「じゃ、明日はよろしくね。みんな」
「はい、よろしくです!」
別れの挨拶を交わし、万事屋と妙はそれぞれの帰路についていた。
秋が深くなりつつあるかぶき町にて、万事屋は今日妙とある買い物に付き合っている。それは明日に約束していた妙と九兵衛の約束事であった。
「アスナさん。明日は姉上の用事に付き合ってくれて、ありがとうございます」
「全然良いわよ。むしろお妙さんに、正しい料理を教えておかないと、新八君だって大変でしょ?」
「確かにそうですね……」
新八の微妙な表情に、アスナもつい共感している。アスナ本人は明日、妙と料理の練習を約束しており、彼女の作る料理とは言えないダークマターを少しでも料理に近づけさせたい為に、料理の先生役として打って出ていた。
これも新八や神楽の為を思っての行動らしい。
「それでキッリーは、九ちゃんとリッフーの稽古に付き合うアルか」
「そうだな。一回九兵衛さんとも戦ってみたかったし、スグの稽古の様子も気になるからな」
一方でキリトは、九兵衛とリーファの稽古の約束を交わしている。二人の普段の鍛錬の様子を見たく、成長したリーファとも戦ってみたい思いから、明日柳生家を訪れる様子だった。
キリト、アスナ共に用事がある中で、ユイにはまったく別の用事を銀時達と約束している。
「パパにママ。明日は頑張ってくださいね!」
「んで。お前は結局行かないことにしたのか?」
「はい! 悩みましたけど、二人の用事を優先させたいですし、何より明日は気になっている小説の発売日ですから! 銀時さん、一緒に買いに行きましょうね!」
「はいはい、分かってるから」
ユイは気になる小説を買う為、銀時らと本屋へ行く約束をしていた。目を輝かせてワクワクするユイに対し、銀時はぶっきらぼうに返事している。
いずれにしても、万事屋の面々は明日バラバラにそれぞれの約束や用事を入れていた。
各々が明日の予定を確認する中で、神楽はあることを思い出している。
「あっ」
「どうしたの、神楽ちゃん」
「姉御から借りていた本、今日返すの忘れていたネ」
妙と別れたばかりにも拘わらず、返す予定だった本を渡し忘れていた。それを聞いたキリトは、神楽の代わりに妙へ本を返すことにする。
「じゃ、俺が渡しに行ってくるよ」
「おっ、良いアルか。キッリー」
「おいおい、明日で良いんじゃないのか?」
「いいや。明日は稽古に集中したいし、そんなに距離も離れていないから、すぐに渡して戻ってくるよ!」
彼は忘れないうちに本を返したいようで、羽を広げて飛ぶと、そのまま妙にいる方角へと素早く向かっていった。
「まったくキリト君ってば」
「稽古は明日なのに、やる気に満ち溢れていますね」
「そこがパパの良さですからね!」
変わらないキリトのマイペースぶりに、安心感を覚えるアスナ、新八、ユイ。彼ならすぐ戻ってくると確信して、一行は万事屋へと戻っていく。
一方でキリトは、本を抱えながら飛び、恒道館へ戻ろうとしていた妙に追いつこうとしていた。
「お妙さんー!」
「あら、キリちゃん。どうしたの?」
「神楽から本を返しに――」
と地上へ降りようとした――その時である。
「うわぁ!?」
「きゃ!?」
タイミングが悪く、彼の目の前をカラスが数匹通り過ぎて、キリトは思わずバランスを崩してしまう。そのまま降下してしまい、運悪く妙と衝突してしまった。
「痛……大丈夫でしたか、お妙さん?」
「こっちは平気よ。キリちゃんこそ大丈夫?」
「俺も平気です。立てますか?」
「えぇ、もちろんよ」
顔同士を近づけた衝突だったが、二人は特に大きな怪我は負っていない。互いに無事を確認して、一安心していた。
「じゃ、明日。アスナと一緒にお料理、頑張ってください」
「もちろん。キリちゃんも、九ちゃんやリーファちゃんと頑張ってね」
