「こらー! さっさと起きなさい!」
万事屋のとある朝の風景。一足先に早く起きたアスナは、八時を過ぎても未だに寝ている銀時、キリト、ユイ、神楽を順々に起こしていく。
何てことないいつもの風景だが、今日ばかりはいつもと違っていた。
「むにゃむにゃ」
「やかましい……二日酔いなんだからまだ眠らせろよ」
「そうだらけてどうするの! 何事も気の引き締めが肝心よ!」
「寒いのでもう少しだけ……」
彼女が幾ら呼び掛けても、一向に布団から抜け出さない三人。特にユイは全身を布団でくるまって、まったく手放さそうとしない。
その原因は寒気。なんせ今日のかぶき町は今シーズン一番の冷え込み。秋を通り越して、冬の朝とまったく変わらない気温なのである。
だからアスナを除いた全員が、寒がって中々布団から出ようとしない。
「うぅ……寒。もう! 寒いんだから、さっさと起きなさいって!」
「嫌アル。もう半日だけ布団に入りたいネ」
「お昼になっちゃうでしょ! さっさと出なさい、神楽ちゃんも!」
寒さを感じて身構えるアスナ。再度忠告してもまったく出てこない。押し入れで寝ている神楽も、気だるさを口にする始末である。だらける仲間達の姿を見て、アスナはため息を吐きながら辟易としていた。
「おはようございますー!」
起こしに息詰まっていた時である。普段通りに新八が万事屋へやって来ていた。
「あっ、新八君。って、どうしたの? その恰好?」
「いやぁ~今日は寒いので厚着してきまして。思わず冬の恰好で来ちゃったんですよね~」
彼の姿を見るや否や、アスナは驚いたような表情を浮かべる。新八はマフラーやら手袋を身に着けており、しっかりと防寒着を着用していた。さながら冬の服装である。
「そうなんだ……って、外そんなに寒いの?」
「はい。だって今日が今シーズン一番の冷え込みで、冬と変わらない気温みたいですよ」
「えっ? そうなの?」
新八から気温情報を教えられて、またも驚きを感じるアスナ。一旦冷静に考えると、確かに今日の寒気が昨日よりも増していることを理解した。だからこそ、銀時やキリトらが布団から中々出てこないかもしれない。
点と点が繋がった途端、彼女は咄嗟にあることを思い出していく。
「これじゃ秋なんてあっという間に終わ――アレ? どうしたんですか、アスナさん?」
「どうしよう……冬服買うの忘れてた!」
「えっ?」
急に焦ったような表情を浮かべていたのは、肝心の衣類を買い忘れていたから。
そう。アスナらは現在万事屋でお世話になっており、衣類も彼等から支給されているものを使っている。故に冬服はまだ購入しておらず、日々の生活から無意識に後回しにしていたのだった。
「だってこの服装じゃ、秋どころか冬を乗り越えられないでしょ! まだいつ帰るのかも分からないままだし……!」
アスナからの嘆きを、新八は苦い表情のまま聞いている。無論彼女が焦っているのは自身の服装が原因であり、所謂肩出しのノースリーブでは冬を越すには難しい。さらにユイ用の冬服も用意していない為、このままではシーズンに間に合わなくなってしまう。
ふと訪れた課題に頭を悩ませるアスナだったが……ここで彼女はすぐにあることを決意していく。
「決めたわ! みんな! 今日は衣替えに出発するわよ!」
「えぇ!? 急にですか!?」
それは冬服の買い出しであった。
「おぉー! アッスー! 今日は朝から天ぷら作ってくれるアルか?」
「そっちの衣じゃないわよ!」
高らかに宣言したものの、神楽は衣にだけ反応している。一瞬にして目が覚めてアスナに詰め寄っており、あまりの変わりように彼女は激しくツッコミを入れていた。
「何? ところてんだ?」
「今日の朝食のことか?」
「私はフレンチトーストが良いです!」
「だーかーら! 衣替えだってば、みんな! なんで食べ物のことになったら、すぐ起きるのよ!!」
釣られて銀時、キリト、ユイもようやく起床。揃って朝食について興味を示している。
アスナの意志は何一つとして伝わっておらず、憤った彼女のツッコミはさらに激しさを増していく。
その一方で、
「アレ? ツッコミ役変わっていない? 今回大丈夫?」
本来のツッコミ役である新八は、たった一人置いてきぼりにされていた。アスナが冬服の存在に気付いたきっかけにも関わらず、この仕打ちである。
