完全に黒である。しかし子供特有の負けず嫌いが発動したのか、黄色よりも紫よりも、そして赤よりも上の色を模索する。その上で彼女が出した結論は──

 

「ゼ、ゼブラ羽根の百江なぎさなのです!」

「色ですらない!」

「シマウマさんは強いのです」

 

 やはりなにかおかしいと、怪しげに一行を見つめる黒羽根。そんな彼女を見て、このままではまずいかと考えたほむらは、実力行使に出ることにした。やちよをマミへ任せ、スタスタと黒羽根へと近付いていく。いったい何をしでかすのかと、身を構えた黒羽根は──次の瞬間、地面へと叩き付けられ、後頭部に銃を突きつけられていた。まるで時が跳んだような感覚に驚くも、地面に這いつくばる彼女は、ただただうめき声を上げることしかできない。

 

「…実力の差が理解できたかしら。『色付き』とそれ以外には、絶対的な壁があるの。それとも、上下関係すらわからない愚かな羽根は──毟り取るべきかしら?」

「ぎっ…っ、ぁ、も、申し訳……ありません、でした…」

 

 なにをされたかも理解できなかった黒羽根は、その絶望的な戦力差に慄く。人間としても、魔法少女としても日常の外にある“銃”への恐怖。僅か数センチ指を動されるだけで、頭の中身をぶちまけていたという事実。そんな凶器をこともなげに人へ向ける、ほむらへの恐れが彼女の中に渦巻いていた。

 

 まるで小動物のように怯えるそんな黒羽根に、ほむらは流石にやりすぎたかと目を閉じた。元々は気弱な性質の彼女だ──強者に抗えない弱者の気持ちも、痛いほど身にしみている。だからこそ、座り込んで立ち上がれない黒羽根をそのままにはしなかった。

 

「…ごめんなさい、少しやりすぎたわ」

「え? あ…」

「ここを守ろうとしたんでしょう?」

「あ……えっと、はい」

「いい子ね」

「ひゃっ!? は、は……ひゃい…」

 

 目深に被ったフードの中へ手を差し込み、黒羽根の頬へ手を添えるほむら。任務を全うせんとした彼女の気概を褒め、称える。その行動に他意はなかったものの、このところ誘惑ムーブが板についていたせいか、自然と蠱惑さが滲み出ているのはご愛嬌である。

 

「それじゃ、私達は行くから」

「は、はい…」

「任務、頑張ってね」

「はい!」

 

 暴力で屈服させた後に優しく接することで懐柔する──完全にドメスティックでバイオレンスなやり口である。神浜組の何人かがドン引きしつつも、一行はホテルの中へと足を踏み入れる。暗い雰囲気が漂う館内をスタスタと歩いていくアリナに、ほむらは気になっていた疑問をぶつける。

 

「ねぇアリナ……マギウスの翼はいったい何を目指しているの? 魔法少女の解放というだけじゃ、なにも見えてこないわ。ワルプルギスの夜はどう関係してるのかしら」

「話せば長くなるワケ。そんなのより最高のアートが優先されるべきだヨネ…! はやくみふゆの──」

「なら私もあなたのアートには協力できないわね。テイクがなければギブも必要ないワケ」

「ぷっ…!」

「に、似てる…!」

「真似しないでヨネ、ガンスリンガーガール。でもアリナ的にそれはバッドだから──」

 

 話してあげる、とアリナは語りだした。それはいろは達がどうしても知りたかった事実でもあり、その場の全員がゴクリとつばを飲んで聞き入る。

 

「アリナがビルから飛び降りて入院した時……灯花とねむに出会ったんだヨネ。そのへんの凡夫と違う二人は、アリナにとっても興味深かったワケ。出会ってからしばらく経ったあと……夜のホスピタルに魔女の気配を感じて行ってみたら──そこでアリナは、面白いものを見つけた…! 灯花とねむの横に佇む、奇妙なマジカルガールを…!」

「奇妙な魔法少女…?」

「穢れをそこら中から吸い寄せてるのに、一向に完全な魔女へと変化しない──半魔女とでも言うべき存在…! 美しくはないケド、興味深いヨネ……それでしばらく観察してたら、灯花とねむが言い出したワケ」

