ほむら「ハーレムつくったら全部上手くいく気がしてきた」 作:ラゼ
見滝原でも有数の富豪ーーその一人娘である『志筑仁美』は、ここ数日の友人と、そして思慕の念を向けているクラスメイトの変化に戸惑っていた。
事故で入院していた想い人ーー上条恭介が復帰したのは、彼女にとっても喜ばしいことだ。バイオリンを弾くことは絶望視されていたとの話もあったが、まるで奇跡のように神経が繋がったともっぱらの噂である。
そして友人の方。仁美が『お嬢様』と知っても、憚ることなく友人関係を続けていた少女、美樹さやか。彼女が上条恭介を好いていたからこそ、仁美は自分の想いを秘めていた。先に好きになったのは彼女だから。先に告白する権利は彼女にあると、そして友人を傷付けたくないと思っていたからこそ、胸の苦しみを無視して恋情を抑えていたのだ。
ーー志筑仁美という少女は賢く、そして聡い。友人が幼なじみへと向ける視線から、恋心という感情が薄くなっていると気が付くのに時間はかからなかった。それどころか最近転校してきた少女の方に気を向けている節すらあった。
なにが起こったのだろう。仁美は疑問を覚えつつも、答えは出ない。まぁ一学年上の先輩が魔法少女であり、某転校生に頼まれて怪我人を治したなどとは想像の範囲外だろう。加えてその怪我人がホモであり、そのせいで友人の恋心が冷めていったという経緯は、質の悪いジョークとしか思えないほど非現実的だーーホモの部分は歪められた現実だが。
とはいえさやかの恋心がなくなったというならば、仁美にとっては喜ばしいことだ。もう自分が彼を好きだと公言しても、誰も傷つかない。悲しむ人はいない。ならば誰憚ることなく告白ができる。そう考えるのはむしろ当然であった。
ーー彼女を好きな男子生徒は割と多いため、悲しむ人はそれなりにいるが、本人が気付かないのは様式美というものだろう。
それはさておいて、まずは話を通す必要があると仁美は考えた。話と……そして筋を。いくら自分が推測したところで、確実にさやかの恋心が消えたと判断するのは早計だ。だからこそさやかに、今まで抑えていた己の慕情を伝えるのだ。
もしまだ恋愛感情があったのならば、もはやそれは宣戦布告になってしまうーーけれどいい機会でもあるのだろう。押すにも引くにも、さやかの出方を待つ日々が続いていた。友人との絆が大切だからこそ一歩下がっていたが、いつまでもそのままではいられないと考えていたのも確かだ。
故に彼女は、さやかを屋上に呼び出して事の経緯を伝えた。自分が上条恭介に恋していること。けれど美樹さやかという友人が大切に過ぎるから、ずっと我慢していたこと。裏切りのような感情を謝罪し、それでも言わずにはいられなかったこと。全てを伝え終わったあと、仁美は清々しい表情で天を仰ぐ。
後ろめたい、そして少しだけ疚しい秘密。胸を蝕んでいたとも、胸に巣食っていたとも言える秘め事は、どろどろと粘性を持っていた。しかし今すべてを吐き出したことで、たとえ話がどう転ぼうとも受け入れる覚悟ができたのだ。
悲しまれても、怒りを露にされても。祝福されても、喜ばれても。自分が選んだ結果だ。どんな結末を迎えても後悔しないと彼女は決めた。さやかが逡巡している様子を見ても、微塵の動揺もない。そう、何一つ後悔などしていないのだ。
「恭介、ホモだったんだよ…」
ーーそして彼女は後悔した。
■
ほむらは少し困っていた。ルンペン魔法少女『佐倉杏子』を内に入れることが出来たのは、最良の結果といえるだろう。しかしもう一人の魔法少女ーー『巴マミ』と彼女の相性は、けして良いとはいえないものだ。
彼女らに何かしらの確執があったのは把握しているが、ほむらはその詳細を知らない。故に、杏子がもう少し落ち着いてから二人を引き合わせる予定だったのだ。
基本的にマミの側は、よほどのことがなければ“仲間”を受け入れる。ほむらという新しい絆を得て、更に古い仲である杏子までが自分の下へ帰ってきたならば、間違いなく喜ぶだろう。
