時は九月の下旬。依頼数がちまちまと増えてきた万事屋にとって、歴史的な瞬間が訪れている。それは……待ちに待ったパソコンの設置が完了したのだ。
「おぉ! これが噂に聞くノートパソコンアルか!」
「ウチにもやっと導入されたんですね。これでネット茶屋通いしなくても済みますね」
待ちに待ったパソコンが設置された光景に、つい感慨深い想いを呟く神楽や新八。今までにも感じた不便さを振り返りつつ、今後はネットを通じた情報収集が容易になったと喜んでいる。
そんな二人とは対照的に、銀時はパソコン自体を購入したことにあまり納得はていない。
「今更いうのもなんだが、本当に購入して良かったのかよ? だいぶ高く付いたんじゃねぇのか?」
そう気だるそうに呟くと、アスナがはきはきとした声で返していく。
「貯金もあったから、特に問題なく購入できたわよ。銀さんは少しくらいアナログ派な思考から脱却した方が良いんじゃないの?」
「それにインターネットが使えるようになったら、サイコギルドの情報だって来るかもしれないだろ?」
「便利になること間違いないですから! もっとポジティブに考えましょう、銀時さん!」
「はいはい、分かったから! お前たちの言いたいことは」
彼女に続いて、キリト、ユイもテンションを上げながら、銀時をまくしたてるように説得している。彼ら三人もパソコン及びインターネットが使用できることには、かなりの高揚感を覚えていた。銀時は未だに乗り気ではないが……。
温度差がはっきりと浮き彫りになる中、万事屋達は着々とパソコンやインターネットが使える環境作りを整えていく。
――それから初期設定を入力していき、インターネットに繋げたことでいよいよ操作に本腰が入る。
「それじゃ、まずは俺達のホームページを作ろうか」
「おっ、キリが作れるアルか?」
「まぁな。作り方自体は知ってるから、難なく要望してくれよ」
「流石ですね! どこかの皮肉屋とは偉い違いですよ」
「それ俺に言ってんだろ。目線を合わせんじゃねぇよ!」
ひとまずは前々から決めていた万事屋のホームページを製作することに。製作者としてキリトがさり気なく名乗りを上げており、見切り発車の如くもう下準備を進めている。デジタル関係に詳しく、頼りになる姿に新八や神楽もつい感心していた。あらぬ文句が、銀時へ飛び火していることなど知らず。
彼の反射的なツッコミはさておき、万事屋のホームページ作成に向けて捜査を続けているキリト。そんな彼に対して、ユイがとある提案をぶつけている。
「それでは、パパ。まずはこの世界の色んなホームページを、大方参考にしてはいかがでしょうか?」
「確かに。私達の世界とは特色が異なっているかもしれないわね」
「それもそうだな。それじゃまずは、どこのホームページから見に行くか?」
それは参考程度に他のホームページを見学すること。自分らが持ち合わせている知識のみならず、この世界ならではの手法や特徴を学ぼうとした。
ユイの提案には、アスナやキリト、他万事屋メンバーも好意的に反応している。さすれば肝心なのは、どのホームページを参考にするか。早とちりのように、面々が次々と事を発している。
「そりゃあれだよ……結野アナのタレントページに決まってんだろ! 今すぐテレビ局のホームページにアクセスしろ!」
「ちょっとアンタ! 何欲望ダダ洩れにしているんですか! こういう時は、お通ちゃんの公式ホームページの方がまだ参考になるわ! 急にしゃしゃり出ないでくださいよ!」
「そういうお前もナ! ここは中間択をとって北島五郎にするネ! 聞いたことアルよ! 通信制限でも必ず見れるページだって!」
「神楽ちゃん! それ別の人だから!」
「良いから、さっさとホームページまで飛ばせ!」
三人ともあれよあれよと仲間を押しのけるかのように、自分の主張を通そうとしていた。銀時は結野アナが掲載されているテレビ局、新八はお通の公式ホームページ、神楽は北島五郎の自己紹介ページと提案がてんでばらばらである。
あまりの横暴さには、ユイらもつい反応に困り果てていた。
「ど、どうしましょう、パパ……」
心配そうな表情で呟くユイ。キリトも苦い表情のまま、万事屋達を落ち着かせる方法について悩み始めていた。
