剣魂    作:トライアル

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第百十四訓 旅行中のお酒はほどほどに

 銀時やキリト達が入れ替わり騒動で大混乱していた頃。

 エギルはスナックお登勢の元を離れて、知り合いである坂本辰馬、陸奥と一緒に地球を離れて、宇宙のとある星へと向かっていた。

 場面は辰馬の所有する宇宙船、快臨丸の船内より始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……これが宇宙から見た地球なのか」

「アハハハ! まっこと良い景色ぜよ! わが地球は!」

 快臨丸の窓から見える地球の光景に、エギルは思わず息を飲んでいた。そんな彼に対し、坂本はげらげらと笑って彼に賛同している。

 商人同士という繋がりを持つ二人だが、その出会いはまだ数か月ほどしか経っていない。

「それにしても、エギルを快臨丸に連れてきて良かったぜよ! おまんと初めて会ったメタルフェスから、ワシにはビビッと来てるからのう。こやつは只者じゃないと」

「こっちもだよ。まさか別の世界の坂本龍馬と出会えるなんて、思ってもいなかったからな」

「アハハ! ワシは辰馬ぜよ。龍馬じゃないきに」

 とあるイベントのひょんなきっかけで出会った二人だが、文通等のやり取りを通じてすぐに意気投合。坂本はエギルの商人として才を高く評価しており、エギルは坂本の艦長並びに組織の長として器を高く評価している。何よりもかの偉人、坂本龍馬とも照らし合わせており、坂本辰馬にも彼と同じ豪快さが備わっていると思っていた。

 互いに親睦を含めていた中で、坂本はエギルにとある商談への出席を依頼。了承した彼は現在、坂本ら快援隊の宇宙船に乗りこみ、目的地の星へと向かっている。

「さぁさぁ、もっと宇宙を見るぜよ! 地球だけじゃなく、立派な星々が……ゲロロロ」

「た、辰馬さん!?」

 と意気揚々と話す坂本だったが、突如として気分が悪くなり、思わず嘔吐してしまった。急な坂本の容態の変化に動揺するエギルだったが、これはただの船酔い。快援隊にとってはよくある出来事なのである。

 するとそこに、陸奥も会話に入り込んできた。

「安心するぜよ。ただの船酔いじゃき。いつものことじゃ」

「陸奥さん。でも、良いのか。なんか気分悪そうだし」

「優しくするな。いざという時は、宇宙の片隅に捨てておけばよい」

「アハハ。陸奥、手厳しいぜよ」

 陸奥の毒舌に、思わずツッコミを入れる坂本。こちらも快援隊にとっては、ごく当たり前の光景なのである。

 そんな陸奥は、顔を見上げてエギルにも話しかけていく。

「フッ。そういえばおまんとの再会も、シリカ達の誕生日会以来か」

「そうだな。まさか知り合いだったとは、思ってもいなかったがな」

「こちらもじゃき。まぁ、人との縁はどこに転がっているか分からんからのう。ワシもシリカと出会えて、良かったと思えておる。アイツは面白く、とても強いからな」

「ハハ。陸奥さんはシリカがお気に入りなのか?」

「わしのマブダチだからな。シリカに限らず、その仲間達も同じじゃ。今度地球に戻った時には、稽古の約束もしたからのう」

「そうか。仲良くしてやってくれよ」

「あぁ、任せておけ」

 陸奥のシリカ達との繋がりに触れて、安心感を覚えるエギル。

 坂本や陸奥と前に会った時は銀時、キリト、アスナ、シリカの合同誕生日回に奇遇にも参加した時で、そこでエギルがシリカや銀時と知り合いだと二人は知った。お互いに人との縁は意外なところで繋がっていると改めて感じている。

「おいおい、陸奥! ワシを抜きにして、勝手に盛り上がるなぜよ! エギルと何を……ボロロロロ!」

「いい加減にしろ、このダメ艦長」

「陸奥さん。毒舌すぎるぜ」

 思わず坂本も会話に無理やり入り込むも、まだ彼の体調は戻っていない。またしても吐く彼に対して、陸奥は再度皮肉をぶつけていた。エギルも段々と快援隊の雰囲気が分かりつつある。

 こうして和やかな雰囲気のまま、快臨丸は目的の星に向かって進み続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後。陸奥、坂本、エギルの三人は、これから行われる商談の打ち合わせを入念に確認していた。