問題があるとすれば杏子の方だ。彼女は魔女の卵をーーつまり『グリーフシードを落とさない使い魔』を狩ってしまう魔法少女を馬鹿にしていた。確かに鶏をヒヨコの内に絞めてしまっても、旨味はほとんどない。しかし問題はそのヒヨコが育つための餌が“人間”であるという点なのだ。
魔法少女が生き延びるためには鶏が必要ーー正確に言うならば鶏が産み落とす卵が必要なのだ。
要約すると、自己犠牲の精神を容認するか否かでの対立。それによって彼女達は
結局のところ、彼女の本質は“善”なのだ。貧しくも幸せに暮らしていた少女の身に、過酷な運命が振りかかったせいで歪んでしまった。父も妹も、自らの願いのせいで死んでしまった。
そんな中でさえ、心の奥底で『光』に憧れた。あるいは贖罪の意味もあったのだろう。己が殺した父親が望んでいたのは人々の幸せだ。そんな人を自殺に追い込んで、おめおめと生き延びた自分が、それでも他人を犠牲にし続ける。自己嫌悪に苛まれるには充分な理由だ。
故に『誰かを救いたい』という深層心理の望みは、自分への赦しの道でもあるのだろう。きっかけさえあれば天秤がそちらに傾くのは必然でもあった。
ーーと、そこまで深く彼女のことを理解しているわけではないほむらだが、なし崩しの善行ですらきっかけになることを知っている。だからこそ、まずは仲良くなることが先決なのだ。彼女に限らず、人間というものは己の帰属する集団の方針が、精神の軸になることがままある。
暫くはほむらのやり方に従うと決めた杏子にとって、乗り気ではなくとも使い魔を倒すことは『絶対』だ。当然、それに際して人を救う場面は何度もあるだろう。実際に、ここ数日ですら幾人かの命を救っている。
魔女を討伐するに当たって人を救うことは今までにもあったが、それは『グリーフシードのため』という理由ありきのことで、同時に使い魔を放置し続ける状況でもあった。
現状も『命令だから』という言い訳はできるが、見捨てるという選択肢が存在しない状況は、彼女のささくれだった心を癒す一助になっていた。“命令だから、自分はいま正義の味方なのだ”という、優しい言い訳。
それが続けば彼女はマミと仲直りすることもできるだろう。杏子は自分の大事なものを見捨てない。彼女がほむらを、マミを、仲間を大事に思えた時ーーワルプルギスの夜と対峙するに当たってこの上ない戦力になる。
そのためにほむらは、彼女を自分の家に置いていた。ベッドはもちろん一つだけ。買うのが勿体ないという理由で、毎晩寄り添うように眠りにつく。薄い肌着だけでの密着は、互いの体温を預けあった。基礎体温が低めのほむらは、杏子の温かさを求めるように抱き締めて睡眠をとる。
ーーとまあ、そんな新婚夫婦のような生活が続いていたわけだ。しかしひょんなことから、その場面をマミに目撃されることとなってしまったのだ。
「…あんだよ、マミ。何か言いたげじゃん」
「なぜ貴女がここにいるのかしら」
「ほむらに頼まれたからだけど? 勝負に負けちまったんじゃあ仕方ないからねぇ……使い魔を狩るのも、悪さをしないってのも面倒なもんさ。まぁ食いっぱぐれとグリーフシードの心配はしなくて済むけどね」
「…どういうこと? 暁美さん」
「…」
背中から汗を流し続けるほむら。別に悪いことをしているわけではないのだから、堂々としていればいいーーそう思ってはいても、二人から発されるプレッシャーがそれを許さない。
まるで浮気が見つかった男のように、正座してうつむいたままだ。いまだ寝起きの服装そのままのため、汗で素肌が透けている。細身でありながら、現在のほむらは妙な色気を放っていた。
「どういうことも何も、お前だって聞いてるだろ? ワルプルギスの夜が来るって」
「ええ。でも貴女には関係ないじゃない。それとも今更改心でもしたのかしら?」
「はっ……なに? その上から目線。自分がやってることが一番正しー!…って感じの目。イラつくんだよね、そういうの見てると」
「私が正しいかどうかは、私が決めることじゃないわ。でも貴女のやり方は絶対に間違ってる」
「んだと…!」
「なによ…!」