するとアスナが、こっそりと彼の耳元で囁いていく。
「ねぇ、キリト君。こにょこにょ」
「あぁ、分かった」
すんなりと彼女の伝えたいことは分かった様子で、キリトはすぐにとあるホームページにアクセスしていた。
「おっ!」
「どこにアクセスしたアルか!?」
「見せやがれ!」
と反射的にパソコンの画面に映し出されたホームページを、まじまじと見つめる銀時ら。キリトがアクセスしたサイトは……
「えっ……真選組?」
「芸能人よりも組織のホームページがよっぽど有意義でしょ。後で色々と検索してあげるから、今は我慢してね」
「まぁ、最初はこれでも良いんじゃないかな?」
真選組の公式ホームページである。画面には格式さを感じられる市松模様と、名も知らない真選組の隊士が何枚にも渡ってスライドしていた。
拍子抜けた反応を示す万事屋達に、アスナは自信満々で一行を説得させている。キリトも一声だけ加えていた。
「チッ、分かったよ。そんであの税金ドロボー共のホームページには一体何が書いてんだよ?」
「ちょっと大方見てみるか」
否が応でもアスナの説得に納得する三人。今回ばかりはキリトらに主導権を渡す様子であった。
とそれはさておき、一行は真選組のサイトに注目を寄せている。掲載していたのは仕事内容、隊士募集の説明、これまでに上げた実績と何の面白みもない要素ばかりであった。
適当にサイトを周っていると、一行はある特集ページに辿り着く。
「あっ、自己紹介が書いていますね」
「近藤さんに土方さんに沖田さんね」
「いつものメンツアルナ」
それは真選組の重要メンバーへのインタビュー特集。局長の近藤勲、副長の土方十四郎、一番隊体調の沖田総悟と、万事屋とは切っても切り離せない面々が特集に記載されている。案の定、山崎はいなかったが……。
「当然のごとく、山崎は対象外だと」
「ちょっと、銀さん。山崎さんが可哀そうでしょ」
「んなこと言われても、ヤツはまだ名前が出るだけましだよ。名前すらないモブと、名前があるのに目立っていない中途半端な奴らと比べてな」
銀時の持論には、新八もつい反論が出来ずにいた。確かに一番最初に見えた隊士の写真と比べれば、山崎など存在感が濃いに等しいであろう。
「はいはい、そんな話は良いから。ところで、三人共意気込みが書かれているみたいね」
と話は逸れてしまったが、ひとまずはインタビュー内容を閲覧していく一行。見れたのは何の変哲もない三人のインタビュー。割とどうでもよさそうな内容に、万事屋達はつい眠気を覚えてしまう。
「ふわぁ~眠くなってきたな」
「案外見物はなさそうだな」
大きなあくびを出す銀時と、つまらなそうな目で操作するキリト。真選組らしからぬ生真面目な記事に皆が辟易している。
そんな中でユイは、三人のインタビュー記事に隠された秘密へ気付いていた。
「アレ? ちょっと見てください、皆さん!」
「ん? どうしたアルか、ユイ?」
「写真にアイコンを合わせると、どこか別のページに飛べませんか?」
「本当かユイ? ……って、本当みたいだな」
彼女の言う通り、真選組それぞれの宣材写真にカーソルを合わせると、どこか別のページで飛ばせるらしい。彼らの遊び心か知らないが、疑問に感じた銀時らはすかさずそれぞれのアイコンにクリックしている。
「土方さんから……うわぁ!?」
「えっ、どうした?」
土方の写真をダブルクリックした途端、キリトは思わず驚いてしまった。皆がパソコンに映し出された画面に注目を寄せる。そこには、
「マヨネーズ王国……?」
「マヨリン?」
「って、アイツが好きなマヨネーズのサイトじゃねぇーか」
土方が好きなマヨネーズ商品の公式サイトに飛ばされていた。サイト内ではクセのあるテーマソングが流れており、カルト的な雰囲気を感じた一行はすぐにサイトを消している。
案の定、みんなの僅かな予感が的中した瞬間でもあった。どうやら写真を押すと、添付されたサイトへ移動することが出来るらしい。
「次だ、次。沖田は何のサイトへ飛ぶんだよ」
「沖田さんのことだから、変なサイトに飛びそうだけど」
「気を付けてください、パパ! もしかすると、変なコンピューターウイルスでパソコンが壊れるかもしれませんよ」
「いやいや、公式サイトでそんな嫌がらせするはずが」
