剣魂    作:トライアル

132 / 159
 時系列的にティーゼがまだ出てきていないから、神楽がアスナ達と一緒にいても色被りしていないという事実。



第百十六訓 フェスは終わりが近づくほど帰りたくなくなる

 鍛冶フェス。それは宇宙中の鍛冶屋が集まり、それぞれの長所や成果を屋台形式で宣伝、又は実践を行う一大イベント。

 そんなお祭りに刀鍛冶屋を営む鉄子と、彼女の元で修行するリズベットも参加する。彼女達は万事屋にも手伝いとして依頼をかけていたのだが……

「えっ? 神楽しか今日来れないの?」

「そうアル。銀ちゃんもアッスーもキッリ―もユイもダウンして、新八が必死に看病しているアル。なので今日は私しか来れなかったネ」

手伝いとして来たのは神楽のみだった。万事屋では現在約半数が体調を崩しており、ユイら四人の面倒を見る為に、新八だけが残って彼らの看病を行っている。故に神楽しか手が空いていなかったのだ。

「まさか四人揃って、風邪にやられるとは……」

「タイミングが悪すぎるわね……どうする鉄子さん?」

「しょうがない。午前は知り合いの鍛冶屋の挨拶回りで外を出るから、この屋台の店番は二人に任せても良いかい?」

「わ、分かったわ!」

「了解アル!」

 本来であれば数時間ごとに交代して、柔軟に対応したかったのだが、人手も少ないので午前と午後でシフトを振り分けることに。とりあえずは午前中のみ鉄子に用事がある為、店番をリズベットと神楽に任せることにした。二人は共に元気よく了承している。

 ひとまずはフェスが始まる前に、鉄子とリズベットのエリアを適宜準備していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました! 只今より、鍛冶師の一大イベント。鍛冶フェス、始まります!」

 準備が完了してから、わずか数分後にはもう鍛冶フェスが始まっていた。皆拍手で来場客を出迎えている。次々とお客さんが目的の屋台に向かう中、鉄子は早速リズベットと神楽に店番をお願いした。

「じゃ、用事が終わったらすぐ戻ってくるから、それまで頼んだよ!」

「うん! ゆっくりしていってね、鉄子!」

「アタシ達に任せてね!」

 二人は鉄子を見送った後、客がいつ来ても良いように気を引き締めている。

「さてと、午前は二人で頑張ろっか。神楽!」

「おうネ、リズ! 私に任せるヨロシ!」

 鉄子が不在でも無事に店番をこなせるようにと、強く意気込んでいく。店番の主な役目としては、訪れたお客さんの武器を実演で少し鍛え直す。これまでの実績を軽く紹介したりなど多岐に渡る。

 特に実演では武器によって使う鉱石も変わるので、慎重に扱わなくてはならない。リズベットは神楽に軽く鉱石の違いについて説明していた。

「これで違いは分かった?」

「おうネ! 要するにドリフターズの五人くらい、個性豊かに違いがあるってことアルネ。だいぶ分かったヨ」

「その例えで大丈夫なの……?」

 肝心の本人にその違いが伝わっているか分からず、つい心配の声を漏らしてしまう。

 そんな二人がしばし来客を待つ最中で、ふと会話を交わす。

「そういえば、神楽と二人っきりって今回が初めて?」

「そうアルナ。いっつもアッスーやらシッリーが一緒にいたから、二人だけってのは初めてアル」

 振り返ると、この二人のみの組み合わせが初めてだと気付く。これまでは他の仲間達がいたので、珍しい組み合わせには共に新鮮味を感じていた。

 すると神楽はリズベットに、とある気持ちを伝えている。

「だからこそ、頼りにしているアルよ。リズ。アッスーからいつも聞いているからナ。リズは頼れる最高のお姉ちゃんだって!」

「えっ? アスナってば、そんなこと言ってたの?」

「そうアル! キッリ―も似たようなこと言っていたネ」

 常日頃キリトやアスナから聞いていたリズベットの頼もしさを、彼女は包み隠さず本人へ明かしていた。知り合い二人からの思わぬ評価に、リズベットは密かに嬉しく思い始めている。