あわわあわわと右往左往するほむら。こういった時に何もできないからこそ、できなかったからこそ、何度もやりなおしてさえろくに戦力の確保もままならなかった。元々、嵐がくれば伏して耐えるような性格の彼女だ。この場で能動的に動くというのは、とても難しい。
険悪に睨み合う二人。一触即発といった雰囲気。そんな彼女達を見て、ほむらはーー自分に活をいれた。
完璧になるのだろう、暁美ほむら。全てを救うパーフェクトな魔法少女になったのだろう、暁美ほむら。ならばこんなものは修羅場ですらない。ふっと笑ってふぁさっと解決すればいい……そう意を決して、勢いよく立ち上がった。
「きゃっ!?」
「おわっ!?」
同じく寝巻き姿の杏子と、いつも通りお洒落なマミ。両方の腕を引っ張ってベッドに放り込んだ。重なるようにして倒れこむ二人。杏子が下で、マミが上だ。
「ぐあっーーお、重っ…!?」
「し、失礼ね! 平均より少し上なだけよ!」
「またケーキばっか食ってんだろ? んなこったからぶくぶくぶくぶく脂肪がつくんだよ」
「一日一個しか食べてないわ!」
「一年で三百六十五個ってやばくねぇか…?」
マミの胸に顔が埋もれている杏子。全身でその体重を味わい、骨の軋む音が聞こえる。一つのケーキを角砂糖換算すると約十個。年換算で約四千個もの角砂糖を、朝昼晩の三食以外で摂取するマミの体重は伊達ではない。大体の栄養は胸にいっているが、余剰分が二の腕や太ももに表れているのは、彼女の密かな隠し事だ。
「つーか……いきなりなにすんだよ、ほむら」
「それにまだちゃんと理由を聞いてないわよ? 私達、仲間……なんだよね? 佐倉さんと協力するならするで、相談くらいはしてほしかった…」
ベッドから身を起こしつつ、ほむらに文句を言う二人。そのまま這い出ようとする彼女達を、再度押し倒して今度は自分も巻き込んだ。大きめのベッドとはいえ、三人ともなると流石に手狭だ。
「きゃっ!? ちょ、ちょっと暁美さん?」
「さっきからなんなんだ、おい」
「ーーちょっとお話しましょう」
「…は?」
「あ、暁美さん…?」
ほむらは知っている。自分の知るほとんどの魔法少女達は、多かれ少なかれ何かを抱えていることを。その最たるものが彼女達で、だからこそ繋がりを強く求めていることを。
人は一人では生きていけないのだ。マミも杏子も、一年以上を孤独に過ごしてきた。十代半ばの幼いとさえいえる二人は、どちらも親の死を目の当たりにしている。そしてその事実に罪を感じていることも同様だ。
両親との楽しい旅行ーーそして事故。血を流し、激痛を耐え、朦朧とした頭で願ったのは自身の延命。マミは事切れた両親を無傷の体で見ていた。ああ、なぜ自分だけの無事を願ってしまったのか。私“達”を助けてと、そう願うだけで家族は救われたのに。
貧しくも温かな家庭ーーその崩壊。ぶらりと垂れ下がった父親と妹
心に入った
ーーなら
『私なんて』と卑屈な感情がそれを否定していた。何度も見捨てた後ろめたさがそれを邪魔していた。そしてーーワルプルギスの夜を越えた後、“自身を殺す”覚悟がそれを後押ししていた。
魔法少女の才能はみそっかす。それを固有の能力と、拝借した兵器で彼女は補っていた。けれどワルプルギスの夜の後のことを考えた時、誤魔化しはもう利かない。時間停止という能力は、本来の固有魔法ーー時間遡行の福次効果だ。つまりほむらが願いを望んだ日……約一ヶ月後を過ぎると、遡行も停止も使用できなくなる。
そうなると武器の補充もできず、残るものといえば大した力もない弱者が一人。他の魔法少女の手助け無しには、おちおち生き残ることさえ出来ないだろう。ただただ迷惑なだけの存在だ。故に鹿目まどかという少女が救われるという事実は、暁美ほむらという少女が死ぬことと同義である。
ーーけれど今回のほむらは、それすら乗り越えようと誓った。ワルプルギスの夜を越えても死を選ばない。たとえマミや杏子に迷惑をかけようと『暁美ほむらが死んでしまう』方が、それ以上に悲しいと……彼女達の『大切』になる覚悟をした。
