第九十七訓 長篇明けの日常回は連休明けの仕事並みにめんどくさい
「目覚めよ……万事屋に生きる者達よ!」
銀時、キリト、新八、アスナ、神楽、ユイの脳内に話しかける謎の男の声。
現在六人は真っ暗な謎の空間で寝かされており、すやすやと呑気に寝言を吐いている。
「ウヘヘ~パパったら甘えすぎですよ~~」
「銀ちゃんー一発覚悟決めとけアル~」
「今日の夕食は手作りハンバーガーよ……」
「お通ちゃんが新曲かぁ」
「預けた武器取りに行かないと……」
「長篇明けくらい休ませろや。ボケ……」
幸せそうな表情を浮かべる者。夢の中でも愚痴を呟く者。ただただぐうたらに一息つく者。その反応は千差万別である。
ただ重要なのは万事屋一行の寝言ではない。彼らをこの空間に呼び寄せた男は、いつまでも夢を見続けているキリト達に業を煮やし始めている。
「目覚めろ……二つの世界の運命を背負う勇者達よ!」
「うるせぇ。文言変えたって、起きないアル……」
「だからとっとと休ませろ。こちとら宇宙船に揺られて、昨日から調子悪いんだよ……」
「おい、お前ら。完全に起きている反応だよな、それ。もう一回寝ようとしているよな?」
相も変わらずに聞こえの良い言葉で囁くも、神楽や銀時からは否定的な寝言が返されていた。具体的すぎる一言には、男も内心すでに起きていると予見する。
「パパ、ママ、いっぱいちゅき~」
「私も同じよ、ユイちゃん……」
「俺もだよ……」
一方で聞こえてきたのは、キリトら三人の幸せそうな寝言。家族のカタチを披露しているが、傍から見ればただの親バカ子バカ。男は感情をむき出しにしながら、キリトらの惚気に嫉妬していた。
「んで新人共はのろけやがって……。地べたで寝ているのに、ラブ〇感覚とは良い度胸じゃねぇか」
「いやいや、旅館の方ですよ」
「寝ながら訂正するな! どっちでもええわ!!」
声が覆いかぶされるように、新八の寝言が男の声と合わさってしまう。彼は増々不機嫌になり、万事屋に対しての怒りが徐々に高まっていった。
「あぁ……今日はもう寝るだけでいいか」
「そうだな。たまにこういう日があってもいっか」
「良くないわぁぁぁ!! 良いから起きろぉぉ!! この怠け者!!」
またしても深い眠りに就こうとした万事屋達に降りかかる大きな怒号。場全体に響き渡ると、眠気に浸かっていたキリトらも流石に目を覚ましている。
「おいおい、なんだよ。急に怒鳴るヤツは」
「って、銀さん? なんかこの場所変じゃない?」
「アレ? 万事屋じゃないですね」
目が覚めたと同時につい辺りを見渡す一行だが、彼らはすぐに現在いる謎の空間に気付き始めていた。見渡す限りの真っ黒な空間が広がり、異質かつ違和感のある印象を皆に与えている。
キリト、アスナ、ユイの三人は心当たりのない光景につい戸惑っていたが、一方の銀時、新八、神楽の三人はすぐに事態を把握していた。
「このパターン、まさかアレアルか」
「久しぶりにあの人と再会するのか……」
「あの人? 新八達は誰か心当たりがあるのか?」
「あたぼーよ。めっちゃくちゃめんどくせぇ変人だぞ」
キリトが興味深そうに問い直すと、神楽らは揃って苦い表情を浮かべていく。特に銀時は一段とうんざりしており、顔に手を当てるほど男との再会に悩まされている。
さらなる補足を仲間達全体へ教えようとした時だ。声の主である男が、何の前触れもなく一行の元に近づいてきている。
「そんなことを言うな! 前にも言っただろう。俺はお前のことをずっとそばで見守っていたと!」