「あの二人らしいわね……でも、ありがとう。その言葉に答えられえるように、今日は一段と頑張らないとね」

「おうネ。さっき教えてもらった通り、私もアシストするアル!」

「もちろん! 宜しくね、神楽」

 神楽から言われた頼れるお姉ちゃん像に恥じぬようにと、強く気持ちを鼓舞していた。リズベットのやる気へつられるように、神楽も大きな声で発破をかけていく。二人だろうと鉄子が帰ってくるまでは、しっかり店番をこなすと改めて覚悟を決めていた。

 表情も清々しく変わっていた……そんな時。

「おや。アンタも来ていたのかい」

「ん? 婆さん!」

 早速最初のお客さんに声を掛けられる。その正体は、お登勢、キャサリン、たま、エギルのスナックお登勢組であった。

「うへぇ。キャサリンもいるアルか」

「ナンダト! コチトラ投稿再開シテカラ、ヤットノ再登場ナンダゾ! モット歓迎シロ!」

「落ち着けって、キャサリン」

 キャサリンを見た瞬間、思わず拒絶反応を露わにしてしまった神楽。そんな彼女にキャサリン本人は激高してしまう。元々仲良くない二人が一触即発の雰囲気になる中で、エギルとたまが咄嗟に二人を宥めていた。

「その通りですよ、キャサリン様。それはそうと、リズベット様。会うのは随分と久しぶりなような気がしますね」

「たまさん。確かにね……」

 するとたまは、リズベットにも話しかけてくる。吉原での道案内の時や、ALO星で怪人軍団と戦った時も、二人は共に行動することが多かった。だからこそ、互いの元気そうな雰囲気を見ると、無意識に一安心するのである。

「でも、たまさんも元気そうで安心したわよ」

「もちろんです。最近は気を休める暇もありませんからね。暴れ猫もこの通りですし」

「テメェ! 余計ナ一言言ウンジャネェヨ!」

 キャサリンにだけは、当たりが強いのは相変わらずであるが……。思わぬ毒舌ぶりに、リズベットも苦笑いをしてしまう。

 そんなやり取りを交わす中で、お登勢やエギルは神楽にこの屋台で出来ることについて聞いてきた。

「ところでアンタのとこでは、どんなことをしているんだい?」

「えっと、ウチでは実績の紹介と武器の実演鍛冶を行っているアルよ」

「実演? 武器を鍛えてくれるのか?」

「そうアル。って言っても、少しだけアルけどナ」

 神楽が手短に返答すると、お登勢は実演の鍛冶について興味を持ち始めている。

「そうかい。だったらこれをお願いできるかね?」

「えっ? お登勢さんも武器持っているの!?」

「そりゃ、無いと困るからねぇ」

 なんと意外にも、お登勢から武器の手入れを申し込まれていた。当然リズベットらはお登勢の武器を一度も見たことが無いので、思わず驚嘆の表情を浮かべている。

 そう一言伝えると、お登勢は着物の懐に隠してあった武器を取り出そうとした。

(お登勢さんの武器って何だっけ? 十手? いや小刀も似合いそうな気がするけど……)

 内心でリズベットはどんな武器が出てくるか微かに期待を寄せる中……一行の目の前に現れたのは、

「これなんだけどね」

「いや、思っていたものと違うんだけど!?」

可愛らしいピンク色のステッキである。まるで女児アニメに出てくる変身系ヒロインが持ってそうな武器に、リズベットは動揺し激しくツッコミを入れていた。

「何これ!? この魔法少女っぽいステッキが武器なの!?」

「こりゃ、私が魔法熟女になる為の代物さ。本当は黙っておこうと思ったんだが、アンタらならバレても良いと思ってね」

「いや、本物っぽく語っているけど、さっき電源のオンオフスイッチ見えたからね!? これおもちゃじゃないの!?」

 ところどころある違和感に、リズベットのツッコミはより激しく変わっていく。お登勢はさも当たり前のように本物っぽく語っているが、肝心のステッキはただの作り物であり、リズベット側からすれば大ボケを交わしたようにしか見えない。

