第一訓 異世界へ行く時は戸締りを忘れるな! 前篇
※この二次小説は銀魂 将軍暗殺篇前 ソードアート・オンライン マザーズ・ロザリオ編後の時系列となります。
多次元宇宙マルチバース。みなさんは知っているだろうか? この宇宙は多くの次元を繋ぎ、様々な宇宙や地球が存在していることを……
例えば、何一つ変わらない日常で音楽やスポーツを楽しむ少女達のいる世界や、人々が魔法を使いまったく違う文明を築いた世界。人とは違う種族が存在し互いに支えあいながら生きている世界に、人間の自由と平和のために戦う仮面の戦士がいる世界。その数は無限に等しい。
そんな世界のうち今回は、二つほど詳しく紹介しよう。
一つは、仮想世界の技術が発達し、人の意識ごとゲームの世界へフルダイブさせる近未来の世界。そしてもう一つは、江戸時代に天人と呼ばれる宇宙人が飛来し日本、いや地球が宇宙へ開国した世界。
二つの世界は交わることのない遠い次元に存在しているはずだった――だが、あることがきっかけで繋がり新たな物語が起動する!
2026年 4月上旬
ここは、ソードアート・オンラインの次元の世界。今日も桐ケ谷和人ことキリトは、仮想世界ALOで仲間を待っていた。ALOとはアルブヘイムオンラインの略。仮想世界の一つで、アミュスフィアと呼ばれるゴーグルを被りその世界へ行くことができる。そんなALOは妖精がモチーフ。9つの種族が存在して、ゲームプレイヤーはみな、とんがった耳や猫耳へと変化する。さらに背中には透き通った羽が生えて、自由に空を飛べることができる。キリトはこの世界でスプリガンと呼ばれる戦士型を選択。黒髪のストレートヘアーで中性的な顔立ちをしており、黒のコートを身にまとっていた。背中には武器である二本の長剣が装備されている。
「そろそろか」
町中にある噴水前で待っていた彼は、ふとメニューを開き時刻を確認した。仮想世界では自分の任意でメニューを開くことができ、それを使って仲間と連絡を取り合ったり、手にいれたアイテムを召喚したり、ログアウトして現実世界へ戻ったりすることができる。そして、時刻を確認すると現在は十三時過ぎ。ちょうど集合時間となった。
「お~い!! キリト君!!」
「パパー!!」
すると、タイミングよく二人の女子が声をかけてくる。それは、キリトにとって大切な存在であるアスナとユイだった。
「おっ、時間ぴったりだな」
「でしょ! それとね、みんなは買い出ししてから来るって言っていたわ」
「今日のクエストのために張り切っていましたよ!」
「それは、頼もしいな。これでいっそう楽しくなりそうだ!」
一日ぶりの再会に、思わず微笑みをこぼす三人。今回、キリトとその仲間達は春休みを利用して、ある隠しクエストを攻略する。そのために集まる約束を立てていたのだ。
そんな彼の仲間の一人アスナは、昔からの仲である。四年前、キリトも捕らわれたことのあるデスゲーム「SAO」で知り合い、共に多くの困難を乗り越えて、解放された現在は恋人の関係となった。彼女が選んだ種族は水を操るウンディーネ。ゆえに現実では栗色のロングヘアーだが、このALOでは青髪となっている。女子としては背が高めの身長で、ノースリーブとスカートを着用。足元はニーハイと白ブーツで決めていた。さらに、腰には武器であるレイピアを帯刀している。
一方でユイも、同じくSAOで知り合ったが、その正体はゲームを監視するAI。さまよっているところを二人に助けられ、以後本物の父親と母親のように慕う仲となった。アスナと同じく腰まで伸びたロングヘアーで、髪の色は黒。また普段は十歳ほどの少女の姿だが、ピクシーとして手のひらに収まるほどの妖精に変身することもでき、仲間をサポートしている。そんな三人は、近くにあったベンチへと座り仲間が来るまで談笑で待つことにした。
「あ~あ。春休みももうすぐ終わっちゃうね……」
「そうだね。しばらくしたらまた学校だしな」
学校への登校が迫り、憂鬱に思ってしまうアスナ。二人は現在、SAO被害者の通う特別学校へ在籍しており、とれなかった中学や高校の単位をとろうとしている。そんな会話の中でユイはというと、
「でも、終わらない春休みも少し怖いですけどね」
独自の考えを呟く。彼女の返答に、思わず二人はクスッと笑ってしまう。
そんなアスナも一か月前は、ある一人の少女と出会いその一生を見届けていた。それ以来、彼女の心はより成長したとキリトは感じている。
「アスナ――だいぶ成長したな」
「ん? 何か言った、キリト君?」
「いや、何でもないよ」
少女のために一生懸命になれたからこそ、キリトはその努力を誰よりも知っている。そう心の中で感じていた。そんな時、アスナはとある話題を振ってくる。
「あっ、そうだ、キリト君! マルチバースって知ってる?」
「マルチバース? パラレルワールドみたいなものか?」
「そうそう! この間ね、ユイちゃんに都市伝説系の番組のことを話したら興味を持ってくれて,最近調べているのよね」
内容はマルチバースについてだった。一体どういうものなのか? 詳細はユイが説明してくれた。
「はい、そうなんですよ! マルチバースとは多次元宇宙論。多くの宇宙が壁のように入り組んでいて、つながっている説なんです!」
