ほむら「ハーレムつくったら全部上手くいく気がしてきた」   作:ラゼ

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マギアレコードの単語が出てきますが、基本的にアニメさえ知っていれば大丈夫なように進めていきます。


楽園(ハーレム)行き覚醒前夜

 見滝原総合病院。この場所は見滝原市のほぼ南端、線路を越えると別の市に入るところに位置している。南側の線路を越え、西の河を渡れば更に別の市へ続いている。

 

 その関係上、三市に渡って病人や怪我人が集う病院だ。故に診察者の数も多く、もしこのような場所で魔女が発生した場合、多大な被害をもたらすだろう。

 

 そして今日この日こそ、グリーフシードが孵化し“お菓子の魔女”『シャルロッテ』が、結界を生み出す日であった。時間軸によって様々な変化はあれど、この魔女に限ってはまず間違いなくここに出現するのだ。

 

 ほむらも何となくは気付いているのだが、“変化のない事象”とは誰かしらの強い意志が介在していることが多い。例をとってみれば、まどかとさやかが公園でクレープを買う日がある。まどかは九割五分でトリプルイチゴクレープを注文するが、さやかはまちまちだ。これはまどかの嗜好が偏っており、よほど気分ではない限り自分の好きなものを選ぶということなのだろう。そしてさやかは取り立ててクレープの種類に執着がないため、注文もバラバラになるのだ。

 

 それを前提に考えると、お菓子の魔女はこの病院に執着があるということになる。魔女にそういった性質があるのかという疑問はーー間違いなく是であった。むしろ全ての魔女はなにかしらに執着しており、場合によってはそれが弱点にもなる。

 

 お菓子の魔女シャルロッテを例にすれば、彼女は『チーズ』がとても大好きだ。しかしお菓子溢れる結界にはチーズだけが存在しない。一欠片のチーズもありはしない。だからこそこの結界にそれを持ち込み、魔女の目の前におけば夢中となる。チーズある限り簡単に隙を作れるということだ。

 

 とはいえ魔女に詳しいほむらといえども、そこまでは知る由もない。どんな偶然があろうとも、魔女の前でチーズを取り出すような事態にはならないからだ。

 

 シャルロッテは強大な魔女である。それは(ひとえ)に生前の魔法少女の実力が高かったということなのだろう。行動パターンを知り尽くしているほむらでさえ、時間停止に頼らなければ勝ち目が薄い。そんな魔女だ。

 

 ーー逆に言えば、時間停止があればまず勝ちは揺るがないということでもある。というよりもこの見滝原に出現する魔女は、既にほむらの敵にはなりえない。杏子がダンスゲームで低い点数を取らないように、多少のミスがあったとしても簡単に挽回が可能なほど、全てに慣れているからだ。

 

 つまり一人でも充分に対応可能な敵だ。となれば杏子やマミには別の場所に出現する魔女を狩ってもらった方が効率的である。グリーフシードはいくらあっても貯めすぎということはない。別行動は必然の成り行きであった。

 

 ーーしかし。

 

「なぜ現れないの…?」

 

 時間になっても現れない。そんなことは早々ないのだがーーと訝しむほむら。今までこの魔女が発生しなかった極稀な時間軸のことを思い返し、今回との類似点を探る。

 

 両方で共通することといえば……そうだ、上条恭介の有無ではないか、とほむらは思い当たった。彼が右手の怪我に悲観し、さやかが契約する前に命を絶った世界がある。その時、魔女は現れなかった。そうするとどういう推測が成り立つのか。

 

 ーー気付いた瞬間、ほむらはぎしりと歯を擦り合わせた。上条恭介が入院したままであれば、まどかとさやかは此処へ必ずやってくる。そしてその時に孵化寸前のグリーフシードを見つけてしまえば、幼馴染みをーーそして病院にいる人々を守るために契約する可能性が高まる。

 

 なんのことはない、その孵化寸前のグリーフシードをキュウべえが置いたというだけの話だ。そもそも魔法少女がソウルジェムを濁らした訳でもなく、使い魔が成長して魔女になったわけでもなく、都合よく()()()()()()()()()()()()という時点で気が付くべきだったのだろう。

 