 困惑をさらに深める彼女に対し、見かねたキャサリンが二人の会話に割って入って来た。

「ッタク。ババアハコレダカラ」

「キャサリンさん。そうそう、そういう時はちゃんと注意を」

「最新作ハリボンヲマイクニ付ケテ変身スルンダヨ! コッチガ正解ダロ!」

「いや、どっちにしても間違いだけど!?」

 のはずが、彼女も同じような武器を取り出している。キャサリンが懐から出したのは、装飾されたマイクとリボンで、さながら某朝に放送している女児アニメの変身アイテムと酷似していた。

 増々危険な流れを感じ取り、リズベットのツッコミはさらに激しくなってしまう。

「ちょっと、二人共! なんで急にボケをかますの! 今日は新八が不在だから、アタシがツッコミを入れなくちゃいけないのよ!」

「ボケじゃないよ、本気さね」

「ホラホラ。サッサト強化シロヨ、ピンク髪! オ前モプリキュ○に出テキソウナ見タ目シテンダロ!」

「一体何の話をしているのよ!?」

 仕舞いにはリズベットにも屁理屈が飛ぶなど、場は混沌と化していた。一歩も引かないお登勢とキャサリンの大ボケに、彼女は段々と疲弊している。

「ほら、神楽もちゃんと突っ込んで……アレ?」

 リズベットは隣にいる神楽にも助けを求めたのだが、肝心の神楽はその場にいなかった。ふと後ろを見ると、そこには怯えながら体を丸める神楽の姿が見えている。

「どうしたの、神楽?」

「こ、怖いアル」

「怖い?」

「変身した婆さん達の魑魅魍魎の姿を想像するだけで……オェェ!」

「ちょっと神楽!? 大丈夫なの!?」

 どうやら神楽は気分を悪くしたようで、咄嗟にその場を離れていた。顔色も悪く、嗚咽までしており、リズベットも大いに心配してしまう。ただ彼女の言っていた魑魅魍魎の姿に関しては、すぐに納得していた。

「あの神楽が怯えるとは……気持ちは分かる気がするぜ」

「エギル様。私も同じ気持ちです。ほんの数秒映っただけでも、破壊力は抜群ですから」

 神楽の容赦ない反応から、エギルやたまも同じように共感している。特にたまからは皮肉とも言えるストレートな一言が投げかけられていた。

 その後はお登勢らを説得し、武器の手入れは一旦中止となったものの、お登勢ら二人の大ボケはリズベットや神楽に大きな影響を与えている。悪い意味で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~。今日一日分の疲れに襲われた気がする……」