本を返しつつも、二人は明日の約束事がうまくいくように声をかける。別れの挨拶を済ました後に、キリトは万事屋の元へ。妙は恒道館へと戻るのであった。
がしかし、この様子を誤った解釈で見ていたものがいる。
「た、大変ですぞ!!」
物陰でカメラを構えていた九兵衛の側近、東城歩だった。彼は九兵衛のとある指示で妙らの動向を見張っていたのだが……想定外の場面に遭遇して、つい呆然としてしまう。
「早く若に知らせなくては!」
東城はカメラを抱えたまま、足早に場を去っていった。彼が撮影した写真を巡り、事態は思わぬ方向へと向かうことになる……。
「何? キリト君と妙ちゃんがキスをしたシーンを目撃しただと?」
「そうです! この東城歩! この目でしっかりと確認しました!」
衝撃的な写真を撮影した東城は、一度柳生家に戻り、この一件を道場で稽古していた九兵衛とリーファにも伝えていた。
なお、当の二人はまったくもって妙とキリトの恋仲を信じていない。
「って、東城さん。流石に冗談が下手だよ。お兄ちゃんがお妙さんとキスするわけないでしょ」
「そうだぞ。それにキリト君にはアスナ君という恋人がいるだろう。数か月彼と話したが、そんな不埒な奴じゃないと思うぞ」
思わず笑っちゃうリーファと、真剣に東城を落ち着かせる九兵衛。特に後者は、キリト自身を銀時のような無責任野郎とはまったく思っておらず、むしろ真摯で優しい人物として捉えている。
東城の言うことなどまったく信じていなかった二人だったが……
「これが証拠です」
「「ぐはぁぁ!!」」
渡された写真を見た途端にその余裕はいとも簡単に崩れ去っていた。
「な、な、な、なにこれ!?」
「妙ちゃんとキリト君のキスだとぉぉぉ!?」
写真は二人がキスをする瞬間を映しており、同時に二人の仲を現す揺らがぬ証拠にもなっている。本当はただキリトがバランスを崩して、妙とぶつかっただけなのだが……この事実をここにいる三人は誰も知る由が無かった。
「東城……フェイク写真とかではないな!」
「もちろんです! 妙殿の動向を見図っていたところ、たまたま撮れた代物ですぞ」
念入りに東城へ偽物でないことを確認する九兵衛。東城の雰囲気からも、彼が嘘を付いているようにも到底思えなかった。
因みにここで気になるのは、東城が妙を尾行していた理由である。
「てか、なんでお妙さんのこと追っていたの?」
「明日、妙ちゃんがアスナ君と料理の練習をするからな。変な場所で買ってこないか、僕が東城に尾行をお願いしていたんだ」
「そうなんだ……」
九兵衛からの説明に、つい納得するリーファ。妙の料理絡みとなると、慎重に動いても特におかしくないと彼女は感じていた。
いずれにしても、この写真が本当に事実なのか。九兵衛、東城、リーファの三人は、この写真がまったくの誤解であることを信じたかった。
「ど、どうしますか、若! 万が一、キリト殿とお妙殿が関係を持っているとすれば……」
「それは無いと信じたいが、明日確認しようと思う。明日はリーファ君とキリト君の三人で合同稽古だ。その稽古中に、僕が全てを聞き出す!」
気を取り直した九兵衛は、明日キリトらと約束していた合同稽古で、真実を明らかにすると決意する。その覚悟の強さを目の当たりにして、リーファも思わず息を飲んでいた。
「リーファ君。この事は、仲間達に伝えないでおいてくれ。余計な混乱を生む可能性がある。当然、東城もだ」
「わ、分かったわ!」
「分かりました。若の意向通り、他言は致しませんのでご安心を」
ついでに戒厳令が敷かれ、九兵衛、東城、リーファの三人のみで、この一件は共有されることになる。特にリーファの仲間であるシリカ、リズベット、シノンの三人に知られれば、さらなる動揺が広がるに違いない。九兵衛は念入りに二人へ警告していたのだが……思わぬ形で、その戒厳令は崩れることとなった。
