フタツボシ★☆   作:赤川3546

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・ゲーム寄りということでデレPは台詞なし、765Pは台詞ありとなります。

・デレ側のプロダクション名は明記していません。


劇場にて

 765プロライブ劇場の公演当日、上条春菜にチョイスしてもらった変装用メガネを装備した未央とプロデューサーは自分たちの席へと向かっていた。

 

 少し余裕を持って会場入りしたものの、劇場内には待ちきれない様子のファンたちが既に準備等を進めている。

 二人が席に着き、一息ついて落ち着いてきたころには劇場内の空席は既になくなり始めていた。

 

「いやー、なんていうか開演前の客席の空気感て独特だよね。緊張するんだけど、テンションも上がってさ~」

 

 観客としてライブが始まる前の高揚を未央は感じているようだ。

 アイドルになる前にもライブを見に行ったりしてはいたようだが、以前と今ではまた違う感覚なのだろうか。

 

 落ち着かない未央を見て、プロデューサーはペンライトを差し出した。

 

「ありがと。でも、自分のはなくていいの……って自分の分も持ってきてたんだ」

 

 ペンライトを取り出しプロデューサーは頷く、用意周到である。

 

「本当は楽しみにしてたんじゃないの~?」

 

 未央の問いにプロデューサーは素直に頷いた。

 

「しっかり楽しんで、後でその楽しかった理由を分析する? なるほど~、でも余韻に浸って忘れちゃいそうだよね」

 

 プロデューサーの表情は難しそうなものへと変化していく、未央の言葉に納得してしまったようだ。

 

「でもまあ、楽しむことって大切だよねっ!」

 

 だから今日は一緒に楽しもう、その気持ちを未央は伝えたいようだ。

 プロデューサーも笑顔で頷いてペンライトを構えた、準備万端である。

 そんなやりとりをしていると、劇場内に開演を知らせるブザー音が鳴り響き照明が落ちていく。

 

 幕が上がり、本日出演するアイドル6名がステージに現れると大きな歓声が上がる。当然、6名の内の1人は志保だ。

 そして、歓声の中最初の曲へと入っていく、ペンライトの色は様々ではあるが寒色系が半数を占めるだろうか。

 

 ステージに注目しつつプロデューサーがそっと未央の様子を窺うと、目を輝かせて楽しんでいる姿が目に入る。

 違う事務所だからこそ、純粋に楽しむことに集中できているのだろう。

 そんな未央の様子に安心したプロデューサーはまたステージへと視線を戻す。

 

 1曲目が終わると、志保がステージの中央へと歩いていき次の曲が始まった。

 どうやら次はソロ曲となっているらしい。志保の凛とした表情、透き通る歌声に観客は魅せられているようだ。

 未央も先ほどの楽しそうな表情から真剣な表情へと変わり、志保のパフォーマンスに見入っている様子だ。

 本日の公演のテーマはカッコよくてクール、そういったものなのかもしれない。

 

 プロデューサーは未央の様子を確認すると少し悔しそうな表情を見せる。恐らくは、志保たちのステージを見て触発されそうなアイドルたちが思い浮かんでいるのだろう。

 もしかすると、次は誰を連れてこようかなどと既に考えているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 公演が終わり着替えも終えた志保は控え室でぼんやりと余韻に浸っていた。

 全体曲の後ソロ曲で先陣を切る役割だったため、挑む気持ちや緊張もより強いものだったのだろう。

 

「志保、ここにいたのか。お疲れ様、いいステージだったぞ」

 

 1人だけだった控え室にやってきたのはプロデューサーだった、偶然通りかかったという様子でもなさそうなので志保を探していたのだろうか。

 

「プロデューサーさん……、全く同じことを公演が終わった直後にも言ってませんでしたか?」

「そういえばそうだな、でもそれだけ良かったってことだよ。気持ちが入ってるのが伝わってきた」

 

 顔をしかめてプロデューサーを眺めていた志保だが、一息ついてから少しだけ表情を崩した。

 

「細かい修正点や課題点はありましたけど、私としては良いパフォーマンスが届けられたんじゃないかとも感じていたので、そう言ってもらえるのは……嬉しいですね」

 

 志保の言葉を聞き、プロデューサーも微笑んだ。達成感を得つつも次に繋がるものも得ていたからだろう。

 そして、疲れ等の状態を見て大丈夫そうだと感じたからかプロデューサーは話を切り出した。

 

「ところで志保、今ちょっと時間あるか?」

「ありますけど……なんですか?」

「今度のフェスで一緒に出る本田さんなんだけど、応接室で待ってくれてるから顔合わせをしておきたいなって」

「……もう少し早めに伝えてもらえませんか、そういうこと」

 

 目を閉じてそう語る志保の表情からはそこはかとなく不満と怒りが伝わってくる。

 プロなのだから報連相はしっかりやってほしい、そう言いたいのだろう。

 

「ごめん、でも目の前の公演に集中してもらえるようにって向こうのプロデューサーさんが言ってくれたことなんだ。俺としても、公演に集中できるならそっちがいいと思ったから黙ってた」

「……そうでしたか、なら納得はします。でも、知らされていてもパフォーマンスに影響は出さなかったと思います」

「分かった、次からは相談するよ」

「お願いします。それじゃあ早く応接室に行きましょう、あまり待たせるのはよくありませんから」

「そうだな、行こう」

 

 プロデューサーは部屋を出て先導をする、それについていく志保の表情はやや強張っているだろうか。

 初めて会う相手なのだから仕方がないだろう。

 

 廊下を歩いている最中、突然なにかを思い出したのかプロデューサーは手をポンと叩いた。

 

