剣魂    作:トライアル

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第百十五訓 子供ってのは親の癖をなんでも真似する

「パパ? ママ? 銀時さん? 大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。ユイ」

「寝て元気になるから安心してね」

「なんで三人揃って、風邪ひかなくちゃならないんだよ」

 万事屋の寝室にて、布団に入り込み寝込むキリト、アスナ、銀時の三人。ユイは心配そうな表情を浮かべながら、三人の容態を様子見していた。

 この日の万事屋は、風邪の影響で三人が体調を崩している。昨今の急激な気温の変化が皆に影響したのかもしれない。銀時ら三人は寝間着姿のまま、ぐったりと休んでいた。

 なお、無事なのは新八、神楽、ユイの三人で、揃って彼らの看病を行っている。

「皆さん、おかゆが出来ましたよ」

「ほらほら。何も食べないなんて、体に毒アル。じゃないと私が全部食べるアルよ!」

「もう既に半分ほど食ってんじゃねぇかよ」

 神楽の変わらないマイペースぶりに、新八は思わずツッコミを入れていた。折角作ったおかゆも、神楽が既に半分ほど食べつくしている。

 そんな看病を続けている三人だったが、タイミングが悪く今日は万事屋の仕事がこの後に入っていたのだ。

「どうしましょう。今日は探し物の依頼が急に入っているのに」

「どうするネ。断るアルか?」

「でも今日じゃないとダメそうだし……」

 新八や神楽は今後の対応について悩み始めている。看病はいざとなれば、スナックお登勢にいるエギルやたまにお願いしても問題無いのだが、現在動けるメンバーで仕事をこなせるか少し不安を覚えていた。依頼主もとある事情で、今日じゃないといけないという。

 依頼主との約束の時間である午後一時が刻一刻と迫る中、どう対応するか悩んでいた時……ユイが二人に声をかけてくる。

「心配ありません! このままいきましょう!」

「えっ、ユイちゃん!?」

「どうしたアルか、その恰好?」

 二人が振り向くとそこには、銀時の一張羅である着物をぶかぶかに着たユイが自信満々に立っていた。ユイは腕組みをしたまま、新八や神楽にとある宣言をする。

「パパやママ、銀時さんの代わりに、私が万事屋としてお仕事します! 万事屋銀ちゃん改め、万事屋ユイちゃんの開業です!!」

「えっと、本気アルか、ユイ?」

「はい! 看病のことはたまさんにお願いしたので、私達だけで依頼者に行きましょう!」

「それと、なんで銀さんの着物を?」

「一度着てみたかったので!」

 ユイのやる気に満ち溢れた態度と、根回しの良さに思わず困惑する二人。わずか短時間で、たまらに看病のお願いもしたらしい。

 ユイ自身は体調を崩して動けなくなったキリト、アスナ、銀時の代打として役立ちたいという強い責任感が生まれており、しっかりと万事屋としての仕事を完遂したい様子である。そんな彼女の強い意志に触れて、新八や神楽も決意を固めつつあった。

「そうですね。僕らだけでやってみましょうか」

「分かったアルよ、ユイ。私達もしっかりサポートするネ!」

「ありがとうございます、新八さん! 神楽さん!」

 ユイと一緒に万事屋の仕事をこなすと決めている。例え銀時らが不在であっても、自分達だけでやり遂げると二人は考えていた。

 急遽決まった三人だけの万事屋を見て、寝込んでいるキリト達はと言うと、

「三人だけで探し物をするのか」

「大丈夫かな……」

「平気だろ。新八と神楽もついているんだしよ」

各々が不安を感じている。特にアスナはユイが空回りして失敗しないか、余計に心配していた。銀時は保護者として新八や神楽が同行する分は問題ないと思っていたが。

 こうして即席で結成された万事屋ユイちゃん。ユイ、新八、神楽は万事屋を出て、依頼主との待ち合わせ現場であるかぶき町の公園へと向かっていく。

 一方で万事屋の方では、

「銀時様、キリト様、アスナ様。体調の方はどうでしょうか?」

「果物ならすぐ用意出来るが、食べるか?」

「……いちご牛乳って作れるか」

たまとエギルがユイらの代わりに看病を行っていた。銀時は早速エギルに、いちご牛乳をリクエストしている。

「ワフ~!」

 定春もおねだりしていたが、いちご牛乳を飲むと暴走する危険性があるので、すぐに断られてしまった。

 体調が戻るには、まだまだ時間がかかりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユイ、新八、神楽の三人は、依頼主と待ち合わせをしたかぶき町の公園へとたどり着く。付近を探すと、あちこち手あたり次第公園内を探し回っているスーツ姿の男性を彼らは見つけていた。