「た、大変……!!」
なんと、リーファらのいる道場の入り口付近で、リズベットが一部その話を盗み聞きしている。彼女は柳生家に鍛えた刀を届け終わった後、たまたま道場に通りかかって、一連の話を聞いてしまったのだ。妙とキリトがキスをした真偽不明の情報に、彼女もまた踊らされることとなる。
「早くみんなに伝えないと……!」
リズベットはそそくさと柳生家を抜け出して、一目散に下宿先のひのやへ帰っていった。
そしてその話は、シリカやシノンの耳にも入ることになる。
「えっ! キリトさんとお妙さんがキスをしたんですか!?」
「そう。柳生家に刀を届けに行ったら、偶然その話を聞いちゃってね……あり得ると思う?」
「アタシは思いません! だって、あのお妙さんですよ! 前話していた時も、BZの稲葉さんみたいな人が好みって言っていましたし」
「そうね。BZの稲葉さんなんか、キリトとまったく似てないもの。何かの間違いだと思うわ」
話を聞いた二人は即刻噂を否定。特に妙の好みの男性がBZの稲葉浩○だと知っているので、そもそもキリトのことは眼中にないと信じていた。だがしかし、
「「多分……」」
「二人共、やっぱり気になっているんでしょ」
正直自信は無い。幾ら好みのタイプは違えど、もしかするとキリトの事を妙が好きになったのかもしれない。そんな根拠もない自信に、彼女達もまた戸惑ってしまう。
「ど、どうしますか?」
「明日のひのやは休み。誰もシフトに入っていないよね?」
「アタシも鉄子さんの鍛冶屋が休みだから、朝から行動できるわよ」
ちょうど全員が朝から行動できると確認すると、シリカはある提案を二人に伝えている。
「だったら万事屋に行ってみませんか? 直接本人の口から、聞いた方が良いですよ!」
「でも明日のキリトって、リーファと柳生家の方で用事があるんじゃなかったかしら?」
「だったら二人が行った後に、銀さん達に聞いてみるのはどう?」
「確かに新八さんなら、お妙さんのこととか知っているかもしれませんしね!」
キリトがいるにしろいないにしろ、万事屋へ訪れることで考えが一致していた。キリト又は銀時や新八から直接聞き出し、自らの目で確かめる算段である。
ちょうど三人の作戦会議が終了した時だった。
「ただいまー、日輪さん」
「あら、お帰り。みんなはもう寝室にいるわよ」
柳生家の用事を終えてきたリーファが、ひのやへと戻ってきている。
「リーファさんが帰ってきました!」
「みんな! この事は口に出さないこと。良いね?」
「分かっているわ」
シリカ、シノン、リズベットと改めて、リーファには例の件を内緒にすると決めていた。そもそも盗み聞きから妙らの一件を聞いているので、知ってる前提であれば不自然である。三人は気になる気持ちを抑え込み、彼女の前では態度に出さないように振舞っていく。
「アレ? みんなどうしたの?」
「なんでもないわよ。私、日輪さんの夕食作りの手伝い行ってくるわ」
「じゃ、アタシは晴太君に勉強教えに行ってきますね!」
「アタシは百華のクナイ、調整しに行くから!」
寝室に戻って来たリーファに軽く話してから、三人は別の場所へと移動した。シノンは日輪の元へ。シリカは晴太の元へ。リズベットは武器を取りに外へと向かっている。
「み、みんな?」
リーファ自身も三人の行動に首を傾げたものの、特に気にしてはいなかった。
こうして彼女達は各々が不安な気持ちを抱えたまま、夜を過ごしたのである。
場面は変わって、こちらは次の日の万事屋銀ちゃん。妙、九兵衛との約束の時間が迫り、キリトとアスナは身支度を済まして、柳生家へ向かおうとした時だった。
「それじゃ、ユイちゃんの事宜しくね」