一段と張り切った振る舞いで話しかけてきた男の正体。特徴的なサングラスをかけており、その下には尖った顎鬚を蓄えている。黒服を着こなし、首元には赤いマントをマフラー状にして巻いていた。
彼とは初対面になるであろうキリト、アスナ、ユイの三人は、怪しげな風貌の男に一段と困惑している。
「だ、誰……!?」
「おひげのおじさん?」
三人が驚嘆とした表情を浮かべている中、銀時らはすぐに男の正体を察していた。
「やっぱりお前か、洞爺湖仙人」
「洞爺湖? って、銀さんの持っている木刀と同じだよな?」
「まぁ、半分合っていて半分違うよ。胡散臭さの塊だからな」
銀時は苦い表情のまま頭をかき、この状況にもどかしさを感じている。
男の名は洞爺湖仙人。彼の主張によれば、銀時が持つ木刀にずっと憑いている精霊的な何かであるが……ぽっと出に出てきたのでいまいち信用しづらい。そもそも会えるのが夢の中や精神的な空間のせいか、銀時ら三人は彼のことをまったくもって意識したことがない。要するにどうでもいいと思っている。
銀時の言っていた胡散臭さに共感したのか、アスナらも薄々と洞爺湖仙人にマイナスなイメージを持ち始めていた。
「そう言われると……」
「確かに信用できなそうね」
「だろ。そういうことだから、さっさと俺達を元の世界へ戻せよ」
「そうアルよ。どうせ今回も夢オチなのは目に見えているネ! さぁ、早くしろアル」
面倒ごとが起きる前に銀時や神楽は、洞爺湖仙人へ元の世界へ戻すよう急かす。
ギャーギャーと万事屋達に文句をぶつけられようとも、洞爺湖仙人は臆することなく話を続けていく。
「まぁ、慌てるな。今回この私が来たのは他でもないことだ」
「えっ? そうなのですか?」
「って、ユイちゃん。何で食いついてんの?」
洞爺湖仙人の奥の手を隠すような振る舞いに、ユイはつい反射的に反応。子供っぽい純粋無垢さに手ごたえを感じたのか、洞爺湖仙人は自信を持って話を続けていく。
「俺はずっと見ていたぞ。お前たちが困難に直面し、見事乗り切る瞬間を。別の世界から現れた脅威や兵器にも、果敢に立ち向かったな。感動した!」
「って、ネタが古いんだよ」
「今の子らに分かるわけねぇーだろうガ」
感極まって褒めたたえたのは良いが、銀時らの冷たい態度は未だに続く。狙ったかのような流行語を発しても、万事屋からツッコミを入れられる始末である。
「知ってる、キリト君?」
「なんか聞いたことあるような気も……」
キリトやアスナでさえも元ネタは分からない始末だ。ネタが滑ったかのような反応を受けても、洞爺湖仙人は変わらずに話を続ける。(内心では恥ずかしさを感じていたが)
「まぁ、いい! とにかく俺が言いたいことはただ一つだ。お前たちはもっと強くなれる! この先に待ち受けるさらなる強敵にも、敢然として立ち向かわなければならない。新たな万事屋に俺から言えることは、必殺技の――」
「却下だ」
「へ?」
待ちに待った本題を意気込んで遂に発表しようとした時。割り込むように銀時が拒否している。突然の返答に洞爺湖仙人は開いた口が塞がらず、つい衝撃を受け止められずにいた。一方で拒絶した側の銀時に続き、新八や神楽も否定的な意見を示していく。
「別に僕ら、今はそんなに困っていないので」
「そうアルよ。お前くらいアルよ。必殺技でいちいち口出してくるヤツ」
