フタツボシ★☆   作:赤川3546

7 / 10
・ゲーム寄りということでデレPは台詞なし、765Pは台詞ありとなります。

・デレ側のプロダクション名は明記していません。


北沢志保と矢吹可奈

「今日は道が空いてて良かったな」

「そうですね」

 

 事務所へと戻ってきた志保とプロデューサーは二人して時間を確認している、どうやらいつもより早く戻ってこれたらしい。

 

「すぐに迎えに行くのか?」

「……いえ、少し休んでからにしておきます」

「……そうか、なら控え室辺りで休憩するといい。この時間だから落ち着いて休めるはずだ」

 

 プロデューサーは志保の様子が気になっているようだが、詳しく話を聞くことはしないようだ。

 悩んでいるのかどうか見極めている段階なのか、それとも他に適任者がいるのだろうか。

 

「分かりました、ありがとうございます」

「ああ、慣れない場所でのレッスンが続いて疲れてるだろうから少しリラックスしてくれ。俺は鍵を戻したら事務室に戻ってるから何かあったら連絡を頼むぞ」

「はい、では失礼します」

 

 志保は一礼すると控え室へと向かっていく、そんな彼女の後ろ姿をプロデューサーは見送っていた。

 

 廊下を歩いている間も志保の表情は変わらず、やや神妙な面持ちのままである。

 実は未央と話をしてみたいという気持ちがあるのだろうか。

 もしそうであるのなら、事務所が違うということを意識しすぎているのが問題となる。

 

 志保は控え室までやってくると椅子に座り、一息吐いた。

 

「はあ……」

 

 思いつめているのか、吐息もどこか重い。

 スマートフォンを取り出し時間の確認をすると、彼女は目を閉じた。

 まだ余裕があるからと今日のレッスン内容やダンスの振り付けを思い返しているのだろうか。

 

 誰もいない控え室は静かで考え事をするには最適とも言える、しかしそんな静寂を破る元気な歌声が廊下から響いてきた。

 

「ちょとつも~しん♪ も~も~しん♪ 明日からも~全力前進~♪」

 

 どういった歌なのかは不明であるが、ゴキゲンな歌であることだけははっきりと分かる。

 その歌声は控え室の前までやってくるとピタッと止まった。

 

「失礼しまーす。あっ、志保ちゃん! おかえりなさいっ!」

「可奈……ただいま、こんな時間にどうかしたの?」

「プロデューサーさんに教えてもらったんだ、志保ちゃんが帰ってきてるよって」

 

 つまり、仲の良い矢吹可奈と話をすることで気分転換になればというプロデューサーの気遣いなのだろう。

 ただ、可奈自身が教えてもらったと言っているので意図が簡単にバレてしまう。

 

「……用事があるから長居はしないつもりだけど」

「ええー!? じゃあ少しだけお話しようよ、せっかくだし!」

 

 そう言って可奈は志保の近くへと駆け寄る、少し犬を彷彿とさせるような愛嬌のある挙動だ。

 

「まあ、少しなら」

「やったー! 最近志保ちゃんとは中々会えなかったから話したかったんだ!」

 

 とても嬉しそうな可奈の表情につられて、志保の表情も少しずつ和らいできている。やや肩肘が張っていたのでいいことだ。

 

「そういえば、次の劇場の公演に出るんだっけ」

「うん、それでね……先生にたくさん怒られちゃって」

 

 困ったような笑顔だが同時に安心してもいるように思える表情を浮かべる志保、予想通りの話だったのだろう。

 慣れない場所でのレッスンが続いているだけに、可奈のいつも通りの言動には安堵するのかもしれない。

 

「でも、可奈は歌が安定すれば後は順調に進みそうだと思ってるけど」

「プロデューサーさんにもそう言われたから、今回は最初にボーカルレッスンを多めにやってるんだけどいつも以上に怒られてる気がするよ~!」

「一番課題が多いと思う部分を重点的にやってるんだから、そう感じるのは仕方ないんじゃない?」

「ううっ、そうだよね」

「千早さんみたいに歌えるようになりたいなら、弱音を吐いてる場合じゃないと思うわ」

 