「同じくネ。あんな思い、二度とごめんアルよ」

 お登勢らの退店後、リズベットと神楽はどっと大きな疲れを感じ、椅子に座って体を休めていた。滅多にないお登勢らの大ボケに付き合わされて、早くも疲労が蓄積されている。

 それでも次の来客を出迎える為に、気持ちを切り替えなくてはいけないのだが……中々立ち直れない中で、二人の元にまたも見知ったかが来店してきた。

「少し良いかしら?」

「あっ。姉御アル!」

「九兵衛さんも!?」

 次に訪れたのは、妙と九兵衛の二人である。神楽、リズベット共に縁の深い女子達であり、再会と同時に二人のテンションは途端に上がっていた。

「久しぶりだな、リズ君。調子の方はどうだい?」

「いやー、まだ始まったばかりで、本格的には武器を鍛えていないけどね。もしかして、手入れの要望?」

「もちろんお願いはしたいけど、今回は時間が無くてね。代わりに差し入れを持って来たんだよ」

 久しぶりに九兵衛と話せて、内心嬉しく思うリズベット。思えばこの世界で初めて出会ったのも妙と九兵衛であり、彼女はたまと同じくらい二人にも大きな信頼を寄せていた。

 そんな二人が神楽達の屋台を訪れた理由は、差し入れのケーキを渡す為である。

「銀さん達の分もあるから、帰ったらみんなで分けて頂戴ね」

「やっほい! ありがとうネ、姉御!」

 今留守にしている鉄子や風邪で欠席している銀時達の分もあるらしく、妙らの気遣いには二人も大いに感謝していた。

 ケーキの入った紙のケースを開けると、そこには彩豊かな多種多様なケーキが数個詰められている。

「おー、美味しそうアル」

「九人分あるわね。って、一人分多くない?」

「あぁ。それはね」

 ケーキの数を数えると、合計で九個分が入っており、これは万事屋六人とリズベット、鉄子を含めて一個多い計算だ。妙が残りの分のケーキの内訳を明かそうとした……その時である。

「ハハハ! 当然その九個目ってのは、この俺の分なんだろ?」

 どこからともなく現れた近藤が、自信満々に自分の分と宣言してきた。会話にいつの間にか乱入する彼の姿を発見すると、

「んなわけないだろ、ゴリラァァァ!」

「定春の分に決まっているだろうがぁ!!」

「ブフォォォ!」

妙と九兵衛は容赦なく近藤へ襲い掛かる。勘違いも甚だしく、怒りを覚えた二人は近藤へ全力で殴り掛かっていた。なお、残りのケーキ分は定春用に作った特製のケーキである。

 近藤が乱入する様を間近で見て、リズベットと神楽は手慣れたように呆れかえっていた。

「また近藤さんなの? よく飽きずにストーカーしているわね」

「仕方ないネ。脳みそがゴリラアルからナ」

 もはや近藤のストーカー如きでは大して驚く気も無くなり、共に「慣れ」を覚えてどうでもよく感じている。ストーカーされる側の妙がことごとく返り討ちにしているので、そもそも心配すらしていないのだが。

 その一方でリズベットは、やたら近藤との遭遇率が高いことに関して、少しばかり憂いている。

「それにしても、前のフレンドラリーでも近藤さんと一緒にチーム組まされたし、なんでこうもよく遭遇するのよ」

「仕方ないネ。ゴリラは神出鬼没だからナ」

「そんなわけないでしょ」

 神楽からはより適当な一言で返されて、反射的に彼女はツッコミを入れていた。リズベットと近藤の間には、微妙な腐れ縁が結ばれつつあるのかもしれない……。

「リズちゃん! 良い鉱石が手に入ったわよ。名付けてパワフルストーン!」

「原型が無くなるまで、ボコボコにしてくれ!」

「ちょ、ちょっと!? 俺、人間だからね!? 鉱石じゃないからね!?」

 妙らは近藤をボコボコにした後、徹底的に仕留めるべく、リズベットへ鉱石と称してとどめを刺そうとしていた。当てつけのような内容に、近藤も思わず絶句している。

 こうして近藤の乱入により一悶着はあったが、神楽とリズベットは妙らの差し入れのケーキを頂き、元気が戻りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに数分が経った頃である。

「開催委員会からのご連絡です。只今特設ステージにて、寺門通のスペシャルライブを行います。是非皆さん、ご参加ください」

 会場のアナウンスより、フェスのゲストアーティストである寺門通のライブが案内されていた。この告知を聞き、多数の来場客がステージ方面へと向かう。客足にも大きな変化が訪れつつあった。