「いやいやいや! ちょっと待てよ、お前ら! 折角新人も入ったってのに、その態度はねぇんじゃねぇか? きっとお前らの目的にだって役に立つぞ! サイコギルドの足取りだって、まだ掴めていないだろ? 敵の戦力だって分からない中、必殺技を覚えることは悪いことではないと思うぞ!」
微妙な雰囲気を察してか、洞爺湖仙人は一段と焦った反応で万事屋達の心変わりを狙っている。サイコギルドと言った万事屋達が今抱えている課題も織り交ぜながら、意地でも必殺技の習得へと舵を切らせようとした。それでも銀時達の意志は変わらないのだが。
「んなこと言われたって、サイコギルドとか投稿者の匙加減だろうが」
「そうだーよ。お前の技なんか借りなくても、こっちはライダー達が付いているからナ」
「それに情報収集にも手は打っているので、仙人さんが心配しなくても大丈夫ですよ」
「お前等……」
適当な理由を付けて拒否の姿勢を続ける三人。こちらは意地でも現実世界に戻りたい様子である。
温度差がくっきりと分かれる中、平行線を辿ったまま交わされる仙人との話し合い。痺れを切らした銀時は、ここで白黒はっきり付けようと仕掛けていく。
「分かった、分かった。じゃ判断はこいつらに委ねよーや。おい、キリト、アスナ、ユイ。こいつの必殺技教わりたいか?」
さっきから話の輪に入ってこれないキリトら三人に、必殺技の習得をするか否か委ねることにした。彼らの素直な反応で、洞爺湖仙人の今後を決める算段である。
そんなキリト達の答えはすぐに返されていた。
「俺は別にどっちでも良いんだが」
「銀さん達の話を聞く感じ、あんまり頼りにはならなそうだけど……」
キリト、アスナ両者共に微妙な反応を示す中、ユイだけは皆と真逆の返答を出している。
「でも、少しだけ私は気になります! 教えてもらえないでしょうか?」
「おっ!? えっ? 本当に!?」
たった一人だけの賛成を耳にすると、洞爺湖仙人の鬱々とした気持ちは一転。水を得た魚のようにテンションが急に上がっていく。
「って、ユイ?」
「マジアルか!?」
「おいおい、よりによってアイツが興味持ったのかよ……」
ユイの返答には万事屋一行も予想外だった様子で、驚嘆とした反応や何とも言えない表情を浮かべていた。
一方で唯一受け入れてくれたユイに、洞爺湖仙人は優しく話しかけている。
「ほぉ……話の分かるお嬢ちゃんだ。そんなに必殺技を習得したいか?」
「はい! 習得と言うよりは、本当にパパやママ達の今後に役立つか判断したいのです! 百聞は一見に如かずですから!」
「そうか……! 君はきっと大成するぞ。俺の必殺技に期待しろ!」
「その自信はどっから来るんだよ……」
より期待値を上げる洞爺湖仙人だが、その自信満々な姿は新八からツッコミを入れられてしまう。果たしてユイの期待に見合う必殺技は見られるのだろうか。
と万事屋全員が期待や不安を織り交ぜながらも、とうとう洞爺湖仙人は本題へと移り変わっている。
「フフフ……ならばその期待に沿ってやろう。今回は君達にぴったり合いそうな俺の仲間と共に教わるぞ」
「仲間ですか?」
「二人掛かりで教わるの……?」
話を進めていくと、どうやら洞爺湖仙人は自身の仲間もこの場に呼んでいるという。突然の宣言にはアスナのみならず、万事屋達も嫌な予感を感じていたが。
「そうだ! それでは紹介しよう。その黒髪! ……いや、キリト君が持っているエクスキャリバーに宿る意志よ!」
そんな反応はさておき、意気揚々と仲間を呼ぶ洞爺湖仙人。話の途中ではキリトと彼が持つ聖剣エクスキャリバーを名指しており、何やら関係性を示唆していたが……?