こうして今日一日予定の決まっていなかった万事屋だったが、アスナの鶴の一声をきっかけに、冬服を買いに行くこととなった。
ちなみに朝食は、ユイの希望で本当にフレンチトーストに決まった。
場面は江戸にある複合ショッピングセンターへ移動。ここでは飲食店やら服屋やら染物屋まで、あらゆるジャンルの店が営業している。若者も数多く訪れているこの施設で、万事屋は冬服を探すつもりだ。
「おいおい、いつの間にあのステーキ屋無くなってんだよ。いきな〇ステーキにでもやられたか?」
「そのいきなり〇テーキも別のライバル店が近くに出来て、今大苦境アルよ。まったく弱肉強食の世界アルナ。と言うことで」
「言わせないよ神楽ちゃん。どうせアスナさんに頼んで、ステーキをおごろうとしているんでしょ」
「チェ。バレたか」
「いや、大バレだよ」
店へと向かう傍ら、早くもランチのことで頭がいっぱいになる神楽。ノリよくアスナへおねだりしようとしたものの、寸前で新八に止められていた。思い通りにいかず、早くも不満そうな表情を浮かべている。
そんなことはさておき、アスナはキリトやユイに冬服の希望について聞いていた。
「キリト君はどんな上着が良い?」
「俺は別にマフラーくらいで良いよ。このコートも結構保温効果あるし」
「そう……って、よくそれで夏を乗り切ったわね!?」
「今更なツッコミだな……。俺は別に問題無かったけど」
数か月ぶりに再燃した疑問に、キリトは苦笑いでアスナへ事を返す。夏の時期でも所謂厚着だったのが、キリトは何不自由なくそのまま過ごしていた。故に冬服も特に必要ない様子である。
「ってことはよ、アスナとユイだけで良いんじゃないのか?」
「そうですね。二人共夏服っぽいですから、イメチェンも兼ねてまったく新しい服装に試してみてはどうですか?」
「そうね……確かにイメチェン要素は必要かも」
銀時、新八に諭されて、つい納得してしまうアスナ。やはり半袖等が目立つ二人にぴったりの、冬服を選ぶことが本日の目標となった。
イメチェンを勧める新八に対して、神楽はふとあることを思い出す。
「まぁ、新八ばりに大滑りしないように気を付けるアルよ」
「大滑り?」
「おっ? その話まだしていなかったのか? 実はな――」
「って、何を言うとしているんですか!! あの件はきっぱり無かったことにしたでしょうが!!」
嫌な予感を察して、話へ無理して割り込む新八。それもそのはず。以前に新八はイメチェンと称して、仲間達からひんしゅくを買った経緯があるからだ。その件を一切知らないキリトらからすれば、何のことだかさっぱり分かっていないが。
と上手く話を逸らしたところで、話題は再びアスナらの冬服決めに移行している。
「それで。何か欲しい服とか決まっているのかよ?」
「そう急かさないでよ。服選びって、簡単に決まることじゃないのよ」
「そうアルか? こんなの自分の直感で、一気に決めた方が良いんじゃないアルか?」
「直感も大事だけど……もっと大事なのは流行よ! 今何が流行っているのかを、見極めるのが重要だと思うわ」
銀時、神楽に急かされてもなお、自身のペースを保つアスナ。ファッションのことになると、やたら流行りを気にしている。服選びにおいて、一切の妥協もしない心構えだ。
キリトも彼女の意見に賛同している。
「確かに、アスナの言い分も分かるな。銀さん達は、流行とかこだわったことあるか?」
と軽く質問がてらに、銀時らにも意見を聞いてみると、
「流行? なんだそれ。食えるのか?」
「アタイらにそんなのは微塵も興味無いネ」
「僕もですね。お通ちゃんがオススメするものなら良いけど」
「えっ……? 全然興味ないのか?」
「「「おう」」」
頑なに拒否されてしまう。皆渋い表情を浮かべており、流行に関しては気にも留めていなかった。断言する三人に、キリトも返す言葉を失ってしまう。
その一方でユイは、興味津々にアスナへ最近の流行を聞いていた。
「えっと。ちなみにママ。今回はどんな流行が流行っているんですか?」
「フフーン! 任して! 今年は白が流行ると聞いているわ! 純白清廉な雪みたいで、冬コーデにもぴったり! だからユイちゃんにも、ピッタリのものを探してあげるわね」