「ということで、これからわしらが訪れるのは、イチオヤ星のブドウ農家ぜよ!」

 陸奥の一言に、エギルが言葉を返す。

「確かそこで、数日しか製造されない幻のワインを取引するんだったよな」

「そうぜよ。依頼主はGGO星のスナックじゃき。ワシらが古くから仲良くしているお得意さんでな。取引が成立すれば、イチオヤ星の知名度は抜群に跳ね上がる。その為にも、慎重に交渉しなくてはいけないからのう」

 坂本も改めて今回の商談をスラスラと話していた。

 そう。今回交渉して狙う商品は幻のワイン。宇宙の片隅にあるイチオヤ星という場所で作られており、現在は知る人ぞ知るマニアックなワインとして定着している。内外からも評価の高いこのワインを、坂本は知り合いのスナックに仕入れて、知名度の向上と互いの利益を高めることが今回の目的なのだ。

 簡単にはいかない交渉ではあるが、坂本は臆することなく高いやる気を見せている。その活気あふれる表情を間近で見て、エギルは坂本の本気を微かに感じ取っていた。

(坂本さんのあの目。かなり本気だな……宇宙中を駆ける商人は、只者じゃないということか)

 先ほどの楽観的な姿勢から一変。坂本のメリハリを付けた態度には心底驚いている。だからこそ、今回の商談で自分にも学ぶべきものがあると思っていた。

「今回も成功させるからのう」

 すると坂本は、懐からとあるコインを取り出す。そのコインはだいぶ年季が入っていて、幾分前から持ち歩いているものだと一目で分かった。

「坂本さん。そのコインは?」

 エギルが聞くと、坂本は嬉しそうな表情で返答する。

「これか。ワシが快援隊を結成した当初で手に入れた特別なコインぜよ。GGO星で発行された希少価値のあるコインで、今の値段で換算したら、十億はくだらないぜよ!」

「じゅ、十億!?」

「まぁ、ワシにとっては価値よりも思い出が勝るからのう。このコインは、大切に今でも磨いているんぜよ」

 思ってもいなかったコインの価値に、大きく驚いてしまうエギル。桁違いの価値のあるコインを、坂本は大切そうに懐へしまい、価値よりも思い出を優先していると彼は捉えていた。

(そんな高価なものを手放さず、思い出の一部として大切に持っているなんて……この人はやっぱり只者じゃないな)

 内心では坂本の考え方にも大きく共感している。彼の人柄の良さや組織の長としての覚悟を、エギルはコインの一件から読み解いていた。

「そうだったのか。凄いな、坂本さんって」

「何のこれしき! 宇宙中を駆けていたら、こんなことたくさんあるぜよ。そしてその分、気分も悪くなって……」

「って、坂本さん!? またか!?」

「エギル……ゲロロ袋持ってきてくれるかのう」

 思わず坂本の背中を叩いてしまったが、それがきっかけで坂本はまたしても気分を悪くしてしまう。吐きかける彼を心配し、エギルは急いで袋が無いか近くを探していた。

「やれやれ、ウチの艦長は」

 坂本の情けない姿を見て、陸奥も思わずため息を吐いてしまう。むしろ普段とまったく変わらず、安心しているのかもしれないが。

 こうして快援隊は入念な打ち合わせを重ねつつ、イチオヤ星へと船を進ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 快援隊の宇宙船は、今回の目的地であるイチオヤ星に到着。ここイチオヤ星は、気候条件から果物の栽培が星全体で盛んに行われており、採れた果物はジュースやワイン等に加工され、他の星々に出荷されている。

 エギル、坂本、陸奥の三人は、近くのヘリポートに宇宙船を泊めた後、今回の取引現場であるぶどう農家へと向かった。なお、快援隊の他の船員は、宇宙船のメンテナンス等の理由で船内に待機する模様である。

 場面はぶどう農園にある一軒家の居間から再開した。

「久しぶりぜよ。改めて快援隊の艦長、坂本辰馬と申す。宜しくぜよ」

「同じく快援隊の陸奥じゃき。宜しくぜよ」

「今日一日同行しているエギルという者だ。宜しくお願いします」

 三人は正座をしながら、丁寧に農家の主に一礼。その主は朗らかなおばあちゃんで、名前はキクヨさん。外見は地球人とほとんど変わっておらず、作業着を着用している。彼女はゆっくりとした口調で坂本らに話しかけてきた。