とキリトらの反応など伺う間もなく、近くにあった扉から洞爺湖仙人の呼んだ仲間――エクスキャリバー師匠が登場していた。
「来たな。俺こそがエクスキャリバー師匠だ!」
「師匠……なのか?」
「キリト君の持っている聖剣の精霊なの?」
「パパの剣にも宿っていたのでしょうか……?」
彼の姿を見るや否や、妙な親近感を覚えるキリトら三人。エクスキャリバーと名乗っている以上は、信じるほかないのかもしれない。
そんなエクスキャリバー師匠の風貌は、年老いた男性である。髪は薄めだが、顔つきは歴戦の強者。キリト、アスナ、ユイはエクスキャリバーが擬人化したものだと思い込み始めている。
一方で銀時、新八、神楽の三人は、初対面の相手に半信半疑……ではなく、エクスキャリバー師匠の雰囲気に既視感を覚えていた。
「おい、ちょっと待てよ。お前よぉ、それ父ちゃんじゃねぇ?」
「あぁ、そういえば」
頭の中で引っかかっていた違和感の正体。それは洞爺湖仙人の父親が原因である。服装は若干変わっているが、薄い毛量が銀時達にとって決め手となったようだ。要するに友人ではなく、ただの親族である。
そう指摘されると、洞爺湖仙人は図星を突かれたかのように大きく動揺していた。
「な、な、何を言っているのかさっぱりだな!! エクスキャリバー師匠と俺の父ちゃんが似ているだと!? 絶対気のせいだろ……」
「おい、誤魔化せてねぇぞ」
「目線そらしてる時点で察しですね」
分かりやすく慌てふためき、新八や神楽からもツッコミを入れられている。言い訳する様子から察するに、誤魔化し通せると思っていたのかもしれない。
「えっ? 仙人さんのパパなんですか?」
「ってことは、俺の聖剣とは無関係なのか?」
銀時達の指摘を皮切りに、薄々と真実に気付き始めるキリト達。親近感から一転。出会い早々に感じていた胡散臭さがまたしても蘇っている。
盛り上がった場が白けたことに危機感を覚えた洞爺湖仙人は、何食わぬ顔で次の打つ手に事を進めていた。
「ごほん。では彼に続いて、二人目の仲間を紹介しようか」
「おい、無視しているんじゃねぇよ」
「このまま進めるのか!?」
無論神楽やキリトからは、ツッコミや指摘が飛び交っていたが。勢いのままに進める中、扉を開けて新たな仲間が合流してきた。
「お初にお目にかかるわ! 私がレイグレイス先生よ!」
「お前の母ちゃんじゃねぇか!! もうちょっと工夫凝らせよ! 父親の時と比べて、がくんと落ちているぞ!」
やって来たのはレイグレイス先生――という名の洞爺湖仙人の母親である。父親の時と比べて衣装も特にこだわっておらず、普段着のエプロンに申し訳程度のウンディーネのマークが付けられていた。
要するに手抜き衣装である。銀時のツッコミも収まる様子が無い。
家族揃っての登場。だがそこに温かい光景はなく、嘘を通せなかったが故の口喧嘩が途端に勃発している。
「おい、父ちゃんに母ちゃんいい加減にしろ! 俺の用意した衣装はどうした!? おかげでバレちまったじゃねぇかよ!」
「だって、仕方がないさーね! 私だって家事が溜まってんだから。着替える時間が無かったんだよ」
「そうだぞ。大体お前は急に決め過ぎだ。父さんだってな、本当は今日ゴルフをする予定があったんだ。わざわざ断ってお前の用事を優先したんだから、こっちの事情も汲んでくれよ」
「うるせぇよ! そもそも父ちゃん、今日R18映画見に行くって言っていただろ!」
「おい、お前! それどっから聞いた!」
「電話の声が駄々洩れなんだよ!」
「アンタ! それ本当なの!? だとしたら、今日の夕食は抜きよ!」
「はぁ!? 今日ジンギスカンだろ!? 俺の分まで余計に食うつもりか!!」
互いに文句をぶつけあう中で、いつの間にか暴露にまで発展。思わぬ流れ弾がさらなる怒りを運び、収集不可能な現状に陥っていた。