「つまり、俺達のいる地球とは別に多くの宇宙や地球が存在しているってことだよな?」
「はい! その通りです!」
ユイの言う通りマルチバースとは、多くの宇宙が存在している説である。立証はされていないが、ユイはあの番組を見て以降その考えを信じている。二人もこの意見には好意的だった。
「どうですか、パパ? 別の宇宙ってあると思いますか?」
「う~ん……どうかな? 信じがたいけどあるのかもしれないな。最近はブラックホールを通り抜けると、別の宇宙があるって説も出たし」
「別の宇宙か……一体どんな世界があるのかな?」
「きっとSAOやALOみたいに、本当に魔法やモンスターのある世界とか」
「漫画やアニメとかの世界も、別の宇宙に存在していたりしているのかもな」
「一度でいいから行ってみたいですね! 別の世界に!!」
三人がマルチバースの話題で持ち切りになり、話していた時である。ふと、周りの変化に気づき始めていく。
「って、アレ?」
「どうしたの? キリト君?」
「時間、止まってないか?」
開いたメニューを見ているとそこには、先ほど見たはずの時刻が全く動いていなかった。さらに周りを見渡すと、まるで時が止まったかのように他のプレイヤーは動いておらず、キリトら三人だけが流れに逆らって動いていたのである。
「いつの間に、こんなことになったの?」
「一体どうして? 運営のミスでしょうか?」
「いや違う……何かがおかしい……!」
一瞬、バグの可能性も示唆したがこの現状は普通ではないとキリトは感じ取った。そして、嫌な予感は的中し彼らの頭上に物体が重なりあう。上を見てみるとそこには――
「何だ、アレ……」
巨大で渦巻く黒い雲が仮想世界の空を覆っていたのだ。当然、それに気付いているのは動いている三人だけである。
「あれってまさか、さっき話していたブラックホールじゃないですか!?」
「嘘!? じゃ、なんでこの世界に……」
見れば見るほどその雲は信じがたい。未体験の恐怖に警戒心を高めていると、急に足音が聞こえてくる。
「足音?」
現在は誰も動いていないはずだが、足音のする方向へ体を向けるとそこには、
「アハハハハ……どうやら成功したみたいだね。ブラックホール」
黒いローブを羽織った小柄な少女がいた。頭を覆ったフードからほのかに見える口はニヤリと笑い、不気味な雰囲気を漂わせる。
「あなた、何者なの?」
アスナの問いに彼女は、愉快そうな声で返答した。
「私? まぁ、強いて言うならブラックホールを作り出した張本人ってところかな?」
「あなたが一人でやったんですか?」
「違う~違う~。サイコギルドが作り出したんだよ」
「サイコギルド? それがお前達の組織なのか!?」
「そうだよ~」
質問されようとどこか楽しんで答える少女の姿は、自分のやったことに責任を感じていないように見える。そもそもサイコギルドは、彼らにとって聞いたことのない組織だ。ブラックホールの生成にゲーム時間そのものを止める能力。それはあまりにも人間離れしており、その行動が常軌を逸していることを物語っていた。
「あなた達の目的は一体なんなの!!」
「早くこの世界を元に戻してくださいよ!!」
勇気をだして歯向かうアスナとユイだが、もちろん少女が要求に応じるつもりなんてない。そして、ついに最終手段へと彼女は出る。
「フフ……いいよ。その代わりあなた達には犠牲になってもらうけどね!!」
少女は背中に装備された三つ槍を手に持ち空へと掲げた。その瞬間、上空を渦巻くブラックホールが動き出し、キリト・アスナ・ユイを取り込もうと巨大な竜巻を作りだす。
「うわぁ!! こ、これって……」
「俺達を吸い込もうとしているのか!?」
ついには竜巻に捕らわれてしまい、体の自由が効かなくなる三人。例え羽を広げても風の勢いは増していき、徐々にブラックホールの目へと近づいていく。
「このままじゃ、吸い込まれちゃいますよ!!」
「そんな……サイコギルド!! 俺達をどうする気だ!!」
キリトの問いにも彼女は全く動じない。この状況でも彼らがブラックホールへ吸い込まれるのを、ただじっと見るだけである。そして、
「さぁ、行ってらっしゃい……別の地球へ」
その言葉とともに三人は、ブラックホールの目に入り飲み込まれてしまった。
「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」」
「アスナ!! ユイ!!」
まずは、アスナとユイの二人がブラックホールの彼方へと飛ばされてしまう。それに続きキリトも二人を追いかけ奥へと進むが、漆黒の闇が続いていくとしばらくして気を失い、風のままに三人はある世界へと飛ばされてしまった。
「本当に消えちゃったよ!! さて後は、六人と一匹か……あいつに任せようかな?」
その様子を眺め満足したローブの少女は、指を鳴らしてブラックホールを消滅させる。すると、何事もなかったかのように時間は元通りに動き、町は賑わいを取り戻す。少女はその人混みの中へと消えていった。
一方で、現実世界では桐ケ谷和人の部屋と結城明日奈の部屋に本来あるはずの肉体が跡形もなく消えている。こうして物語は始まりを告げた……