「あらまぁ、随分と大柄な方ね。是非力仕事を任してほしいものだわ」

「ならお任せください! なんでもしますので!」

「フフ。助かるわ」

 キクヨはエギルの大柄な肉体に目を向けており、素直に彼へ頼ろうと思い始めている。交渉を円滑に進める為にも、彼は出来る限りのことはなんでもしようと思っていた。

(物腰の柔らかいおばあちゃんだな。ゆっくりと着実に向き合えば、上手いこと交渉できるかもしれないな……)

 相手からの印象は上々と把握し、エギルは交渉への道筋を微かに感じ取っている。気を引き締めつつ、再度キクヨとの交渉を試みていく。

「それで幻のワインについてですが」

 とエギルから話し始めた時である。

「その件だがね、ちと難しいかもしれんのう」

「えっ? そうじゃき?」

 なんと、予想外の返答が彼女の口から飛び出していた。交渉の雲行きはが怪しくなり、エギルも思わず驚いた表情を浮かべてしまう。

「キクヨさん、ちょっと待つぜよ。数週間前とは随分反応が異なるぜよ。何かあったんか?」

 坂本は緊張感を持ちながら、キクヨに理由を聞いてみると、彼女からこの農家の現状を聞かされることになる。

「実はなぁ……ここ最近、このぶどうの木々を荒らす者がいてな。ワイバーンと言うんじゃが、いっつもいっつも困っておってな」

「ワイバーン。というと、あの有名な」

「そうそう。この星にもとうとう来てのう」

 キクヨから聞かされたのは、ワイバーンについて。どうやらぶどう農家に近頃邪魔者が現れて、思い通りに栽培が上手くいっていないらしい。坂本も陸奥もワイバーンについては理解を示しており、キクヨの苦労を深々と理解していた。

(ワイバーン……この星に生息しているドラゴンみたいな奴か? あのおばあさんも毎回追い払っているのか……)

 一方でエギルも、ワイバーンと聞き、ドラゴンのようなモンスターを頭に浮かべている。所謂厄介な害獣として、彼は捉えていた。

「ワイバーンか。この星にもおったのか」

「それは一大事じゃき。すぐに追い払わないと、大変ぜよ」

「そうそう。あいつらがいる限り、こっちも骨を折るばかりでなぁ」

 坂本、陸奥、キクヨの話に、エギルも深々と同情する。老体にも関わらず、ワイバーンを毎回追い払っているとなると、その苦労は計り知れない。エギルはキクヨのことが、段々と心配になって来ていた。

(まさか坂本さんは、ワイバーンを討伐したくて、俺に助っ人として声をかけたのか? なんならおやすい御用だ! どんだけ大きくても、俺の斧で仕留めてやるよ)

 話を聞くたびに、彼は自分が快援隊の助っ人として呼ばれた理由を、うっすらと理解している。ぶどう農家を荒らすワイバーンの退治こそが、今回の彼の大きな仕事だと感じ始めていた。

 するとエギルは立ち上がり、キクヨに向かってワイバーンの退治を宣言する。

「キクヨさん! だったら俺に任してくれ! ワイバーンくらい余裕で退治してやるよ」

「あら、良いのかい? でもワイバーンは手ごわいぞよ」

「心配は無用だ。モンスターの退治にも俺は長けているからな。安心してくれよ」

 力仕事として頼ってくれたキクヨの為にも、彼は今自分が出来ることをしっかりと彼女に伝えていた。

 だがしかし、エギルのモンスターと言う発言に、坂本と陸奥はどこか違和感を覚えている。

「おい、エギル。おまん、何か勘違いしていないか?」

「えっ。何が?」

「いや、ワイバーンというのはな」

 とワイバーンについて詳しく説明しようとした時だった。

「大変だ、キクヨさん! また……またワイバーンが現れた!」

「なんじゃと! 早くぶどうを守らなくては!」

 なんとタイミングが悪く、噂のワイバーンがこちらへと近づいている。キクヨを手伝っている若い男性の警告に、彼女は思わず慌てふためていた。

「ここは俺が!」

「おい、エギル! 待つぜよ!」

 エギルは坂本らの制止を振り切り、玄関口まで駆け出す。すぐそこまで迫っているのなら、今この場で仕留めるべきと彼は決意していた。ワイバーンを倒す為、キクヨの力になる為にも、強いやる気を溢れさせている。