仙人達の醜い争いには、さっきから蚊帳の外の銀時らにも飽きられている。
「け、喧嘩が始まっちゃいました……?」
「気にしないでください。あの親子にはよくあることなので」
心配してつい止めようとするユイに対して、新八はため息をついたまま彼女を止めていた。不可思議そうな目で喧嘩を見つめるユイである
「結局あの二人は、私達の武器と無関係ってことよね?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それよりどうする? 例年稀に見るグダグダぶりだぞ」
一応気がかりであった武器との関連性を確かめるアスナに対して、銀時は適当な態度で一蹴。彼は喧嘩が収まらず、オチが上手くまとまらないことを危惧している。
「喧嘩を止めてあげるべきか……」
「別に放っておけば収まるアルよ。それまではアイツの部屋で適当にくつろぐネ」
「部屋もあるのか、この空間……」
心配して仲裁に入ろうとしたキリトだったが、一方の神楽はそこまで重く考え込んでいない。喧嘩が長引くと見込み、洞爺湖仙人の自室に邪魔をする様子だ。あまりのお気楽さにキリトは、思わず苦い表情を呟いていたが。
と万事屋一行が親子の説得を諦めて、神楽の言う自室へ向かおうとした時である。
「えぇい! この分からずや! これでも食らえぇぇ!!」
怒りを高ぶらせた洞爺湖仙人が、突然勢いを付けて体を大回転させていく。風力をまといながら、彼の両親に突撃しており……
「「アギャァァ!!」」
力づくでダメージを与えていた。思わぬ不意打ちを受けて、両親達は地面に倒れこむ。唐突とも言える展開には、近くで見ていた万事屋達も衝撃を受けていた。
「えっ? 何が起きたの!?」
「おいおい、アンタ何したんだ!?」
まったくもって状況が見せずに、取り乱していくアスナや新八ら。しばらくツッコミを入れ続けていると、倒れこんでいた仙人の両親がスッと起き上がっていく。
「い、今の技は……」
「へ? いや、お前らの反応含めての茶番か!?」
二人のわざとらしい反応には、銀時も思わずツッコミを入れていたが。とそれはさておき、問いを投げかけられた洞爺湖仙人は意気揚々と事を言い放つ。
「そうだ。これぞ万事屋達に教えるはずだった新必殺技……回ればなんとかなるだ!」
「おっ、おぉぉ!」
「流石は我が息子だわ!」
自信満々な表情で解き放った必殺技。安直なネーミングセンスに万事屋達はまたしても反応に困っているが、両親達は微妙な雰囲気を打ち消すかのよう懸命に盛り上げていく。
だが肝心の本人達には、あまり真剣には伝わっていない様子。
「えっ? もう必殺技発表されたのか?」
「これだと必殺技とは言えない気もします……」
ダラダラと文句を発する銀時らとは異なり、ユイだけは何とも言えない表情を浮かべていた。洞爺湖仙人の必殺技に期待していた分、その期待を大いに下回ったのが要因であろう。建前ばかりを発するせいか、洞爺湖仙人の勘違いは増々広がり始めていた。
「フハハ! どうだった? ズバリ最高の必殺技に違いないだろう?」
「どこがですか! 実戦で役立つかもわかりませんよ」
「そうだな。俺も正直厳しいと思う――」
立ち直った態度には新八がツッコミを加えており、キリトも反応に困ったまま苦言を呈している。万事屋達全員が感じていたことは、ただ回っただけでは役に立たないこと。地団太を踏むが如く、一行は次々と文句をぶつけていく。
とグダグダした雰囲気のまま、元の世界へとようやく戻れる――かに思われた時だ。
「ん? おい、見ろ! アイツらは!?」
仙人の父親がある気配を察して、大声で指を指している。彼が向けた方角に皆が目を向けると、