「アレ? どうなったんだ、俺達……」
しばらく経ってキリトはようやく目を覚ます。最初に目にしたのは青空とビル。そして起き上がると自分が眠っていたのは、ビルに囲まれた裏路地であることがわかった。
「ここは一体? そういえば二人は!?」
まだあまり状況は把握していない。周りにはさっきまでいたアスナとユイはいなく、所持品も武器である黒い長剣と金色のエクスキャリバーのみである。ひとまずキリトは試しにメニューを開こうとするが、
「やっぱり、開かないか……」
別の世界のため全く反応しなかった。予測してはいたが、いざその事実に直面すると一気に不安が募り始める。
「……ひとまず外へ出てみるか」
行動しないと事態が動かないと思い、キリトは太陽の照らす大通り方面へと進む。そして、ようやくこの世界の町並みを見ることができたのだ。
「えっ? ここは――」
彼は目を疑ってしまう。目にしたのは理解を超えた世界だった。江戸時代のような風景が広がり、町を行き交う人々も和服や振袖で歩く姿が多く、洋服を着ている人が極端に少なかった。その影響かキリト自身も、この世界の住人に好奇の目線で見られてしまう。さらに、驚いたのはこれだけではない。
「建物は江戸と現代が入り混じっているみたいだし、舟も空を飛んでいる? 人間以外の生物も存在しているのか?」
文明の違いだった。江戸の風景にも関わらず、この世界には高層ビルが乱立し奥には細長いタワーらしき建物がそびえ建っている。しかも人通りを見てみると、そこにはとても人間とは思えない二足歩行の生物が町を歩いている。さらに空中では舟が飛び交い、文明のレベルがキリトの思い描く江戸時代とは異なるほど、科学が発達していた。むしろここは、自分のいた世界より発展しているのかもしれないと感じている。
「本当に別世界なんだな……じゃアスナとユイもこの世界に来ているのか……?」
これらのことから別の世界と確信したが、不安として残っていたのはアスナとユイの行方だった。本当にこの世界にいるのか? もしかすると、こことはまた別の世界にいる可能性も否定しきれない。キリトはただ立ちすくみ呆然としてしまう。しかし、マイナスな考えを振り切り、自分のやるべきことを心の中で確信させた。
「でも、まだ希望はある――探さないと。二人を!!」
拳を握り直し気持ちを切り替えたキリトは、その時思わぬ事実へ気付く。
「な、なんだ? 羽?」
ふと背中を見てみると、そこにはALOでも使用できたアバター特有の羽が生えていた。種族によってその色や形は異なるが、キリトの種族であるスプリガンの場合は、黒く細い羽が四方に生えている。別の世界とはいえ羽はこの世界でも使えるらしい。
「そうか、一応飛べるんだな。なら!」
するとキリトは、羽に力を込めてあっという間に空中浮遊へ成功。空を飛び始める。
「これで探すか!」
そして低空飛行のまま町を移動して二人を探すことにした。自分の常識が通用しない世界で、彼の心は不安で押しつぶされそうになっている。戻る方法。泊まる場所。食事など、もし出会えたとしても問題は山積みであった。
(今は二人を探すことに集中しろ。でも、もし見つかったとしても俺達はこの後どうすればいいんだ……どうすれば……)
邪念を払いのけ、キリトはひたすらに南西方向へと進んでいく。
この世界は仮想世界ではない。かつて侍の国と呼ばれた平行世界の地球である。二十年前、突如宇宙から舞い降りた天人と呼ばれる宇宙人の台頭により地球は宇宙へと開国。江戸時代でありながら高度な技術を持つ文明へと発展していったが、その代償としてこの世界にいた侍は衰退してしまった。しかし、その世界に一人の侍魂を持った男がいる。その男は現在スクーターを走らせ、仲間へ愚痴をこぼしている。
「あ~~いやだ~~働きたくね~~」
「しょっぱなから何を言ってんだ、天パ!! 主人公にあるまじきセリフだよ!!」
スクーターへ乗り込んでいたのは、二人の男。一人は着物を着た成人男性で、銀髪の天然パーマとけだるそうな表情が際立っていた。さらに腰には、洞爺湖と書かれた木刀を収めている。彼の名は坂田銀時。銀魂の世界における主人公であり頼まれればなんでもやる店、万事屋を営むオーナーでもある。一方もう一人は、袴を着た男子で銀時よりも若い。ツッコミと眼鏡が何よりも特徴的なその男子は、志村新八。万事屋の従業員である。他にも万事屋には神楽や定春といった仲間がいるが、今回はこの場には同行していない。三人と一匹で構成される万事屋は、なんでも屋として小さな手伝いや大きな乱闘まで多種多様に仕事をしている。今回は新八の勧めで二件ほど仕事を見つけてあさっての予定が埋まったのだが、銀時のモチベーションは依然として上がらず、しまいには愚痴を垂れ流しているという。
「あんさ、なんで二件続けてあさってになるわけ? おかしいだろうが」
「仕方ないでしょ。依頼人にちょうどいい日程を聞いたら、二組共この日を選んだんですから」
なんとかやる気を取り戻してもらおうと思い新八は銀時をなだめていく。しかし愚痴は収まらず、ついにはとんでもないことを口走ってしまう。