自信良く言い放った正体は白色。どうやらアスナ曰く、今年の秋冬は白物が流行るとのこと。ちょうど自身やユイとのイメージカラーも同じ為、俄然と彼女の気合が高ぶっていた。
「白アルか?」
「おい、もしかしてあの服装かよ」
「あの……えっ!?」
色の件を聞き、銀時らの視界にある集団が目に入ってくる。気になったアスナが振り返ると、そこには……
「な、何アレ……」
「何って昔懐かしスーパースターアルよ!」
「いや、そうじゃなくて!!」
奇妙な服装を着た人達がちらほらと見受けられていた。両袖に巻き付けられた細長いフリンジが特徴的で、さながら昔懐かしい男性アイドルの衣装そのもの。老若男女問わず、ショッピングセンターにいた大半の人達が着込んでいた。
無論この光景に、アスナはだいぶ気を引かせてしまう。
「えぇ……今アレが流行っているの?」
「アレは確か……フリンジ星の天人が服屋を始めて、最近この近くで流行っているんですよ」
「所謂密かなブームってことアルよ」
新八や神楽からの説明で、ようやく状況を理解するアスナ。要するにこのショッピングセンター近くで流行っている服らしい。真相を知った途端、選ぶ店を間違えたと後悔の念に苛まれる彼女であった。
「そうだったのか」
「ってことはよ、自称ファッションリーダーが言うんだから、フリンジを取り入れて、流行に乗っかるしかねぇんじゃないのか?」
「えっ? でも流石に白とはいえ、あの服装じゃ動きづらいんじゃ……」
「そう! 保留で! さぁ、別の店行くわよ!」
悪乗りをした銀時が、面白半分でフリンジを勧めていき、咄嗟に話題を変えるアスナ。
結局はまったく別の店で、冬服を探すことに決めていた。早々に思わぬ流行へ惑わされた彼女であった。
一行はショッピングセンターの別の館内へ移動。ここは子供服の専門が多数取り揃えており、まずはユイの冬服を購入することに決めている。
「ユイちゃんの服だけど……何かぴったりのものがあるかしら?」
ユイにぴったりの服が無いか、目を点にして探してみるが……中々しっくりくるものは見つからない。
「ユイはどれか欲しい上着はあるか?」
「私はなんでも大丈夫ですよ! でも出来れば、もこもこした服を着てみたいです」
キリトがユイに服装の要望を聞くと、彼女は元気よく返答。強いて言う要望は、ユイの興味があったもこもこした上着だった。
すると銀時はとある考えを閃く。
「なら手軽にぴったりの服があるだろ?」
「ぴったりの服?」
「銀さん。何か心当たりがあるんですか?」
彼からの提案に、一同はつい驚きの声を上げる。同時に新八ら仲間達は、何やら嫌な予感を感じ始めていたが……恐る恐る聞き返していた。
「まぁな。こんくらいのガキにはこの服が頃合いだろ?」
そう言って銀時は、心当たりのある上着やら防寒具やらを見つけて、ユイに試着を促していく。とりあえずユイは言われるがままに試着室へ入り、一人で銀時オススメの服装に着替えていた。
そして……
「じゃーん! どうですか?」
「うん。ぴったりだ。良く似合っているぜ」
とうとうその姿がお披露目される。白いワンピース姿から一変。薄いピンク色のケープ付きコートに、白いマフラー。頭には某寒冷地仕様の四角い帽子。足元はコートと同じく薄いピンク色のブーツを履いている。
可愛さと大人っぽさを併せ持った冬服に、ユイは大方満足していた。
「銀ちゃんにしては中々良いセンスアルナ」
「だろ。俺だって進歩しているってことだよ」
神楽も銀時らしからぬセンスの良さに、つい本音で褒めている。鼻を高くして歓喜に浸る銀時とは対照的に、新八はどこか浮かない顔をしていた。嫌な予感が的中したからだ。
「あの銀さん……これって」
「言っておくが既視感はねぇぞ。投稿者はFGO全然興味ないからな」
「いや、〇のところ意味ないだろ! 思いっきり他作品を意識してんじゃねぇか!!」
本音を漏らした銀時につい激しくツッコミを入れてしまう。そう。銀時の思いついた衣装は、某ゲームの白髪の女子がモデルであった。要するにただの思いつきである。
毎度ながら開き直った態度に、新八は少しばかり怒りを募らせていた。
「ったく、この男は……どう思いますか。キリトさんにアスナさん」
不機嫌そうなまま、キリトやアスナにも意見を聞いてみる。ゲームキャラの衣装を丸々模しているので、自身と同じように憤っていると思いきや……