 まったく、時間を無駄にしてしまったと踵を返すほむらであったがーーそんな彼女の視界の端に、一人の少女が映った。第一印象としては見窄(みすぼ)らしいといったところだろうか。あまり上等な服装とはいえず、ところどころにほつれが見える。ただでさえそんな身形(みなり)であるというのに、その中身も暗い雰囲気を纏っているのだ。

 

 しかし何よりもほむらの気を引いたのは、その指にリングが嵌められていたからだ……魔法少女の証である、ソウルジェムの指輪を。

 

 ほむらもベテランと言われるほどの魔法少女だ。見滝原以外の魔法少女も多少は知っている。しかしこれ程までに若いーーというよりも“幼い”魔法少女は、後にも先にも一度きりしか見ていない。

 

 基本的にキュウべえが契約するのは第二次成長期を迎えた年代の少女だ。その年代が一番情緒不安定であり、私生活の悩みなどでソウルジェムを濁らせやすいからである。

 

 それ以前に、あまりに幼すぎると初回の魔女との戦闘で死んでしまう者が大半だろう。非効率なことを嫌うキュウべえが契約するとは思えない、というのがほむらの見解だ。

 

 ーーしかし今はそんなことを言っていられない。病院の入り口へ向かう少女のソウルジェムは、既にギリギリの状態だ。濁りが限界を迎え、自ら穢れを放ち始めている。そこまでいくと、グリーフシードで穢れを吸い取ることが出来るかは五分五分といったところだろう。

 

「ーー待ちなさい」

「…」

「待ちなさい!」

「…なぎさに言ってるのですか?」

「…! ええ、そうよ」

 

 およそ子供らしくないーー子供にしていてほしくはない瞳だ。絶望に染まりきっている。もう幾ばくの猶予もない、そんな不安定な雰囲気だ。ほむらは会話を後回しにして、盾からグリーフシードを取りだし、彼女の指輪に近付けた。

 

「…っ、くっ…」

「…?」

 

 少女はほむらの行動と、そして結果の両方に首を傾げた。なぜ見ず知らずの魔法少女が大切なグリーフシードを使用してくれるのか……そしてなぜ自分のソウルジェムは輝きを取り戻さないのか。

 

 その理由を知っている魔法少女は少ないが、当然ほむらにとっては既知である。ここまでソウルジェムの汚染が進んだ場合の対処法は、グリーフシードではなく“希望”なのだ。

 

 絶望するとソウルジェムは濁るーーそしてソウルジェムが濁ると絶望しやすくなる。最低の悪循環システムを搭載しているのが、この宝石の特徴だ。そのループに嵌まってしまった場合、原因となった絶望を解決するか、あるいはそれを吹き飛ばすほどの希望を感じることが魔女化を避ける唯一の方法である。その後、ようやくグリーフシードを受け付けるようになるのだ。

 

「貴女、名前は?」

「…百江なぎさ、なのです」

 

 少女の名は『百江(ももえ)なぎさ』。ほむらの預かり知らぬことではあったが、彼女は“お菓子の魔女”『シャルロッテ』のーーその前身の魔法少女である。

 

 彼女の母親はこの見滝原病院に入院しており、難病患者でもあった。そして貧困に喘いでもいる、世間的に見れば『可哀想な家族』といったところだろうか。

 

 なぎさの魔法少女としての才能は、全体で見てもかなり上位に食い込む。そのせいで幼いながらもキュウべえに目をつけられーーそしてあまりにも容易い願いを()()()()()()()

 

 幼さ故に契約の意味も大して理解しておらず、願いを病気の治癒ではなく、母親がふと漏らした『チーズケーキを食べたい』などというちっぽけな願いで消費してしまった。ただ母親に喜んでもらいたかった……それだけのために。

 

 本来であれば既に母親は死を迎え、なぎさも絶望し魔女になり、キュウべえに利用されているところであった。しかしこの病院で起こった奇跡ーー絶望視されていた上条恭介の快復という快挙が起きたことで……その噂が駆け巡ったことで希望を得た患者は多い。病は気からという言葉はけして嘘ではないのだ。精神状態の躁鬱(そううつ)が身体に及ぼす効果は無視できない。

