其処は、一面の地獄だった。
視界に映る景色は所々が霞がかかったようにぼやけているが、概観は凡そ把握できた。
間取りや設備からするに、自分のよく知っている場所。
すなわち学園の一教室。
だがその状態は異常だ。
散乱する無数の机、傷だらけの床面。
窓ガラスも盛大に砕け散り、夜の冷気がボロボロのカーテンをはためかせながら教室中を流れ満たす。
そして何よりの異常は―――
赤黒い水溜まりの上に横たわる、無惨なヒトガタ―――
声が出ない。
あまりの非日常に思考が進まない。
当然ではある、何せ人の死体を見ることなど初めてであるし、その亡骸が見るも惨い状態となればなおさらだ。
―――だが、この地獄はその程度では終わらなかったようで。
凝らすべきでもない目を凝らし、遂に気付いてしまう。
―――眼前に転がる屍が、ただ一つなどではないという事実に。
靄の掛かった視界の所為で完全な数までは把握できない。
しかしながら、ざっと数え上げるだけでも五人ほどの遺体を確認できてしまった。
とっくの昔に、自分の許容量など大きく超えていた。
この光景は一体何だ?
アリエナイ。
この教室で何が起きた?
アリエナイ。
どうして複数の死体がある?
アリエナイ。
そして、何よりも――どうして自分はこの惨状を目の当たりにしている――?
アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ!!
「―――やぁ」
その時であった、『声』が響いたのは。
こちらを嘲弄するかのような声色は、教室の入り口方面から聴こえていた。
慌てて振り向き、そちらを見据えると―――
何者かが、其処には居た。
何者か。
そう。何かが、誰かがそこに居るのは確かだ。
だが―――分からない。
声の低さから男性であろうということだけは理解できる。
しかし、その姿は全くもって視えない。
全体的に視界があやふやなのは確かだが、それでも目を凝らせばそれがなんであるかは理解できる程度の阻害に過ぎなかった。
にも関わらず、眼前の男の外形はまるで、黒色のペンで塗り潰されたようで。
辛うじてヒトの五体をしていることくらいしか見て取れない。
「これはこれは―――」
喜悦を含んだ言葉を吐きながら、影絵の男はこちらへと歩を進めてくる。
次第に遠のき始めた意識に響く整えられた足音は、さながらタイムリミットへと迫る秒針のように。
「そうか、君は■■■■■■■」
もはや相手の言葉すら聴き取れない。
「■■■■、■■■■■■■■―――」
硬直して動けない自分の顔に向かって、男の右手が伸ばされて―――