続けては沖田の写真をダブルクリック。土方以上の地雷を皆が察し、ユイに至っては用心深くコンピューターウイルスまで予測している。
そんなスリルを感じさせる沖田の添付サイトは、
「えっと真選組裏サイト……?」
「へ?」
中々に闇を感じさせるサイトであった。サイト内は真っ暗かつ赤文字でびっしりと恨みつらみが刻まれ、一昔前の古めかしい印象を見た者に与えている。パッと掲示板の題名を見るだけでも、相当な怨念が込められていると皆が感じていた。
「……見なかったことにしましょうか」
「そうですね」
反応に困った一行は、そのまま何も言わずサイトを閉じてしまう。土方の時と同様、中々に衝撃を与えていた。
そして一行は、最後に近藤の添付サイトを覗くことに。
「それじゃ、近藤さんも……」
「って言っても、この流れはどうせお妙関係だろ? むしろそれ以外何があるんだよ、なぁ新八?」
「僕に言わないでくださいよ。僕だって薄々感づいているんですから」
皆が予想する通り、近藤の添付サイトは恐らく妙絡み。ストーカー行為に日々悩まされている新八にとっては、この流れも普通に予想出来ていた。
「じゃ試しに……本当だ」
「あのゴリラ、恒道館のサイト貼っつけていたアルか?」
実際写真をダブルクリックすると、案の定恒道館のサイトに飛ばされている。サイト自体は妙も移っておらず、必要最小限のことしか書かれていない簡素な仕様だが、それでも添付として登録しているのは、今でも妙を思い続けているメッセージ故なのだろうか。万事屋からすればしつこいに他ならない。
「前々から思っていたけど、近藤さんってどうしてここまでしぶといのかしら……?」
「しらね。バカだからじゃねぇのか?」
アスナの投げた問いを銀時はすぐに一蹴。少なくともバカとも言えず、皆は妙なもどかしさを感じていた。
これにて真選組のサイト調査は終了……かに思われたが、実は妙のサイトにも知られざる秘密が隠されている。
「それじゃ次のサイトにするか」
「……って、待ってください! 恒道館のサイトにも、どこかへ繋がっているみたいです」
「えっ? そうなのか?」
どうやらユイの読み通り、恒道館のサイトも真選組と同じく、画像を押すとどこか別のサイトへ飛ぶことが出来るらしい。気になった一行はすぐに、恒道館サイトに掲載された写真をダブルクリックした。
すると画面に映し出されたのは、
「……害獣駆除会社?」
「凶暴な野生動物を退治しますって」
あまり耳馴染みがない害獣駆除業者である。サイト内には宇宙中に蔓延る凶悪生物を退治しますと謳っていた。中にはゴリラっぽい生物も……。
ここから導き出される答えは一つ。妙はいざとなれば、近藤をゴリラとして駆除しようとしているのかもしれない……。
「見なかったことにしようか」
「そうアルナ」
こちらも反応に困ってしまい、沖田の時と同様にノーコメントで貫く。何の変哲もないサイトと思いきや、あらぬ地雷を目の当たりにした一行である。
それからもサイトの閲覧は順調に進み、時には一行の興味あるサイトを覗きながら、着々とホームページの構成を練っていく万事屋達。
すると銀時が、とある店名を思い浮かばせていた。
「あっ、そうだ。あの茶屋って、サイトあんのか?」
「茶屋? もしかして、リズ達がいる のこと?」
「そうだよ。ていうか、アイツらも公式サイトあんのか?」
その店の名はひのや。ご存じシリカ、リズベット、リーファ、シノンらが下宿している場所でもある。新たな仲間も出迎えたことで、てっきりサイトもあるのかと思いきや……どうやらその予想は外れていた。
「銀さん。茶屋は無いみたいだが、代わりに超パフュームってサイトはあったぞ」
「はぁ!? マジかよ」
予想と反して、彼女らが一応所属している超パフュームのサイトは作られているらしい。気になった一行は、すかさずそのサイトを画面上へ映し出していた。
「うお? って、シルエットだけアルか?」
「名前も明かしていないみたいね」
「また随分とミステリアスな」
一風変わったサイトの作りに、驚きの声を上げる新八ら。サイトを読み進めると、それぞれの紹介分が掲示されていた。
「え~何々、かぶき町や吉原で活動する華麗な女子集団。もしかしたら、通りすがったあの子がメンバーかも……って、地下アイドル気取りかよ」