「結構良いんじゃないか、銀さんにしては」
「へ?」
キリトはまったく気にしていなかった。対するアスナはと言うと、
「悔しいけど……銀さんにしてはセンスが良いわね。似合うし、可愛いし!」
「いや、アスナさん。めっちゃ悔しそうな顔しているじゃないですか。そんなに認めたくないんですか!?」
複雑そうな表情でユイの冬服姿を褒めちぎっている。彼女も内心では銀時のことを認められず、照れくさいまま言葉を選んで発していた。悶絶するアスナの姿に、新八は高らかにツッコミを入れていく。
「やっぱり良いですよね~。銀時さんにしてはセンスアリですよ!」
「そうそう。こんな御似合いの冬服、選んでくるとはな」
「おい、テメェら。さっきから俺のことけなしすぎだろ! どんだけ信用していなかったんだ」
野暮なツッコミを交えながら、銀時はユイらの会話に割り込んできた。それからはただ冬服についての談議が止むことなく続いていく。
皆が浮かれきる中で……ただ一人新八だけは微妙な気持ちに苛まれている。
「神楽ちゃん……これって良いの?」
「気にすんな眼鏡。バカと親バカが上手く組み合っただけアル」
神楽のツッコミにも、彼は苦笑いで返していた。遠目から見る二人の姿を尻目に、アスナらの余韻はまだ続いていく。
こうして早くもユイの冬服選びが終了。購入して、すぐに着替えていた。
「おっ、忘れていた。どうせならあの服にもフリンジでも付けておくべきだったな」
「どこに付けるんですか、ソレ。場違いにも程がありますよ」
「そもそもコートにフリンジは無いだろ」
冗談気味に発した銀時の一言に、新八とキリトがツッコミを入れていた。ショッピングセンター付近で流行しているフリンジを取り入れるつもりだったようで、もし実現していればアスナから大ひんしゅくを買っていたに違い無かった。幸いにもアスナら女子陣には聞かれていない。
一方で女子陣は、まったく別の話題を交わしていた。
「似合っているアルよ、ユイ」
「へへ。ありがとうございます~」
神楽にも褒められて、増々高揚感に浸るユイ。自身に似合う冬服が購入出来て大満足であった。
一方でアスナは、一応神楽に冬服の購入について聞いている。
「ねぇ。神楽ちゃんは、新しい冬服って買わなくて良いの?」
「私は別に大丈夫アルよ。上着も持っているし、寒さにも慣れているからナ」
「それなら良いけど、欲しくなったら無理はしなくて良いのよ」
神楽は特に必要ないと感じていたが、遠慮していると思ったアスナはごく自然に気を遣っていた。さり気ない優しさを見せる中、ふと神楽はあるものを見つけている。
「そうアルか。じゃアレが欲しいネ!」
「どれって……フリンジ!?」
その正体はなんとフリンジ。このショッピングモール内で流行っているもので、色は光沢のある紫色。隅から隅まで紫色に染まり、見た者に刺々しい印象を与えている。
「なんかかっこよさそうアル。相手をボコボコにする時、ちょうど良くないアルか?」
「いやいやいや! 幾ら流行っているとはいえ、紫なんて品が無いわよ! まんま埼玉のヤンキーじゃないの!」
「そうアルか?」
当然フリンジに否定的なアスナは神楽のおねだりを却下。冬服と言う枠組みからも外れていることを指摘していた。
「どうしたんですか」
「何か良いのが見つかったのか?」
「見つかったも何もフリンジよ! ここにもあって……」
騒ぎを聞きつけて、離れていた男性陣も集合。なんとなくだが、フリンジ絡みで揉めていたことだけは理解していた。
「本当に色んな種類のフリンジがあるのですね……」
「こりゃもう神の思し召しじゃねーか。素直に受け入れるのもアリだと思うぜ」
「そんなわけないでしょ! そもそもこんな服、一体誰が着るのよ!」
何かの運命だと察して、銀時はアスナへまたしても悪乗りでフリンジを勧める。それでもアスナはただならぬ拒絶反応を示していた。
意地でもフリンジを嫌がる彼女に対して、銀時がまたしてもからかおうとした時である。
「お客様、お似合いですよ」
「そうか? いや~、たまには流行に乗ってみるもんだな」
見知ったかの声が聞こえて、ふと後ろの方を皆が振り返っていた。するとそこには、
「えっ?」
「長谷川さん!?」