「ああ、働きたくねぇよ。なんだったらもうSAOにでも閉じこもって、一生を終えた方がまだマシだよ」
「さりげなくとんでもないことを言ってんじゃねぇよ!! 電撃文庫にも喧嘩を売る気ですか!?」
SAOをネタにした銀時の発言に、新八はツッコミを入れる。銀魂ではパロディや下ネタは日常茶飯事になので、これでも平常運転であった。一方、銀時の文句は続く。
「だってよ、最近勢いがあるっていうだろ。SAOって」
「確かに……劇場版も売れて三期も決定。この前は外伝もやっていたから、他のアニメから見ればいいライバルですよね」
新八はSAOの近況について、軽く呟く。銀時もSAOというコンテンツに対してライバル視しているみたいだが、どうやら新八の思っていたこととはだいぶ違うらしい。
「ハァ? 何を言ってんだ、新八? まだ二期すらも始まっていないのに三期とか気が早いんじゃないのか?」
「ええ? だってさっきSAOって」
「バカヤロー。SAOっていうのは――SさてはAアンチだなOオメーってことじゃないのか?」
「そっちぃぃぃぃ!? それポプテ〇ピックだろうが!? SAOってそういう意味じゃないから!! ソードアート・オンラインの略だから!!」
新八がツッコムのも無理はない。銀時がSAOと〇プテピピックをごっちゃにして、同じように思っていたからだ。ちなみにポプテピピ〇クとはアクの強い四コマ漫画である。とても、SAOとは似ていない作品だが。それは置いといて、新八は銀時へ教え直す。
「ええ!? そうだったの!?」
「そうですよ! SAOはクソ四コマじゃないから! れっきとしたライトノベルだから!」
「あーわかったよ。ソードアンチ・オンラインってことだろ?」
「ポプ〇ピから離れろ!!」
止まらないボケとツッコミの応酬。まさに銀魂のノリだ。おふざけも済んだところで、二人は話を戻す。
「わかっているよ。SAOって言うのは、キリトやアスナとか出てくるVTR空間を舞台にした作品だろ?」
「VR空間ですけどね。でも、知っているじゃないですか。ひとまず安心しましたよ」
「あったりまえだ。仮にも同じアニプレックス所属のアニメだぞ。だいたいのことは、知ってんだよ」
どうやらボケで言っていたらしく、銀時はSAOの知識を少しは持っていた。
「確かに。でも抑え目に言わないと、キリトさん達がこの世界へ乗り込んできますよ」
「んなわけないだろ。あいつら真面目な作品だぜ。そんなこと起こらねぇよ」
「確かにそうですね!」
「「ハハハハハ!!」」
真面目なアニメだからということで、好き放題言ってしまう銀時と新八。この近くにSAOの関係者なんかいるわけない。だからこそ呑気に笑っている。そんな二人が、曲がり角へと差し掛かり右へ進んだ時だった。
「って銀さん!! 前~!! 前~!!」
「うわぁぁぁぁ!?」
突如目の前に黒い物体が出現する。止めようにももう間に合わず、銀時らは物体とぶつかりスクーターごと横転してしまった。
「って銀さん!? 大丈夫ですか!?」
幸いにも二人に怪我はなく、新八はすぐに銀時へ声をかける。しかし彼は、体を震えさせて思いっきり動揺していた。
「だ、だ、大丈夫だ! 落ち着け! まずは落ち着いて転移結晶を探せ!!」
「アンタが落ち着け!!」
SAOに存在するアイテムをネタに、この場から逃れようとする銀時。初期のころに見られたタイムマシンネタである。それはさておき二人は立ち上がると、まずは心を落ち着かせた。
「そ、そうだよな! きっと大丈夫だよな! ぶつかった奴も生きているよな!」
「大丈夫ですよ! ほら、声をかけにいきましょう!」
呼吸を一旦整えると、二人はぶつかった男のもとへと駆け寄った。
「おーい、大丈夫か?」
「どこもケガはありませんよね?」
と男の顔を見た時である。共に表情が一瞬にして凍りついてしまう。
「――おい新八。なんで動かないんだ?」
「そういう銀さんも動かなくなっているんじゃないですか」
「だってよ。今、目の前にいるのは誰だ?」
「キリトさんでしょ」
なぜなら、ぶつかった相手が別の作品の主人公だったからだ。
「新八君……夢じゃないよな?」
「夢じゃありませんよ。だって、この人は紛れもないキリトさんですよ……電撃文庫に所属するSAOの主人公ですよ……!!」
唐突に現れる沈黙。そしてついに、互いの感情が爆発する。
「って、なんでこの世界に来てるんだよ!!」
「知るわけないだろ、そんなもん!! こっちが聞きたいですよ!!」
銀時は新八の肩をつかみ自らの疑問を大きく問いかけた。しかし、新八も混乱してどうすればいいのかわからないので、二人の叫びは断末魔のように響き渡っていく。
「おい! 落ち着いて聞けよ、新八! こいつはな、ラノベ主人公の中でもトップに君臨する男だぞ! 俺達のような下ネタとパロディ・終わる終わる詐欺とは無縁といっていいほど遠い存在の男だぞ! なんでそんな男が、この「銀魂」の世界に来ているんだよ! しかもアバターのまま! もうわけがわからねぇよ!! 助けてー!! 川原〇―!!」
「って、SAOの原作者に全て丸投げしているんじゃねぇよ!!」