「もしかして、あの人でしょうか?」

「そうですね。すいませんー! 依頼主の川中さんですか?」

「あっ、来た来た! 万事屋の皆さん!」

 依頼主である川中に新八が声をかけると、彼は大きく手を振っている。ひとまずは彼の元に、三人共集まっていた。

「アレ? 銀さんは今日不在なんですか?」

「はいです! 風邪でダウンしちゃったので、私が銀時さんの代理として駆けつけました!」

 銀時の不在に川中が気付くと、ユイは高らかに銀時の代理であることを伝えている。その証拠に、今自分が羽織っている銀時の白い一張羅を彼に見せつけていた。

「もしかして、銀さんの隠し子ですか?」

「違いますよ! 銀時さんの娘じゃないですよ、私は!!」

 川中は思わず銀時の娘と勘違いしてしまい、ユイ本人からツッコミを入れられてしまう。彼女はやや不満そうな表情を浮かべていた。

 そんなやり取りを交わしつつも、新八は早速川中に探し物の依頼について詳しく聞いてみる。

「それで川中さん。今日の依頼はなんですか?」

「いや、実は……この度俺、お付き合いしている麻帆子さんって方に告白することを決めまして」

「マジあるか!?」

「告白ですか!?」

「はい。それで今日は朝からプロポーズの練習にとこの公園に来たのですが……その時に結婚指輪を無くしてしまって」

 照れながらも彼が伝えたのは、プロポーズの報告であった。皆めでたく感じて、上手くいくようにと思い始めていたが、肝心の彼女に渡す指輪を公園内で無くしたという。川中が万事屋に依頼をしたのは、告白に必要な指輪を見つけてほしいからであった。

「なるほどです。それで私達に依頼をしてきたのですね」

「はい……夕方までにはどうにか見つけたいのですが、お願いできますか?」

「任してください! 私達が必ず見つけますから!」

 依頼内容を聞き入れて、しっかりと指輪を見つけ出すことを約束するユイ。依頼主である川中の告白を成功させる為にも、彼女は協力を惜しまない意思を示していた。

「万事屋の皆さん、ありがとうございます。では、見つけたら宜しくお願いします。指輪はこの写真の通りですので。裏に麻帆子さんの文字も刻まれているので、同様に確認してください」

「はいです!」

 ユイの頼もしさを感じつつ、川中は彼女ら万事屋の言葉を素直に信じようとする。彼女に結婚指輪の写真を手渡して、再び思い当たる場所や茂みをくまなく探していく。

 万事屋も川中とは違う方角で、結婚指輪を探すことにした。

「それじゃ、私達も探しましょうか」

「そうですね」

「サクッと探して、川中の愛を成就させるアルよ!」

 ユイらは彼から手渡された結婚指輪の写真を頼りに、公園内をまばらに探していく。夕方のプロポーズまでに、どうにか見つかるようにとやる気を高めていた。

 しかし。指輪の捜索から一時間程経過すると、

「ないですね」

「ないアルナ」

手がかりすら見つからない状況に皆焦りを感じ始めていく。

 そもそも川中が指輪を無くしたとされるこの公園は、江戸でも有数の広さを誇り、野生動物も時折姿を見せる場所。広い故に探しにくいのも難点だが、事情を知らない野生動物が持ち去ったとならば、余計に面倒な事態になってしまう。一行は手がかりが一切見えない状況の中、ほぼ場当たりな感覚で指輪の捜索を続けていた。

 そんな時である。

「ん? なんだ万事屋のとこの嬢ちゃんか」

「あっ、忍者さん!」

 三人は知り合いとばったり遭遇していた。ユイも以前に何度か会ったことのあるフリーターの忍者、服部全蔵が三人に声をかけてくる。

「全蔵さん。どうしてここに?」

「ジャンプ買ったついでに、お前らをみかけてよ。てっきりアイツかと思ったが、まさかお前らだけだったとは。つーか、俺が出る時に限って、この嬢ちゃんと会ってないか?」

「知らないネ。投稿者に聞くヨロシ」

 新八が聞くと、全蔵はたまたま彼らを見かけて声をかけたらしい。本人は何故か登場する度にユイと会うことに疑問を感じていたが……ただの偶然であろう。神楽も適当な言葉で受け流していた。