「お通ちゃんのライブね。これは終わるまで暇になりそうな感じね」

「野郎どもはほぼステージに行ったアルからナ。新八がいたら、泣いて喜びそうだったのに、可愛そうアルナ」

 一部のエリアは閑散としてしまい、客足もまばらになりつつある。リズベットはお通のライブが終わるまでは、客足もぱたりと途絶えて暇になると予見していた。

「じゃ、リズ。私この間にトイレ行ってくるネ」

「分かったわ。ゆっくりでいいからね」

「おうネ」

 神楽もこの余りある時間を利用して、トイレへと駆け込む。屋台内はリズベット一人となってしまったが、当の本人は特に気にしてはいなかった。

「こういう時に限って、面倒な客が来ないと良いけどね……」

 強いて言うなら時間のかかりそうな客が来ないことを願っていたのだが……その思いは早々に崩れ去れることとなる。

「アノ、スイマセン」

「えっ?」

 声をかけられてふと前を向くと、彼女の目の前にはとある外国人っぽい風貌の男が立っていた。そう。なんとも魔の悪いタイミングで、お客が来てしまったのである。

(が、外国人!? このタイミングでお客さんが来るの!?)

 不意の展開に、内心ではかなり焦りを感じていた。外国人の風貌も大柄でいかつく、青色の法被と黄色い海パン、黒いブーツとかなり癖の強い恰好をしている。サングラスもかけており、さながら傭兵と言っても差し支えないくらい屈強な外国人だった。

 そんな相手をしなければならず、リズベットはタジタジになって、しどろもどろに応対してしまう。

「あの、その……」

「ホワット?」

 手探りに英単語を思い浮かばせながら、必死に会話を繋げようとした時だった。

「ただいまヨー」

「か、神楽」

 事情を全く知らない神楽が、何食わぬ顔でトイレから戻ってきている。すると彼女は、リズベットと話す外国人の存在に早速気が付いていた。

「おぉー、タカティンアルか!」

「誰カト思エバ、神楽サンデスネ!」

「えっ……!?」

 神楽は早速外国人に話しかけ、外国人もまた神楽に気付いて再会を喜ぶ。

 そう。彼の正体は、以前に銀時が呼び寄せた助っ人の外国人である。当時はタカティンと呼ばれており、とある事情で負傷した新八の仲間の代わりとして活躍していた。

 所謂神楽の知り合いと分かると、リズベットはタカティンに対して抱いていた緊張感も、すぐに和らいでいく。

「もしかして、神楽の知り合いなの……?」

「そうアルナ。以前私達を助けてくれた助っ人ネ」

「ソノ通リ。今回モ寺門通親衛隊ノ助ッ人トシテ呼バレマシタ! 一時間一万円、二時間一万円、三時間フランスパン、四時間フランスパンガ報酬デス!」

「って、途中から報酬の内容が変わっているけど大丈夫!?」

 陽気に接するタカティンの姿を目の当たりにして、リズベットはそのツッコミどころの多さにだいぶ困惑している。報酬の件と言い、格好と言い、程よいミステリアスさを感じ取っていた。なお、神楽は普段通りにタカティンと接している。

「まぁ、タカティンはフランスパンが好物アルからナ!」

「ハハハ。フランスパンハ我ガアイデンティティ。己ノ武器デアリ、栄養補給源。今回モコノフランスパンヲ鍛エテクレル人ヲ探シテイルノデスヨ」

「って、武器ってそういう意味だったの!? それ鍛冶屋の範囲内なの!?」

 タカティンはフランスパンを取り出しながら、鍛冶フェスの屋台を回っている理由について明かしていた。どうやらフランスパンを鍛えてくれる鍛冶屋を探しているらしい。因みにタカティンは過去にも、フランスパン二本で橋を大破した実績がある。

 当然そんな事情など知らないリズベットにとっては、何が何だかさっぱり分かっていないのだが……。

「タカティン! もうステージ始まるぞ!」

「オーケー! 今行クゾ! デハ、マタ後デ!」

 そう二人と話を交わすうちに、寺門通親衛隊の一員より呼び戻されてしまう。タカティンは神楽らに別れを告げて、ステージ方面へと勢いよく走り出していった。ほんの一瞬の出来事だったが、リズベットにとってはアクの強さから、忘れられない相手となっている。

「行っちゃったネ」

「神楽も凄い人と知り合いなんだね……」

 改めて万事屋の交友関係の広さを彼女は思い知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見知ったかが多く来訪した鉄子とリズベットの鍛冶フェスの屋台だが、肝心の鍛冶の実践はまだ一度も実施していない。