 

 ──『これを利用すれば、魔法少女の理を改変できるかもしれない。』

 

「その計画が成功すれば、アリナは魔女をさらなるアートに導ける…! 灯花とねむも、それぞれの願いを叶えられるカラ──アッハハハ! そう、全ては一致したんだヨネ」

「…もしかしてその存在が……エンブリオ・イブ?」

「そう! ますはアリナが神浜を覆う“被膜”を造って、イブが穢れを吸収する範囲を絞って──」

「なんですって? そんなの……一人の魔法少女が維持し続けるのは不可能だわ」

「それを可能にするカラ、“魔法少女の解放”なワケ。イブが集めた穢れを、灯花が固有魔法で魔力へ“変換”……それをアリナが被膜の維持に使うの」

「穢れを魔力に? そんなことが可能なの?」

「なにか勘違いしてるみたいだケド、穢れも魔力も本質はただのエネルギーなワケ。固有の能力でも、キュゥべえの技術でも変換効率百%で運用可能だヨネ」

「…!」

「重要なのはね、ガンスリンガーガール……希望が絶望に転じる時に、変換効率が百%を超えるコト。そのエントロピーの逆転現象を作為的に引き起こしたいカラ、アイツらは魔法少女を増やし続けてるワケ」

「…つまり、神浜で魔法少女が魔女にならないのは…」

「アハハ、そう! イブがそのためのエネルギーを回収するカラ! このシステムを世界中に広げれば、それは“魔法少女の解放”になるワケ!」

 

 アリナが話した事実を完全に理解できたのは、やちよとほむらだけだった。キュゥべえと魔法少女に関する事前知識を論理立てて解釈していなければ、彼女の説明はあまりにも難解であったからだ。だからこそ、フェリシアやさなからは肯定の声が出てしまったのだろう。

 

「それってめちゃめちゃいいことじゃん!」

「で、ですよね…?」

「──そんな都合のいい話はないわよ」

「や、やちよさん…?」

「そのシステムを維持するために──魔法少女とは無関係な人にまで“ウワサ”をけしかけてるんでしょう? 今でさえエネルギーが足りずに、伝説の魔女を呼び込まざるを得ない状況になってるじゃない。世界規模でそんなものが成り立つわけがない!」

「最初に必要なエネルギーが足りないだけだヨネ。システムを構築し終わったら、維持にかかるエネルギーは大したものじゃないワケ。火力発電だって水力発電だって、起動させる時に一番コストがかかるるんだヨネ」

「それだけじゃないわ。このシステムの根幹はつまり──魔法少女が背負っている不幸を、全世界の人々に押し付けるってことでしょう。無関係な人の悲哀が、嘆きが、負の感情が……システムの支えになってる!」

「アッハハハ! 正解! でも……だからナニ? 逆に言うなら、今は魔法少女が理不尽な不幸を押し付けられてるヨネ? それを正すことがそんなにおかしいワケ?」

「──それは…!」

「おためごかしはやめなさい、アリナ。一般人の幸せが、魔法少女の不幸の上に成り立っているとでもいうの? 魔法少女になって……理不尽なことなんて数え切れないほどあったけれど、それでも私は後悔していない。何度だって──何度だって繰り返してきた。いつか自分の願いを叶えるために。その選択は、私の……私だけのもの。幸せな人も、不幸な人も……幸せな魔法少女も、不幸な魔法少女も、なにも変わらきゃぁぁぁっ!?」

「ガンスリンガーガール…!」

 

 真面目な表情でアリナへと言葉を紡ぐほむらであったが──その途中で頭をガシリと掴まれ、悲鳴をあげる。その下手人であるアリナの瞳は、爛々と怪しく輝いていた。ほむらの瞳の奥を覗き込むように見つめる様は、彼女がアートの対象を見つけた時の、異常な行動を思い起こさせる。

 