「そういえばちょっとだけ話をしたけど、本田さんは本当に茜に似てるタイプかもしれない。厳密に言えば全然違うんだけど、なんていうかどことなく似てるような気がするというか。少なくとも話しにくい相手ではないよ」

「……そうですか、わざわざありがとうございます」

 

 志保の返しはやや素っ気無いものの、表情からは硬さがとれていた。

 本人がいない場所でも意外な効果を発揮する、これも野々原茜パワーなのだろうか。

 

 応接室までやってくるとプロデューサーが先に部屋へ入っていく、志保は深呼吸をしてから後に続いた。

 

「お待たせしてすみません」

 

 プロデューサーがそう言うと、未央のプロデューサーはそんなことはないといった反応をしている。

 本来なら違う日にといった予定を組んでいたかもしれないが、今回の場合すぐにレッスンが始まってしまう都合上このタイミングくらいしかなかったのだろう。

 

「フェスではよろしくお願いします」

 

 そう言うと四人は頭を下げる。

 志保はいつもと変わらない落ち着いた表情だが、未央は志保が入ってきたときからずっとニコニコとしている。

 この時点で既に対照的であるということが分かる反応の違いだ。

 

「えっと、本田未央、15歳です。未央って呼んでねっ!」

 

 いつもの自己紹介といった様子、言い慣れている様子である。

 

「北沢志保、14歳です。よろしくお願いします、本田さん」

 

 未央は困ったように笑いながら、小声でやっぱダメか~と呟いている。

 真面目なタイプであるなら最初から名前呼びはしないであろうという予想はしていたようだ。

 

「よろしくね、しほりん!」

 

 気持ちを切り替えて笑顔で挨拶を返す未央、早速あだ名呼びである。

 しかし、そのあだ名を聞いた瞬間から志保もプロデューサーも驚いた表情で固まっている。

 

「あ、あれ……もしかして嫌だった? なら他にざわしーっていうのも考えてきたんだけど」

「いえ、違います。ただ……あだ名を考える人は発想が似ているのかと思っただけです」

 

 志保のプロデューサーも頷いている、どうやら二人の知っている人物の中に未央と同じあだ名センスを持つ者が存在するようだ。

 いったい誰なのだろうか。

 

「なんとっ、もしかして765プロにもしほりんってつける人がいるってこと!? なんだか親近感を覚えますな~」

 

 人差し指と親指を口に当てるよくある推理ポーズをしながら、未央はなにやら感慨に浸っている。

 あだ名をつけるアイドルにあまり会ったことがないのだろう。

 

「……そうですか」

「まあなにはともあれ、これからよろしくねしほりん!」

「ええと……よろしくお願いします」

 

 志保は律儀に再度頭を下げた、それを見たからか未央も慌てて頭を下げる。

 まだまだぎこちないやり取りを両プロデューサーは優しく見守っている。

 

「次に会うのはレッスンの日になりますね」

 

 未央のプロデューサーが頷く、今日の公演からそう日を空けないで始まるという話ではあるが。

 

「移動手段は大丈夫です、こちらで志保を送迎しますから。ただ、迎えに行くときは少し時間がかかる可能性があるので、どこか志保が待てる場所があれば……えっ、社内にカフェがある? それはすごい……いや、ありがたいことです、ええ」

 

 レッスンルームの他にカフェまであることに驚きが隠せない志保のプロデューサー。

 劇場を持っていることもすごいはずなのだが、隣の芝生は青く見えるということなのだろう。

 

「もし寂しかったら未央ちゃんが一緒にいてしんぜよう!」

「いえ、大丈夫です。遅くなるようなら交通機関を使うだけですから」

「私も電車通いだし、もしそうなったら途中まで一緒に帰ろっか」

「……そのときは、お願いします」

 

 さすがに土地勘のない場所なので未央の親切を志保は素直に受け取った。

 そんな反応を見て、志保のプロデューサーは嬉しそうに微笑んでいる。

 

「……そうですね、たしかにもう暗くなってきてる。今日はこれでお開きにして、またレッスンの日にお会いしましょう」

 

 未央のプロデューサーが今日はこれまでと提案したようだ、たしかに未央も一緒にいる以上あまり遅くなるのはよろしくない。

 部屋を出ると両プロデューサーは打ち合わせ交じりの雑談を始めた、こういった交流はそうないのでいい機会でもあるのだろう。

 

「劇場すごく良かった……ですか? ありがとうございます、社長にも伝えておきますね。きっと喜ぶと思います」

 

 両プロデューサーの後ろを歩いている志保は、やり取りをしている二人をぼんやりと眺めている。

 珍しい光景なので当然の反応ではあるかもしれない。

 

「なんかさ、違う事務所と合同でってすごい珍しいからワクワクしてくるよね!」

 

 いつの間にか志保の隣に移動してきていた未央はそんなことを話しかけた。

 事実、彼女は気持ちを抑えられていないのか終始楽しそうな表情をしている。

 

「ワクワク……そうですね、たしかに高揚する気持ちはあります」

「だよねっ! それに、この企画が成功すれば次に繋がる可能性もあるんだし、絶対に成功させたいな!」

 

 未央の言葉に志保は驚きを隠せなかった。

 単純に目の前のことでいっぱいになっていて、次への可能性まで考えが及んでいなかったのだろう。

 

「次……ですか、たしかにそうなるようにしたい……ですね」

「えへへ、一緒にがんばろうね、しほりんっ!」

「……はい」

 

 屈託のない笑顔を向けられ何かを感じたのか、志保は少なく小さい返事をするだけだった。

 予想していた人物像から開きがあったのだろうか。

 といっても、マイナスの印象を持っているわけではない。志保の表情はそれを物語っていた。

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