「おやおや、ここで出会うとは。何とも都合が良いじゃないか。この俺が、今度こそ貴様に引導を渡してやろう!」
「「「フフフ!! キキキ!!」」」
何の前触れもなくある集団が万事屋達に向かって敵意をむき出しにしていた。
計四名ほど群がるその集団の名は悪の組織。銀魂本編でもかつて銀時に立ちはだかった組織であり、その実態は謎に包まれている。(そこまで重要な役柄ではないのだが)
そんな集団を仕切るは軍服風の男性幹部と、全身赤タイツで奇声を発する戦闘員ポジションの男達。何一つ初登場から雰囲気は変化していない。
と意気揚々と登場した悪の組織だったが、万事屋や仙人からすればあまりにも唐突な展開にどう反応すれば良いかさっぱり分かっていない。
「えっと……今度は誰ですか?」
「もしかして、あの夢の中で戦ったショッカーの生き残り?」
「でも微妙に服装が違うような……」
キリトらはてっきりショッカーの一味と勘違いしており、その関係性を密かに伺っていた。 一方で銀時は苛立ちを露わにしながら、洞爺湖仙人に悪の組織が現れたことへ文句をぶつけている。
「おい、仙人よぉ……なんであんなめんどくさい奴ら登場させた!? どういう魂胆だ、チキショー!?」
「お、俺に聞くんじゃない……! これに関してはまったくの予想外だ! 投稿者の独断に決まってる!」
つい胸ぐらを掴みながら怒号を飛ばすも、当の本人はあまり心当たりがない。仕舞いには投稿者に責任を擦り付ける始末である。異様に焦る姿から、本当に心当たりがない様子だ。
「なんでまたあんなマイナーキャラを」
「覚えている人がどれくらいいるのか……」
言い争いを続ける銀時らとはさておき、神楽や新八はただただ呆れている。厄介者が増えたことで、本当にオチが片付くのか心から心配していた。
悪の組織の登場によって、さらに渾沌と化す現場。妙な雰囲気を作り出した張本人らは誰からも相手にされず、とうとう強行突入へと打って出ている。
「ええい! 何をビビっておるのだ! ならばこちらから行くぞ!」
「キィィィ!」
幹部らしき男がそう指揮を執ると、戦闘員の群れはキリトらに向かって走り出す。
一見すると危機的状況に見えなくないが、銀時らは皆余裕を持って対処していく。
「おい、適当にこいつら倒すか?」
「そうだな。これくらい一斬りで行ける!」
と万事屋全員が武器を構えようとした時である。
「油断するでないぞ、キリトよ」
「ん? って、俺に言っているのか!?」
「そうだ! ヤツらを倒して、今こそ己の真の力を解放するのだ!」
ふと洞爺湖仙人の父親が、キリトに向かって助言を促していく。その姿は師匠の名に恥じぬ、弟子を信じるような佇まいで接している。
同じくアスナも同じような場面に出くわしていた。
「私も同じだ。今こそ息子から教わった技を開眼する時よ!」
「わ、私に!?」
「そうよ。アナタの実力ならきっと大成するわ!」
彼女は仙人の母親に諭されている。レイグレイス先生と名乗る通り、自信を持ってアスナの背中を後押ししていた。
「君達ならば出来る。俺達の代わりに羽ばたけ! いざ!!」
続き洞爺湖仙人も心強い言葉を二人に向かって投げかけていた。悪の組織を起点として、己の実力を昇華させる心意気。どうやら二人にも、その気持ちは伝わった様子である。
「ここまで言われたら仕方ないか……行こう。アスナ!」
「もちろんよ、キリト君!!」
無論アスナらも先生や師匠が、自身の武器と無関係なのは知っていた。それでも先ほどの言葉に嘘偽りは無いと深々と信じ込んでいく。場の雰囲気からただ流されているのかもしれないが。
「おしっ! 今のうちに音楽を変えろ。あの二人のボルテージを極限にまで高めておけ!」
「「ハハ!」」
「ていうか、バレバレなんだよ……」
