・デレ側のプロダクション名は明記していません。
とある日の朝、プロデューサーが黙々とデスクワークを進めている部屋にノックの音が響く。
どうぞと返すと元気良く一人の少女が入ってきた。
「失礼しまーす、未央ちゃんを直々に指名なんてなにごとかなプロデューサー?」
やってきたのは本田未央だった。
どうやらプロデューサーが名指しで呼んだらしい、要件はなんだろうか。
プロデューサーは彼女の目をすっと見据えると口を開いた。
「えっと……次のフェスに他の事務所のアイドルと二人で参加? わ、私が?」
未央の言葉に静かに頷くプロデューサー、しかし未央は喜びよりも戸惑いの感情が大きいのか表情に変化が見られない。
心配になったのか、プロデューサーも彼女に声をかけた。
「え? ああ、うん、嬉しいよ。嬉しいんだけど……私でいいのかなって思っちゃって……」
自分よりもふさわしい人物がいるのではないか、僅かでもそういった不安を抱えてしまうとずっと心の中に残ってしまうだろう。
これを解決するには本人がしっかりと納得できる理由を伝えなければいけない。
プロデューサーは問題はないと言うように微笑みながら抜擢した理由を伝えた。
「私を選んだのは誰とでも友達になれるから? そ、そっか……そっかあ……。そうだよね、せっかく他の事務所の子とお仕事できるんだから仲良くなれる人を選ぶのはありだし、そういう理由ならこの未央ちゃんしかいないよねっ!」
未央にいつもの元気な笑顔が戻った。
誰とでも友達になれる、オーディションのときにプロデューサーに話したその特技が今度は事務所を代表することへの理由となったことが嬉しいのだろう。
「それで一緒にフェスに出るアイドルってどんな人なのかな?」
恐らく相手方からもらったであろう資料を未央に見えるよう並べながら、プロデューサーは彼女の質問に答えた。
「ふむふむ、765っていうプロダクションに所属してて名前は北沢志保……北沢志保さんね、うん」
組むことになる相手の名前を復唱しなにやら考えている様子の未央、恐らくあだ名を考えているのだろう。
「……うーん、えっ? 年齢は14歳? 私の一つ下なんだ、なるほどつまり……未央ちゃんのお姉さん力が試されるわけですなっ!」
未央は任せろといわんばかりのしたり顔である、実際に弟がいるからこその反応だ。
しかし、弟と妹では色々と違ってくる上に事務所の代表同士という対等な立場なので作戦としては微妙なところかもしれない。
「向こうも弟がいるの? なるほど~、じゃあお姉さん同盟の方がいいかな」
どうやら相手の情報を知ったことで路線変更を図るようだ、同じ目線でいくのはたしかに有効そうではある。
「他にはなにか情報ってある? ……クールでストイックで少し距離を取るタイプ。ほほう、誰かさんに似ていますなあ」
未央の言葉にその誰かさんは今どこかでくしゃみをしているかもしれない。
「特徴を言葉で説明すると似てるだけかもしれない? まあ、それもそっか、実際に会ってみないと分からないよね」
プロデューサーの意見に納得したのかうんうんと頷く未央。
全く同じ人間はいない以上、会う前からあの人と同じこういうタイプだろうと決め付けていくのは危険ではあるので良いことだろう。
「ステージに立つ姿を見たいかって……そりゃ見たいけど、ライブの映像でしょ?」
突然の問いに対し収録映像かなにかだろうと思っている様子の未央を見て、プロデューサーは少し楽しそうに笑った。
自分自身も驚いた話を聞かせて、どんな反応を見せるのか楽しみなのだろうか。
「えっ、765プロって自分たちの劇場を持ってるの!? なにそれ、めちゃくちゃ凄いじゃんっ! だって、ローテーションで毎日ライブとかできちゃうんでしょ!?」
未央はライブを行える劇場を所持していることに驚きを隠せない様子だ。
しかし、毎日ライブをするにはアイドルやスタッフへの負担が大きすぎる。プロデューサーも笑いながらさすがに毎日ライブは否定した。
「そっかそっか、公演のテーマとかを決めて定期的にやってるんだ。たしかに、それならライブ前でもお客さんが色々想像できたりして楽しそうだもんね」
プロデューサーは頷き彼女の話を肯定する。
もしかしたら少々羨む気持ちもあるだろうか、自分たちの劇場があるのならばたくさんのアイディアを活かしたり経験を積ませることができるのだ。
所属アイドルが多いほど、可能性を試せる場を所持しているということは魅力的に見えるだろう。
「てことは、その劇場で近々ライブがあってそれに連れてってもらえるってこと?」
その通りだと言うようにプロデューサーは頷く、それを見て未央の表情も更に明るくなる。
「やったーっ! 他の事務所のアイドルのライブを見れるなんて滅多にないチャンスだし、絶対行きたいっ!」
はしゃぐ未央を見てプロデューサーはどこか安心したように微笑んだ。
変に気負ってしまわないか不安だったのかもしれない。
「私がそう答えると思って公演の日はもうスケジュール空けてある? さっすが敏腕プロデューサー、よく分かってるね~。未央ちゃんも担当アイドルとして鼻が高いよっ!」
未央は腕を組んでとても満足そうな笑みを浮かべている、予想して空けておいたプロデューサーも嬉しいことだろう。
「よーし、じゃあ帰ったら765プロのこととか調べておこうかな」
彼女の行動は間違いではないものの、楽しむことが前提の行動なので本来の目的から外れてしまわないか少々心配になるところではある。
しかし、プロデューサーは未央に乗るような発言をするのであった。
「ペンライトはそっちで準備しておいてくれるんだ、ありがとプロデューサー。これで必要なものは揃った……かな?」
プロデューサーは頷きつつも、一応釘を刺す言葉を未央にかける。
さすがに注意はしておくようだ。
「目的を忘れないことが条件? 大丈夫、分かってる。ただ客観的にライブを体験できる機会だから勉強しておこうって思ってるだけだよ」
未央も分かっているようなのでプロデューサーもこれ以上なにかを言う様子はない。
後は相手と連絡を取り合い、遅刻しないよう細かいスケジュールを決めておくだけである。
「ところでプロデューサー、おやつはいくらまでなのかな?」
そんなことを言っているワクワクな表情の未央、明らかにツッコミ待ちである。
仕方がないのでプロデューサーはツッコミを入れることにしたのであった。