 

 その結果起きたのはなぎさの母親の僅かな延命、引いてはなぎさの魔女化の遅延だ。しかし問題が解決したわけではない。難病とはいえ手術をすればどうにかなる状態ではあったが、それには多額の金が必要だった。

 

 事ここに至り、なぎさはようやく気付いたのだ。願うべきはチーズケーキなどではなく、病気の治療だったことを。その後悔はじくじくとソウルジェムを蝕み、母親が限界に近いことをなんとなく察したことも相まって、なぎさは今魔女化しかけている。

 

 年端もいかない、本当に幼い少女だからこそ感情に制御がきかない。なぜ母親が死んでしまうのか。なぜたった一つの奇跡をくだらない願いに使用してしまったのか。なぜ周りは幸せそうなのに、自分と母親は不幸なのか。

 

 なぜーーなぜ誰も助けてくれないのか。

 

 ああ、困ったら誰かが助けてくれるなどという考えは甘えだろう。けれど彼女はまだ十歳にも満たぬ少女であり、甘えが許されて然るべきだ。

 

 それでも救いの手は差しのべられない。当然だろう、誰が好き好んで莫大な医療費を払ってくれるというのだろうか。無償の善意には限界がある。

 

 なぎさはそれをこれまで理解しておらずーーそして今は理解()()()()()()からこそ此処で朽ち果てるのだ。言ってしまえば世界のどこにでもある不幸で、今もどこかで起きている、珍しくもない悲劇の一つ。

 

 子供が泣きじゃくる。感情のままに、誰かを呪うこともせず、ただただ助けを求めている。張り裂けるような悲痛な叫び。そんなありふれた不幸。

 

 ーーほむらはそんな少女の手を握り、優しい声で囁いた。

 

「ーー大丈夫。きっと助けてあげるから」

「…ひっ、うぐ……本当? 本当に……助けてくれるですか…? ひぐ、ひっ…」

 

 震える少女を抱き締める。悲しむ少女の涙を拭う。けれどまだソウルジェムはグリーフシードを受け入れない。

 

「絶対に、絶対に助けてあげるから……お願い、泣き止んで」

 

 小さな身体で、拙い言葉で、後悔を口にしている……けれど必死に運命と戦っている。それがどうしようもなく自分と重なって、ほむらも口元を引き結ぶ。しかしまだソウルジェムは穢れを放つ。

 

「ひぐ、うぅぅ……お母さん、お母さん……ごめんなさい、なぎさが、なぎさが…!」

 

 泣いた子供に声は届かない。空間が軋みだし、ソウルジェムから黒いもやが溢れ出す。けれどーーほむらは諦めない。見ず知らずの少女を助ける意味などあるか……そんなことは考える以前の問題だ。完璧な魔法少女たれば“救えて当然”。ここでそれができないなら、これ以降だって出来ないだろう。それが卑怯な手段を使ってでも悲願を成すに当たって決めた、ほむらの信念だ。

 

「ひっ、ひっ…ぅ……あーーぁぐっ……!? …ぃ、あ、がっーー!」

 

 泣き声がーー苦痛の声に変わる。最後の一線を越えてしまった証拠だ。今までのほむらであれば見捨てていた段階の汚染。

 

 青い輝きが黒に染まり、涙と共に醜悪な人魚姫と化した友人を思い出す。何度も何度も、数えることが馬鹿らしくなるほど見捨ててきた彼女のことを。

 

 きっと救うために必要だったのは“愛”なんだろう。その時その場に上条恭介がいたならば、必ず彼女は耳を傾けた筈だ。

 

 その手で大事な友達(まどか)を殺した時間軸、ほむらのソウルジェムは手遅れに近かった。けれど生き延びたのはーーやっぱりそれも“愛”なんだろう。

 

 愛してくれる人が居なくなった子供が泣いている。助けてと、助けてほしいと泣いている。

 

 そんな少女の額に触れるようなキスをして、ほむらは駄々っ子をあやすように抱き締めた。

 

「ーーとってもケーキを焼くのが上手な友達がいるの。甘くて、柔らかくて、美味しいケーキ。お母さんが退院したら招待するわ。ふわふわで、ベリーソースが良く合うチーズケーキを焼いてもらいましょう」