焦りのあまり原作者をもネタにした銀時。それくらい彼は、この事態に動揺している。とそんな時、キリトはすぐに気を取り戻した。
「ん? 痛ぁ……ってぶつかったのか?」
頭を抱え自分の無事を確認する。どうやら、大して体に影響はないらしい。そして、目にした光景は二人の男が喧嘩している場面だった。
「えっ? 何があったんだ?」
もちろん話しかけようとしても喧嘩に夢中で気づいていない。耳を傾けても、
「だいたいどう対応すりゃいいんだよ!! 俺はな、まともなアニメキャラクターを相手にしたことがねぇんだよ!! 下ネタもメタネタも通じなねぇ男主人公にどう対応すりゃいいんだよ!!」
「落ち着いてくださいよ、銀さん!! なんとかなりますから!! 銀さんならできますから!!」
連続したメタ発言により意味がわからず、理解していなかった。
「どういうことだ? 銀さんというのは、あの男なのか?」
会話の中で、キリトは銀髪の男の名前を銀さんだと理解した。しかし、それ以外は全く意味が分からない。とその時、遠くの方である声が聞こえてきた。
「この声は!?」
その瞬間キリトの表情は一変する。かすかだがアスナとユイの声が聞こえたからだ。衝動的に動き、キリトはこの場をすみやかに去っていく。
「って銀さん!? 見てくださいよ!!」
「なんだよ!! って、あいつ!? どこ行きやがった!?」
一方で銀時、新八はようやくキリトが逃げ出したことに気付く。彼が逃げたと思われる路地を進み大通りへ出てみると、
「あっ!! いましたよ!!」
南東方向へ羽を広げて、どこかへと向かうキリトの姿を見つけていた。
「いくぞ!! ぱっつぁん!!」
「はい!!」
二人はスクーターを起こして、勢いよく乗り込む。急発進して、キリトの元を追いかけた。すると、数分も経たないうちに空を飛ぶ彼の元へと辿り着く。
「ん!? あっ!! さっきの男達!? 確か、銀さんだったか!?」
気配を感じたキリトが後ろを振り返ると、そこには先ほど喧嘩をしていた二人が、すごい剣幕で追いかけてくるのが見えた。そして銀時が、勢いよく話しかけてくる。
「おい、どうしたんだよ!! 急に起き上がったと思いきやトンボみたいに飛びやがって!! 一体、何があったんだよ!!」
「さっき、アスナとユイの声が聞こえて今探しているんだよ!」
「アスナ? ユイ? 誰だそりゃ?」
「俺の恋人と子供だ!」
「ああ、そう。って、ええええ!?」
「銀さん!! 前! 前!」
会話の中で出た言葉に、理解できない銀時はよろけて運転もおぼつかなくなる。新八に注意されてようやく運転も戻ったが、脳内は未だに混乱状態であった。
「おい!! ガキのくせして恋人に腰を振ってセ〇〇〇した挙句〇ス〇を作るとはどういうことだぁ!!」
「って、いきなり下ネタを言うんじゃねぇよ!! 天パ!!」
勢いのまま下ネタまで口走ってしまう銀時に、新八が強くツッコミを入れる。それを聞いたキリトはというと、
「えっ? 腰ってどういう?」
最初意味がわからずにいたが、徐々に理解していき顔を真っ赤にしてしまった。
「ア、アンタ!! 公共の場で何てことを言ってんだよ!! もうちょっと言葉をわきまえろって!!」
「なんだと!? やることやっておいて、逆ギレしているんじゃねぇよ!!」
「いや、逆ギレはアンタだろ!!」
「そもそもこの世界じゃ公共の場でも金〇とか〇〇〇とかの下ネタが許される世界なんだよ!!」
「それ、どんな世界だよ!!」
「ストップ!! ちょっと待ってくれ!!」
銀時と新八がボケとツッコミを繰り返しているうちに、キリトが割って入り彼らのスクーターを止めさせた。と同時に、羽を収め地上へ降りると彼らへ話しかける。
「あの、そもそも誰なんだ? アンタ達は?」
「誰って万事屋だけど」
「よろずや?」
聞いたことのない仕事名にキリトは首を傾げてしまう。すると新八が補足を入れる。
「えっとつまりですね、金さえ払えば家事や人探しをする代行サービスみたいなものですよ」
「それがアンタ達なのか?」
「そういうことだ」
万事屋の意味を知りキリトの心は少し落ち着いていた。ようやくであるが、話せる相手ができたからである。
(万事屋……この世界のなんでも屋ってところか。この人達に訳を話せば手伝ってくれるのか? でも結局はお金だよな……)
彼らとの出会いで一筋の希望を感じたが、残念ながら彼はこの世界の金銭を所持していない。またも途方に暮れるキリトの元に突如バイクの音が聞こえ、銀時が声をかけてきた。
「それでそのアスナとユイってやつはどこへいるんだ?」
「えっ?」
なんと幸運なことに万事屋は、アスナらの捜索を手伝うと言ってきたのだ。これにはキリトも驚きの表情を見せている。
「いいのか? 俺、金なんて持っていないんだぞ!」
「いえ、関係ありませんよ。これは僕らの善意ですからお金なんていりませんよ」
「そうだぜ。だからさっさと案内しろよ。お前がいないと場所なんかわからないからさ」
銀時達の隠れた優しさを見て、キリトは感じ取ったのだ。この人達は厚い人情を持っていると。少なくとも悪い人間でないことは雰囲気でわかっていた。
(万事屋……まだわからないけど、ここは信じてみるか!)