フリンジに着替えた長谷川泰三の姿が見えている。彼は普段着ている赤茶色と同じフリンジを購入しており、本人もだいぶ満足げな表情を浮かべていた。
ちなみに銀時ら万事屋の気配は一切気付いていない。
「またのお越しをお待ちしております」
「よしっ! 流行にも乗ったし、これで就職活動頑張るぞ!!」
そう言って彼は、意気揚々と店を跡にする。一段とノリに乗った長谷川の姿を後ろから眺めていた銀時らだったが、あまりの変貌ぶりに皆が気を引かせていた。
「どこに就職する服装だよ」
「錦野〇の物真似芸人目指しているんじゃないアルか?」
「ニッチすぎるでしょうが」
似合うか否かよりも、銀時ら三人は長谷川の就職活動の方を心配している。フリンジが必要な仕事が本当にあるのだろうか。
「少なくとも長谷川さんには需要があったってことか……」
「……本当に流行っているのでしょうか?」
キリトやユイらも何とも言えない表情を浮かべており、銀時らと同様長谷川の行く末を気にしていた。そもそも流行を気にしていることにも、実は驚いていたが……。
「次のブーム間近ってことなの……?」
アスナも段々と流行に過敏となり、次第に迷いが生じている。
と長谷川の一面を目の当たりにして、場の空気が微妙になっていた時。またしても万事屋の元に、知り合いが近寄ってくる。
「アレ? キリト達じゃない」
「その声は……お前等か」
話しかけてきたのはシリカ、リズベット、リーファ、シノン、月詠の女子陣。所謂いつもの女子達と奇遇にも遭遇している。
「ここで会うなんて偶然だな」
「そうですね、キリトさん!」
「てか、アンタ達も冬服買いに来たの?」
「私達は違うネ。アッスーとユイの分を買いに来たアルよ」
「えっ? あっ。二人だけなんだ」
思わぬ場所での遭遇に、若干嬉しさを覚える女子達。同じ冬服探しと知って、すぐに神楽らへ共感していた。
「そういうお前等も同じか?」
「じゃな。冬が近づく前に買い出ししていたところじゃ。コートやら帽子やら、センスには大分自信があるぞ」
そう月詠が銀時へ返答すると、彼女は手にかけていた紙バックの中身を見せていた。言った通りのコート他防寒着が多く詰められている。
「結構買いましたね」
「まぁ、セールもやっていたからね。飽きが来ないように、みんなで数種類分も購入したのよ」
さり気なく彼女らが買った防寒具の中身を見ていると、神楽はついフリンジの有無を確認してしまう。
「フリンジは入っていないアルな」
「フリンジ? 何それ?」
「このショッピングセンターで流行っている商品のことだよ。スグ達の行った店には置いていなかった?」
「絶対あったアルよ」
ピンと来てないシノンらに対して、神楽やキリトが軽い補足を加えていく。すると、すぐに反応が返って来た。
「あぁ~アレね」
「迷ったんだけど、結局止めたのよね~。流行っているって言っても、一年後にはブームが去ってそうだし」
「それに無利して、流れに合わせる必要も無いからね~」
女子達は一貫して、フリンジのことを気にしていなかった。シノン、リズベットとありのままに受け流す。(実は試着してしっくりこなかった為、ブームには乗らないことにしたそうだが)
「そう……」
一方でアスナは、シリカ達の反応を見て余計に悩んでしまう。ブームと言うものを意識しすぎたせいで、乗っかるべきか悩んでいたのだ。
分かりやすく表情も気難しく変わり、それに気づいたリズベットが彼女へ声をかける。
「どうしたのアスナ? まさかフリンジに興味があったの?」
「そういうわけじゃないわよ! ただ流行しているから、一応買うべきか悩んでいて……」
迷いながら今の自分の気持ちを赤裸々に語ると、リズベットら女子達は一息付けつつ、再びアスナへ話しかけていく。
「なんかアスナらしくないわね」
「そうです、そうです」
「み、みんな!?」
急な態度の変わり様に、アスナは素直に驚いてしまう。唖然とする彼女に対し、女子達の激励は続く。
「流行とか無理に合わせなくても、アスナさんはアスナさんらしく自分の好きな服を買ったら良いと思いますよ」
「アンタの恰好は無条件で可愛いんだから、もっと自信を持ちなさいよね」
「そ、そんなことないって!」
「それに……正直この世界の流行って、ヘンテコなのも多いじゃん。私達の世界とだいぶセンスが違うから、何も無理に合わせる必要はないと思うわよ」