 彼は得手の斧を持ち、玄関の戸を開けて、外へ勢いよく駆け出していた。

「おい、いい加減木々を荒らすのは止めろ!!」

 大声でワイバーンに言い放ち、大きくけん制しようとした時だった。彼はここで、ワイバーンの正体について知ることになる。

「ひゃっはー! 止めろと言われて、素直に止める暴走族がいるかぁぁ!!」

「今度こそ、この土地から出て行ってもらうぜ! ひゃぁぁぁ!!」

「……はぁ?」

 なんとそこにいたのは、ファンタジーゲームでよく見かける大きなドラゴン……ではなくバイクに乗った十数人の屈強な男達である。みな人相が悪く、挑発的に舌を出して幼稚に回していた。中にはモヒカンの髪型をしている者もおり、さながら世紀末のような出で立ちである。

 そう。ワイバーンの正体は、エギルが思い描いていたゲームに出てきそうなモンスターではなく、宇宙を股にかけて暴れる暴走族集団だったのだ。とここで、坂本と陸奥もエギルの元に駆けつけてくる。

「あの、坂本さん……アレ。ワイバーンか?」

「おぉ! まごうことなき、ワイバーンぜよ! 初めて見たきに!」

「正確には歪爆団(わいばくだん)。通称ワイバーン。宇宙中で暴れ回り、土地を強奪する大迷惑な奴らぜよ」

 陸奥からも正式な情報を伝えられると、エギルは体をびくびくと震え始めていた。元はと言えば自分で勝手に想像し、勘違いしたことですれ違いが起きているのだが……それでも彼にとっては、あまりにも想定外すぎる出来事である。

「モ、モンスターじゃなかったのかよ!!」

「だから言ったじゃろ、勘違いしていると」

「紛らわしいんだよ! ワイバーンと聞いたら、普通モンスターの方を想像するだろ!」

「それはおまんの世界の話ぜよ! こっちの世界じゃ、ワイバーンは極悪非道な暴走族ぜよ! しかも地上げ屋も兼任しているから、余計に達が悪いぜよ! アハハ!」

「いや、笑うところじゃないだろ!」

 恥ずかしさを打ち消しあうように、エギルは大きくツッコミを入れていた。坂本や陸奥の説明によって、ようやくワイバーンを暴走族だと確信。しかも悪徳な商売まで行っていると聞き、エギルは目の前にいるワイバーンが一筋縄ではいかない相手だと察していく。

 いずれにしても、キクヨらぶどう農家にとっては厄介な相手であることに違いは無い。

「さぁさぁ、出て行かないなら、この前と同じく木々をひき逃げしちゃうぜ!」

「野郎ども、行っちまえ!」

「おー!」

 ワイバーンの一部団員は、早くも強硬手段に移り、ぶどうが栽培されている木々に向かって、バイクを走らせていた。作物を荒らして、強制的に農家を土地から追い払おうと躍起になっている。

「不味いわ。ぶどうたちが!」

「このままだとダメになってしまう!」

 キクヨらも、これ以上ぶどうが使い物にならなくなることを心配していた。立ち向かおうにも、バイクや鈍器を所持している彼らに恐れを抱いている。

「キクヨさん、ここは俺達が!」

「なんとか、止めぜるぜよ!」

「行くぞ、陸奥! エギル!」

 彼らに代わって、坂本ら三人がワイバーンの団員たちを追いかけることにした。共に拳銃や斧と言った武器を握りしめて、ワイバーンのバイクや鈍器を強奪又は破壊して、全員を捕まえようと決意する。

 果敢に立ち向かう三人の背中を見ながら、キクヨたちは快援隊に希望を託すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハー!」

「待ちやがれ!!」

 バイクでぶどうの木々に向かって突き進むワイバーンの団員。坂本、陸奥、エギルの三人がワイバーンの進行を防ぐべく追いかける中、一足先に羽を使って飛行していたエギルが追いついた。

「いっけぇ!」

「何!? ぐはぁ!」

 彼はワイバーンの団員が乗り込むバイクのタイヤに目掛けて、自身の斧で破壊を試みる。すると並んで走っていた四台のバイクに当たり、タイヤをパンクさせられた彼らは、運転がおぼつかなくなってしまう。