 すると、ユイは早速全蔵に結婚指輪について情報提供を求めている。

「ところで忍者さん! この近くで指輪を見ませんでしたか?」

「指輪?」

「はい! 依頼主さんがプロポーズの為に用意していたものを無くしちゃって……忍者さんは何か知りませんか?」

 あわよくばここで有力な情報をもらい、事態を好転させたいと思っていた。ユイは純粋な眼差しで、全蔵の方をじっと見つめている。

「なるほどな。それがお前らの今日の仕事か。って、指輪なら……このことか?」

「えっ、まさか!?」

「全蔵さん、拾ってたんですか!?」

 なんと、彼からもらったのは、情報ではなく結婚指輪そのものであった。全蔵の懐から取り出された指輪は、写真とまったく同じ形状の指輪である。探し求めていた指輪がやっと手に入り、ユイらのテンションは大いに高まっていた。

「まぁな。しかもついさっきだ。なんか上から落ちたと思ったら、こいつだったんだよ。いや~、お前らの探しているものだったとは」

「おぉ! 大手柄ですよ、忍者さん!」

「本当ネ! これで後は川中に渡せれば達成ネ!」

 探し求めていたものが見つかり、思わず感謝を伝えるユイと神楽。後は川中に渡せば依頼は完了……と皆浮かれ切っていた時だ。新八は結婚指輪から匂う、ある異臭について気になり始めている。

「アレ? なんか酸っぱい匂いしませんか?」

「あっ、本当ですね」

 結婚指輪に鼻を近づけると、まるで薬を塗ったかのような酸味のある匂いを皆感じ取っていた。香水とも言い難い特徴的な匂いに、新八は恐る恐る全蔵へその正体について聞くことにする。

「全蔵さん。これは一体……」

「あぁ、これか。多分ポラギノー○だな。密かに塗っているところを拾ってな。俺はそんな気にならな……」

「ふわちゃぁぁ!」

「ぶふぉぉぉ!!」

 嫌な予感が的中した瞬間であった。酸味のある匂いの正体は皮膚に塗るタイプの薬で、よりにもよって全蔵の持病である痔を治す効力の強い薬である。つまりは一回自身の肛門に触った手で、結婚指輪を回収したのだ。

その事実を知ると、神楽は反射的に全蔵の腹部目掛けて大きく蹴りを入れていく。吹き飛ばされた彼は大きく吹き飛ばされ、木にぶつけられてそのまま気絶してしまった。

 折角結婚指輪を見つけ出したものの、この鼻をつんざくような匂いを対処しなければいけず、新八ら三人は頭を悩まされてしまう。

「ちょっと! どうするんですか! 薬剤と肛門の匂いがする結婚指輪なんか、渡せませんよ!!」

「ど、どうしましょう!!」

「落ち着くネ! とりあえず……匂いが酷くならないうちに売って、別物を用意するアル! そして余った金で一息つくね!」

「お前が落ち着け! 何ちゃっかりと回りくどい作戦立てているんですか! そんなの通用するわけないでしょうが!!」

 混乱のあまり神楽は回りくどい計画を思いつき、新八から強めにツッコミを入れられてしまった。突如として突きつけられた悪臭の問題に、新八や神楽が慌てて右往左往していた時である。

 ユイは再び結婚指輪を眺めていると、とある新事実に彼女は気付いていた。

「ん?」

「ユイちゃん、どうしたの?」

 新八が聞いてもなお、彼女は結婚指輪の方をずっと凝視している。ユイが注意深く見ていたのは、指輪の内部に刻まれた名前であった。彼らが探し求めている正規品であれば、麻帆子という文字が刻まれていればいいのだが……

「まきこ……分かりました! これはまったく別物ですよ!」

「べ、別物!?」

「どういうことアルか、ユイ?」

その文字はまったくもって異なっている。ユイはこの事実から、この指輪が川中の探し求めているものではないことに気付いていた。彼女は早速、新八や神楽にそのことをスラスラと話している。