だからこそーーそれを更に越えて、彼女達を大切にする誓いを立てた。
「…マミ。貴女、どうやって入ってきたの?」
「あ、えっと……ごめんなさい。呼び鈴を鳴らしても出なくて、それで鍵が開いていたから……その、ちょっと驚かせてみようかな、なんて…」
「…杏子。昨日、最後に帰ってきたのは貴女だったわね」
「い、いや……ホテルって大概オートロックだから、あんま鍵かける習慣がなくってさ…」
ぽふんとベッドの上に投げ出される三人。マミと杏子が端で、ほむらが真ん中だ。仲裁者としては相応しい立ち位置ーーというより寝る位置だろうか。
「そう……じゃあお仕置きが必要ね」
「ちょ、ちょっとうっかりしただけじゃねーか!」
「そのうっかりが悲劇を生むことだってあるわ。入ってきたのがマミだったからよかったものの……もし変質者だったらどうなっていたか。二人とも縛られて、身体中を
「あってたまるかっつーの! だいたい普通の奴があたし達魔法少女に勝てるわけないじゃん」
「じゃあその変質者がマミで、私達をリボンで縛って、身体中を嬲りはじめたらどうするの?」
「そ、それは…」
「するわけないでしょう!?」
珍しく突っ込みをいれるマミ。とはいえ自分が変質者扱いされては、乙女として言いたいこともあるだろう。くるんと巻かれたサイドの髪が、怒ったようにふよんと揺れる。しかし今度はそんな彼女の方を向き、ほむらは追及を始める。
「マミもマミね。住所は知っていても、本当にここが私の家かどうかはわからないでしょう。違っていたらただの不法侵入よ?」
「う……で、でも表札に『暁美ほむら』って書いてたわ」
「絶対じゃないわ。実は『暁美
「どんな確率!? そんなのあるわけないじゃない!」
「じゃあその変質者が杏子で、ホームレスなこの子が空き家を求めてそこにいたとしたら?」
「そ、それは…」
「誰が変質者でホームレスだコラぁ!」
根無し草で、ホテルを転々としている杏子。ホームレスといえばホームレスだが、真正面から言われては怒りたくもなるだろう。
右隣から腕をつねられ、左隣から頬をつねられるほむら。しかしどこか嬉しそうでもあり、息の合ったベテランコンビに苦笑する。
「…やっぱり仲が良いのね、二人とも」
「だ、誰がだよ!」
「…ええ、そうね。仲が良いなんてとんでもないわ。グリーフシードのために使い魔を放置する人となんて、仲良くできるわけがない……絶対に相容れない」
「…っ」
マミの冷たい言葉に顔を歪める杏子。先程のやりとりで、仲が良かった昔のことを思い出していただけに、その言葉が胸に突き刺さる。しかし売り言葉には買い言葉で返す彼女の性格だ。反論と、マミのやり方を小馬鹿にする言葉を口に出すーーその直前。ほむらの指が彼女の唇を塞ぐ。
「マミ」
「…な、なによ。暁美さんだって、佐倉さんのやり方が正しいなんて思ってないでしょう?」
「いいえ。魔法少女としては杏子のやり方が一番理にかなってるわ。私自身も、使い魔を狩るのは効率が悪いと思ってる」
「ーーっ! そん、な……嘘でしょう? そんなこと言われたら、私、私…」
「勘違いしないでほしいのは、そう思ってはいても行動は別だっていうこと。目の前に使い魔が現れればちゃんと始末するし、殺されかけている人がいればそちらを優先してる」
「え…?」
ほむらは効率性を求めて動いており、杏子の在り方が魔法少女に一番適していると確信している。しかし彼女がグリーフシードのために使い魔を放置したり、人を見捨てるかといえば否だ。それはほむらの善性というよりも、まどかやマミに顔向けができないという理由から。
いつだって人を救おうとする、そのために魔法を使う少女達。そして彼女達こそが、魔法少女として不慣れなほむらをサポートし、なんたるかを教えた師匠でもある。
魔法少女のなんたるかーーその真実こそ、教えとかけ離れてはいた。だからといってそのやり方が間違っていたなどと、ほむらは微塵も思っていない。彼女達の尊い在り方あればこそ、かつてほむらは救われたのだ。恐ろしい魔女から守ってもらえたのだ。