「姉御達に地下アイドルは似合わないアルよ! せめて純烈くらいターゲット層を特価するべきネ」
「いや。話がずれていない、神楽ちゃん?」
神楽の勘違いに新八がツッコミを入れている。それはさておき、超パフュームのサイト内は皆黒いシルエットで統一。名前も姿も伏せており、真偽不明な情報しか載せていない。
恐らくこの仕様になったのは、始末屋として活動するあやめの要望が入ったからかもしれない。とそれはさておき、真偽不明な情報のため、各メンバーは好き放題に紹介文を盛っていた。
「ドラゴン大好き女子。体型はモデル体型かも。結構みんなからチヤホヤされています……って、これはシリカちゃん?」
「とある人が大大大好き。好きすぎてストーカーになっちゃいそう。胸には自信があります。これは……さっちゃんかリッフーアルナ」
「スグか? そんな感じは無いけどな……」
神楽の予測にすかさず否定するキリト。ストーカーと言う一文で、リーファではないと見抜いていたが……強ち間違いではないのも事実であろう。
と各メンバーが思い思いに描いた紹介文。シリカや妙らを知っている万事屋からしてみれば、どれが嘘で本当か全て把握していた。
「うーん……全員分紹介していたけど」
「結構みんなネタで書いている感じアルナ」
「んなことならよ、いっそのことキャバ風に仕立てても良いんじゃねぇか? 顔出しとかして、男を釣りまくってイチコロだっての」
「ちょっと銀さん。流石にリーファさん達に失礼じゃないですか?」
何の面白みも無いと感じた銀時は、ふざけ半分でサイト自体を茶化していく。傍から見れば大人げない意見で、新八もつい苦言を呈している。
それでも銀時の文句は続く。
「別に良いんだよ、アイツらは。恰好からして痴女っぽいだろ。ギリギリを攻めるコスプレイヤーとして掲載すれば大繁盛だろ?」
「もう……後でシノノン達に怒られても知らないわよ」
「大丈夫だよ、どうせ聞いていないから」
とアスナから諭されてもなお、余裕綽々な態度を見せる銀時。近くに当事者達がいない分、好き放題言いまってくる。
仲間達も説得に半ば諦めかけていた時だ。
「へぇ~随分と卑猥な文句を言うじゃない……」
「銀さん……!」
「へ? ま、まさか……?」
ふと聞こえてきたのは、声を震わせていく女子達の一声。声質からリーファとリズベットに似ており、その声を聴いた銀時は思わず体を固まってしまう。
皆が声の聞こえた玄関先まで目を向けると、スッと扉が開き、その中からシリカ、リズベット、リーファ、シノンが立っていた。四人共怒りの表情を滲ませており、片手にはそれぞれ自慢の武器を装備している。
要するにおふざけで言い放った銀時の文句は、全て筒抜けだったということだ。
「よくも私達のアバターを小馬鹿にしてくれましたね……」
「誰の服装が痴女ですって……!」
目つきを鋭くさせながら、自身の武器を銀時へ差し向けるシリカとシノン。よっぽど銀時の文句が気に食わなかった様子だ。
四人の怒りの覇気は見事に銀時を震え上がらせており、彼の顔色は勢いを失くしている。
「お、お、お、落ち着け! お前等!! ただの冗談に決まっているだろ! 痴女なんかじゃねぇよ、ソシャゲキャラSSSR級だぞ!」
「今更誤魔化したって無駄よ」
「覚悟しなさい……!」
慎重に女子達を宥める銀時だが、所詮は焼き石に水。むしろ怒りを沸々と高めながら、標的を銀時に差し向けている。
もはやボコボコにされるのも時間の問題。自分の失態なためか、擁護してくれる仲間も到底いない。だとすれば、行動すべき答えは一つである。
「……さらばだ!」
「あっ、逃げた!」
「この!! 待ちなさい!」
「逃がさないわよ!!」
隙を見て逃げること。後ろにあった窓を開けて、銀時は恐れなど知らぬまま飛び降りていた。途中壁際を力づくでつたりながら、すんなりと着地。そのまま闇雲になって、万事屋から逃走している。シリカら女子達は、逃げ続ける彼を追いかけようとした。
数分の間に起きた波乱。これに何一つ関係ないアスナらは、ただただ反応に困っている。
「に、逃げちゃいました……?」
「どうします、アスナさん?」