キリトらのやる気を見越した洞爺湖仙人らは、事前に用意していたプレイヤーに自前のカセットを装填。戦闘が盛り上がりそうなBGMをわざわざ選曲していた。銀時らからはツッコミを入れられることになったのだが。
とそれはさておき、戦いに向けてテンションが上がっているのもまた事実。キリト、アスナの両名はその勢いに乗っかりながら、武器を構えて走り出していく。
「「はぁぁぁ!!」」
「って、おい! そのまま突っ込むんですか!?」
「頑張ってください、パパ! それにママも!」
無策にも突き進む姿に、激しくツッコミを入れる新八。彼の反応に対してユイは、天真爛漫に二人のことを応援していく。
キリト、アスナの特攻に反応がまばらな万事屋達とは異なり、悪の組織らは俄然として引き下がらない。
「フハハハ! ここで会ったが100年目! 今度こそ、貴様らにリベンジを果たしてやるのだ!!」
「「「キキキ!!」」」
とこちらも真っ向から突撃。多勢に無勢が如く、キリトらを抑え込もうとしたが……
「はぁぁ!」
「フッ!」
「ヒヒヒ!!」
「ギャァァア!!」
あっという間に返り討ちを受けてしまった。キリトは回転を生かした斬撃を。アスナは中心に沿いながら突く一撃を。どちらとも一瞬で相手を戦意喪失させており、悪の組織らは地べたに這いつくばって痛みにただ悶絶している。
「参った……!」
そのまま何も起きることなく倒れこむ四人。結局はやられ役としてただ登場しただけであった。
そんな悪の組織等にはもう誰も気にせず、洞爺湖仙人らは技の習得に成功したキリトらに注目を寄せていた。
「えっ……? 成功したアルか?」
「うむ。見事であった。流石は俺達が教えた甲斐があるな」
「どさくさ紛れに成功しただけじゃないかよ」
銀時から皮肉を言われようとも、仙人らは一切気にしていない。今はもう教えていた技が成功したことに、高揚とした達成感を覚えていたからだ。
「おーい、どうだお前等。何か変わった様子はあるか?」
とにこやかな笑顔で、仙人はキリトらへと呼びかける。
そんな二人が皆の方に振り返ると、
「うぅ……」
「回りすぎた……」
〈バタッ!〉
「えっ?」
「ちょっと二人共!?」
目を回してこちらも崩れ落ちるかのように倒れこんでしまった。その原因はもちろん洞爺湖仙人一家が教えた技のせい。体全体が回ったことによって、立てないほど安定感が削がれてしまったらしい。
駆け寄ってくれた神楽達に心配されながらも、キリト、アスナは必死に調子を取り戻そうと接していく。
「こんなに気分が悪くなったの久しぶりかも……」
「吐き気までするし……ケホ!」
「落ち着くアル、二人共! こういう時は呼吸を整えるネ! ヒーヒーフーとリズムを刻みながら言うネ!」
「えっと、ヒーヒーフーってウッ!?」
「アレ? どうしたネ?」
「いや、神楽ちゃん!? それ出す時の方法だから! 使用方法も間違えているって!」
対応に困った神楽が思ったことをそのまま声に出す。二人の気を紛らわせるために誘導するが、こちらは妊婦等に有効的なおまじない。吐き気に悩まされているキリトらにとっては、逆効果であろう。
一方で銀時は、このきっかけを作ったとも言える洞爺湖仙人へすかさず文句をぶつけていく。
「……おい! 何が必殺技だ!! こうなることは予想出来ていただろうが! キリトとアスナを巻き込ませやがって!」
「おっ、落ち着け……父ちゃんに母ちゃん! 助けてくれ!」
分が悪くなった仙人は、すぐに両親へ助けを求める。きっと構ってくれると思い、どうにか穏便に済まそうとしたが……
「おっと! テレワークの時間だ!」
「夕飯の準備をしなくちゃ!」
「無視してんじゃねぇよ! 元はと言えば、お前らがきっかけでもあるからな! 分かってんのか!?」