「私も同じ意見よ。自分の個性を大事にすべきなのよ。それこそアンタが所属する万事屋みたいにね」
シリカ、リズベット、リーファ、シノンと順々に声をかける。温度差に違いはあれど、一貫してアスナへ自信を取り戻させることは共通していた。
「だって皆さん、流行なんて気にしませんよね?」
「そうアルナ。いちいち変えるのもめんどくさいし」
「ブームなんていつか過ぎ去るものだろ。俺が言ったのも冗談だから、全然お前の好きな服を買えよ」
シリカらの想いは銀時達万事屋も同じである。銀時もさり気なくアスナへフォローを入れている。すると彼は、あることを思い出していた。
「アレ? 思い悩んでいたのって、俺のせいだった?」
「銀さん……一応謝った方が良いんじゃないですか?」
「誤解は早いうちに解消していた方が良いぞ」
てっきりアスナが悩んでいた原因が、自分にあると思い始めている。自覚した彼と同時に、新八やキリトが念のため、謝るように諭していく。
「分かったから。じゃ――ご」
「大丈夫。もう大丈夫だから!」
「おい、ちょうど良いタイミングで被るなよ!!」
と意気込んだのも束の間、途中でアスナが言葉を重ねていく。謝りを気にしていないことから、どうやら銀時が原因ではないらしい。
「そうよね。流行にばっかり左右されず、自分の感性も大事にしないとね。みんな、ありがとう!」
「そうそう。こうでなきゃ!」
「吹っ切れたみたいで良かったですね!」
アスナ自身の迷いも晴れた様子であり、表情も一変。清々しく切り替わっている。普段と同じ振る舞いを見せるアスナの姿に、仲間達も一安心していた。
(彼女自身も迷いの原因は未だに掴めていないが、恐らくは予想以上に流行っていたフリンジブームと長谷川の生き生きとしたフリンジ姿が原因だったかもしれない)
「さぁ、みんな行こう!」
「おいおい。そんな気合入れて大丈夫かよ?」
「平気だって! もう私に迷いなんて無いから」
一息着くのも束の間、アスナは一目散に目的の服屋に向けて駆け出していく。テンションも高くなり、仲間達を無意識に置いていってしまう。
だがユイらは、普段と同じ雰囲気のアスナが見れて、むしろ安心感を覚えていた。
「それでこそママですね」
「そうだな。じゃ、俺達もついていこうか」
「そうアルナ」
「あっ、皆さん。ありがとうございました」
キリトや新八らは冷静に、アスナの跡を追いかけていく。その前にシリカらにお礼を言い残して、その場を去っていった。
一段と元気になった万事屋達の後ろ姿を目にして、女子達もやっと不安を払拭している。
「この調子じゃ、もう平気そうじゃな」
「だね。とりあえず一安心」
一部始終を見守っていた月詠も、ふと笑みを浮かべていた。
こうして大切な仲間を励ました女子達は、住処である吉原へと帰っていくのである。
流行を気にせずに気持ちを割り切ったアスナは、自身の思い描くままに好みの防寒具を選び抜き、ようやくとっておきのコーディネートが決まっていた。
「じゃーん! どう?」
試着室でてきぱきと着替えて。早速仲間達に披露していた。流行色通りの白コートに、薄いオレンジ色のマフラーを羽織るシンプルな冬服である。これでも体型や丈の長さを慎重に調整したので、約一時間かかっているのだが。
「おぉー! 似合っていますよ!」
「良いセンスアル。流石アッスーネ!」
「二人共ほめ過ぎだってば~」
自信のある服装だったが、仲間達は概ね好評。神楽やユイからはべた褒めされている。
「十分似合っていると思うよ。やっぱりこっちの方がしっくりくるな」
「ありがとう、キリト君!」
「まぁ。ユイ共々良いんじゃねえか?」
「ですね。アスナさんにぴったりだと思いますよ」
無論キリトからも称賛され、嬉しくなって照れを覚えるアスナ。銀時や新八からも褒められて、より気分は有頂天に上っていく。
この高揚とした気分のまま、お店の会計に向かおうとした時である。
「あっ! 見てください! ママと同じ服装の女子が居ますよ」
「本当……って、アレ? 告白じゃない?」
「マジアルか!?」
なんと奇遇にも、アスナとほぼそっくりの防寒着を着た女子を発見。その手前には同年代っぽい男子がおり、何やら特別な雰囲気を感じ取れるが……?