「銀さん。ユイに変なこと教えるなよ」
「分かっているから、とりあえず任せておけって!」
「パパ! ママ! 気を付けて行ってください!」
ユイの世話を銀時らに任せて、二人は万事屋を跡にした。
一方でユイら四人も、本屋へ向かう準備を進めている。
「じゃ、私達も行きますよ!」
「おうネ、本屋に直行ネ!」
「とっとと戻って、後は家でゴロゴロすっぞ」
「って、アンタはそれが本音でしょうが」
銀時だけは外出を面倒くさく感じており、けだるさがより際立っていた。そんな彼の怠ける様子に、新八は苦言を呈している。
何気ない万事屋の一場面だが、そんな彼らの元に思わぬ来客が訪れていた。
〈ピンポーン!〉
「あれ? 誰だろう?」
「私、行ってみるネ!」
玄関からチャイムの音が鳴り、気になった神楽が対応へと向かう。
「ん? あっ、シッリーにリズにシノアルか? どうしたネ?」
訪れてきたのは、シリカ、リズベット、シノンの三人。彼女たちは揃って、複雑な表情を浮かべていた。
「キリトいる?」
「キッリ―なら、さっき出かけたばかりアルよ」
「良かった……」
キリトらの不在を知って、安心する三人。神楽にとっては、何が起きているかまったく分かっていない。
「おい、どうした神楽?」
「あれ? 皆さん揃ってどうしたんですか?」
「パパやママに用事ですか?」
銀時、新八、ユイらもシリカが訪れていたことに気が付く。彼女らへ話を聞いてみると、シノンやシリカから返事が返ってきていた。
「ちょっと話せる時間ある?」
「皆さんに聞いてほしいことがあるんですよ!」
不思議に思った万事屋は、三人を万事屋内へ入れることに。
居間で話を聞くと、昨日聞いた噂話を彼らに打ち明かしていた。
「えっ? お妙とキリトがキスをした?」
「そう! 昨日万事屋で、キリト一人が行動している時無かった?」
「確か姉御に借りた本を、キッリ―が渡しに行った時アル」
「それ以外はずっと一緒でしたよ」
キリトと妙がキスをした話を聞き、違和感を覚える銀時ら四人。一方でシノンらは、不安が収まらないせいか、常にそわそわした態度を続けていた。
「じゃ、その時に……」
「九兵衛さんが見たのはそれね」
「おいおい。まさか疑っているのか、キリトのこと?」
銀時が聞くと、リズベットとシリカは動揺したまま返答してくる。
「疑ってはいないけど、昨日そんな噂を聞いてから!」
「そうですよ! 銀時さん達はこの話を聞いて、どう思いましたか?」
彼女たちは取り乱した表情のまま、銀時達へ問い返す。四人の見解を素直に聞いてみたかったのだが……
「ないだろ」
「ないですね」
「ないアル」
「絶対ありえないです!」
四人揃って信じていなかった。彼らの一致団結ぶりには、三人もつい目を丸くしてしまう。そして銀時らは好き勝手に、思っていたことをそのまま発してきた。
「お前ら、よくよく考えてみろ。あのお妙だぞ。料理の腕は壊滅的で、すぐに男はぶん殴る。しかもキャバクラの売り上げとして、男を使い捨てることなんてためらいのない。そんな女が、彼女持ちの男に近づいて何の得があるんだよ」
(ボ、ボロクソに言ってる……)
銀時の忖度無しの一言に、シリカは内心でツッコミを入れる。銀時は妙のしたたかな性格から、キリトと恋仲になることは皆無に等しいと考えていた。
「そうアルよ。姉御とキッリ―なんて相性が良い訳ないネ。BZの稲葉なら話は別だけど」
(昨日のアタシ達と同じこと言ってるわね……)
神楽の一言に、ボソッと心の中で呟くリズベット。昨日の自分達と同じく、判断基準はBZの稲葉だと彼女は思っている。
「そもそも、昨日の夜だって、いつも通りでしたよ。僕が家に戻ったら近藤さんがいて、数分間たこ殴りするくらい普通でしたよ」
(普通じゃないわよ……! その状況!)