「ナニ? その瞳…! アッハ──どう生きたらこんな眼になるワケ? まるで死ぬ前の象みたいだヨネ…」

「ちょっと、ア、アリナ……離して…」

「アッハハハ! すごくイイ…! 抉り出してアリナの部屋に飾りたい…!」

「なっ──!」

「…シット。怯えないでよガンスリンガーガール……ずっとさっきの瞳でいてぇ…!」

「ひっ…! た、助けて巴さん…」

「やべぇなアイツ…」

「お友達にはなりたくないタイプなのです」

 

 昔に戻ったように、怯えながらマミの背に隠れるほむら。敵地だというのに、緊張感の欠片もないやりとりであったが──なんとか進んで行くうちに、一行は階段へと辿り着いた。当然のように上へと進むアリナへ、ほむらは待ったをかける。

 

「アリナ……あなたはもう、計画への興味がないって言ってたわよね」

「そうだケド?」

「私はその計画を止めたいの。協力してくれるなら、私もあなたのアートへの挑戦に協力する……それでどうかしら」

「それは別にいいケド……いまアリナが被膜をといたら、ロクなことになんないワケ」

「…どういうこと?」

「イブが穢れを吸収する範囲を神浜に留めたのは、灯花のエネルギー変換速度が追いつかないカラ。もし被膜がなければ、イブは全世界から穢れを集め始めるワケ。その結果がどうなるかはアリナにもわかんないケド…」

「…けど?」

「被膜のもう一つの役割は、キュゥべえを神浜から締め出すことにあるワケ。無尽蔵に穢れを集める特異な半魔女──アイツらが興味を惹かれるには充分だヨネ。イブの存在が明るみになれば、きっとこぞって駆けつけてくる……その先がどうなるかはアリナにもわかんないワケ。ま、灯花とねむの目的は元々そこにあるカラ、なんとかするのかもしれないケド」

「…?」

「魔法少女を作り出すよりも効率の良い『穢れ収集システム』の樹立……これを交渉材料にして、キュゥべえと取り引きしたいんだヨネ、あの二人は。人類とは比べ物にならない技術を持った宇宙人から、知識を引きずり出す──アハッ、ファンタスティック!」

「──結果として魔法少女は救われる……か。そういえばキレーションランドでもそんな風に言ってたわね。結局、自分たちの願いのためなのね?」

「結果が同じなら、過程なんてどうでもいいワケ」

 

 睨みつけてくるやちよを軽くいなし、アリナは肩をすくめる。そもそも()()()()()からすれば、彼女は必要のなかった人材である。灯花の“変換”、ねむの“具現”、そして半魔女の“穢れを回収する能力”があれば事は成る筈だったのだ。

 

 彼女たちにとっても予想外の事態が起こった結果、状況はより複雑なものとなり──運命は複雑に絡み合った。もっとも、それを認識できているものは誰一人としていないが。

 

「ま、計画を阻止したいなら……イブの方をどうにかするべきだヨネ。もしくは灯花かねむのどっちかでも殺せば、システムの構築はインポッシブルなワケ」

「こ、殺すって…」

「アッハハハ! ()()()も同じだケド? イブは半分が魔女なんだから──もう半分はナニ?」

「…!」

 

 言葉の意味を理解したやちよは、苦々しげに唇を噛む。そんな彼女を嘲るように、アリナは道を示した。マギウスの二人を殺したいなら上へ──イブを殺したいなら下へ、と。

 

 しかしそんなことをすぐに決断できる人間ではないからこそ、いろは達はマギウスの翼と敵対してきたのだ。計画を阻止するためにすべきことは明るみに出たが、彼女たちの歩みは逆に止まってしまった。不安そうに顔を見合わせる少女達であったが、しかしここは敵の本拠地だ。進み続けなければ、いずれ出会うことになる。そう──

 

「くふっ、なんで環いろはたちがこんなところにいるのかにゃー?」

「それもアリナが先導しているなんてね。僕にも理解しかねるよ」

 

 ──円環のように、彼女たちは最初から()()()()()()()()()()




1、2週間に一回更新していきます。秋にアニメ始まるとしても、それで完結できるはず。

なろうの方で『混譚~まぜたん~』という一次も載せはじめましたので、よかったら暇潰しに見てやってください。

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