二人は何食わぬ顔で無視していた。適当な理由を付けて逃げ出し、全ての責任を洞爺湖仙人へ押し付けていた。本人からすれば、溜まったもんじゃないのだが……。
怒りを露わにする仙人に対して、銀時はこのままとどめの一撃を食らわせていく。
「そういうお前もな!!」
「へ? グハァ!?」
不意打ちのように攻撃を仕掛けており、これを受けた洞爺湖仙人は余波によって吹き飛ばされてしまう。無論彼が受けたのは、以前銀時へと教えた相手の背後のスネを強く打撃させるももバーン。飼い犬に手を嚙まれるが如く、教え子からの報復を見事に受けてしまった。慈悲など一切ない。
こうして夢の中で起きた特殊な出来事がぷつりと消えていく。
「はっ!? ……って、なんだ夢か」
目が覚めた銀時が辺りを見渡すと、そこは何の変哲もない自身の家の中。洞爺湖仙人云々の話は、どうやら夢の中だったと改めて実感していた。
「なんだ夢かよ。安心したは良いが、この先のオチどうすんだ? また銀八先生でもぶっこんでお茶でも濁すか」
夢オチでホッとした銀時だったが、代わりにこのオチで読者的に満足できるか不安視している。割とどうでもいいことをしばらく考えているうちに、銀時の元には起きたばかりのユイが駆け寄ってきていた。
「た、大変です!!」
「あっ? ユイ、どうしたんだよ。そんなに慌てて」
「パパとママがフラフラして、外の階段から転げ落ちました!!」
「……はぁ?」
深刻そうな表情で伝えてきたのは、キリト、アスナの身に起こったこと。どうやら起き上がったと同時に二人は玄関まで向かい、フラフラした足取りのまま転倒してしまい、そのまま階段をゴロゴロと転がったらしい。
ここまで調子が悪いのも、恐らく夢の中で出会った洞爺湖仙人が原因に違いない。銀時はこの話を聞いた瞬間、頭が痛くなってついうずくまってしまった。そんな彼の苦労とは裏腹に、リビングにて立てかけられていた木刀には謎のヒビが生じている……。
こうして洞爺湖仙人が起こした騒動は、有耶無耶のまま幕を閉じたのだった。
まずはSAO新作映画公開日、おめでとうございます!!
いやぁ、まさかの9月公開。てっきり11月かと思っていました。
久々に一話完結を描きましたが、ちょっとだけ慣れなさを感じました。何回も重ねるうちに、調子を戻していきたいと思います!
今回は洞爺湖仙人とその一家、さらには悪の組織が初登場! マイナーすぎて、覚えている人がどれくらいいるか……。
こんな感じで、今後もゆるゆるな日常回を作っていきます!
それと三つ報告です。一つは長篇の小ネタ集が遅れること。これは単純に間に合わなかったからです。
二つ目はツイッターのアカウントを変更します! 色々とやり方を変えたくなったので……!
そして三つ目は今度の土日に開催される洞爺湖マンガアニメフェスタに参加致します! 剣魂の初期に描いた万事との出会い篇を収録。さらにこの本でしか見れないオリジナルのお話も掲載するので、もしイベントに参加される方がいましたらよろしくお願いします!
もっともっとさらなる挑戦をするので、今後もよろしくお願いいたします!
PS.今気づきましたが、洞爺湖のイベントがあるからと言って、洞爺湖仙人を出したつもりは無かったです。本当に今気づきました……。
次回予告
ユイ「ついに万事屋にパソコンがやってきます!」
キリト「これでアナログ生活ともおさらばだな」
アスナ「さぁ、これからはネットを使って依頼も受けていくわよ!」
銀時「その前によぉ、サイト作らないといけないんじゃねぇか?」
新八「それもそうですね。じゃ、僕らの知り合いのサイトを覗いてみましょうよ」
神楽「え~なんか嫌な予感しかしないアル」
キリト「次回! クレカだけは最低限レジに用意しておけ」
銀時「使いすぎるなよ!」