「今ぜよ!」

 すると坂本が、すかさず拳銃で団員の背中や腰に備え付けられた鈍器や銃を狙って撃つ。止めていた金具が外れてしまい、彼らは一気に丸腰状態となっていた。

「はぁ!」

「うぐ!」

「ぐほぉ!!」

 そして最後に陸奥が、足蹴りや拳を用いて容赦なく団員へ攻撃。気絶したことを確認して、そのまままとめて手足や体を縄で縛り、逃げられないように施していた。

 この三人の連携攻撃で、ワイバーンの進行を食い止めようと模索している。

「よし。このまま全員を捕まえるぞ!」

「あぁ」

「もちろんぜよ!」

 と意気込んで、次の団員を捕まえようとした時だった。

「そこまでだ!」

 ワイバーンのリーダー格と思われるモヒカンの男が、急にエギルらの元に姿を見せる。

 するとそこには、他の団員によって人質にされたキクヨとお手伝いさんの姿があった。

「キクヨさん!」

「おまんら……卑怯な真似を!」

 手段を選ばずに力づくで土地を追い出そうとするワイバーンの卑劣なやり方に、激高する坂本ら三人。目を血走らせて、より一層の敵意を向ける中、モヒカン男は強気な姿勢のままエギルらにさらなる脅しをかけていく。

「さぁ、武器を捨てろ! さもなくば……こいつらがどうなっても良いのか?」

 自分達が有利になるようにと、武器の放棄を要求している。団員たちはキクヨたちに銃口を差し向けており、従わなければ射抜くと脅していた。

 しかし武器を捨てたとて、彼らが素直に言うことを聞くはずがない。手放せば、体中をハチの巣のように撃たれるのは目に見えている。彼らにとって、間違えられない選択肢を今突きつけられていた。

「わしらのことは良い! 早くこいつらを仕留めるんじゃ!」

「言うことを聞くな!」

 囚われの身になっても、坂本らのことを心配するキクヨとお手伝いさん。自分達に構わず動けと説得するも、そう簡単に彼らは動くことが出来ずにいた。

(ど、どうすれば……)

 選択肢を誤れば、どちらかが傷つけられてしまう。必死にエギルはこの状況を打開する方法を考えていた時、坂本はフッと笑って彼に話しかけてきた。

「やれやれ、しょうがないか」

「坂本さん?」

「エギルよ。とくと見るぜよ。これがワシら、快援隊のやり方をな!」

 そういうと彼は、エギルと陸奥に向かってさり気なくウインクをする。その意味に気付いた陸奥は、ワイバーンにバレないようにとある策を講じていた。

 そのまま坂本は、ワイバーンたちに向かって強気に交渉へと赴く。

「おい、おまんら。武器はすてられないきに。代わりにこれと人質を交換するのはどうだ?」

「それは……」

「GGO星で発行された記念硬貨。ざっと十億はくだらないぜよ!」

「えっ!?」

 なんと坂本が交渉の差し出したのは、先ほどエギルに見せたコインだった。それを懐から取り出し、惜しげも無く人質との交換を提案している。

 彼の躊躇いのない選択に、エギルは大きく驚嘆とした。

「おい、坂本さん! 良いのかよ。そんな大切なものを」

 焦りながら言うと、坂本は冷静にも笑みを浮かべながら、スラスラと自身の想いを語っていく。

「言うと思ったきに。でも今のワシには、これしか選択肢がないぜよ……。良いか、エギル。商人にとって、大事なのは未来ぜよ。過去ばかり見てりゃ、大事なものはポロポロと崩れ去るからのう。十億を失うことになろうとも、その分また稼ぎゃええ。ワシはこんな過去の宝物よりも、キクヨさんや農園を守りたいんぜよ!」

 坂本の強き覚悟を聞き入れて、エギルは察していた。彼は常に未来を見通しながら、行動していることを。キクヨ達や農園を守る為ならば、自身の宝物すら惜しみなく捨てることが出来るのだと。

(迷いなく宝物を切り捨てて、キクヨさん達を守ろうとしている……これが坂本さんなりの覚悟なのか?)