そう心に決めると、キリトは再び羽を広げ空中浮遊する。
「よし! じゃ、ついてきてくれ二人共!!」
「ああ! 任せておけ!!」
こうしてキリトの案内のもと、銀時と新八は彼へ連いていった。まだわからないことだらけだが一つだけわかったのは、キリトの心には彼らに対する信頼が芽生え始めていたことだった。
「あ~ん。うん! やっぱりポテトチップスはうすしおネ!」
銀時がキリトと出会うほんの数分前。一人の少女は、買い食い用として買ったポテトチップスを片手に犬の散歩をしていた。犬といってもその背丈は成人男性くらい大きい。そう彼女こそがもう一人の万事屋メンバー、神楽とそのペット定春である。赤髪にズボン型の赤い中華服を着て、紫色の和傘を手に取っている。実は彼女、地球人ではなく異郷の星出身。いわゆる宇宙人、いや天人なのだ。一方、定春は白い体色のペット。狛犬と呼ばれる由緒正しい犬で、今は万事屋の一員として活躍している。そんな神楽は、いつもの散歩コースとは別に人気の少ない工場地帯を歩いていた。
「定春も食べるアルか? 塩が効いていておいしいアルよ!」
「ワン!」
威勢の良い鳴き声が返ってくる。これは、興味を持ったサインであった。ちなみに神楽は食い意地の張った性格で、小柄な見た目にも関わらず結構食には太い方である。そんな神楽と定春が散歩を楽しんでいた時、定春はある気配を察した。
「ん? どうしたネ定春?」
すると彼は近くにあった廃工場へと近づく。
「ワフ~~」
「ここに何かいるアルか?」
窓の前で止まり怪訝そうな顔でにらみつける定春に、神楽は訳があると思いその窓を見つめる。そこで見たのは、
「あっ! 女の子が二人捕らわれているアル」
気絶した少女二人が倒れこむ様子だった。しかもその奥では、ピンクの色をしたナメクジらしき天人が密談を交わしている。どうやらあの少女達は、なんらかの事件に巻き込まれたようであった。
「ワフ……」
定春はこの匂いに反応して工場へと近づいたみたいだ。しかしこの状況を様子見して、神楽はしばらく動かないことにする。
「待つネ、定春……今は様子を見るネ」
小声で交わし神楽と定春はそっと気配を消した。だがこの時、彼女はまだ気づいていない。捕らわれた少女二人が「ソードアート・オンライン」のヒロイン、アスナとユイであることに……
「ん? 何が起こったの?」
一方で、アスナはようやく目を覚ます。見渡すとそこは人気のない廃工場。横にはまだ眠っているユイがおり、目の前には後ろ姿で話し合うナメクジらしき生物が見える。
「やっぱり、ALOじゃないの?」
試しにメニューを開いてみようにも、当然現れることはない。これが別の世界の証明にもなった。さらに、ナメクジらしき生物からはこんな会話が聞こえてくる。
「いや~いい天人が捕獲できたな」
「これでベーロ様も大喜びだ。ココアでもいれて祝杯としよう!」
それは、低い男性のような声だった。この二匹の会話から友好的でないと察したアスナは、今自分達のいる状況が危機的であることに気付き始める。
(あまんと? もしかして私達のこと? って、早く逃げないと!!)