当たり前のように発する新八の証言に、シノンは強めのツッコミを内心で発した。そもそも彼女にとっては、付きまとうストーカーを鼠やゴキブリのように逐一退治する様子が何より信じられないのだが……。
という万事屋の反応通り、皆キリトと妙の噂をまったくもって信用していなかった。
「つまり100パーセント、そんな話は嘘ってことです! 誰から聞いた話なんですか?」
「リズが、九兵衛さんとリーファがその話をしているのを聞いたって」
「噂の噂じゃねぇーか。そんなの大抵理由がしょうもないに決まっているだろ。ぶつかっただけだろ」
銀時が噂を一蹴するも、不安を拭い切れない三人。そもそも三人にとっては、キリトはかっこよく、モテても可笑しくないと思っているからこそ、こういった噂に動揺されると万事屋の面々は感じていた。
「何? ちょっとでもそうかもーって信じちゃったのか?」
「ち、違いますからね!」
「そうよ! キリトなんてかっこいいし、モテそうだから、そういう噂があっても不思議じゃないでしょ!! アタシ達は最初から信じていないけど!」
「だったら最初からそれで良いだろ。それとアイツ、少なくとも万事屋へ入ってからは、一回も告白されてないからな」
顔を真っ赤にして否定するシリカやリズベットに、銀時は冷たくあしらう。彼女たちの幻想を砕くかのように、万事屋でのキリトの現状を打ち明かす。そもそも告白されたことも無いと伝えていたのだが……
「あっ、でも一回あったわ」
「「「えっ!?」」」
銀時には一人だけ心当たりがあった。
「だ、誰ですか!?」
「よく依頼でお世話になる母親の娘のかのちゃん。六歳の女の子だ。アイツくらいだぞ、キリトに告白したの」
「えっ……?」
「だから六歳の女の子だよ。アイツはやんわりと断ったけどな」
告白した相手は、寺子屋通いの女の子だった。所謂子供だと分かると、シノンら三人はホッと一安心している。
「な、なんだ良かった……」
「安心したわ」
「思いっきり惑わされているよ、三人共!」
「推しの熱愛報道でやきもきするジャニオタみたいになってるアル」
一喜一憂するような取り乱し方に、新八や神楽も思わず気が引けてしまう。それくらいキリトへの好意や信頼が見て取れるのだが……ここでユイが、無垢にも火に油を注ぐが如く余計な一言を付け足してしまう。
「でも、前に神楽さんもパパのこと好きって、言っていましたよね」
「「「はぁ!?」」」
「えっ、私アルか?」
神楽もキリトに好意があるような発言を聞き、驚きの表情で神楽本人に目を向ける三人。彼女は特に思い当たる節が無いのだが……三人はすかさず神楽を追求してきた。
「か、神楽さん!? どういうことですか!?」
「神楽もキリトの事、かっこいいって思っているの!?」
「初耳よ! どういうこと!?」
女子達の取り乱し具合に、ずっと話を聞いていた銀時や新八も、思わず苦い表情を浮かべてしまう。
一方で神楽は余裕の表情を浮かべながら、三人に対し自身がキリトに感じていることを、率直に伝えることにする。
「まぁまぁ、落ち着けアル。小娘共」
彼女達を宥めつつ「こほん」と咳払いして、スラスラと話してきた。
「確かにキッリ―は好きアルよ。修行相手にちょうど良いし、美味しい具無しペペロンチーノ作ってくれるし、銀ちゃんより働き者だし、良い同居人ネ!」
「同居人?」
「男としてじゃなくて……?」
「残念ながら私の好きなタイプは、カーネルサン〇―スネ! キッリ―が鶏共を支配する男になったら、見る目変わるかもしれないけどナ!! ハハ!!」
そう。神楽にとってキリトの印象は、修行相手かペペロンチーノの印象しかない。つまりは恋愛感情になんて、まったくもって無いのである。彼女の堂々たる反論に、シノン達は思わず困惑していた。
「止めとけ。神楽に聞いたって、食い物のことしか返ってこないぞ」
「あと、キッリ―の作る焼きそばが地味においしいアル」
「なんでさっきから麺系ばかりなんですか!」
補足しても、やはり食べ物の事しか返ってこない。神楽らしい考え方に、シリカらはとりあえず一安心していた。