「この結婚指輪の内側に刻まれている名前が、川中さんの相手と一致しないからですよ」

「えっと……まきこ?」

「はいです! 川中さんのお相手は、麻帆子さん。つまり全然違う別の人の指輪なんですよ」

 自分自身で見つけたことが嬉しく思い、彼女は自信満々に二人へ説明していた。刻まれている名前が違うので、悪臭の問題は特に気にしなくても良くなったが、肝心の麻帆子と書かれた指輪はまだ見つかっていない。

 だがしかし、ユイは全蔵のある一言で、既に新たな推測を立て始めていた。

「じゃ、なんで全蔵さんはその指輪を拾ったんだ……?」

「恐らくですが、この公園に潜むいたずらもののせいだと思うんですよ」

「いたずらもの? 何かユイは思い当たっているアルか?」

「はいです! 全蔵さんの言う通り、空から落ちてきたならば……」

 そう。彼の言っていた空から落ちてきた証言をヒントに、ユイは自身の推測を確信させる為に、持っていた指輪を天に掲げている。すると、

「かー!!」

「うわぁ!?」

何者かがその指輪を勢いよく奪っていた。その正体は、町に潜む漆黒の鳥……そうカラスである。

「カ、カラス!?」

「やっぱり……恐らくあのカラスが、犯人ですよ!」

「じゃ、川中が指輪を無くしたのも」

「はい! あのカラスに奪われたんだと思います!」

 ユイは一連のカラスの行動から、今回の指輪紛失の犯人だと断定。川中が指輪を無くしたのも、あのカラスがこっそり盗んだものと思っていた。

「じゃ、あいつを追いかければ」

「川中さんの指輪も取り返されるはずです!」

 その上でカラスを追いかければ、持ち去った指輪も取り返せると予想している。

ユイのかしこい作戦を聞き入れて、新八や神楽もすぐに乗っかろうと決めていた。

「なら追いかけるアルよ!」

「もちろん! ありがとうございます、忍者さん!」

 一行はカラスを追いかけるきっかけを作ってくれた全蔵に、感謝の言葉を伝えて、そのままカラスを追いかけていく。肝心の本人はずっと気を失っており、やっと目が覚めたところなのだが……。

「アレ? あいつら、どこ行った?」

辺りを見渡しても、彼らは既に公園を立ち去った後だった。この状況を把握するには、まだまだ時間がかかりそうではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かー!」

「まてぇぇ!!」

 一方でユイ、神楽、新八の三人は、公園を抜け出して、指輪を持ち去ったカラスを追跡していた。公園から住宅街を通り過ぎており、現在は河川敷まで追いかけ続けている。

「このまま追いかければ、きっと!」

「あのカラスの住処にたどり着けるアル!」

「見失わず、追いかけ続けましょう!」

 と三人共に諦めず追跡を続けていた……その時であった。

〈バーン!〉

「えっ?」

「はい!?」

 目の前で見えたのは、カラスが何者かの襲撃に遭って、爆発に巻き込まれる光景。その煙の中から、

「カ……」

弱弱しくなったカラスがふらふらになって出てきていた。思わず指輪を吐き出しており、煙から逃げ去るように遠くへ飛んでいってしまう。

 当然ユイらにとっては、何が起きたかまったく読み込めていなかったが、ふと近くを見渡してみると、とある見知ったかが目に入り込んできていた。

「アレ? この指輪じゃないな」

「またはずれですか。諦めずに次を探しましょう」

「そうですねぇ、姫様」

 そこにいたのは、沖田と徳川そよである。沖田は隊士服のまま、肩にバズーカを装備しており、そよはお忍びで着る紫色の着物を着用していた。どうやらカラスを襲撃したのは二人が原因のようで、神楽は沖田を見た瞬間に彼へ近づき、大きくツッコミを入れる。