「ずっとアナタが好きでした! ファッションも思い切って変えたし、アタシと付き合ってください!」
「こ、告白!?」
やはり予想通りに訪れた唐突な告白。あまりの急展開に、万事屋の面々は陰からそっと
「おいおい。間近じゃねぇかよ」
「雰囲気も良さげだし、ひょっとして上手くいくんじゃ……」
思わず女子を応援したくなり、このまま結果を見守ろうとした時であった。
「ごめんなさい!!」
「「「へ?」」」
雰囲気とは反転して、彼から告げられたのは拒否。想定外の顛末に万事屋のみならず、告白した女子も唖然としてしまう。
「はっ?」
「その嬉しいんだけど……今の俺はフリンジを着た君が好きなんだ!」
「フ、フリンジ……?」
「まさかあの恰好が好きアルか!?」
男子の癖のある好みに、再び心を引かせる万事屋一行。彼の好みのタイプは、フリンジを着た女子らしい。かなり癖の強い趣向のようだ……?
「流行に乗り遅れて欲しくないんだよ! だから新しく着直して……」
と現在の彼女のファッションを全否定した時、
〈バシッ!!〉
「へ?」
彼は思いっきりひっぱたかれていた。
「サイテー!! だったら別の女と付き合えや! ボケェ!!」
「ちょっと!! シホってば~!!」
気分の冷めてしまった女子は、振り返ることなくそのまま場を去ってしまう。一方の男子は、立ち去る彼女の跡をしっかり追いかけていた。
急転直下な告白劇。その結末はフリンジによって振り回されている。いずれにしても、ロクでもないものであった。
「こんなこともあるんだ……」
「結局、何もかも流行に囚われたら、大事なものも見えなくなるってことか?」
女子を不憫に思う者や、男子の敏感すぎる流行感覚など、いざ冷静になると違和感が次々と浮かび上がる。
服を購入する前に、テンションが下がってしまった一行であった。
「まぁ、今回はこれで締めようか。てめぇら、買って帰るぞ」
「いや、オチがこれで良いのかよ!? 最後の最後で締まりが悪くなっているんだけど!」
果たしてこの作品のオチはどこにあったのか。それは流行に囚われることなく、自分の直感を信じた方が良いのだ。そう、坂田銀時も言っていた。
「言ってねぇよ! 何急にタローマ〇ってぽく締めているんですか!」
「仕方ねぇだろ。大したオチもねぇんだから。さぁ、帰った帰った!」
こうして波乱に巻き込まれながらも、万事屋はアスナ、ユイの防寒着を無事に購入。衣替えも済み、六人はお喋りを交わしつつ万事屋へと戻るのであった。
今回はこの時期、ぴったりの衣替えをテーマにしたお話を作成しました。今回はノリ良く書いたので、勢いのままに作成しています。もし何か引っかかることがあれば、感想欄等でご連絡ください。
アスナとユイは一式、キリトはマフラーや帽子で防寒する予定です。
そしてついこの前、SAOのサービス開始と同じ生年月日を迎えましたね。果たしてSAOみたいなゲームが現実でも出来るのか。気になるところではあります。ここまで年号が決められているのも珍しいですよね。
後は……映画も見てきました! いやぁ~戦闘シーン最高でしたね! 二人も安定的に活躍していたので、中々に良かったと思います。来年の新作も楽しみですね~。
もう一つご報告があるのですが、リアルでの仕事の影響で今後も投稿は不定期になります。出来れば月3回投稿を目標にしているので、無理が無いように執筆活動も続けていきます。なんなら本家の作品だって一気見したいので。
では頑張れば11月中に投稿したいと思います。それではまた次回!
次回予告
近藤「何!? 真選組に散歩番組のオファーだと!」
土方「しかも俺達だけで回して良いみたいだ」
沖田「そりゃ面白そうですねぇ。マドンナとして、あのブラコン女も呼んできやしょうか」
リーファ「誰がブラコンよ!!」
沖田「次回。旅に厄介者は付き物。厄介者は……」
リーファ「アンタでしょうが!!」