「知らないわ! 一回リズ達にボコボコにされれば良いのよ。さぁ、変わらず続けましょう」
呆れ果てたアスナは、銀時を手厳しく一蹴。抱えていた不満を爆発させながら、事を一掃させている。
こうして仲間達は変わらずに作業していく。
「と言うわけで……俺はギリギリ逃げ延びたわけだ」
「いや、確実に報復受けましたよね?」
「リッフー達を怒らせた天罰アル。しっかり反省するヨロシ」
それから銀時は数分経った後に、万事屋の元へと戻ってきたが……その姿はボロボロと傷が至る所に付けられている。恐らくシリカら女子達に報復を受けた証拠であろう。
いずれにしても仲間達は、銀時の軽率な態度には反省してほしいと切に願っていた。
「まぁまぁ、銀時さんの件は一旦置いといて……次のサイトを見学しましょうよ」
「そうね。それじゃ次は、スナックお登勢が合ったらみましょうか」
「それにするか」
とそんな不安はさておき、一行は次なる検索ワードに注目を寄せていく。続いては万事屋の下の階に位置するスナックお登勢。そのホームページがあれば閲覧したいのだが……キリトはここでとある事実に気付き始めていた。
「えっ? なんだこれ……?」
「どうしたんですか、パパ?」
「いや、スナックお登勢を調べたら、検索してはいけない言葉って関連ワードに出て」
検索サイトの関連ワードを見るや否や、そこにはまったく関連性の無い「検索してはいけない」の文字が。
万事屋一行も、この結果にはあまりしっくりきていない。
「なんだよその検索してはいけないってのは」
「確かネット用語の一つね。怖い画像とか、精神的なショックを与えるような動画によく付けられるのよ」
「一体どういうことでしょうか?」
「婆さんやキャサリンが何か驚かすんじゃないアルか?」
アスナの解説を聞いても、いまいち感覚を掴めない銀時や神楽。怖いもの見たさでもあるが、ここは「百聞は一見に如かず」。キリトはそのままスナックお登勢のサイトにアクセスしてみる。
「とりあえず、見てみるぞ」
「サイト自体は……至って普通ですね」
意を決してアクセスしたものの、画面に映し出されているのはただの店舗案内。取り扱っている酒類や字面のみの客員紹介(丁寧にたまやエギルも追加されている)と、味気ない印象を一向に与えている。
しばらくキリトらがサイト内を操作していると、とある項目に目が付いていた。
「そういえば動画って項目があるぞ」
「動画? 外観とかを紹介しているんでしょうか?」
それは動画紹介の欄。興味本位で一行がその動画を開いてみると……
「そう……!」
「二人は……!」
「「魔法熟女!! 二人はババキュア!!」」
見るもおぞましい光景が映し出されていた。そう検索してはいけないの正体は、サイト内で掲載されているたまキュア動画。以前にもおふざけ半分で思いついた企画が、ひっそりとネットの中で公開されていた。(本家から怒られた様子を見るに、広い括りでは検索してはいけないとも言えるが)
動画の一部始終を見た万事屋一行の反応はまばらである。
「ナ、ナニコレ……」
「えっと……ネタ動画か?」
「お登勢さんとキャサリンが……まさかあんなことを?」
アスナ、キリト、ユイは初めて目の当たりにするお登勢らの姿に戦慄を覚えていた。皆困ったような表情を浮かべており、体も固まってしまう。
一方で銀時らはと言うと、
「そういえば、銀さん達はどこ行った?」
「銀時さん達なら、動画を見た瞬間にトイレへ駆け寄りましたよ」
「トイレ……まさか?」
アスナの予想通りに気分を一層悪くしていた。
「オロロロロ!」
「早く変われアル!」
「やばい……無理」
三人は押せよ押せよとトイレの内部にこもって、存分に嘔吐を続けていく。久しぶりに見たたまキュアの姿に、体が耐え切れなかったらしい。最初の時とほぼ同じ反応である。
「そ、そこまでか?」
「よっぽど気分を悪くしたようですね……」
「ある意味で検索してはいけない言葉なのかも……」
銀時達の壊滅的な姿から、キリトらもたまキュアの破壊力を痛いほど感じていた。キリトもそっとスナックお登勢のサイトを閉じている。
「おい、そろそろサイト閲覧も最後にすっか?」
「ていうか、三人共大丈夫なの?」
「平気ネ。ここ最近は吐いたり戻したりの繰り返しだから、もうとっくに慣れたアルよ」