 なお死角に隠れていたせいか、この時の三人はそよが近くいることに気付いていない。

「おいぃぃぃぃ! ドS! 何やっているアルか!!」

「なんだ、チャイナかよ。つーか、なんでそんなに怒ってんだよ」

「うるせぇ! こちとら、一生懸命に指輪を探し回っていたアルよ! それなのに、何を横やり入れてるアルか」

「なんのことでい」

 怒りに狂う神楽に対して、沖田は適当な態度で言葉を返している。変わらずのぶっきらぼうな態度に、神楽の怒りは増々大きくなっていく。

 そんな彼女を宥めつつも、ユイや新八も沖田へ話しかけてくる。

「沖田さん! どうしてここに?」

「ん? 旦那じゃなくて、黒剣さんのとこのガキもいんのか」

「まぁ、諸々と事情があって。じゃなくて、なんであのカラスにバズーカ打ったんですか!」

 ユイも思わず大声で、沖田に訳を聞こうとした時だった。

「それについては、私から説明しましょう」

「そ、そよちゃん!?」

 彼の背後に隠れていたそよが、ようやく一行にその姿を見せる。思わぬ親友の登場に、神楽や新八は驚嘆としていた。

「ひ、姫様!? どうしてここに?」

「姫様?」

 だがしかし、ユイのみは初対面の為か、あまりピンと来ていない。疑問を浮かべている彼女に、沖田はついでにそよを紹介した。

「おや。ガキの方は初対面だったか。こいつは徳川そよ。将軍様の妹で、いわば姫君だ」

「えっ? 本当にお姫さまなんですか!?」

 そよの正体が将軍の妹と聞くと、彼女は視線をそよの方に向けて、一段と驚嘆している。そんなユイの疑問に、そよは優しく返答していた。

「そうですよ。と言ってもそんなかしこまらないでください。私はごく自然に接したいので。ところで神楽ちゃん。この女の子は誰なのですか?」

「あっ。この子はユイって言って、万事屋の新しいメンバーアルよ!」

「新メンバー! 噂には聞いていましたが、まさかこんな小さい子も入られたなんて。益々賑やかそうで、羨ましい限りですよ」

 そよは早速ユイに興味を持ち、神楽に詳しく聞いている。彼女自身も万事屋の新メンバーの件は噂に聞いており、ユイもその一員と知ると、増々興味を持ち始めていた。

「あの、新八さん。神楽さんと姫様って、お友達なんですか?」

「そうだね。と言っても、僕らも最近知ったばかりで、どういった経緯で会ったのかは詳しく分からないけど……」

「神楽さんって、色んな友達がいるんですね……」

 一方でユイは、そよと神楽が知り合いであることにも驚きを示している。益々神楽の交友関係の広さに、意外性を感じ取っていた。

 沖田とそよの突然の遭遇により、話題はそよ側に寄ってしまったが、ユイ達はようやく本題の指輪の件について話し始めていく。

「そういえば、そよちゃん。一体ここで何をやっていたアルか?」

「あぁ、実はですね。近藤さんの結婚指輪を、私がてっきりカラスに投げてしまって。それで沖田さんと一緒に、今探しているんですよ」

「こ、近藤さんの結婚指輪!?」

「何考えているんだ。あの人は……」

 近藤の結婚指輪の存在を知ると、新八は呆れかえった表情を浮かべている。間違いなく妙に渡すものと分かり、彼の用意周到なしつこさについため息を吐いてしまう。

 どうやらそよ達がカラスを襲撃した理由は、自分達が無くした結婚指輪を取り返す為のようだ。

「それで手あたり次第、俺達でカラスを襲撃して、指輪を集めているってわけだ。こんな風にな」

 すると沖田は、近くにあった箱をユイ達に見せつけている。そこには大量の指輪や装飾品が入っており、そのどれもがカラスから奪い取ったものらしい。

「こ、こんなに集めたアルか」

「えぇ。近藤さんの指輪は見つからなかったですが、紛失届が出ているものもあるみたいなので、後で該当する方にお渡しする予定なんですよ」

「まぁ、それは他の隊士に任せるんですけどねぇ」

 そよ曰く、近藤の指輪は見つからなかったそうだが、集めた指輪や装飾品は後で一式該当者に返却するとのこと。沖田は余計な仕事を押し付けられたので、さらに別の隊士にその仕事を押し付ける様子であったが……。

 その二人の話を聞くと、ユイにある考えが思い浮かんでいる。

「もしかして……この中に川中さんの結婚指輪が入っているんじゃないですか?」

「なるほど……確かにその可能性は高いかも」

 そよ達の集めた指輪の中に、探し求めている指輪があると考えていたのだ。もし読み通りにあれば、川中のプロポーズまでに間に合う可能性も高い。ユイ達は千載一遇のチャンスとして捉え始めている。