 とても自分じゃ辿り着かなった覚悟に、エギルは坂本を改めて見直していた。

 一方でモヒカン男もといワイバーン達も、坂本の出したコインの価値に気付き始める。

「あのコイン、本当に十億の価値があるみたいですよ」

「そうか……良いだろう。ほら、さっさと渡せ」

「その前にキクヨさん達が先ぜよ」

「チッ、ほらよ」

 モヒカン男は十億のコインに目がくらんで、すぐにキクヨ達を解放した。拘束から離れた二人を、陸奥が保護する。

「大丈夫か?」

「えぇ、なんとか」

 二人の無事を確認したところで、

「ほらよ。これでおまんらのもんじゃ」

坂本はコインをモヒカン男に向けて投げつけた。彼がそれを掴むと、にんまりと下品な笑みを浮かべている。

「ハハハ! バカだな。そんな高価なもの、俺達に与えるなんてよぉ!」

 モヒカン男に続き、他のワイバーン団員達も高らかに笑っていた。十億という大金を手に入れて、皆調子に乗り始めている。思わず坂本らを煽っていくが……当の本人は全然悔しそうな表情をしていなかった。

「……バカはそっちぜよ。よく見てみぃ」

「はぁ?」

 急に呟いた坂本の言葉の意味が分からず、言う通りに手に入れたコインをモヒカン男が確認してみると、

「わいわいランド、ゲームコインだと!?」

「何!?」

「はぁ!?」

まったく別物だと発覚した。そう。このコインの正体は、ただのゲームセンターで見かける専用のコイン。つまりは十億の価値も無い、ごく普通のコインを彼らは手に入れてしまったのである。

「さ、坂本さん!?」

 このどんでん返しな展開には、エギルも想定外だったようで、またしても驚いてしまう。

 だが坂本と陸奥にとっては、共に想定の範囲内のまま事が進んでいたのだ。

「今ぜよ! 陸奥!」

「あぁ、起動するぜよ!」

 ワイバーン達が動揺している隙に、坂本は陸奥にとある装置の起動を指示。陸奥が懐に隠したボタンを押すと、光学迷彩で姿をくらませていた快臨丸の一船が姿を現す。その船の下部から強力な磁力を解き放ち、ワイバーン達の乗っていたバイクや武器を根こそぎ磁力で吸い上げてしまった。

「何!?」

「俺達のバイクが! 銃が!」

 重火器や乗り物を強制的に奪われてしまい、丸腰状態となったワイバーン達。誰もが状況を理解できずに、さらに混乱を深めている。

 ワイバーン全員の武器が手放されたことを確認した坂本と陸奥は、エギルにとどめの一撃を託すことにした。

「エギル! 奴らに鉄の雨を降らせてやるぜよ!」

「思いっきり破壊してこい!」

「……分かったぜ。坂本さん、陸奥さん!」

 二人の力強い言葉を受け取り、エギルは羽を使って高く舞い上がる。磁力で浮き上がったバイクや武器を鉄くずにするべく、彼は全身の力を斧に集中させていた。

「や、止めろ!!」

 ワイバーン達が止めようとももう遅く、

「おらぁぁぁ!!」

エギルの渾身の一撃がさく裂。振り下ろした斧の強力な斬撃によって、浮き上がった全ての武器とバイクが粉々に大破されてしまう。

「な……!?」

 一瞬のうちに起こったことをまだ理解できず、動揺を今もなお続けるワイバーン達。そんな彼らに、

「はぁぁ!!」

「ぶふぉぉぉ!!」

陸奥がすかさず蹴りや殴りを入れてくる。不意打ちを受けたことで、モヒカン男やワイバーン達は瞬く間に気絶。ぐったりと倒れこみ、そのまま動かなくなってしまった。

 絶望的な状況から一変。坂本の機転を利かせた策略により、一気に形勢を逆転させている。

「これで全員片付けたきに」

「おぉ、ありがとうよ。陸奥。それにエギルも」

「触るな。服が汚れる」

 緊迫感の解けた彼は、普段と同じく気さくに陸奥やエギルに感謝を伝えてくる。なお、陸奥には近づきすぎたせいか、より辛辣な一言を投げかけられてしまう。

「あんがとよ、私達を助けてくれて」

「俺からも感謝を伝えるぜ」

「あぁ、どうも」

 一方でキクヨと手伝いさんは、エギルに大きくお礼を交わしていた。彼に握手を求めており、代わりにワイバーンを懲らしめてくれたことに感謝している。

 なおエギル本人は、自分よりもワイバーンの面々をまんまと騙した坂本が、今回の窮地を救ってくれたと思っていた。

(あえて、偽物のコインを渡したのか? いや、それとも俺ごと騙されたのか? どっちなんだ)