一方で新八は、この噂が広まることに危機感を覚えている。
「しかし、どうします? こんな噂が広まったら、近藤さんの耳にも入ってややこしいことに……」
「おい、新八。もう手遅れだぞ」
「えっ?」
特に近藤が知れば、余計ややこしい事態になると予測していたが……そんな最中に、近藤本人はいつの間にか万事屋の居間に入ってきていた。
「話は全て聞かせてもらった!!」
「えっ!? 近藤さん!?」
「ちょっと、アンタ! どっから入って来たの!?」
「気にするな。些細な事だろ?」
「全然些細なことじゃないんだけど……」
突然の近藤の登場に、驚くシリカやリズベットら。どこから入って来たのか聞こうにも、近藤のことなので大抵予想は付いていた。
一方の銀時は、近藤がやけに冷静に振舞う姿が気になっている。
「つーか、ゴリラ。お前にしては珍しく冷静だな。こんな話聞こうものなら、動揺すると思っていたが」
「ふっ、そんなことはあり得ないと確信しているからな。安心しろ、三人共! 男の俺からすると、お妙さんとキリト君はミスマッチだ! 確かに可愛い顔をしていて、同年代には好かれると思うが、年上には好かれないタイプだろ」
彼は謎の自信で、噂話を一蹴していた。特にキリトと妙の年齢差を指摘しており、二人が関係を持つことは無いと高をくくっていたのだが……そんな幻想はいとも簡単に崩れ去ってしまう。
「はーい」
「どうした、リズ君?」
「そもそもキリトは十七歳だし、お妙さんとアタシって同い年なんですけど」
「えっ!?」
そう。近藤はキリトの年齢を勘違いしていた。リズベットの助言により、それが判明する。
「ちょっと待って! リズ君とお妙さんって同い年なのか!!」
「えぇぇぇ!! マジアルか!」
「なんでアンタ達も驚くの!! 数か月前に話さなかったけ!?」
キリトの本当の年齢に大きく驚く近藤に対し、神楽はリズベットと妙が同い年なことにも驚きを受けている。
一方でシノンは、改めて妙の年齢に少し疑問を感じていた。
「そう聞くと、お妙さんって本当に十八歳なの?」
「いや、アレは姉上が年齢に対して大人すぎるというか……」
二十歳を超えていないにも関わらず、あまりにも大人びた雰囲気が信じがたかった。弟の新八が補足を加えていく。
そして近藤はというと、銀時に小声でキリトの年齢について再確認していた。
「どういうことだ、万事屋! キリト君は確か中学生くらいじゃ……」
「アイツ高校生だぞ。正確には登場当初は十四歳。現在は十七歳と半月くらいだとよ」
どうやら彼は、キリトやアスナの雰囲気から、おおよそ中学生くらいと思っていたらしい。本当の年齢を知ると、彼の余裕はみるみると減っていた。
「なら危険だ!! 危険すぎる!!」
「いや、アンタも思いっきり動揺しているじゃねぇか!!」
そしてあっさりと自分の意見を変えている。キリトと妙が危ない関係になっていないか、誰よりも不安に駆られてしまった。
「ど、ど、どうしょう!! お妙さんとキリト君がいけない関係になっていたら!! どうする、リズ君達は!?」
思わずシリカやリズベット、シノンらに意見を求めているが、
「「「ハァ!!」」」
「ブフオォォ!!」
皆うっとうしく感じてしまい、思いっきり殴られてしまった。
「「ゴリラは黙ってなさい!!」」
「ゴリラは黙ってください!!」
「は、はい……」
仕舞いにはゴリラと呼び捨てにされるくらい、雑に扱われてしまう。たかが噂話に翻弄されてしまう四人を見て、万事屋一行はやむを得ず最終手段に打って出ることになる。
「どうします、銀さん?」
「しゃあね。柳生家行くか。本人の口から言わないと、もう納得しねぇだろ。アイツら」
キリトや妙と実際に会って、話した方が手っ取り早いと思っていた。銀時本人は面倒に感じているが、彼女らを放ってはおけない為、渋々決めていた。
「ユイもそれで良いか? それとも手分けして、俺と本屋に行くか?」
「いえ、こっちを優先してください。誰がこんな嘘を広めたのか、私突き止めたいんです!」