「例えが不潔ですよ、神楽さん!」
未だに調子が戻らない神楽の一言に、反射的ながらツッコミを入れるユイ。
数分休憩をとった今でも、気分を悪くした銀時ら三人の調子は中々戻っていない。たまキュアが与えた心の傷は相当なものである。
と仲間達を宥めながらも、サイト製作に向けてアイデアをまとめていくキリト。これまでに閲覧したサイトを参考にしていた。
「うーん……これまでのサイトを見ると、結構インパクトの大きい要素も必要になるか?」
「別に僕らのサイトには不十分な気もしますけどね」
「分かりやすく簡潔的な方が、私は重視すべきだと思うけど」
数々のクセの強さから考えをより煮詰めてしまうキリトに、新八やアスナが冷静に説得していく。彼らはやはり見栄えやインパクトと言った話題性よりも、要所がしっかりと固められている生真面目さが重要だと伝えている。
サイト製作がより難航と化す中、神楽はあることを閃いた。
「あっ、そうアル。もしあったら、ヅラのサイトとかあるんじゃないアルか?」
「ヅラって、桂さんのことか?」
それは桂達攘夷党のサイトについて。これまでにも深く関わりのある仲間達のサイトを閲覧したが、思い返すと桂達はまだ一切見ていない。そこで最後の一押しとして提案したのだが……よくよく考えるとサイト自体皆無に等しい。
「でも攘夷党ってサイトは無いんじゃないの? 指名手配されているし」
「奴が大っぴらに身分を明かすわけがないだろ。ここはフルーツポンチ侍って調べておけよ」
「何ですか、その芸人さんのような名?」
「ヅラが以前に使っていたネットネームだよ。どうせこっぱずかしいやり取りしか出てこねぇがよ」
攘夷党が幕府から危険視されているため、公式サイト自体は無い。代わりに銀時が提示したのは、ヅラが隠れて使っていたニックネーム、フルーツポンチ侍。とある掲示板に現れて、名前が微妙に似ているフルーツチン〇侍(正体は近藤)と論戦を繰り広げていた。
そんな事情はさておき、何かしらのきっかけを作れると思い、キリトをスレに誘導させる銀時。珍妙な言葉が気になったキリトは、そのまんまフルーツポンチ侍と検索してみる。
「本当に桂さんのニックネームか……って、こんなものが見つかったんだが」
「ほら。くだらないやり取りが――えっ!?」
文字を打ち込んで一番上に掲載されたサイトにアクセスしてみると……そこには予想外の光景が目に映っていた。桂の事情を知る銀時ら三人も、これには驚きを隠せずにいる。
彼らが目にした光景は――フルーツポンチ侍の模倣犯が何人も現れていたことだ。
「なんでこんないっぱいいるアルか!?」
「丸々じゃない丸々だ! が定着していますね」
「桂さんに松岡さん、伊藤さんに戸松さんって……」
「悪ふざけしている人がこんなにもいるの?」
神楽、ユイ、新八、アスナと思ったことを発していく。フルーツポンチ侍じゃない桂だ!がもはや定型文と化しており、これらを置き換えてスレの題名にするのが掲示板の常識となっている様子だ。
元の世界のネット文化に多少精通しているキリトやアスナも、このネットネームには衝撃を隠せない。しばらくスレの題名を閲覧していると、ユイがまたしてもあるものを発見していた。
「あの、皆さん……もしかしてこの方って」
「えっと……フルリン火山侍じゃない、壺井だ! えっ……」
「壺井って」
「まるっきしアイツじゃねぇかよ!」
スレの題名の見出しを見てみると、それは風林火山を思い起こすフルリン火山侍の名前。しかも名前が壺井という点から、一行はすぐにクラインだと把握。(彼の本名が壺井のため)
恐らくは桂の影響で、スレを始めてみたに違いない。いずれにしても、この常識には銀時らも到底ついていけず、深堀さえすることは無かった。
「なぁ、銀さん。詳しく見てみるか?」
「却下に決まってんだろ! どうせ「切腹しろ」とかって単語が並んでいるに違いねぇよ! 無視だ、無視!」
即刻サイトを消して、スレ自体を見なかったことにしている。そもそもが公式サイトでないため、主題からもズレていることに気付き始める一行であった。
こうして数多のサイトを参考にして、自身のサイトを作りあげるのに半日が経った頃。辺りが夜を迎える頃には、もうすでに万事屋の公式サイトが完成しきっていた。