 気になるのは坂本の懐に入っていたコインが、最初から偽物だったのか、それとも本物と密かに入れ替えたのかだが……それは後で聞くことに決めていた。

 どっちにしても、エギルは坂本の強気に突き進む度胸を素直に尊敬している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、キクヨさん達を狙っていたワイバーンは無事に壊滅。団員たちは揃って、陸奥の呼んだ銀河の治安部隊に引き取られる運びとなった。

「ワイバーンの団員は、全員この銀河の治安部隊にぶち込んだぜよ」

「これでもう邪魔者は現れないきに。存分にぶどうを収穫できるぜよ!」

 邪魔者が消えたことで、また安心してぶどうを育てられると元気づける坂本と陸奥。彼らの言葉を聞いて、今度こそ安心できるとキクヨ達は思い始めている。

「とりあえず、もう安心じゃな」

「そうだな。なぁ、キクヨさん」

「分かっているよ。アンタ達であれば、任しても大丈夫じゃな。幻のワインをしっかり宣伝するんじゃよ」

「おぉ! 良いのか?」

「えぇ。その代わり、今日は少しばかり仕事を手伝ってもらうかのう」

「ハハハ! 容易いぜよ! わしらに任せるきに!」

 ワイバーンの一件が解決したことで、キクヨは坂本ら快援隊の交渉を結ぶことに決めていた。この農園で作っているワインを、快援隊に託すと。

交渉が上手くいき、坂本は思わず大きく笑っている。坂本の笑いにつられて、陸奥もエギルもフッと笑っていた。

 するとエギルは、坂本に先ほどワイバーンに渡したコインの件について聞いている。

「なぁ、坂本さん。一つ気になっていたんだが、あのコインって最初から偽物と知っていたのか?」

「アハハ。そうぜよ、商人はいつ何が起きるか分からないからのう。周りを騙してこそ、真の商人じゃ。エギルも良い反応をしてくれたから、奴らをまんまと信じ込ませたぜよ。まっこと感謝じゃな!」

 と坂本は最初から知っていた前提で返答していたが、

「それは嘘じゃき。たまたま気づいただけきに。農園を訪れる前から、おまんかなり動揺していたぜよ」

「ぎく!? それは言わないお約束ぜよ」

「何を言うか。先週金庫に保管場所を変えたとか言って、忘れていたのはどこのボンクラか」

「む、陸奥! 綺麗に終わらせるつもりが、何を余計なことを言っているきに! エギル! さっきのはただの陸奥のでまかせじゃからな!」

陸奥によりたまたまであることが発覚した。どうやらエギルが最初にコインを見た時から偽物だったようで、肝心の本物は快援隊の金庫に保管しているという。しかも星に到着してから金庫に預けたことを思い出した様子で、陸奥にその感情の変化をまんまと読み解かれていた。

 要するにたまたま金庫に預けたことを忘れていたことで、上手いこと事が進んだ偶然の産物だと発覚してしまう。

(まぁ、どっちでも良いか。坂本さんも陸奥さんも立派な商人の先輩だと分かったからな)

 そんな真実を聞いても、エギルの坂本らに対する印象は変わっていない。真の商いの為に、全力を懸けられることを彼は知ったからだ。例え渡したコインが本物の十億の価値があるものだったとしても、同じような行動をとっていたと彼は察している。

「まぁまぁ、落ち着けって。交渉も無事終わったんだからよ」

 エギルが坂本と陸奥の間に入って、彼らを仲介していると、

「そうそう。折角だし飲んでみるか、幻のワイン」

「おぉー! 良いのか」

「フッ、ありがたく頂くぜよ」

「おっ。ありがとうよ、キクヨさん」

キクヨから仕事前にワインの試飲を勧められていた。先ほど起きた苦労を労う為にも、一行は酔わない程度に少しだけワインを口にしている。その味は渋みと深みがあって、みな大変気に入ったらしい。

 

 

 

 

 

 こうして、イチオヤ星での商談は無事に終了。坂本らは時間の許す限り、キクヨ達の仕事を手伝うことにした……。

 

 

 

 

 

 