「なんかさっきから、変なお客さんばっかりなんだけど」

「しょうがないネ。こういうのは運が絡むアルからナ」

「だとしても、そろそろまともなお客が……」

 と真面目に武器の手入れをお願いしたい客が来ることを願うリズベット。そう呟いていた時だった。

「リズおねえちゃん!」

「へ?」

 ふと自身の名前を呼ばれて、思わず前を向くと、そこにはまたしてもリズベットの知り合いの姿が見えている。

「彩ちゃん?」

「そう! ひさしぶり!」

 元気よく挨拶するのは、六歳くらいの女の子。実はこの子、以前リズベットがたまと一緒に届け物を渡した吉原在住の少女なのだ。名前は彩と言い、思わぬ来客にリズベットも驚いた表情を浮かべている。

「リズの知り合いアルか?」

「うん。前に届け物を渡しに行った時、知り会った子よ」

 神楽にも彩を紹介すると、彼女は早速彩に要件を聞いてきた。

「って、今日はどうしたの?」

「じつはいらいしたいことがあって。リズおねえちゃんってこれなおせる?」

「……フライパン?」

「うん。きょうおかあさんがこわしちゃって。すてようかとおもったけど、リズおねえちゃんのことをおもいだして、なおせないかおねがいしにきたの。できる?」

 彩は手に持っていたフライパンをリズベットに渡し、直せないかお願いしている。どうやらフライパンを壊したらしく、修理する為にリズベットへ頼ろうとここまで赴いた様子であった。

 彩の依頼を聞き入れたリズベットは、一旦フライパンの現状を確認した後に……

「……任して。神楽。アシストお願い出来る?」

「おうネ! 任せるヨロシ!」

快く受け入れることにしている。

「ありがとう! リズおねえちゃん!」

「彩ちゃん、ちょっと待っていてね。すぐに直すから!」

 依頼を引き受けてくれて、歓喜に浸る彩。リズベットにも素直に感謝を伝えている。

 一方でリズベット側は神楽と一緒に、フライパンを修理する準備を進めていた。直すのに必要な鉱石を削り、力加減を調整しながら神楽がフライパンを手で押さえ、そこにリズベットが手慣れた手つきでメイスをぶつけている。剣や弓と言った武器系では無かったが、彩が自分を頼ってくれたことを嬉しく感じて、その期待に応えるようにと全身全霊で打ち続けていく。

 そして数分経った頃には、

「はい、戻ったわよ」

「わぁ~すごい!」

彩の持ってきたフライパンは見違えるくらい綺麗に戻っていた。さながら新品のような風貌に、彩は目を輝かせて喜んでいる。

「ありがとう、リズおねえちゃん! またたいせつにつかうね」

「どういたしまして。また壊れたら、いつでも来てね。アタシと鉄子さんでちゃちゃと直しちゃうからさ!」

 そしてとびっきりの感謝を、彼女から返された。屈託のない最高の笑顔が見られて、リズベットもつられて笑っていく。無論神楽も同じ思いであった。

「良い笑顔アルナ。彩もリズも!」

「って、アタシも?」

「そうアル。フライパンを直している時のリズ、とっても楽しそうだったからナ。やっぱり頼れる最高のお姉ちゃんアル!」

 神楽はフェスの冒頭で言ったリズの頼れるお姉ちゃん像に、嘘偽りは無いと改めて確信している。例え専門外でも、誰かの為に一生懸命になれる姿に心を打たれたらしい。鍛冶屋として、お姉ちゃんとして神楽はリズベットを頼りたいと思っていたのだ。

 そんな神楽の素直な一言を聞いて、リズベットも温かい気持ちに浸っている。

「楽しそうか……そう見えたんなら、こっちとしても嬉しいかな」

「おぉー! 今のも良い笑顔アル!」

「って、そんなおだてないでよ~。神楽!」

 何よりも自分が、心の底から鍛冶を楽しんでいることが伝わって、この上無く嬉しいのだ。神楽にまたしてもおだてられて、リズベットは遠慮がちになってしまう。午前中は色々とハプニングもあったが、最後の最後で良い仕事が出来たと、内心自画自賛していた。