「そよちゃん! 少し探してみても良いアルか?」

「もちろんですよ。どうぞ、存分に拝見してください!」

 そよも神楽達の案に乗っかって、快く指輪の詰まった箱を渡していた。三人は一斉に箱へと群がり、懸命になって指輪を探していく。

「早急に見つけて、公園に戻りましょう!」

「ですね!」

「そうアルナ!」

 皆川中のプロポーズの時間までに間に合わせるべく、一つ一つ丁寧に対象の指輪を探す。

「手短に終わらせろよ」

「黙れ、ドS」

 なお沖田は、時間のかかる指輪の捜索を億劫に感じている。手伝わずあくびをしながら小言を吐き、神楽から辛辣な一言を返されていた。

 その一方でそよは、地味ながらも依頼人の為に頑張るユイの姿を見て、心の底から強く感激している。

(ユイさん。とっても素直で、まっすぐな方ですね。万事屋としてぴったりの女の子かもしれませんね!)

 自分とほぼ同じ年にも関わらず、健気に奮闘する様子に惹かれたようだ。そして思わず、彼女達を手伝うことに決めている。

「ユイさん! 私も探しますよ」

「えっ、良いんですか?」

「はい! 私も万事屋の仕事を手伝いたくなったので」

 ユイの横に座り、同じく結婚指輪を探すことに。沖田から止められようとも、彼女の意思に変わりは無かった。新八や神楽も、そよが手助けに加わったことを頼もしく感じている。

 こうして万事屋の面々は、長い時間をかけて川中の結婚指輪を探し続けていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこいったんだ、万事屋の皆さん……」

 一方で時刻が夕方に差し掛かった頃。川中はいよいよプロポーズの時間が迫り、二つの意味で慌てていた。成功するか分からない緊張感と、まだ指輪が見つかっていない焦りである。特にいつの間にか万事屋ともはぐれてしまい、どんな状況か連絡が付かないことも焦りに拍車をかけていた。

 そんな中である。

「浩一郎さん?」

「あっ、麻帆子さん!」

 着物を着た若い女性が川中に声をかけてきた。そう。彼女こそが、川中が今日求婚を申し出る相手の麻帆子である。

「急な話って。一体何のこと?」

「えっと、それは……」

 肝心の指輪がまだ手元になく、思わず尻すぼみしてしまう川中。正直なことを言って、彼女に許しを貰おうとした……ちょうどその時。

「これのことです!」

「み、皆さん!」

 二人の間に割って入るように、ユイが元気よく声をかけてきた。彼女の手には川中の探し求めていた結婚指輪があり、少し時間を過ぎてしまったが、無事に川中の手元へと戻って来たのだ。

「指輪?」

「そうです! 川中さん。この指輪をカラスに取られちゃって、絶対に間に合わせる為に、知り合いである私達の手も借りて、一生懸命に探していたんですよ。今日という日を成功させる為に! ちょっと時間は過ぎちゃいましたけど……その気持ちに嘘偽りはないと思いますよ!」

 ユイは麻帆子に対して、今日起きたことを余すことなく話している。お節介を承知で、川中がたった一つの指輪の為に全力を懸けていたことを伝えたかったのだ。その事実を知ると、彼女は驚いたような表情を浮かべている。

「本当なの?」

「本当です。だからこそ……俺と……俺と結婚してください!!」

 そして川中は勢いのままに、麻帆子へ結婚を申し出た。本来予定していた流れとは少し違うが、好機を見逃さずに率直な気持ちを彼女へ伝えている。

肝心の返答はと言うと、

「もちろん。世界に一つだけしかないものね。この指輪」

その指輪をはめて快く了承してくれた。要するにプロポーズはすんなりと大成功を収めたのである。

「よしっ! やったぞ!」

「やったアルナ、川中!!」

 感極まって喜びの声を上げる川中。神楽も威勢よく二人の婚約を祝福していた。

奪われた結婚指輪も取り戻し、プロポーズも大成功。銀時、キリト、アスナの不在となった今回の万事屋の依頼だが、ユイの考察力と諦めない姿勢が、事を上手く運んだのかもしれない。