「チ……ズ…」

「お母さんに『お帰り』って言ってあげよう? ね……なぎさ。大丈夫、貴女の声は私に届いてる。これまで誰も助けてくれなかったのなら、これからは私がずっと傍にいてあげる……だから、だからーーもう少しだけ、頑張ろうね」

「あ…」

 

 ーー最後の禁じ手。ほむらは自分のソウルジェムをなぎさのソウルジェムに近付ける。グリーフシードとソウルジェムは、結局のところ同じものだ。むしろ後者の方が意図的に穢れやすく(・・・・・)創られている都合上、『穢れを吸いとる』という一点に限ってはソウルジェムの方が優秀である。

 

 徒党を組む魔法少女が非常に少ないため、知っている者こそ極僅かではあるが、“魔力の譲渡”という技術が存在する。しかしそれは美化された言い方に近く、悪い言い方をするならば“穢れの押し付け”のようなものだ。

 

 とはいっても魔力を譲渡する方……つまり穢れを引き受ける方の任意で成り立つ技術だ。確かな信頼や親愛がなければまず使用はしないだろう。

 

 ソウルジェムは魔法少女そのものであり、その名の通り剥き出しの魂といえる。文字通り魂と魂が触れ合い、なぎさは嗚咽(おえつ)を止めた。

 

 その温かさは、ずっと彼女が求めていたものだ。物心ついた頃には父親がおらず、我が儘を言い出す頃には母親が倒れ、同年代の少女よりもずっと不足していただろう“愛情”。

 

「あ……あ、ぅ…」

「ほむら。私の名前は暁美ほむらよ」

「ほむら…」

「ええ、そうよ『なぎさ』」

「うっ、く、ひっーーうわぁぁぁん!!」

 

 今までの涙とは質が違う水滴。頬から流れ出た雫がソウルジェムに零れ落ち、ようやく穢れの放出が止まった。すかさずグリーフシードを近付け、二つの魂が輝きを取り戻したことを確認し、ほむらは安堵の息を漏らした。

 

 ぎゅっと頭を押し付けてくるなぎさを撫でながら、莫大な医療費について考える。杏子への見せ金に使用した札束……あれで事足りるならいいが、となぎさに悟られないように小さなため息を吐く。それで足りなければ、()()犠牲になってもらわねば、と。

 

 拳銃(おはじき)大好き、頭にヤのつく自由業……『暴力団』

 

 談合(おだんご)こねるよ、脱税ゼネラルコントラクター……『悪徳企業』

 

 汚職事件(お食事券)は悪の華、裏金献金マイスター……『黒い政治家』

 

 ーー魔法怪盗(マジカルシーフ)☆ホムリリィ。始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “情報屋”というものは現代に存在するのだろうか。数世紀、十数世紀昔には確実に存在しただろう。古ぼけたバーでフードを目深に被った、怪しさ全開の情報屋だっていたかもしれない。

 

 とはいえ現代のそれと全く異なることは間違いない。今やネット全盛の時代、一般人でさえその気になれば情報屋まがいのことは出来るだろう。

 

 故に“本物”の情報通に出会うことは、それだけで既に難しい。少なくとも単なるいち魔法少女に、そんな伝は存在しない。

 

「情報屋ねぇ……いくらあたしだってそんなもんに心当たりなんかねーよ」

「そう……アウトローな貴女なら、と思っていたのだけど」

「アウトローっておまっ、あたしのことなんか勘違いしてない? そりゃ暗黙の了解とか、手を出すとまずいとこくらいは把握してるけどさ。ヤーさんくらいならともかく、企業だの政治家だのなんざ名前も知らねーよ」

「…今の首相の名前は?」

「…」

 

 犯罪まがいのーーというより、犯罪そのもので生計を立ててきた杏子。彼女ならば見滝原以外の『裏』に詳しいだろうとほむらは考えた。この見滝原ならいざ知らず、他の街にまで足を伸ばすことは早々ない故に、今までは必要なかった情報だ。しかし既にこの見滝原では()()とやってしまった都合上、違う街へ手を出す必要があった。

 