 互いに達成感を感じていく中で、彩はあることを思い出し、二人の間に割って話しかけてくる。

「あっ、そうだ。おねえちゃんにわたすものがあったんだ!」

「渡したいもの? って何?」

「これ!」

 彩はプレゼントとして、リズベットにあるものを手渡してきた。彼女の手には、赤くごついカラクリのミニチュアが握られている。

「これは何かのおもちゃ?」

「ガチャガチャでてにいれたの! でも、なまえはわすれちゃった!」

 彩曰くガチャガチャで手に入れたものだが、肝心の名前を彼女は忘れていた。だが神楽は、このミニチュアを見た瞬間にあることを思い出している。

「フッ。リズに彩。私、分かっちゃったネ」

「えっ? 神楽は知っているの?」

「そうアル。こいつは……エクスカリバーオメガネ!」

「……は?」

 想像もつかなかった一言に、リズベットは思わずポカンと口を開いてしまう。

 神楽はこのミニチュアをエクスカリバーオメガと断定。リズベットの反応を気にすることなく、スラスラとその概要について語っていく。

「かつて秀吉が信長の草履を温めていくときに使った古代兵器。まさかそのミニチュアがあったとは、彩は幸運アルナ」

「あの、神楽……? 急に中二全開になってない? そもそも古代兵器エクスカリバーオメガって何!?」

 その癖の強い設定に、リズベットは苦い表情で神楽にツッコミを入れてきた。いきなり歴史のことを言われても、何が何だかさっぱり分かっていない。

 すると、ようやく用事を終えた鉄子も屋台に戻ってきていた。

「アレ? お客さんかい?」

「あっ、鉄子さん。今、エクスカリバーオメガの話をしていて……」

 リズベットは鉄子に起きたことをそのまま伝えようとすると、

「なんと!? ここでそれが見られるとは!」

「えっ? 鉄子さんも知っているの!?」

鉄子もエクスカリバーオメガのことを知っていたそうで、そっちに注目を向けている。あっけにとられるリズベットに対し、神楽、鉄子、彩はエクスカリバーオメガの話で盛り上がっていた。

「たしかそんななまえだったきがする」

「いや~。これはミニチュアだとしてもレアものだよ」

「本当ネ。よくやったアルナ、彩!」

 若干置いてけぼりにされているが、リズベット本人は少しだけ前向きに捉えている。

「この世界には、まだまだアタシの知らない武器があるってことね」

 まだまだ見知らぬ武器の存在があると改めて思い知っていた。エクスカリバーオメガのことも、再度鉄子や神楽に聞くと決めている。

 

 こうして鍛冶フェスは午前の部を終了してこのまま午後の部へ。まだまだ祭りは続きそうである……




 今回はリズベットと神楽がメインのお話でした。どっちも互いの心情が知れて、中々良かったと思います。特に今回は、これまで剣魂でリズベットが出会った縁の深いキャラが集結している感じがしていて、まさに集大成と言っても過言ではないでしょうか。
 そしてまさかのタカティンが剣魂初登場! 多分この回が最初で最後かもしれませんね笑 なお肝心のタカチンはまだ剣魂に出てきていないっていうね……。因みに最後に登場した女の子は、第五十五訓にも出てきたのですが、当時は名前が無かったので、今回改めて付けました。





次回予告

神楽「ユイのお見舞いに、次々と見知ったかが集結ネ!」

キリト「早くよくなると良いんだけどな」

アスナ「ねぇ、銀さん。誰か来ているわよ」

銀時「えっ? 誰だよ。こんな女医、銀魂の世界にいたか?」

新八「次回! 見舞いには果物以外に現金を用意しておけ!」

追記 午後の部は作る予定がありません。ご了承ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。