すると彼女はユイを起こし、この場を逃げようと画策した。
「ユイちゃん、起きて! 逃げるわよ!」
「ママ? ここは?」
「説明は後! 今はとにかくこの場を去ろう!」
ユイもアスナの必死な表情から察して共に脱出を試みる。すぐ近くのドアへ見つからないように移動したのだが……
「アレ開かない?」
「外側から鍵がかかっているのでしょうか?」
残念ながらドアは固く締められていた。これで一つの脱出方法は閉ざされてしまう。
「なら、窓からなら――」
近くにあった窓を見つけて、次の脱出方法を考えていた時である。
「きゃぁぁぁ!!」
「ユイちゃん!? うわぁぁぁぁ!!」
二人の足元をヌルヌルした触手が襲い、足を捕まれるとそのまま引き込まれてしまう。そう、あの生物にとうとう見つかってしまったのだ。
「困るね。逃げられてしまったら計画が形崩れだからね」
ナメクジ達は悪びれることなく黙々と話し出す。その姿は、かつてアスナがALOに捕らわれた時にいたナメクジ型の研究員と酷似しており、アスナ自身もデジャブを感じている。
「くっ……あなた達! もしかしてサイコギルドなの? 私達をどうする気よ!」
拘束されながらもアスナは冷静さを失っていない。サイコギルドと関連性がないかナメクジ達に問いただしたのだが、
「サイコギルド? 知らないな」
「そんな……」
全く心当たりはなかった。いずれにしても脅威なのに変わりはない。
「さて、能書きはいいからこいつらどうします?」
「逃げられないように体内へ入れて保存しますか?」
「そうしよう」
会話を交わした後ナメクジ達は、唾液でべっとりした口を開く。そこへアスナとユイを取り込ませようとする。
「ま、まさか、私達を食べる気!?」
「そうだよ。だが安心しろ。殺しはせずに、保存するだけだ。大切な生贄だからな!」
「やめてください!! 離してくださいよ!!」
危機的な状況を逃れようと二人は抗うも、触手はビクともせず徐々に口元へと近づいてゆく。まさに絶体絶命である。
(くっ……このままだと本当に食べられちゃう……抵抗もできないし、レイピアもこの状況じゃ……)
腕をも縛られ武器として収めているレイピアを抜くこともできない。戦う手段を失い絶望しかけた時であった。彼女らにようやく救いが訪れる。
〈パキーン!!〉
「ちょっと待つネ!!」
聞こえてきたのは、窓が割れる音と威勢の良い少女の声。思わず後ろを振り向くとそこには、巨大な白い犬に乗った赤髪の少女が見えた。窓を破壊してやってきた少女は、手にした傘を使いナメクジ達に立ち向かう。
「くらえアル!!」
傘の先端からガトリング砲を放ち、その弾丸でアスナとユイを縛っていた触手を攻撃。ナメクジ達に痛みを与えたところで、彼女らを解放させた。
「「グワァ!」」
「えっ? きゃっ!」
「よっと!」
離した隙に神楽はアスナを、定春はユイを乗せて安全に地上へ降ろしたのである。
「な……なんだ!?」
「ガキ一人が助けただと!?」
突然の出来事に動揺するナメクジ達。一方で、神楽は早速アスナへ話しかけた。
「ふぅー大丈夫だったアルか? 二人共?」
「ええ、何とか……ユイちゃんは?」
「こっちも大丈夫ですよ!」
どうやら二人共に大きなケガもなく無事で、神楽も安心してほっとする。アスナは助けてくれた赤髪の少女に対して、早くも好感を持ち合わせていた。
「ところで、あなたは?」
「あっ、私アルか? 私は神楽ネ!」
「神楽さん?」
片言の日本語を話し独特の雰囲気を放つ神楽に、アスナの心には信じる気持ちが高まっていく。一方で、ひるまされたナメクジ達は活動を再開させる。
「チッ、やっぱり夜兎だったか……」
「なんて奴に目をつけられたんだ」
「「ヤト?」」
聞きなれない単語に首を傾げるアスナとユイ。だが神楽は、動揺することなく続けざまに強気に言い放つ。
「ふっ。その通りネ! こんなかわいい女共を胃の中に入れるなんてとんだ変態アル!