「これで良しと……!」
「おっ、ようやく出来たアルか。キリ!」
主にキリトが尽力して製作した万事屋のサイト。店の外観や仕事内容、各メンバーの紹介をコンパクトにまとめている。(超パフュームのサイトを参考に、影や文字のみで紹介している)
他にも公式サイトには、メンバー特有の小ネタが盛り込んでおり、実際に仲間達が作ったサイトも少しばかり参考にしていた。
サイトの完成と共に、仲間達はキリトを大いに労っていく。
「お疲れ様です、パパ!」
「なんとか今日一日で終わったわね」
「あんがとよ。デジタル関係は俺達疎いから、助かったよ」
「いやいや、これも万事屋のためだからさ。さぁ、今日はもうご飯食べて明日に備えよっか」
ユイ、アスナ、銀時と続けて声をかけていた。
充実たる達成感を覚えながら、キリトは大きく腕を伸ばしている。大きくあくびを上げながら、ゆっくり休もうとしていた。
仲間達も彼に続いて、風呂なりご飯の準備を始めようとした時である。
「アレ? ちょっと、皆さん。もう依頼が届いていますよ」
「えっ!? マジアルか?」
新八はふとサイトを覗いてみると、依頼受付のメール欄に一通の着信があった。早くも依頼が来ている事実に驚く一行。
再びパソコンの画面に目をやると、そこに書かれていたことは――
「えっと、何々……しばらく民泊させてください。フルーツポンチ侍とフルリン火山侍より……って」
「アイツらじゃねぇかよ!!」
まごうことなき桂とクラインからである。二人のネットネームとほぼ同じであり、宛名を見た時間で皆が察していた。銀時も大いにツッコミを上げていく。
こうして遂に公式サイトを開設した銀時ら万事屋。インターネット環境も使えるようになった今、これで依頼がより増えるのだろうか? そしてサイコギルドの情報収集は捗るのだろうか? ……恐らく暇つぶしは捗りそうである。
おまけ あのサイト
アスナ「ねぇ、銀さん? 万事屋って検索したら、変なサイトが出てきたわよ」
銀時「ハァ? ……ちょっと待て! まさか!?」
アスナからの情報に、つい心当たりのあった銀時。パソコンを操作すると、画面に映し出されたのはあのサイトである。
銀時「やっぱりか……」
キリト「えっ? 俺達以外にも万事屋がいたのか?」
銀時「元万事屋だ。プロトタイプだよ」
ユイ「プロト? 旧メンバーでしょうか?」
銀時「あたぼーよ。腕にサイコガンはめ込んだ金丸と古橋、常時アルコール口調の池沢だよ」
キリト・アスナ・ユイ「「「……どういうこと?」」」
※アニオリにて実はサイトを作っていた万事屋プロトタイプの元一員。本編にて組み込めず、おまけで採用致しました。
万事屋にパソコン及びインターネットが到着。これでキリトの暇つぶしも解消されるかも。ちなみに普段のキリトは、フェル通を始めとしたゲーム誌を読み漁っていました。
色々と衝撃のあったサイト製作。本編の銀魂では中々描写されていなかった公式サイトをテーマに作りました。
中には懐かしいネタもありましたが、実は最近銀魂を一気見していて、その影響かもしれません笑 次回もまた意外なキャラが出るかも。
もしも銀魂の世界に動画投稿サイトがあるなら、フルーツポンチ侍の掛け合いは動画化されているかもしれませんね。もういっそのこと長谷川さんをユーチューバーにする話も作ってみたいです。
そして次回は百訓突入を記念して、あの回をやります! 現在の時系列は9月下旬……アスナ、シリカ、キリト、銀時の誕生日が近づいていますね~~
次回予告
シリカ「アタシの誕生日が目前に迫っているのに、キリトさんやアスナさん、銀時さんと一緒にまとめて祝うなんて……なーんか納得できません!」
陸奥「誕生日を祝えるだけありがたく思うきに。それはそうと主に頼み事があるが」
シリカ「アタシはもう見えても忙しい……って、誰!?」
陸奥「今気づくか」
シリカ「次回! 結婚式の余興に本気出す奴は良縁だから末永く友情築いとけ!」
陸奥「おまんの想い人とではないぞ」
シリカ「わ、分かっていますよ!!」
完全に声優ネタ。近藤、沖田、九兵衛、ユウキの中の人が一堂に介するチャンピオンカップがあるという。(未視聴です)