「間に合って良かったですね、新八さん!」

「そうですね。でも、あの件は内緒にしないとですね」

「もちろんですよ。今はこの空気を大切にしたいからですね」

 ユイ、新八も、今回の依頼が上手く進み、互いの苦労を労っていた。その最中、二人は密かに口裏合わせを講じている。

 そう。あの指輪は無論本物の結婚指輪で間違いないのだが、全蔵が手渡した指輪と同じく、酷い悪臭がこびりついていたのだ。ユイらは早急に匂いを消毒して、綺麗な状態に限りなく近づけたのである。そのせいで、時間がかかってしまったのだが……ギリギリで間に合って共に一安心していた。

 このまま幸せを掴んだ二人を見守るユイらであったが……ふと麻帆子があることに気付き始める。

「あっ。でも浩一郎さん。一つ大事なものを忘れてますよ」

「大事なもの?」

「私の大好きな匂いです。えっと……あっ!」

 指にはめた指輪を嗅いだところ、彼女は自身の好きな匂いが塗られていないことに気付いていた。すると彼女はあるものを見つけて、それを所持している男に声をかけてきた。

「あの、それ貸してもらっても良いですか?」

「これか?」

 その男は、先ほどまでユイらが話していた服部全蔵である。しかも彼の手には、愛用している痔用の塗り薬があった。

「えっ?」

「麻帆子さん……?」

 何やら嫌な予感を察するユイ、新八、神楽だったが、その予感は確信へと移り変わる。

「はい、これで完璧ですね!」

「えっ!?」

「はい!?」

 なんと麻帆子は、全蔵の持っていた塗り薬を指輪に塗りたくっていた。彼女の言う物足りない匂いは、この塗り薬の何とも言えない酸味のある匂いだったらしい。彼女の想定外の奇行には、ユイら三人はつい唖然としてしまう。

「もう、ダメですよ。浩一郎さん。この匂いを付け忘れちゃ」

「アレ? 付けたはずだけなんだけどな」

 川中も麻帆子の好きな匂いを知っており、付け忘れるはずがないと少しだけ疑問を感じている。特に険悪な雰囲気にはならず笑って誤魔化していたが……一方でユイ達は、麻帆子の意外な真実に戦慄を覚えていた。

「まさかあの匂いが正しかったってことですか……」

「こんなの誰が分かるアルか」

「癖の強い彼女さんだな……」

 ユイ、神楽、新八とみな苦笑いで思っていたことを呟く。結局気遣って綺麗にせずとも良かったのだが……この展開は正直誰も読めていなかった。祝福ムードもいつの間にか万事屋側のみ、微妙な雰囲気が流れている。

 一方で全蔵はと言うと、

「えっ? 何この状況。コントの練習?」

「いえ。プロポーズです……」

「あぁ、そう」

やはり何一つ状況を読み取れていなかった。とりあえずは空気を読み、余計なことは言わないように慎んでいる。

 こうして依頼を無事に果たした万事屋だったが、終始匂いに振り回されて、皆一気に疲れを感じたまま、一連の騒動は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日である。

「うぅ……風邪をひいてしまいました」

「ユイもアルか」

 銀時やキリトの風邪が移ったのか、ユイも体調を悪くしてしまい、寝間着姿のまま寝込んでしまっていた。昨日に見せた元気な姿は無く、顔色を悪くしてぐったりとしている。

 これで銀時、キリト、アスナ、ユイの四人が、体調不良となってしまった。

「銀さん達の風邪が移ったんでしょうか?」

「心配しないでください、新八さん……気の持ちようでなんとかなりますよ。風邪なんて、この世界でしか体験できないレアイベントですから!」

「凄いポジティブシンキングですね」

 顔色を悪くするユイを心配する新八だったが、当の本人は前向きに捉えている。そもそもユイは元の世界では風邪なんてひかないので、その辛さに悶えつつも、この状況を楽しもうと必死に暗示をかけていた。めげないユイの態度には、新八も優しくツッコミを入れている。