私が倍にして返してやるネ!!」
そう言うと神楽はフッと勝利を確信させた表情で笑った。そんな彼女の勇敢な姿に感化されると、アスナもレイピアを抜き神楽の横へと並ぶ。
「ねぇ、神楽ちゃん! 訳は後で話すから今は一緒に戦いましょう!」
「いいや、私にそんな必要ないネ!!」
「でもこのままじゃ……」
「大丈夫アル! 私にはこれがあるネ!」
アスナの加勢を断り、神楽はある秘策を使ってこの戦いを一気に終わらせるという。そのために取り出したのは、
「タラりらたたーん!! ポテトチップスー!!」
「はっ?」
「えっ?」
先ほどまで食べていたポテトチップスであった。某猫型ロボット風のダミ声で紹介する。拍子抜けした切り札の存在に、アスナとユイは開いた口が塞がらない。だがこれを見たナメクジ達は、
「おい! アレを見ろ! あの娘、ポテトチップスを持っているぞ!」
「しかも塩味だ!! 俺達を殺す気満々だぞ!!」
袋を見ただけで体が震え始めて汗を多くたらしてしまう。実際に現実でもナメクジは塩に弱く、神楽の予想通り効果があるようだ。そして、
「くらえー! アンチは外―!」
「ブホォ!」
「信者は内―!」
「ぐはぁ!」
神楽は大量のポテトチップスを握り潰してナメクジ達へ向けてばらまき始める。その姿は豆まきを彷彿とさせるものであったが、ばらまいている姿は当然なごやかなものではなく、戦場で繰り広げられる悲鳴が響き渡る光景だった。
「に、逃げろー!」
「もう、やめてくれー!!」
一分後には、耐え切れなくなったナメクジ達が、塩の魔の手から逃れるためにこの場を去ってしまう。完封勝利を決めた神楽は、最後にポテトチップスの袋を放り投げ、親指を立てたサムズアップの決めポーズでこの戦いに幕を閉じる。
「ふぅ~大勝利アル!!」
「って、どんな勝ち方!?」
「ポテトチップスに負けるモンスターなんて聞いたことありませんよ!!」
神楽の勝ち方に思わずツッコミをいれてしまうアスナとユイ。変わった勝ち方であるが、気転の効いた勝利によって助けられたのも事実であった。
「でも、これでみんな助かったアルな!」
「ワン!」
定春も神楽と同じくこの勝利に祝福する。そして、アスナやユイもお礼を伝えた。
「そうね……神楽ちゃん。助けてくれてありがとうね」
「別にいいアルよ。ところで、二人はなんて言うアルか?」
「あっ、私はアスナよ」
「私はユイです!」
「なるほど。ユイにアッスーアルか!」
「アッスー!? 随分独特な呼び名ね……」
三人の女子は、軽く自己紹介をして互いの名前を知った。そんな中で神楽は、アスナへ早速質問する。
「ところでアッスーは、どこの星から来た天人アルか?」
「えっと、星にあまんと?」
神楽の質問へ戸惑いを見せるアスナ。思わず質問で返してしまう。
「ねぇ、星とかあまんとって何なの?」
「アレ? わからないアルか? それは……」
と神楽が言いかけた時である。
〈シュル!!〉
「ってうわぁぁ!!」
「きゃっ!」
足元に落ちていたポテトチップスの袋に滑ってしまい、神楽はバランスを崩してしまう。さらにアスナをも押し倒してしまい、二人共々体制を崩してしまった。
「ママ!? 神楽さん!? 大丈夫ですか!?」
ユイが心配そうに声をかける中、二人はというと
「「えっ!?」」
共に抱き合って口付けを交わしている。トラブルとはいえ滅多にない同姓のキスがここで実現した。
「ウグググ!? (神楽ちゃん!?)」
「ブクブブ!? (アッスー!?)」
二人はふと目を合わせると冷静に戻りすぐに離れる。ポテトチップスも含んでいることから、しょっぱくも淡い味が互いの口元を漂っていた。
(これが女の子同士のキス……少ししょっぱい……)
(年上の香りがしたアル……なんか不思議な感じネ……)
口元を拭いて黙り込んでしまうアスナと神楽。少し気まずいムードが場を包む。しかしユイだけはある事に気付き、それを伝えるべくアスナへ話しかけた。
「ママ……?」
「あっ。ユイちゃん。これはただのトラブルだからそんな深い意味はないのよ」
「いや、それはわかっているんですけど……パパが来ました」
「ああ、そう。えっ!?」
そう言われ表情を変えるアスナ。思わず出口付近を見てみると、
「アスナ……?」
思いっきりドン引きしているキリト、そして同行していた銀時と新八が立っていた。三人は悲鳴を聞きつけ駆け付けたが、もうすでに遅く二人のキスシーンを目撃したらしい。
「ぎ、銀さん。アレ大丈夫ですよね? 各方面から、訴えられませんよね?」
「ああ、そうかもな……だったらやる事はただ一つだ」
この状況をまずいと思った銀時と新八はゆっくりと下がっていき、
「「失礼しました!!」」
勢いのまま場を去ってしまう。この状況にキリトもわからなくなり彼らを追いかけていく。
「って二人共!? どこ行くんだよ!!」
「待ってよ!! キリト君!!」
「お~い! 人を百合呼ばわりして逃げるんじゃねぇよぉ!! ゴラァ!!」
慌てた表情となり誤解を解こうと女子達も追いかけようとするが、廃工場を出たところで男子達を見失ってしまう。
「って、もういないアル!!」
「もう~! どこ行っちゃったのよ!」
一刻も早く誤解を解きたい二人。だが、ユイだけは対照的に二人ほど焦っていない。
「あの……そこまで気に病むことはないんじゃないでしょうか?」
「ユイ!? それどういう意味アルか!?」
「だって、ママと神楽さんは口付けを交わすくらい友情を深めあったということですよね? だったらもっと誇ってくださいよ!! 友情を超えた愛だと言うことを!!」
「まったくわかってないじゃん!!」
「お~い!! 余計にややこしくなっているアルよ!!」
ユイにとって、アスナが神楽と仲良くなるのは喜ばしいことだが、その何気ない優しさが二人にショックを与えてしまう。事の重大さを理解していないユイだった。
しかしこれでようやく、キリト・アスナ・ユイはこの世界で無事に合流し、万事屋というバカ共と出会うことになったのである。物語はまだ始まったばかりだ……
後篇もあるのでぜひそちらもどうぞ。