ユイもこの噂の出所を気になっており、約束していた小説の購入を後回しにした。彼女は妙とキリトの噂を流した人物に、ムッとした顔で怒りを燃やしている。
「パパとママの仲を引き裂こうとする人は、この私が鉄槌を下します!」
「おー、凄いやる気アル」
「はい! 神楽さん、百トンハンマーって用意できますか?」
「ラジャーアル!」
「本当に鉄槌下す気だったのかよ!!」
決意に満ちた力強い表情に切り替わると、彼女は百トンハンマーを要求していた。ユイの理想として、噂の出所を見つけた際は、この百トンハンマーで徹底的に仕留める所存である。
いずれにしても、場にいた全員が柳生家に行くことで決定していた。
「じゃ、行くぞ。テメェら!」
「はい!」
「ゴリラもすぐ来るネ」
「ま、待って……」
ついでに近藤も彼らについていき、揃って柳生家に足を進める。
果たして、すぐに彼らの誤解を解くことは出来るのだろうか。
その一方で、柳生家に到着したキリトとアスナは、屋敷の門が開くと、九兵衛と東城、妙の計三人から盛大に迎えられていた。
「ようこそ、柳生家へ!」
「待っていたよ、二人共」
歓迎ムードのまま、東城と九兵衛が二人を出迎えている。妙もアスナに近づいて、改めて彼女に挨拶していた。
「今日は宜しくね、アスナちゃん」
「はい、お妙さんも宜しくお願いします!」
アスナはややプレッシャーを感じながらも、お妙ちゃんのダークマター作りが改善出来るように、強く決意している。
「こちらも頼むぞ、キリト君」
「分かっているよ、九兵衛さん」
一方で九兵衛は、キリトと一旦固い握手を交わす。道場で待っているリーファと合わせて、こちらも稽古がうまく良くように決意していた。
がしかし、九兵衛は昨日の一件をどうしても確かめたく、むしろこちらが本命とも言える。
(絶対に真実を掴んで見せる……!)
表情には出していないが、キリトを徹底的に問い詰める所存である。なおキリト本人にはまったく悟られていない。
――因みに、九兵衛は妙とキリト達が来る前に顔を合わせているが、例の件は一切話していない。言いづらいこともそうだが、何より下手なことを言って妙とアスナの料理の練習を邪魔したくない思いもあった。いずれにしても彼女は、キリトに真相を突き止めると心に決めている。
「さぁ、リーファ君が待っている。こちらへ来てくれ」
「あぁ、分かった」
九兵衛は平常心を保ったまま、キリトを柳生家の道場へと案内。二人はそそくさと、屋敷の中に入っていった。
「若! 私も付いていきますぞ」
「東城は来るな。またキリト君達の命を奪う気か?」
「だからそれは、私に声の似ている別人でしょう! そんなことをするくらいなら、若をストーキングした方がマシですよ! 聞いておりますかー!」
東城もついていこうとするが、九兵衛本人からは軽く煙たがられている。しかも声の似ている別世界の殺人鬼呼ばわりされて、余計に彼は困惑していた。ツッコミを入れつつ、無理やりキリトらの跡を追いかけていく。
「じゃ、私達も行きましょうか」
「そうね」
一方のアスナと妙は、柳生家のキッチンへと移動していた。
果たして全員が集まった時、柳生家でどんなことが起きるのだろうか……そのお話はまた次回である。
今回のお話は、勘違いから始まるハプニング系のお話です。東城の早とちりにより、惑わされるリズ達が少し可愛かったですね笑 それにしても同居しているのに、キリトの印象がペペロンチーノしか無い神楽は、通常運転でとても安心しますね笑 さて、次回の舞台は柳生家より。キリトと九兵衛の特訓の行方は? また、アスナと妙の料理修行は上手く行くのでしょうか!
次回予告
九兵衛「遂にこの時が! 言うんだ、キリト君!」
キリト「どうしたんだよ、九兵衛さん!?」
九兵衛「この写真の真実を!!」
キリト「えっ?」
妙「これでうまく行ったんじゃないの?」
アスナ「お妙さん! またダークマター出来てるから!!」
リーファ「次回! 人の振り見て我が振り直せ!」
ユイ「百トンハンマー、用意出来ました!」
新八「えっ、マジで鉄槌下すの?」