 ――エギルを地球へ帰す為、快臨丸が来た道を戻っていた時のこと。彼は坂本らに、自分がこの世界へ来たきっかけであるサイコギルドの一件について話していた。

「ほぉー。次元を行き来するバケモンに、おまんと仲間達が巻き込まれたということか」

「あぁ。未だに帰る方法も分かっていなくてな。坂本さんは何か知らないか」

 少しでも手がかりが欲しいので、エギルは坂本や陸奥に情報提供を求めている。すると、坂本にはある一件が頭に浮かんでいた。

「そういえばGGO星で、最近妙な噂が出ていたな」

「GGO星で?」

「そうじゃき。正体不明の暗殺者がいるらしくてな。つい最近星に降り注いだ流星の欠片を所持する人物ばかりを狙い、奪いさる事件が数件起きているとのこと。あの星にいる警察や特殊部隊がくまなく探しても、一切痕跡を残していなくてな。もしかすると、おまんの言うサイコギルドの仕業かもな」

 坂本に補足する形で、陸奥がGGO星で起きている事件の概要について詳しく話す。一切姿を見せずに、対象を射殺する内容から、エギルは元の世界で起きた死銃事件について思い出していた。

(GGO星で? なんかキリトが体験した事件とそっくりだな……)

 そう。SAOの世界では、数か月前に死銃事件になる騒動があった。GGOという仮想世界で死銃に撃たれた者は、現実でも同じく死んでしまうと。結局は巧妙なトリックによる殺人事件で、関係者も確保されつつあるのだが……この銀魂の世界でも、似たような事件が起こっていたのだ。

 さらに陸奥や坂本は続けて、この事件に絡む厄介な組織についても言及している。

「それに厄介なのが、そのGGO星の事件には春雨が関わっているという噂も上がっておるんじゃ」

「春雨? なんか聞いたことがあるような」

「宇宙を駆け回る荒くれ物の海賊ぜよ! 関わると面倒だから、ワシら海援隊も手を焼いていてな」

 どうやらGGO星で起きていることは、裏社会を行き来する海賊、春雨も関与が疑われているらしい。坂本は浮かない顔をしたまま、ため息を吐いている。

 坂本の後ろ向きな姿勢に、エギルが珍しがっていると……陸奥は自前のタブレットから、春雨の画像をエギルに見せてきた。

「あった。これが春雨ぜよ。事件現場におるこの赤い髪のやつじゃ」

 その画像にはGGO星にて撮られた赤い髪の男が映っていたのだが……エギルは彼を見た瞬間にあることを思い出している。

「えっ……こいつ会ったことがあるぞ!」

「なんじゃと!?」

 そう。彼とは坂本らと同じくメタルフェスで一度対面していたのだ。急に腕相撲を頼まれて、あっけなく彼にやられたので、エギルにとっては忘れたくても忘れられない相手なのである。

「はー。そんな偶然があるんか」

「まさかおまんが神楽の兄と会っていたとは」

「そうだな……えっ? 陸奥さん、今なんて言ったんだ?」

「だから神楽の兄ぜよ。初耳じゃったか」

「えっ?」

 とさらに衝撃的な事実を、エギルは知ることになった。陸奥の一言により、自身が会った相手が神楽の兄である神威だと分かったのである。

(う、嘘だろ!? あいつ、神楽の兄だったのか!! いや、確かに雰囲気は似ていたけど。そんなことがあるのか……!?)

 彼にとっては衝撃度がかなり大きく、内心ではかなり動揺していた。あの時に痛感した神威の馬鹿力を思い返すと……神楽の兄と言われても正直納得がいく。まだすべてを受け入れるには、だいぶ時間がかかりそうである。

 そんな一件がありつつも、エギルは無事に銀魂世界の地球へと帰還していた。




 今回は坂本の再登場回(キリト、アスナ、シリカ、銀時の合同誕生日会)では特に絡みのなかったエギルと坂本のメイン回となります。出番の少なさを憂いている坂本ですが、次々回の長篇では出番が増えるかも……しれませんね!
 それとエギルは一足先に、神威の存在を知ることに。そりゃ驚くか……。






次回予告

ユイ「パパ、ママ、銀時さんが風邪でダウンしちゃいました……こうなったら私が、万事屋ユイちゃんとして活躍するしかないです!!」

銀時「ユイ、止めとけ」

ユイ「次回! 子供ってのは親の癖をなんでも真似する」

新八「アレ? そういえば入れ替わり篇の最後で、みんなまた入れ替わったはずじゃ」

神楽「なんやかんやあって、無事に戻ったアルよ」

新八「いや、適当だな!?」
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