「う……そ、そうだ! 情報屋かどうかは知んないけど、ちょっと前そこそこ有名な『組』を潰した組織があってさ……確かそのトップか構成員だかが“魔法少女”って話だ。あくまで噂程度だけどさ」

「魔法少女がトップの……組織?」

「ああーーってもあんま悪い噂は聞かないけどね。ただ敵対するとかなりヤバいって話……バリバリの武闘派らしいから、あたしも気をつけてたんだ」

「…組織の名前は?」

「確か……『蒼海幇(そうかいへい)』。華僑(かきょう)が中心の組織だった筈だよ。つーかチャイニーズマフィアだろうがイタリアンマフィアだろうが、海外のそっち系って容赦ないんだ。基本的に手は出さない方が賢明だね」

「…蒼海幇」

 

 考え込むほむら。確かに杏子のいうように危険な部分もあるだろう。しかしトップか、あるいは高い位置に魔法少女がいるなら、(くみ)(やす)いという側面もある。普通のそういった組織に話を持っていくのは、基本的に無理があった。子供が情報をくれなどと言っても門前払いが関の山だろう。

 

 故にほむらは今まで何度も繰り返す度に少しずつ、足で情報を集めたのだ。だからこそ見滝原の裏稼業にはそこそこ詳しいのだが、今回はそんな手段が使える筈もない。

 

 しかし魔法少女という共通点があれば接触のハードルは下がり、なおかつグリーフシードという報酬も提示できる。それにあまり時間もない。なぎさの母親も限界が近いーーマミが回復魔法で命を繋ぎ止めてはいるが、基本的には外傷に効果を発揮するものだ。一刻も早く手術が必要で、そのためには金が必要だ。

 

 真っ当なところから奪うわけにはいかないが、不当にーー違法行為により溜め込んだ金を奪うことにはなんの躊躇もない。故に標的の早期発見が肝要なのだ。

 

 蛇の道は蛇。裏に通ずる組織ならば、それに敵対的な組織の情報くらいは持っているだろう。企業や政治家と癒着していれば、その辺りの情報にも期待できる。ほむらはそう考え、立ち上がった。

 

「じゃあ行きましょうか」

「…あたしの話、聞いてた?」

「ええ。怖いなら来なくて結構よ……命令もしないわ」

「む…」

「意地で付いてくるのもやめなさい。ただーー泣いた子供を助けたいというのなら、一緒に行きましょう」

 

 試されているーー杏子はそう感じ取った。そして彼女は、そういったことをされるのがとても嫌いだ。てめェは“何様”だよ、と。しかし真っ直ぐに見詰めてくるほむらの視線は、上からではなく下から。品定めではなく“期待”。

 

 きっと貴女ならーーそういった瞳だ。

 

「はん……(しょう)に合わないねぇ。なんであたしが赤の他人のためにそんなことしなきゃなんないわけ?」

「…」

 

 じっと杏子を見つめるほむら。まだ()()とは思わない。もう正義に傾いているのは明白だ。そもそもが正義感の強い少女だった筈だ……なにより、彼女は幼い少女を見捨てない。幼い内に死んだ妹に重なる、泣いた子供を見捨てるわけがない。

 

 知識としてそれを知っているほむらは、少し卑怯だろうかと目を瞑りーー椅子から立ち上がる音を聞いて微笑んだ。

 

「ま、でも……ガキのキンキン声は嫌いなんだ。()がうるさくなったら堪ったもんじゃないね」

「ええ、そうね」

「…なに笑ってんのさ」

「いいえ、なんでもないわ」

 

 引っ張るように手を繋ぎながら、ほむらは足取り軽く家を出る。想いは願えばきっと伝わる……少し前までは考えもしなかった綺麗事に、胸を熱くさせながら。絶対に今回で終わらせようと誓いを新たに、門扉を開いた。

 

「ねぇほむら……その子、誰? なんでーー手を繋いでるのかな」

 

 ーーそこに現れたのは、冷たい声で問い質してくる……さやかの姿であった。




マギレコ豆知識:蒼海幇の魔法少女『純 美雨(チュン・メイユイ)』。解りやすく言うと『らんま』に出てくるシャンプー。

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