 一方でキリト、アスナ、銀時の三人は、昨日よりは熱は下がり、徐々に気だるさも治りつつあった。

「昨日よりは、体は軽くなったけど……」

「まだまだ安静してないとダメそうね」

「同じくだ。あー、今日はパチンコ打ちたかったんだけどな」

「アンタは一生寝込んでろよ」

 銀時だけは自身の体調よりもパチンコの行方を心配しており、新八から辛辣なツッコミを投げられている。

 いずれにしても、今日もみな安静にしなくてはいけないのだが……運が悪く、またしても万事屋に急な仕事が舞い込んできたのだ。

「でも、どうするネ。新八。今日も確か仕事が入っていたアルよ」

「出来る限り人手が欲しいけど、今から集めると流石に……」

 ユイが動けなくなった以上、二人で回すしか方法は無いのだが……新八と神楽はまたもたまやエギルに看病をお願いしようか考えていた。そんな時である。

「心配ありません!」

 玄関口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。二人が向くとそこには、

「えっ、姫様!?」

「そよちゃん!」

昨日出会った徳川そよが万事屋を訪れていた。しかも、昨日ユイも着用していたズンボラ星人のジャージを着用している。

「ど、どうしたんですか。その恰好!?」

「じいやに言って用意してもらいました! 万事屋の窮地は、神楽さんの親友である私がなんとかするべきです! 万事屋ユイちゃん改め万事屋そよちゃんを開業するんです!」

「いや、姫様それ言いたかっただけですよね!?」

 そよは自信満々にユイの代理として、万事屋の仕事を手伝うと宣言していた。ユイを手助けする心構えは新八や神楽にとっても助かるのだが……将軍の妹という立場上、彼女には荷が重すぎるのではないと思い始めている。

「でも、大丈夫アルか。そよちゃん」

「心配無用ですよ。信女さんにお願いして、声帯模写も練習しましたから」

 そよは銀時らを安心させる為にも、密かにユイの声を似せるようにと練習していた。声を整えていき、限りなくユイに似た声質に変わっていく。これで銀時やキリトらを安心させる算段であろう。

「これでオーケーです!」

「おぉ、ユイの声になったアル!」

「いや、声だけ似せても意味なんてあるんですか!?」

「これで皆さんを安心させるんです! パパ、ママ、銀時さん! 私はもう元気になりましたらから、安心して療養に励んでくださいね!」

 新八のツッコミを振り切って、そよはユイになりきり、キリトやアスナに話しかけていく。彼らを一安心させたかったのだが……

「ユ、ユイの友達か?」

「ごめんね。今四人揃ってダウンしちゃっていて……また別の日に来てくれるかしら?」

キリトやアスナにはあっさりと別人だと見抜かれてしまった。

「な、なんで!? なんでバレたんですか!!」

「いや、さっきの会話ほぼ筒抜けだったからだよ」

「これが親子の愛ということですか!」

「勝手に納得しちゃったよ!?」

 動揺するそよに、銀時が小声でツッコミを入れている。さっき新八や神楽と話した件も皆聞いていたので、特に騙されることも無いまま失敗に終わったのだ。そよは一人で勝手に納得していたが……。

 そんな中でアスナやキリトは、ユイにさっき話しかけた女の子の件について聞いている。

「ところでユイちゃん。あの女の子って、お名前はなんて言うの?」

「徳川そよさん……将軍様の妹です」

「そっか。そよ……えっ、ユイ。もう一回言ってもらえるか?」

「徳川そよさん。昨日知り合った将軍様の妹。所謂お姫様です」

 ユイの口から将軍の妹と聞いた瞬間に、

「「えっ!?」」

「お前ら、今気付いたのかよ」

二人は思わず起き上がっていた。あまりにも唐突な現状に、共に困惑めいた表情を浮かべていた。そんな動揺する二人に、銀時はまたしても小声でツッコミを加えていく。

 万事屋での風邪騒動はまだまだ続きそうである……。




 万事屋ユイちゃんが一日のみ開業! ズンボラ星人のジャージを着たユイは、中々にレアだと思います! 鼻くそはほじりませんけどね……そんな彼女はそよ姫とばったり遭遇。顔や髪型は似ていませんが、今後もしかしたら神楽と同じく友達として縁を深めるのかもしれませんね!
 因みにゲストキャラの名前は適当に付けました。


次回予告

鉄子「鍛冶師の一大イベント、鍛冶フェスに助っ人として万事屋に依頼したんだけど……」

リズベット「まさか神楽だけしか来ないの!?」

神楽「そうアル! 宜しくネ、リズ! 鉄子!」

リズベット「次回! フェスは終わりが近づくほど帰りたくなくなる」
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