そのやり方を否定するのは、自分の存在を否定することに他ならない。だからこそ、たとえ己が高尚な人間であらずとも、魔法少女としての在り方だけは変えていない。それが彼女の矜持だ。
「貴女のように真っ直ぐな人間ばかりじゃないとーー前を向いて歩ける魔法少女ばかりではないと、理解しなさい……マミ。私だって、本来なら杏子のやり方が望ましいと思うタイプのーー貴女に言わせれば、相容れない類いの魔法少女よ」
「な、なら……どうしてそうしないの? どうしてーー私を助けてくれたの?」
「それが死んだ私の友人と……先生の教えだから。そしてマミ、貴女が大切だから」
不安そうに、瞳を揺らしながらほむらへ問い掛けるマミ。反して、杏子は口をつぐみながらじっと聞いている。既に三人とも身を起こし、三者三様の体勢だ。それでもまだベッドの上から離れないのはーー繋がりを絶ちきれない、絶ちきりたくないという思いが捨てきれないからだろう。
「マミ。人は大事なもののために生きてるの。私は貴女が好きだから……貴女の悲しむ顔を見たくないと思うからーーその想いが『使い魔を狩る非効率』なんかよりずっと大切だから、そうするの。それでは駄目かしら…? 魔法少女は心根から正しくなければ……駄目かしら」
「あ、あぅ……そ、そそ、そんなことはないわ! 結果的に救われる人がいれば、大丈夫だと思うの!」
「ありがとう。杏子はどう思う?」
「あん? …まぁ人それぞれじゃねえの? あたしには関係ないけどな」
ほむらとマミのやり取りを見て、少し不貞腐れたような態度を見せる杏子。数日とはいえ枕を共にした少女への嫉妬もあり、かつて慕っていた先輩への嫉妬でもある。自分の友達同士が仲良くやっていると、妙な疎外感を覚える現象に近いだろう。
「
「まあな。お前らの大切は“それ”で、あたしの大切が“これ”だって話だろ? 間違ってねーよ。つまり……相容れないってこった」
「…ですって、マミ。良かったじゃない」
「…え?」
「…はぁ?」
杏子の発言のどこが良いのかーーマミと、そして口にした当人すら間抜けな声を出す。ますますもって相容れないことが理解できた……それだけなのに、と。けれどほむらは微笑んだ。その『思い』が正しいという言葉、それこそが聞きたかったのだという風に。
「マミ。私は一ヶ月間、杏子に協力してもらう約束をした」
「“協力”ねぇ……ま、どっちにしても一ヶ月だ。あんたの言い方に
「ええ、そう。貴女が一ヶ月以内に私とマミを『好き』になればいいのよ」
「ーーは?」
「そうよね、マミ」
「ーーえ?」
「この一ヶ月で、杏子が『やり方』を変えたくなるくらい……私達がこの子の『大切』になればいい」
もはや暴論としか言えないほむらの言葉。少なくとも本人の前で宣言するようなことではないだろう。普通は頑なに、意固地になるのが当たり前だ。しかしそれを差し引いても、ほむらはこの方がいいだろうと考えた。その方がーー間違いなくマミのやる気が増すだろうから。
「ーーそっか! そういうことね! …佐倉さん!」
「は、はぁ…? つーかなにやる気だしてんのさ。んなこと言われて好きになるやつなんいねーよ……ぶむぎゅっ! むぐっ!?」
「私、頑張るからね…! ケーキだっていっぱい焼いてあげるんだから!」
「むー! むー!」
「ふふっ」
マミのふくよかな胸に抱き締められ、苦しそうに暴れる杏子。しかし本気で嫌がっていればすぐに出られそうなものを、妙に時間がかかっているようだ。そんな彼女達を見てーーほむらはふぁさっと髪をかきあげた。
突然の訪問のせいで少しばかり睡眠が足りていない。少し手狭にはなるが三人で寝るのもいいだろう。そう思い、横になるほむら。
そしてそんな騒がしい彼女の部屋に、壁をすりぬけながら白い小動物が姿を現した。
「やあ、暁美ほむら。言われた通り、近隣の魔法少女の情報を持ってきたーーおっと、今から寝るところだったんだね。ところで例のルーティーンとやらはしないのかい?」
ーーほむらは服を脱いだ。