 可奈の表情自体からは読み取れないが、へこんでいると感じ取ったのか志保は激励……のような言葉をかけた。

 突き放しているようにも聞こえるが、気持ちを切り替えろと言っているようにも聞こえる。

 

「うん、そうだね。千早さんみたいになれるようにがんばる!」

 

 可奈はもう切り替えられたのか明るい笑顔に変わっている、明確な目標があるからだろうか。

 志保の表情も口角が上がっているように見える程度には砕けてきている。

 

「……全然気づけなかったけど、可奈も新しいことに挑戦してたのね」

「挑戦なのかな、あまりそういう感じはしないんだけど」

「より良くするための挑戦でしょう? プロとして必要な試行錯誤だと思う」

 

 パフォーマンスの完成度を高めるために様々な方法を試す、可奈のその努力の様を志保は評価したようだ。

 歌やアイドルに対しての可奈の想いを知っていることもあるだろう。

 

「やっぱり志保ちゃんは色々なことを考えててすごいな~、私なんて毎日のレッスンと勉強だけでいっぱいだよ~」

「私だって課題や修正が多くていっぱいで、可奈とそこまで変わらないわ」

 

 穏やかな表情で志保は語る、こういったことを話せるのは相手が可奈だからだろうか。

 

「そんなことないよ、私はどこがダメでどうしたらいいのかも分からなかったりするもん。それに、志保ちゃんはみんなのことも見えてて出来てないところも教えてくれるし」

 

 可奈の言葉は偽りのないまっすぐなものだ、だからこそ相手にもしっかりと伝わる。

 そういった想いが伝わったからか、志保は少し優しげに笑顔を浮かべた。

 

「可奈は分かりやすいから」

「そ、そうなんだ……」

 

 可奈は少し恥ずかしそうに笑った。

 分かりやすいということは、最初にボーカルレッスンを中心的に行っていることを考えると盛大に音を外して歌うのだろうか。

 それとも、細かなミスに気づけるほど周りを見ることができているのだろうか。

 

「そういえば、志保ちゃんはどう?」

「どうって、いつもと変わらないけど」

「そうなの? 違う事務所の人と一緒なのに?」

「もちろん、自分のことに集中するだけ。相手が違う事務所だからこそ、変に干渉したりしない方がいいわ」

 

 志保は冷静に言い切ったが、可奈はやや不満そうな表情である。

 なんだかんだ言って世話を焼いてくれたり見てくれているのが志保という認識なのだろう。

 

「もったいないよ、志保ちゃん! せっかくなんだから、もっとお話とかした方がいいと思う!」

「でも、フェスが終われば仕事を取り合う関係に戻るわけで……」

「今は仲間でしょ? だったら、色々話したりして二人にしかできないパフォーマンスを見せるのがプロだと思う!」

 

 完全に不意を突かれたのか志保は目を見開いて驚いている。

 プロとして、志保がよく使うこの表現で正論をぶつけられたからこそこの表情なのだ。

 

「……一本取られたわ、可奈」

「分かってくれたんだね、えへへっ。やった、可奈~♪ 嬉しいかな~♪」

「相変わらず不思議な歌」

 

 そんな感想を述べている志保だが、表情には辛辣なものはなくむしろ笑っているように見える。

 可奈の言葉で力みが取れたのだろう。

 

「そうだ、志保ちゃんも一緒に歌おうよ~」

「やめておくわ、可奈が歌ってこそ……だから」

 

 志保は優しく笑いかけた、色々と内に溜め込んでいた悩みが解消したような晴れやかな表情だ。

 そして、時間を確認しながら立ち上がった。

 

「はれ、もう行っちゃうの!?」

「待たせたくないから」

「じゃあ途中まで一緒に行こっ!」

 

 可奈も勢い良く立ち上がった、どこか体をぶつけそうで心配になる動きである。

 

「別に構わないけど、準備に時間かかるようだったら置いて行くから」

「ええ~!? じゃあ先に行って準備してくるね!」

 

 そう言って可奈は走り去ってしまった、志保が何かしら言うよりも早く。

 

「まったく……そそっかしいんだから」

 

 ため息を吐きながらも志保は笑っている。

 そして、もう一度時間を確認すると少しだけゆっくりとした歩みで控え室を後にした。

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